私がFC(フライングサーカス)というスポーツを始めたのは何故だっただろうか。
物心のついていない幼少期のことで、詳しくは覚えていないが。確か、空を飛びたいと言う純粋な興味が最初だったと思う。
当時の私は、孤児院で生活していた。親の名は今も知らない。
孤児院と言っても、私がいた場所は体の良い強制労働施設だった。毎日朝晩仕事に始まり、仕事に終わる。
心根共につき果てる中、夜に天窓から見える小さな星だけが唯一私の心の支えだった。
日が落ち、夜の帳が落ちたころ、就寝時のほんの僅かな休憩時間。私は1人、天窓で夜に煌めく星を見上げ、ほっと感嘆の息を漏らす。
――あの綺麗な星空を自由に飛び回りたい。
その後、孤児院が摘発され、労働から解放された私には自由が与えられた。
何がしたい? 保護される際、親切な職員さんに暖かな笑みで聞かれた言葉。
それに私は目をキラキラさせてすぐに答えた。
「空を飛びたい!」
……その純粋さが変化したのは、いつの事だっただろうか。
思い出す、私の過去を。深く抉り込むように。
「負けた!悔しい……!」
FCを初めて1ヶ月がたった私は、泣きながらイリーナに縋り付いていた。
初めて参加したFCの大会。私は1回戦で敗退した。10-0の完膚無きまでの敗北だった。
その頃、私は海外の裕福な家庭……イリーナの家に養子として招かれ、私の大会には新しい家族を連れて見学にやってきていた。
「よしよし……」
イリーナの母が私を優しく包み込んで慰めてくれる。
イリーナはといえば、私と一緒になって大泣きしていた。
「もっといっぱい練習する……!もっともっと強くなる!」
そういえば、自分がこんなにも負けず嫌いだと気づいたのはこの時だったか。
それからの私は、朝から晩まで、常にFCに没頭していた。
イリーナもFCを始め、私の練習相手をしてくれた。
イリーナと競い合う毎日はとても楽しかった。夜遅くになり、怒られるまで。いや、怒られても私たちはFCに夢中になり続けた。
そして月日は流れ、私が中学生になり、地元でも強豪選手として名が広まり出した頃。
イリーナと父と母、3人の乗る自動車が事故にあった。
高速道路で逆走したダンプカーとの正面衝突。運が悪かったとしか言いようがなかった。現場は酷い有様で、イリーナの父と母は即死だった。
イリーナは奇跡的に大怪我で済んだが、後遺症が残り、FCは続けられなくなった。
病床ですすり泣き続ける私に、イリーナは優しく声をかけ続けた。
本当はイリーナの方がずっと辛かったはずなのに。今も昔も、私はいつまでも子供のままで、イリーナはとても大人びていた。
聡明だったイリーナは、父が経営していた大企業を継ぐことになる。勿論、子供のため、名誉職という形だったが。イリーナの父は社員からの信頼も厚く、イリーナのことを家族のように思っていた。それは養子だった私のことも同様だった。
私は、空を飛べなくなったイリーナの分も、FCに全てを捧げることを誓った。たとえ飛ぶ楽しさを忘れても、イリーナの分まで勝利を手に入れる。それが私に出来るイリーナへの恩返しだと思った。
イリーナは私を全面的に支えてくれることを約束してくれた。父の財力やコネクションを使って会社を設立し、大成功を収めたイリーナは、私の為に有名な講師やプロの選手を頻繁に呼び、自前の体育館を作り、勝つために想像の付くありとあらゆることをしてくれた。
――その結果、私はイリーナの国では並ぶもののいないスカイウォーカーにまでたどり着いた。
だがそこは私の終着点ではない。
私にとってFCの本場は日本であり、そこは私の故郷だった。
あの日、見た綺麗な星空を飛びたい。
そして、世界有数の激戦区である日本で優勝し、プロになる。
そうして、私の覚悟が定まったのだ。