ガンダムビルドダイバーズ:トライ   作:守次 奏

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思い至ったので初投稿です。


Ep.01「俺だけのストライク」

「ガンプラバトル?」

 

 父さん──俺ことカミキ・ユウヤが習っている武術の師匠でもある──が開口一番言い放ったのはそんな七文字だった。

 

「ああ、ガンプラバトルだ、ユウヤ」

 

 真っ直ぐに俺を見据えて、父さんもとい師匠は一点の曇りもなくはっきりとその言葉を口に出す。

 言われた俺の方はというと突然の出来事に首を傾げるばかりなのだが、今時流石にガンプラバトルぐらいは知っている。

 

 ガンプラバトル。それはガンダムのアニメに出てくるモビルスーツ……まあ平たくいえばロボットのプラモデルを確か専用の機械でスキャンして、オンラインゲームの中で戦わせるものだったはずだ。

 一昔前はガンプラそのものをなんとか粒子だったかなんとかコーティングだったかで直接動かして戦わせてたとは師匠からも母さんからも聞いているし、その武勇伝を子守唄代わりに育ったところもあるから知っている。

 

 というかまあ、俺もそういう家庭に生まれついたものだからガンプラの一つや二つぐらいは組み立てた経験はあるし、棚にも飾ってあるけど、今更何をどうしてガンプラバトルなのか。

 

 俺の疑問たっぷりな視線を師匠は毅然と受け止めて、ぽん、と俺の両肩にごつごつとした、武芸者特有の両手を乗せてみせる。

 

「ユウヤ、次元覇王流の極意は知ってるな?」

「想像力……だろ?」

 

 次元覇王流拳法。俺が習っている大分マイナーな武術、その極意については小さい頃から一通り聞かされてきた。

 曰く、相手の心を知ること、自分の心を知ること、そして礼には礼を、拳には拳で応えることをひっくるめて、想像力の一言に押し込めたのが極意だったはずだ。

 

「お前はもう一人前だ。だから、その先の世界を知るのもいいんじゃないかって思ってな」

「その先の……世界?」

「ああ。俺も次元覇王流だけを修めていたらきっと見えなかった……想像力と想像力がぶつかり合う、全く新しい戦いだ」

 

 つまるところそれがガンプラバトルなのだと師匠は言いたいのだろう。

 一人前だと認められたのは素直に嬉しい。

 さっきまでのスパーリングでも何本か取ることはできたし、基本の型を何度も何度も、眠っていたって咄嗟に出せるくらい練習してきた甲斐があったというもんだ。

 

 ただ、それとガンプラバトルがどう繋がるのかについては正直なところまるでイメージがつかない。

 だが、そんな俺の思考もわかり切っていたのか、師匠は相変わらず俺の瞳を覗き込んで、その奥底にある不安や恐れのようなものを掬い取るように言葉を紡ぐ。

 

「今は想像できないだろ? つまりだな、それだけ奥深いものが眠ってるんだ、ガンプラバトルってのは」

 

 お前が次元覇王流以外の格闘技も一通り修めてきたことだって知っている、だけどそれ以上にな──と、啖呵を切った師匠の目は真剣そのものだった。

 たかがゲーム、と思うところがないとはいわない。というか大分半信半疑だ。

 それでも、ガンプラバトルという存在の中に、「俺が想像できないものがある」ということは事実に他ならない。

 

「迷ってるだろ、ユウヤ。でもやればわかる。俺だってそうだったんだ」

「それは聞いてる。母さんと一緒に、学生大会で全国優勝したんだろ?」

「ああ。あの時は俺も母さんも若かった……と、まあそんな話はさておき、俺たちからの誕生日プレゼントだとでも思ってくれ」

 

 胴着の懐から何かの装置みたいな角ばった物体を取り出すと、師匠はそれを手渡してくる。

 物体の中心に嵌っているクリアパーツの中には「GBN」という刻印があって、要するにこれでガンプラバトルをしろと、そういうことなのだろう。

 

「正直、よくわかんないところはある」

「そうだろうな」

「でも、俺が知らない戦いが広がってるって話なら……師匠が、父さんがそう言うなら、信じてみようって思う」

 

 ガンプラバトルと次元覇王流の極意に何の関係があるのかはまだわからない。

 それでも師匠は、父さんは俺に嘘を教えたことは一度もなかった。

 だから、信じてみようと、そう思ったんだ。

 

 その角ばった物体を受け取って、今日の稽古の締め括りとして一礼をする。

 さて。受け取ったはいいけど、俺のガンプラってそもそもバトルに使えるんだろうか。

 私服に着替え、洗濯機の中に脱いだ胴着をぶち込みながら、首を傾げる。

 

 なんというか、師匠や母さんみたいに凝ったものを、素人目に見ても明らかに「よくできているもの」と違って、俺が組んだガンプラは箱を開けて説明書通りにパーツを切り出して組み立てたものでしかない。

 

 師匠と母さんが学生だった頃はガンプラをカスタマイズして戦うのが半ば常識みたいなものだったって話は耳にタコができるほど聞いてきたから、これでいいのかって、なんとなくそう思っていた時だった。

 

「あらユウヤ、それってダイバーギア?」

「ああうん、父さん……師匠から貰った」

「そっかそっかぁ、ユウヤもガンプラバトルを始めるお年頃かぁ……ねえ、まずはガンダム見てみない? ちょっとBlu-ray持ってくるから、好きなの選んでいいわよ!」

「ちょ、待ってくれ母さん!」

 

 年齢不詳な見た目をしている──下手したらリビングに飾ってある学生時代の写真とそう変わりない姿をしている母さんは興奮気味にそう捲し立てると、自分の部屋まで駆け出していく。

 

 そんなこと言われてもこっちはガンプラバトルがどうのこうのって時点で情報の洪水を浴びせかけられたような状態なのに、いきなりガンダムのアニメまで見ろってのは流石に無理があるだろ!

 

 父さんは、師匠はそれほどでもないけど母さんは重度のガンオタ……ガンダムオタクだったことを今更思い出して頭を抱える。

 

 好きなことについて語ると早口になっちゃうタイプのあれだ。

 

 しかしまあ、それまで武術一辺倒だったらしい父さんを、師匠をガンプラバトルの道に引き込んだって時点で相当なんだから、俺も覚悟ぐらいはしとくべきだったのかもしれない。

 

「お待たせ、ユウヤ! 色々あるから好きなの選んでね! 私のオススメは……んー、そうだなぁ、サンダーボルト!」

「サンダーボルト……?」

 

 母さんが部屋から持ってきたBlu-rayの箱にはどれもこれも勇ましいガンダムの姿が描かれている。

 格好いいと思わないわけじゃない。

 ただ、おんなじような顔が並んでると混乱してくるんだよ。

 

 サンダーボルトがどうこうと言われてもどれなんだかさっぱり判別がつかないし。

 サブアームがどうのこうのと熱く語っている母さんを尻目に、俺はとりあえず差し出されたBlu-rayの中からなんとなく良さげなものを見繕う。

 

 断ることだってできたかもしれない。

 好きなことを広めたい気持ちは誰にでもある。だけど、それを押し付けたらいけないと、母さんも父さんもわかってるはずだ。

 それでも俺は、父さんが言っていた、師匠が言っていた、「その先の景色」が見てみたい。

 

 そんな思いが、指先を動かしていた。

 そして、気付けば吸い寄せられるように、俺の手は一枚のBlu-rayを掴んでいた。

 

「これは……?」

「ガンダムSEEDね、戦火に巻き込まれた少年たちのお話」

 

 よくわからないまま、直感が導くままに手に取っていたガンダムは、どうやらSEEDというらしい。

 ビシッとビームライフルを構えて大きく見栄を切ったポーズのガンダムも、見た感じ悪くない。むしろ格好よかった。

 

「じゃあ俺、これ見てみるよ」

「わかったわ、残りの巻は部屋の前に置いとくわね!」

 

 ユウヤがどんなガンプラを作るか楽しみだわ。

 母さんはそれを自分のことのように喜んで、鼻歌まじりにスキップをする。

 子供っぽい仕草だったけど、まあそれが似合う程度には若い見た目してるしあんま気にならないか。

 

「SEED、ねえ……」

 

 前組んだガンプラと顔が同じなのは偶然なのかそうでないのか。

 ただ、「その先」が、次元覇王流の極意の更なる奥深くがガンダムに眠っているなら、全力で見ないと失礼だよな。

 

「とりあえずは全話見ないと始まんねえか! よし、見るぞ!」

 

 不安がないとは言わない。正直訳がわからない。それでも、その先に未知の領域が眠っていると聞かされたら、たとえ罠だろうが突っ込んでいかなきゃ男が廃る。

 

 だから、俺はとりあえずそのガンダムSEEDとらやらを拝見することにしたのだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 結論から言おう。めっちゃハマった。

 細かいストーリーについてはまあ説明するまでもないとして、何が良かったかって、俺にとっては自軍の戦力がストライクガンダム──主人公のキラって奴が乗ってたガンダムしかないに等しかった頃の試行錯誤感とか必死さとか、そういう緊張感が手に汗握って楽しかった。

 

 殺したくないのに相手を手にかけてしまったキラの悲哀だとかそういうのもだけど、何よりまず見栄を切って戦うストライクガンダムが、乗り手が変わってもアークエンジェルを守り切って勇敢に散っていったあの機体が、俺の中で印象深く刻まれていたのだ。

 

「ストライクガンダム……お前、そんな奴だったんだな……!」

 

 棚に飾ってあったストライクを手に取って、込み上げてくる熱さに涙が滲む。

 苦しかった頃のキラたちを支えて、乗り手が変わっても帰るべき場所を守り切ったガンダム。

 それがこの、GAT-X105、ストライクだ。

 

 だから、俺は一つ心に決めた。

 

「俺は……ストライクで戦う!」

 

 GBN。確かガンプラバトル・ネクサス・オンラインとかそんな名前の戦場に飛び込むのなら、このストライクを相棒にしたい。

 というかする。そう決めたのだ。

 ただ、今棚に飾られているストライクは説明書通りに組んだ、いってしまえば「キラのストライク」なのだ。

 

 調べた限りではGBNはそのまま組んだだけのガンプラでも楽しめるらしいけど、この姿のストライクはキラにとってのもので、俺にとってのそれじゃない。

 大分厄介な思考回路だとは自分でも思うけど、そう思ってしまうんだから仕方ない。

 だったら、今俺がやるべきことは一つだ。

 

「こいつを俺だけのストライクにする!」

 

 そうと決めたら一直線、部屋から飛び出した俺は母さんの元を訪ねて、使ってないジャンクパーツがみっちりと詰まった箱を手土産にまた部屋へと反復横跳び。

 母さんがモデラー……今はガンプラビルダーっていうらしいけど、まあそんな感じで助かった訳だ。

 

 そこから先は悪戦苦闘の連続だった。

 

「このパーツ使いたいけど嵌まらねえ!」

 

 接続部の凹凸が違ったりだとか。

 

「なんか付けてみたけどめっちゃバランス悪りい!」

 

 とりあえずカスタマイズしてみようとして付けたパーツを見たらめっちゃバランス悪くなったりとか。

 

「色がヤバいぐらいちぐはぐになってやがる……」

 

 そんなこんなを乗り越えて、ようやく形になった俺だけのストライクを見てみれば、配色がうるさいというか、色にとにかくまとまりがない有り様だった。

 

 元の機体よりもゴツゴツとしたフォルムは悪くない。それに、余ってたビームライフルを切り詰めて取り回しのいいビームピストルとして作り直したのと、デスティニーガンダムから腕を持ってきたのもいい感じだとは我ながら思う。

 

 ただ現状、どうしようもなく色がとっ散らかっているという問題は否定し難いわけで。

 と、なると、選択肢は一つしかない。

 

「塗装か……俺でもやれるのか?」

 

 それはひとえに散らかっている色を整えてやればいい、というシンプルな結論に尽きるのだが、果たしてパーツに色を塗るという行為が初心者の俺にもできるのかどうか、それがよくわからない。

 

 まあでも、母さんに聞いてみれば解決する話か。

 と、いうわけで餅は餅屋。母さんの部屋にノックしてお邪魔してみれば、待ってましたとばかりにそこにはものごっつい機材が置いてあった。用意周到なのかそれとも普段からこんなごっつい機材使ってるのか。

 

「いらっしゃいユウヤ、そろそろ来る頃だと思ってたわ」

「お、おう……それで、物は相談なんだけどさ」

「ふふん……塗装したいんでしょ?」

「すげえ、なんでわかったんだ?」

「だって、『自分だけのガンプラ』作るなら、武装もだけど色にもこだわりたいでしょ? もちろんただ箱を開けて組むだけでもそれだけで立派な『自分だけのガンプラ』だけど、ミキシングしたガンプラって色味がバラけちゃってることが多いのよ。だからユウヤならそうするかなって」

 

 ビルダーとしての勘ってやつなのか、そうじゃなければ親としてってところなのかはわからないけど、俺の魂胆はすっかりお見通しだったわけだ。

 

 片手に握りしめていた「俺だけのストライク」に視線を落として、母さんに案内されるまま腰掛けたものごっつい機材──塗装ブースというらしい──の前で、俺はただ目を白黒させることしかできなかった。

 

「ストライクガンダム。いいチョイスね」

「そうか? ただ気に入っただけなんだけど」

「その機体は背中のストライカーシステムを使って戦局に合わせて戦えるんだけど……ふむふむ、ユウヤの目指してる方向性なら、エールストライカーが無難かもしれないわね」

 

 そういや背中には何もくっつけてないことを忘れてた。

 母さんはジャンクパーツが収まっているボックスからエールストライカーを取り出すと、「俺だけのストライク」の背中にそれを装着する。

 色合いはまだバラけててなんともいえないが、エールストライカーを装備したことでシルエットは大きく引き締まった……と、思う。

 

「すげえ、格好よくなった!」

「でしょ? それじゃユウヤ、塗装始めましょ」

 

 机の引き出しからこれまたものごっついガスマスクみたいなものを取り出すと、母さんは塗装ブースのスイッチを入れる。

 部屋に響き渡るのは換気扇が回り出す唸り声のような音。まるで、俺を、ストライクをどこかに連れて行く風のように吹き渡っているように思えた。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 下地を整えるサーフェイサーとかいうやつを噴いてしっかり乾燥させて、その上から丁寧に、ムラなく色を塗り重ねていく。

 その工程がかなりの手間だったのは体験してみてわかったことだ。でも、その分の収穫は十分にあったといっていい。

 

「これが……俺だけのストライク!」

 

 頭の中にイメージしてた、散らかった青色や水色を赤系で統一して艶消しトップコートを噴いて、アクセントにメタリックオレンジを加えたそれが、ちゃんと立体物として目の前に立っている。

 それだけでもう感動ものだった。だけど、これだけで終わりじゃない。

 

「ふふ、塗装デビューおめでとう。次はガンプラバトルね」

「ああ! ありがとう、母さん!」

「ううん、いいのよ。あ、でもね、GBNにかまけて成績落としちゃダメだからね?」

「わかってる!」

 

 そうだ。これは終わりじゃなくて始まりだ。

 俺の、俺だけのストライクと一緒にガンプラバトルの世界で、想像を超えた戦いに挑む。

 師匠に、父さんに言われた時はいまいち持てなかった実感が、期待感が、今は胸がはちきれそうな程に膨らんでいる。

 

「よし……行こうぜ、ストライク焔!」

 

 俺だけのストライクガンダム改め、ストライクガンダム焔。燃え盛るような期待を込めて、燃え上がるような熱を込めて作ったガンプラを手に、俺は父さんに、師匠に貰ったダイバーギアでGBNの世界に飛び込むため、自室へ舞い戻るのだった。




その名は焔
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