ガンダムビルドダイバーズ:トライ   作:守次 奏

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ベアッガイ初投稿です。


Ep.14「フェス!」

 GBN疲れは案の定というから一日かそこらで取れてくれるものじゃなかったようだ。

 今日も眠気を抱えながら登校していたところを、チナツのやつに呆れられたっけ。

 おかげで数学の授業じゃ居眠りしちまって、チョークの弾が飛んできたり、昼休みも寝て過ごしたせいで、五限目も危うく寝落ちするとこだった。

 

「マジで眠い……」

「大分深刻ね、修行のスケジュールとか見直したら?」

 

 素人目に見ても相当無茶してるわよ、アンタ。と、チナツは呆れたように人差し指を俺の胸板に突き付けながら言った。

 確かに授業も受けて師匠との稽古もやって、そこから予習復習を済ませてからGBN。考えてみりゃ結構なハードスケジュールだ。

 

「つっても、次元覇王流で妥協したくないからな」

 

 こればかりは譲れないというか、元々強くなりたくて、更なる極意の先に行きたくてGBNを始めたんだから、その初心を見失うつもりはない。

 いつかは父さんを、師匠を超えた武道家になる。それが今のところ、俺の将来の夢みたいなものだった。

 一応母さんからは「父さんの後を継ぐのもいいけど、他の選択肢も増やしたほうがいい」って言われて、勉強はちゃんとやってるけどな。

 

「本当、アンタらしいわね」

「そっか?」

「そうよ。アタシはあんまり次元覇王流の才能なくて、諦めちゃったから」

 

 謙遜してチナツは苦笑したけど、これでもこいつは総合格闘技大会小学生女子の部で準優勝した程度には心得がある。

 だから、あんまり謙遜するのも良くないとは思うんだけど、その辺は本人の問題だしな。

 

 続けることは確かに大事だ。諦めるのは悪いことだって言うやつも多いかもしれない。

 でも、道を選ぶのは本人なんだから、俺の信条はともかくとして、納得した上でその道を選んだのなら外野がどうこういうべきじゃあない。

 それに、間違った道を選んでしまっても、明日があれば、生きていればきっとやり直せる。

 

 俺が見た「機動戦士ガンダムSEED DESTINY」の主人公、シン・アスカだってそうだった。

 なんてことを頭に浮かべながら歩いていると、多少眠気は和らいできた。

 多分だけど、頭を使うのは大事なのかもしれない。いや、頭使ったから眠くなってんのか? まあ、どっちでもいいか。

 

「そういやユウヤ、アンタ今日もGBNやるつもり?」

「ああ、一応な」

 

 戦いからはちょっと離れてみようとは決めてるけど、ログインボーナスとかもあるし、何よりマフユが待ってるかもしれないんだ。

 ダチと一緒に遊ぶ。シンプルな口約束かもしれないけど、それを破るのは、どんな理由があれあまり褒められたことじゃない。

 

「ふーん……じゃあアタシもログインするわね、何するかはその時話しましょ」

「おう、じゃあまたな、チナツ!」

「またね、ユウヤ」

 

 互いに手を振って、一軒隣の家で別れる。

 またねも何もこいつとは一緒の学校に通ってるんだし、明日も登校時間には顔を突き合わせることになるんだろうけど、それはそれとして挨拶は礼儀みたいなものだ。

 

「ただいまー」

 

 夕飯の匂いが漂ってくる我が家に戻って、学生鞄を下ろす。今日はカレーだな。

 それから、部屋に戻って道着に着替え、ちょっとだけ次元覇王流の修行をしたら、あとは飯食って風呂入ってGBN。

 いつも通りの日常に一つだけ追加されたGBNに、さっさと身体を慣らしておきたいところだ。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 ログインしたてのセントラル・ロビーは、今日も今日とて人でごった返している。

 がやがやと会話に興じながら歩いていくダイバーもいれば、無言でただたそがれて夜景を見ているだけのダイバーもいるし、他のダイバーと積極的に交流を図ろうとしてるやつもいる。

 

 過ごし方は人それぞれだけど、皆好きなことがあってここにいるんだろうというのが伝わってくる。中にはヤスみたいな悪質なのもいるんだろうけどな。

 と、俺もまた腕を組んで辺りを一望していた時だった。

 

「あっ……ユウヤ君、こんばん、は……」

「おう、マフユ。こんばんは!」

 

 今ログインしたのか、そうでないのか、二人でプレイしてた時はいつも待ち合わせに指定してた場所に、ぱたぱたとマフユが駆け寄ってくる。

 セントラル・ロビーはやたら広いもんだから、待ち合わせ場所決めとかないと会うのが大変って意味では、フォースネストに集まれる分、フォース組んでおいてよかったのかな、と思った瞬間だった。

 

「こんばんは、マフユ。それとユウヤ」

「チナツ、お前どっから来たんだ!?」

「フレンドワープよ、アンタまさかこれも知らないの?」

 

 テクスチャが再構成されていくようなエフェクトを纏って突然現れたチナツは、呆れたように肩を竦めてそう零す。

 フレンドワープ。言葉から察するにフレンドがいるところにワープできる機能なんだろうけど、そんな機能あったっけか。

 

 GBN攻略wikiを手元のウィンドウから開いて調べてみれば、確かにそんな機能も存在していると、しっかり記述されていた。

 

「……わ、私も……初めて知りました……」

「えっ? ユウヤならともかくマフユも知らなかったの?」

「……えっと、ずっと……ユウヤ君とフレンドになるまで、一人ぼっち、だった、から……」

「ああ……そういうこともあるわよね。でもGBNってその辺融通利くようにできてるから、今度から色々調べてみるといいわよ」

「はい……」

 

 俺の時とは態度が百八十度大違いだな。

 なんて言ったら多分チナツがキレるか呆れるかするだけだろうからその言葉は呑み込んでおくとして、俺が思っていた以上にGBNは便利な機能が揃ってるらしい。

 

「で、集まったはいいけど何するんだ? 昨日みたいにフォースネストで動画でも見るか?」

 

 あの後調べてみたけど、G-Tubeではガンダム作品もアーカイブ化されていて、無料で視聴することができるらしい。

 GBNの運営が何で稼いでるのかわからなくなるぐらいのサービスっぷりだけど、それでも経営が苦しいだとかそんな話は一切聞いたことがない辺り、そんなサービスをしてお釣りが来る以上には儲かってるんだろう。

 

「何をするかお悩み? それなら……フェスに参加してみるのはどうかしら?」

「マギーさん!」

 

 反応的にチナツもマフユもあんまり乗り気じゃなかったようで、じゃあどうするかと困っていたら、まるでタイミングを見計らっていたかのようにその人は、マギーさんは現れた。

 

「聞いたわよ。アナタたち、あの『GHC』の分隊を倒したんですって? まずはそのお祝いね。コングラッチュレーション!」

「ありがとうございます! それで……フェスって何ですか?」

「フェス……正確にはフォースフェスね。簡単に言うと、フォース同士が集まって交流を深めたり、アトラクションを楽しんだりするイベントのことよぉ」

 

 あとは見てみるのが早いとばかりにマギーさんは手元のウィンドウを操作すると、投影したものを拡大してこっちに渡してくる。

 

「ベアッガイフェス?」

「そ、他にもガンプラでレースをしたり、スポーツをしたり、カラオケ大会もあったりするんだけど……今開催されてるのは特にダイバーたちの間で人気が高いベアッガイフェスなの」

「そうだったんっすか……で、ベアッガイって何です?」

 

 アッガイなら辛うじて知ってるけど、こんなデフォルメしたクマみたいに可愛らしい見た目のガンプラなんて、どこで出てきたのか。

 首を傾げて頭上にクエスチョンマークを浮かべる俺に、やれやれとばかりにチナツが溜息をついて肩を竦める。

 

「ベアッガイ。正確にはベアッガイⅢね。アタシも又聞きだけど、パパのお姉ちゃんが学生だった頃、その結婚相手になった人が作ってあげたのが公式に取り入れられてキット化したのよ」

「そうそう。イオリ・セイ君だったかしら? 元々は伝説になっている第七回全世界ガンプラバトルトーナメントの優勝者が作ったのよ」

「へえ……」

 

 そういや父さんが、師匠が学生大会で使ってたガンプラ……確か「ビルドバーニングガンダム」も、その人が作ったとかいってたな。

 イオリ・セイ……今じゃ有名ダイバーや有名ファイターが使ってるガンプラのレプリカキットが販売されるのは珍しくないけど、いち早く公式にも取り入れられる辺り、相当凄いビルダーだったのかもしれない。

 

「凄いなんてもんじゃないわよ、セイさんは。まあ今は何してるかアタシもよくわからないけど、小さい頃、親戚の集まりで会った時から有名だったみたいだし」

「なるほどな……」

「……」

「マフユ?」

 

 イオリ・セイさんの名前が出た辺りから黙りこくっていたマフユは、この前のフォース戦の報酬として手に入れた首飾りを胸元でそっと握り締めて、何を思ったのか俯いていた。

 

「……あっ、ううん。なんでもないの……ただ、有名な人なんだな、って……」

「なんでもないならいいんだけど……で、ベアッガイⅢってのが凄いのはよくわかった。でもベアッガイフェスって結局何なんっすか?」

 

 わざわざそんな名前がついてるんだから、ベアッガイⅢに関するイベントなんだろうけど、何をするかについては全くといっていいほど想像がつかない。

 相変わらず頭に疑問符を浮かべている俺に、マギーさんは優しく微笑むと、ウィンクを飛ばして言った。

 

「気になるでしょ? なら、エントリーして実際に見てみるのも一つの手だと思わないかしら?」

「確かに」

 

 百聞は一見にしかず、っていうしな。

 他にやることの候補もないんだから、実際にそのベアッガイフェスとやらを拝んでみるのも悪くない。

 

「チナツとマフユはそれでいいか?」

「アタシはオッケーよ、マフユは?」

「私も……大丈夫」

「よし、じゃあ決まりだな!」

 

 二人の同意を得て、俺はエントリーのボタンをタップする。

 

「ふふっ、楽しんでくるのよ。『トライダイバーズ』の皆!」

『はい!』

 

 そして、マギーさんに見送られながら俺たちは、フォースフェスが開催されているエリアに向かうため、格納庫へと転送されていった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「すげえ……なんだ、これ……?」

 

 ゲートを抜けた先は、ベアッガイだった。

 それぐらい、一望する景色はベアッガイに埋め尽くされていて、中にはベアッガイの子供みたいな小さい個体も群れをなしているのが確認できる。

 一言で表すなら、テーマパークだろうか。

 

 各種ガンダム作品をモチーフにしたアトラクションを彩るように、ベアッガイたちが、あるいはベアッガイの格好をした運営のダイバーやNPDが、俺たちを出迎える。

 

「これがベアッガイフェスよ。今日は昼夜が逆転してるみたいね」

 

 チナツの言葉通り、セントラル・ロビーは現実の時間に合わせてちゃんと夜だったけど、ベアッガイフェスが開催されているこのエリアは、青々とした空が一面に広がっていた。

 多分夜しかログインできない俺たちとか、社会人向けにも色々調整されているのだろう。

 

「……なんだか、遊園地みたい……」

「マフユの認識で間違ってないわよ。このフェスはタダで遊べる遊園地みたいなものなんだから」

「現実で遊ぶより安上がりだな……」

 

 GBNの景色は、観光業界が心配になってくるレベルでよくできている。

 色々と金がかかる現実で遊ぶよりも、ガンプラと回線とダイバーギアを持って仮想空間で遊び尽くすってのも案外需要として埋まっているのかもしれない。

 

「とにかく! 郷に入っては郷に従えよ! あそこで着替えて、アタシたちもフェスを楽しみましょ!」

「着替えって……あれ被んのか?」

 

 通路を歩いているダイバーが頭に被っている、ベアッガイⅢをモチーフにしているのであろう着ぐるみと帽子の中間みたいなものを指して、俺はチナツに問いかける。

 あれ被んないとアトラクションに乗れないとか、そういう制限でもあるんだろうか。

 

「そうよ!」

「あれ被ってないとなんかまずいことでもあんのか?」

「特にないわ、でもこういうのって気分が大事でしょ? マフユもそう思うわよね?」

「えっ……? あ、はい……」

 

 話しかけられることを想定していなかったのか、もきゅもきゅと気の抜けるような音を立ててその辺を歩いていたベアッガイの幼体みたいなNPDを抱きしめていたマフユが、素っ頓狂な表情でチナツの言葉に同意を示す。

 多数決的には二対一か。正直あんまり気乗りしないんだけど、やるからには全力でやるって決めた以上、被り物の一つや二つ、なんてことはない。

 

 指定されたエリアで赤いベアッガイの被り物を頭に装着。特に重さとかは感じない。

 

「あっははは! 案外似合ってるじゃない!」

「そうか……?」

「……私も、似合ってると思う、よ……?」

 

 それぞれオレンジ色の被り物をしたチナツと、青い被り物をしたマフユが俺の被り物を指差し、口を揃えて言う。

 

「なんならスクショとか撮っとく?」

「遠慮しとく」

「ノリ悪いわね、もう」

「そっちが浮かれてるだけじゃねーのか?」

 

 俺も若干こう、わくわくしてないかと訊かれて首を横に振るならそれは嘘になるんだろうけど、それにしたってチナツの舞い上がり方は明らかにぶっ飛んでる。

 

「そうかもしれないわね、だって初めてのフォースフェスだし」

「ああ、そういや長くソロ専だったなお前」

「誰のせいだと思ってんのよ、全く……! でもその分今日は目一杯楽しむって決めてるんだから、覚悟しなさいよ!」

 

 何の覚悟なんだ。

 チナツの浮かれ具合にツッコミを放棄した俺とマフユの視線が交錯して、その表情が苦笑に染まった。

 考えていることはどうやら同じらしい。

 

「……私も、初めてのフェスだから……えっと……」

「おう、乗り掛かった舟なんだし、ここまで来たら俺も全力で楽しむか!」

 

 踊る阿呆に見る阿呆ってやつだ。せっかくマギーさんが紹介してくれたんだし、どうせなら踊らなきゃ損だろう。

 現実は夜、この世界は昼。見事に時間はちぐはぐで、ここがあくまでもゲームでしかないということを物語っているけど、それでもここは俺たちの放課後みたいなもんだ。

 

 だから、今は疲れも何もかも忘れて楽しもう。

 先を走っていくチナツを追いかけながら、俺はマフユの手を引いて、ベアッガイフェスの舞台へと乗り込んでいく。

 

「ねえユウヤ、あれ乗りましょ、あれ!」

「ジェットコースターか、いいな! マフユは絶叫系、大丈夫か?」

「う、うん……! 大丈夫だ、よ……!」

 

 あっちもベアッガイ、こっちもベアッガイ。現実世界に存在する夢の国を思わせるファンシーな景色を目に焼き付けながら、まずはチナツが目をつけたジェットコースターを目指して、俺たちは一路ひた走るのだった。




時系列的にはリク君たちが参加するより早い段階で参加してます
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