「次元覇王流! 聖拳、突きぃっ!」
『次元覇王流だ? 意味わかんねえんだよぉ!』
マスダイバーが使っている「Ez-SR」の改造機は、ブレイクデカールの力で全てのステータスが跳ね上がっているらしい。
そのチートがガンプラの性能をブーストアップさせるのは知ってたけど、前に戦ったアルケーの時とは訳が違った。
スラスターの推力も使って、全力で放ったストライク焔の聖拳突きが、交差させたヒートナイフに易々と受け止められる。
『おいおい、イキっといてこの程度か? あんまり格好つけるもんじゃねえんだぜ、ガキがよ』
「何と言われようが結構だ! 俺は! お前を! 百万発ぶん殴るんだからな!」
とはいえ、こうして鍔迫り合いが発生している以上、ダメージが全く入ってないって訳でもないだろう。
だったら前にマスダイバーと戦った時と同じだ。とにかく相手に隙を与えずにぶん殴って、一ダメージでもいいから蓄積させていく。
それに、勝てないと最初から弱気になってたんじゃ本当に勝てるもんも勝てない。気の持ちようだなんていうつもりはないけど、こんな卑劣な奴に気持ちの面でも負けるわけにはいかないからな。
『ちっ……出来の割には馬鹿力だなァ……!』
「ユウヤ!」
「おう!」
腰に装備していたサイドアームであるデスティニーガンダムのビームライフルを、チナツが援護射撃として放つ。
それに続く形で、倒れていたマフユも、G-エクリプティカの腰に装備しているヴェスバーを最大出力でマスダイバーへ撃ち込んだ。
──だが。
『はははは! おいおい、今なんかしたのかァ? 俺の「Ez-BR」には傷一つついちゃいねェぜ……!』
「マフユのヴェスバーまで表面装甲で弾いたっていうの!?」
「……そんな……」
『そこのガブスレイが言ってた通りだろ? お前らに勝ち目なんてものはなァ、万に一つもねェんだよ! THEMIS!』
Ez-BRというらしいその機体のダクトが赤熱化する。紫色のオーラと溶け込むように、機体から立ち昇る赤いオーラは、何だか知らないけど、明らかにヤバいことを物語っていた。
だからといって、ここで引き下がってやる理由はどこにもない。
相手が更に強化されたってんなら、それを前提に間合いを測って立ち回ればいい。
どこにそんな出力が隠されていたのかと疑いたくなるほどの速さで、スラスターを全開にしたマスダイバーが、Ez-BRがストライク焔へ、お返しだとばかりに肉薄してヒートナイフを振るう。
「っぶねえ!」
『今のを避けやがっただと!?』
正面装甲に掠っただけで結構な部分が持ってかれたけど、それでもまだストライク焔は立っている。
バカみたいな威力だとは思うけど、ナイフのリーチそのものが拡張された訳じゃないなら刃物を持った相手と戦う時の要領でなんとかなるはずだ。
「だったらこいつも喰らいやがれ! 次元覇王流……流星螺旋拳!」
パルマ・フィオキーナの光を纏った拳が高速で回転し、マスダイバーが機体の前で交差させたナイフを削り取っていく。
だがそれは、こっちの拳もまた摩擦で削れているのと同じことだ。
だったらこっから先は我慢比べになる。
俺の拳が砕けるのが早いか、敵のナイフが折れるのが早いか。
『この野郎……生意気なんだよ、ガキのくせに!』
「そのガキより情けねえことやってる大人が言うことかよ!」
紫と赤のオーラを纏っているEz-BRが、徐々に流星螺旋拳の勢いに押されてじりじりと後退していく。
だけど、ストライク焔の方もマスダイバーを相手に無理をして接近戦を挑んでいる代償として、右腕のフレームが軋み、耐久値もガリガリと削れている。
まだだ、もう少しだけもってくれ、ストライク焔。
俺は声には出さず、相棒を激励する。
聖拳突きが通じなかったけど、流星螺旋拳が通じているのは恐らく、ゲーム中での処理として、いわゆる多段ヒットの判定がなされているからなのかもしれない。
単発攻撃の聖拳突きは一ダメージに変換されるだけでも、多段ヒットする流星螺旋拳は一ダメージが何発も積み重なっている。つまりはそういう原理ってことだ。
だけど、相手はチート使いだ。
この分だと、百万発分の流星螺旋拳をぶち当てるより先に、こっちの右腕がもげる方が先になることはわかっている。
それでも、だとしても。
「右がやられたってなぁ!」
『この野郎、俺のナイフを……!?』
軋みを上げていた右腕が相手の出力に耐えきれず爆ぜるのと同時に、マスダイバーが構えていたヒートナイフの刃も砕け散る。
これでイーブン、とはいかないかもしれないが、とりあえずは相手の武装は破壊したわけだ。
だったらあとは殴り合いだ。
『ざっけんな……っざけてんじゃねぇぞテメェ、よくもこの俺を!』
「ふざけてんのはそっちの方だろ! 皆で楽しむフェスを邪魔しやがって!」
『何が楽しみだ! こんな子供騙しでバカみてェにキャーキャー騒ぐだけのイベントで能天気に楽しめる、おめでてェ脳味噌のガキ共が、一丁前にこの俺を、泣く子も黙るD・ジェイドを説教しようってのはな、不愉快なんだよ!』
D・ジェイドとかいうらしいマスダイバーは口角泡を飛ばす勢いで咆哮する。
その内容は稚拙で支離滅裂だ。たとえ俺たちがガキなのは事実だとしても、こいつみたいな情けねー大人にだけは言われたくねえ。
「だったらてめぇは、ガキの遊びに首突っ込んでぎゃーぎゃー喚いてるデカいだけのクソガキってことだな!」
『ッ、テメェェェェ!』
「次元覇王流! 閃光魔術蹴り!」
挑発に乗って殴りかかってきたマスダイバーに、俺はプロレス技を取り入れた複合攻撃でのカウンターを叩き込む。
これも一ダメージに変換されてるのかもしれないけど、とにかく手数だ。手数を稼ぐことが重要なんだ。
それにしたって、バカにしてたガキの挑発に乗って顔真っ赤にしてんだから、あのD・ジェイドってのも情けなさが極まっている。
だったら尚更負けられなくなった。
例え相手がチートを使ってようが、こいつみたいなのに負けたら末代までの恥だろうからな。
閃光魔術蹴りから派生して、ソバットの要領でハイキックをEz-BRの顎に叩き込む。
だけど、相手も厄介な存在をやっちゃいないらしい。
クロスカウンターとして、体勢を無理やり立て直したEz-BRの左腕に装着されていたパイルバンカーのようなパーツが伸縮して、ストライク焔の装甲に突き刺さる。
「ぐああああっ!」
「ユウヤ!」
「ユウヤ君っ……!」
「なんだこれ、電撃か……っ!?」
バチバチと雷が爆ぜるような音を立てて、ストライク焔の全身が痙攣するように軋む。
フェイズシフト装甲にも突き刺さってることから考えるに、相当作り込まれた装備なのだろう。
なんでそこまでガンプラを作り込めるのに、こんなコスいことを、セコいことをやってるんだ、こいつ!
『クク……スタン・アンカーの味はどうだクソガキ? 楽には殺してやらねぇからなァ……!』
「クソっ、動け、動けよ、ストライク焔!」
電撃はじわじわとストライク焔を侵食し、ダメージを蓄積させていく。一撃で仕留めないで、じわじわと削っていくやり方が好みな辺り、こいつの性格が窺い知れるってもんだ。
なんて、思ってるような暇じゃない。
ここで俺が動けなかったら、ここで俺が動かなかったらトッドさんたちはどうなる。チナツは、マフユはどうなる。
何よりこんな卑劣なやつを前に、膝をつきたくなんかない。
苦悶と共に、機体に深々と食い込んだスタン・アンカーを引き抜こうと力を込めたけど、そう簡単に抜けない位置に刺さってしまっていたらしい。
電撃でストライク焔の装甲値が削り切られるのが先か、それともスタン・アンカーを引き抜いて反撃に出るのが先か。
そう思っていた矢先のことだった。
「ユウヤ君に続くぞ、ジョー、ベル!」
「ああ! まだ武装は生きている! 行けるな、ベル!?」
「問題ないわ!」
トッドさんたちの姿が通信ウィンドウに映し出され、ボロボロになっていたガブスレイとハンブラビ、そしてギャプランが立ち上がって、まだ生きていた武装をEz-BRに叩き込む。
当然のように相手はブレイクデカールで強化した正面装甲でその攻撃を跳ね返していたけど、注意をそっちに向けて、右腕のグレネードランチャーから、どう考えてもあり得ない量の弾を撃ち出す。
「ぐああっ!」
「トッド!」
「僕に構うな、ジョー、ベル! こんなところで……こんなところで諦めたら、またマスダイバーに怯える昔の僕たちに逆戻りだ! ユウヤ君が教えてくれた……諦めちゃダメなんだって!」
「そうよ! ユウヤのバカには先を越されたけど!」
「……私たちも……!」
デスティニーのウイングから光の翼を展開し、チナツのアストレイシックザールが対艦刀を構えて疾る。
そして腰アーマーからビームサーベルを取り出したマフユのG-エクリプティカは、チナツが敵の注意を引き付けている内に、マスダイバーが射出したスタン・アンカーの線を断ち切る。
「ユウヤぁっ!」
「ユウヤ君……っ!」
「おう、ありがとうな、チナツ、マフユ!」
『この……クソガキ共があッ!』
「今からてめぇはそのクソガキにぶちのめされるんだよ! 次元覇王流!」
チナツがさっきEz-BRのコックピットを狙って投擲していた対艦刀の、アロンダイトの柄に狙いを定めて、俺は左の拳を構える。
マスダイバーもそれを阻止しようとグレネードランチャーを向けるも、マフユのG-エクリプティカがビームサーベルを振るって、弾頭を全て叩き斬っていた。
「次元覇王流
そして、左手で放った流星螺旋拳が、Ez-BRのコックピットに軽く刺さっていただけのアロンダイトを押し出していく。
『俺が……この俺が、こんな奴らにぃぃぃッ!』
「へっ……油断大敵ってやつだ!」
もしも相手が慢心せずに、こっちを一撃で仕留めようとしてきたら、結末は違っていたはずだ。
だけど、それはもうたらればの話で、コックピットにアロンダイトを突き立てられたことで、マスダイバーが操るEz-BRは爆散、テクスチャの塵へと還っていた。
なんとか勝てたが、紙一重も紙一重だ。
レッドアラートが点滅しているコックピットの中で、俺は深く溜息を吐く。
マスダイバー。それがどれだけの脅威になっているのかは正直まだわからない。
でも、こんなフェスにまで姿を現してるってことは、ブレイクデカールってのは予想以上に蔓延しているのかもしれなかった。
『救難信号を受信して駆けつけたが、これは……』
その時ふと、声が聞こえる。
その方向を、上空を見上げてみると、そこには二機のクランシェカスタムを従えたガンダムAGE-2のカスタムモデルが佇んでいた。
「嘘、あれって……!」
「……ガンダムAGEⅡマグナム……クジョウ・キョウヤさんの……チャンピオンのガンプラ……!」
チナツとマフユが驚愕に目を見開いて、そのAGEⅡマグナムというらしい紫紺があしらわれた機体を見上げる。
チャンピオン。チナツから聞いていた、個人ランキング1位にして、フォースランキング1位のフォース「AVALON」を率いる男が、どういうわけかここにいるのだ。
『すまない。マスダイバーがいるという救難信号を受信して駆けつけたのだが……もしかして、君たちが倒してしまったのか?』
クジョウ・キョウヤさんは少し驚いたような表情で、そう問いかけてくる。
確かに俺たちがあいつを倒したといえば倒したのには違いないんだろうけど、かなりギリギリの勝利だったし、相手も慢心してたから、胸を張って言えるようなことじゃない気がする。
まあでも勝ちは勝ちだ。素直に答えよう。
「はい、一応ですけど、俺たちが倒しました」
『そうか……礼を言うよ。ありがとう』
──トライダイバーズ。
クジョウ・キョウヤさんはチャンピオンにしては随分と柔らかい物腰で、小さく頭を下げる。
「えっ、アタシたち、もしかしてチャンプに認知されてるの……?」
「……あっ……えっ、と……その……」
『謙遜することはないよ。僕とアトミラールはちょっとした友人のようなものでね。彼から話を聞いていたのさ』
地上にAGEⅡマグナムを下ろしたクジョウ・キョウヤさんは、にこやかに笑いながらあっけらかんとそう言ってのけた。
アトミラールさん、そんなに顔が広い人だったのか。まあ二万人も戦力抱えてるようなフォースらしいから、それも当然か。
俺も機体から地上に降りて、チャンピオンと、クジョウ・キョウヤさんと改めて向き合う。
「ありがとうございます、チャンピオン。でも、勝ったのは俺たちだけの力じゃありません。トッドさんとジョーさん……ベルさんも、ここにいる皆で頑張ったから勝てたんです」
「そうだね。改めてここにいる勇敢なダイバーたちに感謝するよ。マスダイバーを退けてくれて、本当にありがとう」
トッドさんたちの機体に視線を向けて、クジョウ・キョウヤさんは再び軽く会釈をする。
意外とフランクな人っていうか、本当に丁寧な人なんだな。
「しかし、マスダイバーが……ブレイクデカールがこんな末端にまで広がっているとは」
さっきまでのにこやかな表情が一転、眉根にしわを寄せるチャンピオン。ブレイクデカールがチートツールだってことは知ってたけど、チャンプがそこまで警戒するほどヤバい代物なんだろうか。
「えっと……クジョウ・キョウヤさん。ブレイクデカールって、そんなにヤバいものなんですか?」
「キョウヤで構わないよ、ユウヤ君。そうだね……ブレイクデカールはただのチートツールではない。GBNの内部システムに干渉して、様々なバグを引き起こしているんだ」
このままマスダイバーの数が増えていけば、最悪GBNそのものが崩壊しかねない。
キョウヤさんは険しい表情のまま、ブレイクデカールに対する憎悪のようなものをその声音に滲ませてそう語った。
「じゃあ、さっきまで空が曇ってたのって……」
「それもブレイクデカールの効果だね。しかし、ブレイクデカールがここまでの現象を引き起こしているのは、それそのものが強化されているのか、それとも単純にマスダイバーの数が増えているのか、あるいはその両方なのか……ともかく、マスダイバーを撃退してくれたことは感謝する。ささやかなものだが……受け取ってはくれないか?」
キョウヤさんはもう一度にこやかな表情を作ると、手元のコンソールを操作して、俺たちに向けたフレンド申請を送ってくる。
まさか、チャンプからフレンド申請が来るなんて。
いつのまにか機体を降りていたチナツとマフユも驚愕に目を白黒させながら、震える指先でその申請を受理し、チャンピオンへとフレンド申請を返す。
「あ、ありがとうございます、チャンピオン!」
「……ありがとう、ございますっ……!」
「何、大したことじゃないさ。それよりもフェスはまだ続いている。君たちは楽しまなくていいのかい?」
「えっ?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
マスダイバーを倒すことに夢中で気付かなかったけど、いつの間にかトッドさんたちはいなくなっている。
フォース「オーラモビルズ」が武者ッガイを獲得した通知が届いたのは、それから程なくしてのことだった。
「完全に忘れてた……」
「はは……こういうこともあるさ、ミッションは終わったけど、まだまだフェスは続いているよ。君たちも疲れただろうから羽を伸ばすといい」
──それじゃあ、僕はこれで失礼するよ。
最後まで物腰柔らかにチャンプは、ひらひらと手を振って、着陸させていたAGEⅡマグナムに乗り込んで夕暮れの空に飛び立っていく。
あれが、チャンピオン。GBNで今、一番高いところにいる男。
その情け深さと同時に感じていた凄みのようなものに、気付けば俺の手は震えていた。
きっとフェスを守った勝利こそが宝物