ガンダムビルドダイバーズ:トライ   作:守次 奏

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積みプラが増えたので初投稿です。


Ep.17「更なる高みに至るため」

 縁もたけなわといった風情で、夜が訪れたベアッガイフェスの空には、色とりどりの花火が咲いては散ってを繰り返していた。

 だけど、俺はそこにどうしても集中できないというか、あのチャンプと会ってからずっと、そわそわしたものが胸の内側で楽しむ邪魔をしているような気がした。

 確かに花火のクオリティは現実さながらだし、チナツがきらきらと目を輝かせているのも、マフユが控えめにだけど同じような表情をしてるのは納得できる。

 

 でも、どういうわけか乗り気になれない。

 トッドさんたちに武者ッガイを持っていかれたのがそんなに悔しかったんだろうか。

 いや、違う。

 

「何よ、そんな仏頂面して」

「ああ……ちょっと考えごとしてたんだ」

「アンタが考えごと、ねえ……明日は槍でも降るんじゃないかしら」

「んだとこの野郎」

「ユウヤ君、チナツさん、その……喧嘩は、ダメです……っ……!」

 

 チナツがいつもの冗談を吹っかけてきたところを本気にしたマフユが慌てて丈の余った袖を振りながら止めに入る。

 すっかりこの光景も日常的になってきたな。

 それにしたってチナツはもう少し言葉をオブライト……? ああ違う、オブラートに包むことを覚えた方がいいと思うけど。

 

「大丈夫だぜマフユ、犬にじゃれつかれてるようなもんだから」

「誰が犬よ、アタシが犬ならアンタは猿かなんかでしょ」

「誰が猿だこの野郎……っと、まあちょっと真面目な話、チャンプに会ってからずっと、なんかそわそわしてんだよな」

 

 これぞ犬猿の仲って下らない冗談は置いといて、俺は素直に、チナツとマフユへ今の偽りない本心を打ち明けることにした。

 フェスは楽しかった。

 途中でマスダイバーがしょうもない理由で茶々を入れてきたのはいただけなかったけど、それだって皆の力があったから乗り越えることができたんだ。思い出の一つに違いはない。

 

 でも、あのチャンプと、キョウヤさんと出会った時、俺は確かに──そうだな、認めるのは恥ずかしいけど、「勝てない」って思っちまってたんだ。

 素人が一目で見てもわかるほど圧倒的なガンプラの出来。そこに佇んでいるだけで並のダイバーを圧倒するほどの貫禄。

 全部、俺にはないものだらけで、今まで漠然と目指してた頂点ってのはあんなにデカいものなのかって、ビビってるんだ、今も。

 

 きっとキョウヤさんなら、俺たちが力を合わせてようやく倒すことができたマスダイバーだって、難なく一人で倒せただろう。

 そんなキョウヤさんに、いつか俺は勝てるのか。俺のストライクは、俺だけの「好き」って気持ちは通じるのかって、不安になってたところもあるのかもしれない。

 

 洗いざらい胸の内を吐き出したところで、チナツとマフユは顔を見合わせて、一様に沈んだ表情を浮かべる。

 

「それは……確かにそうだけど……」

「……チャンピオンには、私なんて……」

 

 諦めるのは何よりも格好悪いことだ。

 でも、相手との力量差を弁えないでがむしゃらに突っ込んでいくだけの行いは、勇気じゃなくて無謀でしかない。

 俺には、俺たちには、頂点なんて無縁な光景なのか──そんな暗い考えが、頭の片隅をよぎった、その時だった。

 

「いいや、それは違うね。ユウヤ君、チナツ君、マフユ君」

 

 そんな不安の霧を払うように、雲間から差し込む太陽の光みたいに、優しい笑顔を浮かべたチャンプが、キョウヤさんが、副官と思しき二人を連れて、俺たちに近づいてくる。

 

「キョウヤさん……!」

「僕と君たちの間では、まだ力の差があるのは確かなことかもしれない。だけどそこだけを見て、君たちだけに眠っている可能性を閉ざしてしまうのは、もったいないことだ」

 

 ──かつてそうやってGBNから姿を消していった強者たちを、僕は何人も見てきた。

 キョウヤさんは厳かな声音に、どこか悔しそうな、寂しそうな色を滲ませてそう呟く。

 それはきっとずっとチャンピオンの座を譲ったことがないからこそ、絶対強者として君臨し続けてきたからこその悩みなのかもしれない。

 

 可能性。俺たちだけに眠っている、可能性。

 キョウヤさんの言葉を胸の中で反芻してみれば、俺の中にあったもやもやを薪にして、最初にあったそわそわした感じが燃え上がってくるのを感じる。

 だからなのかもしれない。頭で考えるより先に、心が、言葉が走っていた。

 

「キョウヤさん。俺……強くなりたいんです」

 

 強くなりたい。拳法を学んだその先にある、「想像を超えた戦い」がしたい。

 その気持ちは、偽りなくまだ俺の胸の中に残っている。

 だけど、理由がそれだけじゃなくなっていることもまた、事実だった。

 

「ふむ……君はどうして強くなりたいと欲するんだい、ユウヤ君?」

「上手く言えねーですけど……俺、このGBNが好きになってきた気がするんです」

 

 最初はただ、ガンプラバトルをする場としてしかGBNを見ていなかった。

 それどころか、マフユに教えられるまではガンダムの知識だって、俺が見てきたものに偏っていて、下手すれば、マフユと出会わなかったらきっと「SEED」と「DESTINY」しか見てなかったかもしれない。

 でも、マフユと一緒にGBNをやって、そこにチナツも加わって。トッドさんやジョーさん、アトミラールさんにキョウヤさん。色んな人との縁ができた。

 

「だから俺……この世界をもっともっと楽しむために、もっと、もっと強くなりたいんです」

 

 そんな「楽しい」世界を壊していくマスダイバーなんかに負けないために、これからもずっと、マフユやチナツと「トライダイバーズ」として進んでいくために、まずは俺自身がそれに相応しく、強くなりたい。

 言葉にしてしまえば、胸の内側にあったそわそわした思いは本当に単純なもので、でも、そんな願いは叶わないんじゃないかって不安に囚われて、もやもやしていたんだ、きっと。

 

「俺は、あなたみたいに……キョウヤさんみたいになりたい! だから……!」

 

 だから、もっと。

 続く言葉を遮って、血気に逸る俺を宥めるように、キョウヤさんが優しく言葉を紡ぐ。

 

「ああ。なれるさ。君がその『好き』という気持ちを……このGBNや、ガンプラに対する愛を見失わなければ、絶対になれる」

「本当ですか!?」

「本当だとも。クジョウ・キョウヤには誰でもなれる。僕だって、恥ずかしながら最初の頃は負けてばかりだったからね」

 

 それでも、自分の中にある「ガンプラが、GBNが大好きだ」という気持ちを見失わなかったから、ここまで来れた。

 キョウヤさんは、昔を懐かしむように目を細めると、俺の肩にそっと手を置いてそう言った。

 俺が、キョウヤさんみたいになれる。

 

 それはきっと、次元覇王流の極意に辿り着いた時のように、途方もない時間がかかることなんだとはわかっている。

 それでも、キョウヤさんのその言葉は、確かな重さを持って、真実として俺の心に響いてきた。

 

「アタシも……」

「私も……」

「なれるとも。チナツ君、マフユ君。君たちだって同じだ。皆……ダイバーとしてこのGBNに足を踏み入れたその時から、大好きだという気持ちを忘れなければ、辿り着けるさ」

 

 何千回、何万回負けたとしても、「もう一回」に賭け続けて、見つけた理由をバネに立ち上がる。

 キョウヤさんは、自分が歩んできた道を振り返るように、俺たちを通して見つめていた、かつての自分に語りかけるように言葉を紡ぐ。

 

「そうだな……ユウヤ君。君はペリシア・エリアに行ったことはあるかな?」

「ペリシア?」

「ガンプラビルダーの聖地とも呼ばれる中立地帯で、そこには様々なビルダーたちが形にした『好き』が詰まっている。一度、自分のそれを確かめるために、訪れるのも悪くないと思うよ」

 

 ペリシア。聞いたこともない名前だけど、キョウヤさんが言うんだからそれに間違いはないんだろう。

 

「バトル以外で見聞を広げるのもまた、強くなるための道さ。君たちがここまで来るのを、僕はいつまでだって待っているよ、『トライダイバーズ』」

 

 そう言い残すと、キョウヤさんたちは踵を返して、群衆の中に溶け込んでいく。

 バトル以外での見聞を広げる。

 キョウヤさんの言葉を胸に、俺はそのガンプラビルダーの聖地に、ペリシア・エリアに想いを馳せる。

 

「ペリシア・エリアか……どんなとこなんだろうな」

「概ねチャンピオンが言ってた通りよ。でも、アンタのダイバーランクだと、ガンプラに乗れないはずだったから、乗り物借りていかなきゃいけないけどね」

「えっ!? 俺、ガンプラに乗れないのか!?」

「……えっとね、ペリシア・エリアは中立地帯、だから……一定のダイバーランクにならないと、ペリシアでガンプラを出すのはダメ、って決まってる、の……」

 

 そうだったのか。

 なんだか早速出鼻を挫かれた気分だけど、要はチナツが言ってたように、ガンプラに乗れないならガンプラに乗れないなりの救済措置がちゃんと用意されてるってことだろう。

 その辺対策してないゲームなんてただのクソゲーだからな。

 

 GBN、神ゲーは伊達じゃないってか。

 空に打ち上がる花火を見つめながら、俺たちは次なる目標に向けて決意を新たにしながら、祭りの終わりを、今度は曇りなく堪能していた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「砂漠でラクダに逃げられたら死ぬってこういうことだよな」

 

 セントラル・ロビーの受付NPDから、シャフランダム・ロワイヤルや今まで受けてきたミッションで稼いだビルドコインを叩いてバギーを借りた俺たちは、一面のサンドブラウンが広がる景色をただ駆け抜けていた。

 無味乾燥、って言葉が似つかわしい一面の砂色には何の変化もなくて、無駄に現実と同じような縮尺で作り込まれた砂漠には、ベアッガイフェスの時と違って何の感動も湧いてこない。

 

「そういうことね、とにかく無駄に広いのよ、ペリシア・エリアって」

「それに……ガンプラを出せるようになっても、ちゃんと防砂対策をしてないと、関節に砂が詰まって、動けなくなっちゃう、よ……?」

「へー……ガンプラ乗れなくてある意味良かったのかもな……」

 

 防砂対策、といわれても正直なところ全くといっていいほどピンと来ない。

 ストライクガンダムは原作じゃ接地圧を合わせることで砂地に対策してたけど、ガンプラを出せるランクになったら、俺のストライク焔もそういうことをしなきゃいけないんだろうか。

 

「アタシのアストレイシックザールも防砂対策はしてないわね……ってか、ほぼ全身フレーム剥き出しみたいなもんだから、砂漠戦って苦手なのよ」

「確かにな」

 

 確かストライクのフレームをコピーして作られたのがガンダムアストレイで、軽量化と人体に近い動きをするために装甲も発泡金属を利用した最低限のものしかつけられてないんだったか。

 チナツの言う通り、装甲の隙間とかも多そうなアストレイじゃ砂漠戦は厳しいのかもしれないな。原作に出てきた叢雲劾とロウ・ギュールならその辺何とかしそうなもんだけど。

 

「……私のエクリプティカも、砂漠で戦うことはあんまり考えてなかったから」

「そっか、そういや空飛んでても砂は飛んでくるんだよな……」

 

 地上がダメなら空中で戦えばいいんじゃねーかな、とか一瞬考えたけど、スラスターの噴射や風に巻き上げられた砂が入り込んでくるからダメなものはダメなんだろう。

 でもまあ、ここがガンプラの乗り入れに制限がかかる中立地帯である以上、まさか戦いなんて起こらないとも思うけどな。

 

「どうかしらね」

「どう……って何がだよ、チナツ?」

「アンタも知ってるでしょうけど、ブレイクデカールはチートツールよ。チャンピオンが警戒してたように、末端にまでそれが広がってるなら、ここでひと騒ぎ起こすバカが出てこないとは限らないわ」

 

 恐らくはブレイクデカールにかかれば、エリアにかけられているランク制限だとかも無理やりこじ開けて、ガンプラを呼び出すことも可能なのかもしれない、というチナツの危惧はそんなに間違っちゃいないんだと思う。

 この前のベアッガイフェスだって、戦闘とは無縁なイベントだったのにマスダイバーはバカな理由で暴れてたんだ。

 ここで騒動が起きない保証はどこにもないのかもしれない。

 

「なんだか物騒になってきたな……」

「……私……怖いです、ユウヤ君……」

「心配すんなって、マフユ! そりゃ確かに可能性はあるかもしれないけど、あくまで可能性の話だろ?」

 

 マスダイバーがいる以上、ダイバーが皆いいやつだとは限らなくても、ガンプラを飾るために作られたエリアで暴れたところで、得することなんて何もない。

 非武装のダイバーたちを襲うなんて外道極まる考え方をするようなやつなら別だろうけど、そんなのと遭遇するのは、隕石が頭に落ちてくる確率……よりは高いだろうけど、相当低いと考えてもいいはずだ。

 

「うん……そうだ、ね……ありがとう、ユウヤ君」

「気にするようなことじゃないって」

「……ユウヤ、アンタよそ見運転してるんじゃないわよ」

 

 後ろを向いて楽観的に笑った俺の頬に、丈の余った袖に包まれたマフユの右手が触れる。

 そして、どこか不機嫌そうなチナツがそう釘を刺してきたけど、ぐうの音も出ないほどの正論だ。反論しようもない。

 

「お……?」

 

 正面に向き直った俺は、バギーのフロントガラス越しに見えた小さな影みたいなものに一瞬気を取られてしまう。

 

「どうしたのよ、バカユウヤ」

「誰がバカだ誰が! じゃなくて、さっき砂漠を徒歩で移動してるやつらが見えたような気がしてさ」

 

 豆粒みたいな大きさだったけど、野生のラクダがいるわけでもない虚無が広がっているこの砂漠で何か動くものを見つけるとすれば、それは人間以外に他ならない。

 だからきっと、俺が見たものはこのだだっ広い砂漠をわざわざ乗り物にも乗らず、歩きで移動してる物好きな集団ってことになるんだろうけど。

 

「流石にないでしょ、ここからペリシアまで何キロあると思ってんの?」

 

 チナツは手元のコンソールを操作して、縮尺を拡大した、現在地からペリシアまでの位置が記されている地図を投影する。

 流石に現実フルコピーとは行かなくても、この距離じゃ相当遠い。歩きで行ったら日が暮れるどころの話じゃあない。

 

「私も……流石に、そんなことする人は、いないかな、って……」

「だよなあ……じゃあ俺の見間違いか」

 

 もしかしたら風に巻き上げられた塵か何かを誤認したのかもしれない。

 あれが本当に歩きでペリシアを目指してる集団だとしたらまあ気の毒だし、助けたいところだけど、そんなレアケースなんて滅多にないだろう。

 

「それにこのバギーじゃ四人までしか乗れないわ、仮に歩いてペリシアに向かってるなつらがいたとしても、集団なんでしょ? 一人しか拾えないわよ」

「……まあ、それもそうか」

 

 釈然としないものは釈然としないけど仕方ない。

 もしも彼らが哀れにも乗り物を忘れたか砂漠でラクダに逃げられた集団なら、お気の毒としかいいようがないけど、助けようもないんだからどのみち詰みだ。すまん。

 

「それよりさっさとペリシア行きましょ、日が暮れちゃうわよ」

「それもそうだな、飛ばすぜマフユ、しっかり掴まってろよ!」

「うん……っ!」

 

 アクセルを全開にして、俺たちは一路ガンプラビルダーの聖地と呼ばれるそこを目指す。

 そこでどんな出会いが待っているのか、どれだけの「好き」に巡り会えるのか、そんなことに期待を馳せながら。




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