ガンダムビルドダイバーズ:トライ   作:守次 奏

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ヴィシャスもスプレマシーもなんだか強そうなので初投稿です。


Ep.02「ようこそGBN」

 ガンプラをダイバーギアに乗せて、ゴーグル型の機器と操縦桿型のコントローラーを握れば、カウントダウンと共にダイブが始まる。

 スティックとボタンを使うゲームがレトロに分類されるこの現代、フルダイブVRゲームは今や戦国時代らしいが、その中でもGBNは頭一つどころか、二つ三つ飛び抜けた出来らしいとは幼なじみが言ってたことだ。

 

 まあその時はGBNには欠片も興味がなかったからそんなもんかと聞き流していたけど、こうして自分のアバターを作成する画面に移行すると、まずはスクロールバーの長さに圧倒される。

 

「へえ……色々パーツあるんだな、猫耳とか……ツノ!? そんなキャラメイクもできんのかよ!」

 

 ガンダムのゲームなんだからガンダムっぽいキャラメイクに限定されてると思ったけど、案外そうでもないらしい。

 アバターの一覧を眺めてたら、一頭身のゆるキャラっぽいのも混ざっていて、このゲームがどこを目指してるのかよくわからなくなったけど、メイクの幅は多い方がいいんだろう。多分。

 

「っと、見てるだけで半日ぐらいかかりそうだな……」

 

 多分これ、凝り性なやつなら六時間は余裕で潰せるんじゃなかろうか。

 俺は変なこだわりとかもないから、初めに提示された、現実の姿をベースにしたアバターにちょいちょいとパーツを足していくことに決めた。

 

 俺だけのストライクことストライク焔を作った時はめちゃくちゃ悩んだもんだけど、自分のアバターに関しちゃ自分以上のものに見せようとも思わないし、自分以外の何かになりたいとも思わない。

 

 だからまあ、こうして胴着……を着るのはなんかセンスがないっていうかありきたりだな。

 それにあくまでベースとはいえ現実世界の姿をそのまま使うのもなんだかんだ抵抗があるというか、面白味がないような気がしてくる。

 

 もしかしなくてもこれ、沼にハマってるパターンだったりするんだろうか。

 

 未完成なアバターと睨めっこをすること実に小一時間近く、微調整を重ねることでようやくなんとなくそれっぽい、現実の自分とはちょっとだけ違う感じのアバターが出来上がった。

 

「妥協は良くない、ってのは師匠の教えとはいえ、凝りすぎてもなんか違うんだよな……」

 

 謎の敗北感を味わいつつもとりあえずは意識をアバターと一体化させ、次のフェイズであるダイバーネームの入力に移行する。

 ダイバーネーム。早い話がハンドルネームで、これもまあ現実をベースにしたりしなかったりで色々らしい。

 

「チナツは確かそのまま名前使ってたな……」

 

 前に一度だけ一軒隣の家に住んでいる幼なじみに、コウサカ・チナツにGBNをやらないかと誘われた時に見せられたデータは見事に現実ベースだったことは何故だか覚えていた。なんでだかは自分でもわからないけどな。

 

 だったらまあ、今時本名を使っても珍しくはないだろう。

 アバターの時と同じで、こういうのに凝り始めるとキリがない。

 母さんの血がそうさせているのか俺が生まれ持った性格なのかはともかくとして、何も考えず俺は「ユウヤ」と、自分の名前をそのままアバターに付与してやる。

 

『GPEX SYSTEM START UP──』

『Welcome to GBN』

『Will you survive?』

 

 英語のメッセージと共に、俺の意識は無限に続くエレベーターを降っていくかのようにシステムの方へと引っ張られていく。

 君は生き残ることができるか、か。

 なんだか知らんが物騒なキャッチコピーだけど、これもガンダム由来なんだろうか。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 そんなことを考えている内に俺の意識は電脳空間に再構築されて、ダイバーたちが集まるセントラル・ロビーに降り立っていた。

 胴着じゃなくて悩んだ末に着てるのが着崩した地球連合軍の制服ってのも大分センスがないように感じられるが、そんなことが些末なものに思えてくるぐらい、セントラル・ロビーは様々な姿のダイバーたちで溢れている。

 

「時は来た……」

「時は来た?」

「時は来た……」

 

 すれ違ったムキムキマッチョなボディに可愛らしい……かどうかはわからんけど、猫の頭を乗せたようなダイバーがそんなことを呟いて通り過ぎていく。

 

 時は来たって何が来たんだろうな。

 一瞬首を傾げたが、考えたところで意味もなさそうだ。さっさとガンプラバトルをするために、俺はまず、受付っぽいカウンターに向かって歩き出した、その時だった。

 

「へへっ、兄ちゃん新参かい?」

「そういうあんたは古参なのか?」

「そう喧嘩腰になるなよ……俺はヤス、お得なパーツデータから手頃なクリエイトミッションまでなんでも紹介してる情報屋ってやつさ、へへ……」

 

 ヤス、と名乗った男は手揉みをしながらにじり寄ってくるけど、まだズブの素人な俺にもわかる。

 こいつは明らかにまともじゃない。

 パーツデータとかクリエイトミッションがなんだかは知らない。ただ、この手のゲームで初心者に近づいてくるやつの目的は。

 

「なんだか知らねえけど、あんた……カタギじゃないな?」

 

 初心者を純粋に助けようとしているか、その逆か。どっちかになると相場が決まっている。

 地獄への道は善意で舗装されているとはよく言ったもんで、何かしらの「近道」であったり、「誰も知らない」と銘打った情報を売り出そうとしている奴は、大概後者だ。

 

「失礼なガキだな、俺はただ……」

「そうよ、ヤス。アンタ、ここで初心者に胡散臭い商売するのやめろって前も言ったわよね?」

「げえっ!?」

 

 ヤスとかいう男の背中をひょいっとつまみ上げたのは、俺よりも大柄な、いわゆるオネエ口調のダイバーだった。

 なんていうか、濃い。色々濃い。

 

「し、失礼しやしたぁっ!」

 

 呆然としている間にヤスは一目散にそのダイバーから逃げ出して、雑踏の中に消えていく。それほどこの大柄なお姐さんが怖いんだろう。

 

「ありがとうございます、お姐さん!」

 

 一応自力でなんとかできなくもなかったけど、助けてもらったことは事実だ。紫色の髪をした大柄な漢女に俺は腰を折って、頭を下げる。

 

「あらやだ、上手なんだから……こほん。アタシはマギー。ここで初心者にちょっとばかりお節介を焼いてる、ナビゲーターみたいなものよ」

「ナビゲーター?」

「ま、非公式なんだけどね」

 

 マギーと名乗ったお姐さんは、手元のウィンドウを操作すると、自分のプロフィールが記されているデータを俺に手渡してきた。

 何々、フォース、アダムの林檎……個人ランキング23位?

 

「なるほど……お姐さん、ガチ勢ってやつですか!」

「あら、そうでもないわよ? ふふっ」

 

 詳しいことはわからん。でも、このゲームがどれだけの人数を抱えているかは知らないけど、その中で上から数えて二十三番目って時点でかなりの実力者だってことぐらいは俺でもわかる。

 まさかアクティブユーザーが百人とかそんなことはないだろうし、百人でも十分凄いんだろうけど。

 

 戦ってみたい。この時湧いてきた気持ちを言葉にするなら、そうなるのかもしれない。

 無論始めたての俺とマギーさんが今戦ったところで勝敗は見えている。

 だから、いつか。いつか、想像を超えた高みに至ったその時に、拳を交えてみたい。

 

 素直に思ったことを言葉にするなら、そういうことになる。

 

「ふふっ……いい目をしているわ、アナタ」

「そうですか?」

「上に上がろう、ってギラギラした目ね。それにアナタ……ガンプラを愛しているでしょう?」

 

 愛。愛か。そう言われると正直自信がないというか、よくわからなくなるけど、ストライク焔と一緒に戦いたいって気持ちだけは嘘じゃない。

 

「愛かどうかはわからないっす、でも、俺……自分だけのガンプラで、想像を超えた戦いをしてみたいんです!」

「うふふ、正直ね。でもまずは千里の道も一歩から。そこのカウンターでチュートリアルミッションを受注するといいんじゃないかしら?」

 

 マギーさんは受付嬢のNPC──このゲームではNPDというらしい──が笑顔を振りまいているカウンターを指差して、小さく笑う。

 確かに姐さんのいう通りだ。何事もまずは基本から始めなきゃ形にならない。

 

「ありがとうございます、マギー姐さん! 俺、チュートリアル受けてきます!」

「ふふ、頑張ってね。ああそうそう、これ」

「これ?」

「アタシからのフレンド申請よ。嫌じゃなければ受け取ってちょうだいな」

 

 受け取らない理由がない。

 さっきのヤスと違って、この人は信用できる。根拠は特にないけど、俺の直感がそう告げている。

 

「ありがとうございます! 俺、ユウヤです! 俺からもフレンド申請お願いします!」

「ええ、受け取ったわ。アタシはギャラリーモードで観戦させてもらうから、思う存分楽しんできなさい、ユウヤ君!」

 

 思いがけずにいい縁ができた。そういう意味じゃ、ヤスってやつにも感謝した方がいいんだろうか。

 そんなことを頭の片隅に浮かべながら、カウンターのNPDからチュートリアルミッションを受注したのはいいとして。

 

「えっと……これどうやってガンプラに乗るんです?」

「あらら……」

 

 肝心の出撃方法がわからなかった。

 マギーさんに教えてもらわなければ、ガンダムが大地に立つ前に終わるところだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 手元のウィンドウを操作して格納庫に移動すると、見えてきた景色は圧巻の一言だった。

 

「すげえ……!」

「ふふっ、でしょう?」

「俺のストライク焔が18メートルになってる……!」

 

 実物大のサイズにまで拡大されたガンプラを見ていると、ガンダムSEEDを見ていた時のようなあの興奮が、腹の底から湧き上がってくる。

 現実世界では掌に収まるぐらいのガンプラが、この世界では巨大な人型兵器として再構築される。知っていたはずなのに、実物を目にするとその光景が与えてくれる感動は、確かに俺の想像を超えたものだった。

 

「ストライク焔っていうのね、その機体。ンンッ、いいカスタマイズ! 見たところ、接近戦向けに調整してあるのね?」

「はい! これでも俺、拳法やってますから!」

 

 ストライク焔を作る時に考えていたのは、いかに自分の技をガンダムに落とし込めるかということだった。

 キラ・ヤマトのように射撃と格闘を巧みに使い分けるのも格好いいかもしれないけど、俺にそれができるかどうかはわからない。

 それなら、できることから始めようっていう発想だ。

 

 小さい頃から習ってきた次元覇王流だけじゃなく、マーシャルアーツやコマンドサンボ、空手にガンカタ。とにかく俺が知ってる限りの格闘術を柔軟に使えるガンプラ、というのがストライク焔のコンセプトだった。

 

「やりたいことが明確なのはいいことね。そうねえ……タイガちゃんと仲良くできるんじゃないかしら?」

「タイガちゃん?」

「アナタもいずれ出会うことになる強者よ。それじゃあ、お待ちかねのアレに行っちゃいましょうか」

 

 そのタイガちゃんとやらが気にならないといえば嘘になるけど、まずは目の前のミッションを片付けるのが先決だ。

 俺は格納庫から、カタパルトに固定されたストライクのコックピットに移動して、出撃シーケンスに入る。

 

「おお、これもできるんだ!」

『そうよ、さあ、お腹の底から叫ぶといいわ!』

「了解! カミキ・ユウヤ、ストライク焔、行きます!」

 

 勢い余って本名を名乗ってしまった程度にはテンションが上がっていたらしい。

 でもまあ無理もない。こうしてガンダムに乗ってカタパルトから出撃するシチュエーション、燃えるなって方が無理筋だ。

 数日前までガンダムにそこまで興味を持ってなかったのが悔やまれるぐらいだ。

 

 でもまあ、後悔したところでしょうがないし、拳法一筋でやってきた俺も含めて俺なんだ、ガンダムについてはこれから学んでいけばいい。

 

 カタパルトから滑り出し、空中に放り出されたところで見えた景色は、圧巻の一言だった。

 まるで実写のようにテクスチャの青空や鬱蒼とした森林は広がっていて、この世界に奥行きがあることを、書き割りで止まっていた昔のゲームとは違うということをはっきりと物語っている。

 

「すっげえ……!」

 

 父さんが、師匠が「想像を超えた」なんていう訳だ。

 でもまだ、これだって片鱗に過ぎない。

 半球状に展開されているドームのような空間──ミッションの開始地点にストライク焔を突入させて、俺は来たるべきその瞬間に備える。

 

 レーダーがアラートを吐き出して、コックピットに警告を示すウィンドウがポップした。

 敵機襲来。三機の確かリーオーNPD……だったか、そんな感じのモビルスーツが、大砲を構えた一機を後ろに下がらせた陣形を組んで直進してくる。

 

『来たわよユウヤ君、さあ、どう戦う?』

「へっ……決まってますよ、まずは!」

 

 俺はマギーさんの質問に答えるなり、両手に持たせたビームピストルで牽制を加えて、前に出ていた二機を分断する選択肢をとった。

 いかにチュートリアルとはいえ、二対一で挟まれるという状況自体がそもそもまずいものだというのは師匠の教えで理解済みだ。

 そして、ドラムガンを構えて発射してきた一機に狙いを定めて、エールストライカーのスラスターを噴かす。

 

「こいつは……こうも使えるんだぜ!」

 

 銃口の下にピンバイスで穴を空けることで、ビームサーベルの刃を差し込めるようにした、さしずめソードピストルといったところか。

 これが俺の作った武器の正体だ。

 銃としても、剣としても使える武器。正直背中のビームサーベルを持て余してる感はあるけど、まあ用途や使える距離が違うから良しとしておこう。

 

 ビームピストルの下部から発振されたビームの刃がリーオーNPDのコックピットを両断する。

 そして、もう一機が放ってきたバズーカの弾を宙返りで回避。

 すかさずピストルの連射で相手を固める。

 

「まずは試運転だからな!」

 

 即座にビームピストルを放り投げて、俺は背中のエールストライカーからビームサーベルを引き抜くと、そのままの勢いでバズーカ装備のリーオーNPDを縦に四等分した。

 使ってみてわかる。さっきはなんとなくでいってたけど、ソードピストルとビームサーベルじゃ使い心地がまるで違う。

 

『エクセレント! やるじゃない、ユウヤ君!』

「へへっ、ありがとうございます! それじゃあ最後は……!」

 

 残された、大砲を肩に装備しているリーオーNPDはビームを慌てて連射してくるが、チュートリアルだけあって狙いは散漫だ。

 これなら、ストライク焔の機動力で避け切れる。そして。

 

「さあ見せてくれよストライク焔、お前の……俺の想像を超えた力を!」

 

 一瞬、閉じた目蓋の裏に水滴が落ちるような錯覚と共に、俺はビームサーベルを納刀すると、拳を固めてそのままリーオーNPDへと突撃していく。

 ビームピストルとビームサーベルはいってみれば、布石のようなものだ。

 何故なら、俺がこいつと一緒に戦うやり方は、その切り札は。

 

「次元覇王流! 聖拳、突きぃッ!」

 

 もしかすれば、エールストライカーのおかげで空中でも安定した重心を保って、次元覇王流の技を繰り出すことができたのかもしれない。

 だとしたらログアウトした時、改めて母さんに礼を言っとくべきだろう。

 それはともかく、俺の切り札は、この拳に尽きる。

 

 コックピットに風穴を空けられたリーオーNPDはそのまま墜落し、地面に叩き落とされて爆散。残りの二機も討ち漏らした気配はない。

 

【Mission Success!】

 

 となれば、これでミッションは終わりだということだ。

 

『コングラッチュレーション! ユウヤ君、素晴らしい戦いぶりだったわ!』

「ありがとうございます! そうか……これが、ガンプラバトル……!」

 

 まだまだチュートリアルを突破しただけかもしれない。

 それでも俺は、確かに機体と、ガンプラと一体化して戦う高揚感のようなものを、それまで想像していたのとは違うリアルな感覚として実感していた。

 ぞくぞくと腕が震えて鳥肌が立つ。

 

 師匠の言葉は嘘じゃなかった。ここには確かに、想像を超えた戦いが、俺を待っていたのだから。




無事にチュートリアルを完遂しているのである!
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