メガ粒子杯に向けてやること、といってもそう簡単には思いつかないけど、とりあえず戦いの経験値を積んでおけば損はないだろう。
それが俺たちの間で交わされた合意のようなものだった。だからこうして、溜まりに溜まっていたフォース戦依頼のリストを眺めていたんだけど。
「あいや待たれい、少年!」
フォースネストじゃなくてロビーでやってたのが悪かったのか、なんかよくわからん赤いゆるキャラに話しかけられていた。
いや、なんでロビーでやってたのかって、フォースネストってデフォで支給されるやつは物凄く狭苦しいというかなんというか。
あとはマフユとの約束だな。
そんな事情はさておき、腕を組んだ三頭身の赤いゆるキャラと、その隣にいる青いゆるキャラは、俺たち三人を毅然と見据えて言い放つ。
「その方、『トライダイバーズ』とお見受けする! 我らは『度胸ブラザーズ』、オノコ兄貴の『魂太』をリスペクトしているフォースよ! なあ、青いの!」
「うむ、赤いの! 用件だが、少しばかり貴殿らの活動履歴を見させていただいた! そこで我々『度胸ブラザーズ』は、『トライダイバーズ』にフォース戦の依頼をしたい!」
ゆるキャラなのにやたらと暑苦しいテンションで、赤いの、と呼ばれていたダイバーと、青いの、と呼ばれていたダイバーはフォース戦のフリーバトル申請を突きつけてくる。
呆気に取られていたチナツと、ゆるキャラたちの外見が可愛い……可愛い? かは正直わかんないけど、見とれてたマフユは顔を合わせると、俺へと視線を向けてきた。
「どうすんの、ユウヤ? アタシは別に構わないけど」
「私も……ユウヤ君が、したいなら……いい、よ……?」
「うーん……」
一応とはいえ「トライダイバーズ」のリーダーは俺ということになってるから、現状丸投げというか、俺の一声で活動方針が決まってしまってる気がして、なんだか気が引けるけど。
「俺は……せっかく『度胸ブラザーズ』の人たちが直接会いに来てくれたんだから、それを無下にするのはよくないと思う。それに、この人たちの目を見ればわかる。正々堂々勝負がしたいって顔だ」
ゆるキャラ特有のつぶらな瞳の奥に宿っている苛烈な闘争心は、今も背筋を逆立てるようにびしびしと伝わってくる。
そんな人たちが俺たちを指名してくれたってのは、きっと光栄なことなのだろう。
だったら断るなんて選択肢はない。それが筋ってもんだからな。
「さっきも言ったけど、アタシはリーダーのアンタが受けるってんならやるわ、マフユは?」
「私も……ユウヤ君がいい、なら……」
「へへっ、ありがとな、チナツ。マフユ。それじゃあ、えっと……『度胸ブラザーズ』の赤いのさん、青いのさん! 貴方たちの挑戦、受けて立ちます!」
腕を組んで仁王立ちしていたゆるキャラ二人の宣戦布告を承諾し、俺たちもまたそれを叩き返す。
「うむ! それでこそ我々が『度胸』があると見込んだフォース!」
「君たちの『度胸』! この『度胸ブラザーズ』、正々堂々と受け止めよう!」
相変わらずゆるい見た目との寒暖差で風邪引きそうになるぐらい熱いテンションで、「度胸ブラザーズ」の二人は力強く頷く。
その名前だけに、赤いのさんと青いのさんにとっては「度胸」こそが強さであり、愛なのだろう。
俺たちのどの辺にそれを見出してくれたのかはわかんないけど、それでも、そう言われたとあったら見せなきゃいけないよな。
「是非とも胸をお借りします、赤いのさん、青いのさん!」
俺たちの、俺たちなりの度胸ってやつを。
フリーバトルの合意が成立したことで、俺たち三人はそれぞれ格納庫エリアに解けていく。
血が滾る戦いの予感に、胸を躍らせながら。
◇◆◇
『我らとの戦い、ルールは極めてシンプルだ! 三対三の武装無制限、本来我らは四人組なのだが、そちらに合わせて一人は控えに回ってもらった。さあ、君たちの度胸を我らに見せてみよ!』
フリーバトルのステージとして選ばれたのは、遮蔽物が全くといっていいほど存在しない、「機動武闘伝Gガンダム」の作中に出てくる「ランタオ島」だった。
機体の出現と同時に、ビームロープがステージ端を封鎖する。要するに、力と力でぶつかり合う小細工なしの真っ向勝負ってことだ。
いいね、頭を使うのも悪くはないけど、そういうのは嫌いじゃない。
赤いのさんと青いのさん、そしてもう一人似たようなダイバールックで現れた、多分黄色いのさんが腕を組み、どこからでもかかってこいとばかりに試合開始のゴングを待つ。
「マフユ、チナツ、行けるか!?」
「アタシは大丈夫! だけど今回は作戦も何もないわね、近距離での真っ向勝負になるわよ、マフユ!」
「……はいっ……! わ、私も……!」
俺のストライク焔とチナツのアストレイシックザールはある程度近接戦も得意にしているけど、マフユのG-エクリプティカが得意としているのは機動力を活かした撹乱と空中でのドッグファイトだ。
見た感じ近接戦に偏重してる「度胸ブラザーズ」と相性としては悪いのかもしれない。
だから、今回はマフユに普段俺が担っていた遊撃手としてのポジションを担ってもらうことにした。
俺とチナツで相手を引きつけつつ、マフユにはその時に隙ができたところを狙い撃ってもらうって形だ。
【Gunpla Battle SET READY……】
【Battle Start!】
システムのダイアログが試合開始を告げると同時に動いたのは、「度胸ブラザーズ」の方だった。
それぞれガンダムAGE-1をベースに、赤と青で塗り分けながら半身はタイタス、半身はスパローといった感じのカスタマイズが施されたガンプラが、脇目も振らずに俺たちへと突っ込んでくる。
『ゆくぞ青いの!』
『応とも、赤いの!』
明らかにバランスが悪いカスタマイズなのにも関わらず、赤いのさんと青いのさんの姿勢制御は完璧だった。
「チナツ!」
「固まってくるなら……分断するだけよ!」
俺が「度胸ブラザーズ」に遅れて飛び出すと同時に、チナツは先に赤いのさんと青いのさんが並走していることを確認した上で、二人の間に狙撃を割り込ませる。
分断からの擬似タイマン。相手が半分とはいえ格闘機だってんなら、こっちの仕事は単純明快だ。
分断された赤いのさんを狙って、俺は更にその距離を離すべくビームピストルを連射する。
ただ、当然だけど相手もやられるがままってわけにはいかないらしい。
『黄色いの!』
『応!』
赤いのさんと青いのさんの後ろに控えていた、黄色いのと呼ばれたダイバーが駆る、シェンロンガンダムとアルトロンガンダムを半身ずつミキシングしたような機体がスラスターを噴かして跳躍、俺とチナツを飛び越えるように、マフユへと襲いかかる。
「マフユ、そっち行ったぞ!」
「う、うん……!」
『一対一だ! 我がハーフナタクの猛撃、受け切れるものなら受けてみよ!』
黄色いのさんが駆る、ハーフナタクというらしいガンプラは、マフユが機体を巡航形態へと移行させる僅かな隙を狙って、アルトロン側のドラゴンハングの先端から炎を放った。
「きゃあっ……!」
『確かに一度そのフライトユニットを展開すれば君の速度には目を見張るものがある! だが、その一瞬を我々は見逃さない!』
「マフユ! クソッ、これじゃ……!」
『よそ見をしている余裕があるのか!?』
「ぐっ……!」
俺がマフユに気を取られていた隙を狙って、赤いのさんは右半身のタイタスの技、ビームラリアットを放ってくる。
ビームシールドは間一髪で間に合ったけど、赤いのさんが言ってた通り、下手をしてたらこっちがやられていた。
「ユウヤ、マフユを信じなさい!」
「……っ、ああ! サンキューなチナツ!」
マフユは確かに初撃を貰ったかもしれないけど、まだ撃墜されたわけじゃない。
だったら俺が果たすべきは一つだ。
ビームシールドでビームラリアットを防いでいる間にも体勢を立て直した赤いのさんは、左半身のスパローの部分、膝にあたるところからニードルガンを発射して、こっちを逆に牽制してくる。
「上等だ! 真っ向から打ち砕く!」
フェイズシフト装甲を信じて俺は全力でスラスターを噴かし、右の拳に全力を込めて、再びビームラリアットを放ってきた赤いのさんを迎え撃つ。
『我がレンジに飛び込んでくるとは良い度胸だ! ここからは度胸と度胸のぶつかり合い、勝負!』
「次元覇王流! 流星螺旋拳!」
パルマ・フィオキーナの光を纏った拳が高速で回転し、交錯した赤いのさんのラリアットとぶつかり合う。
ビームと、ビームを纏った拳がぶつかり合うことで火花を散らし、眩しい閃光がモニターを白一色に塗り潰していく。
まだだ、押されるな、ストライク焔。
ガンプラバトルには全ての動きに意味がある。タイガーウルフさんが言ってた通り、俺もまた考えなしに流星螺旋拳を放ったわけじゃない。
ビームラリアットを止めるだけの威力と、ヒットストップを発生させることで生じる僅かな「時間」。それこそが俺の狙いだった。
「考えるな、目だけに頼るな……感じるんだ、相手を! 次元覇王流、聖拳突き!」
『なんとッ!?』
『赤いの!』
右の流星螺旋拳で相手を食い止めている間に、左の拳で本命の聖拳突きで仕留める。
タイガーウルフさんが教えてくれたように、師匠が「想像を超えた」と言っていたように、ガンプラバトルじゃ、現実でできないようなことができる。
だからこそ、多少無茶な体勢からでも、思考補助システムやスラスターの補助とかで、聖拳突きを繰り出せたのだ。
ラリアットを繰り出したことでガラ空きになった赤いのさんのガンプラ、そのコックピットに光を纏った左の拳は正確に突き刺さっていた。
「そこね! 一気に畳み掛けるわ!」
そして、青いのさんがそれに一瞬気を取られた隙を見計らって、チナツのアストレイシックザールが光の翼を展開し、対艦刀を構えて、青いのさんのガンプラに突っ込んでいく。
『抜かったか、我がハーフスパローが……済まぬ、赤いの!』
『我がハーフタイタスも退けられたか……こちらこそ済まぬ、青いの! しかし少年、見事な度胸を見せてもらった!』
「ああ……こっちこそ、いい戦いだったぜ! 赤いのさん!」
心の底から赤いのさんに礼を言う。それでもまだ、戦いは終わったわけじゃない。
ハーフタイタスとハーフスパローを撃退したのとほぼ同時に、ボロボロになったG-エクリプティカが、翼を失った状態で地面に叩きつけられる。
空中を見上げれば、そこには残った黄色いのさんが操るハーフナタクが、ほぼ無傷で腕を組んでいる姿があった。
「ごめんなさい……ユウヤ君……」
「いや、大丈夫だ!」
「そうよマフユ、あの黄色いの相手に時間を稼いでくれたのはありがたいわ!」
四肢を失ったG-エクリプティカのコックピットで、消沈した様子のマフユは、眦に涙を滲ませながらぼそりと呟く。
だけど、チナツが言った通りだ。
当初の作戦からは外れてしまったかもしれないけど、俺とチナツが赤いのさんと青いのさんを引きつけている間に、挟み討ちにならないように黄色いのさんを食い止めてくれていたのはありがたい。
特に俺は一度赤いのさんにやられかかってたんだ。あそこでもしも黄色いのさんがフリーだったら、間違いなく撃墜されていた。
『残るはこの我一人か! だが諦めぬ! この状況から巻き返してこそ、我ら「度胸ブラザーズ」の真価というものよ!』
「いいねえ……諦めねえその闘志、どんな戦いにも立ち向かうその度胸! 尊敬するからこそ、俺たちも全力で立ち向かう! 行くぜチナツ!」
「そうね、たまにはアタシもアンタのノリに合わせるのも悪くないわ!」
対艦刀をウェポンラックに仕舞い込むと、チナツは光の翼を展開し、ハーフナタクが放ったアルトロン側のドラゴンハングを避けて突っ込んでいく。
俺もまた、スラスターを全開にしてシェンロン側のドラゴンハングを回避。
そして、後隙を晒した黄色いのさんに俺たちは、久しぶりに呼吸を合わせる形で技を放つ。
『次元覇王流! 蒼天紅蓮拳!』
『ぐわああああっ! 見事だ、「トライダイバーズ」! その度胸、しかと見届けさせてもらったぞ!』
ビームの光を纏った拳が二つ、ハーフナタクのコックピットに炸裂する。
フォースの名前通りに潔い辞世の句を残して、黄色いのさんはブロックノイズ状に解けて、セントラル・ロビーへと強制送還されていった。
【Battle Ended!】
【Winner:トライダイバーズ】
システム音声が戦いの終わりと俺たちの勝利を告げると同時に、ランタオ島の水平線に赤い夕陽が沈んでいく。
メガ粒子杯に向けて、まずは一勝ってところか。
◇◆◇
「ごめんね、ユウヤ君……私、役に立てなくて……」
「さっきも言ったろ? 気にすんなって! 今回みたいな地形じゃマフユの機動力も活かしづらかっただろうしな!」
セントラル・ロビーに帰還するなり、腰を折って何度も頭を下げてきたマフユを宥めつつ、俺は一足先に帰還していた「度胸ブラザーズ」に向き直る。
「今日はありがとうございます、赤いのさん」
「なんのなんの、こちらも良い度胸を見せてもらった! その度胸魂がある限り、君は煩悩を燃やしてどこまでも強くなっていけるだろう!」
度胸魂。よくわからないけど、たとえ強いやつを相手にしたって諦めずに立ち上がることがそうだっていうなら、俺にそんなものが備わっていることは嬉しく思う。
三等身の赤いのさんに合わせる形でしゃがみ込んで握手を交わすと、今度は青いのさんが前に出て、チナツに話しかける。
「君のあの一瞬を見切った冷静な度胸もまた見事なものだった! 煩悩を凍らせ、心は熱く、頭脳は冷たく立ち回るのもまた度胸!」
「うむ! マフユ君もまた、必死にこの黄色いのを食い止めていたのは度胸魂そのものだ! 落ち込むことはない!」
青いのさんに追従する形で、黄色いのさんもまた、マフユの健闘を心の底から讃えていた。
竹を割ったような、っていうのはこういう人たちのことを指すんだろうな。
見てるとこっちまで清々しくなってくるぐらい、「度胸ブラザーズ」の人たちは潔い。
「そういえば、風の噂で君たちはメガ粒子杯に出場すると聞いたが、本当か?」
「はい! 俺とチナツは出るつもりです!」
「ははは! 良い……良い度胸魂だ! 君たちが優勝できるように、我々『度胸ブラザーズ』からもエールを贈らせていただこう! グッドラック、『トライダイバーズ』!」
「ありがとうございます!」
俺たちに激励の言葉を残すと、赤いのさんたちは、体を捻りながら歩くような独特のステップで、群衆に溶け込んでいく。
なんていうか色々潔くて、濃い人たちだったな。
「メガ粒子杯……負けられねえな」
「ええ、そうね……」
応援してくれる人がいるのは嬉しいけど、同時に少しだけプレッシャーに思うところもある。
それでも、誰かが応援してくれているという事実は、どんなに重くても背負っていくしかないのだ。
「……大丈夫……チナツさんと、ユウヤ君ならきっと、大丈夫だ、よ……?」
「ありがとな、マフユ」
「……私も、落ち込んでたところを励ましてくれて、その……ありが、とう……」
こうして改まって本音をぶつけ合うのは少しだけ恥ずかしいところもあるけど、事実は事実なんだから感謝の気持ちは口に出した方がいい。
師匠と、母さんの教えだ。
マフユはしばらく顔を赤らめて耳まで真っ赤になっていた。
そして、チナツがそんなマフユを見つめている俺を一瞥しら呆れた様子で肩を竦めて溜息をつく。
いつも通りの光景が、「トライダイバーズ」の日常が、そこにはあった。
チャレンジャーである度胸を胸に