『ヒャッハハハハ! お前ら全員、まとめて俺のダイバーポイントになりやがれぇ!』
ブレイクデカールによって異形の姿と化したシャア専用ザクが、欲望のままにマシンガン……と呼ぶにはあまりにも威力が凶悪すぎる代物を撃ち放つ。
冗談でもなんでもなく、大砲が秒間何発単位でぶっ放されてるようなものだ。
弾のサイズも大型化している都合、でたらめに撃ち放たれたそれは、ヴァルガの大地に無数のクレーターを穿つ。
「きゃあっ……!」
「くっ、なんて威力……!」
「大丈夫か!? マフユ、チナツ!」
とはいえ、こっちの状況も芳しくない。
ブレイクデカールのせいなのか、衝撃の余波だけでも結構なダメージをもらっている。
化け物じみた攻撃の威力と、そしてFOEさんのフルバーストを食らっても何故か生きている化け物じみた耐久力。控えめにいっても絶望的だ。
──けどな。
『ヒャッハハハハ! 二つ名持ちが、ハイランカーがなんぼのものよ! これがブレイクデカールの力だ!』
『……ふざけた手段で粋がっているようだが、終わりにさせてもらう』
『応とも……拙者の前でそのようなものを使ったこと、後悔させてやろう』
「ああ! まだやれるよな、ストライク焔!」
バーニングバーストシステムの効果は既に切れているけど、問題はない。
確かにあのシャア専用ザクの見た目と性能は化け物なのかもしれない。
でも、あいつからは、アズサさんと戦っていた時に、FOEさんと一瞬拳を交えた時にビリビリと伝わってきたプレッシャーが感じられなかった。
とどのつまり、あのマスダイバー、機体はともかくダイバーの腕は大したものじゃないってことだ。
冷たく言い放ったFOEさんは、最低限の動きでザクマシンガンを回避し、直撃弾はGNフェイダトンファーで斬り裂くという離れ技を見せてから、アズサさんと一緒にシャア専用ザクの膝関節を切断した。
それによってバランスを崩したマスダイバーの隙を突く形で俺はストライク焔を急上昇させ、スラスターを全開にしてガラ空きの胴体に突っ込んでいく。
「次元覇王流! 聖槍蹴り!」
異形と化したシャア専用ザクの胴体に、落下速度とスラスターの速度を乗せた巨大な質量弾と化したストライク焔が突き刺さり、貫通する。
いかに強力に見えるマスダイバーといったって、戦いようはいくらでもあるってことだ。
だけど、どうしてか手応えがない。
聖槍蹴りは確実に決まったはずだった。
FOEさんとアズサさんは確実にあのシャア専用ザクの膝関節を斬り落としていたはずだった。
なのに、まるで倒した手応えがないのはどういうことなんだ?
『ヒャハ……ヒャッハハハハ! 残念だったな! テメェらの攻撃なんか……意味ねえんだよ、バアアアアアアカ!』
その答え合わせをするように、マスダイバーが不快な高笑いを響かせる。
「ユウヤ君、あの機体の脚が……!」
「脚だけじゃないわ、胴体も!」
「嘘だろ……!?」
マフユとチナツが口にした通り、破壊したはずの膝関節から下が、そして俺が風穴を開けたはずの胴体が、まるで肉が寄り集まっていくように、うねうねと再生していく。
なるほど、FOEさんのフルバーストを受けても無事だった理由はそういうことか。
あれだけ研ぎ澄まされた攻撃でも、ほとんど即座に再生してしまう辺り、こいつは今までのマスダイバーとは一味も二味も違うってことだ。
『恐れる必要はないよ』
だけど、FOEさんはその現象を見ても表情一つ動かすことなく、自分の中に確信を持った声音でそう言った。
「えっと……FOEさん?」
『……僕のダイバーネームは「キョウスケ」だが、君がそう呼びたいなら構わないよ』
「すいません、キョウスケさん……それで、恐れる必要はないって?」
『あの再生能力は確かに目を見張るものがあるかもしれない……だが、攻め続けていれば相手は後手に回らざるを得ない。攻撃の手を緩めないことが最も効果的だ』
要するに、再生速度を上回る勢いで攻撃を叩き込み続ければ、倒す見込みはある。
FOEさんは淡々と告げると、GNロングレンジキャノンを、再生中のシャア専用ザクへと撃ち放った。
再生能力が付いただけで、基本的には死ぬまで殴ればいつかは死ぬ。確かにシンプルでわかりやすい。
だけど、ここにいる五人だけでそれだけの密度を保った攻撃を続けられるのか。特に損耗している俺たちやアズサさんは厳しいだろうと、そう思った刹那。
『ふふ……IFSプロージョン、フルドライブ。IFBR、発射』
『何ぃぃぃぃっ!?』
天から虹を纏った透明な光としか形容できない強烈な一撃が、マスダイバーへと降り注ぐ。
レーダーを確認、そしてモニターに映るその影は、虹の光を纏うG-セルフのカスタムモデルと思しきものだった。
通信ウィンドウの向こうで、ゴシックな黒和装に身を包んだ女の子が妖艶に笑う。
その虹に集うかのように、レーダーが捉えた無数の光点がマスダイバーを目指して殺到し、攻撃を加えていく。
『ユユか』
『ふふ……お兄様がお困りのようでしたので……』
『助かるよ、あれだけの再生能力だ。手数は多い方がいい』
再生する傍から破壊されていくシャア専用ザクに、相変わらず容赦のないフルバーストを見舞いながら、キョウスケさんはユユ、というらしいあのG-セルフのカスタムモデルを操るダイバーと言葉を交わしていた。
お兄様、と呼ぶということは、あれだけの一撃を放ったユユってダイバーは、キョウスケさんの妹に当たるんだろうか。
だとしたら、あの人たちは兄妹揃って『高み』まで上り詰めているということになる。
本当に化け物と呼ぶべきは、あんな紛い物の力を手に入れて粋がってるようなやつじゃない。
本物の力をその手にしたやつをこそ、そう呼ぶべきなのだろう。
改めて自分がどれほどの相手と出会ったのかを考えると、武者震いが背筋をぞくりと駆け抜けていく。
「俺たちも負けてられねーな……いくぜ、マフユ、チナツ!」
「はい……っ!」
「当然よ! ブレイクデカールなんてもんに手を出したこと、百万回は後悔させてやるんだから!」
ユユさんが連れてきたダイバーたちに加勢して、俺たちもまたマスダイバーが操る異形のシャア専用ザクに攻撃を加えていく。
マフユはビームライフルとヴェスバーを、チナツは引き抜いたアロンダイトによる斬撃を、そして俺はいつも通りに。
「次元覇王流! 流星螺旋拳!」
多段ヒットの性質を持っている流星螺旋拳で、再生していくその傷口を抉るように、倒れ伏したシャア専用ザクの右腕を殴りつけた。
『クソッ! なんなんだよ!? ブレイクデカールは無敵じゃなかったのかよ!?』
『無敵……? そんなものはありえない。まやかしの力に縋っているだけのマスダイバーなど、僕たちの敵ではない』
通信ウィンドウ越しに頭を抱えて苦悶の表情を浮かべるマスダイバーへキョウスケさんは容赦なく通告すると、再生がとうとうダメージに追いつかなくなって、段々と異形の姿を維持できなくなっていたシャア専用ザクに、GNフェイダトンファーのラスターエッジを展開して斬りかかっていく。
キョウスケさんだけじゃない。アズサさんが、ユユさんが、チナツが、マフユが。
そして俺もまた、今できる全力を尽くして、こいつをここで仕留めようと最大の火力をコックピットに向けて叩き込む。
「これで……っ……!」
「終わりに!」
「して、やるぜ! 次元覇王流……聖拳突き!」
『バカな、そんなバカなああああっ!』
悪夢を見たような表情でマスダイバーがそう叫ぶと、異形のザクは元の旧キットの姿に戻って、炎の華をヴァルガの戦地に立ち上げた。
汚ねえ花火だ。
どっかの漫画で読んだ言葉が脳裏をよぎるけど、もういい。マスダイバーは仕留めたんだから、あとはアズサさんとの決着をつけて、ヴァルガから帰還するだけだと、そう思っていた、その時だった。
『へへ……そうだよなぁ、化け物に対抗するんだったら、こっちも化け物になんなきゃダメだよなぁ……!』
『トップランカーっていっても消耗した直後なんだ、万全には動けないはずだよな?』
『騙して悪かったな、ユユちゃん。でもヴァルガじゃ裏切りも合法なんだぜ』
ユユさんが連れてきたダイバーたちの一部が不穏なことを呟いたかと思えば、再びヴァルガの空に嵐が吹き荒れ、そのガンプラが紫色のオーラを纏う。
どうやら味方面していたマスダイバーが、ユユさんが連れてきた中には紛れ込んでいた──と、いうよりは、その大半だったといってもいい。
あのシャア専用ザクがブレイクデカールを使ったときよりも凄まじい余波がヴァルガの廃墟都市を覆い、バケツをひっくり返したような雨が降り注ぐ。
『すまぬな、君たち……拙者と「戦国ファントム無頼」はここまでのようだ……』
「アズサさん!」
元々限界状態で稼働させていたせいもあってか、アズサさんのガンプラは、戦国ファントム無頼は各部関節がスパークした状態で尚も膝を突くことはなかった。
だけど、機体は明らかに地面に突き刺した刀にもたれかかっていて、本人の言葉通りにそれは、もうまともに立てるような状態じゃないことを、限界なのだということを何よりも雄弁に物語っている。
俺との戦い、キョウスケさんとの戦い、そしてマスダイバーとの戦いで蓄積されたダメージは、機体が動いているのが不思議なレベルだ。
『無念だが、拙者はバトルアウトする。また相見えた時まで、決着は預けたぞ……!』
「ああ、その時は誰にも邪魔されずに戦いましょう、アズサさん!」
テクスチャが解けてセントラル・ロビーへと帰還していくアズサさんを見送って、俺はマスダイバーたちを睨みつけ、拳を固める。
とはいえ、俺たちだって状況は似たようなものだ。ストライク焔のコックピットにはレッドアラートが鳴り響いているし、通信ウィンドウ越しに見えるマフユとチナツのコックピットも赤く染まっていた。
だとしても負けたくない、その意地が、その理由が、たったそれだけの強がりが、まだヴァルガの大地にストライク焔を立たせている。
全く、倒したと思ったら湧いてくるとか、勘弁してほしい限りだ。
マスダイバーは一人見かけたら三十人はいると思った方がいいのか──心の中でそう強がって、ピンチを笑い飛ばして、俺は目の前にいたグスタフ・カールに殴りかかる。
「おおおおっ! 次元覇王流……流星螺旋拳!」
『バカな、瀕死のやつにどうしてこんな力が……!』
なるほどな。
グスタフ・カールが偶然とはいえ一撃で爆散したことで、俺は一つの確証を得た。
どんなにブレイクデカールでステータスを強化していようと、コックピットを貫通するだけの攻撃は防げない。そして、コックピットを貫通した時、多分中のダイバーにダメージがいって、撃墜判定が下りるのだろう。
ちょっと違うかもしれないけど、怪我の功名ってやつだ。
マスダイバーの弱点がわかったのなら、あとはもう気合と根性で戦い抜くしかない。
「チナツ、マフユ! コックピットだ、敵のコックピットを狙え!」
「ああ、そういう……わかったわ! マフユはまだやれそう!?」
「……頑張りま、す……っ!」
次々と、嵐のように襲いかかってくるマスダイバーたちには、やっぱり恐怖を感じなかった。俺でさえこうなのだから、キョウスケさんやユユさんは尚更なのだろう。
『裏切り……? ふふ、そんなこと、ユユは最初から織り込んでいますよ……?』
『うおおおーっ!』
グフイグナイテッドが、IFBRと対をなす武装……恐らくIFBSに焼かれて爆発四散する。
『ここまでブレイクデカールが広がっているとはな……だが、僕の前でそんなものを使ったのなら、容赦はしない……!』
『ぶべらっ!?』
GNフェイダトンファーでの打突から刺突というコンボを食らって、コックピットにラスターエッジを突き立てられたターンXがテクスチャの塵になる。
案の定というかなんというか、あの兄妹は消耗した様子も見せずに静かな怒りを胸に抱いて、マスダイバーを次々と撃破していた。
『アリム、お前、ブレイクデカール持ってるって話じゃ……!』
『へっ、バーカ! どうせお前らがマスダイバーだと見てついた嘘に決まってんだろ。誰がそんな戦いを汚すもんなんか使うかよ……!』
『ぬわーっ! だけどフーラーちゃんにやられるなら本望……!』
『ふざけんな……ブレイクデカールなんてもん、二度とあたしの前で見せんな!』
一人のマスダイバーから伝播した悪意を断ち切るかのように、ユユさんが連れてきたダイバーたちの一部、ブレイクデカールを忌み嫌っていた人たちは的確にコックピットを突き刺して、マスダイバーを屠っていく。
俺もそれに倣って聖拳突きをグフカスタムのコックピットにぶち込んだ、その時だった。
「危ねえ!」
ベースがリボーンズガンダムか1.5ガンダムかわからないけど、SDガンダムワールドヒーローズシリーズの装飾パーツで飾られたその機体に、背後からミラージュコロイドを展開していたNダガーNが斬りかかろうとする。
俺は慌ててオープンチャンネルで警告を送っていたけど、間に合うかどうか──
『無問題! このリンファとズィーロンワンには……最初っから見えているもの!』
モーマンタイ?
多分中国語だったと思う言葉で返してきた、リンファというらしいダイバーは言った通りにNダガーNの接近に気付いていたらしく、くるりと踵を返してその一撃をマスダイバーに叩き込んだ。
『破ッ!』
『なんだ!? ブレイクデカールで強化されてるはずのVPS装甲で止められない!?』
「この攻撃……八極拳か!?」
『是! 若干アレンジ入ってるけど……ね!』
『嘘だろ、何が起きてる!?』
リンファさんは俺の問いかけを肯定すると、NダガーNを始末して、今度は向かってきたガブルに向けてその一撃を──発勁を打ち込む。
NダガーNの時同様、装甲を浸透してコックピットまで伝わったであろう衝撃に、ガブルを操っていたマスダイバーは、何が起きたのかもわからないままテクスチャの塵へと還っていく。
そうして、キョウスケさん、ユユさん、アリムさん、フーラーさん、リンファさんに次々とマスダイバーは片付けられて、気付けば残っているのは俺の目の前にいるソードインパルスだけになっていた。
『バカな、こんな……ブレイクデカール使いを50人近く集めて、こんなことが……』
「言い残すことはそれだけか? なら終わりにしてやる! 次元覇王流──」
『破ッ!』
後退りをしたソードインパルスに、蒼天紅蓮拳を放とうとした刹那、リンファさんの声が響き渡る。
そして、敵機の真横から叩き込まれた寸勁が、マスダイバーを打ち砕いた。
「何のつもりだ?」
俺はそこまで血に飢えたバトルジャンキーってわけじゃない。ただ、目の前の相手を掻っ攫っていくというのは明確な挑発だ。
リンファさんを睨みつけて、俺は問いかける。
『アナタ、「トライダイバーズ」のユウヤでしょう?』
「ああ、そうだぜ。それとさっきの横取りに何か関係でもあんのか?」
『あるといえばあるし、ないといえばないわ。アナタ、今度のメガ粒子杯に出るつもりでしょう?』
「それがどうした?」
『改めて名乗るわ。リンファ。劉凜風よ。こっちの世界じゃ本名を名乗るのはマナー違反だったかしら? まあいいわ。さっきのは挨拶がわり、何故ならこのリンファも、メガ粒子杯に出場するつもりだもの』
──そこでアナタを、このリンファが、次元覇王流を完膚なきまでに叩きのめすわ、ユウヤ。
リンファは俺のストライク焔を指差すと、そう宣言してセントラル・ロビーへと解けていく。
「上等だぜ、受けて立ってやる……!」
挑発に乗るのは馬鹿馬鹿しいことかもしれないけど、ここまでやられて黙っているのもまた不甲斐ない。
あんな重装甲とブレイクデカールを掛け合わせた鉄壁の防御を貫くほどの拳を持ってるんだ、格闘家としちゃ花丸満点かもしれないけど、その挑発行為だけはいただけないな。
「ユウヤ君、その……大丈夫……?」
「ああ、心配すんなって、マフユ」
勝つのは俺と、次元覇王流だからな。
俺は静かに怒りを燃やしながら、マフユの問いにそう答える。
ようやくマスダイバーが全滅したことで、元の曇天を取り戻したヴァルガから、俺たちは帰還を選択してセントラル・ロビーへと解けていく。
リンファ。突如として次元覇王流に強烈な宣戦布告をしてきたその名前を、強く心に刻みながら。
好敵手現る
Tips:
・アリム(「X2愛好家」様作「GBN:ダイバーズコンピレーション」より)……自称、戦争の天才。しかしその自称に見合った実績を傭兵として積んできており、その実力は極めて高い。戦場に応じて機体を複数使い分け、そのどれをも乗りこなす凄腕のダイバー。フーラーとはよくいがみ合っている。
・フーラー(「青いカンテラ」様作「サイド・ダイバーズメモリー」より)……ヴァルガを拠点として、配信活動も行っている少女。口は少々悪いものの、その戦闘技術はステルスを気配で察知するほど高く、またその振る舞いから独特なファンが多い。アリムとはよくいがみ合っている。