「次元覇王流! 蒼天紅蓮拳!」
『まさかこのワシを、超えていくつもりか!?』
「ああ、そうさ……俺はあんたを、立ちはだかる強敵たちを超えて、優勝を勝ち取ってみせる!」
『ふっ、なんという心意気……ワシは心でお主に負けておったか……』
【Battle Ended!】
【Winner:ユウヤ】
メガ粒子杯バトルカイ、最終予選。
第三回戦を勝ち抜いた後、一騎討ちに最適化された荒野で俺は、最後の相手になったマスターガンダムを討ち倒していた。
『決まったああああ! 決まりました! 「ユウヤ」選手、メガ粒子杯バトルカイ、一番乗りで本戦進出決定です! 長き時を経てGBNに蘇った次元覇王流の申し子は、本戦でどんな活躍を見せるのか! 背中がむずむずしてまうけど、これからもその活躍に目が離せませんわ!』
実況のミスターMSが、勝利のゴングを鳴らす代わりに叫ぶ。
色々と頭を使う戦いも嫌いじゃないけど、やっぱり戦うんだったら正々堂々、正面からやり合うのが一番気持ちいい。
そんなこんなで本戦進出一番乗りを果たして帰還したセントラル・ロビーでは、マフユがライブモニターの前で待ってくれていた。
「ユウヤ君、おめでとう……!」
「へへっ、ありがとな、マフユ!」
「本戦進出……Cランクに上がったばかりなのに、それだけのことをしちゃうのは、ユウヤ君の実力だよ……!」
「いやいや、マフユがストライク焔のブラッシュアップを手伝ってくれたおかげだって!」
マフユは眦に涙を浮かべながら、感極まったようにそう言ったけど、実際、ストライク焔をブラッシュアップしてなかったら危ない戦いもあった。
特に三回戦、ファンネルを巧みに使いこなしていたキュベレイを相手にした時は、こっちのフィジカルが強化されてなければ弾幕に耐えきれずやられてただろうからな。
もちろん俺だって全力を尽くしたつもりだけど、マフユたちが面倒を見てくれたストライク焔のパワーアップ効果は予想以上に大きかったってことだ。
「そんな……私なんかが、ユウヤ君の役に立ててるなんて……」
「なんか、じゃないさ! マフユがいてくれたから、ストライク焔を見てくれたから……応援してくれたから、俺だって頑張れたんだ!」
一人で強さを突き詰めていく道もある。
仲間たちと手を取り合って強さを突き詰めていく道もある。
どっちの道も険しいけど、もしも強さの深みにはまって無明に堕ちそうになったその時、支えてくれる誰かがいることだけは忘れちゃいけない。父さんの、師匠の言葉だ。
俺はまだ、俺の中にある「強さ」の意味を言葉にすることができないかもしれない。
だけど、マフユがいてくれたから、チナツがいてくれたから、そして、ガンプラバトルの道に誘ってくれた師匠が、俺にガンダムを見せてくれた母さんが、GBNで出会ったトッドさんやキョウヤさん、トワさん、タイガーウルフさん、アズサさん──色んな人がいてくれたから、俺はこうしてここにいることだけはわかる。
縁が持つ力ってやつなのかもしれない。とにかく俺は、まだまだ一人前とはいえないかもしれないけど、その分多くの人に支えられている。そのことだけは、きっと忘れちゃいけないんだ。
「ストライク焔の面倒見たの、マフユだけじゃないわよ」
「チナツ! ここにいるってことは……」
「ええ、アタシも本戦進出よ」
「わぁ……二人とも、おめでとう、ございます……!」
「ありがと、マフユ。あとは決勝戦で決着つけようじゃないの、ユウヤ」
チナツはふふん、と小さく鼻を鳴らすと、相変わらずデカいツインテールを掻き上げて、俺に宣戦布告を突きつける。
最初に戦ったときは俺が必殺技を持っていなかったこともあって、いってみればあいつは飛車角落ちで戦ってくれたようなものだ。
だからこそ、今度こそ互角の条件で優勝を競い合う。その提案は悪くない。
「ああ、チナツ! 俺と当たるまで負けんなよ!」
「そのセリフ、そのままそっくりお返しするわ」
「あら、もう勝ったつもりでいるの? お気楽ね」
チナツと約束を交わし合うように拳を突き出したその時、水を差すように勝ち気な声がセントラル・ロビーに響き渡る。
薄いピンク色、ストロベリーブロンドの髪に金色の瞳を持つそいつの顔を、俺が忘れるはずもない。
「リンファ……劉凜風か!」
「是。いかにもリンファはリンファよ。そこにいる子との約束もいいけど……このリンファの言葉、忘れたわけじゃないわよね?」
俺と次元覇王流を、完膚なきまでに打ちのめす。
そんな啖呵を切ってきたんだから、忘れようとしたって忘れられるものか。
「ああ、覚えてるぜ……だけどな、勝つのは俺とストライク焔……そして次元覇王流だ!」
「威勢がいいわね、嫌いじゃないわ。でも……アナタは一つ勘違いをしてる」
「勘違い?」
おうむ返しに言葉が口をついていたけど、俺のどこに勘違いがあるというのか。
確かにリンファは拳法家としては超一流だ。どれだけ態度がデカくたって、それだけは俺もちゃんと認めている。
それに、あの1.5ガンダムかリボーンズガンダムをベースにしたズィーロンワン。
可動域が拳法を使うことを前提に拡張されていながらも、八極拳の激しい衝撃にも耐えられる剛性を失っていない。
ガンプラだって一級品だ。
「戦いというのは歴史の積み重ねよ。それはガンプラバトルもそう。アナタが次元覇王流を背負っているのなら、リンファは中国拳法の歴史を背負っている。その重みの違い……本戦でわからせてあげるわ」
「次元覇王流はできて日が浅い……だから拳法としちゃ未熟だって言いたいのか?」
「是。わかってるじゃない」
なるほどな。確かにその考え方には一理あるかもしれない。
伝統というのは、歴史というのは、それだけ多くの人が支え、創意工夫を重ねてこの現代まで受け継がれてきたものだ。
そういう意味じゃリンファが使う拳法の歴史は長く、重い。
けどな、歴史の長さだけで勝敗が決まるってんなら、それこそ勘違いだ。
「次元覇王流はできて日が浅い拳法かもしれねえ……けどな、開祖や師匠が、俺の兄弟子たちが血の滲む思いで磨き上げてきたのは一緒だ。歴史の長さが、勝敗を分かつ絶対条件じゃないってこと、こっちこそ教えてやるぜ!」
「ふうん……それは楽しみね。それじゃあ決勝戦でアナタがその思いを見せてくれること、リンファは楽しみにしてるわ」
リンファはそれだけ言い残すと、つかつかと踵を鳴らして去っていく。
強いけどいけ好かないってのはこういうことをいうんだろうな。俺自身はともかく、師匠たちが紡いできた次元覇王流に喧嘩を売られたってんならこっちも黙っちゃいねえ。
「何よアイツ……アタシは眼中にないってわけ? ムカつくわね」
「全くだぜ。だけどチナツ、リンファの実力は大口を叩くだけあって折り紙付きだ」
「それはわかってるわ。アタシもG-Tubeのアーカイブに残ってた試合は見てるもの。だけど、勝つのはアタシよ」
絶対にアンタと一緒に決勝戦に勝ち上がってやるんだから、と、チナツは、リンファが去っていった方向を一瞥すると、腕を組んで唇を尖らせる。
その自信が、闘志が、おそらくはチナツのモチベーションになっているのだろう。
自信がある、というと大きく聞こえるかもしれない。だけど、誰よりまず自分を信じられなかったんじゃ、勝負の舞台に上がる前に負けている。
要は気持ちの問題だ、っていうと今度は軽く聞こえるかもしれないけど、どんな時でも、例えピンチに追い込まれても強い自分をイメージして、重なり合うように戦う。
それこそが戦いには肝要なのだ。
「二人は……強いね……」
「マフユ?」
「私は……怖くて、メガ粒子杯から逃げちゃったから……なんだか情けなくて」
リンファと舌戦を交わしていた俺たちを俯瞰するようにそう呟くと、申し訳なさそうに丈の余った袖で、マフユは顔の半分を覆い隠す。
怖くて逃げた、か。
マフユ自身が認めてるってことはそうなんだろう。そこについて、俺は触れない。けどな。
「それを認められてるってことは、まず一歩強くなったってことだぜ、マフユ」
「ユウヤ君……?」
「逃げていることを認めるのは、勇気がいることなんだ。だから、それを認めて自分と向き合ってるマフユは偉い。誰がなんて言ったとしてもな」
「ふん……ユウヤにしては珍しく意見が合うじゃない。そうよマフユ。マフユがどう思ってるかはわからないけど、ありのままの自分を認めるってね、難しいことなのよ」
認めたくないことの一つや二つは誰にだってあるし、思い通りにいかないことなんてそれ以上に莫大だ。
それでも、上手くいかない中で、認めたくないことがある中で、まずそんな上手くいかない自分を、認めたくない自分を認めてやるっていうのは、いってしまえばそれも一つの「強さ」に他ならない。
「ぐすっ……ありがとう……ユウヤ君、チナツさん……」
「一歩一歩でいいから、マフユがもし今より強くなりたいってんなら積み上げていこうぜ。その時は、今まで手伝ってくれたお礼に、俺も手伝うからさ!」
「アタシもよ。ま、メガ粒子杯が終わってからになっちゃうけどね」
涙を零しているマフユを宥めるようにチナツの手が、綺麗な黒髪を梳くように優しく撫でる。
そして、俺たちがそんなことをしている間にも予選は終わっていたようだ。
ライブモニターに投影されている映像が、バトルから特別席に切り替えられる。
『さあ、泣いても笑っても最後の最終予選! 見事に本戦進出の切符を勝ち取ったのは……何の因果か次元覇王流と深い関わりを持つガンプラを、トライバーニングガンダムのカスタムモデル、リバースブリザードガンダムを使う新進気鋭のダイバー「コドウ」はんでっせ!』
歓声がセントラル・ロビーに響き渡ると同時に、「コドウ」というらしいダイバーの姿と、あのリバースブリザードガンダムの姿が大写しになる。
なるほど。あいつ、コドウって名前だったのか。
本戦で当たるかどうかはわからないけど、覚えておかなきゃな。そしてできれば拳を交える機会があることを、乱数の女神様に祈っておくのも忘れない。
『これで本戦に進出したダイバー八名が見事に決定されたわけですが……ここからは皆さんお待ちかね! 本戦トーナメント表決定の時間でっせ! まずはAブロック!』
ミスターMSがMCと共に、昔のGPD大会で使われていたのを模した抽選機にかけられていた布を取り払って、ハロボタンに拳を打ち付ける。
『おっと、これはぁ!? Aブロック一回戦、拳法使いは惹かれ合ってまうのか! 一番乗りで本戦進出を決めた期待のホープ、「ユウヤ」選手と対峙するのは本戦最後に進出を決めた「コドウ」選手!』
「っしゃあ!」
早速お祈りの効果が出てくれたことに感謝しつつ、俺は気合を入れ直すように、右の拳を左の掌にぱしん、とぶつけた。
あの「コドウ」ってダイバーと、リバースブリザードガンダムは強敵には違いないかもしれない。
だからこそ、わくわくしてくる。血が滾る。早速本戦が楽しみになってきやがった。
『続いてはBブロック! 知る人ぞ知る、蠱惑の中性的な容姿を持つ可憐なダイバー、「カール」選手と、射撃、格闘……どれか一つに偏ることのないバランスが整った攻撃が特徴の「ヤマモト」選手!』
カールって、女の子っぽい見た目をしてるやつは確か、ラピッドジュアングとかいうガンプラを使ってたダイバーか。
AブロックとBブロックが決まったということは、俺とチナツは必然的に決勝で当たる可能性がある組み合わせになったってことだ。
そのことに気づいたのか、ふふん、と小さく鼻を鳴らしたチナツも上機嫌のようだった。
『続いてはCブロック! まずはティアラと大きなツインテールが可憐なオールラウンダー「チナツ」選手! いやー、無許可でMS少女を作りたなる、魅惑的なお顔やな……と、こほん! さっきのは冗談だとして、相対するのは今大会、唯一スナイパーとして本戦進出を果たしたクールビューティー、「シーズン」選手でっせ!』
「チナツ、お前の相手スナイパーだってよ」
「ふん、上等よ。アタシも狙撃には心得があるんだから……にしてもあの司会、褒めてるんだろうけど気持ち悪いわね……」
「……まあ、本音だっただろうからな」
「……確かにあの人、きもちわるい……」
チナツがこのGBNでもリアルでも、いわゆる美少女とか美人とか、そういう部類に含まれてるのは俺でもわかる。
師匠の、父さんの姉さんがモデルをやってたこともあって、その遺伝なのかもしれない。
だけど、無許可でMS少女を作りたいとか公然と言われたらドン引きもいいところだ。
俺たちがドン引きしてたのはお構いなしとばかりに、司会のミスターMSは、最後のブロックになるDブロックの組み合わせを、拳を天高く突き上げながら発表する。
『残るは最終、Dブロック! もう顔触れ的にはわかってまうけど、全力で発表させていただきまっせ! まずは新進気鋭! Cランクでありながら伝統ある中国拳法でこの戦いを勝ち抜いた猛者、「リンファ」選手! そして、その対戦相手は全てをねじ伏せる圧倒的な超火力でのし上がってきた「ヤヨイ・モモ」選手ですわ! いやー、豪勢な組み合わせでんな! しかぁし! 勝つか負けるかがどうしても決まってしまう勝負の世界は非情! 強豪目指した新星が集い、どうなるかがわからないメガ粒子杯本戦は、明日から開催でっせ!』
──見応えバッチリなこの戦い、是非とも応援するダイバーたちは刮目してくださいな!
ミスターMSがその言葉で予選大会を締め括ると同時に、盛大な拍手がセントラル・ロビーに響き渡る。
「明日からか……わくわくしてきたな!」
「ええ、そうね……G-Tubeでアーカイブを確認して、相手がどんな戦術で攻めてくるのかをちゃんと研究しないと」
「私は……応援しかできないけど、二人を精一杯応援します、ね……!」
顔を赤らめ、丈の余った袖の中で両の拳をマフユは静かに固めてそう言った。
気合十分ってところだな。
「ありがと、マフユ。それじゃあ決勝で会いましょ、ユウヤ。それまで絶対に負けるんじゃないわよ!」
「ああ、そんなつもりはさらさらねえ! 全力で……全力でぶつかって、決勝の舞台でお前と戦う!」
組み合わせ的に、リンファと当たらないのは不完全燃焼だといえば不完全燃焼だけど、チナツが俺の代わりにやってくれるだろう。
一応チナツも次元覇王流は習ってるからな。それに、小さい頃にはよくやってた俺との組み手で、拳法家との間合いの図り方はよくわかってるだろうしな。
メガ粒子杯バトルカイ、本戦。強敵たちと拳を交える予感に胸を高鳴らせながら、俺もまた対戦相手の研究と、ストライク焔の微調整をするべく、ログアウトして現実に解けていくのだった。
激闘が始まる