ガンダムビルドダイバーズ:トライ   作:守次 奏

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ニュータイプの修羅場が見られるので初投稿です。


Ep.33「乙女たちの小戦争」

「狭い本戦のステージで、スナイパーが狙ってくるのは一つ……!」

『……』

「出力を絞り込んだ、ワンショットキル!」

 

 メガ粒子杯バトルカイ、本戦二日目。Cブロックに配置されていたチナツを応援するために、俺とマフユはセントラル・ロビーのライブモニターから、その戦いを眺めていた。

 チナツの相手になっている「シーズン」というらしいダイバーは、クロスボーンガンダムにレドームユニットを増設して、バレルが二つあるスナイパーライフルで武装した、純粋な狙撃手といった風情だ。

 だからこそ、チナツの見立ては間違っていなかった。

 

 出力を絞り込んで、弾速と貫通力に特化させたビームが、アストレイシックザールの頬を掠めて宙に消えていく。

 初撃を外したスナイパーを見逃すまいと、チナツは右手に持ったビームライフルと、左のウェポンラックに接続されているロングビームライフルで、相手のスナイパーを狙い撃った。

 

「これでぇっ!」

『……まだ!』

「避けられた!?」

 

 ただ、相手も伊達にクロスボーンガンダムをベースの機体として選んだわけじゃないらしい。

 無茶な体勢から、フレキシブル・スラスターの推力で強引にチナツの一撃を回避すると、絞り込んだビームを放っていた上の銃口からじゃなく、下の銃口から実弾を放つ。

 多分だけど、徹甲弾だ。

 

 弾速に優れているそれは見事にアストレイシックザールのロングビームライフルを射抜き返して、小規模な爆発が起きる。

 

「きゃあああっ!」

「チナツ!」

「チナツさん……!」

 

 俺たちの言葉がモニターの向こうのチナツに届くことはない。わかっていても、そう叫ばずにはいられなかった。

 恐らくは狙撃を返されるリスクが消滅したアドバンテージを活かすために、相手のクロスボーンは、左肩に接続されているユニットから三基の実体弾を発射する。

 ミサイルか? それにしては剥き出しで危ない武装配置だけど。

 

 マフユにあれが何であるのかを訊くより先に、これが答えだとばかりに一定距離を進んだ弾頭が自動的に爆発し、凄まじい閃光がモニターを白く塗り潰す。

 ──閃光弾か。

 目眩しは古典的だけど戦術としては有効だ。恐らくはチナツも警戒はしていたのかもしれないけど、目をやられたのか、シックザールの動きは鈍っていた。

 

『……この隙は逃がさない、確実に仕留める』

 

 閃光弾に混ざって、煙幕弾も配置されていたのが中々にいやらしい。

 煙幕に混じってキラキラと光る何かが見えるところから考えると、あと一つは、恐らくジャミング弾か。

 二重三重に罠を仕掛けて、狙撃で倒す。スナイパーの常套手段だ。

 

「チナツ! こんなところで負けんなよ!」

「チナツさん……頑張って……!」

 

 届かないとわかっていても、俺たちは声を張り上げて、煙幕の中で戸惑っている様子のチナツを激励する。

 ここで負けたら、決勝で会おうって約束はどうなっちまうんだ。

 それに、マフユだって一生懸命に応援してくれている。だから絶対諦めるんじゃねえぞ、チナツ。

 

 最善の巻き返しを祈るように、だけど、最悪の予感からも逃げないように刮目して、俺はモニターを凝視していた。

 確かに今は最大のピンチかもしれない。

 だけど、見方によればチャンスでもある。

 

 何にしても、これで相手は全部の手札を使い切ったはずだ。初撃でのワンショットキル、そして、肩のパーツにマウントしていた三基の噴進弾による強引なチャンスメイク。

 この局面さえ凌いでしまえば、相手に狙撃を許すような隙は、そうそう生まれない。

 奥の手を隠している可能性だってあるけど、ステージの狭さや遮蔽物のなさを考えれば、スナイパーという特性はこの武舞台においてはかなり不利になる。

 

 それをわかっているからこそ、相手は最後のチャンスに全てを賭けたのだろう。

 出力が極限まで絞り込まれた、弾速と貫通力に特化したビーム。

 

『ビームシールドは使わせない……!』

「チナツさん、このままじゃ、ニードル・ヴェスバーが……!」

 

 ニードル・ヴェスバーというらしいそれが、銃口に灯った閃光から間を置かずに、煙幕を貫いて、青空に溶けていく。

 そして、小規模な爆発音が武舞台に響き渡った。

 まだだ。まだ、バトル終了の判定が下りていない以上、勝負が決まったわけじゃない。

 

 俺はチナツを信じる。信じている。

 あいつはこんなところで負けるようなやつじゃない。こんな逆境に屈するようなやつじゃない。

 念には念を入れてと、相手が徹甲弾が装填されている下のバレルから狙撃を放とうとした、刹那。

 

「あーもう、搦め手ってのはわかっててもムカつくわね!」

『……生きていたか!』

「事前の位置取りから弾が飛んでくる方向を逆算するなんて朝飯前よ! アタシだって、スナイパーなんだから!」

 

 煙幕の中から連射されたのであろうビームライフルから放たれる閃光が、クロスボーンが構えていたスナイパーライフルを貫く。

 チナツはあえて左腕を犠牲にすることで偽装爆発を起こし、この状況を利用してみせたのだ。

 

「っしゃあ! それでこそチナツだぜ!」

「チナツさん……!」

 

 狙撃手が狙撃銃を失ってしまえば、その戦闘能力はガタ落ちする。

 チナツのアストレイシックザールは肘からパージしたフラッシュエッジ2をキャッチすると、ビームサーベルモードで展開して、スナイパーライフルを失った蒼いクロスボーンガンダムへと斬りかかっていく。

 相手も流石に一筋縄ではいかないようで、腰にマウントしていたアサルトナイフを引き抜いて、チナツの刃を受け止めていた。

 

 けど、根本的な出力ではアストレイシックザールの方が上回っているのか、終始押され気味であったことには変わりない。

 距離を取り直したチナツはフラッシュエッジ2を投擲、アロンダイトに手をかけて、「光の翼」を広げながらクロスボーンに肉薄する。

 

「これで終わりよ、スナイパー!」

『まだだ、まだ終わるわけにはいかない……! MEPEXAM!』

「あれは……!」

「質量を持った残像と、EXAMシステムを掛け合わせてる……!?」

 

 その瞬間、緑色であるはずのクロスボーンガンダムのカメラアイが赤く染め上がり、怒りの雄叫びを上げるようにフェイスマスクが展開した。

 そして、残像を発生させるほどの機動性で対艦刀による一撃を回避すると、胸部ガトリングをチナツに浴びせかけながら、強化されたスピードでそのままアストレイシックザールに突っ込んでいく。

 

『……私はただの劣化品で終わるつもりはない、この戦いを勝ち抜いて……一流の狙撃手として、ミワよりも私の名を轟かせる!』

「ミワって……赤砂がどうかしたのかは知らないけど、残像同士の対決ってわけね! 面白いじゃない! エクストリームブラストモード、始動!」

 

 すんでのところでアサルトナイフによる一撃は、チナツが発動させたエクストリームブラストモードによる残像に吸い込まれて空を切る。

 ミワってのが誰かは知らないけど、相手が相当執心している辺り、腕利きのダイバーなんだろう。多分。

 そんな事情はともかくとしても、互いにロックアシストをズラす効果を持った残像を発動した状態なら、頼れるものは自分の目だけだ。

 

 だったらチナツは滅法強い。

 小さい頃は次元覇王流を習ってたんだ、武道家として、その目は鍛え上げられている。

 だから、勝てよ。勝って決勝まで上がってこい。

 

 祈るように歯を食いしばった俺の軍服の裾を、マフユもまた祈りを込めるように袖の中からそっと掴んで力を込める。

 

『対艦刀による一撃は隙が多い……!』

「そんなもん、百も承知よ!」

『……くっ、懐に飛び込めば、こちらが……っ!?』

 

 フレキシブル・スラスターに点火して、相手が逆手に構えたアサルトナイフを振りかざし、チナツの懐に飛び込もうとした瞬間だった。

 背後から接近していた「何か」が、その右腕を斬り裂いて、ナイフを握っていたはずの手が武舞台にごとり、と落ちる。

 なるほどな。あれは「戻り」か。

 

 モニターの前で俺が口角を吊り上げたように、チナツもまたしてやったりとばかりにほくそ笑む。

 確かに質量のある残像はロックアシストを無効化し、誘導切りの効果を持っているかもしれない。

 だけど、一度投擲されたビームブーメランは、「投げた機体の位置」を参照して戻ってくるようになっている。

 

 つまり、「戻り」の通り道に相手がいれば、誘導を切っていようが透明化していようが、それには引っかかってしまうということだ。

 体勢を崩した蒼いクロスボーンを見て、ここが好機だとばかりに、チナツは対艦刀を、アロンダイトを大上段に振りかぶった。

 

「これでぇっ! 終わりよぉっ!」

『ブーメランの戻り……こんなことを失念していたとは、だが……まだ、終わりではない……!』

 

 無理やり踏ん張って転倒を避けた相手は、残っていた左手のビームシールドを展開して、その一撃を防ごうと試みる。

 だけど。

 ビームシールドを引き裂いて、チナツが振り下ろした斬撃は、蒼いクロスボーンのコックピットを穿っていた。

 

 対ビームコーティング。

 あの「ゴールデン・ドリームズ」との戦いはうやむやになったまま終わってしまったけど、それが功を奏してくれたのかそうでないのかはわからない。

 でも、本来チナツの対艦刀はこういう守りを貫くことを想定して作られたものなのだ。

 

『……完敗ね、いい戦いだったわ』

「こっちこそ、ハラハラさせられたわ」

『……だから、次は負けない。貴女を狙い撃つ』

「上等! 何度だって避けて、倒してやるわよ!」

 

 互いに啖呵を切り合って、指でピストルの形を作った「シーズン」とかいうダイバーはブロックノイズ状に解けて消えていく。

 チナツが言った通り、見てるこっちもハラハラするような戦いだったけど、それでも最後に笑ったのはあいつの方だ。

 

 ブーメランの「戻り」も計算に入れた戦い方。激情に駆られながらも頭脳は冷静に状況を利用する。

 プライドを優先するチナツにしては珍しくクレバーな戦い方をする辺り、本気で勝ちたかったのだろう。

 チナツは勝利を手にすると、システム音声が勝利を告げると同時に、セントラル・ロビーへと転送されていく。

 

 そして、フレンドワープを利用して俺たちのところへと一瞬のうちに帰還を果たしていた。

 

「まずは一勝、おめでとうだな、チナツ!」

「ふんっ……あれくらい勝って当然よ! だって、アンタと約束したじゃない……」

「ああ、決勝で会おうってな! 忘れてないぜ!」

「わかってるならいいのよ。でも、勝つのはアタシなんだからね!」

 

 びしっ、と人差し指を突き出して、チナツは豊かな胸を反らす。

 こいつの負けん気の強さは相当だ。だけど、俺だって人のことをどうこう言えたもんじゃねえ。

 

「ああ……けどな、俺は勝つさ。お前にもな!」

「ふんっ……強がってられるのも今のうちなんだから。マフユも、応援ありがとうね」

 

 俺の時とは百八十度態度を変えて、チナツはマフユに柔らかく微笑みかける。

 こういう笑顔を浮かべてる時は間違いなく可愛いんだから、いっつもそうしてればいいのに。

 なんて、口に出した日にはそれこそ怒り狂って三日は口を聞いてくれなさそうだから、心の内側に留めておこう。

 

「いえ……私、応援ぐらいしかできない、ので……」

「応援してくれる誰かがいるってだけで戦えるのよ。だからマフユ。マフユがいてくれるだけで、嬉しいものなの。ついでにユウヤもね」

「俺はおまけかなんかかよ」

「付け合わせのミックスベジタブルみたいな?」

「この野郎」

 

 誰が萎びたフライドポテトだ。

 冗談はともかくとして、互いにこうして一回戦を、事実上の準々決勝は勝ち抜いたのだから、残るは準決勝と決勝だけだ。

 ライブモニターには、ちょうどDブロックの試合が映し出されている。

 

 リンファ。劉凜風。多分だけど、チナツが次に当たるのはあいつになるはずだ。

 ストライクフリーダムガンダムにとにかく武装を盛りまくったその機体が放った超火力のビームを、ちょうどさっきのクロスボーンガンダムがやっていたように、背面に装備された四基の増加ブースターを利用したマニューバで巧みに躱してみせる。

 そして、クロスレンジに飛び込んだリンファのズィーロンワンが、得意の八極拳──鉄山靠で、ストライクフリーダムのカスタムモデルを、武舞台へと叩き落とした。

 

「多分だけど、お前が次に当たるのはリンファ……あのリボーンズガンダムのカスタムモデルだぜ、チナツ」

「ええ、多分アンタの見立てで合ってるわよ、ユウヤ。ふん……拳法家ってことは、いいウォーミングアップになるわね」

「……油断して勝てる相手じゃねえぞ」

「……わかってるわよ」

 

 リンファは強い。言動はともかくとして、武道家としての腕前だけなら一流の更に上を行くレベルの相手だ。

 だからこそ、俺は釘を刺す意味でも、あえて強くそう断言していた。

 チナツは勝ち気な態度を崩さず、胸を支えるように腕を組む。それでも、その背筋は武者震いなのか、微かに震えていた。

 

「忠告は受け止めておくわ。でも、アンタこそ、次の対戦相手の試合とか見なくていいわけ?」

「俺の次の相手? ああ……そうだな、見ておかないとな。ありがとう、チナツ」

「相変わらず抜けてるわね。でもなんだか、アンタの顔見てると緊張してたのがバカらしくなってきたわ」

「どういう意味だよ?」

「別に。アンタがいつも通りで安心した……それだけよ」

 

 チナツはふと、マフユに浮かべてみせたような柔らかな笑顔を俺に向けてくる。

 笑うと可愛いんだよな。つまりその、なんだ。そういう笑顔を向けてくるのって、反則だろ。

 俺がいつも通りで安心した、か。自分のことを二の次にしちまう悪い癖だと思ってたけど、チナツがそう言ってくれたんなら、案外悪いもんでもないのかもしれない。

 

 なんてことを、頭の片隅に浮かべて苦笑していると、軍服の裾を引かれたような感覚がした。

 振り向いてみれば、マフユが少し不機嫌そうな表情で、眦に涙を浮かべながら頬を膨らませている姿がある。どうしたんだ、急に?

 

「……なあ俺、なんかやっちまったのか、マフユ?」

「……ううん」

「じゃあなんでそんな顔を……」

「別に……なんでもない、よ……」

 

 なんでもなくはなさそうなんだけどな。

 相変わらず俺の裾を袖の余った服に包まれた小さな手で引きながら、マフユは頬を膨らませる。

 

「アンタってそういうとこよね……」

「なんだよ、チナツ?」

「別に。その……マフユ」

「……」

「アタシはいつだって、なんだって、負けてやる気はないからね!」

 

 そう言って、チナツは踵を返すと、ライブモニターに映し出されているリンファの試合に視線を向け直した。

 なんでマフユに宣戦布告じみたことをしてるんだ、こいつ?

 ますます訳がわからないこの状況、誰か説明できるもんなら説明してほしい。

 

「……私だって、負けないもん……」

 

 マフユも何事かを小声で呟くと、今度は俺の左腕に両腕を絡めて、もたれかかってくる。

 なんだろうな、突拍子もないことに走るのが女子の間ではブームだったりするんだろうか。

 とりあえずは膨れっ面でもたれかかってきたマフユを受け止めながら、俺もまたライブモニターに視線を戻す。

 

『破ッ!』

『そんな、物理が効かないはずのVPS装甲なのにー!?』

 

 だけど、試合の方はもう決着がついてしまったようだった。

 発勁を叩き込まれたストライクフリーダムのカスタムモデルの腹部が大きく凹んで、ひしゃげたところから爆発四散する。

 相変わらず、馬鹿げた破壊力だ。

 

『き、決まりましたァー! 本大会最速! 最速での決着! 突如として現れた超新星、リンファ選手の快進撃を止められるダイバーはおるんか! ワイもビビってまうほどの闘志が、全身から伝わってきよるで!』

 

 唖然とするギャラリーを前に、当然だとばかりにリンファはストロベリーブロンドの髪を優雅に掻き上げて、勝者の余裕を見せつける。

 勝者の余裕、か。ともすればそれは慢心にも繋がる。だから。

 負けるんじゃねえぞ、チナツ。




乙女たちは火花を散らす
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