ガンダムビルドダイバーズ:トライ   作:守次 奏

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初投稿イーツです。


Ep.04「ご注文は友達ですか?」

 少子高齢化がどうのこうのとかそんな理由で中学生のバイトが解禁されて久しい現代、俺もまた、例に漏れずバイトをやっていた。

 別に生活費に困ってるとか今すぐ欲しいものがあるとかそういうわけじゃないんだけど、体力作りとかも兼ねてデリバリーサービスの配達員をやってるのだ。

 背負った箱の中身が崩れないように、慎重に、だけど迅速に自転車を漕ぐ。

 

 体幹を鍛える修行だと思えばいい。

 それに多少の賃金が発生するんだから学生としてはそれだけでもありがたい。

 もちろん、中身をぐちゃぐちゃにしてしまったらクレームが入る以上、バイトでもプロとしての責任を持たなきゃいけないわけだけど、それでもお客さんに感謝してもらえた時は何となくやりがいみたいなものを感じたりもするのだ。

 

「ありがとうございましたー!」

「ありがとう、また頼むよ!」

「はい、是非!」

 

 今日も速攻で依頼をこなして、残りはラスト一件だったか。

 ハンバーガー系は寿司とかラーメンに比べれば崩れる心配が少ないから楽だとはいえ、油断していたらぐっちゃぐちゃになりかねない。

 終わり良ければ全てよしって訳じゃないけど、最後の仕事にケチがつくのはこっちとしても避けたいから、慎重に運ばなきゃな。

 

 自転車を漕ぎながら人波を掻き分けて、注文があったファストフード店に駆けつける。

 そうしてお客さんが注文したものを背中のザックに収納して、自転車で指定の住所まで届けに行く。

 

 これが概ね一連の流れだ。

 なんか母さんから勧められたガンダムにもこんな感じのリュックサックみたいなの背負ってたのがいたな、なんてことを思いながら、俺はひたすらにペダルを漕いでいた。

 

「次の住所は……こっちか」

 

 信号待ちの間に住所を確認して、どちらかというと高級住宅が並んでいる地区に向かう。

 偏見なのは重々承知だ。

 でも、こういういかにも高そうな土地の高そうな家に住んでる人もハンバーガー食ったりするんだな、と思うと妙に親近感みたいなものを感じたりもする。なんだろうな、この感覚。

 

 そんな益体もないことを考えているうちに、いかにも金持ちが建てましたって感じの広々とした庭園が広がっている高級住宅に到着するなり俺は、インターフォンで家主にコンタクトを取る。

 

「すみませーん、ヴェスバーイーツですけど、ご注文の品をお届けに参りました!」

『あ、はい……ありがとうございます。その、門を開けますから玄関までお願いします……』

 

 インターフォン越しに聞こえてきたのは、今にも消え入りそうな覇気がないというか、消沈した感じの声だった。

 声のトーンからして多分女の子だろうか。

 まあお客さんが男だろうと女だろうと関係ない話か。

 

 なんてことを考えているうちに、遠隔操作で開門していく鉄格子に目を丸くしつつ、俺は自転車を押して手入れが行き届いている庭園の中心を歩く。

 なんだろうな、この単発バイトやってて一年ぐらい経つけど、こういうレベルの金持ちの家に食い物を届けたことはないから一種のカルチャーショックを受けているのかもしれない。

 

 いかにもお上りさんって感じで目を白黒させながら庭園と豪邸の間で視線を往復させてしばらく歩くと、両開きになっているデカい玄関扉が視界に飛び込んでくる。

 豪邸ってこういう家のことをいうんだろうな、多分。

 うちも道場がある分それなりにデカい方だとは思ってたけど、世の中なんでも上には上がいるものだ。

 

 ぎぃ、と音を立てて玄関扉が開くと、姿を見せたのはゴス……ゴスペル? ああ違う、ゴスロリだ。そんな感じの服に身を包んだ、俺とそんなに年の頃は変わらなそうな女の子だった。

 

「すみません、ありがとうございます……」

「いえいえ! これが仕事ですから!」

 

 一分一秒でも早くお客様のところに誠心誠意を込めてお届けしています、なんてのはちょっと言い過ぎかもしれないけど、仕事としての意識は持っているつもりだ。

 ザックからハンバーガーとポテトとドリンクがセットになっている袋を取り出して、その子に渡す。

 

 しかし、信じられないぐらい細くて白い指だな。握っただけで折れそうなくらいだ。

 それが目についたのは、そんな具合にゴスロリ姿の女の子がハンバーガーを受け取ったのを確認して、そのまま帰ろうとした時だった。

 

 玄関先の収納に、プラスチックケースに入れて飾られているものがふと視界に飛び込んでくる。

 その中身は確か……なんだったか、ウイングガンダムだった気がする。前に母さんから一通り見せてもらったジャケットの中にあんな顔のモビルスーツが描かれてたから、多分間違いない。

 

 それにしたってあのウイングガンダム、丁寧に作られている。

 俺はまだまだガンプラに関してはズブの素人かもしれないけど、完全に表面の艶が消えているマットで小綺麗な仕上がりを見せているそれが、どれほどの手間暇をかけて作られたかは想像できた。

 だからなのだろう。思わず、言葉が先に走っていた。

 

「お客さん、ガンプラ好きなんですね!」

「……えっ? あ……はい。ガンプラは好きです……」

「実は俺も最近GBN始めたんですよ! お客さんのに比べたらちょっと拙いかもしれないんですけど、今もガンプラ持ち歩いてるんっす!」

 

 基本的にダイバーギアとストライク焔は学校に行こうがバイトしてようがランニングしてようが、肌身離さず持ち歩いている。

 それがポリシーって訳でもないけど、ガンプラへの理解を深めるというか、一緒にいることでより愛着が湧いてくるというか、そういう感じがするからだ。

 聞けば、父さん……師匠も似たようなことをやってたらしいから、多分遺伝だな。

 

 小さく苦笑しつつ、俺は腰のポーチからストライク焔を取り出して、女の子に見せてみた。

 すると、その子は突然目を丸くして、口元を手で覆う。

 できるビルダーからするとそんなにヤバい出来だったんだろうか。若干心配になってきた。

 

「ちょ、ちょっとだけ待っててください……!」

「……?、はい、わかりました!」

 

 待ってて、とは何だろうか。

 まあ考えても仕方ない。ストライク焔の出来だってプロ並みの腕前がありそうなあの子から見れば微妙なものなのは事実なんだろう。

 

 それでも俺は、どんなに出来が悪くたってこいつが好きだからそれでいいんだ。

 綺麗にマスキングできたと思っているエールストライカーと、炎を思わせるオレンジが少し入った赤に塗り替えた部分を見て、俺は小さな相棒に心配するなよ、と心中で語りかける。

 

 五分ぐらいだろうか。そのぐらい玄関前で待ちぼうけしていると、女の子が何かを手に、ぱたぱたと走りながら戻ってきた。

 

「あ、あの……! このガンプラ、私のなんですけど……」

「おお、すげえ格好いいですね! ベースはなんだろ、俺最近ガンダム見たばっかだからわかんないんですよね……」

「えっとこの子のベースはエアマスターで……じゃなくて、そのっ……」

 

 その白と青のツートンカラーに、オレンジ寄りの黄色と赤がアクセントとして添えられているガンプラのベースはどうやらエアマスターというらしい。

 ただそれが、ほとんどオリジナルと呼べるほど別物に作り変えられていることは見ればわかる。

 そして、その出来も言わずもがなだ。

 

 穴が空くほどそのエアマスターを凝視している俺に対して、ゴスロリ姿の女の子は眦を涙で潤ませながら、絞り出すように語りかけてくる。

 

「あのっ……そのっ……私、『マフユ』です……っ!」

「マフユっていうんですか、いい名前ですね!」

「あ、あの……そうじゃなくて……その……」

「どうかしたんですか? もしかして自分の名前、嫌いだったりとか……」

「ち、違うんです! 私、その……貴方に助けられたんです……っ! 『ユウヤ』君、ですよね……!?」

 

 確かに俺の名前はユウヤだけど、誰かを助けた覚えなんて……ん?

 いや待てよ、確か三日くらい前にそんなことがあったようななかったような。

 ああ、そうか。ようやく合点がいった。

 

「えっと……お客さん、もしかしてGBNの『マフユ』だったりします?」

「……はい、貴方のフレンドの『マフユ』です……」

 

 なんてこった。

 凄い偶然もあったもんだと、脳内は大混乱だ。あれからずっとログイン時間が合わないのか、GBNでマフユと会うことはなかったけど、まさかリアルで出会うなんて思ってもいなかったわけで。

 

 だけどまあ、それはそれとして。

 目の前のお客さんがGBNの「マフユ」と同一人物なのだとしたら、敬語を使われるのはなんだかむずむずする。

 

「えっと……マフユ、でいいんだよな?」

「はい、ユウヤ君……」

「じゃあリアルでもタメで大丈夫だぜ! いやー、しかし凄い偶然もあったもんだな!」

 

 乱数の女神様とやらが気まぐれにサイコロを振った結果がこれなのだとしたら、実によくできているというか、多分今頃女神様は爆笑でもしているのだろう。

 合縁奇縁。そんな言葉が似つかわしい出会いを、マフユの方がどう思ってるかは知らないけど、俺の方は大分嬉しさのようなものを感じている。

 

「うん……そうだね。その……ユウヤ君、これから、時間ある……?」

「今日のバイトはこれで終わりだから……ある!」

 

 休日の稽古はなし、というのが師匠の方針だ。休める時に体を休めておくのもまた武術家として必要だとかなんとか、そんな理由だ。

 だからバイトを入れられている、といってもいい。

 とはいえ、そう多くの件数を引き受けてるわけじゃないし、中学生はまだまだバイトに関する制約が色々と多いから、基本的に俺の休日はバイトが終わればすぐ、師匠に見つからない程度に自主練をするのが日課だった。

 

「良かった……その、助けてくれたお礼もしたかったけど……ユウヤ君、ガンダムについてあんまり詳しくないから……その……」

「SEEDとDESTINYは一通り見たんだけどなー、まあそれ以外はちょっと」

「だから、一緒に、その……ガンダム、見てくれる……?」

「おう! 俺で良ければ!」

 

 母さんが持ってるBlu-rayはまだ全部見れてないから、渡りに船ってやつだ。

 師匠……父さんと母さんに最低限の連絡を済ませて、俺はマフユの招待に与ることになった。

 よかった、とマフユは眦に涙を滲ませる。そこまで嬉しいものなんだろうか。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 そんなこんなでマフユの家に上がり込んで、見ることになったのは「新機動戦記ガンダムW Endless Waltz」なる作品だった。

 大筋は省くとして、要するに戦争が終わって平和になったと思ったらまた新しく蜂起した連中とガンダムが戦う話、ってことらしい。

 やけに広々とした廊下を歩いて、所々にガラスケースやプラスチックケースで厳重に保護されているガンプラに視線を奪われながら俺は、やたらと広いリビングルームに通されていた。

 

「え、えっと……自分の家だと思ってくつろいでくれると、嬉しい、な……」

「流石にそれは……ってか、マフユ。この家で一人なのか?」

 

 豪邸という言葉がよく似合っているこの家に、人の気配は恐ろしいほど感じられなかった。

 何か訳ありなのか、それとも単純に今ご両親が出かけているのかどうかは判別に困るし、そこを突っ込んで聞いていいものかも悩みましたけど、最終的には言葉が先走ってしまった形だ。

 俺からの問いにマフユは少しだけ表情に暗い影を落とすと、今にも消え入りそうな声でぼそぼそと口火を切る。

 

「……うん。私一人。私のお父さんは今イタリアにいて、お母さんは女優だから……ハリウッドとか、色んなところを転々としてる」

「……そっか、なんか訊いてごめん。悪かった」

「ううん、大丈夫。一人には慣れてるから……あんまり暗い話してもユウヤ君、困っちゃうよね……だから、その……ガンダム、見よう……?」

「ああ! よくわかんないとことか、色々教えてくれるとめっちゃ助かる!」

 

 俺はマフユの言葉に親指を立ててそう返す。

 ガンダムに関してはSEEDとDESTINY以外はズブの素人だし、そのSEEDとDESTINYだって外伝まではまだ追い切れていない。

 その点マフユはそういうのに詳しそうだったから、色々と助かる。

 

「……ありがとう、ユウヤ君」

「俺、何かしたか?」

「ううん……お友達とこうして一緒にガンダム見るの、夢だったから……」

 

 どことなく悲壮な雰囲気を漂わせる声音で、マフユはぼそぼそとそう呟いた。

 夢。夢か。俺にはまだ考えもつかないけど、もしも俺の存在が少しでもマフユの役に立っているなら、夢に一枚噛んでいるなら、それはやっぱり嬉しいことなんだろう。

 

 会ったばっかの俺がどうしてここまで信頼されてるのかはわからないけど、それでもマフユにとって俺が「友達」になるのなら、俺だってマフユのことを「友達」と思うのが筋ってもんだ。

 会ったばっかでも、例えそれがゲームの中での縁であっても、躓く石もなんとやらってな。

 

 そんなことを考えている間にもマフユはてきぱきとBlu-rayディスクをテレビに内蔵されてるプレイヤーに入れて、再生のボタンを押す。

 

「待たせてごめんね、ユウヤ君……」

「全然! それで、ええと……」

「エンドレスワルツ……面白いと思う、よ……?」

「そこは自信持っていいんじゃないか?」

「う、うん……面白い、よ……」

 

 マフユと俺の感性が違うのは当たり前のことだけど、好きなものはきっちり好きだと言った方がいい。

 謙遜もしすぎてしまえばそれは毒になる。

 謙虚であることは美徳だけど、自分や好きなものを卑下するのは良くないことだって、師匠もよく言っていた。

 

 マフユが再生のボタンを押すと同時に、俺は食い入るように画面を凝視する。

 エンドレスワルツ。よくわからないけど、わからないからこそ見てみようじゃないか。

 

 

◇◆◇

 

 

 

 結論から言うと、めっちゃ面白かった。

 戦いが終わった後に兵士はどこに行くのかだとか、そういうテーマもだけど、ボロボロになりながらもシェルターを撃ち抜くウイングゼロだとか、勝ち目のない戦いだとわかっていても戦い続けるガンダムたちだとか、そういう要素はテレビ版……前作にあたるものを見てない俺でもよくわかった。

 

「どうだった、かな……?」

「すげー面白かった!」

「……えへへ。ありがとう……」

 

 何より凄いのがこれ全部手描きってことなんだよな。ヒイロがゼロに乗るシーンとか、全部。

 その熱量も凄まじい。

 

「……私、ウイングが好きだから……ユウヤ君にも気に入ってもらえて、よかった……」

「そりゃ何よりだな!」

「……うん、そ、その……」

「どうしたんだ、マフユ?」

「えっとね、今度はGBNでも一緒に遊んでみたいな、って……」

 

 順番が逆かもしれないけど、とマフユはぎこちない笑顔を浮かべながらそう提案してくる。

 言われてみればフレンドなのに一回も一緒にやったことなかったな、GBN。

 

「ああ、俺で良ければ! 基本夜やってるから、マフユの都合が合えば一緒にやろうぜ!」

「……夜、だね……? うん、わかった……その……」

「よろしくな、マフユ!」

「……っ、うん……よろしく、ユウヤ君……!」

 

 泣くほどのことじゃないのに、涙を滲ませているマフユに何があったのか、何がそうさせているのかはわからないしきっと訊かない方がいいことだ。

 だから俺はそれ以上は何も言わずに、マフユの家を去ることにした。

 今度はテレビ版のガンダムWを見てみるのも悪くないか。そんなことを、頭の片隅に浮かべながら。




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