ガンダムビルドダイバーズ:トライ   作:守次 奏

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痛みの数だけ初投稿です。


Ep.40「新しい扉の先に」

 勝つには勝った。だけど、払った代償もまた大きなものだった。

 上半身が内側からの圧力で破裂したように砕け散ったストライク焔を、その欠片を拾い集めて俺は、ポーチにしまってしゃがみ込む。

 今の今まで一緒に戦ってきた相棒を失ったのは、簡単に割り切れるようなことじゃない。

 

「ごめんな……ありがとう、ストライク焔……」

 

 だけど、最後に笑うために、全力を尽くして戦ったのに、そのためにストライク焔は力を尽くしてくれたのに、俺が泣いて立ち止まってたんじゃ台無しだ。

 しばらく呆然としていたスミも腹部からコックピットにかけて大穴を空けられ、上半身と下半身を繋ぐ軸がへし折れたプライドバーニングをその手に取ると、ぎゅっと胸に強く押し付ける。

 悔しかったのだろうか。それとも、悲しかったのだろうか。

 

 俺にはよくわからない。でも、GPDで戦ってきたってスミの話が本当なら、きっと何度だってその感覚に慣れることはないのかもしれない。

 そんなことをぼんやりと頭の片隅に浮かべながら、立ち上がった瞬間だった。

 びし、っとチナツのようにスミの人差し指が、俺に真っ直ぐ突きつけられる。

 

「なんだよ、戦いなら終わっただろ?」

 

 GPDでは負けたけど、リアルファイトで決着をつけるとか言い出すんだったら、流石にごめんだ。

 そんな気力も今は使い果たしたし、何より本当に戦うんだったら、スミを怪我させてしまう可能性だってあるしな。

 

「違う。貴方の技の冴えは見事だった。カミキ・ユウヤ」

「そりゃどうもな、お前の力も……プライドバーニングを通して伝わってきた、ガンプラへの思いだって凄かったぜ」

 

 仮に俺を倒してジュンヤさんの雪辱を晴らしたいってだけだったら、あそこまでビルドバーニングを作り込んで、バーニングバーストシステムを制御できるまでにブラッシュアップしていない。

 例えその出発点が復讐であったとしても、スミが心に描いている「こうありたい」「こうなりたい」という、やりたいことのイメージが、あの拳からは伝わってきた。

 それはきっと、トワさんが言っていたような「愛」がなければできないことだ。

 

 言い残すと、今度こそ廃倉庫を出ようとした俺の前に立ちはだかって、燃えるような輝きをその瞳に宿しながら、スミが俺のそれを覗き込んでくる。

 なんなんだ。一体何がしたいんだ、こいつは。

 なんだか知らねーけど本気なことだけは伝わってくる思いを滾らせてスミは、俺を真っ直ぐに見据えていた。

 

「ユウヤ!」

「ユウヤ君……!」

 

 まさかこんなに朝早く、七時にもならない内にバトルを始めていたとは思っていなかったのか、慌てた様子で廃倉庫のシャッターを潜って、チナツとマフユが駆け寄ってくる。

 ナイスタイミングだ。なんだか知らないけどチナツだったら同門のよしみでこいつをなんとかしてくれるんじゃないか──そんな楽観的な期待を抱いたその瞬間だった。

 

「カミキ・ユウヤ……いや、ユウヤ! 責任をとって私と結婚しなさい!」

「はあ!?」

 

 ナイスタイミングじゃない、前言撤回だ。

 スミは俺を再び指差すと、廃倉庫に凛と響き渡る声音でそう言い放つ。

 なんの責任なんだ。なんで結婚なんだ。

 

 訊きたいことは山ほどあるけど、駆けつけてきたチナツとマフユがフリーズして顔を見合わせる程度に、その爆弾発言はこの場を見事に凍らせてくれていた。

 

「貴方の技と私の力。その二つが合わされば最強のファイターが生まれるのも夢じゃない。だから責任をとって私と結婚しなさい、ユウヤ」

「責任ってなんだよ!? わざわざ誤解されるようなことを──」

 

 慌ててその発言を取り消させようとするものの、テコでも動かないといった具合にスミは人差し指を突き出したまま、俺の瞳を真っ直ぐに見据えている。

 

「ユウヤ……あんた、まさか……?」

「GPDで戦うんじゃ、なかった、の……?」

 

 最悪だ。見事な誤解がクリーンヒットして、チナツの表情は怒りに染まって、マフユの表情はこの世の終わりが来たかのように悲壮な色を帯びていた。

 大体結婚も何も、スミがいくつかは知らないけど俺はまだ中学生だ。

 話が早すぎるってレベルじゃねえ。

 

「年齢の問題など些末なこと。お父さんの雪辱を果たすためにも私は待ち続けた。だから何年待つかなんて苦にもならない」

「お前の問題じゃなくて俺の方の問題なんだよ!」

「次元覇王流の正当後継者たる者が、まさか責任から逃げるつもり?」

「そうじゃねえよ! なんというかまず……説明をさせてくれ!」

 

 ブレーキの外れた暴走機関車のようにスミが一方的に捲し立ててくるのを制して、俺はチナツとマフユに向き直る。

 滅茶苦茶怒ってるぞ、これ。どうしてくれんだこの空気。

 眉を逆立てるチナツと頬を膨らませるマフユの癇に障らないように俺は、できるだけ穏便な形で今までの経緯を説明した。

 

「……ってなわけで、こいつは……スミは、ジュンヤさんの娘で、俺はその雪辱を果たすとかでさっきまでGPDやってたんだよ、それ以上のことは本当に何もしてない」

「ふーん……どうだか。でもスミさんでしたっけ? なんでいきなりこの朴念仁で唐変木で鈍感なユウヤに結婚なんか申し込んだんです?」

 

 ひでー言われようだな、おい。

 俺の心のツッコミを無視するかのようにチナツはスミを真っ直ぐに睨みつけながらそう口にする。

 こめかみの辺りに青筋が浮かび上がっている辺り、本気でキレてるんだろう。恐ろしい限りだ。

 

「さっきも言った通り、私の力とユウヤの技がかけ合わさったなら、最強のファイターが生まれる。端的に答えるなら、果てのない強さを求めるため」

「はあ? はあ……そういうことって、もっと段階を踏んでやるものじゃないんです?」

「話しづらければ普通に話していい。コウサカ・チナツ……段階とは何?」

「それはその、恋とか、その……愛とか……」

 

 要するにそういう話をするのはもっと仲良くなってからじゃないのかってことだろう。

 それぐらいは現在進行形で朴念仁と罵られている俺にだってわかることだ。

 恋だの愛だの、カールの時もそうだったけど、そういうのが絡んでくるのはどうにも苦手で仕方ない。

 

「ふむ、段階を踏めば結婚を受けてもいいと。ならユウヤ、責任を取って私に恋しなさい」

「無茶言うなよ……」

 

 心の底からげっそりした声が出た。

 ただでさえこっちはストライク焔を失って、ナーバスになってるってのに、畳み掛けるようにそんなことを言われたんじゃ、とてもじゃないけど精神がもたない。

 スミは確かに美人かもしれないけど、まだ恋だの愛だのなんのかんのって俺にはわからないし、結婚となれば尚更だ。

 

「……私は恋するに値しないと?」

「そうじゃねえけど……なんていうか、それより前の話をしてるんだと思うぞ、チナツは」

「そうよ! 珍しくこの朴念仁が言った通りよ!」

 

 朴念仁は余計だろ、朴念仁は。

 心の底から残念そうな表情をしているスミに俺はフォローを入れつつ、先ほどからすっかり頬を膨らませて黙り込んでいるマフユに視線を向ける。

 一瞬目が合ったけど、すぐに逸らされてしまった辺り、こっちも相当お怒りらしい。

 

「結婚とか、そういうことは正直全然わかんねえ。でも、ダチになってくれるってんなら、俺は大歓迎だぜ」

「ダチ……友人のことね。それが恋の前に必要なら、そして私の敗者としての誇りにかけて、勝者の貴方がそう言うのなら、受け入れる」

「じゃあ決まりだな! とりあえずGBNのフレンド申請を……」

「それならもう送っておいた」

「早いな!?」

 

 なんだかよくわからないけど、共に全力を尽くして戦った結果として、敗れたとしてもその誇りを失わずに立っているスミの胆力は凄まじいものがある。

 恋とか愛とかは置いといて、とりあえずフレンドから始めようってことで、なんとかこの場は収まってくれたようだ。

 スミからのフレンド申請を受諾して送り返し、その受諾も確認したところで俺は、ダイバーギアを背負ってきたリュックの中にしまい込む。

 

「ユウヤ君は、ああいう積極的な人が好きなのかな……」

「呼んだか、マフユ?」

「う、ううん……! なんでもない、よ……?」

「ならいいんだけどさ」

 

 疲れた。果てしなく疲れた。

 真なるアシムレイトの反動とかじゃなく、単純にかなり気疲れした。

 チナツとマフユもスミが妥協……してくれたのかはわからないけど、とりあえずはいきなりぶち上がった結婚話が棚上げになったことに安心している様子で、こっちも一安心だ。

 

「ああそうだ、スミ」

「なに?」

「もしよければだけどさ、俺たちのフォースに入らないか?」

 

 さっきチェックした限りでは、スミのフレンド欄は新規に追加された俺たちを除けばマギーさんだけと、見事にソロ専といった風情だった。

 もちろん傭兵とか、フォースを組んではいるけどフレンド登録はしてないとかそういうケースも考えられるけど、友達から始めるってんなら、何かきっかけになるものがあった方がいい。

 そう思っての提案だった。スミはしばらく考え込むような仕草を見せて、小さく頷く。

 

「わかった。元からGBNはソロでしかやっていない。勝者の貴方が言うのなら、敗者の私はそれに従う」

「そこまで気負うもんでもねーと思うけどな……とりあえずはよろしくな、スミ!」

「ええ、ユウヤ。それと、コウサカ・チナツ。それと」

「チナツでいいわよ、そっちの子はマフユ。ミホシ・マフユよ」

「ミホシ……?」

 

 チナツの言葉に、スミの眉がぴくりと動く。別に珍しい苗字ってわけでもないだろうし、なんかまた因縁でもあったんだろうか。

 押し寄せてくる修羅場のプレッシャーに胃の辺りがきりきりと痛み出すのを感じながらも、俺は一触即発といった様子でマフユに近づいていくスミに視線を向ける。

 

「わ、私は、その……ミホシ・マフユです、けど……それが、なにか……?」

「ふむ……単なる私の勘違い。誤解させたなら謝る。よろしく」

「よ、よろしくお願い、します……?」

 

 誰と何を勘違いしてたのかはわからないけど、とりあえずは穏便な形でこの場は収まってくれたようだ。

 スミはマフユに簡潔な挨拶をすると、GPD筐体に供給されていた電力を停止して、再び布を被せる。

 今までが怒涛のような出来事ばかりでそれどころじゃなかったけど、確かに俺はここでスミと戦って、そして。

 

 ポーチの中に収めていたストライク焔の残骸を取り出す。無事なパーツは数えるぐらいしか残っていない惨状だった。

 

「ユウヤ、それ……」

「ああ、ストライク焔は全力で戦って……全力で応えてくれたんだ」

 

 チナツが、上半身がほぼ完全にバラバラになってしまったストライク焔を指して表情を曇らせる。

 昔はこれが普通だったとはいえ、軸が歪み、へし折れて、砕けて、修復不可能なレベルまで相棒が壊れてしまったのは俺だって精神的に大分くるというものだ。

 ただ、使えそうなパーツが残っていない訳じゃない。

 

「ユウヤ君……」

「俺、直すよ。例えそれがストライク焔とは別物になっても……こいつの魂は一緒に連れていく。だから……あんま悲しまないでやってくれよな」

 

 俺まで悲しくなってくるからさ、とは少し恥ずかしくて言えなかったけど、正直大分泣きそうだ。

 ここまで自分がガンプラバトルに、ガンプラに……ストライク焔に思い入れを抱いているなんて、きっとGBNを始める前は思いもしなかったのだろう。

 だけど、もうその頃には戻れない。憧れというキラめきを浴びてしまったから。強くなっていける理由を、その楽しさを知ったから。

 

 だから、こいつだって──笑って最期を迎えてくれたんだと、そう信じたいんだ。

 それなのに、俺が泣いてるわけにはいかないよな。そうだろ?

 そうだよな、ストライク焔。

 

「悪りい……俺がもっと、お前を上手く扱えてたら……!」

「つらいって気持ちは、一人で抱え込むもんじゃないわよ、ユウヤ」

「チナツ……」

「アタシも直すのを手伝うわ。だから……今ぐらいは思いっきり泣いたっていいんじゃない?」

 

 頽れた俺の肩にそっと手を置いて、チナツは呆れたように笑ってみせる。

 マフユもただ、何も言わずに俺の肩に手を置いて、小さく頷く。

 同じ悲しみを完全に分かち合うことなんて、できないのかもしれない。それでも少しは自分たちにも背負えるからとばかりに、小さくても、確かな温もりが広がっていく。

 

 なんだろうな、そんなつもりなんてなかったのに、泣けてくるじゃねえか。

 スミはもう廃倉庫から姿を消して、どこかに行ってしまったようだ。

 そのことに少しだけ安心を覚えている自分に嫌悪感を抱きながらも俺は、流れるままに任せて涙を零す。

 

「ちくしょうっ……! 畜生っ……! ごめんな、ストライク焔……っ!」

 

 GPDでは、ガンプラにダメージがフィードバックされる。

 トワさんの言葉を軽く見ていたつもりはない。そのつもりで臨んだ戦いでもあった。

 父さんたちは、俺たちより前に戦っていたファイターたちは、きっとこんな悲しみを乗り越えて、一歩ずつ前に進んでいったんだろう。

 

 俺に「大好きだ」という気持ちをくれたGBNが偽物だなんて思わない。

 だけど、作り上げて、壊れて、また作り直して。

 その繰り返しの果てにガンプラとの絆を見出すのがGPDなのだとしたら、それを「本物」と呼んでいたスミの気持ちもなんとなくではあるけど、理解できる。

 

 その上で、俺がストライク焔にしてやれることは、この経験を糧にして一緒に前に進んでやることだけだ。

 そう言ったように、そう誓ったように。

 何回だって直し続ける。何回だって立ち上がる。

 

 だから、そのために今は。

 今だけは、少しだけ泣くのを許してくれ、俺の相棒。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「なるほどなるほど……随分派手にやったみたいだねえ、少年」

「はい、全力を出し切りました、俺もこいつも!」

 

 善は急げとばかりにGBNにログインした俺は、とりあえずはストライク焔をどうしていくかを、その方向性を考えるためにチナツとマフユだけじゃなく、他の人の意見も聞いてみようってことで、たまたまログインしていたトワさんに相談を持ちかけていた。

 ペリシアであのスノーホワイトプレリュードを作ったトワさんだったら、何かいいアドバイスももらえるんじゃないか、って期待してたところがないといえば嘘になる。

 でも、ストライク焔の魂を連れたガンプラを作るなら、それはきっと。

 

「ふむふむ……トワさんも少年の相談に乗るというなら吝かではないよ」

「ありがとうございます!」

「ただし、一つだけ条件があるよ」

 

 ちちち、と人差し指を振って、トワさんは少し勿体つけたような仕草で条件とやらを持ちかけてくる。

 

「自分のガンプラは自分で考えて作る……ま、少年もそれを望んでいるだろうから言うだけ野暮だろうけどね? 要するに、トワさんに丸投げするのはダメってことさ」

「はい! 俺、チナツやマフユの手は借りるかもしれませんけど……それでも、俺のストライクは……俺だけのストライクは、自分の手で考えたいんです!」

「うむ、素直でよろしい。そうなるとトワさんにできることは、君の参考になりそうなデータを提供するのと、バーニングバーストの改善案かな? ともあれまあ、中々骨が折れる作業なだけに一日二日でできるかはわからないんだ。少しだけ待っておくれよ」

「わかりました!」

 

 トワさんはしーゆーあげいん、と言い残してひらひらと手を振ると、善は急げとばかりにログアウトを選択して、現実に解けていく。

 これは、きっと俺に与えられた新たなミッション──挑戦だ。

 格納庫エリアで出撃不可の通知が周囲に浮かんでいる、大破状態のストライク焔を見上げて、俺はぐっ、と硬く拳を固める。

 

 だからもう少しだけ待っていてくれよ、ストライク焔。そして、まだ見ぬ俺の新しい相棒。




逢いに行こう、新たな光へと
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