ガンダムビルドダイバーズ:トライ   作:守次 奏

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後継機完成回なので初投稿です。


Ep.42「俺の『挑戦』」

「凄え……皆、俺の発想を超えた……俺が想像もできなかったようなカスタムをしてる。それだけじゃねえ、何度も作り上げて、何度も直して……きっとそんな繰り返しで磨きあげられてった『好き』って気持ちが伝わってくる!」

 

 トワさんが見せてくれたGPD時代の戦いに、今にもガンプラを作りたいと逸る気持ちと高鳴る鼓動を抑え込みながら、俺はただ目を輝かせていた。

 伝説のビルダーにしてファイターであるイオリ・セイさんが残した「ビルドストライクガンダム」の記録。そして、名前は聞いたことないけど、その記録映像から確かにストライクガンダムへの愛が伝わってきた「サツキ・トオル」って人の戦い。

 こんな貴重な映像がどこに眠っていたのか、どこから持ってきたのかって疑問はさておくとしても、戦いのログに魅入られてるばかりじゃ始まらない。

 

 俺の、今にも溢れ出しそうな「好き」という思いを、心の形を、ストライク焔の魂を連れたガンプラに吹き込むために、それを作るために、アシムレイトをする時のように呼吸を落ち着かせ、自分の心の奥深くへと、その海の底へと潜っていく。

 ストライク焔と共に駆け抜けてきた日々。ストライク焔に残されていた課題。

 それを踏まえて、俺が作るべき──小さな相棒の魂を吹き込むに相応しい器の姿を探して、俺はどこまでも深く、深く、自分の記憶と心を辿る。

 

 ガンプラは心の形を表すものだ──心のままに作るものだと、どこかで聞いた言葉がふと脳裏をよぎって駆け抜けていく。

 心の形。チャンピオンと、キョウヤさんと出会ったことで見えてきたものが、ペリシアで見てきたものが、そしてタイガーウルフさんと拳を交えて伝わってきたものが、メガ粒子杯を勝ち抜いたことで俺が手にしたものがそうであるのなら、それは。

 ──どこまでも、ずっと、あのGBNの空を羽ばたいていきたい。

 

 行き着いた答えは、辿り着いたその言葉は、俺のものだったのか、それともストライク焔のものだったのか。

 きっとそれは、両方なのだろう。

 閉じていた目を開けて、GPDのアーカイブを真っ直ぐに、心を空っぽにして見据えれば、そこには確かに俺が、ストライク焔が「こうなりたい」と、「こうあってほしい」と願った姿が鮮烈に浮かび上がってくる。

 

「ありがとうございます、トワさん! 俺ちょっと、素体のガンプラを買いに行ってきます!」

「お役に立てたなら何よりだよ。いいねえ、少年。今の君の瞳には、愛が……溢れんばかりに輝いているよ」

「はい!」

 

 今持っている俺の技術で、俺の発想をどこまで形にできるかはわからない。

 それでも、全力でやる。少しでも理想に近づくために、少しでも、ストライク焔が願ったことを形にしてやるために。

 だからこそ、これは俺の挑戦だ。

 

 新しい世界に羽ばたくために、新しいガンプラを作り出すために、超えなければいけない壁が立ちはだかってきたのなら、それをぶっ壊してでも前に進む。

 チナツとマフユに手伝ってもらうところもあるかもしれない。だけどその発想は、「どうありたいか」、「どう作りたいか」という願いだけは、俺自身の手で叶えるものだ。

 善は急げとばかりに、ガンプラが数多くなんて言葉じゃ片付けられないぐらい並んでいる売り場の中から目当てのものを探して、俺は店を駆けずり回る。

 

 幸い、今はGPD時代に活躍した有名ファイターが使っていたガンプラのレプリカキットも豊富に取り揃えてある。

 だから、ベースになるストライク系の選定にはそんなに困ることはなかったけど、一つだけ懸念があった。

 こう言ったら失礼なのかもしれないけど、そこまで有名じゃないファイターが使っていた機体のレプリカまでは流石に売ってないんじゃないか──そう思いながらレプリカキットのコーナーを回っていたら。

 

「マジか、あるのかよ!?」

 

 流石に厳しいかと思っていたストライク系列のレプリカが、値段こそ張るものの、そこには確かに鎮座していた。

 その箱には版元のロゴと、元のファイターから正式な許可を得た証であるパッケージアートに添えられた写真とコピーライト、そしてもう一つ、普通のガンプラには見られないロゴが版元の隣に押されている。

 コトモリ財団。聞いたことはないけど、レプリカキットの製作に何かしら噛んでいるのであろうその名前を一瞥して、俺は幸運にも残り一個だったその箱をカゴに放り込む。

 

「残り一個……危ねーとこだったな」

 

 色んな意味で奇跡を感じる。ガンダム的にいえば、俺、神様信じる! ってやつだろうか。

 とにもかくにもこれでベースの選定は終わった。あとは俺の中に構想だけが存在していた武装類のミキシングをするために必要なガンプラを買うだけだ。

 そんな具合にすっかり浮き足立って歩いていたのが悪かったのかもしれない。

 

 どん、と何かにぶつかったような鈍い感触が伝わってくる。

 どうやら他の客と体をぶつけてしまったらしい。

 

「すみません、俺、ぼーっとしてて……!」

「ああいえ、大丈夫です! 俺もちょっと考え事してただけですから!」

「リッくん、大丈夫?」

「ちょっとー、ちゃんと前見て歩いてくださいよー!」

「すいません……」

 

 金髪の眼鏡男子にリッくんと呼ばれていた、俺がぶつかってしまった同い年ぐらいの男子は、鼻の頭を指先で摩ると悪くないのにわざわざ頭を下げてくれる。

 友達と思しき赤毛の女の子はご立腹だったけど、ぐうの音も出ねえ。

 仮称リッくんさんが優しくなかったら、今頃俺は大分面倒な事態に巻き込まれてたことだろう。自業自得といわれればそれまでだけど。

 

「ええと……リッくんさん? 改めてすいませんでした!」

「リッくんさん……なんか面白い呼び方ですね。えっと、俺、リクです。ミカミ・リクっていいます!」

「リクさんか、さっきは本当に申し訳ない!」

「そんな! 俺だってぼーっとしてましたし……それに、リクでいいですよ!」

 

 なんだか大人びているというか礼儀正しいというか、俺よりよっぽど人間できてるな。

 リクはどこか照れ臭そうに笑うと、これもなにかの縁だとばかりに手を差し伸べてくる。

 

「俺はユウヤ。カミキ・ユウヤだ! ここで会ったのもなにかの縁だ、こっちもタメで構わねえ。よろしくな、リク!」

「はい!」

 

 俺もまたその手を握り返す。細身だけど、どことなく筋肉質な、だけどまだ柔らかい手だ。ただ、よく見れば脚は引き締まってるし、サッカーでもやってるんだろうか。

 詮索するだけ野暮ってもんか。でも、次元覇王流を習ったらいい線行きそうな身体をしてるな。習ってないのが惜しいぐらいだ。

 健全な精神は健全な肉体に、なんて古臭いことをいうつもりはないけど、その礼儀正しさもきっとスポーツマンシップから来ているものなのかもしれない。

 

「ユウヤさん、クロスボーンガンダムを探してたんですか?」

 

 リクの隣にいた金髪眼鏡の男子が、藪から棒にそんなことを問いかけてくる。

 

「よくわかったっすね、えっと……」

「あ、僕はヒダカ・ユキオです! ガンダム ベースって作品のシリーズごとに売り場が分かれてますから」

「そうだったのか……えっと、当たりっす。ビームザンバー? ってのが欲しくて探してたんです」

「ビーム・ザンバー……なるほど、ユウヤさんの選んだキットと合わせて……高機動近接型のビルドなんですね!」

 

 凄え。俺のカゴを見ただけで今から作ろうとしてたガンプラの方向性がわかるなんて、ユキオさんも、もしかしたら相当腕が立つビルダーなのかもしれない。

 ビームザンバーを選んだ理由は単純に格好いいってのもあれば、ヴァルガでクロスボーンガンダムと戦った時にピンときたのもある。

 マスダイバーの、「シャドウロール」の乱入でうやむやになってしまったけど、俺たちの中で相手のビームシールドを貫ける武器を持ってるのがチナツだけだ、ってのもある。

 マフユから聞いた話では、ビームザンバーはビームシールドを上から叩き斬れるらしい。だから、それをちょっとコズミック・イラ風にアレンジしてみようと思ったのだ。

 

「へー、あたしはよくわからないですけど、ユウヤさんもGBNやってるんですか?」

「一応っすけど……えっと」

「モモカ。ヤシロ・モモカです!」

「ああ、モモカさん!」

「もうこんな時間……すみませんユウヤさん、それじゃあ俺たち、GBNにログインするんで!」

「ああ、足止めして悪かったな、リク! あっちで会ったらその時はまたよろしくな!」

「はい!」

 

 スマホで時間を確認して、リクたち三人組はゲームブースの方に駆け出していく。

 リク、か。なんだか気風のいいやつだったな。

 そんなことを考えながら、なんともなしにポケットからスマホを取り出して時間を見れば、結構な時間が経っていた。そういや、俺ものんびりしてる暇はないんだ。

 

 確かX1だったはずの白いクロスボーンガンダムと何枚かのデカールを慌ててカゴに放り込み、俺は会計に早歩きで向かう。

 

「お会計の方、こちらになりまーす」

 

 愛想よく笑うエプロンのお姉さんがレジに表示した金額を、俺は思わず二度見した。いや、払えないわけじゃないけど。

 高額なレプリカキットを買ったせいか、多めに持ってきたはずのバイト代が結構ごっそりと削られる感覚にげっそりしつつも、これは先行投資、必要な買い物なのだと自分に言い聞かせて俺は万札に別れを告げる。

 さらば万札、お前のことは忘れないぞ。

 

 そんな冗談を頭の片隅に浮かべつつ、俺は会計を済ませた商品を手に、製作ブースへと引き返していく。

 全ては、ストライク焔の魂を連れた新しいガンプラを作るために。俺の想像を、「こうありたい」と思った心を形にするために。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「そこのパーツ、まだ傷付いてるわよ」

 

 製作ブースに戻って一時間近く。とりあえずはチナツとマフユの協力を得ながらパーツのやすりがけや必要な部分の接着と表面処理、そして使えそうなストライク焔のパーツの移植を済ませてサーフェイサーを吹いた素体を眺めて、チナツは自分のガンプラを組み立てながら、そう呟く。

 

「マジか、結構頑張ってやすりがけしたんだけどな……」

「一回で済むと思わないことよ、それに一回サーフェイサーを組んだまま吹き付けるのは、傷をチェックする意味合いの方が強いもの」

「なるほどな……」

「……と、特に……今回ユウヤ君がメタリック塗装をしたい、って言った部分は、傷の影響をたくさん受ける、から……」

「ありがとな、チナツ、マフユ! よし……また表面処理だ!」

 

 欲しかったパーツを寄せ集めて素組みする段階を二人が手伝ってくれたおかげで、予定してたよりも早く進捗は上がっている。

 だから、まだ焦る時間じゃない。

 ビームザンバーと、それをマウントするためのサイドアーマーをクロスボーンガンダムX1から持ってきた素体を手に取って、俺はストライク焔と同じメタリックオレンジに塗る予定だったところに、細かい番手でのやすりがけを慎重にやっていく。

 

 ビームザンバーは、確かザンバスターとかいう合体銃になる機構を省いた代わりに、先端をちょっとだけ改造してある。

 そしてストライクの腕も、微妙に構造を変えて、他のキットから持ってきたパーツを接着してある。

 

「えっと……ユウヤ君、ここに隙間ができてるから、パテで埋めておく、ね……?」

「ごめん、ありがとなマフユ!」

 

 ただ、その接着面に微妙な隙間ができていたらしく、マフユはメタリックオレンジに塗る予定だったパーツを一通り取り除いたストライクの素体を手に取ると、あらかじめチナツが用意していた粘土のような物体を爪楊枝でそっと詰め込む。

 パテ、っていうのかあれは。知らないことばかりで、ガンプラの奥の深さと、俺がまだまだビルダーとしては未熟だということを思い知る。

 消したつもりの合わせ目が凹んでいないか、そして二度目のサーフェイサーを吹き付けてメタリック塗装を予定しているパーツに傷がついていないか。

 

 確認しなきゃいけないことや、やらなきゃいけないことは沢山だ。

 だけど、その一つ一つをクリアしていくことが、その一つ一つに挑戦していくことが、俺とストライク焔を高みへと押し上げてくれるなら、全力でやる他にない。

 

「ふむ……少年、そこのパーツはメタルパーツに置き換えないのかい?」

「メタルパーツ?」

「なに、そのままそっくりその通りの意味さ。金属製のパーツだよ。その銃口……ビームサーベルの余剰を利用して作ったのは素晴らしい発想だけど、より威力を高めたいならそれもおすすめさ」

 

 無理にとは言わないけどね、と前置きすると、トワさんは机の上に横たわっていた二丁のビームピストルを手に取って、穴が空くように凝視する。

 なるほど、それもまた課題の一つってことか。

 サーフェイサーを吹いたパーツからほぼ完全に傷が消えていることに安堵していたのも束の間、新しい壁が聳え立つ。

 

「わかりました、俺、メタルパーツ買ってきます!」

「ああいや、ここでは売ってないよ、少年。半ば公認されてるとはいえ、外部製品だからね」

「マジっすか……」

 

 使おうと思ったものが売ってないってのは中々にショックというか、やるせない思いが漂ってくるな。

 俺が肩を落とすことを見透かしていたかのように、トワさんはぽん、と俺の肩を叩くと、手のひらに何か金属みたいな光沢を放つ小さなパーツが入っている小さな袋を乗せて、差し出してくる。

 

「なに、気落ちすることはない。そんなわけでトワさんからのプレゼントさ、受け取ってくれたまえよ」

「これがメタルパーツ……いいんですか?」

「構わないとも。ただし組み付け方は少年、君が調べてくれたまえよ」

「わかりました!」

 

 ビームピストルもどうやら修正が必要になってくるようだ。トワさんが机に置いた二丁を手に取って、俺はまずビームサーベルの余剰で作った銃口を引き剥がす。

 当然表面は荒れてるからそこにやすりを当て直して、トワさんからもらったメタルパーツを、作業の片手間に調べた通りに接着して。

 チナツが貸してくれたプライマーとやらを塗布することで、とりあえずは乾燥待ちってことで一段落。冗談でもなんでもなく、全身の力が抜けそうだった。

 

「つ、疲れる……」

「そ、ガンプラと向き合うって思ったより体力と集中力持ってかれるでしょ?」

「ああ……本当、チナツも、マフユも、トワさんも……ありがとう。皆が手伝ってくれなきゃ、俺……」

「おっと。感傷に浸るのは完成してからだ、少年。まだまだ工程は残っているよ?」

「……マジっすか……」

「が、頑張ろう……ユウヤ君。私も一緒に頑張る、よ……?」

「ありがとな、マフユ……よし、気合入れ直していくか!」

 

 ぐっ、と拳を固めて、上目遣いに瞳を覗き込みながら囁いてきたマフユの言葉に応えると、俺はまずマフユが腕の隙間に詰めてくれたパテの成形に着手した。

 これははみ出たところを削るだけで終わるから楽な方だ。

 だけど、今度は詰めたところに隙間ができてないかとかを確認しなきゃいけないから、気を抜いていい訳じゃない。

 

 そうして、いつか「クオン」さんがやってたようにKPSのプラ板を切り出して、俺が構想しているユニットの接続アームを作ったり、そのズレを修正するためにもう一度やすりがけをしたり──思えば、やすりかけてばっかだな。

 それはともかく、あれこれと必要な作業をしている間にもあっという間に時間は過ぎていって、本塗装に入れたのも、ほとんど夕陽が沈みかけていた頃だった。

 

 ただ、エッジのシャープ化だとか、額のパーツは元のクリアパーツを活かしたりだとか、成型の都合上色分けされてない部分をマスキングて塗り分けしたりだとか、あれこれ手間をかけてきただけはある。

 本塗装が済んで仮組みを済ませる頃には、概ね俺が思い描いていた通りのストライクが作業机の上に直立していた。

 

「こいつが、俺の思い描いた新しいストライク……!」

「ふーん、アンタにしては悪くないわね」

「ユウヤ君、凄く頑張ってたから……それが、とっても伝わってくる、よ……」

 

 あとは細々したデカール貼りとか、作業はまだ残ってるけど、それはマフユが協力してくれるおかげで、どうにか閉店前には終わりそうだ。

 トップコートを使い分けるために一旦メタリックオレンジのパーツを分解し、貼れそうなパーツに切り出したデカールを貼り付けていく。

 この辺は記録映像の見様見真似とフィーリングだけど、デカールを貼り付けるとなんとなく「本物」っぽくなっていく感覚は小気味いい。一人でやったら気が遠くなりそうだけどな。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「大体こんなもんか……って、もうこんな時間か」

「集中してしてると、時間が早く感じちゃうよ、ね……」

「ああ、でもトップコートは多分間に合う! 今まで手伝ってくれてありがとな、マフユ、チナツ、トワさん!」

 

 俺は心の底から感謝を込めて、三人に腰を折って頭を下げた。

 

「どういたしまして。アタシは自分の作業と並行してだったからあんまり役に立てなかったかもだけど」

「……私も、ユウヤ君のお手伝いができてたなら、嬉しい、な……えへへ」

「なに、礼には及ばないよ少年」

 

 チナツはどこか素直じゃなくて、だけど確かに礼を返してくれて。マフユは照れてしまったのか、顔を真っ赤に染めながら柔らかくはにかんで、トワさんは腕を組んで静かに頷いて。

 まさしく三者三様といった感じの反応に俺も安心するやらありがたいやらでどこか照れくさくなって、小さな笑いが込み上げてくる。

 

「そして少年、トワさんからの最後のプレゼントを受け取ってくれたまえ」

 

 鷹揚に頷いていたトワさんはアタッシュケースの中から小瓶を取り出すと、それを俺の手に握らせてきた。

 見た感じ、微かに虹色の輝きが揺らめく透明な液体って感じだけど、なんなんだろうか。

 

「ありがとうございます! それで……なんっすか、これ?」

「それはプリズム光沢トップコート……トワさんが研究開発した、パールコートともまた違う塗料さ。詳しい原理はさておくとして、こいつは輝きを増す分メタリック塗装と相性がいい。かの『ヨノモリ塗料』のコート剤にも勝るとも劣らない……と、トワさんは思っているよ!」

 

 研究開発したって。

 この人の本職がなんなのか一瞬気になって呆気にとられたけど、ネトゲの知り合いのリアルを、当人が望んでなさそうなのに訊くだけ野暮ってもんだ。

 

「ん? ああ、トワさんのリアルなら研究者だよ。ちょっとばかり塗料の研究をしていてね」

 

 将来的にはゲーミング塗料とか作ってみたいねえ、と、俺の心を読んだかのようにそう言うと、トワさんは目を伏せて頷いてみせる。

 ゲーミング塗料か。約一千万だったかの色に輝く塗料ってのはイメージつかないけど、多分このトップコートも、その過程で生まれたものなんだろう。

 

「ありがとうございます、俺、早速使ってみます!」

「うむ、希釈済みだからそのままエアブラシに入れるだけで使えるよ、少年」

 

 言われた通り、エアブラシに充填したそのプリズム光沢トップコートをメタリックオレンジのパーツに吹き付ければ、メタリックカラーが光沢を帯びるだけじゃなく、その輝きに複雑な深みが生まれる。

 ヨノモリ塗料とやらがどんなものなのかはわからないけど、トワさんの塗料は、俺にとって十分すぎるほど凄いものだった。

 

「凄え……これであとは本体につや消しを吹けば……!」

「いいコントラストが生まれるだろうねえ。さてさて少年、善は急げだ。そろそろ蛍の光が聞こえてきそうだよ」

「はい!」

 

 ガンダムベースの塗装ブースに乾燥機が置いてあって助かった。

 もう夜の帳は降り切っている。もしなかったら、とっくに蛍の光が流れているところだったはずだ。

 つや消しをある程度組みつけてから吹き付けて、乾燥したら関節や可動部を曲げて、隠れていた隙間もちゃんとコートして。

 

 そうして最後の組み立てを終えれば、俺の思い描いた新たなストライクが、作業机という名の大地に立つ。

 

「完成したのね。いいじゃない」

「わぁ、凄い……!」

「うむ、『愛』を感じるいい出来だねえ……時に少年、この機体の名前は決めてあるのかい?」

 

 チナツたちは、完成した新たなストライクを色んな角度から眺めて、それぞれに感想を口に出す。

 そして、トワさんから投げかけられた問いに、俺はこいつを組み上げた時から、いや、きっとその前から決まっていた名前を、「こうありたい」という願いを、チナツに、マフユに、そしてトワさんに向き直って、言葉に紡ぐ。

 

「ストライクガンダム……俺の『好き』って気持ちと『挑戦』を形にしたガンプラ、こいつの名前は……ストライクガンダムスフィーダだ!」

 

 しれっと塗装の乾燥待ち中にスマホで調べていた「トライ」の言い換えを、チャレンジャーとして常に挑み続けたいという俺の願いと、ストライク焔の魂を名付けの祈りにして、新たなストライク改め、ストライクスフィーダへと託す。

 何事にも挑み続ける。どんなに高い限界だってかき消して、限界なんかないと自分に言い聞かせ、いつか高みに上り詰めるという思いと願い。

 それこそが、俺の「挑戦」なのだから。




交わる旅路と新たに生まれる猛き焔

Tips:
・ヨノモリ塗料(出典:「青いカンテラ」様作「サイド・ダイバーズメモリー」)……かつてGPD時代にその名を馳せた高品質な塗料。特に対ビームコーティング剤などは人気が高く、その性能に比例して値段も高いのだが、愛好者は一定数存在したとか。

・コトモリ財団(原案:「麻婆炒飯」様)……GPD時代に名を馳せたファイターのレプリカキットを作るのに一枚噛んでいる、世界ガンプラバトル協会の全身的な組織。これにはGPDやそれ以前の戦いの記録を残しておく、という意味合いが強く、時代を駆け抜けていったファイターたちの戦いを風化させないために、日夜影ながら奮闘しているようである。
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