「ユウヤ! ハルートがそっちに行ったわよ!」
「ああ! 迎え撃つ!」
データリンクを通して聞こえてくるチナツの警告が、通信ウィンドウごしに響き渡る。
あの「鉄仮面ズ」と戦った翌日、俺たちは溜まっていたフォース戦依頼を片付けるために、断りの返事を出したり引き受けたりしていたわけなんだけど、それでも尚メッセージボックスには多数の依頼が山積みになっている有様だった。
有名フォースを倒した新進気鋭のフォースだとかなんとか言われてるけど、正直そんな実感が湧いてこない──とか言ってる暇もなく、対戦相手に選んだフォース「トゥルブレンツ」のハルート最終決戦仕様が、漆黒の宇宙を切り裂くようにシザービットを展開して急襲をかけてくる。
「ビットなら撃ち落とせばいい!」
『ふっ……落とされることはわかっている! トランザム!』
「こいつ、まさか……!」
押し寄せてくるシザーピットをビームピストルで叩き落としながら、本体の攻撃に備えていた俺をスルーして、トランザムを発動したハルートはその脇を通過していく。
ビットに気を取られていたけど、俺を攻撃しないんならこいつの狙いは。
嫌な予感が脳裏をよぎる。
「きゃあ……っ!」
「マフユ!」
果たしてその予感は当たりだったようで、後方で砲撃態勢を取っていたマフユに、ハルートはGNソードライフルを連射しながら吶喊していた。
シザービットは撃ち落とした。
今からフォローに入れば間に合わないこともない。
そう思ってバーニングバーストを発動した刹那、またロックオンされていることを示すアラートがコックピットに鳴り響く。
いつの間に近づいてきたのかは知らないけど、マニューバストライカーを装備したエクリプスガンダムがビームサーベルを構えて、俺の背後に迫っていた。
「ビームシールドは、間一髪か……!」
『悪いけど、君たちの戦術は完全に研究させてもらっている! リーダーの邪魔はさせんよ!』
「高機動型で固めてんのもそういうことかよ……! だったらこいつも受けてみろ! 次元覇王流、弾丸破岩拳!」
『ぬううううっ!』
リュミエール・ザンバーを抜き放つには、相手が接近しすぎている。
ビームピストルを放棄した俺は、いつも通りの徒手空拳で、おそらくはミラージュコロイドを使って接近していたのであろうエクリプスガンダムに殴りかかった。
ただ、相手もそれは織り込み済みだったのか、攻撃のモーションをキャンセルすると即座にビームシールドを展開、弾丸破岩拳を受け止めようと試みるが。
『やはり噂通りの威力か……! だが、ヴィント!』
『了解した、無茶は承知!』
「こいつ、自分を囮にして……!?」
「ごめん、ユウヤ!突破されたわ!」
発生器を通してフレームに浸透した衝撃でエクリプスガンダムの左腕はひしゃげて潰れていたものの、相手が組み立てた戦術の代償だと割り切るなら、損害はこっちの方が大きい。
ランスの代わりにメガキャノンを装備しているトールギスFが、チナツの狙撃を掻い潜ってハルートと合流する。
ジェニもそのフォローに回ろうとしてくれていたけど、付かず離れず、次元覇王流の射程とプライドマスターの機動力を見た上で立ち回っているΞガンダムに釘付けにされている状態だ。
つまるところ、俺がエクリプスを片付けるか、チナツが合流するまではマフユが何とか自分で持ち堪えるしかないってことになる。
高機動かつ複雑なマニューバで飛び回るハルートとトールギスFを、光の翼を広げたチナツのウイニングロードアストレイが追撃しながら狙撃するものの、そのことごとくを二機は掻い潜って進む。
『どこを見ている、まだ戦いは終わってないぞ!』
「そうだな、だったら終わらせてやる! 次元覇王流、流星螺旋拳!」
エクリプスガンダムが振り下ろしたビームサーベルと、パルマ・フィオキーナの光、そしてバーニングバーストの炎を纏った拳がぶつかり合う。
機動力に振ってる分、パワーの面じゃ多少劣るかと思ってたけど、そんなことはないみたいだ。
けどな。
「だったらこうだ……俺はお前だ、お前は俺だ! イクシードチャージ発動、バーニングバーストシステム、出力百二十パーセント!」
『くっ、急にパワーが上がって……!?』
「悪いけどな、強引に踏み倒させてもらうぜ!」
一瞬、閉じた目蓋の裏側に、俺は赫く輝く太陽を見る。
ストライクスフィーダと繋がったような感覚を抱きながら、エクリプスガンダムのビームサーベルが拳を押し返そうとする圧力を右手に感じながら、バーニングバーストシステムの出力を引き上げていく。
メタリックオレンジのパーツを増やしたのと、腕に増設したラジエーターのおかげで余剰出力を逃がせるようになったスフィーダだからこそ出せる、限界を超えた力。
真剣勝負を楽しみたい気持ちはあるけど、挟み撃ちを喰らっているマフユのフォローに入るためにも、このエクリプスだけでもさっさと撃墜しておきたい。
その一心で俺は、右腕に力を込めて、ビームサーベルの刃を打ち砕く。
『バカな……っ!? だが、それだけの力を出せば反動も……!』
「それなら克服済みだ! いくぜ! 次元覇王流……蒼天紅蓮拳!」
『ぐ、うわあああっ! すまない、リーダー!』
体勢が崩れたエクリプスガンダムのコックピットに全力のアッパーカットを叩き込んでそれを貫くと、レーダーと通信を使って、マフユの状態を確認する。
トランザムを発動しているハルートと、それについていけるだけの機動力を持ったトールギスF。その二機に挟まれていたということもあって、G-エクリプティカはなんとかその追跡を振り切ろうと抵抗していたものの、すぐに追いつかれてしまっていた。
マフユがトランザムを発動していてもこの状態なんだから、はっきりいってかなりまずい。
ハルートのGNソードライフルから放たれる連射ビームが火線を作り、そこから逃れようとしたG-エクリプティカを狙って、トールギスFのメガキャノンが放たれる。
「きゃあっ……!」
「マフユ!」
「ごめんなさい、ユウヤ君……私……」
逃げ場を意図的に作った上で強力な攻撃の射線に追い込む。
戦術としては常套手段なものの、マフユが使えそうな武器がビームサーベルと、足が止まる腰のヴェスバーしかなかった以上、ハルートを相手にしても足が止まって、逃げればメガキャノンが待っていてという、当人からすれば地獄のような状況だ。
撃墜されてしまったのも仕方ないことだろう。
マフユは表情を暗くして、俯きながら謝ってくれたけど、仕方ないものは仕方ない。
とはいえ、俺がエクリプスを落とした以上、数としてはこれで三対三。厄介になりそうなのはあのハルートとトールギスFの連携だろう。
だったらこっちも、得意な形に持ち込ませてもらうだけのことだ。
「チナツ!」
「わかってるわ!」
『おのれ!』
マフユを討つために足を止めていたトールギスFのメガキャノンごと、その右腕をチナツが撃ち抜く。
これで当面の驚異はなくなった、と言えるほどではないにしても、相手のアタッカーは火力が一枚落ちしたことになる。
ジェニが上手いことファンネルミサイルを回避してΞガンダムを引き付けてくれている間にハルートとトールギスFを分断、各個撃破で片をつけるのが、いってみれば俺たちの戦術だ。
脳筋といわれればそれまでの話だけど、それがどうした。
要するに最終的に全員倒せば済む。そのためにスフィーダは近接火力と機動力に振ったカスタマイズを施しているのだ。
チナツがトールギスFをターゲットにしてくれたことを確認し、現状では多分最も厄介なハルートを狙って、俺はスフィーダのスラスターを全力で噴かす。
『俺とハルートに追いつこうなどとは! 事前の調べはついている、こちらはトランザムで一段上を行くんだ! そう簡単にはいかせるものか!』
「だったら無茶を押し通す! バーニングバースト、百四十パーセントだ!」
ストライクスフィーダが発する炎がその勢いを増して、流星のような軌道を描くハルートにそのまま追いすがる。
相手はデブリ帯に逃げ込むことで機動力勝負を仕掛けてきたようだけど、面白え。
どっちがやるかやられるか、あるいはデブリに当たって宇宙の藻屑になるか、一か八かの勝負を挑んできたってんなら負けられない。
リュミエール・ザンバーを引き抜いた俺は、ハルートをロックしつつ、デブリをギリギリのところで回避しながらそのまま距離を詰めていく。
それに、最悪デブリ程度ならリュミエール・ザンバーで斬れなくもないし、追加ブースターで脚が長くなっている都合、直線加速力はともかくとしても、小回りだったらこっちの方が利くはずだ。
振り向いてGNソードライフルから弾を連射するハルートもそれに気付いたのか、追いかけっこをやめにして、真っ向勝負を挑むことを決めたようだった。
『くっ……「トゥルブレンツ」の誇りにかけてこの勝負、負けるわけにはいかない!』
「いいねえ、そういうの……でもな、こっちだって負けてらんねえんだよ!」
『ならば!』
「拳で語り合う!」
ソードモードに切り替え、交差することで防御体勢を取った相手のGNソードライフルの刃と、俺が振り下ろしたリュミエール・ザンバーがぶつかり合って火花を散らす。
これがエクリプスの時みたいにビームサーベルだったなら「ビームを斬る」特性で事を有利に運べたんだろうけど、贅沢はいっていられない。
「うおおおおっ!」
『トランザムでパワー負けしているだと!?』
鍔迫り合いを強引に押し切って、ハルートを背中からデブリに叩きつけると、俺はすかさずリュミエール・ザンバーを腰にマウント、できた隙を狙って拳を突き出す。
「次元覇王流、聖拳突きぃッ!」
『ぐああああっ! ヴィント、ホーゼ、あとは任せたぞ!』
『リーダーっ!』
「よそ見をしてる暇なんて、与えないわよ!」
「……今までの攻撃で弾が尽きたのね」
『言ってくれる!』
聖拳突きでコックピットを貫かれたハルートのダイバーは仲間たちに後を託したようだったけど、数的優位はこっちが取ってる上に、トールギスFは手負いの状態だ。
ジェニと戦っていたΞガンダムも、今までの攻撃でファンネルミサイルや各部のミサイルを撃ち尽くしていたのか、攻め手が大分緩んでいる。
そして俺がフリーなら、やることはもう決まっているだろう。
「チナツ、トールギスFは任せた!」
「任されたわ! アンタはジェニを!」
「ああ、わかってるぜ!」
実弾の類を撃ち尽くしたとはいえ、ダメージらしいダメージを受けずに立ち回っていたΞガンダムを放置しておく選択肢はない。
ジェニも今までは弾幕に圧されて回避重視で立ち回っていたものの、反撃の時は来たとばかりに、アグレッシブにΞガンダムへと攻めかかっている。
バーニングバーストの出力はまだまだ衰えていない。いかに巡航形態に変形したΞガンダムが相手でも、やれるはずだ。
「ジェニ、合わせられるか!?」
「合わせてみせる」
『拳法使いが二人……! 振り切れるのか!?』
いいや、振り切らせねえ。
その言葉に代えて機体を加速、Ξガンダムの背後をとる形で、さっきハルートとトールギスFがマフユにやっていたように、ジェニと俺で相手を挟み撃ちにする。
悪いけど、これで終わりにさせてもらう。
アロンダイトを引き抜いたチナツのウイニングロードアストレイがトールギスFの左腕と翼を切断、そのままの勢いで胴体を横薙ぎに斬り裂いたのを一瞥し、俺とジェニは呼吸を合わせる。
『次元覇王流、流星螺旋拳!』
『く……っ、身構えている時は、死神は来ないはずだ!』
Ξガンダムが宙返りからの急上昇でそれを避けてみせたことでプライドマスターとストライクスフィーダがニアミスを起こしかける。けど、それも織り込み済みだ。
機体を急速制動、互いにぶつかり合う寸前で停止して、俺たちはつがえた二の矢を放つ。
『次元覇王流、蒼天紅蓮拳!』
『作戦は完璧だったはずだ……なら、個々の強さで負けていた、か……』
Ξガンダムのダイバーは、それだけを言い残してテクスチャの塵へと還っていく。
実際、相手の作戦自体は脅威だった。
恐らくはマフユを真っ先に仕留めて、数的優位を確保しようという魂胆だったのだろう。
「ありがとうな、ジェニ」
「脅威になりそうなものから対処する。当然のこと」
「だとしてもだよ」
「……そう。私も、ありがとう」
その作戦の第一段階は成功していたといえるし、俺自身も大分振り回された。
これでΞガンダムまでフリーになっていたら負けてたのは恐らくこっちだっただろう。意図せずにタンク役を担ってくれていたジェニに感謝しつつ、アシムレイトと緊張の糸が解けたことで押し寄せてくる脱力感にほっと息をつく。
今日のフォース戦も勝つには勝ったけど、やっぱり相手がわざわざ言ってくれたように、こっちの戦術は研究し尽くされているといってもいいだろう。
戦術というか、個々の力で正面突破を図るという極めて脳筋かつ単純なものではあるんだけど、その分対策もしやすければ、逆に有利な状況から捲られもする。
つまり、ここから先の戦いにスタイルを変えずに挑むのであれば、俺たちに試されるのは、個々の力量ということになるのだろう。
連携らしい連携をしてないわけじゃないけど、どっちかというとスタンドプレーから生まれる結果的なもんだしな。
逆に考えるのなら、そういう戦術を練った上で戦うって道も残されてはいるのだろう。
ただ、悲しいことに俺自身がそういう頭を使う戦術をあまり得意にしてない都合、そっちの方針で行くならチナツやマフユに丸投げするのは確定事項だ。
実際、戦闘中に戦場を俯瞰して指示を下してるのはほぼチナツだからな。
【Battle Ended!】
【Winner:トライダイバーズ】
それはさておき、システム音声が「トライダイバーズ」の勝利を告げたことで俺たちもまた、セントラル・ロビーへと解けていく。
「……」
「マフユ?」
「……あ、ううん。なんでもない、よ……? ちょっと、ぼーっとしちゃってて……」
「そっか、悩みとかあったら、遠慮なく言ってくれよな!」
「……うん」
撃墜を示す灰色の通信ウィンドウ越しに見たマフユの表情に一瞬影が差していたように見えたから、何かあったのかと問いかけてみたけど、とりあえずは大丈夫そうだった。
遠慮がちにはにかみながら、眦に少し涙を滲ませたマフユはいつも通りに小さく頷いて、ロビーへと転送されていく。
俺もまた、ゲームの中で再ログインするような感覚を抱きながら、帰還を果たすのだった。
◇◆◇
「さすがはあの『鉄仮面ズ』を倒しただけはあるね、凄い実力だったよ」
「ありがとうございます! っていっても、ほとんど力押しでしたけどね」
ロビーに帰還した俺は、一足先に戻っていた「トゥルブレンツ」のリーダー……ハルート最終決戦仕様を操っていたダイバーである、「ペンスロット」さんと健闘を称え合っていた。
俺より少し背が高い、癖毛の黒髪にソレスタルビーイングのパイロットスーツという格好をしたペンスロットさんのダイバールックは、どことなく刹那・F・セイエイを思わせる。
だけど、乗ってるのはハルートだし、パイロットスーツの色はロックオン・ストラトスを思わせる緑色だ。
なんというか、一人ガンダムマイスターズって感じだな。ティエリア要素ないけど。
そんなことを薄らぼんやりと頭の片隅に浮かべながらも、俺はペンスロットさんが差し出してきた手をとって握り返す。
少し何かが違ってれば、どっちが負けてもおかしくないような戦いだった。そういう意味じゃ、いい戦いだったんだろう。
「ところで君たちは、そのスタイルを貫くつもりなのか?」
ペンスロットさんは、どこか真剣な表情で俺たちにそう問いかけてくる。
近接型が二人、オールラウンダーが二人という「トライダイバーズ」の構成自体は、GBNでも珍しいものじゃない。
ただ、あの人が心配してるのはその近接格闘型をやってる俺とジェニのリーチが短いことを心配しているのだろう。
「はい、俺は……俺の次元覇王流で行けるとこまで行ってみたいんです」
「そうか……だが先達として一つだけ忠告させてもらうのなら、君たちの道は険しいよ、ユウヤ君」
「わかってます、だから……日々、腕とガンプラを磨いていきます!」
「……真っ直ぐな目だ。俺も、ガンプラを見直して初心に帰る時かな。余計なことを言ってすまなかったね」
「いえ、大丈夫です!」
「ありがとう、ユウヤ君」
それじゃあ、再戦の機会があったらまたよろしく頼むよ。
そう言い残し、ペンスロットさんたちは踵を返して去っていく。
戦いに次ぐ戦い。あの人が警告してくれたようにそれが茨の道だとしても、俺とスフィーダが、俺たち「トライダイバーズ」がどこまで行けるのか、それも含めての「挑戦」だ。
──だったら、背中を向けるわけにはいかないよな。
そう振り返って親指を立てれば、チナツもそれに笑顔で応じてくれて、ジェニも控えめながら目を伏せて小さく頷く。
そしてマフユも遠慮がちにはにかみながら、小さく首を縦に振る。
ただ、恥ずかしげに顔を赤らめて俯いてしまったことで、その表情はよくわからなかった。
挑戦は続く