ガンダムビルドダイバーズ:トライ   作:守次 奏

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新緑の芽吹きと共に初投稿です。


Ep.05「黄道のG」

 マフユとの再会は、その日の夜に果たされた。

 エンドレスワルツを見た興奮も覚めやらない夜の九時。

 最低限の勉強やら身支度を終わらせた俺は、地球連合の軍服を着崩したダイバー「ユウヤ」として、GBNのセントラル・ロビーに降り立っていた。

 

「あっ……ユウヤ君、だよね……?」

 

 俺の姿を視認するなり、一足先にログインしていたのだろう。リアルで着ていたのと似たようなゴスロリ衣装に身を包んだダイバーこと、マフユが問いかけてくる。

 

「おう、俺は俺だぜ!」

 

 なんだか胡散臭い受け答えになってしまったような気がするけど、マフユはほっと息をついて胸を撫で下ろしていたから、多分伝わってるのだろう。

 だからこの状況を良しとする、ってのはチナツの親父さんの口癖だったか。

 

「……よかった……その、人違いだったら、どうしようかなって……」

「まあ確かにそれは心配だよな」

 

 フレンド申請を送り合って三日が経ってはいたけど、こうしてお互いにGBNで顔を合わせるのはあのマスダイバーをぶちのめした時以来だ。

 それに俺の方が先にログインしてたら多分似たようなことしてただろうしな。

 

 別に人違いをしたからなんだってわけでもないけど、恥ずかしいものは恥ずかしい。見た感じ照れ屋なマフユからするとそりゃもう大変なんだろう、きっと。

 

「えっと……じゃあ、ユウヤ君。その、何しよっか……?」

「何って……ああ、ミッションとか!」

 

 そういやこの前マスダイバーをぶちのめしたおかげでダイバーランクとやらがFからEに上がっていたんだっけか。

 確か、このダイバーランクってやつは上がれば上がるほどいい、というかある程度の実力の指標になっていて、チナツのやつはAランクだとか自慢してた記憶がある。

 A、B、C、D……指折り数えてみれば随分遠いな。

 でも、それだけ伸び代が、上にのし上がるための余白が残されてると考えると、逆にわくわくしてくる。

 

「んー、ミッションかあ」

「……どうしたの、ユウヤ君……?」

「ああいや、このダイバーランクってのを上げるのって、やっぱバトルした方が上がりやすいのかと思って」

 

 基本は大事、初志貫徹で行こうとは思ってこそいるけど、それでも俺が何のためにGBNを始めたのかを考えれば、それは「想像を超えた戦い」をしたかったからで。

 つまりやりたいことを優先すると必然的に、対人戦が浮上してくるのだ。

 マスダイバーのあれはノーカンだ。だってフェアじゃないからな、あんなの。

 

「うん……基本的に、上を目指してる人は皆、バトルでダイバーポイントを稼いでるの……」

「へえー、ってことはミッションって」

「うん……救済措置の意味もあるんだけど、ミッションもミッションで楽しい、よ?」

「それもそっか、焦ったところでどうにもなんないしな」

 

 対人戦を始めるならどれぐらいのランクまで上がってからがいいのかとか、あとでチナツに聞いておくか。

 ともかくじゃあEランクミッションを進めていこう、ということで俺とマフユの間には一つの合意が形成されたんだけど、ちょうどその時だった。

 

「あの、すみません……」

「はい、何ですか?」

 

 どことなく気まずそうな笑みを浮かべた、うだつの上がらない……っていったら失礼に当たるんだろうけど、そんな印象のダイバーが、長身を屈めて俺とマフユに視線を向ける。

 見たところ、あのヤスだとかマスダイバーみたいな悪意というか、そういうものは感じない。

 むしろ、見ての通り本気で困っているようだった。

 

「ああうん、僕はトッドっていうんだけど……君たちがバトルの話してたから、ちょっとお願いがあって話しかけさせてもらったんだ」

「……お願い、ですか?」

「ああうん、その、情けない話なんだけど最近フリーバトルの掲示板で募集かけたらマスダイバーに当たっちゃってさ、それ以来、掲示板でちゃんとしたバトルを申し込むのがどうにも怖くなって……」

 

 トッドと名乗った長身痩躯のダイバーは、眼鏡の蔓を指で押し上げながら、困ったようにそう零した。

 マスダイバー。また聞いたその名前は、決して気持ちいいものじゃない。

 マフユみたいな子を狙ったり、純粋にバトルがしたいだけのトッドさんを狙ったり、とにかく他人の善意だとか気持ちを踏みにじるやつは許しちゃおけねえよな。

 

「なるほど、それで俺たちとバトルしたいってことですか?」

「うん、まあ……ランク的にも君たちに近いと思うし、僕たちも二人組だから……どうかな?」

「俺は一向に構いませんけど……」

 

 個人的には大賛成だけど、二人で遊ぶって約束をしている都合、マフユがどう思ってるかについてを無視して受けるのは筋が通らない。

 そのマフユに視線を向ければ、大きなリボンでお……お嬢様結び? に結わえた髪の毛の先を指先でくるくると巻き取りながら、もじもじとしながら、俺とトッドさんの様子を頻りに伺っていた。

 三日前にあんなことがあった以上、フリーバトルを警戒するのは無理もない。

 

 じっ、と見つめられる中で何度か浅い呼吸を繰り返すと、マフユは意を決したように小さく頷いて、話を切り出す。

 

「えっと……その、私は……ユウヤ君が、いいなら……」

「本当か? 無理してないか?」

「うん……一緒に遊ぶって、決めてたから……」

 

 マフユの瞳は頼りなく揺れていたけど、それでも芯にある確かな意志のようなものは俺にも感じ取ることができた。

 その覚悟は本物だ。

 目を見ればわかる。

 

「よし、それじゃあお願いします、トッドさん!」

「うん、ありがとう。いい試合にしよう」

「こちらこそ、胸を借りるつもりでよろしくお願いします!」

 

 フリーバトルの申請を送り合って、俺たちは戦場となる場所に向かうため、格納庫へと移動していく。

 この意識が解けて再構築される感覚にはまだ慣れそうもないけど、その内何とかなることだろう。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 バトルの舞台に選ばれたのは、鬱蒼と茂っている木々が立ち並ぶ森の周辺だった。

 夜なのもあって、視界は悪いどころの話じゃない。

 俺のストライク焔と、マフユのガンダムはいつどこから敵が来てもいいように背中合わせになりながら周囲を警戒し、バトルフィールドの中を進んでいた。

 

「そのガンダム……えっと、エアマスターだっけ? すげー軽い感じで動くんだな」

「……えっと、うん……GNドライヴを移植してるから、それと……」

「それと?」

「……この子の名前、G-エクリプティカっていうの。ベースはエアマスターだけど……」

 

 G-エクリプティカ。それがマフユだけのガンダムに付けられたこの世でたった一つの名前なのだろう。

 

「G-エクリプティカか、覚えた! いい名前だな!」

 

 エクリプティカってのがどんな意味なのかはわからないけど、ガンダムをあえて「G」に縮めるそのセンスはSEEDの劇中に登場した「G兵器」という呼び名を彷彿とさせて悪くない。

 

「……ありがとう。それと……来るよ……!」

「来るって……そうか!」

 

 マフユのG-エクリプティカは俺のストライク焔より先に接近する敵をレーダーで捉えていたのだろう。

 夜の闇に溶け込むようにして背後から襲いかかってきたその機体は、全体的に視認しづらい色で塗装されていた。

 

「なんだこいつ!?」

「ハンブラビ……! 電撃武装を持ってるから、気をつけて……!」

『こちらの動きを気取られたか! トッド!』

『ああ、わかってる! 行こう、ジョー!』

 

 エイみたいな見た目をしてる見づらい方はハンブラビというらしい。

 そのハンブラビに乗ってたダイバーが、トッドさんの名前を呼ぶなり、コックピットにはアラートが鳴り響き、俺とマフユを分断する。

 

「あっちはガブスレイ……どっちも変形できる機体だから、気をつけて、ユウヤ君……!」

「おう!」

 

 威勢良く答えたとはいえ何を気をつければいいのやら。

 ただ、ハンブラビの方は俺じゃなくてどうやらマフユの方を狙っているらしく、背中のビームを撃ちながら、クロスレンジに飛び込もうとしていた。

 

「マフユが狙いか!? させるかよ!」

『悪いけど、それはこっちの台詞だよ……!』

「なんだ……っ!?」

 

 マフユの救援に入ろうとすれば、森を隠れ蓑にしてどこかに潜んでいるトッドさんのガブスレイが、高出力のビームで俺を牽制する。

 レーダーは確かに相手の位置を捉えているけど、森に紛れ込まれたんじゃ分が悪い。

 

 それに、こうしてまごついている間にも相手はマフユを追い詰めて、二対一の盤面を作ろうとしているのだろう。

 俺のストライク焔も射撃武器は持ってるけど、それはあくまでクロスレンジに飛び込むための牽制用みたいなものだ。

 まともに射撃戦をしようとしたところで、力負けするのは目に見えている。

 

 だったらこの状況をなんとかする手段は、ガブスレイが撃ってくるビームを避けながらハンブラビに詰め寄って、相手をクロスレンジで逆に叩くぐらいだ。でも。

 

「速ぇえ……!」

『そうだろう! このハンブラビは空戦に特化するためにギリギリまで軽量化を施しているんだ!』

 

 ジョー、というらしいダイバーは、スラスターを全開にした俺のストライク焔を容易く振り切って、そんなことを言ってのける。

 エールストライカーは確かに速い。だが、餅は餅屋という言葉があるように空中戦じゃよっぽど突き抜けた機動力を持ってない限り、可変機の方が基本的に有利だ。

 悔しいけどそれは認めざるをえない。

 

 のらりくらりとビームピストルによる牽制も避けられて、ハンブラビはマフユのG-エクリプティカに肉薄する。

 万事休すかと、トッドさんのガブスレイが撃ってきたビームを拳のビームシールドで跳ね返しながら、奥歯を軋ませていた時だった。

 

「諦めないで、ユウヤ君……!」

「マフユ!」

「……私も頑張る、勇気を出す……だから、応えて、エクリプティカ!」

 

 マフユがそう叫んだ瞬間、G-エクリプティカの肩を覆っていた翼のようなパーツが展開し、肩のGNドライヴから放出される粒子が爆発的に増大する。

 すげえ。

 何をやったのかはわからないけど、俺はただその光景に、そしてさっきまでクロスレンジにまで肉薄していたハンブラビを逆に振り切って、あっという間に距離を離したその機動力に舌を巻いていた。

 

「これが私の、G-エクリプティカの巡航形態……!」

『Ξガンダムを参考にしたのか……!』

 

 機動力で振り切られたジョーさんは歯噛みしながら機体をモビルスーツ形態に可変させるが、構えたその武器は空を自在に飛び回るマフユに当たることはない。

 

「……これでぇ……っ……!」

『うおおおおっ!?』

『ジョーっ!』

 

 巡航形態に変形したマフユのG-エクリプティカが構えたビームライフルから放たれた閃光がハンブラビに直撃し、その半身を持っていく。

 凄い作り込みだ。ビームライフルは戦艦の主砲並の威力らしいけど、実際匹敵するんじゃないかってぐらい強い。

 それに、マフユがここまで頑張ってくれたんだ。だったら俺も、黙って見てるわけにはいかないよなあ!

 

「くらええええッ!」

『うおおおおっ!? 南無三!』

『ジョーっ! ああ、これじゃあ……!?』

 

 エールストライカーからビームサーベルを二本引き抜くと、スラスターを全開にして俺は、すぐさま半身を失ったハンブラビをすれ違いざまに切り裂いて、爆散させる。

 これで戦況はひっくり返った。

 それに焦ったのかどうかはわからないが、木々を隠れ蓑にして狙撃に徹していたトッドさんのガブスレイが、慌てて戦闘機形態に変形して、飛び出してくる。

 

『こっちだって空戦性能は高めてあるんだ! ただでは負けてやるものか!』

「いいね、その闘志……! 諦めかけてた俺が情けないぜ!」

 

 マフユに言われるまで気付かなかったけど、俺はあの時確かに諦めかけていた。どんな時でも冷静に、相手の心と向き合って戦うのが次元覇王流の極意だってのに、戦いの中で戦いを忘れていた。

 

 それでも。

 

「当たってぇ……っ……!」

「次元! 覇王流!」

 

 マフユが思い出させてくれた。

 マフユが教えてくれた。諦めは最悪の手段だと、自ら掴み取れたはずの勝利を捨てるのに等しいことだと、そう叫んでくれたんだ。

 だったら、情けない俺を乗り越えて、先に進むのが筋ってやつだ。

 

 G-エクリプティカが放ったビームライフルが、ガブスレイの持っていた長いビームライフル……フェダーインライフルとかいうらしい──を破壊し、がら空きになった胴体目掛けて俺は、ストライク焔を全力で急降下させる。

 

「聖槍、蹴りぃぃぃっ!」

『うわあああっ! ごめん、ジョーっ!』

 

 自由落下の勢いとスラスターの出力を乗せて放たれた蹴りはそれ自体が巨大な質量弾みたいなものだ。

 

【Battle Ended!】

 

 がら空きのコックピットをぶち抜いて、システムが俺たちの勝利を告げる。

 

「やったぜマフユ、大勝利だ!」

「……うん、そうだね……ユウヤ君のおかげ……」

「何言ってんだよ、マフユ! 諦めないで、ってあの時言ってくれたのはお前だろ!」

 

 その言葉があったから過ちの道に進まずに済んだ。その言葉があったから、最後まで勝利を諦めずに戦うことができた。

 むしろ感謝したいのは俺の方だ。

 

「ありがとうな、マフユ! 俺……諦めかけてた、ダサいことやろうとしてた」

「……ユウヤ君……」

「でも、マフユが諦めるなって言ってくれたおかげで、マフユが頑張ってくれたおかげで、勝てたんだ! だから、改めてありがとうな!」

「……っ、うん……っ……!」

 

 目尻に涙を滲ませながら、マフユは小さく頷いた。

 その涙にどんな意味があるのかはまだわからないし、訊いちゃいけない気がした。それでも。

 それでも、マフユの涙は、悲しさじゃなくて、嬉しさから零れ落ちたものであることぐらいは、俺にもわかっていた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「いやあ、負けちゃったな……でも、久しぶりに気持ちいい試合ができた気がするよ」

「こっちこそ、俺なんかが想像もできない戦いをさせてくれて、ありがとうございます!」

「想像もできない、かぁ……そう言われるとなんだか照れるな、うん。Dランクに上がったばっかりだけど、俺たちも君たちみたいに頑張ってみるよ」

 

 ジョーさんとトッドさんとの試合は、確かに俺の想像を超えたものだった。

 人型同士が殴り合うんじゃなく、戦闘機形態に変形した相手との空中戦。それは拳法には絶対あり得ないシチュエーションで、だからこそ俺は、諦めかけてしまったのかもしれない。

 

「グッドゲーム、ユウヤ君。グッドゲーム、マフユちゃん。機会があれば再戦よろしく頼むよ」

「こっちこそ、ええと……グッドゲームです、ジョーさん、トッドさん!」

「……はい……グッドゲーム、です……」

 

 どことなく憑物が落ちたかのように晴々とした表情で、ジョーさんとトッドさんはセントラル・ロビーの雑踏に紛れて消えていく。

 グッドゲーム。惜しみなくいい試合だったと言い切れるだけのことはできた俺の胸の内側も、なんだか透き通ったような気分でいっぱいだった。

 

「ガンプラバトル……師匠が言ってた通り、奥が深いぜ」

「……うん……すごく……すごく、深い」

「だから俺はもっと強くなりたい! もっとわくわくする戦いをしてみたいんだ!」

 

 想像力と想像力がぶつかり合う、その先の世界。俺が今日垣間見たのはあくまでもその一端に過ぎないのだから。

 拳を固める俺に、マフユは小さく苦笑したかと思えば少しだけ肩を落として、「……そうだね」と、短く答えを返す。

 GBNは深く、広い。父さんの、師匠の言葉が間違いじゃなかったことを噛み締めながら、俺は次なる戦いの予感に、気付けばぐっと拳を固めていた。




ヒロインちゃんがんばる
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