ガンダムビルドダイバーズ:トライ   作:守次 奏

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ドアンの島が面白かったので初投稿です。


Ep.46「愚か者のサーカス」

「止まらぬマスダイバーの脅威、ブレイクデカールを何故運営は放置してるのか……ねえ」

 

 相変わらず窮屈さを感じるフォースネストで、チナツは有志が発行しているGBN内でのニュースをまとめた電子新聞をぱらぱらと捲りながら、そんなことを呟いていた。

 あれからこっち、殺到するフォース戦依頼やら何やらに翻弄されつつあったこともあって、今日は休みにしようと決めていたんだけど、それにしたって不景気な話だ。

 幸い俺たちは、あの「シャドウロール」と出くわして以来、マスダイバーとは遭遇してないけど、巷じゃその被害が拡大してるらしい。

 

「マスダイバー……」

「何か心当たりでもあるのか、ジェニ?」

「いいえ。私にはない。ただ暇な連中だと思った、それだけ」

 

 勝ちたければその分だけ己とガンプラを磨き上げればいい。

 ジェニはそう言い放つと、壁にもたれかかったまま目を伏せる。

 確かにそれは正論で、俺だってそうしてきたつもりだけど、本当にマスダイバーは暇を持て余しただけの、楽に勝ちたいってだけの連中なのか。

 

 何か止むに止まれぬ事情があってブレイクデカールに手を出してしまったやつらもいるんじゃないだろうか、とは思うけど、そこに同情の余地があったとしても、ブレイクデカールというチートツールに手を出してしまった事実が揺らぐことはない。

 その上、ベアッガイフェスやヴァルガでも見た通り、ブレイクデカールを介することでGBNそのものにバグが広がっている可能性だってあるのだ。

 マスダイバーが暇を持て余しているかどうかはともかく、こうして実害が出てしまっている以上、どんな事情があっても、ブレイクデカールに手を出すのは許されない。

 

「……どうしても勝てない人も、使ってるのかな」

「マフユ?」

「……あ、ううん。なんでもない、よ……?」

「本当か?」

 

 最近のマフユはなんだか普段より三割増ぐらいで落ち込んでるというか、元気がない感じがするから余計に心配になってしまう。

 大丈夫だと答えて柔らかくはにかむその笑顔はいつも通りに可愛らしいものだったけど、なんというかそこに違和感みたいなものを覚えるのは、気のせいだろうか。

 俺もまた、首を傾げて考え込む。

 

 でも、前にもチナツに言われた通り、マフユを信じると決めたのなら、それは貫き通すべき筋なのだろう。

 なら、本人が大丈夫だと言ってるんなら、それを信じるほかにない。

 

「うん。本当だ、よ……?」

「なら良かった。けど、もしもなんか不安なこととかあったら、遠慮なく相談してくれよな」

 

 俺じゃなくたって、チナツとかジェニがいるわけだし、フォースってそういうものだろうからな。

 ジェニは申し訳ないけど正直あんまり相談役には向いてないかもしれない。でも、リアルで顔を合わせたことがあるチナツなら、多少言葉は厳しくても打ち明けられた悩みを真っ向から受け止めてくれるはずだ。

 俺の言葉にマフユは小さく頷くと、相変わらず丈が余っている袖に覆われた手でコンソールを操作すると、チナツが読んでいるのと同じ電子新聞をスクリーンに投影する。

 

「……わぁ、凄い……ユウヤ君の活躍、記事になってる」

「えっ、マジで?」

「これ……『メガ粒子杯優勝ダイバー、快進撃止まらず』だって」

 

 マフユが見せてくれた三面記事には、確かにそんな見出しと共に一昨日戦った「鉄仮面ズ」の赤いF91をストライクスフィーダが撃破するシーンが載せられていた。

 こういうのって相手から許可取ってんのかな。

 俺たちのところに話が来た覚えはないけど、山のように届いていたフォース戦依頼の中に埋もれてしまってる可能性もゼロじゃないから、そういうもんなのかもしれない。

 

 平たくいえば暗黙の了解ってやつだ。

 まあ有志で発行してる電子新聞に載ったところで何かしら実害があるかと訊かれたら多分ないと思うし、いいってことにしておこう。

 それはさておくとして、肝心の記事の内容はというと、概ね俺がメガ粒子杯を勝ち抜いたことと、チナツも準決勝まで進んでいたこと、そして「トライダイバーズ」が「鉄仮面ズ」を倒したことで編集部の期待が高まる、という無難なものだった。

 

 期待してくれるのは光栄なのかもしれないけど、ここまで注目されるのには慣れてないから、なんだかそわそわするというか背筋がむずむずする。

 それに、新聞に載ったとなれば多少は知名度も上がるわけで、昨日の「トゥルブレンツ」との一戦と同様に、こっちの戦術に対する研究はどんどん進むと見ていいだろう。

 そう考えると、浮き足だった感じもすぐに立ち消えて、代わりに武者震いが背筋を駆け抜ける。

 

「つまりこれからは強敵と当たるってことだな、面白ぇ!」

 

 できることなら「度胸ブラザーズ」やコドウと戦った時みたいに真正面から作戦勝ちとかじゃなく、フィジカルで競い合う戦いがしたいのが本音だったけど、皆勝ちたいってのが正直なところなら、それを否定するつもりはない。

 それに、「トゥルブレンツ」は人数をこっちに合わせてくれたけど、数で圧してくる相手と当たることも考えられるだろう。

 どっちにしろ、ペンスロットさんが言ってくれたようにこれからは茨の道が待ってるってことだ。

 

「喜んでる場合じゃないわよ、本当、バトルバカなんだから」

「でも、気持ちで負けてちゃ勝てるもんも勝てねーだろ?」

「まあ、それはそうね」

 

 例えどんなに困難が待ち受けていても、何事にも全力で挑む。それが父さんの、師匠の教えだ。

 

「……ユウヤ。休憩すると言っていたけど、何もしないのは性に合わない」

 

 そんな具合にチナツたちと駄弁っていると、退屈を持て余したのか、壁にもたれかかっていたジェニがそう零す。

 確かに戦いに飢えてる感じがするジェニからすれば、この状況は暇も暇なのだろう。

 それでもログアウトせずにちゃんと付き合ってくれてる辺りは律儀というかなんというかだけど。

 

「それならミッションでも受けに行くか?」

 

 俺は退屈そうに欠伸を噛み殺しているジェニに向けてそう提案した。

 思えばヴァルガだの大会だの終わらないフリーバトルだの、戦いに明け暮れてばっかりでミッションの方は進めてなかったから、気分を変えるって意味ではありじゃなかろうか。

 無双ミッションなんかはストレス発散にちょうどいいかもしれないけど、基本的にはAI操縦の敵を蹴散らすだけだから、歯応えって意味じゃ少し物足りないかもしれないけどな。

 

「ユウヤが言うなら私は従う、それが将来の伴侶としての務め」

「誰が伴侶よ、誰が!」

「私」

「相変わらず面の皮VPS装甲でできてるわね、アンタ……!」

「それはどうも」

「ほんっと、いい性格してるわよね……!」

 

 一転して一触即発の空気に、胃の辺りがきりきりと痛んでくるような感じを覚えるけど、GBNは感覚フィードバックを実装してないし、アシムレイトもしてないんだから多分気のせいだろう。

 伴侶どうこうはともかくとして、ジェニが納得してくれたんなら無双ミッションでストレスを発散するのも悪くないだろう。

 チナツがアホ毛を逆立ててジェニと睨み合っている空気に怯えたのかそうでないのか、マフユは俯いたままぷるぷると背筋を震わせていた。

 

「とりあえず無双ミッションでも受けに行こうぜ、ここ最近、バトルばっかで疲れてるだろ? ジェニも、チナツも、マフユもさ」

 

 苛々してるのも多分そのせいだろう。

 半ば丸投げされた役目とはいえ、リーダーとして仲裁するように、俺は三人へとそう提案する。

 

「私はさっき言った通り」

「アンタがリーダーなんだから、アタシもそれに従うわよ」

「私も……」

「なら決まりだな、とりあえずロビーに移動するか」

 

 とりあえずは全員が納得してくれたということで、俺はチナツ、マフユ、ジェニをフレンドワープの対象に含めてエリアを切り替えた。

 そうして降り立ったセントラル・ロビーは夜だってのにもかかわらず相変わらず人でごった返していて、相変わらずの同接人数とアクティブユーザーの多さに改めて感嘆する。

 それを処理してるサーバーの負荷も相当なもんだろうけど、今のところブレイクデカール絡みのこと以外で目立ったバグが出ていないのはむしろ、運営も頑張ってる方なんじゃなかろうか。

 

「おンやァ? 天下の『トライダイバーズ』が今更ミッションなんか受けるつもりッスかァ?」

 

 挑発するような声がかかったのは、そんな益体もないことを考えながらカウンターへと足を運んでいた時のことだった。

 振り返れば、そこに立っていたのはピエロの格好をした集団で、その中でも一際痩せぎすで背が高い男が、あからさまに舌を出しながらこっちを煽っている様子が嫌でも目に映る。

 なんだこいつら。感じ悪いな。

 

「用件があんなら聞くぜ」

「いンやァ……? 最近ご注目めされてる『トライダイバーズ』が今更ミッション受けるなんて……チョーダサくね? って思っただけッスよ?」

「なるほどな……つまりてめーらは喧嘩売ってるってことか」

「ピンポーン、大当たりィ! つーわけでさァ、オレらといっちょ喧嘩しようぜェ、『トライダイバーズ』?」

 

 長身痩躯のピエロはくるりと一回転してクラッカーを鳴らすと、不愉快な笑みを浮かべながらフリーバトル申請を叩きつけてくる。

 ただ、はっきりいってこいつの話を聞いてやる義理も義務も俺たちにはない。

 俺たちの戦術を研究しようが何しようがそれは相手の自由だからいい。だけど、ペンスロットさんたちみたいに、礼を尽くしてそうしてるならともかく、最初から無礼な態度で迫ってくるようなやつらが相手なら、こっちも無礼で返すだけの話だ。

 

「やだね。断る。行こうぜ、チナツ、マフユ、ジェニ」

「おンやァ……? まさかメガ粒子杯の優勝者がァ、オレたちに恐れをなして、尻尾巻いて逃げ出すってコト、ッスかァ?」

「お前がなんて言おうと勝手だ、無礼には無礼で返す、師匠の教えだ」

「えェ〜? こんなくだんねェ言い訳並べて逃げ出すようなチキン野郎を巡ってアンタたち修羅場ってんッスかァ? チョーお笑い話ッスねェ〜」

 

 ピエロはチナツとマフユ、そしてジェニを指差すと、心の底からおかしそうに腹を抱えて爆笑する。

 待てよ。俺に突っかかってくるってんなら何を言っても構わねえ。

 けどな、チナツとマフユとジェニは関係ねえだろうがよ!

 

「てめぇ……!」

「おやおやァ? ようやくやる気になった感じ? でもリアルファイトはいけないなァー、オレ傷ついてガーフレ呼んじゃうよォ〜?」

「ユウヤ、アタシたちは……!」

「しょっぼい男を巡って争うクッソくだらねェー乙女たち、ああ、青春って麗しゅうございますねェ〜」

「今なんて言った、アンタ!?」

 

 制止にかかったチナツをも挑発するように、舌を出してピエロは俺たちをひたすら嘲笑う。

 その間、黙っていた仲間たちも腹を抱えて笑ってみせたことからもわかるように、本格的にこいつらは俺たちを侮辱してるってことだ。

 俺はともかくとして、チナツが、ジェニが、マフユがこんな奴らに侮辱されるのは我慢ならない。例え相手が取るに足らないようなド三流だとしても、超えちゃいけない一線ってもんを気軽に踏み越えてくるようなやつらを許してはおけない。

 

 それはチナツもジェニも、マフユも同じことらしく、珍しくマフユも細い眉を逆立てて、ピエロ集団に対して怒りを露わにしている。

 ジェニに至っては次元覇王流の構えをとって、例えガードフレームを呼ばれたとしてもリアルファイトも辞さない覚悟を示していた。

 だけど、こんなくだらないことで運営に通報されて、ジェニのアカウントが凍結されるのも馬鹿馬鹿しい。

 

 相手の思惑に乗ってしまう形にはなるけど、ガンプラバトルで決着をつけるのが一番穏便……というか、互いにとって納得がいく選択肢だろう。

 あの腐れピエロ共は俺たちに喧嘩を売りたい。俺たちはあの腐れピエロ共をぶん殴りたい。

 だったら、挑発だとわかってても売られた喧嘩を言い値で買ってやるだけのことだ。

 

「……わかった、てめーらは俺たちに喧嘩を売りたい、俺はてめーらを許せねえ、だったらガンプラバトルで白黒つけようぜ」

「最初っからそう言ってんのにィ、理解力ないッスねェ〜」

「俺のことならなんとでも言え、でもチナツたちに言ったことは絶対に取り消してもらう!」

「クックック、負けたら土下座でもなんでもしてやるッスよォ〜、御託はいいから、さっさとバトろうぜェ、『トライダイバーズ』よォ〜」

 

 腐れピエロが突きつけてきたフリーバトル申請を受諾する前にチナツたちの方を振り返れば、皆一様に怒りの表情を浮かべたまま頷いていた。

 皆も納得してくれたってんならこの喧嘩、言い値で買ってやるだけのことだ。

 もちろんあの腐れピエロ共も、なにか勝算があってわざわざこんな喧嘩の売り方をしてるんだろうけど、そんなのは承知の上だ。

 

 あいつらがなにを企んでようが、それを上から踏み倒して、ぶっ倒してやるだけだ。それ以上でも以下でもない。

 

「クックック、そんじゃァ、フェアにやろうぜェ〜?」

「上等だ、真正面から叩き潰す!」

 

 フリーバトル申請が受諾されたことで、格納庫エリアへと俺たちは転送される。

 身を焼き尽くさんばかりの怒りに脳内は支配されていたけど、それを鎮めるように目を伏せて、俺はコックピットの中で小さく深呼吸をした。

 いかなる理由があったとしても、怒りに呑まれたまま戦ってはいけない。

 

 それは拳を曇らせるから、曇った拳で相手を討ち倒していれば、それはいつしか無明に落ちていくことになるから。

 師匠の教えであり、次元覇王流の極意だ。

 例えどれだけ相手が卑劣漢だとしても、例えどれだけ相手がふざけた野郎だとしても、この拳だけは曇りなく、明鏡止水の境地で振るわなければならない。

 

「チナツ、マフユ、ジェニ、相手はこっちを挑発して迂闊な動きをすることを狙ってるはずだ、冷静に行こうぜ」

「わかってるわ、本音を言えば今すぐ全力でぶちのめしてやりたいとこだけど……慎重に行くわ」

「……私も、チナツさんと同じ、だよ……!」

「……相手は取るに足らない三流。でも、ユウヤが言うならそう戦う」

「ありがとうな、それじゃあ行くぜ!」

 

 ──トライダイバーズ、ゴー・ファイト!

 声を揃えて気合を入れると、カタパルトのシグナルが赤から青に変わったことを確認して、俺はストライクスフィーダと共にゲートを通過、戦場となる荒野へと飛び出していく。

 相手のフォースの名前は確か「シルク・ドゥ・イディオ」だったか。

 

 直訳するなら、愚か者のサーカス。自覚してるってんなら尚更タチが悪い。

 わざと相手を怒らせるような真似をして、見下して楽しむ。そんな相手なら、なにがあったとしても負けるわけにはいかない。だけど、激しい怒りは心に押し込めて、あくまでも澄み渡る湖面のように冷静な頭で勝つ。

 師匠の教えを、次元覇王流の極意を何度も脳裏で繰り返しながら、呼吸を整えて、俺はチナツからのデータリンクによってレーダーに映し出される、十機の機影を睨みつけた。




悪夢の開演
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