ガンダムビルドダイバーズ:トライ   作:守次 奏

51 / 72
夏が近いので初投稿です。


Ep.47「侵食」

『クックック、それじゃァ〜、予定通りにやってこうぜェ〜』

『オッス、団長!』

『い〜い返事だァ、そんじゃま、コイツは挨拶がわりってことでェ、受け取ってもらえっかなァ!』

 

 団長と呼ばれたあの腐れピエロは部下に指示を下すと、敵十機の内九機を構成しているサーペントの一機が前に出て、バズーカのようなものをぶっ放す。

 挨拶がわりとか言う割には随分とスケールが小さい攻撃だけど、多分あれは罠だろう。

 俺たちに弾頭を迎撃させるか、もしくは弾頭自体に特殊な仕掛けが施されているかのどっちかだと思っていい。

 

 チナツは言わなくてもそれを理解していたようで、放たれた弾頭ではなく、それを撃ったサーペントに向けて、ロングビームライフルからの狙撃を敢行する。

 

「バレバレなのよ! 墜ちなさい!」

『グワーッ!? 俺はやりましたよ、団長ーッ!』

『クックック、いい働きだったぜェ〜? そんじゃァ、本日のショーはこっからってなァ!』

 

 チナツの狙撃によってコックピットを撃ち抜かれたバズーカ装備のサーペントが爆発四散するのを確認した上で、団長と呼ばれた男は指を鳴らす。

 すると、一定距離を進むことで自爆する仕掛けが施されていたのか、俺たちに迫っていた弾頭が炸裂し、強い閃光と、煙幕を撒き散らした。

 目眩し。古典的ではあるけど有効な、比べるのも失礼なんだろうけど、メガ粒子杯で「シーズン」さんが使っていたのとよく似た戦術だ。

 

「目眩しか! チナツ、マフユ、ジェニ! レーダーが潰されてる……敵は背後から回ってくるはずだ!」

「わかってるわ、迎撃態勢は取る!」

「私も……っ!」

「問題ない、気配でわかる」

 

 ただこれも、あれだけ悪辣な連中が挨拶がわりだの、ショーだのと言ったにしてはどうにも拍子抜けだ。

 あの腐れピエロが何を考えているのか全くわからない辺り、用心に用心を重ねて警戒しておくに越したことはない。

 ジェニと同じように気配で背後からの奇襲を警戒した刹那、アラートがコックピットに鳴り響く。

 

『背後からの奇襲ゥ〜? クックック、そんなに慌てなさんなってェ、そう簡単に終わっちゃァ、ショーにならねェんだからよォ〜』

 

 四条の閃光が飛来し、咄嗟に回避体勢を取った俺たちの陣形が寸断される。

 ショーだのなんだの言ってる戯言はともかくとして、あの団長とかいう腐れピエロが使ってる機体はかなり火力に寄せてきてるんだろう。

 煙幕の向こうから撃ってきたことで姿はわからないけど、開幕にチナツからのデータリンクで送られてきた情報はある。

 

「撃ってきたってことは、そこにいるってことだよな!」

 

 それを検索するのと並行しつつトリガーを引き絞って、俺は腐れピエロがいたのであろう位置にビームピストルを撃ち放つ。

 検索したデータによれば、見た感じ、相手の機体はエンドレスワルツ版のガンダムヘビーアームズといった風情だった。

 恐らくダブルガトリングの代わりにツインバスターライフルを二丁連結したものを両腕に装備しているのだろう。

 

『アンドゥスリーアンドゥスリー! へいへいピッチャービビってるゥ〜?』

「離脱されたか!」

 

 とことんムカつくやつだけど、腕に関しちゃ覚えがあるみたいだ。

 広範囲に撒き散らされた煙幕と、レーダーが阻害されていることで相手がどう出てくるかがわからない以上、こっちは後手に回るしかない。

 戦力差は九対四、おおよそ二倍開いている都合、こっちとしてはさっさと畳みかけたいのをわかった上でやっているのだろう。

 

『あー、団員諸君、配置についたかなァ?』

『つきましたぜ、団長!』

『オゥケェイ……そんじゃァ演目第一幕、ミサイルのアンサンブルを受け取ってもらおうかァ〜』

 

 全方位からのアラートが鳴り響く。配置についたって腐れピエロの言葉から察するに、多分相手の取った戦術は。

 

「こっちを取り囲んでの一斉掃射……まずいわよ、ユウヤ!」

「ミサイルだったら問題ねえ! ジェニ!」

「了解、ユウヤに合わせる」

 

 父さんが、師匠がGPD時代にやっていたことの記録映像は子守唄がわりに見せられてきたんだ、その中には当然、ミサイルに対処する方法だって収められている。

 ジェニのプライドマスターが背後にいることを気配で感じ、俺はジェニと息を合わせて飛び上がった。

 

『次元覇王流! 旋風竜巻蹴り!』

『おっ? おっ?』

 

 旋風竜巻蹴りの予備動作を利用しての鎌鼬で飛来するミサイルを迎撃する。

 飛んでくる弾幕の規模こそ違っても、要領は師匠がやっていたことと同じだ。

 加えてジェニもいてくれるなら、この程度の弾幕砲火なら問題なく切り抜けられる。

 

 ミサイルを撃ち落とされたことで少しの動揺を見せたのか、それとも事が思い通りに運ばずにイライラしてるのかは知らねーけど、通信ウィンドウに映る腐れピエロのムカつく笑顔は少しだけ引きつっていた。

 だけど、いい気味だと思うにはまだ早い。

 こっちは依然として包囲されているんだから──二つの旋風竜巻蹴りが煙幕まで吹き飛ばしたことで、鮮明になった状況を把握して、俺は呼吸を整える。だけど。

 

『クックック、バァァァァカ! 迂闊に飛び上がったのが運の尽きだぜェ!』

「なんだ……っ!?」

『そんじゃァ第二幕、色とりどりの花火を楽しんでってくれよなァ〜!』

 

 腐れピエロが指を鳴らすと同時に、サーペントが手にしていたミサイルランチャーを放棄すると、腰の辺りに手を回し、ハンドグレネードを投擲する。

 

「ぐああああっ!」

「くっ……!」

 

 投擲してから間を置かずに炸裂したそれの正体は果たしてフラッシュグレネードで、さっきと違って飛び上がった状態からの目眩しをもろに喰らった俺とジェニは、一瞬機体の操作を手離してしまったことで、もつれ合いながら地上に落下してしまった。

 まずい。完全にあいつらに戦いのペースを握られてしまっている。

 倒れたところに何が飛んでくるのかもわからない以上、さっさと復帰して体勢を立て直さないといけないのに、何色もの閃光が爆ぜた影響で目がチカチカしてしまう。

 

『クックック、お楽しみいただけたようだなァ〜? そんじゃあ第三幕、ガンプラ解体マジックと洒落込むぜェ〜?』

「ユウヤ、ジェニ! これ以上ふざけたことなんかさせないわよ!」

『おっと狙撃かァ〜、悪くねェけど読めてんだよなァ!』

「ぐっ……!」

 

 部下に指示を下した隙を狙って放ったのであろうチナツの狙撃にあの腐れピエロは対応したらしく、ばちばちとビームがぶつかり合う音が聞こえる。

 いくらウイニングロードアストレイの出力がシックザールから強化されているといっても、ツインバスターライフルが相手だと分が悪いはずだ。

 チカチカする目を擦りながら立ち上がって、俺は援護射撃として二丁のビームピストルを放とうと試みたけど、それもわかっていたかのように「シルク・ドゥ・イディオ」のメンバーは、その隙に拾い上げていたミサイルランチャーで俺とジェニに狙いをつける。

 

『悪りいが団長の演目は絶対なんでな』

『邪魔はさせないぜ? 次元覇王流使いよぉ』

「クソ……っ、こいつら!」

「……私が攻めに転じる、状況を強引にでも変えに行く」

 

 のたうち回るように弾幕砲火を回避し、直撃弾をビームピストルで撃ち落としながら、俺は体勢を立て直す。

 目がチカチカするのも大分治ってきた。

 それはあいつも同じだったらしく、痺れを切らしたのかそう言い放つと、ジェニはスラスターに点火してバーニングバーストを発動、腐れピエロの部下へと殴りかかっていく。

 

『団員諸君、わかってるなァ?』

『了解、団長!』

『クックック、八機もいれば上等だァな……演目に支障はねェぜ〜?』

「ぐ……っ、圧された、アタシが……ごめん、ユウヤ!」

「いいや大丈夫だ、乱戦だったらこっちが有利だ! こっから立て直してあいつを全力でぶん殴る!」

 

 ガンプラ解体ショーとやらが何を意味しているのかは知らないし知る気もないけど、ミサイルランチャーを再び投棄したサーペントはビームサーベルを構えて、異様な速度で突撃してくる。

 その戦力の振り分けは俺に一、チナツに一、団長とかいう腐れピエロも含めた残り全部は、マフユに集中していた。

 なんでだ? 意図が全くわからない。だけど六対一なんていくら腕がいいダイバーだって絶望的すぎる。

 

 それに、マフユが持っているのはアウトレンジからの攻撃で真価を発揮するビームキャノンだ。

 接近されたんじゃ、分が悪いどころの話じゃない。

 まさか、あいつが解体ショーとか宣ってたのは。

 

『おっ、ようやく正解に辿り着いたかなァ? ピンポーン、おめでとさん! それじゃァ第三幕を気兼ねなァく見物してもらおうかァ!』

「ふざけたこと言ってんじゃ……っ!?」

『団長の命令は絶対だ!』

「まさかこいつら、アタシたちを拘束するつもり……っ!?」

 

 俺たちに向かってきていたサーペントの左腕から射出されたヒートロッドが、スフィーダとウイニングロードアストレイを拘束して電撃を流す。

 

「電撃か……っ!」

「あーもう、さっきからムカつくわね!」

 

 耐えられなくはない威力だけど、絡まったヒートロッドを振り解くまでには数秒のラグが生じる。

 当然その間は何もできないわけで、マフユの援護に入ろうにも身動きが取れない。

 

 それに、唯一動けるジェニは距離を離している。次元覇王流の射程が短いことや俺たちの戦術を徹底的に研究した上で搦め手を使ってくる。

 態度こそ最悪だけど、あの腐れピエロ、思ったよりも考えてやがる。団員たちの士気も高い辺り、クソ野郎だけどカリスマもあるらしい。

 

「マフユ、避けられるか!?」

「が、頑張る……! トランザム!」

『クーっ、バカの一つ覚えな青春にオレ、感動しちゃうねェ! さてここで問題です、トランザム発動したとこで……スーパーバーニア装備のオレたちに囲まれたらァ、逃げ場はどこにあるでしょうかァ! はい死ぬ前に答えてェ!』

 

 どうやらサーペントがかなりの早さで陣形を展開できた秘密は、背負っていたスーパーバーニアにあるらしい。

 そして団長とかいう腐れピエロのヘビーアームズも同じものを背負っている。

 GBNにおける時限強化に優劣は基本的にないといっていい。

 

 トランザムもEXAMもHADESもその他諸々も、微妙な特性の違いやそれぞれの欠点があって、だからこそバランスの均衡が取れているって話はさておくとしても、トランザムは極端な話、あくまで火力と機動力を大幅に引き上げるだけの時限強化だ。

 反応速度や、速度とかの上がり幅は元のダイバーの能力やガンプラの作り込みに依存している。

 つまるところ、マフユがトランザムを切ってあのスーパーバーニア装備のサーペントたちから逃げようとしても、ムカつくことに腐れピエロが言った通り、包囲を振り切るだけの機動力を持ってない限りは、あるいはルートの策定ができていなければ、六対一という状況は簡単に覆せるものじゃないってことだった。

 

 それを示すかのように、サーペント二機の攻撃を強引に振り切ったと思えば、その先にもサーペントが待ち構えていて、G-エクリプティカはビームサーベルによる攻撃でビームキャノンを喪失、足を止めた一瞬を狙って、ダブルガトリング装備のサーペントからの弾幕砲火がマフユに降り注ぐ。

 

「きゃあああっ……!」

「マフユ!」

『あ〜ア、可哀想になァ……頼れるお仲間がいないとこの程度なんだからァ』

「……っ……!」

『ホーント可哀想だぜェ、腕のないダイバーに扱われるガンプラがよォ〜、なァマフユちゃァん……オメー、才能ねェよ』

「あ……ぁ……」

 

 ガンプラバトルのよォ。

 そう冷たく言い放った腐れピエロが放った四丁のツインバスターライフルから放たれた閃光がG-エクリプティカを呑み込んで、その装甲を溶解させていく。

 この野郎、どこまでもふざけたことを。

 

「てめえら、いい加減ふざけてんじゃねえぞ! 次元覇王流、流星螺旋拳!」

 

 ヒートロッドを引きちぎって、俺は湧き起こってきた怒りに身を任せ、立ちはだかったサーペントのコックピットをぶち抜いて飛ぶ。

 マフユを包囲していたサーペントも、バーニングバーストを発動した貫手と膝蹴りでそのコックピットをぶち抜いて、狙うはあの腐れピエロの首だけだ。

 

「……ごめんなさい、ユウヤ君……っ……」

「マフユ! クソっ、てめぇ!」

『おーっと怒っちゃったァ? でもよォ、事実を言われてキレるのってェ、チョーカッコ悪いんッスよォ!』

 

 助けるのがあと少しのところで間に合わず、マフユのコックピット表示がレッドアラートから撃墜を示す黒へと、コンソール類の表示が止まった状態へと切り替わる。

 もう少しヒートロッドを早く振り解けてれば、そもそも俺があいつらの術中にハマることがなければ。

 自分の不甲斐なさに怒りを爆発させながら俺は、チナツの援護を受ける形でサーペントを振り切って、腐れピエロへと肉薄していた。

 

「次元覇王流! 疾風突き!」

 

 放たれたツインバスターライフルを回避、速度を重視した拳で俺は、腐れピエロが交差させた右腕を強引にもぎ取っていく。

 何が事実だ。囲んで棒で叩いただけだってのにあそこまでの暴言が吐けるその腐った性根を百万発ぶん殴って叩き直してやる。

 沸き起こる怒りに任せて俺は腐れピエロのヘビーアームズの首根っこを左手で掴み取り、締め上げていた。

 

『たかが事実を言われたぐらいでそうマジになんなよォ〜、それにさ、テメーだってさァ、気付いてるんじゃねェーの?』

「なんだと……!?」

『テメーらのフォース、あの才能ゼロの哀れなマフユちゃんを介護することがァ、作戦の前提になっちゃってるってェことをよォ〜』

「この野郎……言わせておけばつけ上がりやがって!」

 

 ヘビーアームズの胸部ハッチが開いたのを確認して俺はそこに仕込まれていたガトリング砲を、右のボディブローで破壊する。

 これ以上こいつの戯言を聞いてやる義理も義務もない。

 だったら、終わらせてやるだけだ。

 

『クックック、流石に零距離じゃァ、メガ粒子杯の優勝者には敵わねェかァ〜、でもよォ、テメーらいつまでお荷物抱えて戦うつもりなんだァ? テメーは強ェ、認めてやんよ。あっちのジェニってヤツとチナツちゃんもそうだ、けどよォ〜』

「次元覇王流! 聖拳突きぃッ!」

 

 これ以上は我慢ならねえ。いや、これ以上も何もねえ、最初から最後まで徹頭徹尾こいつを許すつもりはねえ。

 聖拳突きをコックピットにぶち込んで、俺はそれを黙れ、という返事の代わりにする。

 だけど、この程度で黙ってくれるようなやつだったら最初からこっちにあんな喧嘩の売り方をしないだろう。

 

『もう一度言うぜェ、何度でも言うぜェ〜、マフユちゃん、オメー才能ねーよ。ただのフォースのお荷物だ』

「……っ……!」

「黙りやがれ!」

『そうカッカすんなってェ〜、言われなくても黙ってやるさァ。それじゃあボンボヤージュ、「トライダイバーズ」よォ〜』

 

 最後までムカつくことを言い残して、腐れピエロのヘビーアームズが爆散する。俺があいつを殴っている間にチナツとジェニがサーペントを片付けてくれていたおかげで、戦いに勝つことはできた。

 

【Battle Ended!】

【Winner:トライダイバーズ】

 

 それを示すように、システム音声が無機質に俺たちの勝利を告げる。

 だけど、それは決していつものように喜べるようなものじゃなかった。

 腐れピエロが残していった禍根に、俺たちはただ眉をひそめて、顔をしかめる。

 

「……っく……えぐっ……ぐすっ……」

 

 マフユは、沈黙したコックピットの中で一人涙を零して啜り泣く。

 あんなやつの言うことなんて、真に受ける必要なんてない。それはマフユもわかっているのだろう。

 

「気にすんなよマフユ、あんなやつの言うことなんか」

「……ぐすっ……えぐっ……ごめん、なさい……」

 

 だけど、直接的に向けられた悪意が、そして、「トゥルブレンツ」との戦いが脳裏を侵食するようにリフレインして止まらないのだろう。

 ごめんなさい、と悲痛な言葉だけが通信ウィンドウ越しに聞こえてくる。チナツも、ジェニもフォローは入れてくれていたけど、その言葉も耳に入らないかのようにマフユはただ、涙を零し続けていた。




打ち込まれた悪意は楔のように
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。