ガンダムビルドダイバーズ:トライ   作:守次 奏

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最終章が始動するので初投稿です。


Ep.51「有志連合」

「突然押しかける形になっちゃってすみません、キョウヤさん」

「構わないよ、私としても君たち『トライダイバーズ』には元から用があったからね」

 

 あのあと、キョウヤさんに「諸々の話を伺いたいのとこちらとしても緊急で話しておきたいことがある」という趣旨のメッセージを送ったことで俺たちは、使者として派遣された副隊長二人に連れられる形で「AVALON」のフォースネストを訪れていた。

 名前は確かエミリアさんとカルナさんだったか。不躾なのにもかかわらず、気前よく申し出に応じてくれたチャンピオンの人柄の良さも窺える。

 けど、ロビーやセントラル・エリアの施設で直接じゃなくて使者を通して「AVALON」の本拠地も同然なフォースネストで話がしたいと返された辺り、キョウヤさんたちが抱えている案件も結構重そうだ。

 

 トップオブトップ、このゲームの個人ランキングとフォースランキング共に1位を獲得している生ける伝説と会うだけあって、チナツはもうガチガチに緊張している様子だった。

 無理もない。むしろフードこそ脱いでいるけど、いつも通りに冷静な目で事態を俯瞰してるジェニの方が物怖じしないというか恐れ知らずってだけの話だ。

 そんな俺たちの緊張を解すように、キョウヤさんは柔らかく微笑むと、副隊長二人を下がらせて、一歩前に出るように促してくる。

 

「さて、緊急の要件ということだったが……ユウヤ君。それは一体?」

 

 指示通りに一歩前に踏み出して俺は、すっ、と冷静に問いかけてくるキョウヤさんの目を、その刃にも似た鋭い輝きを真っ直ぐに見据えて口を開く。

 

「……俺たちのフォースから、マスダイバーが出ました」

 

 下手に取り繕ったり、隠し事をするよりは全てを明らかにした方がいい。

 元からその話をするつもりだったというのもあるけど、その方がどんな形であれ、後々禍根を残さずに済む。

 マスダイバー、という言葉を聞いた途端にキョウヤさんの表情が途端に険しいものへと変わる。

 

 一秒がどこまでも引き延ばされていくような感覚の中で、俺は険しい顔つきのキョウヤさんから注がれる厳しい視線を受け止めて、真っ直ぐにその瞳をただ見つめ返す。

 信じてほしい、というのも無理があるのかもしれない。でも、俺が出せる限りの誠意は、俺にできる限りの全てはこの目に込めて、尽くしたつもりだ。

 だから、ここで門前払いを喰らうなら仕方ない。それまでの話だったというだけだ。

 

「……なるほど。おおよそ君たちの事情は把握した。身内から出たマスダイバー……それは恐らく、マフユ君だね?」

「はい、でもあいつは……マフユはズルをしたくてブレイクデカールに手を出したんじゃないんです、俺が……俺のせいで、マフユは……」

「ふむ……」

 

 キョウヤさんは俺を見定めるようにそう呟くと、どうしたものかとばかりに小さく首を傾げる。

 

「わかった。少しばかり詳しく事情を話してほしい。君たちを疑いたくはないが、こちらの用件もマスダイバー絡みのことなのでね」

「はい、マフユは……『シャドウロール』に唆されてブレイクデカールに手を出したんです。直接の原因になったのは……『シルク・ドゥ・イディオ』とかいうフォースの連中に悪口を言われたのと、何より俺自身の未熟さです」

「『シルク・ドゥ・イディオ』……常日頃から悪質な言動をしていたフォースだね。先日ゲームマスターが動いたとは聞いていたが……」

 

 あのクソピエロ共がマフユの心を傷つけて、ブレイクデカールに手を出させるきっかけになったのは確かなことかもしれない。

 だけど、直接の原因になったのは俺の至らなさだ。

 あの時クソピエロ共の挑発に乗っていなければ、いや、違う。もっと前だ。フォース戦の申し込みを受け続けたりしなければ、もっと早くマフユのSOSに気付いていれば、きっとこんなことにはならなかった。

 

 いや、事が起こってしまった以上、これもたらればの話でしかない。

 覆水盆に返らずという以上、俺にできるのは、ただ至らなさをキョウヤさんへ、正直に告げることだけだ。

 

 

 できるやつにはわからない。マフユの言葉が脳裏にリフレインする。

 きっと戦いばかりの日々の中でマフユは、その心をすり減らし続けていたのかもしれない。

 それに気付いてやれなかったのは、間違いなく俺の落ち度だ。

 

「はい、あいつらはアカウントを凍結されました。そのあと……俺たちは『ケモノミチ』ってフォースと戦いました。そこで現れた『シャドウロール』が、フォース戦に割り込んできて、マフユに接触回線を開いたんです」

「なるほど。『シャドウロール』はそれ以外に何もしなかったのかい?」

「はい、これは推測ですけど、多分その時に……マフユは『シャドウロール』からブレイクデカールの情報を受け取ってたんだと思います」

 

 そして、そのあとに「ヴァモーズコンバット」とのフォース戦で、マフユはブレイクデカールを使って、「できるやつにはわからない」という言葉を残して、俺たちの前から姿を消した。

 これが、俺たちに説明できる全てだった。

 全ての説明を聞いたキョウヤさんは険しい表情を崩さずにふむ、と細い顎に指をやると、考え込むように小さく俯く。

 

「君たちの事情は把握した。それで、君たちは私に何を望んでここに来た、『トライダイバーズ』?」

「俺は……俺たちは、マフユを取り戻したいんです。マフユは……きっと望んでブレイクデカールを使ったんじゃないって、そう信じてます。こんなことを言える義理じゃないのもわかってます。だけど、キョウヤさんが……チャンピオンが『シャドウロール』について何か知ってるなら、それを聞かせてもらいたいと思って、ここまで来ました」

 

 だから、どうか俺たちに『シャドウロール』のことを教えてください。

 チャンピオンの厳しい視線から目を背けずに、真っ直ぐそれを受け止めて、俺は心の底から頭を下げる。

 本当ならこんなことをお願いできる身じゃないってことはわかってる。今すぐ出ていけと言われたっておかしくない。

 

 もちろんキョウヤさんが、チャンピオンがそう言ったのなら、俺たちはそれに従う。それが通すべき筋ってやつだからな。

 もしそうなったらなったとしても、手当たり次第に「シャドウロール」について調べて、マフユを探すだけのことだ。

 なんとしたって、どれだけかかったって、それが砂粒ほどの可能性だとしたって諦めない。また一緒に笑い合える日のために、また一緒に、GBNを楽しむために。

 

「結論から言おう。私が……我々が『シャドウロール』について知っている情報は、ないに等しい」

「そうですか……すみません、突然押しかけてしまって」

「待ちたまえ、話はまだ終わっていないよ、ユウヤ君」

 

 頭を下げてチャンピオンの部屋を去ろうとした俺たちを引き止めるように、ふっ、と柔らかく笑う。

 

「終わってないって……どういうことですか、キョウヤさん?」

「そのままの意味だよ。我々が『シャドウロール』について知っていることはないに等しいかもしれないが、君たちに伝えられることはある、ということだ」

 

 再び、キョウヤさんの視線が鋭さを帯びる。

 言い換えるならそれは、あの「シャドウロール」についての情報はないに等しいが、俺たちに伝えられることは、伝える価値がある情報は持っている、ということだ。

 俺とチナツ、そしてジェニは無言で顔を見合わせて、小さく頷く。

 

 それがチャンピオン直々の言葉とあれば、もし少しでもマフユを取り戻すための手がかりになるのなら、聞かないという選択肢はない。

 キョウヤさんも初めからそれをわかっていたかのように、むしろそれを伝えたかったからこそ俺たちをフォースネストに招いたのだとばかりに、試すような視線が向けられる。

 多分、ここから先は後戻りできない。

 

 チャンピオンが話したがっている情報がなんであれ、どうであれ、それを聞いた時点で一蓮托生になることは避けられないはずだ。

 だとしても、俺は。俺たちは。

 ごくり、と固唾を呑み込みながら、俺は力強くキョウヤさんの言葉に頷いてみせた。

 

「……聞かせてください!」

「いい返事だ。察しているとは思うが、ここから先は他言無用で頼む」

「はい!」

 

 望まない形とはいえ、身内からマスダイバーを出してしまった俺たちがそれだけ重大な秘密を預かれる身なのかどうかはわからない。

 だけど、キョウヤさんが話をしてくれるということは、俺たちの事情を汲んだ上で、マスダイバーを出してしまったという事実を受け止めた上で話すだけの価値があると判断してくれたということだ。

 だったら、その信頼には全力で応えなきゃいけないだろう。改めて感じたチャンピオンの懐の深さと器の大きさに圧倒されつつも、感謝を込めて俺は答える。

 

「現在、GBNに様々な異常が……バグが発生していることは君たちも知っているだろう?」

「はい、確かブレイクデカールの仕業だとか聞いてます」

「その通りだ。ブレイクデカールは不正なコードを読み取らせて……GBNのメインプログラムに干渉していると、私はそう見ている。まずはこの映像を見てほしい」

 

 キョウヤさんがそう言って指を鳴らすと同時に、コンソールから出現したスクリーンに、一つの動画が映し出される。

 それは一見、普通のフォース戦に見えた。

 

「智将ロンメル率いる『第七機甲師団』のフォース戦……」

「確か、フォースランキング2位だったか?」

「ええ、ユウヤ。相手の動きは硬いわ。この程度ならロンメル大佐の戦術でなんとかなるんじゃ……?」

 

 チナツが言う通り、始まった当初はロンメルって人が率いている「第七機甲師団」のメンバーが地形を利用した挟撃やトラップを利用した奇襲で一方的に有利を取っていた。

 このまま行けば、なんの問題もなくパーフェクトゲームで終わるのであろう戦いだ。

 だけど、キョウヤさんがわざわざ見せてきたということは、この戦いには「何か」があるに違いない。

 

 そう睨んで、画面を見つめていたその瞬間だった。

 俺と同じように、スクリーンへかじりついていたチナツが驚愕に目を見開く。

 それまでは無感情に俺たちのやり取りを一歩引いて見ていたジェニも、その光景には目を疑ったか、あるいは不快感を示すかのように眉をひそめていた。

 

「ガンプラが、再生したの……!?」

「この効果……まさか!」

 

 ロンメル隊からの十字砲火を受けて倒れ伏したガンプラが、まるでその損傷など最初からなかったかのように無傷の状態で戦線に復帰する。

 その光景には俺とチナツも見覚えがあった。

 ダイバーランクを上げるため、ヴァルガに潜っていた時に遭遇した旧キットのシャア専用ザクだ。

 

 あの時のシャアザクは確か肉が寄り集まるかのように再生していたはずだけど、この映像に収められているマスダイバー機の再生速度は、それを遥かに凌駕している。

 ロンメル隊はそれでも動じることなく消耗戦の構えに突入し、何度もマスダイバーの機体にダメージを与えていた。

 だけど、それも虚しく再生したマスダイバーに押し切られて、とうとう全機が弾切れを起こし、白兵戦に移行、その後は言うまでもない。

 

 格闘攻撃ですら深傷を負わせるには至らずに、再生を繰り返すマスダイバーの前に、ロンメル隊は、フォースランキング第2位というGBNの頂点に近い強者たちは、パーフェクトゲームでの敗北を喫するという結末を辿っていた。

 誰が見たってこれは異常事態だ。

 チナツもジェニも、眉を逆立てて、ガッツポーズをしているマスダイバーに嫌悪を示す。

 

 ヴァルガで遭遇したシャアザクの時よりも強化されたブレイクデカールの力。

 そしてキョウヤさんが語ってくれたことが本当なら、GBNを支えているメインプログラムは今もクラックされ続けているということになる。

 それも、より強力になったブレイクデカールによってだ。

 

「君たちも心当たりがあるようだね。ならば話は早い。ブレイクデカールは日々悪辣な進化を遂げている……もしこのままこの事態を放置しておけば、最悪GBNが崩壊すると私は見ている」

「GBNが、崩壊……」

「そんな! でも、こんなになるまで運営はどうして……!」

 

 あまりの事態に脳が理解を拒んだのか、俺はただ、おうむ返しに同じ言葉を繰り返すことしかできなかった。

 そんな中でも、チナツが果敢にも食ってかかったのに対して、キョウヤさんは心から残念そうに目を伏せて首を横に振る。

 

「証拠がないんだ」

「証拠が、ない……?」

「詳しくは話せないが、運営の調査によればブレイクデカールを使用したデータはログに残っていない、というのが見解だ。だからこそ、私とロンメル大佐はあれがメインプログラムに干渉し、データを改竄しているという仮説を立てた」

 

 一時的なステータスの改竄を行うだけのチートプログラム、不正な処理を強引に割り込ませるだけならその痕跡はログとしてデータに残る。

 でも、それがないってことは、メインプログラムに対して「不正なコードを割り込ませた」という事実を書き換え、なかったことにしていると見ていいだろう。

 そして、ログが残ってない以上、キョウヤさんが言ったことは十中八九本当で、事態は俺たちが思うよりも遥かに深刻だってことだ。

 

「なにか……なにか俺たちにできることはないんですか!?」

 

 マフユを探すことを諦めたわけじゃないけど、ブレイクデカールがここまで深刻な被害を出してる以上、そしてキョウヤさんがそれを聞かせてくれた以上、はいそうですかと黙っているわけにはいかない。

 今この瞬間も、GBNは崩壊に向けて進んでいる。それをなんとか食い止めなきゃ、マフユを探すどころじゃなくなっちまう。

 焦る俺たちに対して、スクリーンを閉じたキョウヤさんは瞳に鋭い輝きを宿しながら静かに頷いてみせた。

 

「……ある。それが、君たち『トライダイバーズ』に呼びかけた理由でもある」

「本当ですか!? 俺たちにできることがあるなら、なんでもやります! だから!」

「アタシも、この事態をなんとかできるなら……その手段があるなら、全力で!」

「……ユウヤがそうすると言うなら、私はそれに従う」

 

 俺たちは声を揃えて、チャンピオンの言葉にそう返す。

 

「ありがとう。君たちが協力してくれるなら心強い……そして、これはマフユ君の居場所にも繋がるかもしれない情報だ」

「マフユの、居場所……?」

「現在我々と『第七機甲師団』はブレイクデカールを配っている元締めの潜伏先を特定する作戦を遂行している。そしてこれは『GHC』からのリークだが……マスダイバーとの遭遇頻度が以前に比べて減ったという報告があった。これらの情報を総合すれば、黒幕が潜んでいるエリアに、マスダイバーが集結している可能性が非常に大きい」

「つまり、そこにマフユが……『シャドウロール』が現れる可能性がある!」

「そういうことになるね。だからこそ、我々は信頼できるフォースやダイバーに協力を募って、有志連合の結成を画策しているんだ」

 

 有志連合。その言葉から察するに、恐らくキョウヤさんたちはマスダイバーの元締めがいる地点を特定して、そこに乗り込むつもりでいるのだろう。

 そして、推測とはいえその本拠地を守るためにマスダイバーが集まっているのなら、対抗する戦力も必要になってくる。

 そこで俺たちにも白羽の矢が立てられた、という筋書きか。

 

「有志連合……俺……いえ、俺たち、やります! だけど、俺たち、身内からマスダイバーを出してるのに、どうして……」

 

 筋書きそれ自体は理解できた。

 だけど、身内からマスダイバーを出してしまっている以上、俺たちの事情や言い分はともかくとして、内通の嫌疑がかけられることは避けられない。

 なのに、キョウヤさんはここまで協力的に、そして最重要機密であろうことを話してくれている。

 

「簡単なことさ。こちらとしては一人でも多くの戦力が欲しい。君たちにとってはマフユ君を、『シャドウロール』を探すための手掛かりになる。互いに損はないはずだ」

 

 どうして、という無言の問いに答えるかのようにふっ、と笑って、チャンピオンはあっけらかんと答えてくれた。

 だけど、それにしたって。

 喉から出かかったその言葉も予見していたかのようにキョウヤさんは前に歩み出た俺たちを制して、そっと微笑む。

 

「何より私は、僕は……君たちの愛を信じたいんだ」

「愛……」

「この世界に対する、GBNに対する愛。そして、ガンプラに対する愛。それは真っ直ぐで曇りないものだ。だから話した。マフユ君もきっと、それは同じだと信じている」

「キョウヤさん……」

「ただいたずらに、私利私欲だけでこの世界を、GBNを破滅に導いているのなら同情の余地はない。だが、僕は君たちを信じると決めた。マフユ君も心を病んで、止むに止まれずブレイクデカールを使用してしまったのだろう。だが、きっと彼女は今もこの世界に対する愛は失っていない……そう信じて、君たちを是非、有志連合に迎え入れたいんだ」

 

 ありがてえ。それ以外の言葉が見当たらない。

 チャンピオンともあろう男が俺たちをここまで信じてくれていることに、マフユを信じてくれていることに、ただただ俺は感服することしかできなかった。

 キョウヤさんが差し伸べてくれた手を握り返して、強く頷く。

 

「お願いします、キョウヤさん……いえ、チャンピオン。俺たちを……『トライダイバーズ』を、有志連合に協力させてください」

「こちらこそ願ってもないことだ。よろしく頼むよ、『トライダイバーズ』の皆」

 

 固い握手を交わして俺は、チャンピオンの作戦に協力することを、有志連合へ加盟することを志願する。

 こんな俺たちをあたたかく迎え入れてくれたキョウヤさんのためにも、そして、今もきっと苦しんでいるマフユともう一度話をするためにも、この世界を壊そうとするマスダイバーの元締めを倒すためにも。

 戦うんだ。そして、取り戻すんだ。平和なGBNを。

 

 そして、マフユとの日々を。

 感謝と決意を込めて俺は、もう一度キョウヤさんの手を握り返した。

 そこに言葉は、いらなかった。




来たるべきその日に向けて
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