「クジョウから皆様への言伝にはまだ少しばかり時間がございますので、しばしご歓談ください、では」
眼鏡をかけた女性、エミリアさんがそう言って頭を下げる。
多分だけど、有志連合結成に向けてフォース間での交流を持っておくとか、そういう狙いがあるのかもしれない。
たとえここに集まっているのが個人ランキングに名前を連ねるような猛者たちだとしても、最低限の連携や意思疎通が図れなければ烏合の衆だ。
だからこそ、ここで最低でもメンバー間の顔を覚えておくことで少しは事が優位に進む……のかもしれない。多分だけど。
「アンタにしては珍しく考え込んでるわね」
「ああ、まあな……」
あくまでもその可能性があるってだけで、有志連合そのものについて心配があるわけじゃない。
極端な話、猛者たちはGBNでかなりの場数を踏んできたわけで、スタンドプレーを連携に繋げることだって不可能じゃあないはずだ。
そうなると、別にあれこれ悩んだりする必要なんてものはどこにもないんだけど、それとは別に、この作戦にマフユが現れるのか、あるいは「シャドウロール」が現れるのかという懸念が俺の中にあるのは確かだった。
有志連合の結成がまだ全員に知れ渡ってはいない今、その話を大っぴらにするわけにもいかないのが悩みどころではあるな。
それに、何より。
壁に寄りかかっているジェニに視線を向ければ、それに気付いたのか目と目が合う。
あいつからの宿題、「俺だけの言葉」。
拳で語り合うって選択をしたのはいいとして、具体的に俺からマフユに言える、フォースとしてでもなく、仲間としてでもなく、俺だけの言葉となると中々これが難しい。
「……マフユのこと、心配?」
「ああ、そりゃあな」
「そう……でも元気出しなさいよ、アンタがそんな顔してたら、帰ってきづらいでしょ」
遠慮がちに笑ったチナツに言われて初めて気付く。
そんなに強張った顔をしていたんだろうか。コドウと話してたときはそんなつもり、なかったんだけどな。
ぴしゃりと頬を叩いて気合を入れ直す。チナツの言う通り、俺が難しい顔をしてちゃ始まらない。
「むー、このワタシをよびだしておいてすがたをみせないとは、どういうつもりだクジョウキョウヤー!」
それとタイミングを同じくして、会食場を去っていったエミリアさんとカルナさんに噛みつくかのように、銀髪に赤い瞳の小さい子が、憤慨も露わにそう叫ぶ。
当然というかなんというか、カルナさんが苦笑を浮かべた以外は特に反応もなく、二人は扉の外に去っていく。なんというか、ガキンチョそのものだな。
でも、おかげで気が抜けた。
懸念だの心配だのはそこら辺に置いていけばいい。俺だけの言葉ってやつも、戦ってるうちに見つかるかもしれないからな。
「はろーやーやー、少年少女」
「トワさん!」
「君たちもチャンプに呼ばれてここに来たのかい?」
なんてことを薄らぼんやりと考えてるうちに、声をかけてきたのはトワさんだった。
ソロ専ってわけじゃなくてもフレンドが少ないって嘆いてたはずなのに、失礼だけど、ここにいることが少し不思議になる。
俺たちが知らないだけで、この人もチャンピオンとフレンドだったりするんだろうか。
そんな具合に俺とチナツが首を傾げたのに答えるかのように胸を反らしたトワさんが、言葉を続ける。
「なに、トワさんがここにいるのは君たち経由でチャンピオンに情報が伝わってたからさ。それに……これでもトワさん、SSランクダイバーだったりするからね」
「SSランク……? うわ、マジだ!」
「そういえば、トワさんのプロフィール、確認したことなかったわね……」
えっへん、とドヤ顔を披露するトワさんのプロフィールをフレンド欄から覗き見てみれば、そこには確かにSSランクという文字が燦然と輝いていた。
ペリシアで会ったときは確認してなかったというか、するの忘れてたから随分驚きだ。
まあでも、あのスノーホワイトプレリュードを作れるぐらいのビルダーなんだから、それぐらいの実力あって当然なのかもしれない。
「おいおい、揃いも揃ってトワさんのプロフィールを読んでくれていないとは……ちょっと傷付くよ?」
「いや、すみません……なんていうか、色々あったのと、単純に忘れてたんで……」
「アタシも右に同じ……ジェニは確か、トワさんとの面識ないわよね?」
「ない」
そんなわけで今のところ俺たち全員、あの人のプロフィールを読んでなかったりそもそもフレンドどころか知り合いですらなかったりしたのだ。
いや、本当に申し訳ない。
頭を下げる俺たちに、トワさんは言葉とは裏腹に大して気にした様子もなく、そんなわけさ、と一言呟いて肩を竦める。
「いやいや、気にすることはないさ少年少女。知らないことを責めたところでなんにもならないからね、ところで」
「ところで?」
「マフユ君の姿が見当たらないようだが……なにかあったのかね? ああ、言いたくないなら別に構わないけどね」
やっぱり、というか当然俺たちの異変には気付いていたようで、トワさんは少しばかり目つきを険しくして、俺たちにそう問いかけてきた。
言いづらいことではあるけど、信じられる人に隠し事をするのは筋が通らない。
だからこそ、俺はここまでにあったあれこれをトワさんに洗いざらい伝えることにした。
「……なるほど。それで君たちはここにいるというわけか」
「トワさんがチャンピオンから……キョウヤさんからどこまで聞いてるかはわかりませんけど、主旨からは外れてるってのは確かです」
有志連合の目的はマスダイバーの撲滅、というよりブレイクデカールを広めている黒幕の確保というところに尽きる。
マスダイバーの反撃があるかもしれない、というのは十中八九そうだとしてもまだ未確定事項だ。
それに、確定事項だとしても大規模な反攻が予想される中でマフユか、もしくは「シャドウロール」と遭遇できるかどうかははっきり言って運に等しい。
「だとしても……俺たちは必ずマフユを取り戻します、そのつもりでここにいるんです」
「なるほどね……だが、可能性は著しく低いものであることはわかっているんだろう?」
「それでも、です」
いちかばちかの賭けってやつだし、俺たちが企てているマフユもしくは「シャドウロール」の確保という算段をキョウヤさんたちが許可してくれるかどうかも微妙なところだ。
それでも、やるしかない。それが俺たちの有志連合に参加する理由なのだから。
トワさんの試すような視線を真っ向から受け止めて、俺は決意を込めた瞳でその碧眼を覗き込む。
「ふっ……なるほどね。それほどの決意を見せてくれたのなら、トワさんも一肌脱ごうじゃないか、少年少女」
「トワさん……」
「それに……マフユ君が欠けたというのはトワさんにとっても望ましいことじゃないからね。君たちの手伝いをするのもやぶさかじゃない」
トワさんは眼鏡のブリッジを持ち上げると、さっきの試すような視線が一転、いつも通り飄々とした、どこか捉え所のないものに戻る。
ありがたい限りだ。猫の手でも借りたいって状況だっただけに、SSランクのトワさんが力を貸してくれるってんなら鬼に金棒ってやつだろう。
俺はトワさんにありがとうございます、と告げて頭を下げると、そろそろ待ち兼ねたぞとばかりにチャンピオンの到来を待ち望んでいる会場を一望した。
そして、その期待に応えるかのように、会食場に繋がる扉が開き、エミリアさんとカルナさんを従えたチャンピオンが、キョウヤさんが堂々とした態度で入場してくる。
「待たせてすまない、皆。これより君たちを呼び出した真意について語ろうと思う。ブリーフィングルームまでついてきてほしい」
「そこで我々が事のあらましについて説明しよう」
そして、群衆から抜け出てきた白いオコジョ、ロンメルさんがキョウヤさんの隣でそう告げた。
いよいよ、始まるのか。
GBNの崩壊を防ぐための、そしてマフユを取り戻すための戦いが。
俺はこれから先に待ち構えている戦いを想像し、思わず拳をきつく固めていた。
◇◆◇
「用件も告げずに呼び出して済まない。そして集まってくれてありがとう。ここにいるダイバーは私が心から信頼を寄せているダイバー達だ。故に今から話すことは他言無用でお願いしたい」
議会のようなブリーフィングルームの壇上に上がったキョウヤさんは、一礼すると、やはりというべきか、この有志連合結成の話がトップシークレットであることを告げる。
身内からマスダイバーを出してしまった俺たちにもその事情を語ってくれたのは、信じてくれているからだと思うと感謝と同時に、どこか後ろめたい気持ちが湧き起こってくるけど、こんなところで立ち止まってはいられない。
「皆も知っての通りGBNで不正ツールを使うマスダイバーはその数を増やしつつある。しかも彼らの手口は巧妙で運営側も手をこまねいているのが実情だ。よって私は、ブレイクデカールの氾濫を阻止すべく、有志連合の結成をここに提案する!」
『うおおおおおっ!』
チャンピオン直々の提案とあってか、呼び出されたダイバーたちは一様に歓声を上げている様子だった。
俺たちも事前に知らされてたとはいえ、こうして公に発表されるとなんというか、感慨とかそういうものが湧いてくるから不思議だ。
静かながらも目を伏せ、腕を組んだジェニも小さく頷いていて、改めてキョウヤさんの人徳というものを実感させられる。
「現在私のフォース『AVALON』は、ロンメル隊と共にある秘密作戦を実行中だ」
「ここから先は私が説明しよう。我々有志連合の目的は、ブレイクデカールをダイバーたちに配布している黒幕を突き止めることにある」
キョウヤさんに代わって説明役を担ったロンメルさんが、コンソールに映像を投影し、作戦の概要を説明するために口火を切った。
かいつまんでいうなら、作戦の概要はこうだ。
ロンメル隊こと「第七機甲師団」の諜報員がブレイクデカールの胴元と接触したところを特定、黒幕と接触次第俺たちが出撃して現場を包囲する、という単純といえば単純なもの。
ただ、そう簡単にいくものじゃないってことは、ロンメルさんも織り込み済みのようだった。
「『GHC』から提供された情報を元に我々は諜報員を送り込むサーバーをある程度絞り込んだ……だが同時に、該当するサーバーにマスダイバーも集結しつつあるという情報も提供された通りだ。つまり、本作戦にはマスダイバーによる大規模な反攻が予想される」
ロンメルさんの言葉にブリーフィングルームがざわめき立つ。
だけど、作戦を告げられた時にそのリスクを覚悟していなかったダイバーはいないようで、漏れ聞こえてくる声には賛同や、むしろ待っていたとばかりに上がる鬨の声が多く混ざっていた。
「要するに、マスダイバーとやり合えばいいんだろ?」
「あいつらに仲間が酷い目に遭わされたんだ、やってやるさ!」
「こんだけの猛者が揃ってんだ、楽勝だって!」
どこか楽観的に、集まっていたダイバーの一部が強気な声を上げる。
だけど、それとは反対にどこか沈鬱な、覚悟こそ決めてはいるものの、この大規模作戦に勝ち目が本当にあるのかどうかを疑うようなフォースがいるのも確かだった。
会食場ですれ違った確か「アキノ」と「リヒト」という銀色の制服に黒いインナー、銀のネクタイといったダイバールックの集団や、チナツが言ってたSD使いの「シャーロット」さんの周りにいるダイバーがそうだ。
「その心意気は頼もしい限りだ。しかし楽観しないでほしい。我が隊が壊滅的な被害を受けた際、マスダイバーはガンプラに異常なまでの再生能力を有していた。更に発生するバグに巻き込まれる可能性もある。危険な作戦だと言わざるをえない」
ロンメルさんの言葉と共にコンソールへと映し出されたそれには、先に俺たちが見せてもらっていた、「第七機甲師団」とマスダイバーたちによるフォース戦の様子が収められていた。
その異常な再生力を前に、さっきまで強気だったはずのダイバーも流石に押し黙って、唇を引き結ぶ。
改めて見れば、気持ちはわかる。こんなのが大量に集まってるとか、想像もしたくないような光景だ。
「だが活路はある。これは殲滅作戦ではない。黒幕の正体……そのIDさえわかればいいんだ」
支援部隊が戦線を持ち堪えさせる、もしくは押し上げて、その間に突入部隊による機動作戦で黒幕の確保を試みる。
それが、今回の有志連合に課せられたミッションということだ。
俺たちがどっちに配属されるかはこの先で決まるのだろう。だけど、どっちでもやることは変わらない。
「頼む。それまで君たちの命を預けてくれ」
壇上のキョウヤさんが敬礼をするのに呼応して、ダイバーたちもまた同じく立ち上がり、敬礼を返す。
俺たちもそれに倣う形で、キョウヤさんとロンメルさんの二人に敬礼する。さて、問題はここからだ。
「作戦の概略を説明する前に、簡単な質疑応答の時間とさせてもらいたい。無論、この作戦に異議があるものは退室してもらって構わない」
「へっ、そんな腰抜けがこの場にいるかよ!」
「……頼もしい限りだ、タイガーウルフ。私は幸せ者だな……さて、感慨に浸るのはここまでにしておこう。この場にいる全員の覚悟が定まったと見て、今一度、我々に確認したいことがあるならば、是非とも質問してほしい」
タイガーウルフさんの声に乗っかる形で沸き起こった歓声を鎮めながら、キョウヤさんは議場の全員を見渡して言う。
俺たちも配置についてあらかじめ知っておきたかったけど、真っ先に手を挙げたのは「GHC」のアトミラールさんだった。
「チャンピオン。少しばかり質問があるが、構わないかね?」
「先述の通りだよ、続けてくれ、アトミラール」
「承知した。此度の作戦、艦隊による支援は必要ないかね?」
その必要があれば、追加の兵力と戦艦を用意させるが。
しれっととんでもないことを言い放って、アトミラールさんはモノクルの奥にある瞳へと鋭い光を宿す。
「追加の戦艦って……流石は二万の兵力を持つフォースアライアンスってとこね……」
「あのデカいのがまだあんのか……」
「……まるでカルロス・カイザーね」
俺とチナツは思わず顔を見合わせてそう呟いていた。戦艦一隻辺りにどれぐらいのガンプラと兵員が積めるのかはわからない。
けど、二万の戦力を持っているなら、それを収容する母艦も大量に必要だと考えると「GHC」の本拠地には中々衝撃的な光景が広がってそうだ。
ジェニが呟いていたカルロスなんちゃらさんについては心当たりがないけど、過去にもそういう人がいたって辺り、ガンプラバトルってのは奥が深いんだな。
「気持ちはありがたいが、今回は電撃作戦になる。機動力を活かして戦線を押し上げなければならない都合上、足並みを揃えづらい戦艦の投入は控えてくれると助かる」
「そうか……ならば予定通り、こちらは我々が選抜した五十名で支援に当たろう」
それでも五十人用意してる辺りスケールがデカいというか、五十人でも少なく感じる辺りバグってるというか。
分隊も分隊とはいえ、ある意味とんでもないフォースと俺たちは事を構えちまったらしいな。
戦艦が投入できないことが残念だったのか、着席するアトミラールさんはだいぶしょんぼりして見えたけど。
「他に質問がある者はいないか?」
「はい!」
キョウヤさんの問いかけに、俺は今度こそとばかりに反射で手を挙げていた。
「ユウヤ君か、それでは質問を頼む」
「はい、チャンピオン! えっと……俺たち『トライダイバーズ』は突入部隊と支援部隊のどっちに配属されるんですか?」
ちょっとせっかちな気もしたけど、立ち位置をはっきりさせておいた方がこっちとしても動きやすい。
機密に触れるとかじゃなければ、この場で知っておきたかった。
俺たちの質問に、キョウヤさんは少しばかり考え込むような仕草を見せると、ロンメルさんと顔を合わせて頷き合う。
「あとで説明するつもりだったが……いいだろう。我々の想定では、君たち『トライダイバーズ』をはじめとしたいくつかのフォースには遊撃部隊を担ってもらうことになっていた」
「遊撃部隊……」
「突入部隊を支援しつつ、マスダイバーを叩いて支援部隊のために戦線を押し上げる役割を担う過酷なポジションだ。それでも構わないかね?」
「要するに、私たちの判断で動ける。そういう理解で構わない? チャンピオン」
「そういうことだ、ジェニ君。高度な判断力と柔軟性が求められる。行き当たりばったり、ともいうが、君たちの働き次第で突入部隊も支援部隊も格段に動きやすくなる。頼んだよ、『トライダイバーズ』の諸君」
「はい!」
俺は威勢よく返事をして敬礼をする。
要するに、作戦の名目を守りつつも俺たちが自由に動けるポジションを、キョウヤさんは確保してくれたということだ。
それについては感謝が尽きない。あくまで突入部隊、支援部隊双方の支援役という建前は守りつつも、俺たちはマフユか「シャドウロール」を探すことに全力を尽くせるってことだからな。
本当に、何度頭を下げても足りないぐらいだ。
キョウヤさんの厚意に感謝しながら席について、聞きたいことを聞けた俺たちは、有志連合の面々が質問を重ねていく様子を見守っていた。
待っててくれよ、マフユ。必ず、必ずお前を取り戻す。
決意と共にチナツとジェニと視線を交わし、俺はそう意気込んで、拳をきつく握り締めた。
結成、有志連合