キョウヤさんからの連絡では、今日の十五時に初心者用サーバー、エリア11のラグランジュ4へ集結するように指示されていた。
多分だけど、そこがブレイクデカールをばら撒いてる黒幕がいるところなんだろう。
初心者用のサーバーってことで俺たちが入れるのかどうかが若干心配だったけど、そこは問題ないらしい。
「全員、読んだか?」
「ええ、今日の十五時、エリア11のラグランジュ4に集結。そうでしょ、ジェニ?」
「それで間違いない。行きましょう、ユウヤ」
「ああ! それじゃあ行くぜ!」
──トライダイバーズ、ゴー、ファイト!
チナツとジェニからの確認を取ったところでメッセージを閉じて、俺たちは声を揃えて初期支給品の椅子から立ち上がる。
まだ出撃予定時刻までは時間があるけど、格納庫で機体の最終確認とか調整とか、できることは色々ある。
ギリギリの時間まで粘って、できることをやる。そして、GBNを崩壊の危機から救って、マフユを助け出す。
それが、俺たちの今回やるべきことだ。
よく考えたら結構な大事だと、緊張しているのに何故か笑えてくるのは武者震いの類なのだろう。
「頼むぜ、スフィーダ……俺とストライク焔の魂を、連れて行ってくれ」
転送された格納庫で機体の最終確認をする傍らで、俺は苦笑を浮かべながら十八メートルサイズまで拡大されたストライクスフィーダを仰ぎ見る。
最悪、GPDの時みたいに本体がぶっ壊れたりはしないだろうけど、「シャドウロール」と戦うことになるのなら、そして、再生能力を持ったマスダイバーたちと戦うことになるのなら、機体の破損は避けられない。
マフユのところに辿り着くまでは可能な限り被弾を抑えたいところだけど、俺たちがつく遊撃隊のポジションは、ある意味一番過酷なとこだ。
防衛隊を守りながら、突入部隊を援護し、戦線を前に押し上げていく。
それを、多数出現することが予想されるマスダイバー相手にやらなきゃいけない。
ヴァルガの時みたいに、一機だけにかまけているわけにはいかない都合、マスダイバーの再生能力がロンメル隊を壊滅させた時と同じなら、厄介極まりないことになる。
だとしてもだ。
こんなところで挫けていたら、戦う前から諦めていたら、なんにもならない。
全てのチェックを終えて、コックピットに乗り込んだ俺は、操縦桿を握り締めながら唇を真一文字に引き結ぶ。
「出撃予定時刻二分前よ、ユウヤ!」
「こちらは準備に問題ない。発進はいつでもできる」
「よし、こっちもオッケーだ! それじゃ出撃するぜ!」
『了解!』
「カミキ・ユウヤ、ストライクガンダムスフィーダ、出るぜ!」
カタパルトから滑り出したストライクスフィーダが、セントラル・エリアの青空を舞う。
続いて出てきたチナツのウイニングロードアストレイと、ジェニのプライドマスターの姿を確認すると俺は、無数の機体と一緒に、エリア11、ラグランジュ4へと繋がっている転送ゲートに飛び込んでいく。
百鬼夜行ならぬ百機夜行とでもいうべき光景に、セントラル・エリア中の視線が俺たちへと注がれてくるけど、そんなものを気にしてる場合じゃない。
そうしてゲートを通過した先に見えたものは、青々と輝く地球を背にして、巨大な資源衛星が見える宙域だった。
「有志連合各機に通達する! 黒幕を取り逃さないために、全機の到達を確認次第このサーバーは閉鎖される! そのため、一度撃墜されてロビーに戻されたら、再出撃はかなわないものと思ってくれ!」
「了解!」
威勢よく返事はしたものの、チャンピオンの、キョウヤさんの言葉に戦慄が走る。
再出撃が不可能ってことは、どう足掻いても一発勝負ってことだ。
それは、「シャドウロール」を見つけることも、マフユを見つけることも全く同じ。つまり、この一回が事実上、俺たちにマフユを探すために与えられた、最初で最後のチャンスって話になる。
それに、俺たちがやられれば、ブレイクデカールの影響でバグが広がってGBNが崩壊する。
マフユも探して、「シャドウロール」も探して、GBNも守る。やることが盛り沢山って感じだけど、だから燃えてくるんだ。
続々とゲートから飛び出してくる有志連合各機に続いて、俺たちもまた所定のポジションにつく。
「マスダイバー機、資源衛星内から多数出現! 資源衛星内に残存する戦力のモニタリング不可! プロテクトがかけられていると予想されます!」
「バグの影響がそこまで……いや、メインプログラムへのクラッキングを仕掛けられているということか……!」
エミリアさんの分析に、チャンピオンが歯噛みする。
レーダーに映る、敵対勢力を示す赤い点は現在も尚増え続け、ざっと数える限りでは百をゆうに超えているんじゃないかってぐらいになっていた。
有志連合側が持っている戦力は現状で打ち止めなのに対して、マスダイバー側が残している戦力が秘匿されている以上、数的不利を背負うのは避けられないか。
「有志連合各位に通達! これより突入部隊を支援する! 防衛部隊及び遊撃部隊の中で可能な者は砲狙撃戦体勢に移行!」
『了解!』
ロンメルさんからの指令が下ったことで、大火力や狙撃能力を有している機体が前面に展開し、迫りくるマスダイバーたちにその銃口を向ける。
「チナツ、出番だぜ!」
「わかってるわ! 切り開いてみせる、アタシの、アタシたちのウイニングロードを!」
チナツのウイニングロードアストレイは光の翼を広げると、前線に出た砲狙撃隊に合流して、右手のロングビームライフルと左のウェポンラックから展開した長距離長射程ビーム砲をマスダイバーたちへと向ける。
「ユウヤ、私たちは」
「……今はまだ損耗を抑えたほうがいい! 俺たちの役目はあくまでも機動戦で敵戦力を叩くことだからな!」
ジェニが仄かしていたのは、鳳凰覇王拳のことなのだろう。
確かにあれの威力は砲撃に匹敵するけど、その分エネルギーの損耗が極めて激しい。
俺たちに任せられたことを考えれば、ロンメルさんには悪いけどここはエネルギーを温存しておくことの方がきっと重要だ。
「ならばその役目、我に任せてもらおう……仮想バレル展開、リミッター解除!」
「GNロングレンジキャノン展開、GNホーミングレーザー、GNフェイダトンファー、マルチロック、セット……!」
前線部隊の真ん前に躍り出た、怪獣のような外見をしたガンプラ──前に配信で見てた、ディビニダドの翼を装備したクオンさんの機体と、ヴァルガで遭遇したキョウスケさんの機体が、先陣に立ってその砲口をマスダイバーへと向ける。
「終末の竜が息吹を、我が『ジャバウォック』の炎を受けよ!」
「GNハイマットフルバースト……!」
「これがアタシの……ウイニングフルバースト!」
ジャバウォックというらしい、クオンさんの機体から分離したサイコプレートが、恐らくはユニコーンのサイコ・フィールドも利用して形成したバレルから、終末の竜を自称するのに相応しい威力と範囲を誇るビームが放たれたのを皮切りに、キョウスケさんとチナツが全砲門からの一斉射撃を放つ。
『なっ……ブレイクデカールがあれば、チャンピオンでもなんでも余裕じゃないのかよ──』
「斯様なまやかしの力に頼った者など、我が前に立つことすら叶わぬと知れ」
バリエントに乗っていたマスダイバーが、テクスチャの塵へと還される中で呟いた戯言を一言で切って捨てて、クオンさんのジャバウォックが咆哮を上げる。
あの技の威力はローエングリンもかくやってほどにとんでもない。俺ですら自分の目を疑ったほどだ。
だけど、マスダイバーの機体は再生能力を持っている。
直撃を喰らって塵に還ったやつらはともかくとして、範囲から多少逸れていた機体群はどうなるのか──俺が一瞬だけ抱いた疑問は、果たして即座に解決を見ることになった。
キョウスケさんの放ったフルバーストと、チナツのウイニングフルバーストは扇状に広がる「ジャバウォック」の一撃の範囲と被らないよう、微妙に軸をずらしていて、再生途中のマスダイバーをGNロングレンジキャノンが、GNホーミングレーザーが、そしてチナツのウイニングフルバーストが焼き払う。
『こ、こんな……馬鹿な、馬鹿なあああっ!』
「今だ! 突入部隊各機は突撃! 防衛部隊はこの隙に一気に前線を押し上げろ!」
「了解したぜ、ロンメルさん! 次元覇王流……疾風突きぃっ!」
「次元覇王流、疾風突き……!」
俺とジェニはまだしぶとく残っていたマスダイバーの機体を破壊して、防衛部隊と共に前線を一気に押し上げていく。
ただ、マスダイバーの数は膨大だ。
どれだけクオンさんやキョウスケさんたちの、チナツの攻撃が強力なものであったとしても、無尽蔵かと疑いたくなる勢いで続々と資源衛星内から湧き出てくる。
「怯むな! マスダイバーと決して一対一で戦おうと思わず、スリーマンセルでの連携を徹底するんだ!」
『了解いたしました、提督!』
アトミラールさんが駆る銀翼のフラッグ……その改造機がリ・ガズィカスタムや、BWSを装備したリ・ガズィを従えて前進しながら、後に続く、エールストライカー装備のウィンダム隊に指示を下す。
アトミラールさんの、「GHC」の戦い方は、分隊とはいえ一度矛を交えたのだからある程度はわかっている。
徹底した連携。決して相手に擬似タイマンを許さない高密度なその体勢は、マスダイバーが相手だったとしても揺らぐことはない。
「航空隊各機に通達! これより我々はマスダイバーの上をとっての急降下爆撃を行う! 全機、僕に続け!」
『了解!』
そして、アトミラールさんが一気に機体を上昇させると、前に出てきたマスダイバーのドーベン・ウルフやゲーマルクといった重モビルスーツに向けて、その死角となる真上からの爆撃を敢行する。
本来であれば増槽がマウントされているであろう、リ・ガズィBWSの翼は大型化され、対艦ミサイルを懸下している。そしてそれは、リ・ガズィ部隊を率いるカスタムタイプも同じだった。
「今だマイ、征け!」
「さあ、パーティーの始まりよ! そう簡単にくたばってもらっちゃ張り合いがないってもんだから……ガッツを見せなさいよ!」
上空という死角を取られたことで雨霰のように降り注ぐ弾幕砲火に晒されたマスダイバーたちは、マイと呼ばれたリ・ガズィカスタムを操るダイバーの期待に応えることなく、メガ・ビーム・キャノンや対艦ミサイルの直撃を受けて爆散していく。
『なんだこいつら……!? ブレイクデカールがあれば余裕だって話じゃねえのかよ!?』
『ふざけやがって……お前も俺たちをコケにするのか!』
『だが、背中を見せたのは迂闊だったな航空隊!』
急降下爆撃を受けたことでマスダイバーたちは動揺していたものの、立ち直ったバンシィ・ノルンがビームマグナムを構えて、マイさんたちの背中に狙いをつけた、刹那。
「させんと言った!」
アトミラールさんのフラッグが急速変形を行って、手にしたライフルでビームマグナムを射抜く。
発射寸前だったビームマグナムが暴発したことで、バンシィ・ノルンの右腕は砕け散るものの、即座にまた再生してしまう。
だけど、再生までの間には、僅かとはいえラグがある。
「アトミラールさん、援護します! おおおおっ! 次元覇王流! 流星螺旋拳!」
『速い!? いや、強い……ぐわあああっ!』
再生してからビームマグナムをぶっ放すつもりだったのであろうバンシィ・ノルンに強襲をかけて、俺は流星螺旋拳をそのコックピットへと叩き込んだ。
そして、バンシィ・ノルンはそのまま爆散して宙域から消失する。
いくら再生能力を持ってようが、コックピットを一撃でぶち抜かれてしまえば、どうやら再生はしないらしい。
なるほど、いいことを聞いた気分だ。
確かに乱戦の中でピンポイントでコックピットをぶち抜く一撃を当てるのは難しいかもしれない。
だけど、いくら即時再生能力を持っていたって完全に無敵じゃないってわかれば、いくらか気が楽になる。
「このまま押し切るぜ、ジェニ!」
「わかった、ユウヤ」
『次元覇王流、旋風竜巻蹴り!』
ジェニのプライドマスターと背中合わせになって、俺は機体を回転させ、旋風竜巻蹴りをマスダイバーにお見舞いした。
これで全てを仕留めることを期待しているわけじゃない。
とにかく相手の機動力を奪って、再生までに生じる僅かな隙を利用して後続にコックピットをぶち抜いてもらいたいだけだ。
「ユウヤ君……そうか、各位、コックピットだ! 榴弾や貫通力のある武装でコックピットを狙えば、マスダイバーといえども撃破できる!」
「なるほど、そういうことかアトミラール……聞いたな! 防衛部隊は敵の足止めをしつつコックピットを狙って頭数を減らしていけ!」
俺からのサインを受け取ってくれたアトミラールさんに呼応する形で、ロンメルさんが有志連合全員に通達する。
それで防衛部隊の陣形が一気に集団戦の構えに入るのだから、トップランカーの影響力ってのは凄まじい。
「マスダイバー、第二波来ます!」
「それなら、アタシの出番ね! フォース、『アダムの林檎』、ガンダムラヴファントム……行っくわよー!」
マギーさんの、ストライクフリーダムをベースにしたのであろうガンダムラヴファントムというらしい機体が、持っていたビームカマをぶん投げる。
およそカマを投げただけとは思えないほどの範囲と破壊力で、資源衛星内から出てきた第二波のマスダイバーたちを足止めしていたものの、やっぱりコックピットへの直撃を喰らわなかった機体は即座に再生してしまう。
「ちょっと、そんなのズルいわよぉ! クオンちゃん、次の一撃にはまだ時間がかかりそう!?」
「リキャストには時間がかかる……それに我もマスダイバーに取りつかれた! 砲撃支援は難しいと思って!」
「それは厳しいわね……キョウスケ君!」
「わかっている、マギーさん!」
クオンさんが撃てないならその代わりに、とばかりに、再びビームカマを投擲したラヴファントムに続く形で、キョウスケさんのダブルオーガンダムを改造した機体が二度目のフルバーストを放つ。
あれだけ強力な一撃で畳み掛けられてしまえば、敵が木っ端微塵になるのにそう時間はかからなかった。
だけど、フルバーストを二発も放てばそれ相応にエネルギーは消耗するはずだ。
俺は襲いかかってきたマスダイバーのベルティゴを弾丸破岩拳で粉砕しつつ、キョウスケさんと、その隣に展開してIFBRを敵陣に撃ち込んでいるユユさんに視線を向ける。
「ならばここは妾に任せてもらおう……アブソーブ機構、ディスチャージ。マスダイバーとやらの攻撃が苛烈な分、此方も回復が強固になるでの……!」
「助かるよ、テンコ様」
「よいよい。此度の戦い、妾の『天照大稲荷』は長期戦を見越して持ち出してきたものよ。遠慮なく戦うがよいぞ、キョウスケの坊……いや、有志連合よ」
「ならばお言葉に甘えて……存分に暴れさせていただこう! ユユ!」
「ふふ……了解しました、お兄様」
キョウスケさんとユユさんの兄妹は高く飛び上がると、一気に機体に力を集中させてそれを解き放つ。
「トランザムブーストモード、ツヴァイアクセル!」
「ふふ……ifsプロージョン、フルドライブ……!」
チナツがサインをもらいに行ってた、あのテンコ様ってダイバーの機体はどうやらビーム攻撃を吸収して、そのエネルギーを他に分配することができるらしい。
マスダイバーのガナーザクウォーリアが放ったオルトロスの一撃を難なく吸収し、狐耳を模したパーツがあしらわれ、メガ粒子砲をクリアパーツに置き換えたゲーマルク、「天照大稲荷」は戦場に堂々たる姿で君臨する。
そして、全力を解き放ったキョウスケさんとユユさんは、宇宙に新たな星座を描くかのような機動力でマスダイバーをなます斬りにして、次々に敵を塵に帰せしめていく。
「アタシたちも負けてらんないわよ、ユウヤ! ここで一気に戦線を押し上げるわ!」
「チナツ、エネルギーは大丈夫か!?」
「アタシもテンコ様に回復してもらったから! 行くわよ、ジェニも!」
「言われるまでもない」
少なくとも「天照大稲荷」が健在なら、ある程度かっ飛ばしてもいけるってことだ。
チナツの提案に乗る形で俺もまたバーニングバーストシステムを起動して、防衛部隊の要石になったテンコ様を狙う敵を蹴り飛ばし、殴りつけて破壊していく。
……いや、特に面識とかあるわけじゃねーんだけど、なんか様をつけなきゃいけない気がするんだよな、テンコ様。
そんな事情はともかくとして、俺たちもまたキョウスケさんたちに続く形で夜空に星座を刻み、最前線のマスダイバーたちを薙ぎ倒す。
相手が無尽蔵だろうがなんだろうが、やってやれないことはないってんなら、やってやるさ。
この世界を守るためにも、そして、マフユを助けるためにも。
進め、英傑たちと共に