ガンダムビルドダイバーズ:トライ   作:守次 奏

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乱数の女神様にお祈りしながら初投稿です。


Ep.06「僕らは闇鍋の中で」

「それでね、ガロードとティファはニュータイプって言葉に縛られないで、自分自身の人生を生きていくの……」

「マジかー、見てる時ははらはらしたけど、やっぱハッピーエンドが一番だよな!」

 

 トッドさんとジョーさんとのバトルからしばらく、俺はマフユの家に昼飯を届けるついでに彼女からガンダムについて教えてもらう、というのがすっかり日課になっていた。

 GBNでもミッションを一緒にこなしたりしているし、やっぱりこうして語り合える相手がいるってのはいいことだな、やっぱり。

 チナツもガンダムには詳しいけど、あいつは……悪気はないんだろうけど話すと長くなるから、まあなんだ、説明って意味ではどっちかというと穏やかなマフユの方がわかりやすいかな。

 

 そんなことを考えてると次会った時に睨まれそうなもんだな。あいつの地獄耳っぷりは小さい頃から伊達じゃなかった。

 大画面に映し出されているモニターがエンドロールを流し終えると、映し出されたのはボロボロになったガンダムダブルエックスの姿。

 やっぱりこう、ボロボロになった主役機からしか、役目を終えて主人公を送り出したガンダムからしか摂取できないものってあるよな。しみじみそう感じる。

 

「……えっとね、これ……ガンダムDXのガンプラ……」

「へー、よくできてるんだなー……触っても大丈夫か?」

「う、うん……! ユウヤ君なら、いいよ……」

「サンキュー、マフユ! うわすげえ、ちゃんとツインサテライトキャノンも展開できるんだ!」

 

 ガンダムについてはまだまだわからないことだって多いけど、マフユに教えてもらったおかげである程度はわかるようになってきた。

 マイクロウェーブを月から受信してぶっ放すガンダムXとDXが持っている最終兵器、それがこのサテライトキャノンだ。

 劇中だと過ちの象徴みたいに描かれてて、ガロードもそれを踏まえてちゃんと使いどころを考えて撃ってたんだけど、ガンプラとなれば、GBNとなればサテライトキャノンを使ってみたい! って思うダイバーは多いはずだ。

 

 かくいう俺も画面の中で見たガンダムDXやガンダムXの活躍を見て、ストライク焔にサテライトキャノンを背負わせたらどうなるかな、とかちょっと考えてみたりしている。

 

「ありがとな、マフユ。GBNでもやっぱりサテライトキャノンとか、ツインバスターライフルって強力な武器だったりするのか?」

 

 俺は触らせてもらっていたガンダムDXをマフユに手渡しながら、そんなことをふと問いかけていた。

 俺は最初から牽制になる武器と徒手空拳で戦うことを決めてたし、それに後悔はない。

 けど、あれだけ派手にぶっ放した必殺技ともいえる武器はやっぱりゲームの中でも必殺級なのかと、ちょっと気になるところはある。

 

「ええ、と……作り込みに、よる、かな……」

「作り込み」

「うん……ちゃんと合わせ目を消したり色分けをしたり、そこから少し進んで色んな塗装の技を使ってみたり、ディテールアップしたり……そんな感じでガンプラをカスタマイズしてあげると、原作並みになるんじゃないかな……」

「うーん、わからん……」

 

 辛うじて合わせ目消しと塗装はわかったけど、そこから先はちんぷかんぷんだ。

 ディテールアップって具体的にどうするんだとか何するんだとか、色々訊きたいことはあるけど、マフユにあんまり負担をかけても良くない。

 

 それに、千里の道も一歩からってやつだ。

 今はまだ色々と素人な俺だからこそ、一足飛びに階段を上ろうとせずに、地道に積み重ねていくことが重要なんだ……って、父さんは、師匠はきっとそう言うんだろうな。

 

「……どうしたの、ユウヤ君? 私……何か、変なこと言っちゃった……?」

「ああ、違うんだ。なんかさ、上を見たら果てしなくて……わくわくするけど、笑っちまうぐらい高いんだなって」

「……うん……上は、凄く高い、よ……」

 

 俺はマフユの言葉に、チナツから聞いたGBNの頂点に立つ存在。全国ランキング1位の座を第一回GBNチャンピオンシップから一度も譲ったことがないらしい、生きる伝説の話を思い出す。

 クジョウ・キョウヤ。会ったことはないけど、あのマギーさんよりもずっと強いその人と、いずれは戦ってみたい。

 

「でもま、少しずつだよな!」

「……うん……そう、だね……」

 

 でもそれには早すぎる。

 正直な話、マスダイバーを撃破したことで俺は少し調子に乗ってたのかもしれない。

 機体を今思う通りに動かせても、トッドさんとジョーさんの連携に俺は振り回されっぱなしで、マフユがいなければ確実に負けていた。

 

 だからこそ、油断せずに、慢心せずに戦い一つ一つと向き合って自分の心を鍛えていく──次元覇王流の極意、その一つを、改めて深く胸へと刻みつける。

 

「もうこんな時間か、ガンダム見てるとあっという間だな!」

「う、うん……そう、だね……その……えっと、ユウヤ、君……」

「じゃあなマフユ! また来週と、今日のGBNでもよろしくな!」

 

 何事かをもにょもにょと呟いていたマフユにひらひらと手を振りながら、俺は空になったザックを背負って家路に着く。

 週末は友達の家に遊びに行っている、とは両親にちゃんと報告してるけど、あんまり遅くなるとどやされかねないからだ。

 

 稽古もする。バイトもする。そしてダイバーとして全力で遊ぶ。

 我ながらハードスケジュールだとは思うけど、今のところそれができてるんだから問題はないはずだ。

 自転車を飛ばして、一目散に家路へ。

 玄関先までわざわざ出てきてくれて見送ってくれたマフユに手を振り返し、沈む太陽に向けて俺はペダルを漕いだ。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 今日も諸々を済ませてセントラル・ロビーにダイブすれば、がやがやと雑談に興じているダイバーたちの姿が目に映る。

 曰く、GBNに怪物が現れたとか、誰も見たことのないミッションがあるだとか、そんな眉唾物の井戸端会議を聞いているのも悪くはない。

 

 けど、約束は守らなきゃいけないものだ。

 いつも同じところにいるから、そこを待ち合わせ場所にしてしまおう、という提案通りにロビーの隅っこで、マフユは壁にもたれかかっていた。

 

「ごめんマフユ、待ったか?」

「ううん、大丈夫……今日は、その……どんなミッションを受けるの……?」

 

 討伐ミッション。連戦ミッション。対大型ミッション。無双ミッション。

 一人でもクリアできなくはないEランクのミッション一覧をウィンドウに浮かべて、マフユは小首を傾げながら俺に問いかけてくる。

 

「んー……無双ミッションはこのランクだとほとんど棒立ちの敵を倒すだけだし、連戦ミッションも時間かかるし……そうなると対大型ミッションが無難なのか?」

「そう、だね……その……」

「どうした、マフユ?」

「あ、うん……その、ユウヤ君がどこを目指してるのか、それが気になって……」

 

 何も律儀に全部のミッションを埋める必要はない。達成率はアチーブメントに影響してこそいるものの、それを埋めるのは自己満足の領域だ。

 GBNは仮想世界でありながら、ガンプラバトルをする場でもある。

 そう考えると、俺がしたいことは。

 

「んー……そうなるとやっぱバトルがしたいな、俺は」

「……ユウヤ君なら、そう言うって思ってた」

「そっか? まあでも、基本積み重ねないでバトルするってのも師匠の教えを守らないみたいでなんか引っかかるんだよなあ……」

 

 自分でもある程度はこのゲームについて調べてみたが、ダイバーランクCまでは自分の型を探すための時間みたいなものだと聞く。

 そして、本当のGBNはダイバーランクCから始まるのだと。

 ちょうど、今のマフユがCランクダイバーだから、最低限マフユにちゃんとついていって連携するだけの力を手にしたい、ってのが正直なところだった。

 

「……ユウヤ君は、師匠さんのこと……大事にしてるんだね……」

「ああ、俺の父さんでもあるからな」

「……そっか……」

「なんか変なこと言っちまったか?」

「……ううん、なんでもない。その……対人戦なら、掲示板とかでフリーバトルの募集をかけるのもありだけど……こういうのも、ある、よ……?」

 

 マフユは少し表情に暗い影を落とすと、引きつった笑みを浮かべながら、何かを誤魔化すように表示したウィンドウを俺に投げ渡す。

 そこに書いてあった文字列は、「シャフランダム・ロワイヤル」なるものだった。

 

「シャフランダム……?」

「えっと……フォースを組めないダイバーのために、ランダムで抽選されたダイバー同士が五対五になって、どっちかが全滅するまで戦うの……一応、最初に私とユウヤ君がパーティーとして参加を申請すれば、チームがばらけなくて済む、よ……?」

 

 なるほど。よくわからん。

 マフユと一緒にエントリーすれば、ランダムに振り分けられるチームの中でもバラけず一緒になれるってことなんだろう、多分。

 でもどうしてランダム性が売りなはずなのに、そんな仕様になってるんだか。

 

「……えっと、前はね、完全にランダムだったんだけど……不評で……」

「なるほどなー」

 

 ユーザーの声ってやつか。

 その結果シャフランダム・ロワイヤルとやらがどう改善されて、どんな風に受け止められているかは知らないけど、マフユとチームがバラけないってんなら好都合だ。

 

「俺、これやってみたい! マフユさえ良ければだけもさ、一緒に受けないか?」

「……うん……ユウヤ君が言うなら、いいよ……」

「本当か!?」

「……だって、その……ユウヤ君は、私の……たった一人の、フレンドだから……」

 

 ってことは今までソロでやってたのか、マフユは。

 それでCランクまで上がってるんだから大したもんだと、心の底からそう思う。

 自分では謙遜してるけど、相当凄いことをやってるし、相当凄いガンプラを作ってるんだよな、マフユは。

 

 嘘偽りなく、思った通りのことをそうやって口に出してみれば、マフユの頬は茹で蛸みたいに真っ赤になって、耳まで紅に染まっていた。

 

「……あ、ありがとう……ユウヤ君……でも、ちょっと……恥ずかしい……」

「ごめん、でも本気ですげーと思ったからさ」

 

 チナツのやつも一人でやってたって話だけど、チナツはチナツでマフユはマフユだ。それを比べることに意味なんかない。

 そして、比べるなら過去の俺だ。

 驕るつもりは全くないけど、ガンプラバトルの腕ならFランクだった頃よりも確実に上達しているだろう。

 

 だから隙がないとは言わない。俺はまだまだ未熟千万なのだから。

 でも、未熟だからこそ油断なく戦える。

 そういうものだと信じて俺はマフユとパーティー申請を組むと、シャフランダム・ロワイヤルなる闇鍋の中に飛び込んでいくのだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

『フハハハハ! 俺のスーパーシュペールハイペリオンは無敵だァ!』

「ヌヴォォォォ!!!」

「ザクラァァァン!!!」

 

 味方に引いたガナーザクウォーリアが、敵の着地を狙って放ったオルトロスの一撃が吸収、再構築されてそのままガナーザクのコックピットに突き刺さった。

 現在の状況、四対五。あの金ピカのハイペリオンが持っているのはおそらく「ヤタノカガミ」と呼ばれるビームを吸収してから反射する特殊装甲なのだろう。

 

 ザクランと呼ばれたダイバーが爆散すると、仇を取ってやるとばかりにロービジカラーに塗装されたセイバーガンダムが、敵陣の真正面に陣取っている金ピカハイペリオンにビームサーベルを振りかぶって突撃する。

 

「ダメだ! えっと……!」

「ナスランだ! すまないが、ザクランをやられて黙っているわけにはいかない! このハイペリオンは俺が倒す!」

 

 ヤタノカガミじゃ、ビームサーベルまでは反射できまいとばかりに切り掛かったナスランさんの作戦はある意味正解だったのかもしれない。

 ただしそれは、相手のベースになった機体がハイペリオンじゃなければの話だが。

 

 機体を包み込むように展開されたバリアが、セイバーガンダムのビームサーベルを弾き返して怯ませる。

 そして、突出したナスランさんが姿勢を崩したのを確認して、森の中に潜んでいたジム・スナイパー2やアイザックといった機体たちがロービジのセイバーガンダムに火線を集中させていく。

 

「そんなバカな……ヌヴォォォォ!!!」

『フハハハハ! 間抜けめ! このスーパーシュペールハイペリオンはアルミューレ・リュミエールとヤタノカガミの二重防御! 破れるものなら破ってみろ!』

 

 この状況はまずい。

 ナスランさんとザクランさんが墜とされたことで、こっちの気勢は十分に削げたと判断したのか、金ピカハイペリオンの背後で控えていたドライセンとドワッジが、バズーカを構えて俺とマフユにロックを向けてくる。

 

「クソッ、数の上じゃこっちが不利か……でもな!」

「……うん……! 私が敵を撹乱するから、ユウヤ君はその隙を!」

「了解!」

 

 巡航形態に機体を変形させたマフユは、ジャイアント・バズによる一撃をバルカンで叩き落としつつ、腰のユニットからビームサーベルを抜いてドライセンに突撃していく。

 もう一人、ペイルライダーだったか、そんな感じの機体に乗っているダイバーは怯えるばかりだったが、この状況じゃ生き残ってくれてるだけでありがたい。

 

『突出したな? バカめ! このスーパーシュペールスーペルハイペリオンの真髄は防御力だけじゃない! フォルファントリーに焼かれてくたばれぇぇぇッ!!!』

 

 マフユは敵陣のど真ん中に割って入ったことで、ドライセンとドワッジだけではなく、アイザックとジム・スナイパーⅡ、そして金ピカハイペリオンからも標的にされていた。

 だが、それも織り込み済みなのだろう。

 俺はマフユを信じてエールストライカーのスラスターに点火、バリアを解いた金ピカハイペリオンに、ビームピストルによる牽制を放ちながら肉薄する。

 

『フハハハハ! だからそんなビームなど効かんと言っている!』

「ああ、そうかい……じゃあこいつはどうだ! 次元覇王流……流星螺旋拳!」

 

 相手がその自慢の防御力にご満悦だったことが、あるいは命運を分けたのかもしれない。

 慌ててアイザックがレドームを稼働させ、俺たち陣営の通信を妨害してくるがもう遅い。

 士気の中心になっている頭を叩くことで、続く連中の気勢を削ぐ。

 

 師匠からの教えを胸に、俺は回転させたストライク焔の拳を、躊躇うことなく金ピカハイペリオンの胴体に全力で打ち込んだ。

 

『何いいいいッ!? バカな、素手のどこにこんな威力が……ッ!』

「次元覇王流……舐めてもらっちゃ困るぜ!」

『おのれ! 俺のスーパーシュペールスーペルスペリオルハイペリオンが……ぬわああああッ!!!!!』

 

 やけにうるさい断末魔を残して、コックピットを潰された金ピカのハイペリオンが無事に爆散する。

 その間敵の矢面に立っていたマフユのG-エクリプティカも大分消耗してはいたものの、四対一という過酷な状況を背負ってくれたにしてはかなりもった方だろう。

 

『そんな! ホッシーがやられたぞ!』

『あいついつもメタられて死んでんな……』

『冷静に観察してる場合じゃない、俺たちも……うわああああっ!』

 

 呆然としていたドワッジに膝蹴りを叩き込んで、踵落としでメインカメラを粉砕。そしてビームサーベルをコックピットに突き立てることでその手向けとする。

 司令塔というよりはモチベーションを引き上げるタイプのリーダーを失った相手のチームは即席ということもあってその後は見事に精彩を欠き、気付けば俺とマフユの連携、そしてペイルライダーに乗っている初心者の援護射撃によって壊滅状態に追い込まれていた。

 

『バカな……あれだけ有利だったはずの俺たちが……』

「こいつを墜とさない限り勝負の行方はまだ決まらねえ……行くぜ!」

『くっ……ならばせめて仲間たちに報いるためにも、一太刀ぐらいは!』

 

 唯一残されたドライセンはヒートサーベルを引き抜いて、馬鹿正直に俺を狙って直進してくる。

 ここでマフユやあの初心者が射撃の一発でも撃っていれば、それでゲームエンドになるのだろう。

 それでも、敵は俺を最後の相手に所望したわけだ。だったら、それに付き合ってやらないわけにはいかねえよなあ!

 

「居合は見様見真似だけど……!」

『チェェェェストォォォォ!!!』

「やってやるぜッ! 行くぞ、ストライク焔!」

 

 ヒートサーベルの切っ先がメインモニターを掠める刹那、俺はその一瞬に全てをかけるようにバックパックから引き抜いたビームサーベルで、向かってくるドライセンをX字に切り裂いていた。

 

『見事だ……!』

「こっちこそ、いい戦いだったぜ! ええと……グッドゲーム!」

『グッドゲーム』

 

【Battle Ended!】

 

 それだけを別れの挨拶として、機械音声が告げる勝利のアナウンスの余韻に浸る。

 最初に二機墜とされた時はどうしたものかと焦ったけど、案外どうにでもなるものだ。

 それはもちろん相手の金ピカハイペリオンが油断していたから、というのも大きい。でも。

 

「やったぜマフユ……俺たちの勝ちだ!」

「……うん、ユウヤ君……」

 

 勝ちは勝ちだ。祝杯を上げるように、ボロボロになったG-エクリプティカを助け起こすと俺は、GBNの星空を見上げるのだった。




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