ガンダムビルドダイバーズ:トライ   作:守次 奏

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クライマックスまで残りわずかなので初投稿です。


Ep.56「哀しみの黒影」

「アリカ、戦況はどうなっている!?」

「マスダイバー機、増援の勢いは衰えています!」

「聞いての通りだ! 諸君、ロンメル大佐に代わって通達する! この曲面を乗り切れば我々の勝利に大きく前進するだろう! 各員奮起せよ! GBNの興亡、この一戦にあり!」

 

 アリカさんというらしい、偵察機に同乗している女の人からの報告を受けて、航空隊を引き連れて遊撃に回っていたアトミラールさんが宣言する。

 マスダイバーも流石に無限とはいかないようで、こっちとしても一安心だ。

 コドウたちがヴァサーゴチェストブレイクとアシュタロンハーミットクラブの対処を引き受けてくれたことで、俺たちは最前線に近いところまで歩を進めていた。

 

 だけどその分、マスダイバーからの攻撃は一層その激しさを増す。

 当たり前だ。敵の懐に飛び込んだんだから、それ相応に覚悟は決めなくちゃいけない。

 

『隙あり天誅ーッ!』

「なにが天誅だ! 次元覇王流、聖拳突きぃッ!」

『鮮やかな天誅返し……くっ、敵ながら天晴れ……!』

 

 ガーベラストレートを大上段に構えて斬りかかってきたアストレイレッドフレームのコックピットに俺は、聖拳突きを叩き込んで破壊する。

 自分の敵を称えることができる度量を持っているようなやつでも、マスダイバーになってちまうのかよ。

 改めて、魔力にも似たブレイクデカールの誘惑と、そして勝利を求めるあまり、敗北に傷つくあまり、その心につけ込んでマスダイバーを生み出す黒幕への怒りが募っていく。

 

「データリンク! 遊撃隊の戦況を転送するわ、ユウヤ、ジェニ!」

 

 マスダイバーが駆るバウンド・ドックのコックピットにパルマ・フィオキーナでの貫手を叩き込みながら、チナツがデータを転送してくる。

 俺たちが現状、戦線を強引に押し上げている都合上、見えていなかった状況がクリアになるのはありがたい。

 コドウたちがチェストブレイクとハーミットクラブを相手に奮戦している中で、ドートレス・ネオを斬り裂きながら、一機のガンプラがこっちに急速接近してくる様子がモニターへと映し出された。

 

「はろーやーやー、少年少女……全く、無茶ばかりするもんじゃあないよ」

「トワさん!」

「いかにもトワさんはトワさんさ、早速ではあるが、遅れた分の仕事はさせてもらうよ。このダブルオートワクアンタ、フルセイバーでね……さあ、実験を開始しようじゃないか!」

 

 トワさんが乗り付けてきたダブルオークアンタのカスタムモデルの全身がトランザムによって赤熱し、流星となって宇宙を駆ける。

 SSランクというだけあって、その腕前は相当なものだ。俺たちに群がるマスダイバーを撫で斬りに、時には撃ち抜き、フルセイバーの多彩な武装を使い分けながら、トワさんはマスダイバーを撃退していく。

 

「流石はSSランク……だけど、アタシたちも負けちゃいられないわ!」

「敵はパワーダウンしている。なら押し込むだけ」

「応ともよ! 行くぜマスダイバー……次元覇王流! 旋風、竜巻蹴り!」

 

 トワさんに呼応するように、俺たちもまた立ちはだかるマスダイバーを蹴散らして進む。

 全部を仕留めきれなくてもいい。

 再生までのタイムラグを利用して、損傷したマスダイバー機を後続に撃破してもらう。

 

 フォース「ヴァモーズコンバット」との戦いじゃあ、確かに俺たちの連携の甘さとでもいうべきものがあった。

 アトミラールさんとロンメルさんという用兵家がいるだけで、突出するんじゃなくて誰かに背中を預けることで、趨勢が大きく決まるのもまた戦いというものだ。

 それに、防衛部隊がある程度戦線を維持できると踏んだのか、遊撃に回る部隊も若干ではあるけど増えてきたことが、チナツのウイニングロードアストレイからのデータリンクで伺える。

 

「おらおらおらおらぁ! チートでイキるだけが脳で、腕前の方はからっきしみてーだなぁ!」

「アリムには負けてらんない……あたしも一気に押し込む!」

「ふふっ、二人とも頑張ってますね! さて……私とトリスタンサファイアもひと暴れしましょうか!」

 

 ヴァルガでも見たアリムさんとフーラーさんは、いがみ合いながらも抜群のコンビネーションを、マスダイバーのジャスティスガンダムにぶつけて撃破していた。

 そして、二人の背後を狙った敵には、トリスタンサファイアと呼ばれていた重装備のガンプラがミサイルの雨霰を浴びせて爆散させる。

 

「やるじゃねえか……尚更こっちも負けられねえな! 次元覇王流、聖槍蹴り!」

 

 抜群のコンビネーションだ。その連携に舌を巻きながらも、俺は決して油断することなく、EXAMシステムを発動して襲いかかってきたブルーディスティニー3号機へと裏拳を叩き込んで体勢を崩したところに、追撃の聖槍蹴りを放つ。

 

『ち、ちくしょおおおっ! 俺は、俺はただ負けたくないだけなのに!』

「負けたくないなら己を磨け! 負けたとしても、その敗北を糧にして何度でも立ち上がれ! 師匠の言葉だ!」

『く、クソがああああッ!』

 

 爆散して宇宙に花火を上げるブルーディスティニー3号機を一瞥して、俺はそう叫ぶ。

 負けたくねえって気持ちはわかる。俺だってそれは同じだ。

 だけど、ズルして強さを手に入れたって、本当の、自分の強さとでもいうべきものは身につかない。

 

 それはあいつもわかってることなんだろう。

 だとしても、負けて、負けて……嫌気が差しちまったら、ああなってたのは俺かもしれないと考えれば、他人事じゃいられない。

 楽をして勝ちたいと欲望を剥き出しにするやつがいる。一方で、泣きながらブレイクデカールという偽りの希望に縋りつくやつがいる。

 

 そのどっちも、犠牲者といえば犠牲者なんだろう。楽して勝ちたいってのは言語道断だけど、それでも、悪いのはブレイクデカールをばら撒いている黒幕だ。

 

 一体、誰がなんでそんなことをしてるのかはわからない。

 だけど、楽しみをやっかむように、幸せを踏みにじるようにこのGBNを破壊しようとしているのは確かなことだ。

 それも他人を利用してだ。自分の目的のために、他人の弱みにつけ込んで、まるで物のように扱うやつを、許してなんかおけるものか。

 

「ジェニ! 一気に畳み掛けるぜ!」

「わかった、ユウヤ」

 

 怒りと共に操縦桿を握りしめて叫ぶ。

 そして、眼前に現れたデストロイガンダムの巨体に、俺とジェニは、拳を合わせる形で共に突っ込んでいく。

 

『次元覇王流! 蒼天紅蓮拳!』

『う、うおおおっ!? 俺のフルスクラッチデストロイガンダムが……ッ……!』

「……そんだけすげーもの作れんのに、ブレイクデカールなんかに手を染めやがって……」

「……心の弱さ。人は容易く無明に堕ちる。だから、ユウヤ。貴方が気にする必要はない」

 

 俺が苦々しく吐き捨てた言葉に、気にするなとばかりにジェニがそう返す。

 ドライに聞こえるけど、誰かの都合を際限なく背負っていたら潰れてしまうのもまた確かなことで、そして、どんな事情があったとしても、このGBNにバグを生み出しているブレイクデカールを使ったという事実が許されることはない。

 だから気にするなと、他人の分まで痛みを背負う必要はないと、ジェニはそう言ってくれたのだろう。

 

「……ありがとうな、ジェニ」

「気にする必要はない、ユウヤ」

 

 ぶっきらぼうで不器用な優しさに感謝しながら、俺はストライクスフィーダで戦場を駆け抜ける。

 今のところ、マフユのG-エクリプティカの姿は敵陣に見受けられない。

 増援として資源衛星の中に潜んでいるのか、それとも単純にここには集まらなかったのか。

 どっちにしても、焦燥は加速して、ちりちりと神経を焦がすような感覚が脊髄を駆け抜けて全身に広がっていく。どこだ、どこにいるんだ、マフユ。

 

『おいおい……たったこれだけの戦力に戦線を捲られるたぁ使えねえやつらだな……!』

「ユウヤ、危ない!」

「くっ、ビームシールドで!」

 

 考え込んで一瞬でも気を緩めてしまったせいか、ブレイクデカールによって強化されたビームが一瞬の隙を狙って放たれる。

 危なかった。チナツが警告してくれなきゃ、ビームシールドの展開が間に合わなくてお陀仏だっただろうからな。

 改めてビームが飛来した方向に向き直れば、そこにいたのは、アルヴァトーレの中に埋まっている、金色のガンダム・グシオンという、どことなく悪趣味な機体だった。

 

 金ピカは金ピカでも、あの「ゴールデン・ドリームズ」にいたハイペリオンの人とは全く違う。

 ただシナジーも考えず、自分の力を誇示するためだけに作られた器。トワさんの言葉を借りるなら、あれは「愛がない」ガンプラだ。

 

「まずいわね、この大型……ヤタノカガミ加工とGNフィールド持ちってことは、この前のハイペリオンと戦術は同じ……!」

『そのハイペリオンってやつがなんなのかは知らねえがな、お前らはやりすぎた……ここで消えとけや!』

「だったら、リュミエール・ザンバーでGNフィールドの上から……!」

 

 俺が腰のリュミエール・ザンバーに手をかけて突撃をかけようとした、その時だった。

 

「その声はモチダか……! ようやく見つけたぞ!」

『ククッ……おいおい社長さんよぉ、ゲームでリアルネームをバラすのはマナー違反ってやつじゃねえか? ここでの俺は「グルヌイユ」様よ……!』

 

 グルヌイユとかいうやつが操っているあの金ピカグシオンの上を取る形で、遊撃隊に合流していたらしいアトミラールさんと、随伴していた「GHC」の航空隊が急降下攻撃を放つ。

 GNフィールドを展開されたことでメガ・ビーム・キャノンや対艦ミサイルは防がれてしまったものの、その爆風を目眩しにする形でアトミラールさんたちは再び体勢を立て直した。

 

「貴様の名前など知ったことか……! ユウヤ君! ここは我々に任せてほしい! 奴は……!」

「ワケあり、ってやつですね! わかりました……けど、手伝いはさせてもらいます!」

『フへへへへ! 何をしようと無駄だァ!』

 

 グルヌイユの放つビームを曲芸飛行じみたマニューバで回避しながら、「GHC」の航空隊は鉄壁に覆われた金ピカグシオンを破壊しようと試みる。

 そして、あのグルヌイユが航空隊に狙いをつけた隙を見計らって、俺は大上段に構えたリュミエール・ザンバーで、金ピカグシオンのGNフィールドを一息に斬り裂いた。

 

『な、なんだ!? GNフィールドが!? 貴様……何をしやがった!?』

「答えてやる義理はない! 行くぜチナツ、ジェニ!」

「了解よ、ユウヤ!」

「わかった」

 

 これだけのダメージを与えれば、いくら再生能力を持っていたとしても、大きな隙ができる。

 助太刀はここまでにして、俺たちは再びマフユを探して最前線を飛び回った。

 世話になった義理を果たした以上、あとの因縁はアトミラールさんたちのものだ。俺たちが踏み込んでいいところじゃない。

 

「あーもう、四方八方からちょこまかと!」

「チナツ、冷静さを欠かないで。数ばかり多いだけ。コックピットを潰せば戦える」

「言われなくてもわかってるわよ!」

 

 ハイパージャマーを発動した瞬間を狙って放たれたチナツの狙撃が、ジェニに言われた通り、ガンダムデスサイズヘルのコックピットを正確に撃ち抜いて爆散させる。

 ジェニもまた、ゴッドガンダムのガントレットを展開した貫手で、マスダイバーが操る、ティターンズカラーのシャイニングガンダムを撃墜していた。

 今のところ、戦いそのものは順調に進んでいる。問題はマフユと、マフユのことを知っているのであろう「シャドウロール」が現れていないことだ。

 

 こればかりは流石に運を天に任せるしかないかと、歯を食いしばってマスダイバーのアビスガンダムを撃破した刹那、爆風を裂いて「何か」が急速に迫ってくる。

 

「この攻撃……!」

『……外したか』

 

 宇宙の闇から溶け出るようにして現れたのは、今度こそ「シャドウロール」の機体である、黒いペルフェクティビリティだった。

 攻撃を外したと見るや否や、伸ばしていたガンダリウム合金製の棍を元に戻すと、鮮血のような色合いをしたサイコフレームを展開、デストロイモードへと移行する。

 なんだか知らねーけど、渡りに船だ。探してた相手が自分から飛び込んできてくれたんだからな。

 

「行くぜスフィーダ……! イクシードチャージ始動! バーニングバースト、出力百六十パーセントだ!」

 

 こうなれば、出し惜しみはなしだ。

 俺はバーニングバーストの出力を引き上げて、アームドアーマーVNを振り上げてクロスレンジに飛び込んできた「シャドウロール」にアッパーカットを叩き込む。

 例えダメージが減衰していたとしても、メインカメラを揺らされれば、ダイバーの視界もその分揺れ動く。

 

 ちょっとばかしダーティな手段だけど、使えるもんは全部使うと決めている。

 マフユを取り戻すために、謝るために、そしてもう一度笑い合うために。

 目が眩んだのか、一瞬の隙を見せた黒いペルフェクティビリティに、俺はスフィーダに出せる全力を叩き込む。

 

「次元覇王流! 聖拳突きぃッ!」

『くっ……!』

 

 コックピットを狙った一撃を、サイコ・フィールドで弾いた辺り、「シャドウロール」の腕前もガンプラの出来も、やっぱりそこらのダイバーとは一線を画している。

 あいつがブレイクデカールをマフユに広めた理由はわからない。

 だから、拳で聞くだけだ。

 

 ボクシングの構えに切り替えた俺は、デンプシーロールで赤黒いオーラを纏う黒いペルフェクティビリティに、息をつかせる暇もなく殴打を加えていく。

 

「ワン・ツー!」

『……調子に乗るな……!』

 

 デンプシーロールをサイコ・フィールドで完全に防ぐと、その力場を反発に転用する形で、「シャドウロール」は俺とストライクスフィーダを弾き飛ばした。

 

『なぜ姿を表す……なぜ弱いやつがここまで吠える……! お前たちの絆は、引き裂いたはずなのに……!』

「悪りーけどな……ブレイクデカールを使ったことなんかで、俺はマフユを見捨てたりなんかしない! マフユが罪を背負うってんなら、俺も一緒にそれを背負う!」

『世迷言を、綺麗事を……! 力もないお前たちが、私の前でキャンキャンと吠えるな……! 頭に……響くんだよ!』

 

 体勢を立て直した黒いペルフェクティビリティが、ガンダリウム合金製の多節棍を伸ばして、鞭のようになぎ払う。

 身を屈めてその一撃を回避した俺は、ブレードドラグーンを射出して「シャドウロール」を牽制した。

 あの時は全く見えなかったけど、ストライクスフィーダと一体になっているような今なら、リアルタイムで、ラグなく多節棍の動きが見える。

 

 真なるアシムレイトの反動で、細かく刻まれたダメージがフィードバックされて全身を蝕む。

 それでも俺はアシムレイトを解かずに、歯を食いしばって「シャドウロール」に拳を叩き込む。

 

「なんでそこまで力のないやつを憎む! なんでそこまで、力だけに縋ってる! さあ、聞かせろよ……お前の思いを!」

『……調子に乗るなァァァァッ!』

「次元覇王流! 聖拳突き!」

 

 激昂する黒いペルフェクティビリティが、アームドアーマーVNを収納状態にして殴りかかってきたのを見切って、俺はクロスカウンターとして聖拳突きを叩き込む。

 ブレイクデカールによって強化されたその拳からは、腕の骨が砕けそうになるほどの衝撃が伝わってくる。

 だけど、おかげであいつが考えていることが、あのガンプラに込めた想いがわかった。あいつは、「シャドウロール」は。

 

「お前……悲しんでるのか」

『なにを……!』

「本当はもっと笑いてえんだろ、心の底から笑顔になりてえんだろ! だったら……このGBNはお前の願いだって受け入れてくれるんだ! それを壊そうとするのが間違いだって、わかるんだよ!」

『……ずけずけと人の心に踏み入って、勝手なことをほざくなぁッ!!!』

 

 伝わってくる。

 黒いペルフェクティビリティの無軌道な攻撃は、自分の力を誇示することで相手の心をへし折るような戦い方は、自分に構ってほしいと、自分を認めてほしいという駄々っ子のような切望だ。

 本当は「シャドウロール」だって、友達と一緒にガンプラバトルがしたいのかもしれない。だけど、なにかがあったから、誰かの幸せを奪うことでしか幸せを感じられないのだろう。

 

 そこまで歪んでしまった理由があいつの外にあるのだとしたら、「シャドウロール」だってブレイクデカールを巡る事件の被害者だといえる。

 もちろん、マフユにブレイクデカールを渡したことは許せない。

 だけど、あいつだけが悪いわけじゃないってんなら、本当に、心から笑いてえんだったら、俺がこの拳で教えてやる。

 

 ガンプラバトルの楽しさを、そして、心から笑うための仲間が、ライバルが、超えるべき壁があることを。そのかけがえのなさを。




対峙する宿命

・グルヌイユ(原案:「笑う男」様より)……「GHC」社内で不法行為や帳簿の改竄などを行っていた小悪党。アトミラールに対して逆恨みを抱いたことでマスダイバー陣営に加担、アトミラールの娘に対してマスダイバーをけしかけるなどの悪行を今も尚反省せずに働いている。
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