ガンダムビルドダイバーズ:トライ   作:守次 奏

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ヒロインレースに決着がつくので初投稿です。


Ep.58「マフユの涙」

「マスダイバー機、第三波出現! ですが、数はそれほど多くありません!」

「ここで在庫切れと見るか温存していた精鋭を出してきたと見るか……各機、聞こえたな! アトミラールに代わって私が宣言しよう! ここが作戦の正念場だ! 奮起せよ、奮励せよ! 突入部隊が戻るまで、なんとしてもこの戦線を死守するのだ!」

 

 アリカさんからの報告を受けたロンメルさんが、オープンチャンネルで檄を飛ばす。

 こっちで確認した限りでは、資源衛星の中から先陣を切って出てきたのはサイコガンダム、シャンブロ、ガンダムAGE-1タイタスと、そして。

 マフユの、G-エクリプティカだ。

 

 ある意味では、ここが俺たちにとっての正念場なのだろう。

 マフユを取り戻せるか取り戻せないかは、全て俺たちの手にかかっている。

 恐らくはあのタイタスが元締めなのか、それに続く形で後続のマスダイバーがぞろぞろと現れてくるのを一瞥して、俺は操縦桿を強く握りしめた。

 

 ストライクスフィーダの右足は欠損、左腕も脱落し、胴体にも深刻なダメージを負っている。

 こんな状態でまともにマスダイバーと戦えるのかどうかはわからないけど、スフィーダも俺も、今は二百パーセントだ。

 それに、俺たちにとっての勝利条件はマフユを取り戻すことと、突入部隊が戻ってくるまで戦線を死守することであって、敵の殲滅じゃない。

 

 だったら、やってやれないことはないはずだ。

 俺がストライクスフィーダのスラスターに点火し、マフユが待っている資源衛星付近……最前線も最前線に突撃しようとしたその時、チナツが制止するかのようにロングビームライフルの銃身を割り込ませてくる。

 一体、なんの意図があって。いや、違う。本当はもう、俺はわかっていたはずなんだ。

 

「……行く前に一つだけ訊かせて、ユウヤ」

「ああ、チナツ」

「アンタはどうしてマフユを助けたいの? 仲間だから? 友達だから? 違うわよね。アタシたちのことはいい。アンタだけの理由を、聞かせて」

 

 悲壮な覚悟が灯った瞳で、チナツは通信ウィンドウ越しにそう呼びかけてくる。

 マフユを助けたい理由。それはあいつが言ったように、仲間だから、友達だからっていうのもまた確かなことだ。

 だけどそれは、ジェニが言っていたように、「俺」の言葉じゃない。あくまでも「俺たち」の言葉だ。

 

 それじゃ通じないのなら、届かないのなら、俺という個人がどうしてマフユを助けたいのか、ブレイクデカールの呪縛から解き放ってやりたいのか、それを考えなくちゃいけない。

 いや、もう違う。考えなくちゃ、じゃないな。

 答えは、とっくに決まっていた。理由は、とっくにわかっていた。俺がただ、そこから目を背けていたというだけの話で。

 

「この先のことを、女の子に言わせるつもり?」

 

 チナツは今にも泣きそうになりながら、唇を噛んで微笑む。

 何かを選ぶというのは、何かを選ばないということだ。

 いつだって選択には犠牲が伴って、全部を掌に収めようとしたって指の隙間を通り抜けて、零れ落ちていく。

 

「……ごめんな、チナツ。ジェニ」

「……」

「俺がマフユを助けたいのは……マフユのことが好きだからだ。ああ、そうだ。俺は……マフユのことが好きだから、また一緒にいたいから、取り戻したいんだ!」

 

 チナツはずっと俺に好意を寄せてくれていたのだろう。

 ジェニは無感情に見えるけど、それでも「結婚」という言葉を持ち出してきた辺り、自惚れじゃなきゃ、俺という人間にそれだけの価値を見出してくれていたのだろう。

 だけど俺は、そんな二人を選ばなかった。

 

 選べなかったんじゃない。俺自身の意思で、俺自身の選択として、チナツとジェニの好意には応えられないということを、はっきりと口に出す。

 もしも神様がいて、俺たちの人生を見ているのなら、この選択が一つの分かれ道になっていることを知って、俺をここまで運んできたのかもしれない。

 だけどそれは、神様や世界のせいじゃない。選んだのは俺だ。俺という人間が、人間の意思が、チナツとジェニを選ばないという道に進むことを決めたんだ。

 

「……わかったわ、ユウヤ。行きなさい! ここはアタシとジェニが守り抜くから!」

「背中は預けてくれていい。例え伴侶になれなかったとしても……私はユウヤが選んだ道を尊重する」

「チナツ、ジェニ……」

 

 ロングビームライフルを構えたウイニングロードアストレイと、拳を構えたプライドマスターが背中合わせになって、襲いかかってくるマスダイバーの機体を撃退する。

 もう後ろには引き返せない。きっと全てが終わったあとも、俺たちの関係がどんな形であれ、今まで通りに戻ることはないのだろう。

 それでも、二人は前に進むと決めた俺の背中を押してくれた。

 

「……ありがとう! 俺、行ってくる!」

「マフユを泣かせるんじゃないわよ、バカユウヤ! それと!」

「それと!?」

「……恋させてくれて、ありがとう! アタシに夢を見させてくれて……アタシにっ……だから、行きなさい! 誰の理由でもない、アンタ自身の理由のために!」

「私はユウヤの決断を尊重する。だから……ここは任せて。必ず守り通す……!」

 

 涙を零しながらも必死に笑って、チナツが思いの丈をぶちまける。ジェニも眦に涙を一雫だけ滲ませながら、拳を構える。

 俺にはもったいないぐらいの二人だった。

 でも、俺は選んだんだ。マフユのことを。

 

 マフユがいなければ、あの時落ちてきたマフユを助けていなければ、きっとここまでGBNにのめり込むことなんてなかった。

 マフユがいてくれたから、俺はガンダムとガンプラの世界に触れて、父さんから、師匠から言われた「想像を超えた戦い」の世界に飛び込むことができた。

 だから、俺は。カミキ・ユウヤという人間は、ミホシ・マフユに惚れ込んでいたのだ。

 

 不器用でも懸命に何かをやり遂げようとするその生き方に、潤んだ大きな瞳に、そして、ガンプラへの愛に。

 だから、必ず取り戻す。

 操縦桿を握り締めて、俺はG-エクリプティカが待つ要塞前へと機体を加速させる。

 

『なんだこの機体? 手負いだってのに馬鹿正直に突っ込んできやがる!』

『いや、よく見ろ。あいつはボーナスの対象だ!』

『メガ粒子杯の優勝者だかなんだか知らねえけどなあ、のこのこ出てきたのが運の尽きだったな!』

 

 当然のように、中破状態のストライクスフィーダを狙って、マスダイバーたちは攻撃を仕掛けてきた。

 

「ぐう……っ……!」

 

 二百パーセントのバーニングバーストが噴き出している炎の翼、衣のおかげである程度は弾き返しているけど、それでもブレイクデカールで強化された攻撃は強烈だ。

 だけど、こんなところで立ち止まるわけにはいかない。

 そうだ、こんなところでやられるわけにはいかない。だから力を貸してくれ、ストライクスフィーダ。これが最後になったとしても。

 

「ユウヤは……やらせないって言ったでしょうがぁぁぁぁッ!」

「チナツ……!」

「次元覇王流……流星螺旋拳!」

「ジェニ!」

 

 立ち向かう覚悟で臨んでいたところに、光の翼を広げたチナツのウイニングロードアストレイが割り込んでくる。

 そして、紫炎を纏ったジェニのプライドマスターも同じだ。

 俺を狙ったマスダイバーのガンプラを一刀両断し、あるいはコックピットを抉り抜き、マスダイバーからの苛烈な攻撃を受けながらも、二人は反撃の手を緩めない。

 

「やっと追いついたよ、少年……そうか、君は行くのか……ならば未来への水先案内人はこのトワさんが務めさせていただくとしよう! ダブルオートワクアンタフルセイバー……ここが最後の一仕事だ!」

「トワさん!」

「振り返るな、少年! 君が決めたことなら……前に進むんだ! トワさんには手伝うことしかできないが……その思いは君のものだろう!」

 

 上空から奇襲をかけようとしていたギャプランとアッシマーとゼータプラスをGNソードⅣフルセイバーで一刀両断すると、トワさんもまた、俺に群がってくるマスダイバーを排除しようと、損傷していた機体を加速させる。

 ありがてえ。ただ、ただ、それしか言葉が見つからない。

 これからやろうとしていることは、言ってしまえば俺の身勝手なのに、自己満足に過ぎないのかもしれないのに、こんなに付き合ってくれる人がいる。

 

 これが縁のもたらす力なら、俺は。

 この世界に来てよかった。GBNに来てよかった。胸の奥にじわりとあたたかく滲む熱を握り締めるように、俺は心臓に手を当てる。

 これだけの絆に恵まれたんだ、俺は。そさてそれは、マフユだって同じはずだ。

 

「だから、取り戻す……! 行くぞ、ストライクスフィーダ!」

『なんだか知らねえが無防備でボーナスがうろついてやがるとはなあ……ラッキーだぜ!』

「タイタスか!」

 

 ドッズライフルを二丁構えたAGE-1タイタスが、狙いもつけずにそれを連射しながら俺に向かってくる。

 当たりはしなかったけど、掠めただけで二百パーセントのバーニングバーストが放つ炎が削り取られた辺り、あいつのブレイクデカールは多分だけど、攻撃力を異常強化するものなのかもしれない。

 マフユがいるところまであと少しだってのに、厄介な相手だ。

 

 チナツも、ジェニも、トワさんもマスダイバーの猛攻を受けている今、支援は期待できない。

 だったら俺が戦う他にないと、拳を固めて殴り合う構えを見せると同時に、タイタスの両腕が肥大化して、パワードレッドの如くアンバランスなものに変わっていく。

 だけど、質量そのものが増えたわけじゃないらしい。それを示すように、タイタスは肥大化した巨腕を軽々と振り回していた。

 

「ぐああああっ!」

『へへへ……ちょろいもんだぜ、この程度の相手を殺るだけでボーナスが入るんだ、だから大人しく俺の懐の肥やしになりな!』

「この野郎……! やられっぱなしでいられるか、次元覇王流……!」

「俺のこの掌が光を放つ! 平和を守れと、ウルトラ叫ぶ! 必殺! アルファ、フィンガぁぁぁッ!」

『な、なんだぁッ!?』

 

 両腕を肥大化させたタイタスが俺にビームラリアットをかまそうとした瞬間を見計らっていたかのように、傷つき、中破状態になっていたコドウのリバースブリザードが割り込んでくる。

 アルファフィンガーとかいうらしい、メガ粒子杯では見られなかった必殺技は、タイタスが広げた左腕を真っ向から貫通していく。

 

「立ち止まるんじゃねえ、ユウヤ!」

「コドウ!」

「言ったろ……俺と戦うまで負けんなって! 何かを失ったってんなら取り戻せ! 俺の目を覚まさせてくれたあいつのように! そしてあの日、燻っていた俺に好敵手をくれたお前の拳で! ゼスティウム! エンドォッ!」

『な、なんだこのめちゃくちゃな攻撃はぁ!?』

 

 アルファフィンガーによって内部に注ぎ込まれたのであろう凍結エネルギーが溢れ出して、タイタスの左腕から両肩が凍りつき、爆散する。

 だけどそれは、強化型ブレイクデカールの力で即座に再生してしまう。

 それでも、俺がタイタスから距離を離すだけの時間を、コドウは命がけで稼いでくれたのだ。

 

 だったら、それを無駄にするわけにはいかない。マスダイバーからの攻撃を回避しながら、時には二百パーセントのバーニングバーストを頼りに強引に突っ込みながら、俺はマフユの元へと一目散に駆け抜けていく。

 そうして俺がG-エクリプティカをレーダーと肉眼で捉えたということは、相手も、マフユもストライクスフィーダのことを認識してるってことだ。

 拒絶するように、ブレイクデカールによって強化されている、紫色の光を纏ったビームキャノンの一撃が襲い来る。

 

「マフユ!」

 

 呼び掛けても、通信チャンネルは閉ざされたままだ。

 だったら仕方ない。俺は回線をオープンチャンネルに切り替えて、マフユの攻撃をいなしながら、声をかけ続ける。

 

「聞いてくれ、マフユ! 俺は……お前の痛みに気付いてやれなかった! お前の苦しみに寄り添ってやることができなかった! だからまずは、それを謝らせてくれ!」

『……っ……!』

 

 クロスレンジまで飛び込まれたことで、ビームキャノンを放棄したマフユは、サイドアーマーからビームサーベルを取り出すと、それを振りかぶってストライクスフィーダに叩きつけようと試みていた。

 だけど、大ぶりな攻撃だ。隙はある。

 G-エクリプティカが、振りかぶった右腕を掴んで、俺はマフユへと呼び掛け続けた。

 

「マフユ! 俺……お前に出会えたから、GBNを楽しめた」

『……ユウヤ、君……』

「お前に教えてもらった、ガンダムとガンプラのことを、大好きだって気持ちを! だから……今からでもいい、戻ってきてくれ、マフユ!」

『……もう……もう、遅い、よ……私……』

 

 接触回線が開かれたことで聞こえてくるマフユの声は涙に震え、G-エクリプティカの右腕もその悲しみに寄り添うかのように力を失っていく。

 

「遅くなんかねえ! ブレイクデカールを使ったことが罪だってんなら……俺は、お前の分も罪を背負う! この世界の誰もがお前を許してくれなくたって、俺だけはお前の味方になる!」

『……なんで……なんで、ユウヤ君はそこまで……! なんの才能もない、お父さんとお母さんの娘とは思えないような……ブレイクデカールに手を染めた、私なんかを……!』

「私なんか、じゃない! 俺は……マフユがマフユだから、助けたいと思ったんだ! 苦しんでるなら、悲しんでるなら、それを少しでも分けてくれ! お前が泣いてるなら、せめてその隣にいさせてくれ! 俺たちは……いや、違う! 俺は……心の底からお前のことが大好きなんだ、愛してるんだ、マフユ!!!」

『……っ……!』

 

 オープンチャンネルで呼びかけていたことで、この告白は多分有志連合にもマスダイバーにも筒抜けになっているんだろうけど、それで構わない。

 俺の気持ちに偽りはない。恥じるとこなんてどこにもない。だったら、告白の一つや二つ、聞かれたところでそれがどうしたって話だ。

 だから、俺は。俺は、マフユを。

 

『……ユウヤ、君……っ……』

「そうだ……何度だって言ってやる! 俺だけはお前の味方になる! 俺はお前を愛してる! だから、父親とか母親とか、罪とか罰とか、今は関係ない! お前の気持ちを聞かせてくれ、マフユ!」

『私……わたしは……っ……』

「どんな罪でも俺だけは許す! どんな罰でも俺は一緒に受ける! だから!」

『……わ、私っ……わたし、は……好き……ユウヤ君が……私なんかに、光をくれた……クラスでも一人ぼっちな私なんかに、優しくしてくれた……私のお話を、聴いてくれた……ユウヤ君が……好き……っ……!』

 

 嗚咽まじりにそう言い切ると、マフユはコックピットの中で膝から頽れて、長い袖で顔を覆いながら嗚咽を漏らす。

 きっとマフユの中には、拭えない自己嫌悪があるのだろう。偉大な父や母と比べて見劣りした自分というコンプレックス。俺たちの中で、バトルの腕が一段落ちていたから狙われ続けたというつらさ。

 その全てをわかってやることはできない。それでも、隣に寄り添ってやることはできる。

 

『ぐすっ……でも、私は……!』

「罪とか罰とか……関係ねえって言ったろ。もしも罰を受けるんなら、罪を背負わなきゃいけないなら、俺も一緒だ。だから……帰ってこいよ、マフユ」

『……っ……ぐすっ……ユウヤ、くん……っ……!』

 

 ──ありがとう。

 ブレイクデカールの強化効果を切ったのか、G-エクリプティカの全身から立ち上る紫色のオーラは消失して、力なく俯く機体だけが宇宙を漂う。

 これで全部が元通りになるわけじゃない。きっとこれからもマフユは罪を背負っていかなきゃいけない。きっとこれからも、後ろ指をさされるのかもしれない。

 

 それでも、俺はマフユの味方でいると決めた。マフユの隣で、その罪を少しでも肩代わりすることを決めた。

 だから、今はそれでいい。

 帰ってくる場所はここにあるんだ。例えそれが元通りのものじゃなくたって、チナツも、ジェニも。きっと笑って、お前を受け入れてくれるさ。




君には、帰る場所がある
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