ガンダムビルドダイバーズ:トライ   作:守次 奏

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本編は最終回なので初投稿です。


Ep.60「Re:Build」(終)

 その後のことを、何から話そうか。

 まずは有志連合戦だけど、あの戦いは俺たちの勝利で終わった。

 黒幕には逃げられちまったけど、あのダブルオーが発動した光の翼の力もあって、ブレイクデカールによるバグは撲滅、そのログを解析した運営はすぐさま修正パッチの制作に当たったらしい。

 

 黒幕が何のためにブレイクデカールをばら撒いていたのか、この世界を「嘘っぱち」だの「偽り」だのとほざいていたのかはわからないけど──俺にとってはもう、どうでもいいことだ。

 例えGBNが黒幕の言う通り偽りでも嘘っぱちでも、その嘘に助けられてきた人間は山ほどいる。

 たかがゲームだと笑うやつだっているかもしれないけど、アクティブユーザーを二千万人も抱えてれば、もうそれは一つの世界と呼んだって差し支えない。

 

「有志連合の諸君! 作戦は成功した! 今宵はログアウトするまで、存分に楽しんでいってくれ!」

 

 キョウヤさんが「AVALON」のフォースネスト、その会食場に立ってワイングラスを高く掲げる。

 そこにいるダイバーは程度に差はあれど、皆どこか浮かれた様子で、中には肩を組んで男泣きしているやつだっていた。

 偶然と奇跡が重なったとはいえ、一つの世界を、このGBNを守れたんだ。そういう意味じゃ、確かに泣いていいのかもな。

 

 だけど勝利を祝い、楽しむその前に、俺には果たすべきことが一つある。

 

「……キョウヤさん」

「なんだね、ユウヤ君?」

「俺……約束しました。マフユがブレイクデカールを使った罪があるなら、罰を一緒に受けるって。だから、なんでも言ってください。運営に通報したって構いません。だけど、マフユだけが悪いんじゃないんです」

 

 誠心誠意、伝わるように深々と頭を下げて、俺はキョウヤさんへと確かに言った。

 もしもマフユのアカウントが永久凍結されるなら、俺のそれも同じペナルティを下してほしい。

 今回の有志連合を集めたキョウヤさんほどの力があるなら、ゲームマスターと掛け合うのだって不可能じゃないはずだ。

 

「ユウヤ君、顔を上げてくれ。マフユ君は確かにマスダイバーとして、ブレイクデカールを使ったかもしれない……だけど、証拠がないんだ」

「証拠って……」

「ブレイクデカールの使用履歴はサーバーのログに残らない。だから、不正の証拠がない者を罰することはできない……それが今回の有志連合戦に際しての、運営の見解だよ」

 

 だけど、無罪放免で全てが元通りに行くわけじゃない。

 キョウヤさんが言っていた通り、会食場に立っているマフユに注がれる視線の中には、厳しいものも含まれている。

 罰せられないからといって、罪が消えるわけじゃない。それを、俺はひしひしと肌で感じさせられた。

 

「だが……もしも君たちが良ければ、これからもGBNを楽しんでほしい。GMがどう考えているかはわからないけど、僕としてはそれが一番の罪滅ぼしになると考えているよ」

「キョウヤさん……ありがとうございます! 俺、いや、俺たち、これからも全力でGBNを楽しんでいきます!」

「ごめんなさい……あ、ありがとうございます。私も、これからは、ユウヤ君と一緒に……」

「ああ、これからも励んでほしい。それと……君たちはあの戦いの中で愛を育んだ間柄だ、ここは一つ、祝福させてもらうよ」

 

 ──おめでとう。

 チャンピオンから、キョウヤさんからその言葉が贈られたことが、そして、マフユのことを許すとまではいかなくても、罪滅ぼしの条件を「楽しむこと」という落とし所にしてくれたことには、感謝してもし足りないぐらいだった。

 俺とマフユは顔を赤くして互いを見つめ合う。ヤバいな、今までは意識してなかったというか、無意識に外側へと放り投げていたけど、こう見るとマフユって、めちゃくちゃ可愛い。

 

 そんな具合に俺たちが茹っていると、呆れた様子のチナツとジェニが合流してきて、肩を竦めて小さく笑う。

 

「おめでとう、マフユ」

「チナツさん……」

「ユウヤはバカで唐変木で朴念仁だけど……一度こうって決めたら絶対譲らない男よ。だから……幸せになりなさいよ、マフユ」

「……はい……っ……!」

 

 チナツはそれだけ言い残して微笑みかけると、ログアウトしてリアルへと解けていく。

 あいつはきっと泣くのだろう。選ばれなかったことを嘆いて、嘆いて。

 でも、きっと立ち直ってくれる。今はただ、そう信じたい。

 

 そして俺たちは、何か言いたげにフードを目深に被っていたジェニへと向き直る。

 

「ユウヤ。私はこの戦いで己の未熟さを知った」

「未熟さ……」

「そう。私は……お父さんの仇を討ちたかった。でも、貴方と一緒に遊んだGBNで過ごした時間は、楽しかった」

「大袈裟だな、今生の別れってわけじゃあるまいし」

「そうなるかもしれないから、言ってる。私は……また、お父さんのところで自分を鍛え直そうと思う」

 

 ジェニはフードを脱ぐと、どこか憑物が落ちたような表情で爽やかに微笑むと、いきなりとんでもないことを宣言した。

 ジュンヤさんが今どこでなにをやってるかは知らないけど、世界中を旅して回ってるらしい、というのは父さんと母さんから聞いたことがある。

 その旅に同行するということは、しばらくジェニとは、スミとは会えなくなるってことだ。それを今生の別れと捉えるのは縁起が悪いけど、それでも寂しいものは寂しい。

 

 ──でも。

 

「それが、お前の決めたことなんだろ? ジェニ……いや、スミ」

「ええ。私はもっと強くなる。だから、私の恋を……貴方のことを思い出にさせてほしい。ユウヤ」

「……ああ! しばらく会えないのは寂しいけど……必ず帰ってこいよ、スミ!」

 

 お前が帰ってくる場所は、「トライダイバーズ」はいつだってここにあるんだから。

 去っていく背中にそう告げて、俺は伸ばしかけた手を下ろす。

 スミを選ばなかったことと、今回の旅はきっと関係ないとは言わなくたって、俺が選ばなかったように、あいつもまた選んだというだけの話だ。

 

 それでも、いつかまたこの空の下で会えるはずだ。

 そう思いたい。そう願いたい。

 繋がり合ったことで生まれた縁を、絆を信じて。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「新興企業『白虎電子』、組織立った不正なサイバー攻撃で一斉摘発、ねえ……GBNのデータを不正にクロールしていたとか聞くけど、ユウヤはなにか知ってるの?」

「いや? 知らないな……」

「そうなんだ。この犯行の首謀者はレミング・ワトキンス、三十八歳……業務上横領と不正アクセス禁止法違反と、威力業務妨害に、追加の容疑で暴行罪、児童虐待防止法違反……なんていうか、犯罪の見本市みたいな人ね」

 

 あいつ、捕まったのか。

 ニュースを見ながら小首を傾げていた母さんがレミング・ワトキンスの名を呟いたことで、おおよそあいつが何をしようとしていたかは見当がついた。

 大方、ブレイクデカールでGBNが破壊されたあとに、クロールしていたデータで第二のGBNを作ることでその後釜に収まろうとでもしたんだろう。なんというか、とにかくみみっちい。

 

 でも、あの野郎が法の裁きを受けたことで、ミリアはきっと気が楽になったんじゃないだろうか。

 あんなんでも実の親だから、思うところはあるのかもしれないけど、それでも過去に失った、奪われた分の償いをさせるって意味じゃ溜飲が下がるところもあるんだろう。

 きっと。多分だけどな。

 

「それじゃユウヤ、行ってらっしゃい!」

「わかったよ、母さん……てか、なんでそんな喜んでるんだよ……」

「だってユウヤからマフユちゃんに告白したんでしょ? 私の時は逆だったから、ちょっと羨ましいのよね。本当、セカイ君……お父さんをその気にさせるの、すっごく大変だったのよ?」

「そんな話を息子に聞かされましても……」

 

 俺が恋愛ごとに鈍いのは、どうにも父さんからの遺伝が強いらしい。

 ただ親のデート事情とかどっちが先に告白しただとか、そういう話って、どういう顔して聞けばいいのかまるでわからない。

 母さんからすりゃきっとジョークのつもりなんだろうけどさ、なんというか身につまされるものがある。

 

「とにかく! 付き合ったなら絶対に傷つけちゃダメよ? マフユちゃんは繊細な子なんだから」

「わかってるってば! それじゃ行ってくる!」

「行ってらっしゃい、ユウヤ」

 

 これ以上この場に止まってたら母さんのエンドレストークに引き摺り込まれると判断した俺は自転車の鍵を引っ掴むと、強引に話を打ち切って、玄関先に飛び出していく。

 腕時計を見る限り、まだ時間には余裕がある。

 今日はマフユとデート……というか、新しいガンプラを一緒に作る予定が入っているのだ。

 

 マフユの家に向けて全速力で自転車を飛ばす。

 高級住宅街を突っ切って、この前は固く閉ざされていた巨大な鉄の門にくっついているインターフォンを鳴らせば、控えめな声が少しのノイズを伴ってマイク越しに聞こえてくる。

 

『は、はい……』

「よう! 俺だぜ、マフユ!」

『ユウヤ君……門を開けるから、ちょっと待ってて、ね……』

 

 重々しい音を立てて鉄の門が開いていく。

 そして、玄関までの一本道を自転車を降りて歩いていけば、相変わらず手入れが行き届いている庭園が視界に入る。

 なんというか、懐かしい気分だな。会えなかったのなんてほんの数日ぐらいなのに、それでもずっと会っていなかったような気がするんだから、不思議なものだ。

 

 玄関口の脇の方に自転車を停めて、鍵を閉める。そして扉の前に立てば、ぱたぱたと慌ただしく音を立てて、ドアの前までやってきた足音が聞こえてくる。

 かちゃり、という音を立ててドアが開く。

 そして、そこから顔を見せたのは、いつもの袖の丈が余っているゴスロリ衣装に身を包んだマフユだった。今日は化粧もしてるな。

 

「待たせちゃった、かな……?」

「いや、全然!」

「なら、よかった……えっとね、入って大丈夫だよ、ユウヤ君……」

「そんじゃ、お邪魔します!」

 

 マフユの許可を得て、俺は相変わらずデカい家の中に足を踏み入れる。

 ふわり、と香る花の匂いに混ざって漂ってくるシャンプーの香りが鼻先をくすぐって、ちょっとだけむずむずした。

 

「えっとね……ユウヤ君、今日はちょっと、手伝ってほしいことがある、の……」

「ガンプラ作るんだろ? 俺にできることがあるならなんでも言ってくれよな!」

「うん……ありがとう、ユウヤ君。だから、この部屋に一緒に来てほしいの」

 

 そう言って、マフユは階段に足を乗せると俺を手招く。

 そういえばマフユと一緒に遊んでた時はずっとリビングルームだったから、二階に足を踏み入れるのは初めてだな。

 マフユの案内に従って、部屋数が相変わらず多い二階の廊下を歩けば、そこにあったものはなんの変哲もない、普通の扉……のはずだ。

 

「ここで合ってるのか、マフユ?」

「うん……えっとね、ここ……お父さんの書斎なの」

「へー……マフユの親父さんの書斎かぁ、でもなんで俺も一緒に?」

 

 投げかけた問いかけにマフユは少し困った様子で眉を八の字に歪めると、小首を傾げて口を開く。

 

「えっとね……お父さんのこと、私、ずっと避けてたから……お父さんと、お母さんは、凄い人だから……書斎を開ける勇気がなかったの」

「そっか、じゃあ」

「……今日は、逃げない。お父さんと……向き合ってみたくて……でも、怖いから……勇気が、欲しくて……」

 

 丈の余った袖に包まれているマフユの手が、そっと遠慮がちに差し伸べられる。手を繋ぎたいのだろう。

 それぐらいなら簡単だ。俺は優しく袖越しにマフユの掌を包み込んで、力強く頷いてみせる。

 

「……ありがとう、ユウヤ君」

「これぐらいならいつでも言ってくれよな」

「……じゃ、じゃあ……しばらく、このままでいい、かな……?」

「お安い御用だぜ」

 

 他愛もない言葉を交わし合いながら踏み入ったマフユの親父さんの書斎は、海外にいて長いこと留守にしてるって割には小綺麗なものだった。

 多分、マフユのことだからハウスキーパーさんとかも雇ってるのだろう。庭の手入れとか、一人でやるなんて想像もしたくないしな。

 そんなことを薄らぼんやりと頭の片隅に浮かべながら、親父さんの机と思しきものにマフユが向かっていくのに手を引かれて、俺もまた辿り着く。

 

「これ……封筒か? マフユの名前が書いてあるけど……」

 

 机の上にはカッターマットと、もう機能を停止したのであろうGPベース、そしてその下に挟まれる形でマフユの名前が書かれている一通の茶封筒が置かれていた。

 

「……お父さんから、私に……?」

「開けるか?」

「う、ううん……私が、やってみる……」

 

 親父さんからのメッセージ。ずっと受け取る勇気がないまま放置していたそれがなんなのかはわからない。

 それでもマフユが勇気を出して一歩を踏み出せたのは、紛れもなく成長なのだろう。

 丁寧に、ゆっくりと封筒を開ければ、マフユはその中に入っていた一枚の紙を見つめて、じわり、と眦に涙を滲ませる。

 

「……っ……お父さん……」

「これって……」

 

 嗚咽を堪えるように唇を引き結んだマフユが見つめていたものを、少し行儀が悪いけど覗き見てみれば、そこに記されていたのは、ガンプラの設計図と思しきものだった。

 ガンダムフェニーチェリナーシタ。その名前を俺は知らない。

 だけど、そのガンプラの設計図を娘に宛てて机の上に置いていたってことは、マフユの親父さんはきっと、それをずっとマフユへと託そうとしていたのだろう。

 

 ここから先は、俺の勝手な想像でしかない。それでも、その設計図からは確かに親父さんからの愛が感じられた。

 きっと親父さんは、マフユが勇気を出したその時、力になれるようにとその設計図を残していたのだろう。

 不器用で、ぶっきらぼうで。だけどどこか粋なその愛情。マフユの親父さんは、相当な伊達男だったのかもな。

 

「……私、お父さんの設計図を使って新しいガンプラを作る、よ……だから……」

「ああ、手伝うぜ」

「……ありがとう、ユウヤ君……」

 

 設計図を胸元に抱き寄せると、マフユは涙を眦に浮かべながらも、春に蕾が綻ぶような、満開の笑みを咲かせてみせた。

 きっと、マフユにとっての冬はもう終わったのだろう。ずっと心に抱えていた冷たい思いが溶け出して涙に変わる。

 だから、俺はそれが治るまで、零れ落ちていく涙が帰る場所を見つけるまで、強くマフユを抱きしめていた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 マフユが新しいガンプラのベースに選んだのは、ガンダムジェミナス01だった。

 それとウイングガンダムをミキシングするのが当初の予定だったんだろうけど、それを急遽変更して、一部にはフェニーチェリナーシタのパーツを組み込むことに決めたようだ。

 設計図に記された形をなぞり、ガイド付きのプラ板に当たりをつけて下書きをして、切り出したパーツを貼り合わせていく。

 

 その単純にも見える作業はその実、気が遠くなるほどに難しいもので、手作業なのもあって一枚一枚に出た微細なズレをやすりで修正して。

 そうしてほとんど丸一日を費やして出来上がった、ガンダムジェミナス01をベースにしつつ、アンテナを二本から四本に増やしたり、本来は換装用のアサルトブースターが接続される穴にはジャンクパーツの中で眠っていたスクランブルガンダムとかいうガンプラの羽を接続したりしたガンプラが今、力強く机の上という大地に立つ。

 

「これが……マフユの新しいガンプラか」

「うん……G-ジェミニアン。今まで足りなかった、火力と手数を強化した、エクリプティカの魂を継ぐ、私の……私とユウヤ君の、ガンプラ……」

 

 なるほど。俺も手伝ったから俺のガンプラでもあるのか。

 それなら、ストライクスフィーダも同じだな。

 腰のポーチに入れてきたストライクスフィーダをG-ジェミニアンの隣に立たせてみれば、窓辺から差し込む光がツインアイの光を反射して、出会えたことを喜んでいるように、まるで涙ぐんでいるように見えた。

 

「……大好きなものと向き合うことって、楽しいだけじゃないって……怖いことなんだって、わかった」

「ああ」

 

 マフユはぽつりとそんな言葉を零す。

 確かにその通りだ。悔しさに怯えるのは、悲しさを避けて通りたくなるのは、誰もがきっと経験することだ。

 俺だって、次元覇王流の修行がつらくて逃げ出したくなった時期がある。それでも、踏ん張ることができたのは。

 

「……でも、私……ユウヤ君と出会えた。大好きな世界で、大好きだって思える人と、出会えた……だから……」

 

 ソファに腰掛けていたマフユは俺の頬を両手で包み込むと、目を閉じてそっとその唇を寄せてくる。

 唇と唇が触れ合う柔らかな感触とあたたかな温度が伝わって、どうしようもなく愛しいという感情が溢れ出す。

 ああ、多分これが恋ってやつなんだろう。随分長い、遠回り。その果てにやっとわかった、最後の「大好き」だって気持ち。

 

「私を好きになってくれてありがとう、ユウヤ君……私を好きでいてくれて、ありがとう……愛してくれて、ありがとう……」

「……俺だって、ありがとう。俺……マフユを好きでよかった。マフユと出会えてよかった」

「……一緒、だね。えへへ」

 

 ファーストキスはレモンの味だってのは一体どこの誰が言い出したのかはわからないけど、俺たちにとっては砂糖菓子のようなものだった。

 生クリームの上に蜂蜜をぶっかけて、粉砂糖を袋ごとぶちまけたような甘さを何度も求めあって、俺はマフユを抱きしめながらその唇をそっと塞ぐ。

 生まれてきてくれたことを祝福するように、ここにいてくれることを祝福するように、夜の帳が降りつつあるリビングで、俺たちは互いにその祝福を刻み続けた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 ざっと思い出せる範囲ではこんなもんか。

 本当に色々あった。激動の一年、なんて言葉じゃ済まされないほどに、あれこれと色々なことがリアルでもGBNでもあって。

 そんなあれこれを経て大体二年。俺たちは今二人で、ガンダムベースシーサイドベース店に訪れていた。

 

「なんなのかなあ」

 

 バイトと思しき明るい茶髪の女の子がガンプラを手に小首を傾げている姿を見て、俺たちは踏み出すと、その子にそっと声をかける。

 

「それならバウだと思いますね、こっちの棚じゃないですか?」

「ありがとうございまーす」

 

 ガンダムのモビルスーツって立体化されてるだけでも気が遠くなるほどあるからな。

 覚えてられないって気持ちはわかる。

 愛想こそ良くても、どこか生返事みたいな女の子の返事に会釈をしつつ、俺はマフユの手を繋いでシーサイドベース店を後にする。欲しいものはもう粗方買ってたからな。

 

「二年、かぁ……」

「二年、だな」

「……私たち、ずっと仲良しだね。えへへ」

「ああ、そうだな。喧嘩らしい喧嘩とかもしたことねーし……」

「じゃあ、ユウヤ君は……喧嘩、したい?」

「まさか。マフユと喧嘩するなんて、考えたくもない」

 

 もうあの時みたいに会えなくなったり、言葉を交わすことすら拒まれたら、あの時以上にショックを受けて寝込んでしまうかもしれない。

 いつものようにゆっくりと過ぎていく日々。そこにマフユがいてくれるだけで、俺はきっと十分すぎるほどに幸せだった。

 

「ん……」

 

 目を閉じて、マフユがキスをせがんでくる。往来だってのに気にしなくなった辺り、マフユも随分変わったもんだ。

 だけど、そんな可愛くて愛しい恋人の願いを叶えないわけにはいかないよな。

 そっと唇を触れ合わせて、啄むような口付けから一歩だけ進んだ大人のそれへ。夜の街に灯る光を抱き寄せるように口づけを交わすと、俺たちは身を寄せ合って、共に明日へと歩き出すのだった。




これにて本作の本編は完結となります。ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました! なお7話ほど番外編として第二次有志連合戦を書いたエクストラ編があるので、そちらもお読みいただければ幸いです。
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