ガンダムビルドダイバーズ:トライ   作:守次 奏

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エクストラミッション編なので初投稿です。


トライダイバーズ・エクストラミッション!
Ex.01「ELダイバー」


 GBNで再びバグが目立つようになってきたのは、有志連合戦からしばらくしてのことだった。

 確かにブレイクデカールによるバグは、あのダブルオーが発動させた光の翼によって完全に無効化されて、そのデータを元にした修正パッチが当てられた旨が運営からも告知されている。

 だけど、どういうわけか最近起きてるバグは、軽いものじゃなくてブレイクデカールが蔓延していたあの頃と似たような、有り体にいえばやべー代物だ。

 

 バグに遭遇したことでしっちゃかめっちゃかになりつつもなんとか全員が完走したことで、協賛企業こと「サザメス」のイメージガールに参加していたマフユとチナツが認定されたのはいいとしても、問題はそっから先の話だ。

 

「バトル中に落ちた雷で決着って、なんとも締まらない結末よね」

 

 フォースネストの背もたれに体重を預けて、ぐでーっとした感じになっているチナツが、どこか投げやりな口調でそう呟く。

 こっちとしても気持ちはわかる。

 さっきやってたフォース戦の顛末が、フラッグ機にバグによる落雷が直撃したことで開幕勝利とかいうよくわからんことになったせいで、俺の方も大分手持ち無沙汰だ。

 

「まあ、レギュレーションでなんでもありなRTAやってるんじゃねーんだからな」

 

 バグすら再現性があればチャートに組み込んで最速クリアを目指す競技は俺も知ってるけど、GBNにそういうのを求めてるわけじゃない。

 拳を振るう間もなく、バトル開始と同時に宇宙が裂けて、そこから落ちてきた雷が勝利の要因でした、なんて消化不良もいいところだ。

 新しい愛機の「G-ジェミニアン」を完成させて、最近は自信を取り戻してきたマフユも手持ち無沙汰なのは同じのようで、すっかり投げやりな俺たちを見て、苦笑しつつもどこかやり切れない気持ちが、その瞳から滲み出ていた。

 

「勝ったのは勝ったけど……勝った気にならない、っていうの……わかるかも」

「だよなあ、なんつーか……相手のフォースも運が悪かったって笑ってたけどさ」

「笑って済むような話じゃあないわよね」

 

 むしろ無理矢理笑い話にすることで場をもたせているというか。なんの場かは知らないけど。

 というか、相手さんもネタにしなきゃやってけなかったんだろう。

 G-Tubeにアップロードされたアーカイブを見てみれば、再生時間が極端に短いこともあって、とんだ笑い草になっている始末だ。

 

「運営はなにしてるのかしらね、まさかまたログに証拠が残ってないとか?」

「流石にそれはないんじゃねーか?」

 

 チナツは頬を膨らませながら不満を口にしたけど、それが本当だとしたらまたGBNのメインプログラムは、ブレイクデカール並の技術でクラッキングされてることになる。

 偶然は二度続かない。

 いや、二度ぐらいは続くのかもしれないけど、流石にブレイクデカール並の技術を持った悪党がこの短期間でGBNに二回も目をつけるとか冗談にも程ってもんがあるだろう。

 

「でも、運営の人はちゃんとわかってる、よね……?」

「お知らせにはバグについての把握してる件書いてたし、プレボには対応が遅れてることへの詫びで配布されたBCとか色々入ってたからなあ」

 

 マフユの言葉を俺は首肯する。

 これで知りません存じません関係ありませんだったら暴動ものだけど、前に一度だけ会ったことがあるあのゲームマスターはよくも悪くも真面目な人って感じだったしそれはない。

 だから、バグ対応の遅延に関する詫び配布も豪華なものが色々と揃ってたのだろう。

 

「GBNジャーナルでもオカルト案件というか謎の怪異扱いだし、掲示板とか見てても皆アタシたちと似たような感じだし……いつになったら安心してGBNできるのかしらね」

「ここ最近、立て続けに色々起きてるからな……」

 

 メガ粒子杯に、ブレイクデカールを巡る騒動、そして有志連合戦。初めて数ヶ月で辿る道にしては随分なハードモードだ。

 チナツが嘆くのもわからんでもない。

 とはいえ、フォースネストで駄弁ってたところで謎のバグが解決するわけでもないし、常時バグまみれってわけじゃなく、起こらない時は起こらないんだから身体を動かして気分転換でもしておくのが吉ってとこだろう。

 

「ここで駄弁ってても仕方ねーし、なんかミッションでも受けるか?」

「ん、そうね……アタシは別になんでもいいけど、マフユは受けたいミッションとかある?」

 

 凝り固まった背筋を解すように大きく伸びをしながら、チナツはマフユへと問いかける。

 ミッションといえばチュートリアルとか受けたぐらいで、そういや全然やってなかったな。前に受けようとした時はクソピエロ共に茶々を入れられたし。

 そんな苦い思い出はともかくとして、チナツからの問いかけにマフユはしばらく考え込むような仕草を見せると、殺風景なフォースネストを一望して、ぽん、と掌を拳で軽く叩いた。

 

「えっと、その。家具とか……どうかな、って」

「家具?」

「うん……このお部屋、ちょっと殺風景だから」

 

 マフユは手狭な部屋を掌で指し示して苦笑する。確かに、言われてみればその通りだ。

 なんというか、フォースネストの内装にまでこだわってる暇がなかったからといえばそれまでなんだろうけど、初期支給品のまま止まっているこの部屋は確かに殺風景だった。

 スミが修行に行って、いなくなってしまったのもあって、確かによく見ればどこか物悲しい。

 

「いいんじゃない? 収集系ミッションで家具がドロップするやつってあったかしら」

「ミッションに関しちゃ俺はなんともだからな……マフユは何か知ってるか?」

「え、えっと……『ここ掘れ! マウンテンサイクル』とか?」

 

 チナツが手元のコンソールを操作してミッションのリストを検索している間にマフユへと問いかけてみれば、待ってましたとばかりにその名前が唇から紡ぎ出される。

 ここ掘れマウンテンサイクル。

 名前からするに、∀ガンダムが元ネタになってるミッションだろうか。懐かしいな。マフユの家でこの前一緒に見たやつだ。

 

「∀ガンダムのミッションか、いいんじゃねーかな、マフユん家でこの前一緒に見たし」

「ゆ、ユウヤ君……は、恥ずかしい、よ……」

 

 別に恥じらうようなことでもないと思うけどな。

 一応付き合ってるんだし……って考えたら俺の方も恥ずかしくなってきた。やめよう。

 

「はいはい、新鮮な惚気ご馳走様でした……っと、冗談はともかく、パーツデータとかプラグインもランダムで採掘できるみたいだし、悪くないんじゃない? はいこれ」

「サンキュー、チナツ」

 

 チナツは手元に表示したスクリーンに「ここ掘れ! マウンテンサイクル」の概要が記されている画面を投影すると、投げやりにそれを俺たちに手渡してくる。

 コレクトミッション「ここ掘れ! マウンテンサイクル」。旧世紀の遺物として色々なものが眠ってるマウンテンサイクル内を制限時間内に採掘して得られたものが報酬、という、内容としてはシンプルなものだ。

 ただ、ドロップ関連はその分運任せってことなんだろう。ガンプラは一応持ち込めるけど、入り組んだ洞窟とかもあるから基本的には生身で掘るのが推奨されてるっぽいな。

 

「なるほど、生身でやるミッションってのもあるんだな」

「それもまたGBNの醍醐味ってやつよ」

「……私たち、戦ってばかりだったから、ね……」

「それについては本当悪かった」

 

 ガンプラバトルは確かに熱くて、楽しくて、最高にワクワクできるけど、一度興味を持つと何事ものめり込みすぎてしまうのが俺の悪い癖だ。

 だからこそ、あんなことがあったわけだし。それについてはしっかり向き合って反省していかないとな。

 でも、マフユだって最近はやられっぱなしじゃない。機動力と火力のある近接支援役として俺が突っ込む時に後ろから援護してくれてるし、苦手だった一対一での戦いも、より万能機らしくなったG-ジェミニアンの力とこれまでの経験を活かして上手く立ち回ってる。

 

 良くも悪くも人は変われる。

 だから、俺だってマフユを見習って、変わっていかねーとな。

 そんなことを薄らぼんやりと考えながら向けたマフユへと視線が交錯して、少し恥ずかしいともまた違うけど、むず痒い感覚が胸の奥に湧き起こってくる。

 

「……ゆ、ユウヤ君……私の顔、なにかついて、る……?」

「ああいや、なんでもない! ただ俺もマフユを見習ってかないとなって!」

「あ、え……? 私、を……? え、えっと……じゃあ、私も、ユウヤ君を見習って……!」

「はいはい、惚気はその辺にしときなさいよ、毎度のことだけど砂糖吐きそうだわ」

 

 さっさとミッション行くわよ、と、チナツは呆れたように肩を竦めながらブロックノイズ状に解けてセントラル・ロビーへとワープしていく。

 少しばかり気まずい空気を抱えながらも、俺たちもチナツの背中を追いかけるようにロビーへの転送を選択する。

 そっと指を絡めて、手を繋ぎながら。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 結論から言おう。発掘できた家具はお洒落なものというよりかはどっちかというと珍妙な……まあ人を選ぶようなものだった。

 パーツデータとかビルドコインとかはそれなりに集まったものの、果たしてこの発掘されたガンダムとかザクをモチーフにしたのであろう埴輪のようなアイテムをどう扱ったものかと、俺たちが頭を悩ませていた、その時だった。

 強制的にウィンドウがポップして、この前のガンダイバーこと、ゲームマスターの姿が大写しになる。

 

『運営よりお知らせがあります。GBN内で最近数多く発生しているバグに関してその発生原因を突き止めました。彼女の名前は、サラ』

 

 サラ、という言葉と同時にスクリーンに投影されたのは、あどけない顔立ちをした銀髪の女の子の姿だった。

 そして俺は、それに見覚えがあった。

 思わず埴輪を取り落として立ち上がり、運営からの公式アナウンスを食い入るように睨み付ける。

 

「どうしたの、ユウヤ?」

「サラ……この子に俺、見覚えがあるんだ」

「それって……」

 

 思い出すのは、ストライクスフィーダを作って「鉄仮面ズ」との戦い前にマギーさんに見てもらったときのこと。

 あの時一緒についてきていた銀髪の女の子は、サラは、俺のストライクスフィーダを見て「燃えている」と、そう言ってくれた子だ。

 そのサラって子が、バグの元凶。なにかの冗談だと思いたいけど、ゲームマスターが直々に、恐らくは全てのダイバーに向けてそんな嘘をつくとは思えないし、仮にそうだとしても嘘をつくメリットが皆無に等しい。

 

 なら、やっぱりサラって子は。あの子は。

 愕然とする俺に対して、チナツとマフユは小首を傾げてなにが起きたのかとばかりに顔を見合わせていた。

 その辺の説明はあとでしなきゃいけないだろう。だけど、今優先すべきなのは運営の話を聞くことだ。

 

 焦る気持ちに拳を固めつつ、俺はゲームマスターが淡々と発表する言葉に耳を傾ける。

 

『彼女は人間ではありません。このGBN内で発生し成長した電子生命体……ELダイバーなのです。そして、このままこの存在を放置しておけば……GBN全体が崩壊する恐れがあります』

 

 サラが、人間じゃない。

 そして、そのまま放っておけば、ブレイクデカール事件の時と同じように、GBN全体が崩壊してしまう。

 寝耳に水だとか青天の霹靂だとかそんなレベルの話じゃない。理解を超えた情報は脳味噌を直接金槌でぶっ叩いたかのような衝撃を残して、俺の耳にこびりつく。

 

「あの子が……人間じゃない……? バグの、元凶……? 何言ってんだ……?」

 

 短いながらも格納庫で言葉を交わしたあの時、サラからは悪意だとか、そういうものはなにも感じられなかった。

 むしろ、俺のストライクスフィーダを「燃えている」と、ストライク焔の魂を継いでいることをわかってくれて、嬉しかった。

 そんなサラが、今GBNでバグを振り撒く電子生命体だなんて、信じられるか。

 

『しかし、心配はありません。現在運営側が適切に対処しており、修正パッチの作成を進めております。もし、GBN内で彼女を見かけましたら、むやみに接触せず、すぐ運営までご連絡ください。繰り返します。彼女の名前はサラ。このGBN内で発生した電子生命体、ELダイバーなのです』

 

 だけど、俺が信じるか信じないかどうかなんてことはお構いなしに、運営はその事実を捲し立て、一礼すると同時に放送を切る。

 電子生命体。ELダイバー。正直なにがなにやらって感じで、理解が追いつかねえ。

 でも、ゲームマスターが直々にそう言ったってことは、サラが人間だろうがそうじゃなかろうが、今このGBNにバグを振り撒いている元凶だってことに、間違いはないのだろう。

 

「ユウヤ……どうしたの? 顔真っ青よ?」

「ユウヤ君、大丈、夫……?」

「あ、ああ……そうか、チナツとマフユは知らないんだったよな……あのさ、俺……あのサラって子と会って、話したこと、あるんだ」

 

 簡単に格納庫での顛末を俺は二人に語って聞かせたけど、正直その内容がちゃんとしてたかどうかは自信がない。

 そのぐらいひどく動揺していたんだ。

 ストライクスフィーダの想いを汲んでくれたあの子が電子生命体で、バグの元凶で。そんなの、にわかには信じられないし、信じたくない。

 

 それとも、あの柔らかい笑顔の裏に底知れない悪意を隠していたのか。

 わからない。だけどあの時言葉を交わして得た直感に従うなら、サラは、あの子はそんな悪党じゃなかった。

 俺は父さんみたいに、師匠みたいに人を見る目に自信があるわけじゃない。だけど、悪党かそうでないかぐらいは、見ればわかる。だったら。

 

「落ち着きなさいよ、ユウヤ。アンタの言い分を聞くなら、あの子が悪意をもってバグをばら撒いてたわけじゃない、ってことでしょ?」

「あ、ああ……」

「それに、運営はサラちゃんのことを……ELダイバーって、電子生命体って言ってた。もしあの子が本当にそんな存在なら、GBNのサーバーがサラちゃんのデータを維持できないからバグが発生してるって可能性だってあるわ」

 

 チナツは冷静に俺の胸へと人差し指を当てると、銀のティアラを月光に煌めかせながらそう言った。

 

 メモリのオーバーフローとか、そういう技術関連のことに関してはなにがなんだかって感じだけど、要するにチナツの言い分は、この世界がダイバーたちの同時アクセスやマップの読み込み、ガンプラの読み込みや動きの処理といった諸々をサーバー上で行っている中に、電子生命体であるサラのデータが割り込んできたことで容量が圧迫されてるせいでバグが生まれてるんじゃないかって仮説だ。

 

 それに、電子生命体ってのが本当なら、そのデータは生きているわけで、不規則な処理が走ったり割り込んだりすることでバグが生まれている可能性だってある。

 だったら、運営が言う通りに俺たちは修正パッチの完成を待って──要するに、バグの元凶であるサラの抹消を、認めるかってことだ。

 運営が言ってることは正しいんだろう。それは俺にだってわかる。

 

 でも、サラが電子生命体だっていうなら、あの子はただのプログラムじゃない。

 生きているんだ。俺たちのガンプラがスキャンされてこの電脳世界で動くのとはちょっと訳は違うかもしれないけど、同じ想いがそこにはあるんだ。

 それを、消せっていうのか。

 

「ユウヤ君……」

「……わかってる、俺は……」

 

 有志連合戦に参加したのは、マフユを助けたいって目的もあったけど、GBNを守りたいって気持ちもあった。

 そこに嘘はない。なら、俺は。

 俺はGBNを守るために、サラを消すという運営の選択を認めなきゃいけないのか。

 

 そんなことを頭の中に浮かべながら、拳を固めていたその時だった。

 

「あっ……」

 

 木陰から、怯えるようにして顔を出した小さな女の子の視線が俺たちに注がれる。

 銀髪の女の子。それはたった今、運営からアナウンスがあったばかりの、サラその人だった。

 身構えるようにして、木陰に逃げ込もうとするその小さな背中に、考えるよりも早く、俺は呼びかけていた。

 

「待ってくれ、サラ!」

「……っ……!」

「俺たちは君を運営に引き渡したりなんかしない! だから……少しでいい、話をさせてくれ! 信じてくれ!」

 

 腰のホルスターに収まっている拳銃を捨てて、両手を上げながら、ゆっくりとサラへと近付いていく。

 これで信じてもらえなければそれまでだ。

 だけど俺は、どうしても話がしたかったんだ。確かめたかったんだ。本当にサラが望んでバグを振り撒いているのかどうかだけでも。

 

「……あなたは……」

「俺はユウヤ。カミキ・ユウヤだ。前に、格納庫で会ったろ?」

「うん、覚えてる……燃えてるストライクの人」

「ああ、そうだ」

 

 警戒を解いてくれたのか、サラはぽつりと俺の言葉にぎこちないながらも反応を返してくれる。

 チナツとマフユも同じように両手を上げて、敵意がないことを示しながらサラへと歩み寄っていく。

 

「アタシはチナツ。そっちのユウヤと同じで貴女を運営に引き渡すつもりはないわ」

「私は……マフユ。ユウヤ君とチナツさんと同じで、貴女を運営に差し出すつもりはない、よ……?」

「チナツ……マフユ……」

 

 どうやら信じてもらえたのか、サラは小さく頷くと、意を決したように俺たちの瞳を見つめてから、小さく俯く。

 

「ごめんなさい、私のせいで皆に迷惑がかかってる……私……」

「それは……サラ、君の意志でやったことなのか?」

「っ、違う……私は、ただ……」

 

 俺の問いかけに、サラは怯えるようにして首を横に振る。

 

「ならよかった。さっきも言ったけど、俺たちは君を運営に引き渡すつもりはない」

 

 今もこうして見れば、サラの細い脚は震えていて、いつ飛んでくるかもわからないガードフレームや運営のパトロール隊に怯えていると一目でわかる。

 それで俺は確信した。この子は、サラは生きたがっている。電子生命体だかなんだか知らないけど、俺たちと同じように、命があってここにいるんだ。

 だったら、理由はそれで十分だ。

 

「……生きろよ、サラ」

「でも、私……」

「俺は難しいことはよくわからねえ……でもな、生きたいと願ってる命を見捨てるなんて、筋が通らねえ。必ず、君のことも、GBNのことも……両方救う道があるはずだ! 慰めかもしれない、楽観論かもしれない、でもな! 俺はその可能性を信じる! だから生きてくれ、サラ!」

 

 俺から言えそうなことは、ただそれだけだった。

 GBNもサラのことも両方救える道があるかどうかなんてわからない。俺の言葉はもしかしたら、サラが消されてしまうその日までの慰めに、その日の絶望に変わってしまうのかもしれない。

 それでも。

 

「……ありがとう、ユウヤ……」

 

 目の前でこうして「生きたい」と泣いてる子を見捨てて、この世界を、GBNを自分だけのうのうと楽しむなんて、生憎俺にはできそうもなかった。

 ただ、それだけだ。

 去っていくサラの小さな背中を見送りながら、俺はきつく拳を固めていた。必ずその道があることを、信じて。




その命は「生きたい」と願う
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