「我がデスラー砲が撃ち破られるだけではなく、『イラストリアス・ウェールズ』に傷を負わされるとは……流石はチャンピオンと称賛しよう。一筋縄ではいかないか……総員、対空防御を厳にせよ!」
「はっ!」
「本艦と『グローリアス・ジョージ』はこれよりビルドダイバーズの盾となる。相手も本気で挑んでくるだろう……だが、恐れるな、諸君。我らはこの銀翼の誇りにかけて最後の一兵まで戦い抜く! 奮起せよ! 奮励せよ! 志を同じくする者たちよ! 未来は誰かを犠牲にして掴み取るものではない、共に作り上げるものだ!」
虎の子のデスラー砲を失いながらも、アトミラールさんは動揺を見せることなく、座乗艦のイラストリアス・ウェールズ」と、それに随伴する「グローリアス・ジョージ」を引き連れての機動戦に移行する。
それだけじゃない。
チャンピオンがあまりにも凄まじい離れ業を披露したことで、ビルドダイバーズ陣営の士気が下がり始めたことも見越して、俺たちを鼓舞するメッセージを送ってきた辺りも用兵家って感じだな。
「あの提督さん、いいこと言ってくれるじゃない! この誇りがある限り……アタシたちは戦える。ウイニングロードはアタシたちが作り上げる!」
「ああ! このまま俺たちもリクと合流して、一気に電撃戦で畳み掛ける!」
「……うん、ユウヤ君!」
有志連合の包囲網を縫うように掻い潜り、かち合いそうなら迎撃する、ということを繰り返しながら、俺たちはリクの、「ガンダムダブルオースカイ」との合流予定ポイントまで機体を加速させていく。
とはいえ、ブラフに引っかかってくれたり、各地のゲート前に配備されている戦力もいるとはいえ、相手の総数は一万八千もある。
そんな有様だから、比較的手薄になっている今だって、空を飛んでいること自体がハイリスクなことには違いない。
でも、安全策を取って進んでる時間もなければ、そもそもこの戦場に安全地帯なんてもんは存在しない。
アトミラールさんが各地に分散して配置させたEWACウィンダムとのデータリンクによって俺たちは戦場の全貌を概ね把握できているけど、今だって、少しずつリンクが切れてきている。
だから急がなきゃいけないんだと、逸る気持ちを宥めつつ、あくまでも冷静に立ちはだかる相手を排除しながら、俺たちは前へと進む。
『こ、このッ……! 相手がいかに「トライダイバーズ」でも臆するものかよ!』
「いいねえ、その気概……! だけどな、俺たちもはいそうですかって止まってやるつもりはねえ! 次元覇王流! 聖槍蹴り!」
『うおおおおっ!? 動け、動けオーヴェロン! ぐわあああっ!』
立ちはだかったオーヴェロンのコックピットを、ジ・Oに似せた偽装外装ごと撃ち貫く。
その後隙を狙って上空からの急降下攻撃を試みていたメッサーラを、チナツのロングビームライフルによる狙撃が正確に撃ち抜いて爆散させる。
炎の華が空に咲く中、爆炎に紛れたドーベン・ウルフが放ってきたメガランチャーの砲撃をマフユの撃ったバスターライフルカスタムの一撃が呑み込んで、テクスチャの塵へと還す。
それでも相手の数は減る気配を見せないどころか、EWACウィンダムから転送されてくるデータによれば、各ゲートの前に配備されていた防衛隊が転進してきたという絶望的な状況に陥っている始末だ。
冗談じゃねえ、って言いたいところだけど、こんなところで弱音を吐いてちゃサラを助けるなんて奇跡は起こせない。
どの道一か八かのギャンブルだってんなら、全部を賭けると決めた以上は、飛べる限りは、立てる限りは進むんだ、前に。
「ユウヤ君、気をつけて……!」
「上からか!」
意識が前に向いてしまっていたところに、マフユの警告がそれを引き戻す。
アラートに従って回避運動を取れば、俺がさっきまでいた位置を撃ち抜いていたビームの光条が見える。
危ねえな、あのままじゃリクと合流する前にお陀仏だった。マフユには感謝しないとな。
『ほう……今の攻撃を避けるか。ククッ……噂通りに素質はあるようだな、「トライダイバーズ」……!』
「そう言う貴方は……ペリシアにいたダブル眼帯の!」
『以前にも会っていたか。しかしこのような形で戦場に肩を並べる日が来るとはな……私はTHE Bi-ne。貴公らの覚悟を試させてもらおう!』
「くっ……!」
ビームを撃ってきた主である、THE Bi-neさんが駆る黒い方のクロスボーンガンダム、X2の改造機に残っていた左手のビームピストルを撃ち放てば、それはラフレシアのアーマーを縮小してマントにしたような追加装甲に弾かれてしまう。
『このクロスボーンガンダムEX2、フルールクロスを舐めて貰っては困るな!』
「フルクロスみたいにIフィールドと積層ABCマントで弾いてるわけじゃないってことは、作り込みか……! だったら!」
木星製バスターランチャーを投棄して、ビーム・ザンバーを引き抜いたフルールクロスを迎撃するために、俺もまた腰にマウントしていたリュミエール・ザンバーを手にして構える。
頭部バルカンによる弾幕をあえて真正面から受ける形にはなるけど、ストライクスフィーダのスラスターを噴かして前進を選択。
そして、振り上げたリュミエール・ザンバーとTHE Bi-neさんが振り下ろしたビーム・ザンバーの刃が交錯して火花を散らす。
『ほう……? クロスボーンの武装を自分なりに改良したといったところか』
「くっ……! そう言うTHE Bi-neさんはクロスボーン本来の武装をブラッシュアップしたってとこか!」
『良い目をしている……しかし私の武器は、EX2の真髄はそれだけでは終わらない!』
フルールクロスと呼ばれていた追加装甲の裏に仕込まれていたのであろう、テンタクラーロッドの先端に接続されていた小型のチェーンソーが、甲高い唸りを上げてストライクスフィーダの装甲を削る。
パッシブスキルとして物理に強く設定されているフェイズシフト装甲じゃなきゃ死んでたところだ。
ダブル眼帯っていうインパクトの強い見た目に反して、この人の実力は本物も本物だ。確かにエネルギーは切り詰めて使わなきゃいけないけど、出し惜しみをしてたらここでやられちまう。
「イクシードチャージ始動! バーニングバースト、百二十パーセントだ!」
『切り札を切ってきたか! しかしまだだ! ここで貴公の覚悟を示せなければ、奇跡を起こすには程遠いぞ!』
「だったら!」
「冷静になりなさい、ユウヤ!」
バーニングバーストの出力を引き上げようとしていた俺を制止して、対艦刀を構えたチナツが、EX2フルールクロスの背後から斬りかかる。
しかし、それも読んでいたのか、ノールックで背後にブランド・マーカーを展開した左手を突き出して、ピンポイントでアロンダイトの一撃を受け流す。
そして、THE Bi-neさんはフルールクロスの膂力で鍔迫り合いを強引に解くと、ウイニングロードアストレイに向き直り、後隙を狙って脚部からヒートダガーを射出する。
「きゃあっ!」
「チナツ!」
『どうした! 貴公らが奇跡を起こすというのなら……この私の前で躓いている場合ではないぞ!』
「……私の攻撃まで、読んで……!?」
ヒートダガーを撃ち放った隙を狙ってバスターライフル下部に接続しているビームライフルを放ったマフユの攻撃をビームシールドで弾きながら、THE Bi-neさんはそう豪語する。
あの眼帯の下にどれほど厳しい目を隠しているのか。それは見えないからわからない。
だけど、拳を交えてわかったことがある。あの人はあくまでも俺たちの覚悟を試したいだけだ。だからこそ、今こうして生きていられるわけで。
だったらその覚悟に応えなきゃ、筋が通らねえ。エネルギーを節約しなきゃいけない制約の中でも、可能性が僅かでも、この拳に込めた思いを届かせるんだ。
お返しとばかりに肩の装甲に刺さっていたヒートダガーを投げ返したチナツと、ビームライフルで牽制を加えているマフユの連携が生み出してくれた一瞬、それを見過ごす俺じゃない。
そして全てを賭けるのなら、ここしか、今しかない!
「奇跡は起こす! 起こしてみせる! 次元覇王流! 聖拳突きぃッ!」
『ぐっ……フルールクロスに傷をつけるか!』
「そうだとも、君たちが言う通り、奇跡を見せてやろうじゃないか!」
『……やはり立ちはだかるか! キンケドゥゥゥゥ!』
怯んで体勢を崩したフルールクロスに、太陽を背にしたクロスボーンガンダムX1のカスタムモデルが、ビーム・ザンバーを構えてEX2フルールクロスへと突撃する。
「THE Bi-neぇッ! ここは……彼の相手は私に任せて前に進みたまえよ、『トライダイバーズ』!」
『ふっ……丁度いい。キンケドゥ! 貴様とはいずれ勝負をつけねばならぬと思っていたところだ!』
「奇遇だね、私もだ……! さあ行け、振り返るな!」
キンケドゥと呼ばれた、顔の半分が包帯で覆われている女の人は俺たちにそう促すと、空にスラスターの軌跡を鋭く刻みながら、フルールクロスと切り結ぶ。
あれがTHE Bi-neさんの全力か。確かに今の俺じゃ、俺たちじゃ届かないのかもしれないけど、だからこそ戦い続けてみたい、挑みたいという心が湧き起こってくる。
それでも、あのキンケドゥって呼ばれてた人が作ってくれたチャンスをふいにするわけにはいかない。俺たちのやるべきことは、あくまでもリクたちの援護だからな。
「ありがとうございます、キンケドゥさん!」
「……私の名前はジェーン・ケドゥだがね」
「……なんかすいません、ジェーンさん」
「いいさ。悪いのは彼の重度なクロスボーン好きが昂じたところだからね……さて、話はここまでだ!」
『ヒャッハハハハ! さようならぁ、キンケドゥ!』
「行きたまえよ!」
ビーム・ザンバー同士がぶつかり合って火花を散らす中で、俺たちはジェーンさんの厚意に甘える形で踵を返す。
振り返るな、進むんだ。前へ、前へ。
クロスボーンガンダムが戦っていたことに引き寄せられたのかやってきた、ビギナ・ゼラとダギ・イルス、そしてデナン・ゲーの編隊を、疾風突きで蹴散らして、一心に合流ポイントを目指して突き進む。
だけど、そうは問屋が卸してくれないってやつなのか、俺たちの進路を阻むかのように、一筋の閃光が空を引き裂いて迫り来る。
「マフユ!」
「うん、ユウヤ君……! やってみる!」
あの規模のビームはシールドで受け止めるにはデカすぎる。エネルギーを使わせることにはなってしまうけど、俺は即座にマフユへと支援を要請した。
前に出たG-ジェミニアンが最大出力で撃ち放ったバスターライフルのビームと、飛来した閃光がぶつかり合い、スパークする。
砲撃の火力は互角ってとこか。だけど、EWACウィンダムとデータリンクしてるってのに俺たちの射程外から、認識の外から撃ってくるなんてとんでもないやつだ。
互角にぶつかり合って空に散った閃光が晴れたそのあとに姿を現したのは、ダブルオークアンタをベースにしたと思しき、灰色と青のツートンカラーに、アクセントとして追加装甲部分に白をあしらった、FAZZ風の機体だった。
『今の攻撃を防がれるとはね……だけど、私とこのダブルオーコマンドクアンタHWSがいる限り、これ以上の勝手をさせるつもりはないよ』
「だとしても押し通る!」
『それをさせないと言っている!』
仄かに赤いオーラを纏っているダブルオーコマンドクアンタHWSが、右手に接続していた、二連装のビームライフルから閃光を放つ。
俺は無意識に大袈裟な回避運動を取っていたけど、結果的にそれは正解だった。
ビームマグナムのように肥大し、スパークを纏ったそれは、掠めただけで耐久値がごっそり持っていかれそうなほどのもので、大袈裟に避けなければやられていただろう。
見たところ、コマンドクアンタHWSが纏っているあのオーラが関係してそうだけど、装甲まで赤熱化してないってことは、トランザムとは別の何からしい。
逆にいえば、あの機体は今ですらとんでもないってのに、まだトランザムという切り札を残している、ということだ。
想像もしたくないけど、進路上でかち合った以上はやり合わなきゃならない。
百二十パーセントのバーニングバーストで足りるのかどうかを思案しながらも、俺は左手のヘビーマシンガンから放たれる弾丸の雨霰を掻い潜って、コマンドクアンタHWSへと肉薄する。
「そんなにサラを消したいのかよ、あんたたちは!」
『命を消したいわけないじゃない……だけど、世界は一割の確率に賭けられるようなものじゃないの。だから私は貴方たちを討つ! この世界を守るために!』
「それでも俺は、両方を救える、ビルドダイバーズの可能性に賭ける! だから……ここから先は一か八かでも、無理にでも押し通ってやる! 次元覇王流、弾丸破岩拳!」
コマンドクアンタHWSは砲撃型だと踏んでクロスレンジに飛び込んだのはいい。
だけど、その考えは読めていたとばかりに、相手はシールドから射出したアサルトナイフを握り締めると、弾丸破岩拳をその刃で受け止めていた。
百二十パーセントのバーニングバーストと、威力に特化した弾丸破岩拳。その二つを乗せてもまだ届かないって辺り、やっぱり上を見れば果てがないと言われるだけのことはある。
『この世界でしか笑えない人がいる、この世界でしか歩けない人が、喋れない人が大勢いる! そんな人たちにとっての幸せな世界を奪うのは、許されないことなのよ!』
「だったらサラに消えてもらうってことかよ!? あんたの話はわかった! だけどな、許されないってんなら、命を消すことだってそうだろうが!」
『……誰か一人の幸せと、多くの人の幸せ! どちらかしか選べないのなら、私は多くを救う道を選ぶ!』
「その考えが間違ってんだよ! 一人じゃ確かにそうかもしれないけど、手を取り合えばどっちも助けられるかもしれねえんだ! その可能性が僅かでもあるってんなら!」
拳と刃が交錯する。
例え僅かでもその可能性があるってんなら、どっちも選ぶのが、どっちも助けるのが筋ってもんだろう。
最初から失敗すると決め付けていたら何もできない。例え最悪な結果が待っていたとしても、腹を括って、全力で一筋の希望に全てを賭けて、挑んでいく。
少なくとも俺は、それが貫き通すべきことだと思っている。
未熟かもしれないけど、上を見れば果てしないけど、それが俺たちの挑戦だっていうなら、笑って引き受けてやるさ。
コマンドクアンタHWSに蹴り飛ばされたことで隙を晒してしまったストライクスフィーダに降り注ぐ弾幕の雨霰を、展開したビームシールドで防ぎながら、俺は不敵に笑う。
諦めない。その思いがふと、聞こえてきた。
ああ、そうだ。声になって、歌に乗って、確かに聞こえたんだ。
一瞬呆気にとられた俺たちの隙をつくように、空に溶け込んでいた「なにか」が姿を現して、死神の鎌をコマンドクアンタHWSの喉元へと突きつける。
「そういうことだぜ、世界の……次元覇王流の申し子よぉ!」
「あなたは……!」
「なぁに、名乗るほどの名前はねえ。通りすがりの、お節介焼きな死神さ」
『……っ、「死神」……! その機体、所々変わってるけど、グリムリーパーね……! だったら貴方は、GPDの!』
「そういうあんたはその機体……なるほどな、ナギツジ・タクマの……ってか。行けよ、『トライダイバーズ』! これでも『負けない』戦いは得意でね!」
「……わかりました、『死神』さん!」
大空に姿を現した、エンドレスワルツ版のガンダムデスサイズヘルを改造したのであろう機体が、コマンドクアンタHWSの喉元に突きつけた鎌を振るったけど、赤熱化した──トランザムを発動した相手はその攻撃をすり抜けて、二基のソードビットを射出、デッドウェイトになると判断した背中の大型ビーム砲と、右腕の二連装ビームライフルをパージした。
そして、二振りのアサルトナイフを構えると、ビームサイズから二丁拳銃へと得物を切り替えたグリムリーパーへとコマンドクアンタが突撃する。
高濃度圧縮粒子を封じ込めたその刃がビームライフルショーティーにサプレッサーを追加したのであろう武装を斬り裂くと、グリムリーパーはお返しだとばかりにナイフを振るった隙にするどい蹴りを差し込んでいく。
助けられてばっかりで釈然としないものはあるけど、今の俺たちじゃあの戦いに割って入れる技量はないし、もし割って入ったとしたら損耗と損傷は避けられない。
「釈然としないのはわかるけど……行くわよ、ユウヤ!」
「うん、ユウヤ君……!」
「……ああ!」
それをぐっと呑み込んで、俺たちは再びスラスターを全開にして戦場の空を舞う。
あくまでも俺たちの目的はビルドダイバーズの援護と、サラの救出だ。
だったら、あまりいい言葉じゃないのかもしれないけど、使えるものは偶然だろうが必然だろうが、感謝をしつつなんでも使っていく。
待っていてくれ、リク。待っていてくれ、サラ。
もしもどちらかを選べと突き付けられたなら、どちらも選ばないという、第三の選択肢を取るという決断をしたのが俺たちなんだ。
だから、今は前に進む。リクたちが言葉通りに全てを賭けた丁半博打を成功させると信じて、「ビルドダイバーズ」に全てを託して。
少しだけ強がって
Tips:
・「死神」(「suryu-」様作「【新約】ガンダムビルドダイバーズEW 〜死神は自由気ままに空を舞う」より)……GPD時代に凄まじいまでの実力で伝説を残したとされる、デュオ・マックスウェルによく似たダイバー。それ故か、デスサイズヘルをベースにした改造機「グリムリーパーMk-Ⅱ」を愛機としている。第二次有志連合戦には義勇兵としてビルドダイバーズ側として参加したようである。