逆襲のクロト   作:皐月莢

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本話はFREEDOM編の情報を含みますのでご注意ください。


新たな襲撃者

 オノゴロ島で行われた第2次合同訓練が終了した後、基地の外の繁華街を出歩いていたシンの瞳に映ったのは、以前から世話になっている1人の少女だった。

 美しいダークブラウンの髪が特徴的な少女は周囲には目もくれず、何かを気にしながらシンの前を早足で歩いていた。

 どういう訳か道を覚えるのが苦手で、生来大人しいこともあってか1人では滅多に出歩かない少女の姿は、シンの脚を急がせるには十分だった。

 

「キラさん?」

 

 キラと呼ばれた少女は驚いた雰囲気で振り返った。怒っているような、悲しんでいるような不思議な表情だった。

 

「……びっくりした。シンくんか」

「いったい何をやってるんですか?」

 

 いつも穏やかな少女には似合わない顔だった。思わず問い掛けるシンに対して、キラは歩道の前方に視線を遣った。

 

「……あれは……!」

 

 視線の先を歩いていたのは、赤髪の少年“クロト・ブエル”と少女の姿だった。

 以前から彼女──“ラクス・ディノ”は少年と友人関係にあったが、シンの瞳に映るラクスの表情は妙に楽しそうな様子だった。

 シンが再びキラに視線を向けると、彼氏と親友が浮気しているような光景に彼女は深く傷心している様子だった。

 

「ここ数日、様子が変でさ。後を尾けたら待ち合わせしてたみたいで」

「流石に考え過ぎだと思いますよ」

 

 少なからず動揺しながら、シンは慎重に返答した。

 クロトがキラに心底惚れ込んでいるのは理解していたし、クロトとオーブの街を散策しているラクスは既婚者だ。どうも掴み所のないラクスだったが、結婚相手のアスランと親友のキラを裏切るような人間ではないように思えた。

 

「多分気のせいだとは思うんだけどね。私1人だとすぐに見失っちゃうから、シン君も手伝ってくれる?」

「分かりました。俺に出来ることなら」

 

 どうやら面倒なことに巻き込まれたらしい。

 シンは暗くなり始めた夕空を見上げて溜息を吐いた。少年とラクスは何処かの店に立ち寄ることもなく、しばらく歩きながら会話を楽しむとすぐに解散したようだった。

 

「!!」

 

 その翌日だった。

 再びキラに呼び出されたシンは、赤髪の少年が長い黒髪が印象的な少女と街を歩いている姿を目撃した。

 彼女はカガリと同様にキラと血の繋がった姉──“カナード・パルス”で、戦後は喪われた記憶を取り戻すため、世界各地を放浪していた少女だった。

 カナードは旧地球連合軍の内情に詳しく、実際にユーラシア連邦軍の特殊部隊に所属していた過去もあった。そんなカナードは先日戦後の世界秩序を守る“コンパス”の一員に推薦され、オーブに帰国していたのだ。

 カナードは悪戯っぽい表情で笑うと、困惑した少年の背中を叩いていた。その姿は相当に気を許した関係に見えた。

 

「……あの人って“ファントムペイン”なんでしょ? 俺と違ってオーブに知り合いもいないでしょうし、そんなこともありますって」

「分かってるけど……」

 

 髪色を除けば瓜二つの姿をしたカナードが少年と歩いている姿は、キラにとって余程腹立たしいことなのだろう。

 シンは顔を引き攣らせているキラを宥めながら言った。その後もしばらく尾行を続けていたが、やがて路地裏に姿を消した2人を見失った。

 

「!!!」

 

 更にその翌日だった。

 キラと落ち合ったシンは赤髪の少年が金髪の少女と街を歩いている姿を確認した。それは“ステラ・ルーシェ”と呼ばれる少年の同僚だった。

 生体CPUとして造られた彼女は第1次連合・プラント大戦に投入され、最後までキラの前に立ち塞がった天才少女だった。

 少女がラクス、カナードの2人と明確に異なっていたのは、彼女は少年に対して以前から好意を抱いていた点だった。様々な店に足を運んでいる2人の姿は、まるでショッピングを楽しんでいる男女のようだった。

 

「あはははは……」

 

 やがて2人の姿を完全に見失ったキラは肩を力無く落とした。具体的な証拠は見付からなかったが、状況は限りなく黒に近い灰色だ。

 シンは何かを見落としているような違和感を僅かに抱きながら、憔悴しているキラを自宅に送り届けた。

 

 

 

 遂に最終日を迎えた第2次合同訓練の集大成として、シンは最新式の量子コンピュータを導入した新型シミュレータを用いた実戦訓練を行っていた。

 それは今は喪われた“フリーダム”らも含め、条約違反機である“デスティニー”に至るまで忠実に再現可能なシミュレータだった。

 この訓練の対戦相手として、シンは“コンパス”の隊長候補と噂されながらもここ数日精彩を欠いていたクロトを指名した。

 

「せっかくですし、何か賭けます? クロトさん」

「そうだねぇ。……僕はどっちでもいいけど」

 

 シンはやはり様子がおかしいと感じた。

 本来クロトはコーディネイターとも対等に渡り合う人間だが、目の前の少年には一切闘志が見られなかった。全く集中していないように見えた。

 

「俺が勝ったら、何を隠してるのか話して貰いますからね?」

「あー……。どこまで知ってる?」

 

 シンが小声で言うと、クロトがぎくりとした表情に変わった。

 

「毎日違う女の人を連れてるって位ですよ」

「……僕が勝ったら、2度とくだらねーコトを口にするな」

 

 クロトの声に怒りが混じり、鋭い視線がシンに突き刺さった。今までの気の抜けた状態から、本来の姿に戻ったようだった。

 この様子だとキラの懸念も本当かもしれない。後方に視線を向けると、シンはこちらの様子を窺う少女の姿を確認した。

 その馬鹿野郎をぶっ飛ばせ。そう暗に言われたような気がした。

 

「それじゃあ、さっさと始めようぜ」

 

 張り詰めた空気を嗅ぎ取ったのか、合同訓練にオブザーバーとして参加していたオルガ・サブナックは決闘の準備を始めた。

 時間無制限。勝利条件はどちらかの無力化で、戦闘環境は大気圏内。反則の類は無しで、結果だけが唯一の真実だ。

 クロトは即座に頷き、シンもやや遅れて頷いた。

 一部の観客達は2人の勝敗に賭けを実行していた。どちらも両軍のエースパイロットである2人のオッズは拮抗していたが、ここ数日訓練で好調だったシンの勝利にベットする者が多かった。

 

「──開始!」

 

 シミュレータが訓練モードに切り替わった瞬間、シンは独立型コクピットである“コアスプレンダー”を急上昇させた。

 まるで戦闘機のような流線型のコアからミサイルランチャーを切り離すと、空中で減速しながらウィングを折り畳んだ。

 その後を追って飛翔する“チェストフライヤー”と“レッグフライヤー”のスラスターを逆噴射させると、それぞれ上半身、下半身のようなフォルムに変形した。

 コアを上下から挟む込む形で、それらはゆっくりと合体する。

 最後に複数の主翼とスラスターで構成された高機動シルエットが背部に接続すると、機体全体が美しいトリコロールカラーに変わった。

 

 通称“インパルスSpecⅡ”。

 

 それは第2次連合・プラント大戦時に開発された“セカンドステージシリーズ”と称されるモビルスーツ“インパルス”の強化改修機だ。

 第2次大戦終了後に結ばれた和平条約によって、ニュートロンジャマー・キャンセラーの軍事利用と、ミラージュコロイドステルスの使用禁止等が決定した。

 結果的に量産計画が進められていた“デスティニー”が解体されるなど、各種最新技術を封印されたプラントは、深刻な軍事力低下に悩まされるようになった。

 プラントはその課題を解決するため、先の大戦序盤に多大な戦果を挙げると共に、後半も存在感を示したインパルスに着目したのだ。

 

「今のアンタに負けるかよ!」

 

 シンはインパルスを一気に加速させると、中間距離で様子を窺っていたストライクレイダーに向かってビームライフルを連射した。

 

「!」

 

 クロトは縦横無尽に飛び回ってビームを回避すると、間合いを詰めながら極破砕球(ハイパーミョルニル)を放った。シンは咄嗟に機動防盾で防御するが、その上から強引に殴り飛ばした。

 

 ──やはり第2次連合・プラント大戦を終わらせたパイロットは、そう簡単に勝たせて貰える様な相手ではないらしい。

 

 シンは左フックのような軌道で迫るビームクローを急上昇で回避すると、前方に踏み込みながら袈裟切りに斬り付けた。確かな手応えを感じたが、クロトは神懸かり的な反応で右腕の複合防盾から展開したビームシールドで攻撃を無力化した。

 その気になれば正面から大型対艦刀を受け止めることも可能な鉄壁の盾だ。このまま正面から攻撃を続けても無意味だろう。

 

「それならっ!」

 

 インパルスの後方に、新品のシルエットフライヤーが出現した。

 思わぬ事態にクロトが一瞬硬直した隙を狙って、シンはフライヤーに装着した火力強化用シルエットから誘導ミサイルを発射した。

 

「!!」

 

 クロトは反射的にストライクレイダーを後退させると、複合防盾に搭載した機関砲を連射して誘導ミサイルを迎撃した。

 そんなクロトの足下を狙い、シンは機動防盾を投擲した。

 即座に盾を狙ってビームを発射すると、コーティングで斜めに反射した光弾が誘導ミサイルの対処で一瞬視界を外したストライクレイダーを掠めた。

 

「あんなのアリなのかよ?」

 

 シャニ・アンドラスが不満の声を上げた。

 決闘の舞台であるオノゴロ島の演習所では、両軍の整備を担当しているザフトやモルゲンレーテのメカニック達も2人の戦闘をリアルタイムで分析していた。

 

「もちろんアリだ」

 

 オルガは小馬鹿にしたような口調で言った。

 シンはインパルスの性能を十全に発揮するため、一定間隔でコアスプレンダーを除いたユニットを再出現する権利が認められている。

 ザフト内部で“インパルスシステム”と呼称されているように、インパルスは運用母艦や航空基地との綿密な連携を前提としているのだ。

 

「このままじゃ負けるぞ」

 

 カナードは第2射を紙一重で回避したストライクレイダーと、それを上回る勢いで追撃を仕掛けるインパルスに視線を向けた。

 

「でもなんか、複雑な感じ」

 

 メイリン・ホークはぼそりと呟いた。

 実戦では敵が単独で、更に逃走出来ない状況など滅多にある訳ではないし、スムーズに各種支援を受けられるとは限らない。対等な条件には程遠いだろう。

 レイ・ザ・バレルはメイリンに一瞬視線を向けると、静かな口調で言った。

 

「だが、このままやられる奴じゃない」

 

 クロトは体勢を立て直すと、機体の前方で極破砕球(ハイパーミョルニル)を展開した。高分子ワイヤーの盾が形成され、インパルスの放った攻撃を次々に無力化した。

 シンはその場で足を止めたストライクレイダーの死角に回り込むため、弧を描くような軌道でインパルスを加速させた。

 

「ッ!」

 

 時間経過と共に有利になるシンと異なり、クロトはインパルスのコアスプレンダーを狙わなければ勝機を掴めない。クロトは展開していた極破砕球(ハイパーミョルニル)を回収すると、機体を横滑りさせてシンの放ったビームを回避した。

 

「逃げるな!!」

 

 強化改修されたインパルスSPECⅡは、高機動戦闘用シルエット装備時はストライクレイダーに匹敵する機動力だ。クロトは執拗に接近戦を挑むインパルスの斬撃を宙返りで回避すると、逆立ちした体勢からフェイスシャッターを展開した。

 

「シン!」

 

 ルナマリア・ホークは声を上げたが、僅かに間に合わなかった。

 ストライクレイダーの口部から発射された赤黒い閃光がインパルスの装甲を掠め、後方から両機を追い掛けていたシルエットフライヤーを撃ち抜いた。

 

「第2ラウンドだ」

 

 戦況を振り出しに戻したクロトは後退するシンを追って機体を加速させたが、インパルスの頭上にシルエットフライヤーが再出現した。

 

「これならどうだ!!」

 

 シンは格闘専用シルエットから射出したビームブーメランを受け取ると、突進するストライクレイダーを左右に挟み込むような軌道で投擲した。

 クロトは迫り来るビームブーメランを急降下して回避したが、シンは更に大型対艦刀を掴むと、逃げ場を完全に喪ったストライクレイダーに突撃した。

 

「器用なヤツ」

 

 審判を務めるオルガはぼそりと呟いた。

 クロトは腰部の大型クローからビームソードを展開すると、同時に右腕の複合防盾に搭載された対艦刀を抜いた。再び飛来するビームブーメランを極限まで引き付け、華麗な体捌きで同時に両断しながら機体を急上昇させた。

 

「……あの、オルガさんは知ってるんですか?」

 

 オルガが振り向くと、物陰から現れたキラが怪訝な表情で立っていた。

 

「さぁな」

「さぁなって……」

「俺を差し置いて〈STTS-910(ライジングレイダー)〉のパイロットに選ばれたんだから、コレくらいはやってもらわねーとな」

「〈STTS-910(ライジングレイダー)〉?」

 

 キラはオルガの持ち出した聞き慣れない単語に思わず首を傾げた。

 

「あー、お前は知らなかったっけか。アイツの専用機だ」

 

 型式番号〈STTS-910(ライジングレイダー)〉──“飛翔する襲撃者”。

 前大戦で活躍した“ターミナル”を前身とし、各勢力の非戦派で結成されることになった特殊部隊“コンパス”ではモビルスーツの共同開発が行われていた。

 その中の1機が〈STTS-910(ライジングレイダー)〉だ。

 まだ基礎開発を終了した程度だが、設計基盤であるストライクレイダーの性能を忠実に再現した上で、各陣営の最新技術を導入した最新鋭の機体だ。

 オルガが簡単に説明を終えた瞬間、クロトはシンの放った斬撃に対艦刀を合わせた。激しい火花が舞い散り、大型対艦刀は根元から両断された。

 

「それがSEEDの力か?」

 

 オルガはクロトの生体データをリアルタイムで監視するキラに訊ねた。

 先程から心拍数が急上昇し、脳波の数値も向上している。それは自分達が生体CPU時代に人工麻薬を大量服用した時と同様の状態だった。

 

「はい。一時的な覚醒状態です」

「ま、俺には関係ねーか」

 

 曰く“優れた種への進化の要素であることを運命付けられた因子”。

 ナチュラル、コーディネイターに関係なく一定数の保有者が存在する他、現代の遺伝子操作では再現出来ないと言われる因子をクロトは発現させたらしい。

 オルガは視線をモニター画面に戻した。

 インパルスのユニットが再出現するまでは、大気圏内の高機動戦を最も得意としているストライクレイダーが有利だ。

 変幻自在の攻撃を仕掛けるクロトと、紙一重で凌ぎ続けるシン。両者の攻防は再出現するまで互角だったが、その均衡は急激に傾いた。

 

「くそっ!」

 

 クロトはインパルスから分離したチェストフライヤーの突撃を神懸かり的な反応で回避した。更に追撃を妨害するレッグフライヤーを破壊すると、再出現したユニットと合体しているインパルスに突進した。

 

「もらったぁ!」

 

 左右に突き出したストライクレイダーの大型クローが、インパルスの手首から展開したを掴んで一気に押し込み始めた。このまま体勢を崩すことに成功すれば、無防備に晒されたコクピットにビームを叩き込んでクロトの勝利だ。

 

「!?」

 

 その瞬間だった。インパルスのウィングから真紅の光翼が展開した。

 すると死に体だったインパルスは一気にストライクレイダーを押し返し、直後に背部から伸ばしたビーム砲で右脚部を吹き飛ばした。

 

「マジか」

 

 クロトは第2射をビームシールドで防御すると、小さく悪態を吐いた。

 その圧倒的なパワーはインパルスの運用性を改善し、全ての面で既存の機体を上回る性能を発揮するため開発された万能型シルエットの存在を示していた。

 デュランダル直属の特殊部隊“コンクルーダーズ”の標準装備として少数生産されたこのシルエットは、インパルス自体の性能向上を考慮すれば、瞬間的な能力はデスティニーと同等だった。

 ルナマリアはデュランダル政権を象徴する真紅の光翼を展開したインパルスを見て、呆れたような口振りで呟いた。

 

「しっかしどうやってあんなの見付けてきたんだか。たしか設計局のデータベースに封印されたんじゃなかったっけ?」

「さぁな。どこかに凄腕のハッカーでもいるんじゃないか?」

 

 レイは背後に隠れているメイリンに視線を向けた。シンを確実に勝利させるため、こっそり準備をしていたのだ。

 

「……まだ分からない」

 

 キラが反論した瞬間、シンはクロトが投擲した極破砕球(ハイパーミョルニル)を紙一重で回避した。そして左腕と繋がっている高分子ワイヤーを擦れ違いざまに両断した。

 

「おい! 大金賭けたのに何をやってんだあのヤローは!」

 

 シャニは右脚に続いて攻防兼備の武器を喪失し、敗色濃厚な状況に陥ったクロトに怒鳴り声を上げた。

 

「ちょっと黙ってろ」

 

 クロトが呟くと、落下していた極破砕球(ハイパーミョルニル)が突如再起動した。

 大気圏内でも使用可能な武器であり、普段は持ち手と高分子ワイヤーで繋がれたその質量兵器はカオスと同様に量子通信で操作していたのだ。

 シンの注意が逸れた瞬間を狙って加速した極破砕球(ハイパーミョルニル)は、インパルスの背部で輝いている真紅の光翼に直撃した。

 

「なっ!?」

 

 対艦刀を抜いたストライクレイダーは一気に距離を詰めると、体勢を崩したインパルスに斬撃を叩き込んだ。

 強烈なダメージを受けたインパルスの両手首が折れ、クロトの攻撃を理解出来なかったシンはパニック状態に陥った。

 反射的に距離を取ろうと蹴りを放つが、カウンターで膝を蹴り砕かれた。

 

「!?」

 

 そして追撃を仕掛けようとしたストライクレイダーに両腕の残骸を突き出した瞬間、腕の断面部から眩い閃光が走った。

 インパルスSPECⅡに合わせて再調整が行われた万能型シルエットは、デスティニーと同じ開放型ビームジェネレーターを試験的に装備していたのだ。

 シンの意図に反して発射された一撃は完全な不意を突き、対艦刀を振り下ろそうとしていたストライクレイダーのコクピットを呆気なく貫いた。

 

 

 

 観客者達は両者の誇りを賭けた激闘の意外な結末に沈黙していると、モニター画面にシンの勝利を示すメッセージが表示された。

 決着が付かなかった戦闘を考慮しなければ、これで通算2勝1敗だ。

 シンが安堵しながらシミュレータから降りると、ルナマリアらその勝利に賭けていた者達の表情は一斉に明るくなった。

 

「おい、油断してんじゃねーよ!」

「金返せ!」

 

 シャニの拳が唖然としたまま動かないクロトの背中を襲った。他にもカナードのようにクロトの勝利に賭けていた者達は、口々に不満の声を上げている。

 

「いやー、ダセー負け方だったなぁ」

「…………」

 

 キラはオルガと共に、不服そうな表情で姿を現したクロトを出迎えた。

 

「テメェの仕業だな。いくらなんでもおかしいと思ってたぜ」

「おいおい、負け惜しみかよ。……ま、お前が勝っても面白くねぇからな」

 

 結果的に接戦だったとはいえ、一方に対する半永久的な支援はあまりにも大きい。まして継戦能力に問題のある万能型シルエットを投入するなら尚更だ。オルガはクロトの指摘に対して、袈裟な素振りで肩を竦めた。

 

「結局、何を隠してたんですか?」

 

 シンはルナマリアらからの手荒い歓迎を終えると、不穏な雰囲気のままソファの傍らで立ち尽くしているクロトの顔をじっと見た。

 

「……ちっ」

 

 クロトは舌打ちすると、ポケットの中からラッピングされた小箱を取り出した。そして周囲の好奇な視線を浴びながら、箱の中身をキラとシンに披露した。

 

「指輪?」

 

 戸惑うキラの手をそっと取ると、クロトは精巧な意匠の施された美しい指輪を装着した。

 その指輪は不思議な位に少女の指に似合っていて、側部には少女の名前がフルネームで彫り込まれていた。

 

「ムードも何もあったもんじゃねーけど」

 

 全く状況が理解出来ない。ここ数日、アンタはキラ以外の女の子と遊んでたんじゃないのか。

 シンは腹を抱えて爆笑しているオルガを余所に、ポケットの中に再度小箱を仕舞ったクロトに話し掛けた。

 

「ラクスさんのアイデアですか?」

「あぁ。キラは意外とこういうのが好きだって」

「……カナードさんは?」

「公務で忙しいカガリには、測定なんて頼めねーだろ?」

「おい。私が暇みたいな言い方は止めろ」

 

 シンは欠伸を噛み殺したカナードから視線を外すと、本命と予想していたステラに言及した。

 

「だったらステラは?」

 

 するとクロトはうんざりした表情に変わった。

 

「買った所を偶然見付かってさぁ。おかげで口止めの買い物に半日付き合わされたぜ」

 

 自分達はどうやら盛大に勘違いしていたようだ。

 シンは顔を紅潮させて沈黙しているキラに視線を向けると、無言で頷いた。この話は墓まで持って行かないと大変な事になりそうだ。

 

「……やっぱ駄目だ。こういう渡し方はねーよな」

 

 やがてクロトはキラを連れて演習所の外に出た。

 そして人気のない美しい砂浜に足を運ぶと、再び小箱の中から取り出した指輪を少女の指に装着した。




改稿が難航中なので更新しました。

本話は劇場版の内容を予想して書いているので、上映後に一部の記述を変更する可能性があります。

なお白服でも准将でもないクロトがキラの立ち位置は変なので、序盤はアスランポジションの予定です。またライジングレイダーの暫定版を作成したので記載します。

【ライジングレイダー】“飛翔する襲撃者”

・型式番号:STTS―910
・装甲材質:VPS装甲(?
・動力源 :バッテリー(?
・搭乗者 :クロト・ブエル(予定
・武  装(仮
①極破砕球“ハイパーミョルニル”
②大型実体盾(ジャスティスと同型。投擲可能。
③ビームサーベル×2
④ビームライフル
⑤ビーム突撃砲×2(大型クローに内蔵、ビームソード可
⑥肩部電磁砲×2(スラスター、サーベルラック兼任
⑦口部エネルギー砲“ツォーン改”

どうやら正規軍所属らしいのでビームライフル、ビームサーベルを解禁しました。それでも破砕球とゲロビを搭載するだけでライフリ、イモジャと差別化出来るのは偉い。

サプライズで指輪を準備してたら情報が漏れて、口封じするために本気を出すが負ける男。
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