逆襲のクロト   作:皐月莢

116 / 144
舞い降りる白騎士

「ファウンデーション機、応答有りません!」

「やはり、か」

 

 ミレニアム艦長アレクセイ・コノエは、通信士メイリン・ホークの不安を隠し切れない声に顔を顰めながら呟いた。

 先程から起こっている一連の状況は、彼の戦歴の中でも一二を争う不可解なものだった。

 突然起こったアスランの暴走と、追い込まれたラクスがクロトに彼の攻撃命令を下し、更にブラックナイツにも攻撃許可を出した直後に発生した通信途絶。

 気付けば混乱に紛れてオルフェとその側近、イングリッド・トラドールが周囲の制止を振り切って小型シャトルで脱出し、何かに気付いたのか真っ先にCICを飛び出したキラと、それを追うように席を外したラクスも先程から行方不明だ。

 

「ルナマリア機を緊急発進させてはいかがでしょうか? 今なら追い付けるかと」

「いや……」

 

 アレクセイはメイリンの提案に、もう手遅れだと言いたげに首を横に振った。

 もしも彼等が本当にラクスを連れ去ったのであれば、ファウンデーションの手に落ちたコンパス総裁を不用意に攻撃するわけにはいかない。それに唯一ミレニアムに残されたルナマリア機を出撃させることで、更に戦力を分断させるのがファウンデーションの狙いかもしれないのだ。

 

「NJダズラーによるジャミング……」

 

 先程から計器を確認し、電波干渉の解析を行っていた技術士官アルバートはいつもの早口でぶつぶつと呟き始めた。

 

「これはまだプラントでも実用化には至っていない……。量子スパッタリングの制御はどう解決した? これはユーラシアでもブルーコスモスでもない」

 

 アレクセイにはアルバートの呟く専門的な内容など理解出来なかったし、それを理解する必要もないと思ったが、最後の言葉だけは理解出来た。

 先程から通信妨害を実行しているのがユーラシア連邦軍、あるいはブルーコスモス残党軍でもないのなら、消去法的に導き出される首謀者はファウンデーション軍だ。

 そしてアスランの暴走から始まった一連の事態がファウンデーションの陰謀ならば、これは想像以上に深刻な状況ということだ。

 

「ルナマリア機、緊急発進! 狙撃用ライフルと通信用スレッドも準備だ!」

 

 アレクセイは即座に決断すると、待機を続けていたルナマリアに指示を出した。

 

 

 

 一方のアークエンジェルでは、艦長マリュー・ラミアスが声を張り上げていた。

 

「アークエンジェル、前進! ムウ機は直ちに出撃し、味方の援護を!」

 

 周囲の戦況は一変していた。

 ブルーコスモスが実行したデストロイによる無差別攻撃と、一般市民を巻き込んだ自爆テロ。

 それらの被害を受けて負傷した人々を救助するために越境してきたはずのファウンデーション軍のモビルスーツが、突如コンパスに対して攻撃を開始したのだ。

 どうしてファウンデーション軍がこのタイミングでそんな行動を取ったのかは不明だが、昨日クロトから受けたファウンデーションの報告と、実際に目の前で目撃したブラックナイツの挑発的な行為を照らし合わせると、この状況はファウンデーション軍がコンパスを殲滅するために仕掛けた罠だとマリューは理解した。

 しかしジャスティスに対する攻撃命令の直後に始まった通信途絶は現在も続いており、ミレニアムにこの事態を伝える術はなかった。

 

「久しぶりの実戦だな……。不可能を可能にするとは言っても、限度はあるんだぜ?」

 

 アークエンジェルに残された唯一の戦力は、普段は副艦長を務めているムウ・ラ・フラガのムラサメ改だけだ。

 

「信号弾上げ! 2人の救助に向かいます。トライン艦長とも連携して!」

 

 もしかすると、アスランの起こした暴走にも何らかの形でファウンデーションの関与があったのかもしれない。

 レイダーとジャスティスは戦闘行為を中断した直後、シヴァとルドラの攻撃を受けて相当の損傷を負ったらしい。

 何としても彼らを救出し、アークエンジェルに収容して体勢を立て直さなければならない。

 最大速度で戦闘区域に向かうアークエンジェル、ミネルバ両艦のレーダーは、少し開けた森の奥地から飛び立つ2機の黒いモビルスーツを発見した。

 

「……ブラックナイツ?」

 

 マリューはそのルドラらしい熱源反応の報告に違和感を覚え、疑問を口にした。

 なぜならルドラを確認した位置はユーラシア連邦軍のかなり後方だったからだ。もし相手の狙いが孤立したコンパスの殲滅であるならば、この行動は明らかに奇妙だった。

 その直後、アークエンジェルは彼らが飛び立った森から何かが発射されるのを確認した。

 

「ミサイルと思われる飛翔体の熱源を確認!」

「映像出して!」

 

 マリューが即座に光学映像を表示させると、モニターには低空を飛行するミサイルが映し出されていた。

 

「GLCMマーク七〇巡航戦術核ミサイル! ユーラシア軍のものです!」

 

 モニターを表示させた通信士チャンドラのとんでもない言葉に、マリューを含めた艦橋の全員が蒼白な顔になった。

 この攻撃はユーラシアの報復ではなく、明らかにブラックナイツの仕業によるものだ。

 マリューは焦燥感に襲われるが、すぐに自分達ではもはや対応出来ないことを理解した。通信が途絶えている状況では、ミレニアムに報告することも不可能な。

 それでも何かできることを探すマリューに、新たな報告が耳に飛び込んで来た。

 自分達と合流しようとしたのか、要塞跡地を離脱してアークエンジェルに接近するインパルス率いるモビルスーツ隊を遮るように、森を飛び立った2機のルドラが周辺に展開していた無数の無人機を引き連れて向かって来たのだ。

 

 

 

 アークエンジェルとミネルバが、ブラックナイツの予期しない攻撃を受ける直前のことだった。

 シンは突撃してきたダガーを斬り飛ばし、更にもう一機をビームライフルで撃破しながらインパルスを上昇させた。

 

〈ねぇ、シン! いったい何がどうなってるのよ!! 〉

〈そんなこと俺にも分かんねぇよ! 〉

 

 アグネスの急き立てるような声の通信に、シンは思わず怒鳴るような口調で返答した。

 周囲では依然として激しい戦闘が繰り広げられており、コンパスの主力であるジャスティスとレイダーの離脱によって、ブルーコスモス残党軍は反撃の勢いを取り戻し始めていた。

 だが、シンにはそれを上回る異常事態が進行している確信があった。

 まずは現在の状況を把握しなければならない。

 シンはアークエンジェルとミネルバが放った信号弾を確認すると、ユーラシア連邦側の戦闘区域に向かい始めたらしい両艦との合流を決断した。

 

〈とうとうイカれちまったんだろ? 〉

 

 シンを追って戦場を離脱したシャニは軽口を叩きながら、バックパックの先端から弧を描くような軌道のビームを発射して足元の対空砲を一掃した。

 

〈そんな単純な話で済めばいいんだがな〉

 

 オルガも撤退する自軍を追撃しようとする無数のダガーを両手のビームライフルで撃破しながら、意味深な口調で呟いた。

 どうやら戦場に立った2人には、動揺や狼狽といった戦闘において不必要な感情は存在しないらしい。

 これもある意味で、遺伝子解析などでは判断出来ない戦士に求められる資質だ。

 シンは追随する三機を振り切るような勢いでインパルスを飛行させると、やがて炎に包まれたアークエンジェルとミネルバの姿を視界で捉えた。これまで数多の激戦を潜り抜けてきた両艦は雲霞のように押し寄せる無人機の攻撃を受けており、推力が低下し始めたのか徐々に高度を下げつつあった。

 

〈ミネルバ!! アークエンジェル!! 〉

 

 思わずシンが叫んだ瞬間、目の前に突如現れた二機の黒いモビルスーツ──ルドラが進行方向を遮った。

 シンはこれらの敵をすり抜けて救援に向かおうとしたが、二機は巧みに連携して進行方向を塞ぐと、もう敵意を隠す必要もないとばかりにインパルスに攻撃を開始した。

 

〈邪魔をするなッ!! 〉

 

 激怒したシンは攻撃を回避し、反射的にビームライフルを発射した。

 強烈なビームがルドラの胴体部分に直撃するが、黒い装甲はそれをあっさりと跳ね返した。

 ブラックナイツの専用機“ブラックナイトスコード”に採用されている特殊装甲“フェムテク装甲”は、ビーム兵器の類を無効化してしまうのだ。

 

〈学習能力ねーなぁ。お前ごときが相手になると思ってるのかァ!! 〉

 

 何者かの挑発的な声がシンの頭の中で響き、彼はグリフィン機が反撃で放ったビームをシールドで辛うじて防いだ。

 

〈シン! ……なんなのよアンタ達は!! 〉

〈めんどくせーから、さっさと死ねよ〉

 

 前方で行われている戦闘に気付いたアグネスはリニアガンを発射して援護しようとするが、もう一機のルドラ──ダニエル機からの攻撃を受けて機体を損傷する。

 

〈コイツら……! 〉

 

 シンはグリフィン機の攻撃を避けると、強烈なプラズマ弾を放ったオルガ達の後方に随伴させていたシルエットフライヤーを遠隔操作した。ソードシルエットに搭載されている対艦刀(エクスカリバー)の片方を射出させ、片手1本でキャッチする。

 推力。膂力。火力。

 全てにおいてインパルスを上回るルドラ相手に高機動戦闘用シルエット“フォース”以外の選択肢は存在しない。

 しかしビームライフルを無力化するほど圧倒的なビーム耐性を誇るフェムテク装甲に、フォースに搭載された標準装備のビームサーベルだけではあまりに心許ない。

 だったら実体兵器とビーム兵器の性質を併せ持つ対艦刀(エクスカリバー)で、厄介な装甲ごとぶった斬ってやる。

 十分注意すれば足止めにしかならない無人機を除けば、こちらは4機で向こうは2機だ。

 両手で対艦刀(エクスカリバー)を握り込んだ瞬間、インパルスの全高ほどの長さを持つ長大な刃部分から白いレーザー光が展開する。

 そして振り被るように身構えると、同様に重刎首鎌(ニーズヘグ)を構えてダニエル機に猛然と切り込んだシャニと連動する形で突撃しようとした。

 

「!!」

 

 その直後、白地に金縁の装甲を纏ったモビルスーツが上空に出現した。

 大気圏外から現れたその美しい機体の放った強烈無比な攻撃は、一瞬にしてアークエンジェルとミネルバに致命的な損傷を与えた。

 そして既にあちこち傷付いていたムウ機が放った空対空ミサイルをまるで瞬間移動したような反応で回避すると、ムウが回避するよりも先にムラサメのシールドを斬り飛ばした。

 ルドラをも超える、まさに圧倒的なパワーだ。

 更に足を斬り落とされながらムウが発射した空対地ミサイルを紙一重で回避しようとして、それを読んでいたのか起爆したミサイルの攻撃を受けた。

 しかし非PS系の装甲であれば無事では済まない物理攻撃が直撃したにもかかわらず、その純白の装甲は傷一つなかった。

 どうやらフェムテク装甲は実体兵器にも相当の耐性があるようで、高い実弾耐性を誇る一方でビーム兵器にはほぼ無力なPS装甲を上回る性能を示していた。

 

〈君には何の興味もないんだけど──〉

 

 シンの脳裏で、オルフェの涼し気な声が鳴り響いた。

 

〈見せて貰おうか。デュランダル議長の見出した、戦士の才能とやらを〉

 

 第二次連合・プラント大戦において、純粋な性能においては最強と謳われた“フリーダム”。

 そうしたプラントの最新技術を取り入れながら先行開発された“ルドラ”“シヴァ”のデータをフィードバックした機体。

 ブラックナイトスコードの名称を授かりながら、それに相反する白いカラーリングで彩られたファウンデーション軍の最新鋭機“カルラ”が、その荘厳な姿をあらわにした。

 

 

 

 ──このC.E.75年において、最強の戦士は誰か? 

 

 パトリック・ザラの息子にして、シーゲル・クラインもその才能を評価した第2世代コーディネイター、“アスラン・ザラ”か? 

 第1次連合・プラント大戦を終わらせた謎多きパイロットにして、デュランダルも最強の戦士と評価したスーパー・コーディネイター“キラ・ヤマト”か? 

 とはいえどちらも得意分野や苦手分野を持っており、最強という結論は条件次第で容易に変わり得る。

 だがナチュラルにおいては、“フリーダム・キラー”ことクロト・ブエルが最強であることに異論のある者はいないだろう。

 ナチュラルでは操縦出来ないモビルスーツの優位性を生かし、各戦線でザフトが地球連合軍を圧倒していたコーディネイター全盛時代に頭角を現し、二度の大戦で目覚ましい戦果を上げた天才パイロット。

 これまで待ち続けた雌伏の時を終え、自分たち新人類アコードが歴史の表舞台に登場するための生贄として、クロト以上に相応しい存在などいない。

 まさかアスランの愛人らしいキラに手懐けられている情けない男だったとは予想外だが、今日限りで消滅するコンパスの破廉恥な人間関係などどうでもいい話だ。

 アコードのなり損ないにして、ラクスの出来損ないであるキラは真に最強の戦士である俺のものになるのだ。

 

 

 

 

「チッ──」

 

 ラクスはブラックナイツと共謀して、自分とアスランを同士討ちさせようとしたのではないか? 

 もしもそうなら、ミレニアムに残されたキラは大丈夫なのか? 

 しかしクロトには、そんなことを考える余裕はなかった。

 先程の集中砲火で大型可変ウィングを損傷したレイダーは飛行能力を喪失したらしい。

 大気圏内の空中戦を最も得意とするクロトにとって、この不利な状況は焦燥感を一層増幅させた。

 クロトはビームサーベルを横薙ぎに振るうが、シヴァは容易にその攻撃を受け止める。

 即座にレイダーをバックステップさせながら両肩部の電磁砲を発射したが、シュラは完全に弾道を見切っているようだった。シヴァは僅かに身を捻らせて回避しながら距離を詰めると、レイダーに鋭い前蹴りを放った。

 クロトは機能停止したシールドブーメランを犠牲に爪先から伸びたビームソードを凌ぎ、腰部から伸ばした大型の鉤爪からビームクローを展開する。

 すれ違う一瞬レイダーとシヴァは攻撃を繰り出し、ビームクローとヒートソードが交錯して周囲に眩い火花を散らす。

 

〈いいぞ! だが──〉

 

 シュラは高揚した咆哮と共に、シヴァのマントから伸ばしたビームカッターで攻撃を仕掛ける。

 クロトはレイダーを鋭く旋回させると、反対側の鉤爪から展開したビームクローでまるで蛇のように伸縮する一撃を迎撃した。更に矢継ぎ早に繰り出される斬撃を、左右に機体を振って回避する。

 しかし機動力は完全にシヴァが上だった。

 畳み掛けるような連続攻撃を捌き切れず、僅かに反応の遅れたレイダーは電磁砲を両断されてしまう。

 

〈貴様は勝てない! それが貴様の運命だ! 〉

 

 クロトの戦闘能力はシュラの想像以上だったが、それでもあくまで想定内だった。

 所詮は生体CPUですらない下等種族の力など、こんなものか。

 先程まで行われていたレイダーとジャスティスの同士討ち、自分達の強襲に対する反応を見ても、クロトはアスランにやや劣っている。

 キラも単純な才能は自分に匹敵するが実戦から遠ざかっている以上、やはりアスラン・ザラが最強か。

 しかしシュラは、目の前のクロトは絶望するどころか一向に戦意が衰えていないことに気付いた。

 そしてその感情を読み取った直後、思考が不意にクリアになったかと思うと一切読めなくなった。

 思わぬ事態に驚きを隠せないシュラを嘲笑うように、クロトは大声で笑いながら叫んだ。

 

〈ハンデを貰って喜んでる奴が何をカッコつけてんだよ、間抜け!! 〉

〈貴様ッ! 〉

 

 シュラは激昂と共に突撃しながら強烈な斬撃を放つが、クロトは紙一重の見切りで回避すると、鮮やかな一撃でヒートソードの柄を両断した。




(煽り合う後ろでルドラ2機を捌いてるジャスティス)

4対2でアークエンジェル、ミネルバ含めて一方的にボコられるのもアレだし、大気圏&単座のカルラならシヴァ、ルドラと大差ないと判断して先行登場させました。

キラ&ラクス拉致→シャトルで大気圏脱出後、カルラで降下して暴れるオルフェくんが忙しいのは内緒です。

次回はお待ちかねの乱入イベントが発生します。

アスランが最初からコンパスにいる都合上、別のキャラが乱入するのでお楽しみに。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。