逆襲のクロト   作:皐月莢

119 / 144
崩壊する世界

 イシュタリアとエルドアで発生した死者5万、負傷者・行方不明者10万超に上る悲劇から、数日後。

 まるでそんな悲劇を感じさせない蒼く澄んだ空を背景に、とある金髪の男を乗せた垂直離着陸機が目的地へと進んでいた。

 その男はオブザーバーとして、オーブ代表首長カガリ・ユラ・アスハらコンパス参加国代表が開催する緊急会談にオンラインで参加していた。

 彼の前にあるモニターに映し出されていたのは、緊迫した空気の中で報告書を読み上げるカガリの秘書トーヤ・マシマの姿だった。

 

〈ジャスティス、レイダー、その他、作戦行動中のモビルスーツ隊は未だ発見出来ず、こちらからの呼びかけにも応答はありません。……すべて爆発に巻き込まれたものかと〉

 

 トーヤが報告を続ける中、モニター画面に映っている大西洋連邦大統領フォスターと、プラント最高評議会議長のラメントは沈痛な表情で溜息をついていた。

 その様子を興味深そうに見詰めながら、男──ムルタ・アズラエルは垂直離着陸機のパイロットに質問した。

 

「実際、どうなんです? やつらは死んだと思いますか?」

 

 ファウンデーションの首都、イシュタリア付近に待機していたミレニアムこそ奇跡的に被害を免れた。

 しかしそれ以外の戦力は全てエルドアに落とされた核攻撃以降、完全に消息を絶っている。唯一現場に残されていたのは、現場で指揮していたアークエンジェル及び、ミネルバと思われる残骸だけだった。常識的に考えれば、彼等の生存している可能性は絶望的だった。

 とはいえ、あのゴキブリよりもしぶとい連中がそう簡単に死ぬとは思えない。

 そんな男の楽観的とも取れるような言葉にパイロットの男が無言で笑う中、重い沈黙を破るようにラメント議長が声を上げた。

 

〈それで、ディノ総裁が行方不明というのは事実なのですか?〉

 

 カガリは曖昧に言葉を濁すと、首を横に振った。

 

〈……はい。ミレニアムからの報告では、電波障害の混乱に紛れてファウンデーション高官らと共に行方を眩ましたと〉

〈行方を眩ました!? いったいどういうことなのですか!?〉

 

 異常な事態を示すようなカガリの返答に、ラメントは画面越しにも伝わるほど焦った表情を浮かべた。

 今はプラントを離れているとはいえ、2度の世界大戦を終戦に導いたラクス・クラインの影響力は絶大的だった。彼女の存在がなければ、再び第1次連合・プラント大戦末期のような絶滅戦争が始まってもおかしくないのだ。

 

〈私にも分かりかねます。ミレニアムに乗艦していた私の身内も、行方不明になったそうなので。……状況から判断するに、総裁共々連れ去られたものかと〉

 

 カガリの報告は、緊急会談にさらなる混乱を招いた。

 

〈ともかく、我々は行方不明になった両名の捜索と共に、今回の件でコンパスとしての対応を──〉

 

 そして両国に情報提供の約束を取り付けた後、再び議論を再開しようとすると、フォスターはカガリの発言を遮るように怒鳴った。

 

〈ユーラシアからは厳重な抗議が来ているんですよ! 全てはブルーコスモスの寵児(クロト)ザラ派の後継者(アスラン)が事前協定を破り、軍事境界線を越えたからだと!!〉

 

 それを聞いたカガリの声に、怒気が混じった。

 

〈だったら核を撃っていいとおっしゃるのですか!? だいたい、あの2人がそんなことをするものか!!〉

 

 ユーラシア連邦は世界中からの批判を回避するために、死亡して反論出来ないクロトとアスランをスケープゴートにしようとしているだけだ。

 今回起こったユーラシア連邦軍の核攻撃に世界各国は大きな衝撃を受け、連日ニュースで大きく取り上げられている。

 象徴的な意味こそあれど、核兵器は宇宙空間ではあくまで強力な兵器に過ぎないが、地球上では半永久的に環境汚染をもたらすのだ。

 

〈とにかく報告書を読む限り、不可解な点が多過ぎる! 何が起きたのか、さっぱりわからん!〉

 

 モニターの中で紛糾する会談を呆れたように眺めながら、アズラエルは芝居がかったような口調で呟いた。

 

「まったく、話になりませんねぇ。例の暴走した司令さんなり、ジブリールなりの証言がない限り、真相は闇の中ってワケだ」

 

 そしてアズラエルは思い付いたように頷くと、沈黙を続けていたパイロットに向かって疑問を投げかけた。

 

「そういえば彼って、君の元部下なんでしょう? 正直なところ、あれは本当に彼の独断だと思いますか? 今回の件はコンパス内部の親プラント派が、ユーラシア領にプラントが介入する機会を作ろうとした可能性もあると思いませんか?」

 

 するとそのパイロット──かつてラウ・ル・クルーゼと呼ばれた男は、苦笑いを浮かべながらその質問に答えた。

 

「彼がそんな器用な男なら、私も楽だったのだがね」

 

 やがて聞くに堪えない非難の応酬が始まり、ついに怒りをあらわにしたカガリが猛抗議すると、交渉は決裂したとばかりにモニターから各首脳たちの顔が消えた。

 これはこれでいい。株は底値で買うものだ。

 そして世界各国からの批判を受け、コンパスの無期限活動凍結が決定される中、アズラエルはオーブ本島の内閣府官邸に到着した。

 

 

 

 クロトは淡い光が灯った部屋で目を覚ました。

 意識ははっきりしているわけではなかったし、体のあちこちも酷く痛んでいたが、このまま眠っている場合ではないと直感した。

 ミレニアムやアークエンジェルにいるときを除けば、いつも傍にいるキラの姿はどこにもない。

 

「やっと目を覚ましたか」

 

 クロトは声の方向に視線を移した。するとアスランが部屋の外に出かける支度を整えていた。

 アスランも数日前の戦闘で負傷していたはずだが、既に回復している様子だった。

 ここは二人部屋のようだったが、クロトはこの数日間の記憶がほとんどなかった。

 シヴァの攻撃を受けてコクピットを貫かれた際に、破片の一部が背中に突き刺さっていたらしく、カナードのモビルスーツで離脱に成功した直後に失血で意識を喪ったのだ。

 その後も出血と疲労の影響で、クロトはほとんど眠り続けていたのだった。

 

「……オーブか?」

「あぁ。アカツキ島の海底ドックだ」

 

 クロトのかすれた声に、アスランは悔しさを押し殺したような口調で答えた。

 またここに戻ってきたのか。

 出発した時はこれで世界が少しでも平和に向かうかもしれないと想っていたが、今はそんな希望を抱いていた自分が酷く滑稽に感じられた。

 クロトはアスランに連れられて部屋を出ると、その足でミーティングルームに向かった。

 部屋の中では資料を広げたカナードとレイが向かい合わせで座りながら、テレビの報道番組を見ていた。

 

「…………」

 

 そこにはイシュタリアの街が、完全に破壊されて廃墟と化した状態で映し出されていた。

 ほんの数日前まで滞在していた街の悲惨な姿に、クロトの胸は重くなった。

 画面には行方不明になった両親を捜す子供たちなど、大切な人を失った人々の悲痛な表情が映し出されていた。

 そして世界各国で行われている街頭インタビューでは、一様にコンパスへの批判が噴出していた。

 イシュタリアとエルドアで起きたこの惨事は、全てコンパスとユーラシアへの国境侵犯を行ったアスランとクロトの責任だと世間は考えているようだった。

 モニターに映る凄惨な光景に、クロトは思わず目を伏せた。この惨劇が起こったのは、全て自分が原因な気がした。

 その瞬間、テレビから思わぬニュースが流れてきた。

 

〈ミレニアムに乗り合わせていたファウンデーションの高官2名、オーブの要人1名と共に行方不明になったラクス・ディノ総裁の捜索は、今も続けられています──〉

 

 なんだこれは。

 テレビスクリーンから流れるアナウンサーの声は、そんなクロトの心を瞬時に凍りつかせた。

 オルフェ達は奇跡的に撃沈を免れたミレニアムから逃亡したようだったが、まさかラクスとキラが行方不明になるとは。

 衝撃的なニュースに、クロトは動揺を隠せずに声を上げた。

 

「なんなんだよこれは!?」

 

 クロトは一瞬、自分は悪夢を見ているのではないかと錯覚した。

 しかしその疑問に対する無情な答えが、うんざりだとばかりにテレビを消したカナードから静かに告げられた。

 

「どうやら電波障害が起こった直後の混乱に乗じて、奴らに連れ去られたそうだ」

 

 不満に満ちたカナードの口ぶりに、さらに部屋の空気が重苦しくなった。

 

「案外、連中の目的はコレだったのかもな。イシュタリアに設置される予定だった作戦本部をミレニアムに変更したのは、オルフェってヤツの提案なんだろう?」

 

 その言葉を聞いて、クロトは舞踏会での一幕を思い出した。

 何かに導かれるように訪れた庭園でオルフェとラクスが対峙している光景が、鮮明にクロトの記憶をよぎった。

 

 ──君のような存在には、この場に立つ資格などない。

 ──少し熱くなってしまわれたようで。

 

 クロトに対するオルフェの明確な敵意と、それを曖昧な言葉で誤魔化したラクス。

 二人の間には、以前から繋がりがあったのかもしれない。

 

「……ラクスか」

 

 1度抱いた疑念の影は、2度と消えることはなかった。

 実際のところ、真相は分からない。ラクスもキラと同様に、オルフェらに連れ去られただけなのかもしれない。

 しかしラクスがコンパス総裁として、クロトを錯乱したアスランと戦わせたのは明白な事実だ。

 自分達に襲い掛かって来たブラックナイツの少女の声が、クロトの心に響き渡った。

 

 ──ラクス姫はもうアンタ達なんていらないってさぁ! 

 

 直後に発生した電波障害で聞き取れなかったが、あの後ラクスは自分への攻撃を指示したのかもしれない。

 コンパス総裁としてクロトに国境侵犯を命じ、その事実を理由に密かに繋がっていたブラックナイツに攻撃の口実を与える。

 アスランとの戦いは自分を消耗させ、ブラックナイツの勝利を確実にするためだったのかもしれない。

 そんな馬鹿なことを、ラクスがするわけない。

 クロトは否定しようとしたが、そもそも自分はラクスについて何を知っているのかという根本的な疑問に気付いた。

 一緒に戦った仲間だから。キラの親友だから。

 自分が彼女について把握しているのは、そんな彼女の表面的なものばかりだった。

 ラクスにとって自分は、邪魔な存在だったのではないか。

 キラやアスランのように何でも出来るコーディネイターと違い、戦うことしか能のないナチュラルだから。

 その存在自体が、プラントやブルーコスモスの過激派を刺激する厄介者だから。

 かつて第1次連合・プラント大戦を終わらせた“フリーダム”の才能を、腐らせてしまうことを良しとしたから。

 もしも最強の戦士であるキラが戦っていたのなら、今回の惨劇だって回避出来たのかもしれない。

 

 僕のやっていたことは、何もかも無意味だったのか? 

 

 ただただ湧き上がる無力感に肩を落とすクロトに、レイは1枚の写真を取り出した。

 

「──イシュタリアに潜入したお前たちの報告を受けてメンデルを調査していたところ、妙な写真を発見した」

 

 レイの差し出した一枚の写真に、クロトの目は釘付けになった。

 そこには白衣を身にまとった人々が、集合写真を撮っているような様子で写っていた。

 写真の中で、特に一人の金髪の女性がクロトの注意を引いた。

 彼女は白衣を着ており、どこかで見たことがあるような強い既視感を感じさせた。

 その写真の片隅に視線を凝らすと、クロトは「アウラ」と書かれたメッセージを見つけた。

 その瞬間、クロトは彼女がファウンデーションの若き女王、アウラ・マハ・ハイバルに酷似していることに気づいた。

 しかし、それは新たな謎を生み出した。

 写真に写るアウラの姿は、先日王宮で目撃した彼女の姿とは明らかに異なっていた。

 なぜなら彼女は──

 

「これは19年前、メンデルの遺伝子研究所で撮られた写真だ」

「19年前?」

 

 まるで若返ったとしか表現出来ない事実に困惑する中、レイは更に話を続けた。

 

「メンデルで行われていた研究の1つに、不老不死の探求があったそうだ。結果的に成果は上がらなかったようだが、彼女がその被検体だった可能性は十分考えられる」

 

 クロトが黙り込む中、レイは解説を始めた。

 

「彼女自身も、優秀な研究者だった。ギルも──デュランダルもメンデルの研究者だった頃、彼女と交流があったらしい」

 

 レイの話は更に進んだ。

 

「彼女の研究テーマは、コーディネイターを超える種を創り出すこと。……当時、メンデルで運命計画(デスティニープラン)を考案した若き日のデュランダルは運命計画を管理し、人々を導く者を調和者(アコード)と名付けた。おそらくそのアコードが、彼女の創り出したコーディネイターを超える種だったようだ」

 

 クロトは思考を巡らせながら、レイの話に耳を傾けた。

 

「……デュランダルは2年前、オーブに隠遁中だったラクスに暗殺部隊を差し向けた。俺は当時その真意を理解出来なかったが、おそらくアウラの管理下に置かれていない唯一のアコード──ラクスを危険視し、秘密裏に始末しようとしたんだろう。アコードの存在を知れば、あの男(アル)はお前たちよりもファウンデーションの制圧を優先しようとしただろうからな」

 

 どうして戦争に介入する意思のなかったラクスに、暗殺部隊が差し向けられたのか。それはクロトやキラが動き出す前に、アルやレイに悟られない形でラクスを始末するためだったのだ。

 解説を終えたレイに、クロトは疑問を口にした。

 

「1つだけ、分かんねーことがある。……だったらキラは、どうして狙われた?」

 

 レイは静かに目を細めると、さらなる質問で返した。

 

「それを聞いてどうする?」

 

 クロトの答えは、迅速かつ明快だった。

 

「決まってんだろ。今すぐ連中のアジトに殴り込むのか、殴り込まねーのかってだけだ」

 

 クロトの乱暴な物言いに、レイは溜め息を漏らした。

 

「……詳しい理由は分からない。だがアコードを生み出したメンデルの技術が喪われた今、次世代のアコードを製造する上でキラの存在が必要なんだろう」

 

 全ての分野において万能の才能を付与され、次世代にその才能を受け継がせる“スーパーコーディネイター”。

 その才能はアコードの支配体制を永遠のものとするために、アウラにとっても必要な存在だったのだろう。

 それこそ不老不死の技術が確立されれば、キラに固執する理由はなかったアル以上に。

 

「…………」

 

 またしてもこの手の連中か。沈黙するクロトに対して、レイは付け加えるように言った。

 

「もっともこれは、楽観的な見方だ。アウラ博士とヒビキ博士は、より優れた人類の定義について対立していたようだ。単に彼女の私怨で、キラを連れ去った可能性も考えられる」

「……決まりだな」

 

 クロトは小声で呟いた。

 たとえラクスと差し違えることになったとしても、アウラ達からキラを奪還しなければならない。嵐の前の静けさを思わせる憤怒が、クロトの心を満たした。

 まさにその瞬間のことだった。

 ミーティングルームのスピーカーから、ミネルバの通信士アビー・ウィンザーの焦ったような声が聞こえた。

 

〈ディノ司令! ただちに管制室に!!〉

 

 

 

 人工衛星が捉えたその映像は、地上に降り注ぐ白い極大のレーザー光が、ユーラシア連邦の首都モスクワの街を呑み込む様子を捉えていた。

 その地上を貫いた光の柱は軌道上に存在する全てを衝撃波で吹き飛ばしながら膨張し、瞬く間に街を焼き尽くした。

 いったいどれだけの人が、この光に消し飛ばされてしまったのか。

 画面越しに目撃した光景にクロトが思わず言葉を失う中、シンは驚愕した口調で呟いた。

 

「核、攻撃……?」

 

 しかしシンの推測を、レイは苦々しい口調で否定した。これはそんな生易しいものではなかったからだ。

 

「これは“レクイエム”だ」

 

 それはかつて地球連合軍が製造し、月面基地ダイダロスに設置された巨大ビーム砲と、その周辺に配置された複数の廃棄コロニーから成る軌道間全方位戦略砲の名称だった。

 第2次連合・プラント大戦末期、オペレーション・ヒューリーに失敗したザフトは反転攻勢を図るため、ダイダロスの攻略を目標とした侵攻作戦を発動した。

 最終的に“コンクルーダーズ”の猛攻に晒された地球連合軍がその大部分を放棄・自爆させたことでダイダロス攻防戦は終了し、第2次連合・プラント大戦の最終決戦となったメサイア攻防戦に移行することになった。

 その後行われた戦後協定にて。

 レクイエムに必要なエネルギーを確保するために造られた反応炉は事実上解体不可能だったため、プラントが動力炉として平和利用することになり、最終的にジャガンナート国防委員長の働きかけによってザフトが使用することになっていた。

 しかしそれは偽りだった。

 デュランダルの計画においても、その親衛隊“コンクルーダーズ”と並んで、世界各国に“運命計画(デスティニープラン)”を実行するための切り札として狙っていた戦略兵器であり、運命計画(デスティニープラン)に反対する者がどこに隠れていようと消し去る死の“鎮魂歌”が、モスクワの地で奏でられたのだ。

 

 

 

 キラはどことも知れない、質素な部屋に閉じ込められていた。

 記憶をたどると、どうやらオルフェに気絶させられたあと、そのままミレニアムから拉致されたらしい。

 そして今はこうして監禁されているというわけだ。

 部屋の出口には厳重なセキュリティが施されており、それをハッキングして解除出来るような道具は持っていなかった。

 この場所の重力は地上・プラントと比較して若干低いように感じられたことから、どうやらここはどこかの宇宙要塞らしいとキラは悟った。

 まさかファウンデーションが、秘密裏にこのような軍事施設を造り上げていたとは。

 流石に通信端末や拳銃は取り上げられていたが、それ以外の私物はほとんど手つかずのまま放置されていた。

 特に内ポケットの中には、休眠状態のトリィとブルーが残されていた。

 これまでカガリを除いて誰かを誘拐したことも、誘拐されたこともなかったが、常識的に考えてこうした所持品の類は取り上げるのが普通ではないだろうか。

 食事の時間になると、イングリットが時折部屋を訪れてキラに食事を提供した。

 毒や自白剤が混入されているかもしれないし、そもそも食欲はなかったが、考えても仕方ないので食べた。

 彼等がそのつもりなら簡単に殺されてしまうし、彼等の読心能力を考えれば自白剤など必要ないのだ。

 一連の対応から、どうやら彼らの間でもキラに対する処遇は揺れているように思えた。

 実際に暴行を加えて拉致し、こうして閉じ込めておきながら、事実上放置されているのがその証拠だ。

 あるいはキラも、彼等の一員になるかもしれないと思われているようだった。

 ラクスとは1度だけ会った。

 イングリットに連れられて現れた彼女にキラは掴みかかろうとしたが、慌てて割り込んだイングリットに阻止された。

 ラクスは憔悴し切った、申し訳なさそうな表情をしていたが、その真意は掴めなかった。

 キラは他人の心を読み取れるアコードではないし、ラクスは全ての人類に愛されるアコードの“女王”だ。

 彼女が他人の精神に干渉する能力を持つ以上、目に見えているものが真実かどうかはわからないのだ。

 実際、その出自故に洗脳に対する耐性を持っているクロトですら、ラクスの能力で正気を喪っていたのだから。

 なんとかこの軍事要塞を脱出し、クロトと合流しなければどうすることも出来ない。

 イングリットに渡された着替えは、彼女たちブラックナイツの軍服だった。少しだけ窮屈に感じるものの、これを着用すればブラックナイツの一員に見えなくもないだろう。

 それはどこかで好機をもたらすかもしれない。

 独特な意匠が施された黒を基調とする軍服に、キラが袖を通し始めたその瞬間だった。

 不意に部屋の扉が開き、二人の男が入ってきた。

 一人目の男、頭に特徴的な剃り込みを入れたグリフィン・アルバレストは、その顔には得意げな笑みが浮かんでいた。

 二人目の男、赤い髪を持つリュー・シェンチアンも、慇懃無礼な態度で彼に続いて入室した。

 彼ら二人は監禁されているキラに対して、何かを企んでいる様子だった。

 警戒して後退りする中、グリフィンはにやにやと笑いながらキラに声をかけてきた。

 

「姫様には及ばないが、映像で見るよりよっぽどいいな」

「全くです。もっともラクス様の紛い物なのだから、当然と言えば当然ですが」

 

 リューは冷ややかな口調で補足すると、更に冗談を言うような雰囲気で告げた。

 

「──アスラン・ザラとクロト・ブエルは死にました。貴女とラクス様のおかげで、ね」

 

 クロトが死亡したという事実に直面し、キラの心は深い絶望に沈んだ。

 もしも自分がもっと早く行動していれば。

 ラクスに起こった異変を察知していれば。

 クロトやアスランと一緒に戦っていれば、愛する人を失うことはなかったかもしれない。

 そんな後悔に苛まれ、キラは力無く崩れ落ちそうになった。

 

「お前のような雑魚が、本気で俺達に敵うと思っているのか?」

「まぁまぁ。彼女もそこらの有象無象と比較すれば、そこそこ優秀な方ですよ。シュラに串刺しにされた、どこかのナチュラルと違ってね」

 

 侮辱的な言葉に怒りで身体を震わせるキラに、グリフィンとリューは下卑た視線を向けた。

 

「反抗的だなぁ、お前。……イングリットが後でウルセーかもしれねーけど、このままヤッちまうか?」

「くくっ。ダニエルを呼ばなくて正解でしたねぇ。こういうのは鼻が良過ぎて苦手なんでしたっけ?」

 

 グリフィンの提案に、リューは薄笑いを浮かべて頷いた。

 キラはその顔を見た瞬間、自分が何をされるのかを悟った。

 彼らに力で敵わないのはもちろん、だが洗脳される可能性もある。彼等にとって今のキラは、無力な獲物に過ぎないのだ。

 せめてどちらかだけでも殴ってやろうと身構えた直後、部屋に新たな人物が現れた。

 その男、シュラ・サーペンタインは気取ったような笑みを浮かべると、グリフィンとリューを嗜めるように言った。

 

「──あえて言わせてもらおう。破廉恥だと」




敗北組にキラがいたらラクス黒幕説が早々に否定されるので、構成上キラの拉致は必須でした。

そうなると必然的にキラちゃんが×××××される展開になるので、シュラを錯乱させる必要があったんですね。

ここまでのシュラくん

①レジスタンスに無双し、クロトをサーベルで圧倒する
②アスランから破廉恥攻撃を受けて敗北する
③ミレニアムに潜入し、破廉恥な光景を目撃して退散する
④クロトに勝利するが、カナードちゃんに撃退される
⑤ハレンチ警察出動だ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。