21.
頭の中で虫が這っている様な気分だ。
クロトはアークエンジェルの医務室で目を醒ました。大気圏突入に備えて長持ちする錠剤タイプを摂取していなければ、禁断症状で発狂していたかもしれない。
軍服に忍ばせていた錠剤を呑み込むと、安堵の溜息を吐いた。
カーテンの裏側には誰かがいるようだった。
声に耳を傾けると、その正体は軍医の男とヘリオポリスのゼミ生だった。
そしてキラはクロトと同様に高熱と衝撃で意識を喪い、すぐ隣のベッドで寝かされているようだった。どうやら肉体の頑丈さは自分の方が上らしい。
「──だからさ、感染症の熱じゃないし、内臓にも特に問題はないし。今はとにかく水分を摂らせて、出来るだけ身体を冷やしておく他ないでしょう?」
重度の脱水症状と熱中症の影響で、キラは未だに高熱らしかった。
まぁコーディネイターといっても所詮は女の子だからな。クロトが無言で勝ち誇っていると、医者の男は溜息を吐いた。
「──まぁ俺だって、コーディネイターを診るなんて初めてなんでね……。あまり、自信持って断言出来る訳じゃないけど、連中はとにかく
身体機能が高いから、心配することはないらしい。
「──
見た目は同じだが、中身の性能は全然違うらしい。
「──死ぬような病気にはならないし、抵抗力は高い。……ま、撃たれりゃ死ぬし、熱出して寝込むようなこともあるが、そういったリスクは俺達より遙かに低いんだ。彼女が乗ってたコクピットの温度、何度になってたか聞いたか? 俺達だったら、助かんないぜ?
「ゴチャゴチャ五月蠅いんだよ」
クロトが怒気を滲ませながら立ち上がると、軍医の男は困惑した表情に変わった。
この短時間で意識が戻っただけで紛れもない奇跡だ。身体が頑丈だとか、強靱な精神力だとかで言い表せるような状態ではなかった。
「苛々するから、今すぐ出て行けよ。看病くらい僕がするからさぁ」
医務室に濃厚な殺気が走った。
目の前にいるのは第8艦隊司令官の命令を無視して暴走した挙句、クルーゼ隊の猛攻の前に
怒っている理由は分からないが、機嫌を損ねたら殺されても不思議ではない。軍医の男はクロトに心底恐怖しながら言った。
「しかし、中尉も安静にしないと……」
「ご安心下さい。
現実に歩き回っているクロトの身体は心配出来るのに、目の前で苦しんでいるキラの心配は出来ないらしい。
クロトが吐き捨てる様に言うと、軍医の男はそそくさと医務室を後にした。
「……出て行ってって、言わなかったっけ?」
クロトは一旦自室に戻り、予備の人工麻薬と携帯ゲーム機を懐に忍ばせた。
そして医務室の扉を開けると、慣れない手付きでキラの点滴を替えようとしていたフレイの姿を目撃した。
「……私は衛生兵見習いよ。怪我人だけを残して、出て行く訳ないでしょう?」
「大丈夫だって。そう心配することないらしいからさ」
クロトは投げ遣りに言うと、付近の椅子に腰掛けながらゲーム機を起動した。するとフレイは呟く様に言った。
「……前から思ってたけど、キラには随分優しいのね。ブルーコスモスのくせに」
「せめて僕だけでも守ってあげないとね。どれだけ降ろそうとしても降りない、困ったお姫様を。……ま、降りてたら降りてたで、死んでたんだけどさ」
結果論だが、避難民用のシャトルに乗っていたらキラは死んでいた。
しかし戻って来たからといってキラに選択肢などなく、今も意識不明の重体だ。
そんな現実に直面して憔悴するクロトの言葉にフレイは戸惑った。いくらなんでもブルーコスモスに所属する人間の言葉とは思えなかった。
「馬鹿みたい。その内、偉い人のお怒りを買うんじゃないの?」
「そんなこと僕は知らないね。コーディネイターを一番殺しているのは僕なんだ。誰にも文句は言わせない。もちろん君にもね」
「えっ?」
フレイはクロトの見透かすような言葉に動揺した。
コーディネイターを皆殺しにする為ならなんだってやる。そんな覚悟で戻って来た自分の内心が、クロトに見抜かれていたいたからだ。
きっと
それはコーディネイターを恨んでいる一方で、コーディネイターを殺せない無力な自分とは真逆の存在なのだと理解した。
「気付かないと思う? 今まで何もやらなかった君が志願兵って、そんなの誰も真に受ける訳ないだろ? 君は偉い人に利用されたんだよ」
アルスター家の遺児としてプロパガンダを行うため。
人手不足のアークエンジェルにメンバーを残すため。フレイ・アルスターという存在は利用されたのだ。
「……!」
フレイは絶句した。
自分は賢いと思っていた。自分の演技に騙されたナタルやホフマン達は馬鹿な大人だと思っていた。
しかし現実の自分は何の期待もされていない。自分に引っ張られて残ったサイ達はCICの一員としてアークエンジェルに貢献する中、自分は本当は必要かどうかも分からないキラの看病をしているのだ。
残酷な真相に、思わず情けなくて涙が出そうになった。
どうしてクロトはあの場に居てくれなかったのか。どうしてクロトは自分の志願に反対してくれなかったのか。
しかし、フレイがクロトの居ない機会を選んで話を持ち掛けたのだ。こんなところでこんなことをしているのは、フレイ自身が原因だったのだ。
「もちろん君の気持ちは、分からなくもない。自分の父親を殺したコーディネイター達が死ぬのを間近で見たかった。……幸いこの船には僕がいるからね。下手に降りるより安全だと思ったんだろ?」
クロトの言葉に、フレイはぐうの音も出なかった。彼の想定していた自分よりも、実際の考えは杜撰だったからだ。
どうやら女好きの
これほど他者の悪意に敏感な少年を、籠絡など出来る筈がないのに。
「……ま、どうでもいいや。看病するとは言ったけど、僕が汗を拭いたり着替えさせたりするのは気が引けるしねぇ」
実際のところ彼女は嫌がるのだろうか。フレイはタオルと着替えを受け取ると、無言でカーテンを遮った。
22.
「──ここに居たんですか、アスラン。イザーク達、無事に地球に降りたようです。さっき連絡が来ました」
「そうか……」
アスランは第8艦隊残存部隊の追撃を後軍に任せると、地球に落下したイザーク、ディアッカとの合流を果たすためカーペンタリア基地に降下していた。
一時は生存を危ぶまれていたイザークとディアッカの2人も、北アフリカのザフト勢力圏内に無事降下出来たらしい。そんな明るいニュースを聞いた一方で、ニコルとアスランの表情は冴えなかった。
「イザークの件は聞きましたか?」
「あぁ。ヘリオポリスの避難民を乗せたシャトルをイザークが撃ち落としたとな」
地球連合軍第8艦隊司令官であるハルバートンは、デュエルのパイロットが民間人の虐殺を行ったと公表した。
それはプラントの正義の為に、血のバレンタイン事件と呼ばれる大虐殺に反発してザフト入りを決断したアスランにとって、自らの価値観を揺るがす大事件だった。
「本当だと思いますか?」
「……状況から考えれば、事実だろう。イザークの言葉通りなら本来シャトルに乗っていたハルバートンが、直々に非難声明を行ったんだからな」
ハルバートンを含め、メネラオスに乗艦していた将校の大半が生き残っているという事実の前では、プラント側の主張は言い訳に過ぎなかった。
「連合軍の言葉を信じるんですか?」
「連中の理屈は通っている。通信機に損傷を受けて勧告は出来なかったが、差し迫るガモフを前にして、やむを得ず避難民を乗せたシャトルを射出したとな」
あのパイロットの正気とは思えない行動がなければ、間違いなくメネラオスはガモフと衝突して沈んでいただろう。
クルーゼ隊の攻撃でメネラオスが損傷していたのは事実で、シャトル射出時に不幸にも通信機が故障していたと言われれば、否定出来る理由などない。避難民を乗せたシャトルを射出したのなら、敢えて勧告を行わない理由などないのだから。
「……イザークは、大丈夫なんでしょうか?」
「隊長は問題ないとおっしゃっていた。あれは
アスランは苦々しい口調で言った。
イザークが意図的にシャトルを撃ったという音声記録は残っていたらしいし、そもそも無抵抗のシャトルを撃つこと自体が重大な戦争犯罪だ。
しかしニコルの考え方はアスランとは少々異なるようだった。
「……それもそうかもしれませんね。僕らがヘリオポリスを襲撃した時に、もっと多くの死傷者が出ましたし。
「……どういう意味だ?」
アスランは眉を潜めた。まるでニコルの言葉は自分達もイザークと同じだと言っているように聞こえたからだ。
「何を言っているんですか。オーブの公式発表によると、およそ2000人の方が
アスラン率いるクルーゼ隊とアークエンジェルが行った戦闘の余波で、ヘリオポリスは呆気なく崩壊した。
最終的な引き金はイザークが破壊したメインシャフトと動力炉が原因だったが、他の隊員達も周囲の被害など関係ないとばかりに戦闘していたのだ。
だからニコルは
「結局僕らはストライクとレイダー、新造戦艦の奪取にも破壊にも失敗しました。シャトルの件も合わせて、隊長とイザークには帰投命令が下るでしょうね。……僕、ちょっとブリッツの調子を見てきます」
「……ああ、俺も付き合うよ。隊長が俺を北アフリカ戦線行きの援軍に推薦してくださるそうだからな」
自分達は罪もないナチュラルどころか、キラのように中立国に避難していたコーディネイターをも殺したのではないか。あのパイロットはザフト相手には容赦ない一方で、ラクスの身すら案じていたというのに。
アスランは一瞬頭に過った恐ろしい考えを振り払うと、ニコルと共にブリッツの整備に向かい始めた。
自室に戻ったクロトは折り紙の花を見ながら、無言で物思いに耽っていた。
何もかも上手く進めば──
自分には世界に対する復讐心しかない筈なのに、まだ良心が残っているらしい。
自分はもう引き返せないのに。
連合軍が勝とうが、ザフトが勝とうが、三隻同盟が全てを掻っ攫おうが。どうせ自分には未来も、希望も、自由もないのだ。
だから決めたはずだった。
このどうしようもない世界を滅ぼし、全てを無に還すのだと。それが叶わず倒れるならそれが世界の意思で、叶うのであればそれが世界の意思なのだと。
それなのに、この有様はなんなのだろうか。
自分の手駒として利用する筈だった。
哀れな境遇だと同情していただけの彼女を守りたいなどと何故口にした? 自分には彼女と未来を歩む可能性などないのに
しかしクロトは縋り付く彼女を振り払うことが出来ず、ただ彼女に身を任せた。
肉体は強靭でもメンタルは意外と脆いクロトくん……まともな人間と出会った経験がないからしょうがないね……
悪堕ちフレイちゃんすら浄化させる生体CPUとかいう人間の鑑。
一方アスランくんはイザークくんの代わりに砂漠編に参戦か……キラちゃんに溺れるクロトくんの現状を知ったら勝手に怒って種割れしそう(偏見
異論はあると思うけど、フレイちゃんは賭けが成功した時点でサイくんに見切りを付けてたと思うんですよね。元婚約者として、それなりに情が残ってただけで……
天涯孤独になった婚約者が軍に志願したのを見て、特に反対もせず元々降りるつもりだったのに格好付けて自分も残るとか言い出したサイくんを見て、フレイちゃんも目論んだ展開になったとはいえ内心失望したと思うんだよね……(本来フレイちゃんは何が何でも自分を守ってくれる父親みたいな相手が理想の筈なので
だからサイくんとの婚約はさっさと解消したし、自暴自棄になってキラくんを籠絡しようとしたら、そのまま情が移ってしまったんじゃないのかね……(この解釈の方が色々と辻褄が合う
とはいえこの辺りの問題はキラくんが抹消された逆クロでは全く関係ないし、クロトくんみたいにキラちゃんの変なフェロモン出てそうなムチムチわがままボディに溺れたいなあ……(唐突な変態発言
まあ溺れれば溺れる程、どうせ僕はもうすぐ死ぬのに……とクロトくんは勝手にダメージを受けるんですけどね!(人間の屑
キラちゃんは(自主規制)
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控えめ
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爆