逆襲のクロト   作:皐月莢

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ストライクレイダー弍式

 先日イシュタリアを襲った核爆発の映像を背景に、オルフェ・ラム・タオは全世界に向けて高らかに宣言した。

 

 〈地球の全ての国家に通告する。ただちに武装を解除し、デスティニープランを承認、実行せよ。猶予期間は5日。なお、我らを受け入れられぬという勢力には、ラクス・クラインの名の下に“レクイエム”による制裁を下す。その頭上にメギドの火が堕ちることになるだろう〉

 

 その言葉と共に、彼の勝ち誇ったような顔がモニターから消えると同時に、カガリは深刻な事態の全貌を理解した。

 

「これは……」

 

 カガリは思わず声を漏らした。

 オルフェの演説で明らかになった彼らの戦略は、これまで彼女が想像していたものを遥かに超えるものだった。

 ファウンデーションの真の目的は、人類の調停者として造られた究極のコーディネイター“アコード”の女王──ラクスの才能だけでなく、彼女がこれまでの人生で築き上げてきた権威そのものを奪取することだったのだ。

 自作自演でユーラシア連邦軍の保有していた核兵器をイシュタリアに撃たせ、それを口実にレクイエムを使用することも。

 同様にエルドアの地に核攻撃を実行し、コンパスを無力化することも。

 これらの計画は全て、ファウンデーションの最終目的である“ラクス・クライン”の全てを掌握するための副目的に過ぎなかったのだ。

 オルフェの語った内容は、これまでパトリック・ザラら戦争を煽った指導者たちの主張の焼き直しに過ぎない。

 しかしそこに“ラクス・クライン”という絶対的な存在の名前が加わると、状況は一変する。

 ラクスは紛れもなく2度の絶滅戦争を終わらせ、世界を人類滅亡の危機から救った平和の歌姫であり、前大戦においても一見正しいと思われたデュランダルの甘言に騙されず、人々に自由と正義の尊さを示した救世主だ。

 そんな彼女が支持する者であれば、多くの者は彼らは正しいに違いないと考えるだろう。

 特に彼らがこの演説で取り込もうとしているプラントのコーディネイター達にとっては、なおさらのことだろう。

 潜入捜査で明らかになったファウンデーションの実態と、オルフェの演説が示しているように、運命計画(デスティニープラン)において優遇されるのはコーディネイターだからだ。

 これまでラクスは自分たちが正しいと主張したことはなく、常に何が正しいのか思考することを促してきた。

 しかしこれまでの歴史が示している通り、人は間違いを恐れるあまり自ら考えることを避け、誰かを盲信することを選ぶ者が大多数を占めるのが現実だ。

 人々はラクス・クラインに導かれることを望んでおり、ファウンデーションはそんな人々の想いを利用することで、この世界を自分達の支配下に置こうとしているのだ。

 とはいえ、僅かな希望も見付かった。

 もしもラクスがこの状況を本当に望んでいたのであれば、オルフェと並んで演説しない理由はないだろう。

 つまりラクスの救出、あるいは身の潔白を証明すれば、このファウンデーションに突き付けられた最悪の状況を打開出来るかもしれないのだ。

 

「エリカ。ただちに“弐式”の準備を」

 

 カガリは先行して出撃させたエクリプスの後継機──隠密型可変モビルスーツ"暴風の厄災(ストームカラミティ)"、"閃光の禁忌(フレアフォビドゥン)"の設計者、エリカ・シモンズに緊急通信を行った。

 

「よろしいのですか? アレは単なるテスト機ですよ?」

 

 エリカはカガリの拙速とも取れる指示に、懸念を示した。

 

「何を悠長なことを言ってるんだ。このままアイツを放っておいたら、どうせ無断で侵入するぞ」

 

 カガリは確信したように言った。

 型式番号〈ZGMF-X211M1〉──“ストライクレイダー弐式”。

 それはかつてファクトリーによって開発され、クロト・ブエルと共に第二次連合・プラント大戦を終わらせたモビルスーツだ。

 メサイア攻防戦後、大気圏内への突入による甚大なダメージを受けたこの機体は、エリカらモルゲンレーテ社の手によって密かに修復され、モルゲンレーテが開発した新型融合炉や日本刀型実体剣“フツノミタマ”、収束重核子ビーム砲“ディスラプターツォーン”など、新装備の性能評価試験機として使用されていたのだ。

 近代化改修によってコントロールシステムは最新のものに一新され、バッテリーから新型融合炉へとパワーソースが変更されたことで、その継戦能力は飛躍的に向上した。

 しかしそれ以外のスペック面では、最新世代のブラックナイトスコードシリーズには遠く及ばない旧式機だという事実に変わりはない。

 それでもカガリは信じて疑わなかった。

 このクロト・ブエルの集大成とも言えるモビルスーツが、世界を支配下に置こうとしているファウンデーションに対抗できる唯一の希望であることを。

 

 

 

 オルフェの演説に合わせて、シュラが以前から接触していたプラント国防委員長ハリ・ジャガンナートの手によって、プラント国内で大規模なクーデターが実行された。

 ジャガンナートとその子飼いの部下である旧ザラ派軍人が行ったこの武装蜂起によって、プラント評議会は一瞬にして制圧された。

 クーデターの兆しを早期に察知したらしいプラント参謀本部の情報将校と元議長の迅速な対応によって、プラント最高評議会議長ワルター・ド・ラメントこそ拘束を逃れたが、ファウンデーションの対応を協議するため評議会に集まっていた議員の大半は、ジャガンナートが差し向けた兵士に拘束された。

 このクーデターによってプラントの行政府は完全に麻痺し、特にジャガンナートの影響力が大きかったザフトはその大部分が彼の指揮下に置かれることになった。

 そしてそれを示すように、プラントからはジャガンナートを総司令官とする大規模なザフト艦隊が出撃した。

 わずか数時間でプラントはファウンデーションの勧告を受け入れ、ジャガンナートとその支持者の望む非ナチュラル国家に一変していた。

 抵抗勢力も少なからず存在したが、大量破壊兵器“レクイエム”を恐れて大々的な反攻を行う者はいなかった。

 一方の月面基地から出撃した地球連合軍は、レクイエムの砲火に晒されて壊滅的な打撃を受けた。

 もはやファウンデーション軍とジャガンナート率いるザフト軍で厳重に守られたレクイエムを攻略出来るほどの戦力は、地球連合軍には残されていなかった。

 最大の標的だと定めていたアスラン・ザラとクロト・ブエルをユーラシア国境付近に誘い込んで孤立させ、強襲した日から始まったこの数日間は非常に慌ただしかった。

 まるで仕事に忙殺されているかのように時間はあっという間に過ぎ去るが、その出来事は繰り返したくないほど長く、どこか苛立ちを感じさせるものだった。

 この行き場のない苛立ちは、オルフェが捕らえた“アレ”に向けることにしよう。

 オルフェからは命だけは奪うなと警告されたが、要するにそれ以外の行動は容認するということだ。

 それに偉大な創造主にして母、アウラにとってユーレンの娘にして最高傑作の“キラ・ヒビキ”は最も憎悪を抱く存在なのだから、むしろ積極的に痛め付けるべきだ。

 かつて遺伝子学の権威であるギルバート・デュランダルは、アコード固有の特性を除いた純粋な才能ではキラが最強だと評した。

 実際にラクスを除いたアコードはキラやアスラン、クロトが保有している“SEED因子”を持たない上に、そのラクスも戦士としての才能は不完全だ。

 もしも自分達の精神干渉を無力化する装置が開発されることがあれば、キラが最強ということなのだろう。

 とはいえ、それはあくまで仮定の話だ。

 あのラクスすら凌駕する清楚さを感じさせる雰囲気とは裏腹に、妻帯者(アスラン)だろうと下等種族(クロト)だろうと手を出す破廉恥な女──キラ・ヤマトは、このブラックナイツ最強の戦士であるシュラ・サーペンタインに屈服するしかないのだ。

 しかしその瞬間、部屋の向こうに存在するキラから感じ取った感情が、シュラの思考にノイズを走らせた。

 

 

 

 その部屋は、異様な熱気と緊張感に満ちていた。

 静かに扉を開けたシュラは、下卑た表情を浮かべたグリフィンとリューがキラに襲い掛かろうとしている光景を目撃した。

 たとえどれだけ戦士の才能があったとしても、今のキラは無力な存在に過ぎない。彼女が強い恐怖を抱いていることは、わざわざ心を読まなくても明らかだった。

 なぜだか分からなかったが、迅速に介入しなければならないと直感した。

 

「──あえて言わせてもらおう。破廉恥だと」

 

 シュラの凍てつくほどに冷ややかな言葉は、室内に響き渡った。

 グリフィンとリューが怪訝な顔で振り返ると、思わぬ人物の登場に目を見開いた。

 ラクスと同様にキラの世話係を任されているイングリットならともかく、まさかシュラが現れるとは思っていなかったのだ。

 

「……これは何の真似ですか?」

 

 リューは詰まったような声で言った。

 力こそが全てだと考えており、ブラックナイツの中でも突出した戦闘能力を有している一方で普段は単純なシュラの感情が、今はまるで掴めなかった。

 そしてその感情の存在は、シュラ自身も全く自覚していないようだった。

 

「今回だけは見逃してやる。さっさと消えろ」

 

 シュラの切り捨てるような口調に、2人は反論の余地がなかった。

 グリフィンやリューも戦士としての完成度や訓練の姿勢に違いはあれど、同じアコードの一員である以上、シュラとの実力差はそれほど大きいはずではなかった。

 しかしリューはアスランからも感じたような、2対1の数的不利をも覆してしまう凄みのようなものをシュラに感じた。

 一方のグリフィンはシュラの真意を探ろうとするように、軽く肩を叩きながら軽薄な口調で言った。

 

「後で具合くらいは聞かせろよ?」

「同じことを言わせるな」

 

 シュラの視線は、グリフィンの言葉を受けて一層冷たいものになった。

 肩を竦めて部屋を去る二人を無言で見送った後、シュラは怯えた様子のキラを一瞬だけ見つめた。

 

「……さっさと着替えろ。破廉恥女」

 

 彼女の抱いている混乱を感じ取ると、どうやら着替えの最中だったらしいキラの姿から視線を反らした。

 

「どうして、私を?」

 

 ブラックナイトスコードの制服に着替えたキラに対し、シュラは自分の行動を説明出来ないことに気付いた。

 他人であれば核ミサイルの発射コードであろうと正確に読み取れる一方で、どうも自分の心だけは読めないようだ。

 せめてキラの納得しそうな回答をしようとしたが、キラの内面はグリフィンやリューに向けるものと同じように、自分に対する拒絶感で満たされていた。

 彼女にとって自分はクロトや仲間を殺した敵であり、それ以上でもそれ以下でもないらしい。

 そんな当たり前の事実にどうして自分は戸惑っているのだろうと思いながら、シュラは懐のポケットに手を伸ばした。

 

「俺はこの前の借りを返しに来ただけだ」

 

 そう言いながら、シュラは固く感情を閉ざしたキラにハンカチを放り投げた。

 それは王宮の訓練所でアスランの攻撃に反応出来ず負傷した際に、キラが止血のためにと手渡したものだ。

 シュラにとってはこれは、二人の間に存在する微妙なつながりを示したジェスチャーだった。

 キラの表情がわずかに変わった。

 自分達以外を下等種族とみなしているアコード最強の男としては、どうにも不自然な行動に映ったようだった。

 

「次は、今の借りを返して貰う」

 

 その言葉に僅かに肩を震わせたキラに対して、シュラは深く息を吸った。

 これはシュラ自身にとっても重大な危険性を伴う行為だと理解していたが、そうしなければならないという確信があった。

 

「もう1度クロト・ブエルと戦わせろ」

 

 キラの心はシュラの思いもしない言葉に、ひどく揺さぶられた。

 先程まで部屋にいたグリフィンとリューから、クロトはシュラの手で無惨に殺されたと聞いていたからだ。

 

「どういう意味?」

 

 自分に対して初めて感情の揺らぎを見せたキラに、シュラは薄ら笑いを浮かべながら答えた。

 

「止めを刺そうとしたら、カナード・パルスが現れた。……詳細は知らんが、どうやらユーラシア側の国境付近に潜伏していたようだ」

 

 その具体的な人名まで示したシュラの口調から、キラは単に出任せを言っている訳ではないと気付いた。

 元ユーラシア連邦軍にしてファントムペインに所属していたカナードは基本的にコンパスでの軍事行動を許可されていないが、今回はターミナルの指示で付近に潜伏していた。

 電波障害で連携出来なかったとはいえ、異常事態を察知したカナードがクロトの救援に現れることは十分考えられるのだ。

 

「ヤツは生きている。必ずお前の救出に来る筈だ」

 

 自分達ブラックナイツのメンバーを除けば、やはり最強はアスラン・ザラだ。

 その無慈悲な結論は、先日の戦闘データの解析結果でもはっきりと証明された事実だ。

 しかしそんなアスランがかつてキラに惨敗を喫したように、戦闘能力はその時の精神状態によって変化するのもまた否定出来ない事実だ。

 それは純粋な戦士としての才能では自分達に遠く及ばないナチュラルであり、その実力を本人の判断能力・操縦技術に依存しているクロト・ブエルであればなおさらだ。

 たとえば偶然戦闘データの入手に成功した、ヤキン・ドゥーエでの天帝(プロヴィデンス)戦。

 クロトは前期GAT‐Xシリーズの改修機に過ぎないモビルスーツで、当時ファーストステージシリーズの中でも最強と謳われたモビルスーツに勝利した。

 それは限られた時間でジェネシス内部に突入したキラを救出するためであり、その精神力とでも表現すべき何かが、圧倒的なモビルスーツの性能差を埋めたのだ。

 そんなクロトの力を最大限に引き出した上で勝利することで、先日の戦いで受けた屈辱を──この理解不能な感情を拭い去ることが出来るという確信を抱いた。

 

 

 

 アウラはイングリットと共に現れたラクスに向けて語った言葉は、自らの偉大さと優秀さを示すような内容だった。

 

「これがデュランダルの考案した“運命計画(デスティニープラン)”。そなたたち2人が、全ての人類の頂点に立つべき存在。最後に組み合わさるピースの一対なのじゃ」

 

 ラクスは今は亡きデュランダルが描いた壮大な計画の中心に自分がいるという現実に、しばし呆然としていた。

 オルフェはそんなラクスに歩み寄ると、不意に力強く手を握った。

 

「私と貴女で、共にこの世界を統治するのです。……感じるでしょう?」

 

 オルフェの言葉は、ラクスをさらに混乱させた。

 そして再び、あの時も感じた説明出来ない奇妙な感覚に襲われた。

 それは二人だけの世界にいるかのような、心地よく温かい柔らかな光に包まれているような感覚だった。

 今までこの幻想を瞬く間に焼き払っていた、ラクスの力と負の感情が干渉し合うことで発生していた黒い炎は、まるで燃料が尽きたように湧き上がってこなかった。

 その原因は明白だった。

 ラクスは密かに恋慕っていた少年を、他ならぬ彼女自身の手で殺してしまったからだ。

 彼を想う自らの意思までも踏みにじったことで、今まで自分を影で守り続けていた力は彼自身の命と同様に、ラクスから永遠に喪われてしまったのだ。

 

「我らは互いに惹かれ合い、結ばれる運命……」

 

 オルフェの甘く囁く様な言葉に、ラクスは自分の身体が何かに侵食されていくような感覚を覚えた。

 これは一種の共鳴だった。

 アウラの語った言葉の通り、オルフェとラクスは対になる存在として設計されて生まれた運命の相手であり、生まれる前から定められた相手であることを示す証拠だった。

 その遺伝子単位で行われる誘惑は、抗う余地すら感じられないほど甘美なものだった。

 ラクスを構成する細胞が──その遺伝子の1つ1つが、己の半身であるオルフェを求めているようだった。

 旧約聖書に記された原初の人類である、アダムとイブのように。

 しょせん自分には、最初から何1つ自由などなかったのだ。

 私はデュランダルの理想とする全てが管理された世界を成立させるための、単なる生体CPUに過ぎなかったのだ。

 

「!!」

 

 しかしその瞬間、あることに気付いたラクスはオルフェの手を振り払った。思わぬ行動に驚きを隠せないオルフェに対して、ラクスは不意に笑みを浮かべた。

 

「何が可笑しいのですか?」

 

 オルフェの疑問に対し、ラクスは確信に満ちた声で応えた。

 

「私の愛する人が、クロト様で良かった」

 

 彼らの語る運命計画(デスティニープラン)の中核を構成するアコードの女王として、オルフェの対として、生まれる前から全てを決定付けられていたラクス・クライン。

 そんな運命に翻弄されるだけだったラクスの中に存在するこの感情が、定められた自身の運命に抗い、自由意志を持っていることを示す明確な証拠だ。

 クロト・ブエルはナチュラルだ。アコードでもコーディネイターでもなんでもない。

 そんな彼を想うこの自由意志の価値が穢されることは、永遠にないだろう。

 たとえそれが、永遠に叶わない愛であったとしても。




待望のストライクレイダー弍式ですが、旧ストライクレイダーとの相違点は以下の通りです。

①新型融合炉の採用
②ツォーン→ディスラプターツォーン(出力制限有)
③ガラティーン→フツノミタマ
④試製35式改レールガン×2を追加装備
⑤ビームサーベル×2を追加装備

未完成のプラウドディフェンダーなんかいるかよ!(例のスーツを用意するハインライン

また新型カラミティ、フォビドゥンはエクリプスの後継機なので、ミラコロステルスが使えます。
二人がムラサメに乗ってたのは、ルール無用過ぎて表舞台では使えなかったからですね。

フレア、ストームは太陽関連の異常現象が元ネタです。(太陽フレアと太陽風)

-追記-

阿井上夫先生から頂きました、イングリットちゃんからブラックナイツの制服を借りたキラちゃんです。

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