オルフェは、ミレニアムと交戦しているファウンデーション艦隊の指揮を続けていた。
だが、その顔は激怒に染まっていた。
クロト・ブエルの襲撃によって、アルテミス要塞が陥落してしまったのだ。首都を喪失したファウンデーションにとって、最大の重要拠点だった要塞の失陥は、致命的な打撃だった。
その上、確保に成功したキラ・ヤマトが奪われてしまった。
ただ、ラクスはグルヴェイグに乗艦していたため難を逃れており、アウラもイングリットと共に無事に脱出し、こちらに向かっているとの報告があった。
しかしそのことよりも重大なのは、シュラの敗退だった。
単独で逃走したクロトたちを追っていたシュラは、クロトと交戦の末に敗北してしまったのだ。
殺されたのか、それとも意識を喪っているのかは不明だが、とにかくシュラの波長は完全に途絶えてしまった。
レクイエムの圧倒的な武力を背景に
そんな世界を守護する最強の“戦士”として、シュラは生まれた。
だが、そんなシュラが何の背景も持たないナチュラルに敗北したという事実は、オルフェを驚愕させた。
戦況自体は圧倒的有利にも関わらず、ファウンデーション艦隊全体に動揺が広がり、兵士達の士気も低下している。
計画は順調に進んでいたはずだった。
実際に、途中までは順調に進んでいた。そしてそれは当然のことだと思っていた。自分たちの能力は誰よりも高く、誰であろうと出し抜けるはずなのだ。
それにもかかわらず、あの男はこちらの想定を上回り、自分アコードの存在意義を、そして
選ばれた優越種の自分たちが、あんな無能で野蛮な下等種族に敗れるはずなどないのに。
「虫けらがっ!!」
「オルフェ。落ち着いてください」
オルフェが怒りをあらわに叫ぶと、ラクスは静かに言った。
その表情は穏やかで、オルフェを冷静にさせようとしているのか、あるいはクロトの勝利は予想外ではなかったのか、何もわからなかった。
アコードの最高傑作であるラクスがその気になれば、たとえ運命の相手であるオルフェの読心術だろうと通用しないようだった。
どこかで敵対勢力を非難させて、その戦意を挫かせようと考えていたが、もはやラクスは何を口にするか分からない。
唯一分かっているのは自我の大半を喪失したラクスは、自分の愛を拒めないということだけだ。
ただし、時折塵を見るような視線を向けてくるだけで。
「“レクイエム”発射だ! 今度こそオーブを焼き払え!!」
オルフェは憎悪とともに命じた。
今度こそオーブをこの世から消し去り、自分のやったことの罪深さと、その無力さを思い知らせてやるのだ。
「やっとかよ」
巨大なレクイエムの砲口が開き、異様な光がまとわりつく中、オルガはコクピットの片隅に本を置いた。そして操縦桿を握りながら、1つの仮説を思い返していた。
レクイエム本体はシールドで覆われており、通常火力では破壊不可能だ。しかし破壊可能なビーム中継点はミラージュコロイドで偽装されており、実際に発射されるまでその位置を予想するのは不可能だった。
シミュレートをどれだけ繰り返しても、無数に存在する中継ポイントの具体的な位置を絞り込むことはできなかった。
ただ、唯一の例外を除いて。
濃紺色のモビルスーツが突如ミラージュコロイドを解除し、宇宙空間に出現する。
それはデスティニーの追加装備として試作された追加装備──大型の実弾による砲撃に特化した拠点攻撃用装備“ゼウスシルエット”を装着した姿だった。
時間が凝縮される程の集中力で機体を操作し、死と破壊に満ちた空間へとダイブする。
そして完璧な位置と姿勢、視野を確保すると、モビルスーツの全長を上回る超大型の携行式リニアキャノンを構えた。
照準の先に捉えた僅かな空間の揺らぎが、その仮説の正しさを証明する。
レクイエムは複数の中継ポイントを経由することで、鉄壁のシールドに守られたまま地球全土を自由自在に狙うことが出来る。
しかし、ビームは本来直線上にしか向かわない。つまり発射直前であれば、第1中継ポイントはレクイエムの砲門の直線上に存在するのだ。
臨界に達した砲門が輝きを放つ中、オルガはトリガーを優雅に絞り、撃っていた。
「狙い撃つぜぇ──!!」
訪れたのは機体を揺らす暴風のごとき衝撃と、確かな手応えだった。
そのモビルスーツ──“
そして次の瞬間、第1中継ポイントを覆っていたミラージュコロイドが消滅し、巨大な偏向リングに弾丸が命中し、元の姿が分からないほど粉々に破壊される。
それを見届けた瞬間、オルガは反動で制御が効かないカラミティの中で、レクイエムから放たれた眩い光に呑み込まれそうになる。
ちょっと頑張り過ぎたか。オルガが脱力し、コクピットの中で自嘲した瞬間だった。
無防備な姿を晒したカラミティを庇うように、ミラージュコロイドを解除した深緑色のモビルスーツが射線上に躍り出る。
レクイエムから放たれるビームを誘導しているのは、ミラージュコロイドで隠された無数の中継ポイント内部に設置されている
つまり一定以上の出力で展開した
しかし、たった1機のモビルスーツが展開した
コクピットでは無数の警告ランプが点滅し、機体が空中分解しそうな程の強烈な衝撃が走る。
だが、この程度など不可能でもなんでもない。
「うざいんだよっ!!」
ビームの余波が装甲の一部を蒸発させながらも、フォビドゥンは正確無比なスラスター制御で体勢を維持する。
そしてシャニは──“
やがてビームの奔流が途絶えたとき、フォビドゥンとカラミティは健在だった。
「やれやれ、とんでもない連中だ」
どっと歓喜の声が上がったミレニアムの中で、コノエは脱帽したように呟いた。
レクイエム本体は守備隊と鉄壁のシールドで守られており、たとえミラージュコロイドを使用して接近したとしても攻略は困難だ。
しかし第1中継ポイントの偏光リングを破壊すれば、レクイエムから発射されたビームは虚空に放たれる。つまり1度だけは無力化できるのだ。
そして偏光リングを1撃で破壊する攻撃力と、その後レクイエムから放たれたビームから身を守る防御力を備えているのは、カラミティとフォビドゥンだけだった。
ブラックナイツの隊長を返り討ちにしたクロトといい、ブエル隊のメンバーはザフト兵とは別の意味で問題児ばかりだったが、こういう状況では頼もしいかぎりだ。
「当然です」
戦況を眺めていたムルタ・アズラエルは居直るように言った。
これまでの経験で懲りており、ミレニアムの指揮について口を出すことはなかったが、それでもその白いスーツ姿は、艦橋の中でも異彩を放っていた。
かつてアズラエルが出資者としての権限を利用して手に入れた生体CPU──ブーステッドマンたちは、どれも戦闘能力においてコーディネイターを遥かに凌駕する存在だった。
「奴らはその為に造られたんですから」
咎めるような視線に、ムルタは不満そうな表情をした。
もちろん、あくまで出資者の1人に過ぎないムルタに全ての責任があるわけではない。
アズラエルがその存在を知るずっと前から、ロゴスはプラント理事国軍、そして地球連合軍を裏でコントロールしていた。
そして無数の孤児をその関連施設で引き取らせ、洗脳教育や人体改造を施し、忠実な配下に仕立て上げていたのだ。
地球連合軍の上層部もその事実を把握しながら、ロゴスやブルーコスモスの圧力、そしてコーディネイターを滅ぼすためその存在を黙認していたのだ。
「だが、今は違うのだろう?」
「……ヒトは才能が全てではないってことですかねぇ」
ラウの言葉に、ムルタは不承不承頷いた。
レクイエムの射線上に身を晒し、遥か彼方の第1中継ポイントを正確に狙撃する度胸と、味方を庇うために身を投げ出す勇気。
それを可能にするのは、真の意味で自らの闘争心をコントロールする素質だ。
そしてそれはファウンデーションの提唱する、全てを遺伝子で決定する世界では決して見出だされない才能だろう。
レクイエムの一時的な無力化に成功したことを確認したオーブ主力艦隊は偽装を解き、地球軍・オーブ軍と交戦していたレクイエム防衛部隊を強襲した。
クサナギの放った主砲がザフト艦を貫き、一部がレクイエムを掠めるが、分厚いシールドで覆われた砲口には掠り傷すらついていない。
遠距離からの攻撃では、レクイエムの砲口を覆うシールドを破壊することは出来ないのだ。
一方でファウンデーション艦隊と交戦しながら、戦場に辿り着いたミレニアムは複数の砲塔を射出する。
それらの一部は飛び回って敵のモビルスーツを追尾し、一部はムウの操作に従って挟む込むように移動すると、次々にビームを発射する。
アルバートが開発した、自立して飛び回る誘導砲が敵を自動追尾すると共に、空間認識能力に長けた火器管制担当がドラグーン・システムを利用してその補助を行うシステムだ。
フリーダム・ジャスティスはもちろん、プロヴィデンスの製造にも携わったアルバートならではの新兵器と言えるだろう。
背後から追い掛けるファウンデーション艦隊が、ミレニアムの主砲を受けて次々損傷する。そんな中、4機のモビルスーツ隊が迫りつつあった。
〈ブラックナイツが来たぞ!〉
レイは無数のドラグーンでジンを撃ち抜くと、機体を反転させて叫んだ。ファウンデーション艦隊から発進したモビルスーツ隊は一通り撃退したが、ここからが問題だ。
〈ビームは通じない! レイは俺と奴らを! ルナとアグネスは援護を頼む!〉
ブラストシルエットに搭載されたビーム砲、レールガンで敵のモビルスーツ隊を薙ぎ払っていたルナマリアや、その露払いで接近するモビルスーツを次々斬り捨てていたアグネスを置き去りにする勢いで、シンはデスティニーを加速させる。
「学習能力のねぇ馬鹿だなぁ! お前らは俺達には勝てないんだよ!」
グリフィンたちはこちらに真っ直ぐ向かってくるデスティニーを嘲笑した。
戦う前から結果は分かりきっている。彼らの機体は、どれもルドラには遠く及ばない。
特にPS装甲の次世代技術であるフェムテク装甲は、電力をほとんど消費しないにもかかわらず、ビームや実体攻撃に対しても圧倒的な強度を持っている。
そして相手のパイロットはシン・アスカ、レイ・ザ・バレルといった有象無象だ。
彼らは偉大なプラント議長、ギルバート・デュランダルの悲願を叶えられなかった雑魚だ。
あの成り損ないに執着してナチュラルに敗れてしまったシュラと、自分たちは違うのだ。
──こいつらは、俺と同じなんだ。
不意にシンの脳裏で声が響いた。
運命計画の守護者として、それを拒絶する者たちの全てを葬り去るだけの戦士。
その点においては、自分も彼らブラックナイツたちも、何も変わらない。むしろそのためだけに造られた彼らと違い、他に選択肢は無数にあった筈だ。
自分は命令に従っただけだと、正当化するつもりはない。
あの日自分たちが勝っていれば、今と同様の惨劇が起こっていたはずだ。俺に彼らを裁く権利などあるのだろうか。
〈私だって!〉
するとルナマリアがブラストシルエットをパージし、格闘専用のソードシルエットに換装する姿が見えた。
どうやらブラックナイツと正面から戦うつもりらしい。
もちろん負けるつもりはないのだろうが、ブラックナイツの実力はルナマリアを遥かに凌駕している。
〈ボーッとしてるんじゃないわよ!〉
アグネスの声がコクピットに響き渡る。
確かに、こんな時に余計なことを考えている暇などない。
シンは標的を真正面に見据えると、デスティニーは2機のルドラに真っ向から突撃する。
背部のウィングユニットから真紅の光の翼を展開しながら対艦刀を振り被り、先頭のグリフィン機に猛烈な勢いで斬り掛かった。
半端な体勢で受け止めた重斬刀を一振りで粉砕し、そのままシールドごと吹き飛ばした。
続けてリデラード機が放ったビームを更に加速して回避すると、振り向きざまに放った掌部ビーム砲でビームライフルを破壊する。
「なんなのコイツ!?」
ビームライフルを破壊されたリデラードは、重斬刀を抜いて斬り掛かろうとする。
しかし狙いすましたようにレールガンが放たれ、反応が遅れたリデラードは回避することもできずに強烈な衝撃に襲われた。
デュランダルに多少才能を買われていたとはいえ、先日の戦闘でもオルフェに一蹴されたのではなかったのか?
「コイツ、何も考えていないのか!?」
驚愕したグリフィンは叫んだ。
攻撃を先読みしようとしても、その思考を読む前に攻撃が来る。
それどころかこちらの攻撃が読まれているようだ。思考と行動のタイムラグが存在しないどころか、反射的に攻撃を繰り出しているかのようだ。
デスティニーは無数の分身を繰り出し、高速で迫りながら攻撃を開始した。
無数のドラグーンを同時に展開しながら、レイはズゴックを加速させる。
左右から放たれる無数のビームを見切ったように回避し、機体の各所からミサイルを発射しながら次々にオールレンジ攻撃を実行する。
「なんなのこれっ!?」
ダニエルは悲鳴を上げた。
複数のドラグーンを操作しながら、モビルスーツ本体も高速機動させるレイの思考は直感的かつ複雑で、その膨大な情報量に圧倒されていた。
これではその情報を処理するだけで精一杯で、先読みなど出来ない。
ドラグーンがフェムテク装甲に守られていないビームライフルを執拗に狙い、それを迎撃しようとした瞬間、ダニエル機はズゴックの鈎爪を受けて吹き飛ばされた。
リューは立て続けにビームライフルを連射するが、まるでそれぞれが生物のような有機的な動きをするドラグーンは、それを立て続けに回避し続ける。
ビームスパイクを展開した大型ドラグーンの挟撃をシールドで防いだものの、思考の間隙を縫って放たれていたミサイルの直撃を受け、リュー機のコクピットが大きく揺れた。
「……どういうことだ!」
これはスーパー・ドラグーンだ。リューは焦った声で叫んだ。
レイの戦闘データは見たことがあるが、操作難易度が第1世代ドラグーン相当に跳ね上がる代わりに、操作自由度が増したスーパー・ドラグーンを使うのは初めてのはずだ。
ドラグーンに搭載されている兵器はフェムテク装甲にはほとんど無意味と知りつつも、こちらの読心術を無力化するために使っているのだろうか。
「どうした? 俺たちの思考が読めるんじゃなかったのか?」
ある意味、思考のチャフを撒いているようなものか。
レイはドラグーンを利用してルドラの動きを牽制しながら、腕部クローからメガ粒子砲を発射した。
「そろそろ引退して、君とコーヒー農園でも始めるつもりだったんだがなぁ」
バルトフェルドはプラント首都、アプリリウスの某所で湯気の立ち上るコーヒーを啜った。
「ままならないものね、アンディ」
肩を竦めるアイシャに同意するかのように、バルトフェルドは溜息を漏らす。
あの味の分かる少年も嘆いていたが、この退屈しないご時世で第一線から身を引くのはなかなか難しいらしい。
もっとも自分などいなくても、この有能な副官と元クルーゼ隊の後輩がいれば上手くやってくれるような気もするが、それだけ今回起こった事件は厄介なものなのだろう。
なんせ現役のプラント国防委員長のその一派がファウンデーションの口車に乗ってレクイエムを密かに修復し、現政権に対するクーデターを実行したのだ。
これでは鎮圧に成功したとしても、プラント批判の声が強まるのは間違いない。
もっともたった数年で3度もこんな馬鹿げたことをしでかすような国に、平穏など永遠に来ないのかもしれないが。
「イザークとディアッカは、予定通り月に向かったようです」
ニコルは淡々とした声で言った。
この状況を打開するためには、2人の存在が必要不可欠だ。
ジャガンナート率いるレクイエム防衛部隊の鎮圧を他国に委ねてしまっては、ザフトはその存在意義を喪ってしまう。
とはいえエターナルとあの骨董品でどこまでやれるのか、どうにも不安が残るが……。
「賢明な判断だな。──では諸君、健闘を祈る!」
アンドリュー・バルトフェルドはクーデター鎮圧作戦を実行するため、飲み干したカップを置いて立ち上がった。
そしてターミナルのメンバーとして、今回の作戦に参加しているバルトフェルドの部下──マーチン・ダコスタとニコル・アマルフィの指揮の下、二手に分かれた部隊は行動を開始した。
戦況が変わりつつあることを悟ったマリューは、前方に展開しているファウンデーション艦隊を見据えた。
ジャスティスを回収したアスランはいち早く月に向かい、先程までシヴァと死闘を繰り広げていたクロトもそれを追う形で月に向かった。
ミレニアムと合流したハイペリオンも、整備と補給が終わり次第、再び出撃する予定だ。
レクイエム攻略は彼らとオーブ軍主力艦隊に任せ、ミレニアムはグルヴェイグを討つ。ラクスがグルヴェイグに囚われている以上、最優先事項はその奪還だからだ。
そしてアルテミスを追われたアウラ・マハ・ハイバルを含め、ファウンデーション上層部の制圧に成功すれば、孤立したザフト艦隊も士気を喪失するだろう。
するとそのとき、手元のモニターに動揺を隠し切れないヒルダの顔が表示された。
〈ちょっと艦長! ……いったいあのコ、何をしようってんだい!?〉
「キラちゃん!?」
マリューはヒルダの示した方向に視線を向けると、驚きのあまり声を上げた。
なんとキラはアルバートとアスランが未完成のまま放置していたプラウドディフェンダーに乗り込み、出撃しようとしていたのだ。
カラミティ&フォビドゥンの組み合わせなら、レクイエムに対して中継地点破壊→ゲシュパンガードが出来るのは偶然ですがラッキーでした。
未完成のプラウドディフェンダーで!?(お出しされる専用パイスー