逆襲のクロト   作:皐月莢

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ストライクレイダーフリーダム

 クサナギに迫る無数のミサイルが、宇宙空間を疾走する光の雨によって粉砕された。

 ボアズ方面から駆けつけ、オーブ主力艦隊を防衛する役割を果たしていたのは、バッテリーから核動力に換装し、ミーティアを装備したデュエルとバスターだった。

 イザークとディアッカは一斉にビームを放ち、目の前のミサイル群を無数の炎の塊に変えていく。

 そしてイザークはザフト艦隊に向けて通信回線を開くと、力強く宣言した。

 

〈軍本部からの命令を再度通達する! ジャガンナート中佐麾下のザフト軍将兵はただちに戦闘行為を中止し、武装解除して投降せよ!〉

 

 レクイエムの第一射が阻止された直後、バルトフェルドを中心とするクライン派の部隊によって、プラント本国で発生していたクーデターは鎮圧された。

 これによって潜伏していたラメント議長は再び表舞台に登り、ジャガンナート派に奪われていた権力の再掌握に成功した。

 クーデターを首謀した者たちが占拠していた評議会ビルや軍本部は、ニコルやダコスタが指揮する部隊の迅速な行動により制圧され、人質として囚われていた要人たちは解放され、首謀者たちは自決するか、捕らえられることになった。

 

〈ナチュラルどもの暴虐から同胞たちを解放するのだ! このままでは何も変わらんのだ!〉

 

 ジャガンナートの声は、もはやプラントの代弁者としてではなく、危険思想を振り翳すテロリスト集団の首領の叫びに過ぎなかった。

 イザークとディアッカがこの場に来たのは、ジャガンナートの野望を阻止するとともに、その危険思想に賛同するザフト兵を1人でも多く説得するためだった。

 

〈時代錯誤のバカどもがっ! 無駄に兵を殺すなっ!〉

 

 このままファウンデーションの同胞として戦い続ければ、彼らは間違いなく反逆罪で銃殺刑にされるだろう。

 イザークは、デュランダルが国内の人気を得るために自分の命を救ったことを思い返し、その虚しさに自嘲しながら叫んだ。

 

〈もう無理だイザーク! 説得に応じるくらいならこんなことしねぇだろ!〉

 

 ディアッカはビームを避けながら、苦々しい口調で反論した。

 このまま地球がレクイエムで撃たれるようなことがあれば、勝っても負けてもプラントは破滅する。

 かつての仲間を討ちたくないからと、いつまでも悠長に説得している訳にはいかないのだ。

 

〈何をダラダラやってんだ、お前らァ!〉

 

 オルガの声が宇宙空間に響き渡る。

 その声に反応したかのように、ザフト艦隊の陣形が大きく乱れた。その混乱を突いて、カラミティとフォビドゥンに乗ったオルガとシャニが突如として姿を現した。

 

〈ファウンデーションは何をしているのだっ!? なぜ奴らまで生きている!?〉

 

 ジャガンナートの声には動揺の色が混じっていた。

 ザフト艦隊の前には、第一次連合・プラント大戦でその威力を振るった、オルガ・サブナックとシャニ・アンドラスが操るカラミティとフォビドゥンが立ち塞がっている。

 かつてクロトの同僚であり、地球連合におけるエースパイロットだった二人は、第二次大戦ではほぼ表舞台に姿を現すことはなかった。

 しかし最近ではコンパスの一員として、ジャガンナートが第三次大戦の引き金になるとして意図的に暴走させたザフト兵を葬り去り、未然に戦争の火種を摘み取っていたのがこの2人だ。

 ジャガンナートがクーデターを起こした最後の決め手は、ナチュラルでありながら世界屈指の実力を誇るクロト、オルガ、シャニたち3人をファウンデーションが葬ったと聞かされたからだ。

 クロトはもちろん彼ら全員が存命である事実は、コーディネイターの優秀性を示すことで正当性を主張するジャガンナートの計画にとって予想外の状況だったのだ。

 

〈ごちゃごちゃうるせーんだよ。どうせテメーらは全員地獄行きなのによぉ!〉

〈あの野蛮なナチュラルどもを殺せ!!〉

 

 オルガの嘲笑が戦場に響き渡ると同時に、フォビドゥンは巨大な鎌を構えた。

 ジャガンナートの命令を受けたザフト艦隊の猛烈な火力が吹き荒れる中、敵艦隊に向かって一直線に進撃する。

 その動きは機敏かつ繊細で、敵の攻撃を見事に躱しながら迫り、ザフト艦隊の旗艦ブルクハルトの艦橋を一閃して斬り落とした。

 斬り落とされた艦橋はまるで紙屑のように千切れ飛び、一瞬のうちに宙を舞った。

 その直後、カラミティから発射された地中貫通砲弾がフォビドゥンによって斬り捨てられた艦橋を直撃した。

 壮大な爆発が起こり、その残骸は瞬く間に消滅する。

 この一瞬の隙を突いて行われた連携攻撃は、コーディネイターの優位性を謳っていたザフト艦隊に恐怖を植え付けた。

 

〈へぇ、死後のセカイなんて信じてるんだ?〉

〈まさか。俺はイカれた連中を殉教させてやるほどお人好しじゃねーってだけだ〉

 

 オルガはイザークとディアッカの驚愕した表情に満足すると、平然と言った。

 

〈き、貴様ら……〉

〈けっ。あとはテメーらでなんとかしろ〉

 

 オルガとシャニはジャガンナートを討たれて大混乱に陥ったザフト艦隊をその場に残し、再びレクイエムの方角に機体を進めた。

 

 

 遥か遠くの視界の外から、無数のミサイルがクロトに向けて飛来していた。

 クロトはこれらを巧みに避けつつ、機体のスラスターをフルに活用して加速した。

 全てにおいてレイダーを上回る戦闘能力に、支援機がもたらす大型戦艦級の火力。まさに圧倒的な性能を誇るカルラだが、それでも弱点は存在する。

 クロトが接近戦を仕掛けている間だけは、同士討ちを引き起こす可能性を恐れて、一時的に弾幕の数が減少するのだ。

 クロトは頑丈な白銀の装甲で覆われたカルラに、両肩のレールガンを連射しながら接近する。

 ビームシールドの展開を強制させるほどの強烈な連続攻撃で、オルフェを圧倒しようとした。

 思考を高速化させて極限まで反応速度を上げたクロトの猛攻に、オルフェは退避することも出来ない。

 クロトは胸部ビーム砲のカウンター攻撃を反射的に構えたシールドで防ぎながら、さらに距離を詰めた。

 

 ──ここからが勝負だ。

 

 クロトはこれまで封印していた口部ビーム砲を発射して、カルラに強襲を仕掛けた。

 オルフェはレイダーの放った不可視の刃を警戒し、反撃を中断して回避した。

 しかし赤黒い強烈な閃光が、オルフェの視線を一時的に奪った。その不吉な閃光を隠れ蓑に、クロトは全力で破砕球を投擲した。

 強烈な質量攻撃が白銀の装甲に直撃し、熾天使を連想させるカルラの赤い光の翼が激しく揺らめいた。

 まずはどちらかの腕を捥ぎ取ってやる。

 もしもビームシールドを搭載した腕を片方でも破壊することに成功すれば、カルラの戦闘能力を大幅に削ぐことができるはずだ。

 クロトは漆黒の実体剣を振り下ろし、不完全な体勢で振り上げたカルラのビームソードを粉砕した。

 そのまま一気に連続攻撃を仕掛け、武器を喪失して無防備な右腕を斬り落とそうとした。

 その瞬間だった。

 斜め前方からルドラに酷似した、紫の意匠が施された禍々しいモビルスーツが現れた。

 その火力支援型モビルスーツ──“ドゥルガー”と名付けられた機体に誘導され、遠距離から放たれた偏向ビーム砲がレイダーの大型可変ウィングを吹き飛ばした。

 カルラと同様にジグラートに対応しており、純粋な殲滅力はブラックナイトシリーズ最強の機体だ。

 ドゥルガーは深手を負ったレイダーに向かって凄まじい速度で迫ると、ビームソードを振り下ろした。

 クロトは大きく機体を揺らしながらも、かろうじてシールドでその斬撃を受け止める。

 

〈懲りねー奴だなぁ!〉

 

 クロトは呟き、ビームサーベルで反撃を試みた。

 イングリットはその攻撃を回避するが、クロトはレールガンを連射して牽制した。

 イングリット・トラドールは国務秘書官でありながらブラックナイツの一員であり、アコードの1人だ。ブラックナイトシリーズのモビルスーツを操縦することは、十分に想定出来たはずだ。

 つまりアルテミスでイングリットに示した情けが、この面倒な戦況を招いたのだ。

 クロトは心の中で舌打ちした。

 

〈…………〉

 

 イングリットはジグラート2機を新たに従え、大型戦艦級の弾幕を展開しながら斬りかかった。

 クロトが上空に跳び、ミサイルの雨を避けながら距離を取ろうとすると、それをぴったりと追尾するように偏向ビームの嵐が降り注ぎ、逃げ場を失わせる。

 その隙を突いてオルフェは接近し、ビームライフルで狙いを定めた。

 クロトはかろうじて機体を捻って攻撃を避けるが、ビームソードでレールガンを両断される。

 視界が赤く染まる程の激しいGに耐えながら、クロトは機体を切り返して口部ビーム砲を発射した。しかしドゥルガーが構えたシールドでその赤黒い閃光は防がれた。

 そして直後に降り注いだ無数のミサイルが直撃し、クロトは月面に叩き落とされる。

 

〈この死に損ないがっ!〉

 

 オルフェはイングリットの加勢もあり、とうとうクロトが攻撃を回避し切れなくなり始めたことを見て、勝利を確信しながら叫んだ。

 先程から警戒していたフェムテク装甲を無力化する正体不明の攻撃も、どうやら使用出来ないらしい。

 単なる高出力ビームであれば、必要以上に恐れる理由などないのだ。

 

 ──って思ってんだろ?

 

 クロトは思考を極限まで加速させ、不敵に笑った。

 月面に叩き落とされたレイダーの頭上に、ジグラートが放った無数のミサイルが降り注ぐ。

 まるで終末戦争のような光景に、クロトは機体を立ち上がらせた。

 最大速度で破砕球を振り回し、索敵範囲外から迫り来るミサイルを次々に迎撃した。

 しかし頑丈な高分子ワイヤーも遂に限界を迎え、真ん中からぶつりと千切れてしまう。

 これではもう攻撃を防げない。だけど諦めるな──僕にはキラの愛が──キラへの愛がある。

 

〈そろそろ終わりにしようぜ!〉

 

 クロトは叫びながら、更に集中した。

 途方もない負荷で脳も肺も心臓も何もかも不意に爆発しそうな感覚に襲われるが、今は後回しだ。

 クロトは破砕球の持ち手を投げ捨てて漆黒の実体剣を構えると、ジグラートのミサイル攻撃が一時的に停止した隙を突いて鋭く加速した。

 全スラスターをフル稼働させ、迎え撃とうとするイングリットに強烈な斬撃を放った。

 シールドごと切り裂くような勢いの強打に、レイダーとドゥルガーの間に壮烈な火花が散った。

 もう一発叩き込んでやる。

 オルフェの斬撃を紙一重で避けたクロトは、体勢を立て直そうとしていたドゥルガーに叩き付けるような軌道で実体剣を振るい、カルラを吹き飛ばした。

 

〈ディスラプターを使う。──クロト・ブエル1佐、ディスラプター使用を申請〉

 

 クロトが宣言すると、キャバリアーを通じて地上のストライクルージュとリアルタイムで通信している専用モニターが反応した。

 

〈はいっ。ディスラプター使用を承認いたします〉

 

 遺伝子学者ギルバート・デュランダルが見出した、ラクスと99%以上の一致率を誇るミーアの声がコクピット内で響き、ディスラプターの使用承認が下りた。

 ラクス不在の中、ストライクレイダー弐式の最大火力であるディスラプターツォーンを解禁するために、クロトが用意した正真正銘の反則技だ。

 

〈ディスラプター起動! 出力35%!〉

 

 レイダーのフェイスシャッターが開き、その更に奥から異様な形をした発射口が現れた。

 あとはディスラプターを発射するために必要なパワーをチャージするだけだ。最初に放った一撃は戦場に到着するまでの時間を利用してパワーチャージすることで、その過程を省略していたのだ。

 

〈オルフェ!〉

 

 莫大なエネルギーの集中を感じ取ったイングリットはドゥルガーを加速させると、ビームライフルを連射しながら突撃した。

 詳細は不明だが、チャージを中断させればクロトの全てを賭けた攻撃が失敗するのは明白だ。

 クロトはイングリットの追撃を真っ向から受け止めるように、機体を急旋回させた。

 ビームを紙一重で躱しながら実体剣を振るい、イングリットのビームライフルを両断する。

 

〈お前の価値を証明しろ! イングリット!〉

 

 オルフェが声を上げる。

 イングリットはライフルを破壊されながらもレイダーに突撃し、ビームソードで猛攻を仕掛けてクロトの動きを制限した。

 その隙を狙い、オルフェはドゥルガーの背後に隠していたドラグーンから、ドゥルガーの装甲を掠めるような軌道でビームを放った。

 

〈舐めんなよ〉

 

 凝縮された時間の中で、クロトは静かに呟いた。

 すると放棄されたはずの破砕球が無線誘導を受けて曲線を描き、自らの犠牲と引き換えにドラグーンから放たれたビームを掻き消した。

 唖然としながらも放ったイングリットの斬撃を神憑り的な反応で回避すると、クロトは無防備なドゥルガーとその後方のカルラを射線上に捉えた。

 レイダーの口部に、核融合炉から供給された莫大なエネルギーが集中する。 

 イングリットが死を覚悟した──その瞬間だった。

 

〈!?〉

 

 激しいアラームが鳴り響き、クロトのディスラプターの使用が強制的に中断された。直後、エンジンがオーバーヒートを起こし、機能が停止してしまった。

 やはり大型可変ウィングをディフェンダーに換装していないレイダーでは、戦闘機動を続けながらの発射は不可能だった。元々使用が想定されていたライジングレイダーならまだしも、あくまで新装備の実験機に過ぎないストライクレイダー弐式なら尚更不可能だったのだ。

 突然の事態に動揺したクロトに大量のミサイルが降り注ぎ、VPS装甲がダウンして色彩を失った機体はその場に倒れ込んだ。

 

〈やはり運命は私を選んだのだ!!〉

 

 オルフェは狂喜して叫んだ。

 こんな塵のような奴に自分が劣るわけがない。自分はいつもラクスを想っていた。

 プラントの放送で彼女が歌う姿を見た時も、デュランダルが討たれ、未来が閉ざされた時も。

 自分はラクスの伴侶にふさわしい存在になるため、自らを鍛え上げてきた。

 ラクスを手に入れることさえ出来れば、輝かしい未来が待っていると確信していた。たった一つの小さなエラーが起こらなければ。ラクスが間違った相手を愛さなければ。

 この世界は自分が支配していたはずだったのだ。

 地に伏したレイダーを確実に仕留めるため、オルフェがジグラートに無数のミサイルを発射させた瞬間、何かに気付いたラクスはぼそりと呟いた。

 

「──貴方には、何も見えていないようですね」

 

 するとミサイル群とレイダーの間に割り込むように、カナードのハイペリオンが現れた。

 背後のレイダーを守るように球体状のビームシールドが完全展開され、まるで絨毯爆撃が行われたようなミサイル攻撃を無傷で凌いだ。

 カナードはビームソードを抜き、ドゥルガーに猛然と斬りかかった。 

 

「無駄な足掻きを!!」

 

 オルフェは大声で叫んだ。

 カナード・パルス。あんなアコードの成り損ないの失敗作が一人現れたところで、何ができるというのか。それに相変わらずレイダーは無防備のままだ。今なら確実に破壊できる。

 

「これで終わらせる!! 全弾、レイダーに叩き込め!!」

 

 イングリットとオルフェの操る4基のジグラートの全砲門からミサイルが一斉に発射される中、クロトはレイダーをふわりと上昇させた。

 

「クロト!」

 

 まるで戦闘機のような青い翼が、レイダーを包むように覆い被さってきた。愛しい人の声に促されるまま、クロトはレイダーの大型可変ウィングをパージした。

 

「「エンゲージ!」」

 

 クロトとキラの音声入力で、合体シークエンスが開始される。

 2人の息を合わせた正確無比な操縦で、クロトのストライクレイダー弐式とキラのプラウドディフェンダーが一体化する。

 その瞬間、ディフェンダーからパワー供給を受けてオーバーヒートしていた核融合炉が急速に冷却され、エネルギーゲージが瞬く間に回復した。

 灰色のVPS装甲がストライクレイダーを示すモノトーンカラーに変わったかと思うと、フリーダムを連想させる鮮やかなトリコロールカラーに変化する。

 ディフェンダーに搭載された蒼い機動兵装ウィングが展開し、青白い光の翼が広がった。

 最後に翼から放たれた光の粒子が機体全体を包み込み、まるで新たな力に目覚めたかのように輝きを放った。

 次の瞬間、圧倒的な数のビームとミサイルがレイダーに向かって着弾した。

 まるで戦艦が誘爆したかのような爆発と閃光が戦場を照らし、その凄まじい衝撃波が周囲を揺るがせた。オルフェはその光景を見て、クロトの死を確信した。

 

「なんだと……」

 

 しかしその煙を吹き散らすかのように、ツイン・アイが鮮やかな黄金の光を放った。そしてオーロラのような光に包まれながら、無傷のストライクレイダーフリーダムが姿を現した。

 その凶悪なシルエットながらも洗練された光り輝く蒼い翼を背負った機体は、荘厳な雰囲気すら漂わせていた。

 それは全天使の長に命じられながら神と対立し、神の敵対者となった堕天使の長を連想させた。

 神の創造物でありながら自由意志を抱き、創造主に挑んだ者。それはまさにクロトとキラが乗るに相応しい、真の自由を掴み取るための機体だった。

 

「これが、キラの意思ですわ」

 

 ラクスの声が耳に届いた瞬間、オルフェはフリーダムの傍らに立つキラの姿を見た。

 アコードの成り損ないに過ぎないはずのキラが、強い意思を持った瞳でオルフェをじっと見つめていた。

 その姿は、まさに自分がラクスに求めていた姿そのものだった。

 自らの意思で、自らの伴侶として認めた者を守るために戦場に立つ姿。

 これこそが愛。

 生まれる前から運命の相手として定められているからと、その全てを貪り尽くしてもなお受け入れられない自分が、どうしようもなく惨めに思えた。

 

〈ならばその愚鈍な愛とともに滅びるがいい!!〉

 

 嫉妬と憎悪だけが、オルフェの脳裏を支配していた。

 カルラから放たれた無数のビームが光の渦に呑み込まれて無力化される中、フリーダムのコクピットハッチが開いた。

 キラはその中に身を躍らせ、クロトの膝に乗った。そして心身ともに傷つきながらも、キラの身を案じているクロトに微笑みかけた。

 

「私の意思は、クロトと一緒だから。……死が二人を分かつまで、よろしくね」

 

 キラはまるでここが戦場ではないかのように笑った。その笑顔に、クロトもつられて笑みを浮かべる。この人と一緒なら、たとえ世界だって救ってみせる。

 

「任せて」

「あぁ」

 

 キラはクロトに支えられながら、フリーダムの操縦桿を握り締めた。

 カルラ本体とジグラートから放たれる無数のビームが降り注ぐ中、機動兵装ウィングから放出されるナノ粒子がそのエネルギーを吸収し、フリーダムに届かせなかった。

 しかし遅れて発射された無数のミサイルが迫ってくる。その圧倒的なまでの数は、まるで宇宙艦隊が一斉射撃を実行したようだった。

 

「トリィ!」「ブルー!」

 

 フリーダムの左右をトリィとブルーが飛んだかと思うと、キラのヘルメットを通じて脳波リンクしたディフェンダーが作動した。

 量子ネットワークの補助を受けて脳波制御されたディフェンダーが、射程範囲内に存在する敵機の全ミサイルとドラグーン、さらには遥か彼方の敵戦艦までも一瞬でロックオンした。

 

「当たれぇ──!!」

 

 その瞬間、ディフェンダーから放たれた指向性の電撃が宇宙空間を駆け抜け、ロックオンしていた全ての目標に命中した。

 ミサイルは空中で爆発し、ドラグーンはその場で沈黙して機能停止し、戦艦もメインシステムに強烈な電撃を受けて無力化された。

 唯一無事なのは、フェムテク装甲で守られていたカルラとドゥルガーだけだ。

 ディフェンダーから放出されたナノ粒子は、特定の波長の電波を吸収し、熱を発生させて周囲に電場を生成する。

 その電場の生成の際に生じる電子の移動で電流が発生するのだ。

 敵のビームを吸収し、そのエネルギーを敵を無力化するための攻撃に変換する。

 まさにディフェンダーの名に相応しい、最強の矛と盾としての能力を両立させた装備だ。

 クロトは膝の上に座っているキラを見つめた。

 一瞬で射程範囲内の全情報を把握し、神業のようなマルチ・ロックオンを成立させた彼女。

 トリィとブルーの支援があったとはいえ、常人には到底できない技だ。

 アコードの創造主でありながら、ギルバート・デュランダルが最強の戦士と評した力。数多くの命を犠牲にして完成した、世界最高のコーディネイターとしての力。

 そんなキラ自身も忌み嫌っていた強大な力を、クロトを守るために発揮したのだ。

 

〈──クロト・ブエル1佐、ディスラプター使用を再申請〉

 

 しかし、まだあの支援機が残っている。あの圧倒的な火力はこのまま無視することは出来ない。

 クロトが言うと、再度コクピットに特殊な承認パネルが表示された。

 するとキラはカルラにオープン回線を繋いだ。

 もしもラクスがオルフェの支配下に堕ちていれば、彼女の言葉でディスラプターは封印されてしまう可能性があるのだ。

 ストライクルージュのコクピットでカガリとミーアが騒然とする中、ラクスはキラの見せた全てを超越した絶技に動揺しているオルフェを横目に、強い口調で言い切った。

 

〈ディスラプター使用を承認いたします〉

〈ぶちかませ、キラ〉

 

 ラクスの声に続いて、アスランの声が届いた。

 密かにメサイアを回り込んでいたジャスティスから、ジグラートの位置情報が送信される。

 これまでに何度か放たれていた偏向ビームの角度から、その位置にある程度見当を付けていたキラは、アスランから入手した情報をもとに微調整を行った。

 本来であればアコードでなければ捕捉できない位置に潜伏しているジグラートを捉え、キラはクロトと共にトリガーを引いた。

 

〈出力80%! ディスラプターツォーン発射!!〉

 

 レイダーの口部から莫大なエネルギーが発射された。

 重核子を一点に収束させて発散することで、不完全な出力でもビーム耐性を誇るフェムテク装甲を蒸発させ、最大出力なら理論上防ぐ手段が存在しない超高出力のビームだ。

 まさに世界を断つ不可視の刃がメサイアを両断し、その奥に隠れていたジグラートを消滅させた。

 2つに斬り捨てられたメサイアはその上部だったものを月面に墜落させると、激しい砂煙を上げながら崩壊した。




やはりキラ・ヤマトが最強か……。

ストライクレイダーフリーダムの状態だと、基本的にフリーダム表記となります。

既にゲロビしかレイダー要素はありませんし、VPS装甲もトリコロールカラーに変化するので当然ですね。
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