オルフェはキラが操縦するフリーダムとの戦闘に、身を投じていた。
思考を読みながらビームライフルを連射するが、蒼い翼から放出される金色のナノ粒子によってビームを無力化され、一向に損傷を与えられない。
そのフェムテク装甲をも凌駕する防御力に、オルフェは焦りの色を隠せない。
だったら接近戦だ。
オルフェはカルラを突撃させると、ビームソードを振るって斬り付ける。しかし必死の形相で放った斬撃も漆黒の実体剣とシールドに阻まれ、ことごとく届かない。
キラにとっては、久々の実戦であることは間違いない。
だが、その技量はクロトを遥かに凌駕していた。一度、二度と交錯する度に、機関砲を叩き込まれた胸部ビーム砲が沈黙する。
真紅の翼を展開していたウィングの一部が斬り裂かれて宙を舞う。ビームライフルが真紅の閃光に貫かれて破壊される。
その際に生じた衝撃でオルフェの身体が揺さぶられ、カルラの計器が赤く点滅する。
アコードの成り損ない。
ラクス・クラインのデッドコピー。
そんなアウラの言葉が単なる虚勢だったと証明するかのように、キラはアコードを超越した才能をオルフェに見せ付けている。
キラの思考が読めていなければ、とっくに撃墜されていても不思議ではない。
これは何かの間違いだ。
人類を導くアコードの王として生まれた自分が敗北するなど、絶対にあり得ないのだ。
「失敗作がっ!」
それでも純粋な機体性能は、各陣営の最新技術を導入したカルラの方が上だ。
オルフェは操縦桿を強く握り締め、怒りを募らせながらビームソードを振り抜いた。
強烈な一撃を受けたフリーダムは大きく後退するが、一瞬で態勢を立て直して再びカルラに迫ってくる。
「馬鹿な……!」
すると突然、付近でカナードと戦っていたイングリットの思念が途絶えた。ミレニアムに向かった他のアコードたちも、先程から思念を感じられない。
ついに自分を除き、ブラックナイツは全滅してしまったのだ。いよいよ絶望的な状況に直面したオルフェに、焦燥感が一気に押し寄せた。
「くそッ!」
オルフェは叫び声を上げ、カルラのコクピット内にその虚しい怒りを響かせた。
クーデターの首謀者であるジャガンナートが討たれたことで、統制を失ったザフト反乱軍は次々にオーブ軍・地球軍の猛攻に屈している。
鉄壁と思われた防衛網は完全に崩壊し、雪崩が起こったように食い破られ始めていた。このままではレクイエムを守り切るのは到底不可能だ。
自分たちアコードは、コーディネイターを超える究極の存在だ。下等種族の寄せ集めなどに、敗北するなどありえないのだ。
しかしもう形勢逆転は不可能だ。
ジグラートを失ってからは、フリーダムとの戦闘でも圧倒され続けている。
仮にこの場で勝利したとしても、戦略的には敗北が確定している。
本拠地にする筈だったアルテミスを喪失し、最大の武力であるレクイエムの喪失も確実だ。
頼みの綱であるプラントからの支援も期待出来ない以上、たとえキラを退けたとしても圧倒的な物量で押し潰されるだけだ。
「もう終わりにしましょう、オルフェ。投降してください」
後部座席から、ラクスの声が届いた。その静かな声には確固たる決意が込められていた。
オルフェはその声に反応し、振り返った。
ラクスの顔には恐怖や怒りはなく、ただ哀しい表情を浮かべていた。そしてオルフェの苦悩を理解しているかのように、超然とした瞳で見つめていた。
オルフェはその落ち着き払った雰囲気に、ある種の優越感のようなものを感じて激昂した。
「貴女は私と人類を導く為に生まれたのだ! 貴女はこの世界がどうなってもいいというのか!」
オルフェは怒りに震えながら叫んだ。
ラクスが自分達に協力的だったなら、この戦いは確実に勝利していたはずだ。
自分たちアコードは、この世界を導くために造られた存在だ。だからこの世界がどうあるべきか常に考え、それを実践しなければならない。
それがアコードとして生まれた者の使命なのだ。
今のままが心地よいから。愚かな下等種族に崇拝されている現状の方が楽だから。
だから、ラクスは自らの使命を拒むのだ。
「わたくしはそんな大層なものではありません。愛する御方を振り向かせるどころか、それを打ち明けることも出来ない弱い女です」
「ならば私を選べ! 私なら貴女の愛に応えられる! あの無能な男と違って!」
ラクスは静かな口調で、喚き散らすオルフェに問いかけた。
「それは貴方の意思ですか? それともお母様から頂いた使命ですか?」
ラクスの言葉は、オルフェの矛盾する言動に刃を突き付けるものだった。オルフェは一瞬黙り込んだが、怒りに任せて叫んだ。
「違う!! 貴女の愛があれば!!」
ラクスはその泣き喚くような言葉に、憐れむような表情でうつむいた。
使命。命令。存在意義。
その全てを捨てることが出来る人を、私は知っている。
たとえ自分に未来がなかったとしても、愛に殉じることが出来る人を。
愛とは、誰かを想って自分の大事なものを差し出すことだ。
自作自演で自国民を核の炎で焼き払い、罪なき者をレクイエムで撃ち、それを正当化しようとする。
それのどこが愛だというのか。
オルフェはラクス・クラインの名声を利用したいだけで、愛しているわけではないのだ。
もちろん同情の余地はある。
だけど、そんな彼を選ぶことは絶対に有り得ない。
「黙れ! 黙れェ!!」
ラクスの思考を読み取ったオルフェは、激昂とともに指輪に思念を込めた。
怨嗟に満ちた強烈な思念が指輪に内蔵された装置によって増幅され、ラクスの精神を大きく揺さぶった。その思念の波動に翻弄され、ラクスは意識を喪失してしまう。
自分には人類を導く使命がある。
フリーダムを討ち、この宙域に存在する全員を殲滅すれば、ラクスは自分を愛さずにはいられない筈だ。オルフェの目は狂気に染まっていた。
一方その頃、ブラックナイツを退けたミレニアムはブラックナイツの敗退で混乱しているファウンデーション艦隊に突撃していた。
ミレニアムの艦首砲が火を吹き、敵艦に直撃して大爆発を引き起こす。掠めた艦もあちこちで炎上し、航行不能に陥っていた。
「両舷全速! 目標、敵旗艦! ぶつけてでも墜とす!」
マリューの気迫を込めた叫びに応えるように、一気に加速したミレニアムはファウンデーション艦隊の陣形に空いた隙間を駆け抜けた。
幸か不幸か、ラクスはグルヴェイグにはいないらしい。ザフト反乱軍を指揮していたジャガンナートは既に討たれている。
この状況下でファウンデーション軍の中枢部を潰せば、それ以上の戦闘継続は不可能だろう。
たとえ全弾撃ち尽くしたとしても、ミレニアム自体が超高速の質量兵器だ。このまま体当たりするだけで、敵艦の無力化には十分な破壊力を有しているのだ。
周囲のファウンデーション艦隊から無数のミサイルとビームが浴びせられる中、ミレニアムは速度を緩めることなく進み続ける。
デスティニーとレジェンドはレクイエム攻略に向かい、ミレニアムの護衛として残ったインパルスとギャンはその進路を守るように援護射撃を続けている。
「突貫する! 艦首衝角“ゴウテン”起動! 全砲門、近接戦闘始め! 総員、衝撃に備えて!」
マリューの命令に応じて、艦首から赤熱した衝角がせり出した。ミレニアムのモニターに映る敵旗艦の姿が、みるみる大きくなってくる。
アウラは怒りと焦燥に駆られて、闇雲に無謀な指示を繰り返していた。
「何をやっておる! さっさと撃ち落とさんか!」
しかし彼女は、単なる遺伝子学者に過ぎない。
オルフェと異なり、戦艦の指揮を執ることなど出来ない。
戦況を読む力も、戦術や戦略を理解する知識もなく、ただパニックに陥っているだけだった。
遺伝子学に関しては世界一博識でも、それ以外のことは素人同然なのだ。
それを支えるグルヴェイグの乗組員は遺伝子解析で見出された優秀な者たちだったが、ファウンデーションの最高権力者であるアウラの命令に異議を唱える者は誰もいなかった。
そうした自由意思を持つものは例外なく危険視され、スラム街の住人たちのように排除されていたのだ。
そんなファウンデーション軍の構造は、階級制度の存在しなかった以前のザフトと比較しても明らかに歪なものだった。
これまで問題が起こらなかったのは、ブラックナイツたちがそれを帳消しにするほどの能力を持っていたからだ。
デスティニープランは進化を否定し、自由意志と引き換えに安定と停滞をもたらす可能性を秘めた社会制度だ。
しかし、彼らは忘れていた。
突然変異と自然選択によって、現在の環境に適応したものが生き残るという進化の原則を。
有史以来、幾度となく人類が繰り広げてきた戦争は、まさに目の前の状況に適応しなければ生き残れない世界だ。
新しいアイデア。新しいシステム。
そうした進化を取り入れられないものは、歴史の流れで淘汰されてきたということを忘れていたのだ。
まるで旧時代の海賊のように、ミレニアムは雨嵐のように降り注ぐビームやミサイルを避ける間も惜しみ、グルウェイグに体当たりするため更に加速した。
こんな原始的な手段で攻撃されるなど、ファウンデーションの兵士たちは考えたこともなかった。
「うわああああああ!!!!」
恐怖に駆られて指示が遅れたことで、グルウェイグは横腹を差し出す形になってしまう。
アウラは慌てて指揮官席から飛び出し、突撃してくるミレニアムから逃げようとした。
その直後、グルヴェイグの艦橋に巨大な衝角が突き刺さり、強烈な衝撃に襲われた。
ミレニアムがグルヴェイグの巨大な艦体に艦首をめり込ませて停止している中で、アウラは周囲に漂う鮮血を感じながら自嘲するように笑った。
どうしてこんなことになったのか、どれだけ思い返しても分からなかった。
自分は全てを賭けて、コーディネイターを超越したアコードたちを造り上げた。
そしてあらゆる手段を尽くして完璧な教育を施し、最強の兵器を与えた。
あの傲岸不遜なヒビキの娘たちや、ブルーコスモスの造り出した人間兵器などに負けることなどありえないはずだったのに。
ふとモニターのカウンターが目に入った。
それは徐々に、確実に数を減らしていた。まもなくレクイエムは発射される。
今度こそ防ぐ手段はないはずだ。
カガリ・ヒビキ。
何もかもが失われてしまうなら、せめてオーブとあの小娘だけでも道連れにしてやる。
今までの戦いも、くだらない想いも、何もかも全てを水泡に帰してやる。私とともに地獄行きだ。
アウラが微笑んだ瞬間、ミレニアムのハッチから金髪の男が身を乗り出す姿が見えた。
その装甲服を纏った男は対モビルスーツに使用するような大型の対物ライフルを構え、真っ直ぐにアウラを狙っていた。
その姿を見て、アウラは20年以上前にアンチエイジング事業に巨額の投資をした奇妙な男のことを思い出した。
人類を導く究極の存在“アコード”。
ユーレン・ヒビキがスーパーコーディネイターの研究に苦戦している頃、アウラもまたアコードの研究に苦戦していた。
人類を導く者とは、どんな能力を持つ者が相応しいのか。
たとえば始まりのコーディネイター、ジョージ・グレンはナチュラルの少年に銃撃されて死亡した。
どれだけ優秀な能力を持っていたとしても、悪意の前では無力なのだ。
アウラはその男が持つ特異な空間認識能力を遺伝子操作で発展させることで、一種の超能力を獲得させることに成功した。
テレパシーのような精神感応能力を持ち、互いの精神を読んで言葉を交わさずともコミュニケーションが取れる力。
レーダーよりも遥かに高い精度で、対象の位置を感知できる能力。
成功体の中には、他人を一種の洗脳状態に陥れる力を持つ者まで現れた。
もはや彼らはコーディネイターどころか、全ての人類を超越した新人類のように思われた。
そのパトロンの男の遺伝子を利用することで、アウラの研究はついに完成したのだ。
──しかし、どうして今更こんなことを。
疑問に思った瞬間、ラウの放った一撃がグルヴェイグの艦橋を撃ち抜き、アウラの頭を粉々に吹き飛ばした。
そして直後に放たれたミレニアムの一斉射撃がグルヴェイグを貫き、大爆発を引き起こした。
オルガとシャニはレクイエムを防衛するファウンデーション軍、ザフト軍と戦闘を続けていた。
戦場は既に統制を失い、混沌と化していたが、敵は未だにナチュラルへの憎悪に突き動かされ、狂気のように攻撃を仕掛けてきた。
敵艦隊とモビルスーツ部隊は死兵と化し、命を省みない決死の攻撃を続けている。
〈そらぁあああ!!〉
シャニの放ったビームが敵を薙ぎ払う。
弧を描くような光がモビルスーツを次々と爆砕し、敵の防衛網を食い破った。
その直後、オルガはリニアキャノンを発射した。
強烈な地中貫通弾がレクイエムの砲口を狙い、一直線に突き進んだ。
しかし絶大な出力のビームシールドが、カラミティの放った乾坤一擲の砲撃を防いだ。
〈テメー! ドコ撃ってんだよ!〉
〈うるせーよ!〉
シャニの罵倒に、オルガは叫んだ。
カラミティは核分裂炉を搭載しているため、理論上はリニアキャノンを複数回使用できる。
しかしバッテリー機であれば一発でパワーの大半を消耗するリニアキャノンを再度発射するには、一定の時間間隔が必要だ。
このままでは次弾を発射する前に、レクイエムは発射されてしまうだろう。
オルガは周囲を見渡すが、今度は余程遠くに設置したのか第一中継ポイントも見つからない。
やはりレクイエムのような戦略兵器級のビームを歪曲させるのは無理があったのか、フォビドゥンの偏向装甲も先程から機能停止している。
完全に手詰まりの状況だ。
〈こんな時に何やってんだよ!〉
焦りの色を濃くしたオルガの視界に、デスティニーとレジェンドが後方から現れる姿が映った。
デスティニーはデュエルに託されたミーティアから無数のミサイルを発射し、レクイエムの守りを固めていたモビルスーツと対空砲を次々に破壊する。
オルガはその光景を見てニヤリと笑うと、ゼウスシルエットをパージした。
〈コイツを使えッ! お前の装備だろ!〉
デスティニーはミーティアをパージして距離を詰めると、相対速度を合わせて装備する。
本来の使い手であるデスティニーに戻ったゼウスシルエットは、融合炉から莫大なパワー供給を受けて再起動を開始した。
一方でミーティアを装備したオルガは、先端から大型のビームサーベルを展開し、陽電子リフレクターに守られた砲口を真正面から斬り付けた。
斬撃を受けた周囲で爆発が起こり、オーブ艦隊の一斉射撃をも防ぎきるほどの圧倒的な防御力を誇っていた陽電子リフレクターの出力が低下する。
〈タイミングを合わせろ、シン!〉
レジェンドの射出したドラグーンが円錐状に並び、シールドバリアを展開する。
すると出力が低下した陽電子リフレクターに、穴を開ける形で割り込んだ。
いよいよタイムリミットが近いことを示すようにレクイエムの砲口が開き始め、その奥に臨界状態を示す不吉な光が輝き始めた。
しかし地中深くの反応炉を正確に破壊するには、より奥を狙える位置に移動する必要がある。
そしてシンは、その答えを既に見つけていた。
〈俺はもう、絶対に──〉
デスティニーは砲口の正面に跳んだ。
砲門の最深部にリニアキャノンを向けると、ドラグーンのシールドバリアが解除された一瞬の隙を狙ってトリガーを引いた。
発射された地中貫通弾はレクイエムの最深部に命中し、地中貫通砲弾が無数の障壁を突き破り、最深部の反応炉を粉々に破壊した。
レクイエムは震動し、内側から発生した炎に食い破られて大爆発を起こす。その全てが終結する瞬間を目の当たりにしたシンは、全身を脱力させた。
旗艦グルヴェイグは壮絶な轟沈を迎え、レクイエムも完全に破壊された。
急速に戦況が悪化する中で、プラント政府からの勧告を受けたザフト反乱軍の残党たちは武装解除し、投降の意思を示す部隊も現れ始めた。
もはや戦術的勝利すら望めない中で、オルフェだけは戦意を失っていなかった。
〈ヒトの愚かさゆえに、我らは生まれた。平和だ、平等だと語ったその口で他者に変わることを要求し、決して自ら変わろうとしない……!〉
オルフェの怨嗟が混じった言葉が、宇宙に響き渡った。キラは無言でそれを受け止めるが、その隣でクロトは叫んだ。
〈散々人を見下してたヤツが何を言ってんだよ! このダブスタヤローが!〉
クロトには、世界は融和の道を辿っているように映った。
ナチュラルとコーディネイターが共闘する組織が成立するなど、かつての自分が聞けば悪趣味な冗談にしか思えなかっただろう。
しかしコンパスは実際に成立したし、こうしてファウンデーションの野望を阻止するだけの可能性を示した。
戦争をなくす為に戦う。
そんなコンパスの活動は欺瞞に映るかもしれない。
しかし真の意味で戦争をなくすためには、その原因と真摯に向き合う必要がある。
生まれ持った遺伝子で全てを決定するデスティニープランは、そうした戦争根絶を模索する道とは対極に位置するものだ。
〈分かったような口を利くなっ! お前のような愚か者が存在するから、争いは絶えないのだとなぜ分からない!!〉
〈僕はお前ほど人類に絶望してねーんだよ!〉
オルフェの怒りと憎悪に満ちた声に、クロトは反論するように叫んだ。自分達の世界に閉じ籠もっていたオルフェに、世界の何が分かるというのか。
この世界はどうしようもないかもしれないが、それでも前を向いて生きている者達がいるのだ。
その直後、フリーダムに異変が起こった。
未完成のプラウドディフェンダーにはナノ粒子の展開に制限制限があり、その時間を超過してしまったのだ。
「決着をつけよう」
しかしフリーダムの周囲を覆っていた光の粒子が霧散する中、機動兵装ウィングから放出されている青白い光の翼に、赤い燐のようなものが混じり始めた。
防御力低下を補うため、それまでナノ粒子の制御に使用していた全てのエネルギーを、莫大な推力を生み出すヴォワチュール・リュミエールシステムに回したのだ。
「うん」
フリーダムの中で、2人の声が静かに交わった。
次の瞬間、キラはフリーダムを加速させてカルラとの距離を一気に詰めた。
漆黒の実体剣とビームソードが交錯し、激しく衝突する。
カルラは好機とばかりにビームクローで斬り付けるが、フリーダムは宙返りで斬撃を回避する。そして体勢を立て直しながら、先程まで剣を握っていた手でビームサーベルを抜いた。
その直後だった。いつのまにか投擲されていた漆黒の刃が、カルラの左腕を吹き飛ばした。
直後にフリーダムの口部から発射された真紅の閃光が、カルラのウィングを大きく抉り取った。
「これは……!」
そのトリックに気付いたオルフェは、思わず絶句した。
キラにフリーダムの操縦を託したはずのクロトが、瞬間的に操縦を代わっていたのだ。同時に2人の思考を読めない以上、単純だが効果的な手段だ。
だが、オルフェは動揺を隠せなかった。
カルラも本来は2人乗りで真価を発揮するモビルスーツだが、サブパイロットの役割は支援機であるジグラートの操作だけに限られている。
それ以上の介入は、たとえ互いの心が読めるアコードでも足を引っ張ってしまうのだ。クロトとキラの見せた完璧な連携は、オルフェの理解出来る範疇を超えていた。
「私には使命があるのだっ!」
オルフェは精神干渉に長けたグリフィンやラクスのように、アコード以外の人間と思考をリンクさせることは出来ない。
しかしラクスを参考にして造られたキラであれば、例外的に可能かもしれない。
オルフェの精神の触手がフリーダムのコクピットに伸び、無防備なキラの精神に侵蝕を開始しようとした。
「クロト!」
その声に反応し、クロトはキラを護るように支えていた腕の力を強めた。
するとキラの精神に送り込まれるはずだった負の感情がオルフェに逆流し、その影響を受けたカルラは動きを硬直させる。
僅かに生じた隙を突いて、キラはシールドを放棄しながらフリーダムを突貫させる。カルラの振るったビームソードを紙一重で躱し、同時に逆手でビームサーベルを抜いた。
「それでも──自分達の手で未来を掴む!」
右腕を斬り飛ばし、更に距離を取ろうと繰り出された両足を立て続けに両断すると、頭部にビームサーベルを叩き込んだ。
ファウンデーションとの戦いは終了です。
当初の予定ではラウ率いる突入部隊がラクスを白兵戦で奪還する予定だったのですが、カルラに同乗させる案を思い付いたので幻の没案を採用しました。