コンパス本部ビルの最上階に位置する総裁室は、静寂に包まれていた。広大な窓からはオーブの都市の景色が広がり、高層ビルが太陽の光に照らされていた。
ラクスはデスクの向こう側の訪問者に微笑みを浮かべた。シルバーブルーの長い髪を持った美しい容貌の青年は、鋭い真紅の瞳を輝かせている。
「こうしてお話させていただくのは初めてですわね、アグニス様」
ラクスは軽く会釈すると、柔らかな声で言葉を紡いだ。
これまでナチュラル、コーディネイターはもちろん、アコードとも対話してきたが、こうして地球圏外からの客人と話すのは初めての経験だった。
「火星の状況はいかがですか?」
「開発は順調に進んでいます。今のところ大きな問題は抱えていません」
「それは素晴らしいことですわ。私どもも見習わなければ」
ラクスの声には穏やかなトーンが込められていたが、その表情には翳りが見えていた。
コンパス凍結解除の背後には、ブルーコスモスの勢力回復と新勢力ネオ・ブラックナイツの台頭に伴う世界情勢の悪化があったからだ。
今回地球を訪れた火星使節団のリーダーであり、火星圏のオーストレール・コロニーから来訪した火星人──アグニス・ブラーエの表情には抑えきれない感情が宿っていた。
「失礼だが、どうして貴女は総裁選の辞退を?」
アグニスは単刀直入に問い掛けた。
コンパスの選挙制度はプラントの最高評議会と類似したシステムを導入しており、構成員は全員同格の立場であり、世界各国との交渉・コンパスの意思決定を円滑に進める便宜的な措置として、総裁が選出されている。
そして全構成員は投票権を持つとともに、被投票権を持っている。
しかし最有力候補と目されていた現総裁ラクスが再任を辞退する意向を示したため、総裁選はアイリーン・カナーバとムルタ・アズラエルの一騎討ちとなっていた。
もちろん今からでも撤回は可能だろうし、ラクスを再任させようとする動きも水面下で行われているらしいが、ラクス自身にそのつもりはなかった。
「私の至らなさを痛感したから、というのが正直な理由でしょうか」
「至らなさ?」
2度の大戦を終結させ、先日ファウンデーション王国を含む4カ国の停戦協定を無事に締結することが出来たのはラクスの尽力があったからだ。
そのリーダーとしての才覚を疑う余地はないだろう。アグニスは怪訝な表情で問い返したが、ラクスは首を縦に振った。
「はい。1度別の立場から見つめ直してみようかと」
コロニー・メンデルの元研究員であるファウンデーション女王アウラ・マハ・ハイバルが造り出した、“アコード”と呼ばれる新種の人類が存在した。
彼らは既存のコーディネイターと同様に旧人類を凌駕する能力に加え、テレパシー的な感応能力をもち、他者の精神を読んでコミュニケーションを取ることができる。
才能次第では他者を洗脳したり、幻覚を見せる者までいる異能の存在だ。
そんなアコードの仲間だと明かされたラクスが、今も表舞台にいられるのは偶然に過ぎない。
コンパスが起こしたとされる領土侵犯などの諸問題が解決したのは、オーブ軍に拘束されたイングリット・トラドールが真相を告白したことが大きかったが、それ以上に民衆が彼らの存在を信じなかったことが大きかった。
世界を導く存在だと自称しながらも、わずか数日で壊滅したアコードを、人々は単なる遺伝子至上主義者のコーディネイターだと考えたのだ。
結果としてアコードは新人類というよりも、ブルーコスモスと同様に──遺伝子至上主義者の総称として呼ばれるようになった。
「そういえば、アグニス様の故郷は──」
「……オーストレールは、無駄な人間を生かす余裕がないだけだ」
ラクスを見ていたアグニスの視線が険しさを増した。
アグニスの出身地であるオーストレール・コロニーは、火星の過酷な環境と人材不足に対応するため、必要な職種に合わせて遺伝子調整された“マーシャン”と呼ばれる特殊なコーディネイターで構成されている。
その遺伝子を絶対的な評価基準とする特異な社会システムは、アコードの開発にも携わっていたギルバート・デュランダルも興味を示したと言われており、デュランダルが考案したデスティニープランに影響を与えたとされているのだ。
すなわち、デスティニープランは遺伝子に恵まれたコーディネイターによるナチュラルの支配を正当化する思想だと理解が進む現在において、火星圏全体としては順調だとしても、彼らマーシャンは極めて不安的な立場だ。
特にリーダーとしての資質を与えられたアグニスにとっては、尚更のことだろう。
ラクスは本来プラント、中立機関DSSDを除いてほとんど交流がない中、今回オーブを訪問したアグニスを取り巻く現状に思考を巡らせた。
「失礼いたしました。今後は我々コンパスとも、交流させていただければと思いますわ」
ラクスは右手に填めた指輪に、一瞬視線を向けた。
それは母親からもらった形見の指輪を、内部に誰かが──おそらくアウラが仕込んでいたらしい特殊な脳波増幅装置ごと、一度完全に溶かして元通りに作り直したものだ。
アグニスからはアコード特有の妙な気配は感じられなかったが、どこかその頂点に立つ存在として造られたオルフェ・ラム・タオの姿を連想させる。
オルフェよりも後にアグニスが生まれている以上、直接的な関係はないのだろうが、どちらも生まれながらの為政者として、設計思想は似通っているのだろう。
「今回の目的は、次期総裁を見定めに来たという訳ですか?」
ラクスが尋ねると、アグニスは不承不承といった表情で頷いた。
「俺達マーシャンとしては、カナーバ氏に勝ってもらいたいものだがな」
「あら、そうなんですか?」
アグニスのばっさりと切り捨てるような物言いに、ラクスは思わず苦笑した。
最有力候補の1人、ムルタ・アズラエルは言わずとしれた元ブルーコスモス盟主であり、かつてロゴス関係者として名指しされた危険人物だ。
前回の地球訪問時は、ロゴスがブルーコスモス関連施設で育成した生体CPUたちで構成された特殊部隊“ファントムペイン”と、アグニスらマーシャンが交戦したこともあった。
「あのような男が権力を握るなど、我慢ならん!」
アグニスは総裁室の窓から、冷ややかな眼差しを外に向けた。
元ブルーコスモス盟主という過去を持つアズラエルが、コンパスの頂点に立つなどアグニスにとって悪夢以外の何物でもなかった。
実際にアズラエルは自分の私兵として、ブルーコスモス関連施設で生体CPUとして育てられたファントムペイン候補生の少年兵達を運用していた。
そのような過去を持つ者が今、平和維持を目的とする国際機関の頂点に立ちかねないことにアグニスは深い嫌悪を抱いていた。
アズラエルがコンパス総裁に就任してマーシャンの存在を知れば、火星圏にまで戦火が広がる可能性がある。
そして実際にそうなる可能性は、ラクスも否定し切れなかった。なにせ火星には、地球圏のパワーバランスを変えかねない物質が存在するのだから。
「ですが、復興には欠かせないものですわ」
ラクスは静かに言葉を紡いだ。
数年前、火星でニュートロンジャマー・キャンセラーの製造に必要なベースマテリアルの鉱脈が発見された。
この核動力を復活させる発見は第1次連合・プラント大戦以来、長きに渡る戦乱で傷ついた地球の復興を加速させる希望となり得るものだった。
しかしこの事実は、プラントを含む地球圏全土はもちろん、火星圏にまで核の脅威をもたらす可能性も秘めていた。
もっともこのベースマテリアルを用いて製造される、核分裂を促進させることで核攻撃を抑制する戦略兵器ニュートロンスタンピーターの対抗技術が開発されていない以上、単なる懸念に終わる可能性もあるかもしれないが。
アグニスは腕を組み、深く息を吸い込んだ。
「そういう考え方もある、か」
アグニスも総裁選の動向を注視していたが、大罪を犯したナチュラルがコーディネイターの代表と拮抗している現実に対し、現状把握以上の段階には進めていない。
マーシャンを導くリーダーとして生まれ、その力を磨き上げる過程で生まれた一種の優越感のようなものは、ファントムペインの小隊長らしいナチュラルの青年に敗北してもなお、どうやら完全に払拭していなかったらしい。
ラクスが再び口を開いた。
「ところで、ナーエ様からコンパスに調査して欲しいことがあると伺っているのですが」
その一言でアグニスは現実に引き戻された。有能な副官の名前を持ち出されたその表情には戸惑いが浮かんだが、すぐに冷徹な表情に戻った。
ラクスが言葉を促すと、アグニスは地球と火星の未来に関わる本題を失念していた自分を恥じるように神妙な表情を浮かべた。
「今から20年前──」
地球を発った火星使節団は、コロニー・メンデル宙域付近を漂っていた救難ポッドから1人の赤子を回収し、セトナ・ウィンタースと名付けた。
類稀な才能を持っていることが判明したセトナは、彼女の遺伝子を分析して造られた弟アグニス・ブラーエと共に、オーストレール・コロニーのシンボルとして育てられた。
天真爛漫で歌が得意なセトナは、アグニスの姉というよりもむしろ、プラントの歌姫として活動していたラクスと生き別れた姉妹のようだった。
しかし人々に崇められるよりも、人々に尽くして生きることを望んだセトナは、地球行きの定期便に忍び込んで火星から逃亡した。
そしてその船は不運な事故に遭い、セトナの行方は途絶えてしまった。遺体こそ発見されなかったが、誰もが彼女は死んだものだと思っていた。
当時のアグニスも、姉は馬鹿なことをして死んだのだと疑わなかった。
そんな彼女の目撃情報をアグニスが入手したのは、ネオ・ブラックナイツの幹部がマーシャンに接触して来たときのことだ。
見た目は10代中頃くらいだが、実年齢は20歳だと主張するラクスそっくりの不思議な少女を組織内で見かけたという。
ラクスはアグニスの真剣な表情を見つめながら、彼の言葉に耳を傾けた。
「……それが、セトナ様だと?」
ラクスはアグニスの言葉に驚き、深く考え込むように目を閉じた。
もしもセトナが定期便の救難ポッドに搭載されていた冷凍睡眠装置の中で数年間眠り続けていたと仮定すれば、一連の奇妙な出来事に辻褄が合ってしまうのだ。
アグニスは深く息を吸い込むと、頭を左右に振った。
「そこまでは。だが、もしも事実なら大問題だ」
ラクスはデスクの上で指を組み、深く考え込むように目を閉じた。
もしもセトナがオルフェの意志を継ぎ、ネオ・ブラックナイツに参加したのであれば、火星圏をも巻き込んだ争乱に発展する可能性も考えられる。
勢力を回復しつつあるブルーコスモス、新たな脅威ネオ・ブラックナイツに加えて、マーシャンまで敵に回ることになれば、真の自由と平等の実現から更に遠退くだろう。
「分かりました。我々もセトナ様の捜索に協力します。具体的な方法について話し合いましょう」
ファウンデーションに駐留しているクロトからも、ネオ・ブラックナイツにアコードの生き残りがいるかもしれないとの報告が上がっている。
本人ではなかったとしても、何らかの繋がりがある可能性は否定出来ない。アグニスは話題に上がった人物の名を、警戒心を漂わせた声で呟いた。
「……クロト・ブエルか」
「お会いになったことがあるのですか?」
ラクスの問い掛けに、アグニスは意外そうな表情を浮かべた。
フリーダムと並ぶ第1次大戦の英雄にして、アコード事変でも最前線に立ち、自らファウンデーション宰相とブラックナイツの隊長を倒した脅威のナチュラルだ。
まさに種族や遺伝子、肩書きといった従来の枠組みでは測れない、解析不能の個人主義者と言えるだろう。
カガリ・ユラ・アスハ代表拉致事件のときの記憶が、アグニスの脳裏で蘇った。
火星初のモビルスーツ“デルタアストレイ”を一蹴し、迎撃に現れたアスランと交戦しながら離脱したレイダーの姿を。
「懲りねーヤツらだ……」
いつものように戦闘停止を訴える呼び掛けを終えたクロトは、高々度からストライクレイダー零式を急降下させる。
市街地はブルーコスモス軍の侵攻を受け、あちこちで火の手が上がっている。
今のところネオ・ブラックナイツ軍は姿を見せていないが、キラの解析結果が正しければ近い内に現れるだろう。そこからが先制攻撃を禁じているコンパスにとって、本当の勝負だ。
クロトは一向に尽きない敵戦力を確認するが、ウィンダムの背後から巨大化したメビウスのようなモビルアーマーが出現した。
その陽電子リフレクターのような最新装備を搭載しながらも旧来の連合製モビルアーマーに火力と機動性を両立させた機体──ユークリッドは、左右の大出力スラスターによって大気圏内での高速飛行が可能なユーラシア軍の汎用主力機だ。
デストロイのように圧倒的な火力は持たないものの、最高速度や機動性はザフトの最新鋭機にも見劣りしない。
クロトは機首両側に装備されている大型ビーム砲から放たれる光の奔流をやり過ごすと、地上を這い回る新たな脅威を発見した。
上半身にセンサー兼近接迎撃装置としてストライクダガーを流用し、下半身は昆虫のような多脚ユニットで構成された異様なシルエットを有する機体──ゲルズゲーだ。
拠点防衛能力に主眼をおいて開発されており、都市侵攻においても瓦礫をものともしない高い踏破力を発揮する他、下半身底部に搭載されたホバー用ジェットスラスターによって単独飛行能力も有している拠点防衛用試作機だ。
小規模な拠点であれば、この2機を投入しただけでも十分に陥落出来る大戦力だ。これならいくらクロトだろうと、1人では対応出来ないと考えているらしい。
まったく舐められたものだ。
「甘ぇーんだよッ!!」
ゲルズゲーは両腕に構えたビームライフルを連射しながら、下半身前脚部に装備されているビーム砲を掃射する。
ユークリッドと対峙しながらその攻撃をギリギリで回避したクロトは、一瞬の隙を突いて機体を可変させる。
即座に投擲した破砕球の一撃が反応の遅れたゲルズゲーの頭部を叩き潰すが、ユークリッドは機首両側に搭載した大型ビーム砲で、無防備なレイダーを背後から狙っている。
その瞬間、クロトが投擲していたシールドブーメランから発生したビームシールドが、その強力無比な閃光を阻んでいた。
即座に機体を翻したレイダーがユークリッドとの距離を詰め、機体前面の装甲のカバーが開いて陽電子リフレクターが展開されるよりも一瞬早く、クロトは全砲門を解放する。
無数の電磁砲とビームを受け、ユークリッドの武装が同時に吹き飛ばされた。その直後に鈎爪の一閃を受け、大空を支配していた巨大なモビルアーマーは大炎上した。
「デカけりゃいいってわけじゃねーんだよ」
クロトは溜息混じりに呟くと、上半身を喪ってもなお蠢きながら周囲にビームを放っていたゲルズゲーに破砕球を投擲した。まるで踏み潰された虫のように、ゲルズゲーは周囲に炎を撒き散らしながら崩れ落ちる。
すると自軍の形勢不利を悟ったのだろう。ブルーコスモス軍が徐々に撤退を開始する中、クロトの脳内にイングリットからの思念が伝わる。
「──クロト。ネオ・ブラックナイツが現れた」
「そっちはキラに任せとけよ」
クロトはスピーカーでは計測出来ないイングリットの“声”に応答した。
こちらから呼び掛けることは出来ないが、イングリット側が思念を伸ばしている間は、一時的にコミュニケーションが取れるのだ。
レイダーに搭載されている通信機を使うよりも、こちらの方がよほど便利だ。
「……シュラが、自分一人で迎撃するって」
「アイツ、マジでいい加減にしろよ」
これでは市民の避難と共に、重要施設の防衛を指示したキラは動けない。
ブラックナイツ最強の戦士だかなんだか知らないが、よくもまぁ半年前まで近衛師団長を務めていたものだ。その点だけはオルフェに同情する。
クロトは舌打ちすると、ブルーコスモス軍と交戦していたファウンデーション軍の援護を中断して機体を上昇させた。
避難民の誘導を行っていたシュラの表情には、不満が漂っていた。
幼少期から最強の戦士として育てられた彼にとって、クロトの指示した後方支援の任務は耐え難い退屈さだった。
戦闘そのものに価値を見出したシュラにとって、強敵との戦いこそが生き甲斐だった。名の知れた強者を倒し、最強であることを証明することでしか満たされない欲求があった。
「デスティニーだと……? 面白い!」
その言葉が漏れたのは、ネオ・ブラックナイツ襲来の報告を受けた時だった。
主力量産機のザクやグフどころか、かつてブラックナイトスコードシリーズを圧倒したデスティニーの姿があることを知り、目を輝かせた。
デスティニーはシン・アスカの専用機としてサードステージ、あるいはそれ以上のハイステージと評されたエース仕様の高性能機でありながら、唯一複数生産された機体なのだ。
それを与えられたパイロットは、もちろん尋常な腕前ではないだろう。シュラはイングリットの静止を無視すると、持ち場を離れて迎撃に向かった。
「やはりお前は強いな!」
シュラの操縦するサキガケは、両軍の放つ光弾の間を縫うように高速で移動しながら、セトナの操縦するデスティニーと激闘を繰り広げていた。
可変機能を封印してまで強度を高めたムラサメ改のフレームが、両手に構えたビームサーベルで繰り出される剣舞のような斬撃で軋んでいる。
本来であれば斬り結ぶことも成立しない圧倒的な性能差にもかかわらず、シュラは互角に渡り合っていた。敵の思考を読み取り、デスティニーの繰り出す攻撃を紙一重でかわしながら、一瞬の隙を突いて反撃する。
「だが、やはり俺の敵ではない!」
イングリットの言っていたラクスの失敗作か、それとも単なる元ザフトのエースパイロットなのかは知らないが、まだまだ自分には十分に余裕がある。
純粋な一騎討ちであれば、このシュラ・サーペンタインを上回る者などいないのだ。
だが、クロトが来るまでに片付けなければ。イングリットの小言などどうでもいいが、あの薄暗い監獄に逆戻りするのだけは御免だ。
シュラは息を吐くと、距離を取ったデスティニーにビームライフルを発射した。するとVPS装甲を貫いた瞬間、光の粒子と化してその場から反応を消失させる。
「なんだ!?」
別方向から突撃してきたデスティニーの対艦刀を、シュラは超人的な反射神経で回避した。
光の翼から展開しているミラージュコロイドの影響か、あるいは新兵器か。
デスティニーはさらに加速すると、無数のリアルな分身を繰り出し、思わず足を止めてしまったシュラを翻弄しながら襲い掛かった。
「そんな技が通用すると思うな!」
どれだけ本物のように見えようと、分身はあくまで分身だ。
誰であろうと思考を完全に閉ざすことは出来ない。クロトのように思考を覆い隠すほど強烈な死のイメージを投影する以外に対抗策はないはずだ。
デスティニーの斬撃を回避し、掌部から放たれた閃光をシールドで防御する。
この機体が本物だ。あとはただの分身に過ぎない。
後方から自分を狙うデスティニーを無視すると、シュラは再び二刀流に持ち替えた。
すると赤黒い閃光がシュラを襲い、サキガケの右肩から先が蒸発した。
「馬鹿な……!?」
間違いなくあの一撃は分身が放った一撃のはずだ。
ビームブーメランで斬られたなら隠していたのだろうと理解出来るが、いくらなんでもビーム砲を発射するなど不可能なはずだ。
視界が揺らぎ、敗北の予感がシュラを包む。
その瞬間だった。
上空から降下したストライクレイダー零式が、ビームライフルを発射しようとしていたデスティニーに破砕球を投擲した。
セトナは思わぬ攻撃に一瞬怯むが、すぐに態勢を立て直した。
「悪い子はお仕置きしないとね」
クロトは目の前のデスティニーを見つめると、あざ笑うような声で言い放った。セトナの顔に一瞬の驚きが走るが、すぐに冷静さを取り戻し、クロトに向かって冷静に言った。
「今日はここまでにしましょうか」
クロトはセトナの言葉に、挑発的な笑みを浮かべた。
「逃げんのかよ?」
「はい。今日は威力偵察の予定でしたから」
セトナはクロトの言葉に一瞬沈黙したが、すぐにデスティニーを翻して撤退を開始した。
強引に仕掛けることも出来るが、専守防衛を掲げるコンパスに現場の自己判断は許されない。
予想していたとはいえ、ラクスと瓜二つの声をしたセトナにクロトは驚きを隠せなかった。
アグニスはオルフェに近い存在として表現してますが、あくまでセトナを参考にした個体です。
この世界線だとクロトがカガリを拐ってるので、キラちゃんの存在を知らないと割とクロカガっぽいのは内緒です。