逆襲のクロト   作:皐月莢

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ファウンデーションにて・⑥

 ファウンデーション王国の南東部に位置する山岳地帯は、ユーラシア連邦と汎ムスリム会議の国境が面している。

 しかしユーラシア連邦は二度に渡る世界大戦と、半年前に起こったファウンデーション事変で甚大な被害を受けたことで求心力を喪った。

 両国の政治的均衡が崩れたことで、この地は親プラント国家である汎ムスリム会議が影響力を拡大させていた。

 だが、ユーラシア連邦は大西洋連邦・プラントに並ぶ超大国の一角だ。

 ユーラシア連邦との全面的な領土戦争を避けたい汎ムスリム会議の支援を受け、ファウンデーション王国やプラントを追われた親アコード派がこの地に結集し、旧ザフト軍を中心に結成された強大な軍事勢力が新たな火種を生んでいたのだ。

 ブルーコスモス軍の武力侵攻に合わせて作戦を開始した無数のモビルスーツ隊の中で、ひときわ異彩を放っている機影があった。

 かつてコンクルーダーズ計画で“シン・アスカ機”“ハイネ・ヴェステンフルス機”に続く三番目の機体として製造されながら、最終決戦に間に合わなかった“デスティニー”。

 後にハリ・ジャガンナートが強奪したものの、十分に性能を引き出せるパイロットが確保出来なかったことで実戦投入は見送られたが、ファウンデーション事変において圧倒的な戦果を上げたモビルスーツだ。

 ファウンデーション事変で活躍した“Spec II”と同様にDUPE粒子散布機能を搭載し、強化された分身機能を備えたその機体は、旧式ながらブラックナイトスコードシリーズに匹敵する驚異的な潜在能力を秘めている。

 デスティニーのウィングユニットから、真紅に輝く光の翼が展開する。それはこの戦場そのものを支配し、敵対者に死の運命を告げる絶対的な存在だった。

 

「──馬鹿な」

 

 しかしセトナ・ウィンタースの顔は緊張に歪んでいた。

 一気にファウンデーション軍の防衛網を突破しようとしていたセトナの前に、予期せぬ存在が現れたのだ。

 

「どうして貴方がここに!!」

 

 驚愕でも、恐怖でもなく、ただ困惑と苛立ちの混じった言葉が口を突いて出た。 

 クロト・ブエルがブルーコスモス軍と交戦している間にキラ・ヤマトを討ち取り、そのまま消耗したコンパスとファウンデーション軍を一気に壊滅させる。

 完璧に準備した作戦と、緻密に計算した戦術。

 そんなセトナの立てていた計画が、完全に崩壊してしまったのだ。

 レーダーに映る反応は間違いなく1機だった。今もセンサーが捉えているのはあの1機だけだ。

 なぜ、彼らが接近していることに気付かなかったのか。

 

「お前さぁ」

 

 淡い希望を抱いて向けた視線には、比翼連理の翼が映っていた。

 闇を纏う襲撃者の翼と。白銀に輝く払暁の翼。

 それは守備軍の最終防衛線を背に、自由の守護者として立ち塞がっている。

 

「僕を何度も騙せると思うなよ」

 

 セトナはそれを捉えた瞬間、内心に冷や汗が流れた。

 猛禽類のような姿で飛翔するレイダーの背中には、静かに佇むアカツキの姿があった。

 仕掛けは極めて単純だが、その効果は絶大だった。

 アカツキのエンジンを停止させた状態で、レイダーに運搬させる。

 本来は大気圏内での飛行能力を持たない機体を運搬するために搭載されたシステムだ。

 クロトはこの機能を利用し、セトナに悟られることなくアカツキをこの戦場に投入することに成功したのだ。

 もちろんエンジンを停止したアカツキは、単なる荷物に過ぎない。

 しかしモビルスーツを運搬したまま戦闘機動が可能なレイダーの推力と、バッテリーを消費しないフェムテク装甲を採用したアカツキの特性がこの作戦を成功させたのだ。

 たとえレーダーでその存在を確認したとしても、反応は通常状態と区別が付かない。

 基本的に巡航時はモビルアーマー形態で移動するレイダーは、一般的なモビルスーツと比較しても一回り大きな姿をしているからだ。

 ましてクローを用いた運搬ではなく、背中に乗せているのだから尚更だろう。セトナの計画は、この単純な罠によって完全に破綻してしまったのだ。

 

「くっ……」

 

 これでは、街はブルーコスモス軍に焼き払われてしまう。

 セトナは恐れていた最悪の事態が起ころうとしている状況に、焦燥感が込み上げる。

 クロト1人だけなら、対処出来たかもしれない。

 しかし目の前にはクロト・ブエルはもちろん、キラ・ヤマトも存在する。

 この状況では、シュラに使用した“分身”を見せるわけにはいかない。

 かつてシン・アスカがブラックナイツ相手に披露した分身とは異なり、セトナが使用出来る分身は改修されたデスティニーとセトナの能力を併用したトリックだ。

 まともに通用するのはあと1度が限界だろう。

 

「キラは援護を。あとは僕がやる」

「わかった」

 

 クロトは光の翼を展開したデスティニーに対して、アカツキと分離して軽量化したレイダーを加速させた。機体が瞬間的に速度を増し、セトナのデスティニーに向かって突進する。

 そして定められた運命を否定するように、淡々と審判を告げる。

 

「お前の立場は知ってる。だから投降すれば、それなりの待遇は保証する」

 

 実際のところ、セトナ自身はネオ・ブラックナイツの中でも穏健派だ。

 数で勝るブルーコスモス軍に対抗するため、ネオ・ブラックナイツが手段を選ばない積極的攻勢を選ばなかったのは、実行部隊を率いているセトナがそうした作戦を避けていたからだ。

 問題は彼らが強奪したザフトの兵器で暴れていることと、ブルーコスモス軍との衝突がコンパスも放置出来ないほど戦火が拡大したことだったのだ。

 だからこそクロトは降伏勧告を行い、セトナは否定した。降伏は、セトナの存在意義を否定することに等しかったからだ。

 

「……貴方にも」

 

 セトナは静かに言葉を発しながら、クロトを見つめた。

 他者の思考を自由自在に読み取り、それに介入する精神感応能力。

 周囲の状況を瞬時に把握し、目に見えないものを感知する空間認識能力。

 あらゆる分野において、既存の人類を上回る戦闘能力。

 しかし生まれ持った遺伝子が勝敗を決定するというのなら、クロト・ブエルがオルフェ・ラム・タオに勝利することはなかっただろう。

 人は遺伝子の定めを超えて、進化することが出来るのだ。

 ならばなぜ、自分はこの世界に生まれたのか。

 マーシャンたちが自分やアグニスに求めたように、生まれながらの指導者として人々に尽くすためなのか。それとも本当は何の意味もないのか。

 答えは誰にも分からない。

 だがこの世界の平穏を守るには、自分たちアコードやスーパーコーディネイターのように新たな火種と成り得る存在は例外なく消えなければならない。

 

「貴方にも使命があるでしょう?」

 

 セトナは宣戦布告と共に、ウィングスラスターを最大出力で稼働させる。

 するとデスティニーの背部から、赤い光の翼が展開した。

 真紅の輝きと共にミラージュコロイドとDUPE粒子が周囲に散布され、瞬く間に無数の光学残像がデスティニーを覆い隠し、実体を持った影のように広がっていく。

 しかしクロトはデスティニーの大軍が眼前に出現した悪夢のような状況に、動揺どころか感情を乱す気配すら感じさせない。

 

「それって──」

 

 クロトは無数の光学残像から放たれるビームの嵐を躱しながら、右手に構えたシールドブーメランを同時に投擲する。

 そして斬撃を急降下して回避しながら、セトナを皮肉るように叫んだ。

 

「“蒼き清浄なる世界の為に”ってヤツかぁ!?」

 

 生体CPU“クロト・ブエル”は、その使命を遂行するために造られた。宇宙を跋扈し、この世に蔓延する化け物──コーディネイターを抹殺するために。

 

「くっ──」

 

 セトナは自らの“使命”を否定し、信念を揺さぶろうとする言葉に表情を歪めると、大型対艦刀を振り被って一気に距離を詰める。

 光の残像を纏ったデスティニーは、まるで分身が襲いかかるかのようにレイダーを包囲し、哀れな獲物を冷徹に狙うように迫る。

 だが、クロトはその猛攻を見切っていた。

 反射的に急上昇して強烈な斬撃を回避すると、デスティニーの対艦刀が空を切る。

 セトナはとっさに掌部のビーム砲を放って追撃するが、クロトは回避と同時にデスティニーの進行方向を狙って電磁砲を発射する。

 攻撃に意識を傾けた一瞬の隙を突いて放たれた攻撃を回避しようとするが、同時にデスティニーの周囲に展開する光学残像の1つが直撃を受けて消滅した。

 

「へぇ」

 

 運命の否定者たるクロトは頷いた。

 デスティニーの纏っている残像の全てが、実体を有しているわけではないらしい。

 つまり発動には何らかの条件を満たす必要があるのか、あるいは制限時間が存在すると考えるのが妥当だろう。

 

「──行くぞ」

 

 クロトの蒼い瞳が、静かに影を落とした。

 極限まで向上した集中状態が、世界をスローモーションに映し出す。

 身体能力と空間認識能力が限界を超えて上昇し、周囲に存在する全てを認識し始める。

 人と世界を融和する存在。

 ジョージ・グレンの定義した、真の意味でのコーディネイター。

 かつて使命に忠実な生体CPU“クロト・ブエルが死の危機に瀕しても、決して目覚めることのなかった“優れた種への進化の要素であることを運命付けられた因子”が──覚醒する。

 

「!?」

 

 加速した思考が、セトナの読心術を置き去りにした。

 クロトはデスティニーと格闘戦を続けていたレイダーを変形させると、一瞬の隙を突いて破砕球を投擲した。

 強烈な一撃が高速機動を続けていたデスティニーの胴体を正確に捉え、フレーム全体に強烈な衝撃を与えながら吹き飛ばした。

 

「くっ……!」

 

 セトナはデスティニーの姿勢を立て直しながら、無数に展開した光学残像を次々破壊しながら猛攻を開始したレイダーを見て声を震わせる。

 もちろん油断していたわけではない。甘く見ていたわけでもない。

 これが世界を統べる者として生まれたオルフェ・ラム・タオと、世界最強の戦士として生まれたシュラ・サーペンタインを退けた力だ。

 定められた運命に抗い、進化し続けるクロト・ブエルの力。

 いくらデスティニーが強力でも、単純な一騎討ちでは勝ち目はないだろう。

 ましてこの場にはたった一機でネオ・ブラックナイツの大軍を無力化している、キラ・ヤマトが存在するのだから当然だ。

 この2人を同時に相手取るなど、命がいくらあっても足りるはずがない。

 だが、勝敗は別だ。

 

「貴方たちのせいで、向こうはどうなっているかしら」

 

 クロト・ブエルとキラ・ヤマトを欠いたファウンデーション王国軍は、ブルーコスモス軍の大部隊に壊滅的な敗北を喫するだろう。

 そうなれば彼らは、最優先目標である“襲撃者”を放置して大虐殺を招いた大馬鹿者だ。

 しかしクロトはセトナの批難に、微かに口元を歪めて答えた。

 

「──あの2人は、僕より強いよ」

 

 

 

 ファウンデーション王国北東部の荒野では、ブルーコスモス軍と善戦する国防軍の激しい爆音が響き渡り、無数の閃光が廃墟と化した大地を赤く染めていた。

 その中で幽鬼のような表情をした精悍な男が、たった1機で自分の前に立ち塞がる真紅のストライクに視線を向けた。

 敵は想像を遥かに凌ぐ実力だが、想定を凌駕するほどではなかった。

 男が今回発動した武力侵攻の本当の標的は、元ブルーコスモスにしてコンパス最強のモビルスーツ小隊を束ねるクロト・ブエルだからだ。

 あの自然の摂理に反した化物と馴れ合う裏切り者を討つため準備した戦力であれば、たとえどんなコーディネイターが相手だろうと些細な問題に過ぎない。

 

「俺達はこの世に生まれたことが罪だと教えてやろう」

 

 男はストライクの繰り出す攻撃を捌きながら、余裕の笑みを浮かべる。

 勝利を確信したこの男こそが、元大西洋連邦軍のハーフコーディネイターで結成されたテロ組織“アンティ・ファクティス”の元指導者──ジョエル・ジャンメール・ジローだ。

 現在はロード・ジブリールの後継者としてブルーコスモス軍を束ね、正体不明のテロリスト“襲撃者”を自称するテロリストだった。

 ジョエルは冷徹に思考を巡らせる。

 ナチュラルでもコーディネイターでもない半端者──ハーフコーディネイターとして様々な戦場を渡り歩いてきたジョエルにとって、この戦いは本命のクロト・ブエルとの決戦に向けての前哨戦に過ぎない。

 ストライクのパイロットは、南部に現れたネオ・ブラックナイツを迎撃するため出撃したブエル隊の予備戦力か、あるいはユーラシア連邦の国境線に展開するサブナック隊の戦力か。

 いずれにせよクロト本人の実力には及ばないだろう。久しぶりの実戦で鈍っている実戦感覚を取り戻す肩慣らしにはちょうどいい。

 

 だが──。

 

 その瞬間、ストライクの動きが変化し始めた。

 レイダーを凌駕する機動力と、デストロイに匹敵する大火力を誇るブーストレイダーに翻弄されていたストライクの反応が、徐々に鋭さを増してきたのだ。

 

「鈍ってるなぁ」

 

 戦場で命の遣り取りをしているとは思えない、少女の声が響き渡った。

 その歌うような調子の声に、ジョエルは思わず背筋を凍らせる。

 次の瞬間、ストライクが鋭い回避と同時に2丁拳銃で放った正確無比な光弾が、背後に回り込もうとしていたレイダーを襲った。

 とっさにジョエルはゲシュマイディッヒ・リージョンを展開するが、僅かに反応が遅れたことで装甲の一部が削り取られる。

 

「奴を撃て!」

 

 間違いない。

 敵の正体を確信したジョエルは焦燥を押し隠し、部下に命令を下す。 

 この危険な真紅のストライクを操縦しているのは、かつてブルーコスモスが産み出した最強の生体CPU──ステラ・ルーシェだ。

 純粋な戦闘の才能はクロト・ブエルをも凌ぎ、フリーダムと互角に渡り合った少女の姿をした怪物が、自分たちの前に現れたのだ。

 

「了解」

 

 ジョエルの冷徹な声が、通信回線を通じて部下に伝わる。

 だが、今回デストロイに搭乗させたパイロットは、これまでの失敗作とは格が違う。

 このブーストレイダーが自分でなければ操縦出来ないのと同様に、脱走したネオ・ロアノーク大佐のような超人や、生体CPUしか性能を引き出せない戦略兵器“デストロイ”。

 この戦艦級の性能を誇りながらも、その操作性から欠陥品と烙印を押されたモビルスーツも、自然の摂理に反した罪の証なのか、繁殖すら満足に出来ないバケモノの成れ果て──ハーフコーディネイターであれば操縦出来るのだ。

 遠方に配置された無数のデストロイが、一斉に砲火を閃かせる。

 破壊の閃光が空を斬り裂き、戦場を焼き尽くす。

 まるで最後の審判が下ったかのように、全てを消し去る破壊の光は周囲の建造物どころか地面をも一気に抉り取る。

 そして哀れなストライクと共に、街は跡形もなく壊滅するはずだった。

 そうなるはずだった。

 

「!?」

 

 しかし一向に攻撃を開始しないデストロイの方向に視線を向けたジョエルは、有り得ない存在を目撃した。

 独立戦争時に水に棲む怪物──ケルピーを見たと恐れられ、ファウンデーション事変においてレイダーと2度も対等以上に渡り合った、最強の鬼神を。

 

「少々八つ当たりに付き合って貰うぞ」

 

 緋色に輝く衣を纏った漆黒のモビルスーツ──ブラックナイトスコードシヴァは、全身からビームを発射するデストロイに斬撃を繰り出した。

 とっさに掲げた腕をヒートソードで斬り裂き、苦し紛れに放った砲火は漆黒のフェムテク装甲から展開した紫色の薄い膜に阻まれて拡散する。

 そのまま流れるような勢いでビームソードを叩き込むと、胴体を切り裂かれたデストロイは地面に崩れ落ちる。

 

「ふっ」

 

 シュラはこの最高のスピードと最強の剣を体現した相棒に、満足げな笑みを浮かべる。

 この機体を入手する代償として、敵のエースパイロットを狙うクロトに代わって街の防衛を引き受けただけの価値はあると自分に言い聞かせる。

 デストロイの1機が推進剤に引火したのか、その場で爆発を起こした。

 溜息を吐いて次の標的に向かおうとした瞬間、レイダーの額部に搭載されたビーム砲から発射された高出力のビームが装甲を掠めた。

 

「悪くないが──」

 

 圧倒的なビーム耐性を誇るフェムテク装甲でも、ビームライフルと異なり高出力なジェネレーター直結型ビームの無効化は難しいらしい。

 シュラが冷静に判断しながらシヴァを前進させると、ブーストレイダーはバックパックに搭載した連装ビーム砲を発射した。

 弧を描くように伸びた強烈な光弾が、左右からシヴァを挟み込むように伸びる。

 

「良くもない」

 

 シュラは機体を旋回させると同時に、鞭を振るうような斬撃を繰り出した。

 シヴァに搭載されたマント状ビーム発生デバイスから展開した攻防一体のビーム刃が、機体に迫っていたビームを相殺した。

 敵の隊長機との戦闘はクロトに禁じられているが、向こうから仕掛けて来た場合は別だ。

 シヴァの復帰戦で因縁のレイダーと再戦する機会が訪れたのは、やはり自分とシヴァはそういう運命なのだろう。

 

「邪魔ッ!」

 

 機体を前方に加速させた瞬間、ステラの声が無線回線で響く。

 するとその瞬間、シュラの瞳にまるで悪魔のような悍ましいイメージが映った。

 

「なッ……!?」

 

 ステラの強烈な思念が具象化されたのか、それとも全く無関係なのか。

 底知れない不吉を予感させる悍ましい光景に、シュラは反射的にトリガーを引いていた。

 するとシヴァの胸部から発射した無数の短針が、形勢不利と判断して撤退しようとしたブーストレイダーに雨嵐の如く降り注いだ。

 完全に不意を突かれた形で飽和攻撃を受けたフェイズシフト装甲が莫大なパワーを消費し、瞬間的なフェイズシフトダウンを起こして全身を貫かれる。

 

「そいつは私が!」

 

 ジョエルが何が起こったのか理解する前に、背後から襲い掛かったストライクのビームブレイドがブーストレイダーの上半身を両断した。

 すると元々バッテリー機として開発されながら、継戦能力向上と万が一の事態に備えて追加搭載されていたレイダーの核動力炉が停止し、パワー供給を絶たれて沈黙する。

 

「そんな馬鹿な!」

「隊長が討たれた!?」

 

 ブルーコスモス軍の誰かが、絶望の声を上げる。

 攻撃部隊の主力であるデストロイ隊が壊滅し、現場で全体の指揮を執っていたブーストレイダーも討ち取られた。

 まさに頭と両手を同時に喪う形となったブルーコスモス軍は混乱に陥り、総崩れとなって無秩序に撤退を開始する。

 

「……ふん」

 

 ファウンデーション事変を経て、再び混迷の時代に逆戻りした世界で“最後のコーディネイター”になるため、各地のブルーコスモス軍を束ねていた“襲撃者”。

 反コーディネイターの思想集団であるブルーコスモスが滅びることは、2つの種族が存在する限り永遠に来ないかもしれない。

 それが道理だ。

 貧富の差なら、あるいは能力の差なら、何かのきっかけで覆るかもしれない。

 しかし生まれ持った才能の差が覆ることは永遠にない。

 アコードの王がオルフェ・ラム・タオであり、女王がラクス・クラインのように。部分的に上回る分野はあったとしても、総合的な能力で上回る者はこの世に存在しないだろう。

 だからクロト・ブエルとその仲間がやっていることは、いつも1000年先の未来を考えていたオルフェ・ラム・タオの言う、決定的な破滅の先延ばしに過ぎない。

 弱肉強食。それが世界の真理なのだから。

 戦場に静けさが戻る中、シュラはモニター越しに真紅のストライクを見つめた。

 まさに戦場を支配し、戦士たちを祝福する湖の戦乙女だ。

 

「強き者は美しい……」

 

 シュラは神々しさすら感じさせる程の鮮烈な力と、モニターに映る危うい雰囲気を纏った可憐な少女の姿に、思わず声を漏らした。




問題の核搭載ブーストレイダーくんですが、あまりにも相手が悪いので出落ちしました。
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