逆襲のクロト   作:皐月莢

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Freedomの特別編が上映されたので、全員観に行きましょう。


ファウンデーションにて・⑦

 ファウンデーション王国南東部の郊外には、荒涼とした大地が広がっていた。

 クロトはこの灰色の世界で極限の集中状態を維持しながら、無数の分身を展開したセトナのデスティニーと激しい空中戦を繰り広げていた。

 まだお互いに実力の底は見せていない。

 それでも分身の1つが電磁砲で消し飛ばされ、さらに別の分身にビームライフルから放たれた光弾が直撃して霧散する。

 まるで猛禽類に蹴散らされる鳥達のように、ストライクレイダーを包囲していたデスティニーの分身は、徐々にその姿を減らし始めていた。

 これが自由の守護者と呼ばれるクロト・ブエルの力だ。

 生まれ持った才能頼りの──それも偽物に過ぎないセトナの力では、クロトの極限まで研ぎ澄まされた力には遠く及ばない。

 

「!?」

 

 完全に隙を突いたはずの攻撃が、予想外の反撃で返される。

 ストライクレイダーの動きは、まるで空中を舞っているように滑らかだ。

 アコードだろうと容易に対応出来ない最速の突撃に合わせて振るわれたビームクローが、デスティニーの巨大な対艦刀を両断した。

 その切り裂かれた刃の残骸が宙を舞う中、次々に繰り出されるストライクレイダーの強烈な攻撃がデスティニーを襲う。

 

「ぐっ……!」

 

 胴体部分に破砕球が命中し、強烈な衝撃波がセトナを襲う。

 コンパスの強襲を受けて司令官と主力部隊を喪い、壊滅的な被害を受けたブルーコスモス軍は次々に撤退を開始したようだった。

 ネオ・ブラックナイツのメンバーも形勢不利の状況を悟ったのか、戦線から離脱する者が現れ始めていた。

 既にこの戦闘は、戦略的に何の意味も持たないものとなっていた。

 ただ敗北を認められない者たちが、まるで頭を失った虫のように足掻いているだけだった。

 セトナは唇を噛み締めながら通信回線を開くと、無数の分身を置き去りにするような速度で空を舞うクロトに静かな声で呼びかける。

 

「私は人々に尽くすため生まれた」

 

 それはアコードの女王“ラクス・クライン”の代替品だったり、あるいは火星に暮らすマーシャンの象徴としての役割だったり。

 いずれにせよセトナは、その崇高な使命を遂行するために特別な才能を与えられたのだ。

 それは進化することで定められた運命に抗い、これまで何度も世界の危機を救ってきたクロトとは真逆の在り方だ。

 

「その使命を捨ててどう生きる?」

 

 クロトはセトナの冷静さを保ちながらも悲哀を帯びた言葉に、眉をひそめた。

 

「私には出来ない。世界の破滅を見過ごすことは出来ない」

 

 ヒトは絶えず憎み合い、争い続ける。

 それはナチュラルもコーディネイターも、もちろんアコードも本質は変わらない。

 むしろ人類が新たな力を獲得する度に、この無限に続く連鎖はより強大に、より醜悪なものに変貌していく。そう遠くない未来に、この世界は自らの手で滅びてしまうだろう。

 ならば少しでも破滅を先送りするために、全てをなかったことにするしかない。

 

「あの金髪ヤローもそうだけど」

 

 セトナの言葉が途切れた瞬間、ストライクレイダーは閃光のように動き出した。

 まるで黒い稲妻が大気を切り裂くように、センサーでは捉えられないほど高速でデスティニーに接近すると、立て続けに精密な射撃を放つ。

 セトナは瞬時に反応し、デスティニーを急上昇させて光弾を避けた。

 しかし、次の瞬間にはクロトが影のように背後から迫っていた。

 

「暇なんだなぁ!」

 

 クロトの嘲るような声が、通信回線を通じて冷たく響く。

 その言葉に反応してデスティニーを翻そうとした直後、ストライクレイダーの口部から放たれた強烈な一撃がビームライフルを破壊した。

 その気ならもう終わっていた、と無言で掛けられた重圧にセトナは頭に血を上らせる。

 

「くっ……馬鹿にして!」

 

 思考を読んでも水面に映る月影のように捉え切れない、まさに変幻自在の動きだ。

 むしろ読み取ろうとすればするほど、思考を誘導されているような感覚だ。

 セトナはクロトの追撃を辛うじて回避すると、反撃のビームブーメランを振るった。しかし、その刃はストライクレイダーの手元に戻ったシールドで弾き返され、無力に宙を舞う。

 

「そろそろ終わらせてやるよ」

 

 クロトは再び冷たい口調で宣言する。

 そして挑発に反応して雰囲気が変わり始めたセトナを警戒しながら、迫り来るデスティニーに破砕球を投擲した。

 デスティニーの分身は、シン・アスカとの実戦で既に経験済みだ。

 周囲にデスティニーを支援する機体が存在しないこの状況下では、この分身は単なる撹乱と目眩まし以上の意味を持たない。

 セトナ本人の技量も、分身の精度もシンには遠く及ばない。

 このレーダーによる捕捉機能を妨害する分身も、実際にセトナが操縦しているデスティニーと比較しても明らかに反応が鈍い。

 

 ──反応が鈍い?

 

 クロトの眉が僅かに動いた。

 周囲に展開したミラージュコロイドとDUPE粒子を利用し、デスティニー本体の映像をリアルタイムで投影する分身の反応と、本体の反応速度に差が存在するわけがない。

 映像の投影が完了するまでの誤差は発生するとしても、それは人間の感覚で判断出来るようなものではないはずだ。

 疑念が脳裏をよぎった瞬間、クロトは反射的にスラスターを吹かして急上昇した。

 その直後、後方から発射された絶大な真紅の閃光がストライクレイダーの翼を掠めた。戦艦の装甲をも貫く強烈なビームは岩壁に直撃すると、爆発と共に大規模な崩落を引き起こす。

 

「!?」

 

 クロトは驚愕の声を上げた。

 分身の影にモビルスーツの反応は存在しない。反転してこちらを狙っているデスティニーも、間違いなく本物の機体だ。

 これがシュラ・サーペンタインを破った、セトナの“質量を持った残像”──?

 想定を上回るデスティニーの攻撃に顔を顰めた瞬間、真紅の閃光を発射した分身が蜃気楼のように揺らめいた。

 その蜃気楼の中には、デスティニーとは異なるモビルスーツの姿がはっきりと見えた。

 

「これは!」

 

 つまりミラージュコロイド機能を利用し、デスティニーの姿に偽装して分身を展開していた別のモビルスーツが、一瞬の隙を突いてストライクレイダーを狙撃したのだ。

 いくらデスティニーが周囲にミラージュコロイドを展開して偽装しようと、実際に攻撃を開始すればこのデスティニーの分身に擬態したステルス機能は解除される。

 つまり1度の戦闘に限り、1度きりしか使えない大技だ。

 

「使命を果たしなさい!」

 

 セトナの声が戦場に響く。

 デスティニーは眩い光を放つと、戦闘に乗じて散布を完了したミラージュコロイドを利用して無数の分身を再び出現させた。

 その高らかな声と共に自律機動を開始した分身はストライクレイダーを包囲すると、四方八方から一斉攻撃を開始する。

 無数のビームと対空ミサイルが交錯し、莫大なエネルギーの放出によって空間が歪んで見えると錯覚させるほどの猛烈な光と音の嵐が発生した。

 

「!」

 

 クロトは瞬時にシールドブーメランを投擲すると、同時に手元で破砕球を振るう。

 ブーメランは複雑な軌道を描きながらビームを相殺し、破砕球に取り付けられた高分子ワイヤーは次々にミサイルを弾き返す。

 そして不用意に接近しようとした機体を攻撃しようとした瞬間、デスティニーが掌から放った蒼い閃光が再びストライクレイダーの装甲を掠めた。

 

「……そういうことか」

 

 クロトはぼそりと呟いた。

 デスティニーの姿に偽装して包囲させた部下に隙を作らせ、セトナ本人は部下をサポートしながら一撃必殺を狙う。

 機体性能で劣る部下を的確に守るには高度な連携が必要だが、他者との自由自在な意思疎通を可能にするアコードの能力が、この難題を解決させたのだ。

 

「キラ!」

 

 だが、あくまで想定の範囲内だ。

 クロトはストライクレイダーの後方に、鋭い視線を向ける。

 遂にミラージュコロイドを解除した無数のモビルスーツ──ウィンタース隊のメンバーが、一斉にミサイルを発射した。

 クロトはその全てを見切ったかのように急上昇して回避すると、こちらに猛烈な速度で向かってくるカグヤアカツキに視線を向けた。

 白銀の装甲に蒼い巨大な翼を背負ったカグヤアカツキが、天界から舞い降りた守護天使のようにストライクレイダーの背中に覆い被さって来る。

 

「エンゲージ!」

 

 キラの凛とした声が響き渡る。

 その言葉と同時に、眩い光に包まれたストライクレイダーはウィングユニットのコネクタに接続したカグヤアカツキと合体を果たした。

 二つの融合炉から供給される莫大なエネルギーが蒼い翼に供給され、出力制限が解除されたウィングユニットが左右に展開される。

 堕天使のような翼から虹色の光が溢れ出し、その光は両機を神秘的に照らし出した。

 その直後、まるで磁気嵐のように空を覆い尽くす無数のビームが、ストライクレイダーとカグヤアカツキに着弾する。

 

「馬鹿馬鹿しい。貴方達に──」

 

 何が分かると言おうとしたところで、目の前で起こった異様な事態に言葉が途切れた。

 翼から放たれる光の粒子──キラの脳波で制御されたナノ粒子がストライクレイダーとカグヤアカツキを包み込み、傷1つ存在しない比翼連理の翼が姿を現した。

 ファウンデーション事変で投入された新兵器“フリーダムディフェンダー”をベースに、使用者の能力を最大限に引き出すため最適化された新型ウィングユニット“ヒネズミ”。

 その真なる自由の守護者を示す翼は全ての攻撃を吸収すると、その莫大なエネルギーを熱量に変換して周囲に強力な電場を生成する。

 次の瞬間、キラの脳波とリンクしたディフェンダーは目の前に存在する全てのミサイルと敵モビルスーツを瞬時にロックオンした。

 そして刹那の沈黙の後、ストライクレイダーを中心に指向性の電撃が放たれる。

 キラに制御された青白い稲妻は大気を斬り裂き、ロックオンされた数百の標的を同時に貫いた。

 強烈な電撃によって強制的にエラーを発生させられたミサイルはその場で爆発し、モビルスーツはまるで糸の切れた操り人形のように地上へと落下していった。

 もちろん、フェムテク装甲を持たないデスティニーもその例外ではない。

 

「な、何ですって……!」

 

 セトナは愕然としながら、自分達が無力化された光景をただ見つめるしかなかった。

 強烈な電撃を受けたデスティニーの電子機器が異常を起こし、制御を失ったデスティニーは大きく傾きながら落下を開始した。

 

「こんな、はずじゃ……!」

 

 セトナは朦朧とした意識の中で姿勢を立て直そうと試みるが、デスティニーは意志を失ったかのように反応しなかった。

 そのとき、戦場全体に新たな警報が響き渡った。それは終末を告げる喇叭のように不吉な響きだった。

 

 

 

 

「こっちは予想通りか」

「うん」

 

 クロトとキラはその異変に、誰よりも早く気づいていた。

 それぞれの機体の中で、二人は緊迫した表情で警報を鳴らすモニターを凝視する。

 ユーラシア連邦との軍事境界線付近に存在するブルーコスモスの基地から、核ミサイルが発射されたのだ。

 

「懲りねーヤツだ」

 

 クロトは呟いた。

 もともと、ブルーコスモスの作戦には違和感があった。

 核動力に換装したとはいえ、2年以上前に開発された旧式の機体とデストロイ数機で、自分を倒すつもりなのかと。

 最初からジョエルの目的は、遺伝子至上主義者たちで構成されたネオ・ブラックナイツに核ミサイルを撃ち込むことだったのだ。

 キラは即座に本部から送信された情報を解析し、ミサイルの軌道を計算する。

 核ミサイルの目標は、やはりここだ。

 

「何とかしないと!」

「大丈夫」

 

 クロトは深く息を吸い込むと、操縦桿を握る手に力を込めた。

 

「──クロト・ブエル一佐。ディスラプター使用を申請」

 

 クロトの声が通信回線を通じて、遠く離れたコンパス本部ビルの作戦室に響いた。

 その危険性から二重の音声認証で封印が解除される、ディスラプターの使用申請画面がモニターに表示される。

 

「総裁ラクス・ディノ。ディスラプター使用を承認いたします」

 

 ストライクレイダーに搭載された共時性パリティ通信によって、リアルタイムで届けられたクロトの声にラクスは応答する。

 その穏やかな声には、信頼だけが込められているようだった。

 

「ディスラプター起動。出力50%!」

 

 クロトは短く返答すると、起動シーケンスを開始した。

 口部に搭載されたビーム発射口が発光と共に変形し、その一部が外部に露出する。

 機体が微かに振動すると共に、膨大なエネルギーがストライクレイダーの一点に集束していく。

 高高度で飛来する核ミサイルは、かつて地球に氷河期をもたらした小惑星のように防衛網を掻い潜って迫る。

 周囲の音は消え去り、心臓の鼓動だけが耳元で響いている。

 クロトは時間が止まったような静寂と共に息を吐くと、引き金に指をかけた。

 

「ディスラプターツォーン発射!!」

 

 クロトはトリガーを絞り、狙い撃っていた。

 ストライクレイダーの口部から、一点に凝縮された莫大なエネルギーが発射される。

 対象の原子を崩壊させると同時に核分裂を抑制することで、射線上に存在する全てのものを破壊する──まさに運命を絶つ不可視の刃が核ミサイルを呑み込み、一瞬の閃光と共に消滅させた。




レイダーとアカツキの合体は、原作でレイダーがカラミティを乗せてたシーンのオマージュです。

ストライクレイダーフリーダムは劇場版限定の最強形態だと思ってください。

劇場版を再度観に行きましたが、追加エピローグのセリフはえっちじゃなかったら種編のラストバトルがフリーダムVSレイダーになる本作だと危険過ぎる……。

作者がハインラインのせいにしたパイスー、本当に開発したのはハインラインだったので困惑しました。
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