逆襲のクロト   作:皐月莢

18 / 144
今週はバタバタしていました。二度目の前後編です。

アスランくんがこの戦いに参戦すればカガリちゃんと対峙することに今更気付きました。
これは無人島イベント消滅の危機……?


舞い散る砂塵 前編

 〈56〉

 

 クロトとキラがブルーコスモスのテロに巻き込まれ、最終的にザフト北アフリカ駐留軍司令官──アンドリュー・バルトフェルドに連行されたというカガリの衝撃的な報告は瞬く間にアークエンジェル艦内に広まっていた。

 もちろん表向きは命の恩人であるクロトとキラを屋敷に招待するというものだったものの、片やブルーコスモスの一員であり、ザフトも恐れる“エンデュミオンの悪魔”であるクロトと、片や地球連合軍に所属する裏切り者のコーディネイターのキラである。

 バルトフェルドがそんな2人を見逃す理由などなく、拘束してアークエンジェルの情報を吐かせた後に殺されるだろうというのがマリューとムウの見立てだった。

 ニュートロン・ジャマーの影響で電波状況が悪く、クロト達と別行動を取っていたサイーブ達とも連絡が取れない状況であり、マリューとムウの焦燥は深まるばかりだった。

 

「くそっ! 私にジッとしてろと言うのか、キサカ!」

 

 カガリは少数部隊で再度バナディーヤに潜入し、バルトフェルドの屋敷で拘束されていると思われるクロトとキラの救助に向かおうとしていた。

 しかし既にカガリの顔が割れている以上、不用意な行動はあまりにも危険だとキサカが忠言したため、カガリもサイーブと連絡が付くまで待機を強いられていたのである。

 

「……」

 

 このアークエンジェルの格納庫でも、その話題で持ちきりになっていた。

 このままクロトとキラが戻って来なかったら、誰がレイダーとストライクを操縦するのか。

 そもそもクロトとキラ以外にレイダーとストライクを操縦出来る者がいるのか。

 最悪の場合、ムウがレイダーを操縦するらしいが本当なのか。

 そして最後の内容については、根も葉もない噂ではなく事実だった。

 生体CPU用OSが搭載されたレイダーの操縦はストライクに比べて容易であることと、レイダーはMSだけではなくMAとしても使用可能であり、元々MA乗りとして高い適性を持っていたムウはMA形態に限定すればレイダーを操縦することが出来たのだ。

 もちろん戦力としてはMS形態、MA形態を自由自在に使い分けるクロトには遠く及ばないのだが、それでも今の絶望的な状況では貴重な戦力である。

 しかしストライクの処遇に関しては未定だった。

 キラが今までの戦闘データをフィードバックし、常に改良を続けていたストライクのOSは完全にブラックボックス化していてキラ本人しか弄る事が出来ず、そんなストライクを動かせる人間もキラを除けばクロトだけだったのである。 

 つまりストライクは事実上使用不可能であり、あとはその絶望的な状況をマリュー達が受け入れるまでに時間を要していただけだったのである。

 そんな会議は踊る、されど進まずな状況の最中、サイは格納庫の片隅にひっそりと置かれたストライクの前に立っていた。

 マードックら整備班は最悪の場合ムウが乗ると決まったレイダーの整備に掛かりっきりになっており、ストライクの整備は完全に後回しになっていたからである。

 今ならストライクに乗り込むことも容易だった。もしも自分がストライクを動かすことが出来れば──自分はクロトとキラに代わってアークエンジェルの救世主になれるかもしれない。

 先日の一件以来、サイはクロトとキラの2人が許せなかった。

 一方的に婚約解消を告げたフレイを庇った挙げ句に自分を嘲笑ったクロトと、そんなクロトを庇ったキラが。 

 

「……」 

 

 お前は“後輩の女の子が無理矢理戦わされてるのにヘラヘラ軍に志願する”奴だ。そのクロトの言葉はあまりにも辛辣だったが、やはり紛れもない真実だと認めざるを得なかった。

 自分達カトーゼミのメンバーは、フレイを除けば全員中立であるオーブの人間だ。

 大西洋連邦の人間であり、愛する父親を殺されたという事情があるフレイを除けば、論理的に考えて地球連合軍に志願する方がおかしいのである。

 そもそも何故キラがストライクに乗って戦うことになったかというと、マリュー達が自分達とヘリオポリスの避難民を事実上人質に取っていたからである。

 お前が戦わなければ友人が死ぬ、ヘリオポリスの避難民が死ぬと暗に匂わされて戦わないという選択肢を取れるほど、キラという後輩が冷酷な少女ではないことはサイも認識していた。

 事実キラは第8艦隊と合流した際に自分達が残ると言い出さなければ除隊するつもりの様子だったし、おそらくクロトもそれを後押ししていたと思われる。

 そんなキラに対して、自分達は何をしたのだろうか。

 キラは当初、ブルーコスモスに所属するクロトを怖がっていた。反コーディネイター、反プラントを掲げ、主義主張の為ならテロすら辞さない危険思想集団ブルーコスモスに所属するクロトを、コーディネイターであるキラが怖がるのは自然だった。

 しかしクロト本人の言動はキラにとって意外にも“優しい”ものだったらしく、日に日に打ち解けていった。

 それこそ同じカトーゼミに所属する友人だと自認している一方で、キラがコーディネイターとしての能力を発揮する中で、やはり異質な存在だと何処か距離を置くようになった自分達とは真逆だった。

 

「……動かせる訳、ないか」

 

 キラはコーディネイターだからストライクを動かせるのであり、規格外の天才であるクロトのような例外を除けば、ナチュラルではストライクは動かせないのである。

 しかしナチュラルである自分はキラとは異なり、たとえストライクを動かせなくても大勢に受け入れて貰えるのだ。それは多分、キラがどれだけ望んでも手に入れられないものだろう。

 だから力を持っている事がいいことだとは限らないし、自分には自分の出来る事がある筈だ。そう考えたサイはCICに戻る為、格納庫を後にした。

 

 〈57〉

 

 アイシャから貰ったドレスを脱いで元の潜入用の私服に戻ったキラは、クロトと共に小洒落た喫茶店に入っていた。

 冷えた珈琲と共に粗く挽いた小麦粉のケーキにシロップを染み込ませた北アフリカの名物スイーツ“バスブーサ”を口に運ぶクロトに対して、キラはやや呆れた様な口調で言った。

 

「早く連絡を取らなくていいの? 皆、心配してるんじゃ……」

「今更ちょっと連絡が遅れるくらい、大丈夫でしょ」

「それは……そうだけど。でも……」

 

 確かに2日経っても戻らなければ云々の伝言をカガリに頼んでいたが、アークエンジェルやカガリからすれば自分達はザフト北アフリカ駐留軍司令官に連行されたのだ。

 自分達が無事に解放されたという連絡を後回しにしてまで、こんな所でのんびりしていていいのかとキラは思ったのである。そんなキラに対して、クロトは溜息を吐いて真面目な顔を向けた。

 

「……さっきの話じゃないけど、そろそろ今後のことについて、話しておこうと思って。戦争には終わりがないかもしれないけど……()()()()()()()()()()からね」

「今後の……こと?」

 

 今もキラがなし崩し的に参加している、地球連合軍最高司令部が存在するアラスカ基地に地球連合軍初のMSであるG兵器“ストライク”“レイダー”の実物を届けるという特務。

 その特務を遂行するため、北アフリカに降下してしまったアークエンジェルはこの砂漠を抜けて紅海に進出し、インド洋、太平洋を抜けてアラスカ基地に向かう計画を立てている。

 勿論キラもそのことは重々承知していたが、今まで任務が終わった後のことについて考えたことはなかった。

 何故なら今回の任務がナチュラルにも使用可能なMSを開発する為という目的を掲げている以上、コーディネイターである自分の役目はアラスカ基地に到着すれば終わりなのではないかと、キラはなんとなく感じていたからである。

 また一時的にアークエンジェルの護衛任務を遂行していただけのクロトはアークエンジェルには残らず、本来の姿であるブルーコスモス盟主の直属兵に戻るだろう。

 だからキラにとって、この任務が終わった後のことは考えたくなかったのである。

 無論クロトもそんなキラの事情は察していたのだが、万が一にも話を聞かれる訳にはいかないマリュー達の下から離れ、自分達に同行していたカガリとも離れている今がクロトにとっては千載一遇のチャンスだったのだ。

 

「うん。……アークエンジェルが無事にアラスカ基地に到着すれば、僕の任務は終了だ。だから()()()()()はそこで終わり」

「そ、そんな……」

 

 薄々感じていたことではあったが、クロトにあまりにも無情な現実を突き付けられたキラは絶句した。

 勿論、キラも()()()()()()()()()()()()()こと位は分かっていた。

 恋人ごっこというにはあまりにもクロトの言動は献身的だったし、そこにキラを戦力として繋ぎ止めようとする打算は感じられなかったからだ。

 むしろ極力クロトはキラの負担を軽減するように動いていたし、そんなクロトの好意と心的外傷に付け込んで関係を迫ったのはキラの方だったのである。

 しかしクロトには何よりも優先しなければならない使命があり、折り合いの付かない自分の感情に言い聞かせるために自分達は恋人ごっこをしているのだと主張したことが、クロトの不器用な性格をよく知るキラには容易に理解出来たのだ。

 

「いっそ……脱走すれば……」

 

 とはいえキラには納得出来ないものだったし、クロトもキラがそう感じるだろうと思っていた。

 クロトの正体を生体CPUだと知らないキラからすれば、ブルーコスモス思想を持たないクロトがアズラエルの直属兵という立場に拘る必要性などない筈だからだ。実際には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだが。

 

「僕が君に出来る最後のことは、()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。……今や地球連合軍最高司令部も、ブルーコスモスの影響が強くてね。いつまでも地球連合軍に残ってたら、今以上にロクな目に合わないよ?」 

「……」

 

 キラのような地球連合軍に所属するコーディネイター達の実情を詳しく知っていたクロトの言葉はキラに更なる衝撃を与えた。

 敵味方から目立つように白く塗装したジンを与えられ、常に味方に監視されながら戦うコーディネイター“ジャン・キャリー”。

 人為的に服従遺伝子を組み込まれ、ナチュラルの為に行動することを至上命題として造られた戦闘用コーディネイター“ソキウスシリーズ”。

 クロトの語る地球連合軍に所属するコーディネイター達は、今のキラが受けているより遥かに非人道的な扱いを受けていたのである。

 学生だった自分に対してヘリオポリス避難民の命を盾に同胞殺しを強要したマリューに、そんなマリューを甘いと公言するナタル。こんな二人がむしろ極めて穏健派だという事実に、地球連合軍は本当に恐ろしい組織なのだとキラは怯えるしかなかった。

 そんな組織にいつまでもキラを残しておくわけにはいかないし、その為に自分はアズラエルの直属兵としての権限を最大限に利用する。だから自分は脱走出来ない。

 それがクロトがキラの除隊を納得させる為に用意した答えだった。

 この世界線ではハルバートン少将が生き残っていて自分に貸しがある以上、その伝手を利用すればどうにかなるかもしれない。ほとんど願望に近い考えだったが、今のクロトに思い付く手段はそれ位しかなかったのである。

 

「僕が君と二人きりでこんな風に過ごせるのは、今日が最初で最後だ。……だから少しくらい連絡が遅れたって構わないと思ったんだけど……やっぱり駄目かな?」

「……ううん。駄目じゃない、駄目じゃないから……」

 

 キラは先程までは砂糖菓子のように甘かった“バスブーサ”が何故か妙に塩辛くなったと感じながら、高い気温の所為か目尻から溢れ出して止まらない涙を拭うのだった。

 

 〈58〉

 

「何でザウートなんか寄越すかな、ジブラルタルの連中は。バクゥは品切れか?」

 

 今やザフトの最優先目標の一つであるアークエンジェルを撃破する為、バルトフェルドはこの北アフリカ戦線に最も近いザフトの軍事基地──ジブラルタル基地にバクゥの補給を要請していた。

 しかし到着した補給部隊から送り込まれたのはバルトフェルドが要請したザフトの陸戦用高機動型MSバクゥではなく、陸戦用砲戦型MSザウートだった。

 装甲と火力は優秀だが機動性においてバクゥに劣るザウートについて、高速戦闘を好むバルトフェルドは信用していなかった。しかしジブラルタル基地はザウートと共に、基地に滞在していたディアッカとバスターを送り込んで来たのである。

 

「はぁ。……これ以上は回せないという事で。カーペンタリアからはディンとグゥルが。なんでもクルーゼ隊長の口利きだとか……」

「ふん。ザラ国防委員長の愛息子である自分の部下に華を持たせてやりたいってとこだろ。他人に顔を見せないところといい、僕はアイツのこういう所が嫌いなんだよ」

 

 また先日送り込まれて来たアスランに引き続き、カーペンタリア基地からは援軍としてアスランの愛機であるイージスに加え、空中戦用量産型MSディンと、MS支援空中機動飛翔体グゥルが補給部隊から送り込まれて来た。

 こちらは砂漠戦においてもバルトフェルドが保有する既存の航空戦力と比較しても遜色ない優秀な兵器であり、クルーゼの砂漠戦に対する深い理解を思わせるものだった。

 バルトフェルドは弱冠24歳にしてエリート指揮官の証である白服を纏うクルーゼを軍人として尊敬する一方で、政治的野心が強く、遺伝子操作の失敗が顔に現れているという理由で素顔を隠すクルーゼを人間として嫌っていたのだった。

 それはクルーゼの部下であるアスランに対しても同じで、言葉の端々にエリート意識が見え隠れするアスランをあまり好きになれなかったのである。

 

「砂漠はその身で知ってこそってね。ようこそレセップスへ。指揮官のアンドリュー・バルトフェルドだ」

「改めましてご挨拶を。クルーゼ隊、アスラン・ザラです」

「同じく、ディアッカ・エルスマンです」

「宇宙から大変だったな、歓迎するよ」

 

 赤服を多数擁するザフト軍屈指のエリート部隊──クルーゼ隊の一員として、改めて自己紹介したアスランとディアッカと握手を交わしながら、バルトフェルドは2人が先程まで操縦していたイージス、バスターを見上げた。

 

「なるほど、同系統の機体だな。アイツ等とよく似ている」

「バルトフェルド隊長は、既に連合のMSと交戦されたと聞きましたが」

 

 二度に渡って交戦したストライクとレイダーのまさに“狂戦士”“悪魔”の呼び名が相応しい光景を思い出すバルトフェルドに、ディアッカが冗談交じりの口調で質問した。

 

「……ああ、そうだな。僕もクルーゼ隊を笑えんよ」

 

 戦いながら砂漠の設置圧、熱対流に対してOSを修正する程の高い能力を持ち、同胞と敵対する道を選んだ少女兵“キラ・ヤマト”。

 ナチュラルでありながら驚異的な身体能力と卓越した操縦技術を持ち、その所属とは真逆の穏健且つ現実的な思想と狂気を併せ持つ少年兵“クロト・ブエル”。

 そんな彼らとの再戦は1人の軍人として楽しみな一方で、何処か戦いたくない自分が確かに存在することをバルトフェルドは感じていたのだった。

 




という訳でキラちゃんに対して、自分は恋人ごっこをしてるだけだと打ち明けた悪いクロトくんでした。

(ますます色々と拗らせるキラちゃん)

ところでクロトくん、多分エイト・ソキウスを殺してますよね……?

またグゥル付きイージスで参戦が決まったアスランくんですが、月の幼年学校時代にキラちゃんから友情以上の感情を向けられていることは気付いていました。
アスランくんは男同士だからと深く踏み込むことはありませんでしたが、もしもキラが女ならな~とは度々考えていました。

そんなアスランくんがヘリオポリスで男装から解放され、隠れ巨乳美少女と化したキラちゃんと遭遇した時の衝撃は原作を遥かに超えるものでした。

だからアスランくんは相思相愛のキラちゃんが悪いクロトくんに騙されていると考えているし、婚約者のラクス様に対して妙に他人行儀なんですね。

幼少期は男装していたキラちゃん、何故か作中の人間関係がやたらスムーズに説明出来るので不思議ですね……

キラちゃんの士官服は?

  • ミニスカート
  • ホットパンツ
  • タイツ
  • その他
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。