逆襲のクロト   作:皐月莢

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悲運の再会 崩壊する日常

 4.

 

 急ピッチで発進準備を進めているアークエンジェルの作戦室にて、連合服に着替えるため席を外したクロトを除いた3人の士官が今後の方針を話し合っていた。

 臨時の指揮官にマリュー・ラミアス大尉を置いたアークエンジェルは、ザフトからの奪取を免れたG兵器の開発データとレイダー、ストライクの2機を遠く離れた地球連合軍のアラスカ基地まで持ち帰らなければならない。

 とはいえザフトの襲撃を受け、一直線に地球を目指せる程の物資を積み込めないまま発進を余儀なくされたアークエンジェルは何処かで再度補給を行う必要があった。

 具体的な候補地としては、かなりの長旅になるだろうが地球連合宇宙軍の最大拠点である月面基地プトレマイオス。

 あるいは大西洋連邦と並んで地球連合軍の主力を構成するユーラシア連邦軍が保有し、このヘリオポリス宙域の付近に存在する軍事要塞アルテミスの2ヶ所が有力な候補地として想定された。

 どちらにせよ当面の課題は、ヘリオポリス宙域で潜伏していると思われるクルーゼ隊をどう対処するかだった。

 本人もザフト屈指のトップガンでありながら、指揮官としても名将と謳われるクルーゼがこのまま黙ってアークエンジェルを見逃すとは考えられない。

 世界初の汎用量産型モビルスーツ“ジン”に加え、その上位機種“シグー”。

 またイージスが戦場に現れたことから、奪取した残り3機のG兵器“デュエル”“バスター”“ブリッツ”の投入も考えられるだろう。

 一方のアークエンジェルで現在戦力として数えられるのはレイダー1機だけであり、ムウの搭乗機である宇宙戦用モビルアーマー“メビウス・ゼロ”の修理は完了していない。そんな中でマリューが戦力として期待を寄せていたのが学生ながら不完全なOSを書き換え、ザフトを退ける神業を披露した少女とストライクの存在だった。

 

「やはり、脱出にはストライクの力も必要になると思います」

「あれをまた実戦で使われると?」

「使わなきゃ、脱出は無理でしょう?」

 

 マリューの取り繕うような言葉に、ナタルは納得出来ないものを感じて沈黙した。

 ストライクに搭載されているOSは未完成であり、それをザフトに通用する水準で操縦出来る人物などレイダーのテストパイロットであるクロトしかいない。

 当然クロトはレイダーで戦うだろうし、ストライクにもう一度彼女を乗せようというのだろうか。

 

「あの嬢ちゃんは了承してるのかい?」

「……今度はフラガ大尉が乗られればよいのでは?」

 

 ナタルの言い淀んだ答えを平然と口に出すムウに、ナタルは反発した。大勢で銃を突き付けて同級生と共に軟禁しておいて、どういう理屈で彼女に協力しろというのか。クロトやキラのような子供が乗れるのであれば、ムウのような大人が乗ってみるべきではないのか。

 

「無茶言うなよ。あんなもんが俺に扱える訳ないだろ?」

「ええ?」

 

 ナタルは困惑した。グリマルディ戦線で活躍したことから“エンデュミオンの鷹”と謳われる連合屈指のエースパイロットであり、ナチュラルとしてはトップクラスの能力を持つ筈のムウがあっさり匙を投げたからだ。

 

「あの嬢ちゃんが書き換えたっていうストライクのOSのデータ、見てないのか? あんなもんが普通の人間に扱えると思ってるのかよ?」

「それは……」

 

 キラ・ヤマトが書き換えたストライクのOSは、それほどプログラムに精通している訳ではないナタルから見ても異常なものだった。

 まだ未完成だったAI補助系プログラムの大半が削除されており、動かすだけでも尋常ではない操縦技術を要求される、いわゆるコーディネイター用OSに近いプログラムに変貌していたのだ。

 その分、操縦者の技量次第で精密な動きを可能にする高度なプログラムではあったが、その操作を行う為にはどれほどの能力が必要なのかナタルには想像も付かなかった。

 

「でしたら、レイダーのOSをコピーすればよいのでは?」

 

 レイダーは他のG兵器と異なり、戦死したクロトの上官がヘリオポリスに持ち込んだ専用OSが搭載されていると報告を受けている。

 別の部隊が開発したものを無断盗用するのは後々問題になるだろうが、この状況ならクロトの許可さえ取れば事後承諾も許されるだろう。

 クロトはブルーコスモスに所属するナチュラルだ。

 そんなクロトがレイダーを高度な水準で操縦出来る以上、同世代のモビルスーツであるストライクにも流用出来るはず。しかしムウはクロトが作戦室の近くにいないのを確認すると、静かな口調で断言した。

 

「それこそ無茶だ」

「どういうことですか?」

 

 まさかクロトも己の存在に疑問を抱いてブルーコスモスに参加したコーディネイターなのか。ナタルは疑問を口にした。

 

「あんな……ある意味()()()()()()()()()()()()()()でモビルスーツを動かそうとしたら、命が何個あっても足りないぜ。詳しくは話せないって言ってたが、坊主も英才教育を受けたブルーコスモスの秘蔵っ子って所だろうな」

 

 ムウやナタルは知る術もなかったが、レイダーに搭載されているものは生体CPU専用のOSだった。

 それはパイロットの精神的・肉体的負担を考慮しない代わりに、コーディネイター用と同等以上の性能を引き出すものだった。コーディネイターを超越した生体CPUの身体能力を前提に開発されたものであり、同じナチュラルでもムウが扱える代物ではなかったのだ。

 

「なら、元に戻させて……。とにかくあんな民間人の、しかもコーディネーターの少女に大事な機体をこれ以上任せる訳には……」

「そんでノロくさ出て行って、的になれっての?」

「……そろそろ少尉が戻って来る筈よ。彼の意見を聞きましょう」

「あんな記録を見たら、聞かない訳にはいかねえよな」

 

 それはレイダーの補給を行っていた整備兵が、マリュー達に先程慌てて報告した信じ難い戦闘記録だった。

 ザフトはこれまで、数で勝る地球連合軍を質で圧倒してきた。そんなザフトの中でも屈指のエリート部隊と言われるクルーゼ隊を、クロトが次々と葬り去っている衝撃的な映像だった。

 これまでの常識を超えた戦闘記録に、マリュー達は報告を行った整備兵に緘口令を敷くと共に、得体の知れないクロトに対してキラと同等以上の恐怖を感じていた。

 

「坊主がとんでもない奴だったのは嬉しい誤算だが、この状況でストライクを温存する余裕があるのかねー。嬢ちゃんに声を掛けてみても、バチは当たらないと思うぜ? ……情けない話だが、この船で()()()()()()()()可能性があるのは嬢ちゃんだけだろうからな」

 

 蒼き清浄なる世界の為に──。

 画面の中のクロトと襲撃者(レイダー)は、狂った様に叫びながら無数のモビルスーツを撃破すると、嗤いながら次の獲物に襲い掛かっていた。

 それは喩えるなら、戦場に舞い降りた狂戦士の姿だった。

 しかしクロトはブルーコスモスであり、一方のキラはコーディネイターだ。

 まさに水と油としか表現出来ない2人を果たしてこれ以上接触させていいものなのか、3人には判断出来なかった。

 

 

 

「お断りします……! 私達をこれ以上、戦争なんかに巻き込まないで下さい!」

「キラちゃん……貴女の気持ちは分かるけど……」

 

 マリューとキラの会話を余所に、士官服に着替えたクロトは無言で壁にもたれ掛かっていた。

 キラはカトウゼミに所属する友人達と共に大部屋に押し込まれ、半ば軟禁状態だった。そんなキラの下を訪れたマリューだったが、ストライクに乗って迎撃して欲しいという申し出を拒絶されていたのだ。

 この目の前の少女がマリューから操縦桿を奪い取り、ストライクの未完成なOSを書き換えてジンを退けたらしい。モビルスーツの性能差と彼女がプログラミングに精通している幸運が重なったとはいえ、どうやらこのキラ・ヤマトという少女は同じコーディネイターであるザフトの連中よりも余程優秀に造られた存在のようだ。そんな血統書付きの彼女にとって、自分はせいぜい野良の雑種ってところか。

 クロトは自嘲する様に溜息を吐いた。

 それからもキラと押し問答をしていたマリューに、一足先にCICに入ったナタルから緊急通信が行われた。それはアークエンジェルのレーダーがG兵器4機を含む6機のモビルスーツの反応を捉えたものだった。

 

「……なんですって!? 奪ったG兵器をこんなに早く実戦投入するなんて!」

「僕の出番ですね」

「少尉!」

 

 クロトはまるで遊びに行くような口調で言った。こんな箱入り娘を仕留めるのに手間取ったクルーゼ隊など、どれだけ頭数を揃えようと問題ではない。

 せいぜい厄介なのはあの“赤い奴”と“白い奴”くらいか。クロトは冷たい氷のような蒼い双眸をキラとマリューに向けた。

 

「卑怯です……! この船にはモビルスーツは2機しかなくて、動かせるのは私と、その人だけだって言うんでしょ……!」

 

 一方のキラは大部屋の奥に引っ込むと、半泣きの面を浮かべる。

 

「たかが6機でしょ? 僕1人で十分です」

 

 まだ何もしてないのに、随分と嫌われたらしい。クロトは自嘲する様に嗤った。

 正史において、アークエンジェルはストライクを犠牲にアラスカ基地まで辿り着いた。

 彼女は優れたモビルスーツ乗りの才能を秘めているだろうが、少なくともモビルスーツの生体CPUである自分を上回るとは思えない。

 そもそも状況次第では、単独で地球を目指す事も覚悟していたのだ。

 

「少尉とレイダーがいくら優秀でも、複数のG兵器を相手に単独は無理だわ」

「無理を無理と言うことくらい、誰でも出来ますよ? それでもやり遂げるのが優秀な人物ってヤツです」

 

 クロトは自分に不安そうな視線を向けるキラの顔を見た。

 彼女は何も為せず、ただ誰かに利用されるだけの人生だった。救われた連中は彼女の死に感化されたのか、それとも命惜しさからか彼女の祖国へ脱走した。もう少し決断が早ければ彼女は死なずに済んだというのに。クロトは自分がどうやら苛立っているらしいことに気付いた。

 

「……少尉の意気込みは頼もしいけど、私は大勢の命を預かる身として、最善を尽くさなければいけないの。キラちゃんも分かってくれるでしょ?」

 

 マジでめんどくせー。クロトは思案した。

 彼女がアークエンジェルの為に戦って死ぬのが運命だというのなら、それはそれで好都合なのでは? 

 アークエンジェルが置かれている状況自体は、客観的に見て絶望的なのもまた事実だ。

 アズラエル流に言うなら、ストライクもレイダーも持ってて嬉しいコレクションではない。高い金を掛けて作った強力な兵器だ。そして兵器は使わなければ何の意味もない。

 ──この()()()()()()()()()()()()()

 我に返ったクロトはぶっきらぼうな表情で折衷案を示した。

 

「分かった。君はアークエンジェルに敵を近寄らせないでくれればいい。あとは僕がやる」

「え……?」

 

 キラはクロトの意外な提案に、呆けた様な表情を浮かべた。

 唯一生き残ったG兵器のテストパイロットであり、これから最も命懸けの状況に飛び込もうとするブルーコスモスの少年兵。

 そんなこの場で誰よりもキラを糾弾する権利を持つ筈の少年が、自分を気遣っているのである。

 

「……クロトさんは、それでいいんですか?」

「あぁ。罪もない人々を傷付ける連中が目の前にいるんだ。たとえ1人でも、僕は戦う」

 

 本来はキミ1人で撃退出来る程度の連中だから楽勝だろうと思いつつ、クロトは適当にそれっぽい言葉を並べた。

 

 5.

 

 遡ること少し前。

 アスランはクルーゼ隊の母艦であるナスカ級高速モビルスーツ駆逐艦“ヴェサリウス”の作戦室にて、同期の3名とミゲルを合わせた5名でブリーフィングを行っていた。

 

「レイダーのパイロットは危険だ。俺達4人で奴を撃破する。奴さえ撃破すれば、他の連中は逃がしても構わない。奴らの勢力圏に逃がすまでに、捉える機会は有る筈だ」

「おいおい、たかがナチュラル1人に? 正気かよ、アスラン?」

 

 呆れたような口調のディアッカに、イザークも大袈裟に首肯する。

 

「一目散にヴェサリウスに逃げ帰ったことといい、どうやら臆病になったらしいな? あんな奴、俺1人で十分だというのに」

「本当にどうしたんですか? さっきからおかしいですよ」

 

 ニコルは不審そうな表情を向けた。士官アカデミーに入学以来、ルームメイトとして接して来たニコルでさえ、今まで見たことのない様子だったからだ。

 

「フン。貴様、奴に逃げられたのがそれほど気に食わないのか?」

「そんな事はどうでもいい。今回の作戦はクルーゼ隊長から俺に一任されている。俺の命令に従うのか、従わないのか。どっちなんだ?」

 

 アスランは鋭い眼光でイザークを睨み付けた。

 奪取に失敗した地球連合軍の新型機動兵器に、つい先程まで男だと思っていた幼馴染みの少女が乗っているかもしれないのだ。

 油断していたとはいえ、未完成のOSでミゲルを圧倒した操縦技術。それと裏腹に自爆装置の存在すら知らない判断能力。

 危惧が的中している可能性は高いとアスランは感じた。

 アイツはお人好しな性格につけ込まれて、地球連合軍のナチュラル共に利用されているに違いない。あるいはブルーコスモスの過激派と思われる、頭の狂ったあのパイロットに脅されているに違いない。

 一刻も早くストライクのパイロットを確認し、もしも彼女がパイロットであるなら救出しなければと考えていると、不機嫌そうに腕を組んでいたミゲルが口を開いた。

 

「おいおい、イザークよ。クルーゼ隊長の命令に逆らうのなら、お前が強奪したデュエルを寄越せ。ナチュラルの機体に乗るのは気に食わないが、俺のジンが修理されるまでは我慢してやる」

「なんだと? 誰が貴様に!!」

 

 義勇軍であるザフトには隊長格とそれ以外を除いて上下関係はないとはいえ、緑服ながら“黄昏の魔弾”の異名を持つ大先輩に食って掛かるのは流石に問題だ。

 ディアッカはイザークの肩に手を置くと、やれやれと呟きながら肩を竦めた。

 

「確かにアイツは普通じゃねぇ。さっさと仕留めておかないと、面倒な事になりそうだ。それでいいな、アスラン?」

 

 アスランは頷いた。

 ミゲルは自分に恥をかかせたストライクの復讐に燃えている。

 PS装甲で大抵の実弾攻撃を無効化するストライクはそう簡単に撃破されないだろうが、キラの身に万が一のことが起こる前に、厄介なレイダーを撃破してキラに投降を呼び掛けなければならない。

 レイダーのパイロットさえ始末すれば、キラのことをイザーク達に話そう。幼馴染みの少女が連合軍に騙されて戦わされているかもしれないと。

 

「あぁ。ストライクの鹵獲はミゲルに任せる。俺達はアイツに集中するんだ」

 

 アスランは強く言い切った。万が一自分とキラの関係を連合軍に知られれば、キラにどんな悲劇が降り掛かるかわからない。説得する機会はこの1度きりだ。

 

 

 

 ストライクの背部に搭載されたラジエータープレートを兼任する大型可変翼と、4基の高出力スラスターが唸りを上げる。

 

《キラ・ヤマト。ストライク、出ます!》

 

 無重力下における機動性を増強させる事を主眼としたストライクの換装型パーツであり、宇宙用の装備だがその大推力によって重力下でも短時間の滑空を可能とし、ハイジャンプや空中での方向転換さえも実現させる高機動戦闘用パック“エールストライカー”だ。

 コロニーに与える被害を最小限に抑える為、アーマーシュナイダーでジンを退けたキラの能力からマリューは近接格闘格闘専用パック“ソードストライカー”を提案した。

 しかしクロトは高機動強襲機であるレイダーとの連携を考慮し、敢えて“エールストライカー”を希望した。大気圏内の単独飛行能力を有しているレイダーと比較すれば、それでもストライクの機動性は心許ない水準だったのだ。

 

 ──ガキのお守りなんてガラじゃねーっての。

 

 クロトはコクピットの中で舌打ちした。

 マリューの考案した作戦は単純明快なものだった。

 戦闘の混乱に紛れてアークエンジェルは外壁に開いた穴から脱出し、ストライクはアークエンジェルを援護しながらヘリオポリスを脱出、レイダーは迫り来る敵モビルスーツ部隊を撃破、あるいは振り切って合流する。

 敵のモビルスーツ部隊と単独で対峙出来るクロトの実力と、G兵器の中で最速を誇るレイダーの機動力を最大限に活かした作戦だった。

 

《……少尉には負担ばかり掛けて申し訳ありませんが、その子を頼みます》

《りょーかい》

 

 思わず反吐が出そうな気分になりながら、クロトはポケットから取り出したアンプルをぱきんと開封した。

 一口で中身を飲み干すと、甲板を蹴って宙を舞いながらモビルアーマー形態に変形したレイダーを一気に加速させる。

 

《──来たぞ! 奴だ! 作戦通りに展開しろ!》

 

 猛烈な速度で迫るレイダーの姿を捉えたイージスとブリッツはビームライフルで牽制しながら迎撃に移り、それを出し抜くような勢いでデュエルとバスターが先行する。

 ブリッツの反応が消失したのを確認すると、クロトは更に機体を加速させた。

 

《見つけたぞ!! ストライクゥ!!》

 

 4機のG兵器と共に現れたジンは別方向から展開し、自分達に照準を向けているアークエンジェルとストライクに向かう。

 PS装甲に有効なビーム兵器を有するG兵器を、4機同時に相手取る。

 常人であれば早くも絶対の死を覚悟する状況だったが、人工麻薬の効果が現れ始めたクロトは凶悪な笑みを浮かべた。

 アークエンジェルの支援砲撃があれば、残る敵はキラ1人で対処出来るだろう。

 どうも自分はさっきから調子を狂わされているらしい。それもこれも全て、あのキラ・ヤマトのせいだ。

 

《く、クロトさん? どうしたんですか!?》

 

 突然通信回線で大声で笑い出したクロトに、キラは思わず声を掛けた。

 マリュー達から少尉はモビルスーツに乗れば少々人格が変わるらしいから気にするなと忠告があったが、まさかここまで変わるものだとは想像していなかったのだ。

 

《やらなきゃやられる、それだけだろうが!! 蒼き清浄なる世界の為にィ!!》

 

 レイダーの顔面に搭載された“怒り”を示す高出力エネルギー砲と機首の大型機関砲をゴング代わりに、クロトは必殺の突撃を開始した。

 

 6.

 

 四方八方から放たれる無数のビームを、破砕球を支える対ビームコーティングの施された高分子ワイヤーが拡散させる。

 

 ──あー、ムカついて来た。

 

 クロトは楽観的だった予想とは裏腹に、目の前のG兵器4体を相手に想像以上の苦戦を強いられていた。

 実装が大幅に早まった関係でレイダーの基本性能は一回り低下しており、バッテリーを長持ちさせる為のTPS装甲も搭載されていない。

 低重力空間であるヘリオポリスでは最大のアドバンテージである大気圏の飛行能力など関係ない以上、性能の優位点など有ってないようなものだった。

 レイダーの操縦経験があり、核動力で無尽蔵に動き回るフリーダムやジャスティスを相手に対MS戦闘の実戦経験を積んでいたクロトでなければ、とっくに落とされていても不思議ではなかった。

 

《チッ……!》

 

 クロトはデュエルが振りかぶったビームサーベルを急降下で回避すると、そのまま滑る様に後退しながら両肩の機関銃から銃撃をばら撒いた。

 最も厄介なイージスと格闘戦に持ち込もうとするとデュエルが手柄を奪い取らんと猛烈な勢いで襲い掛かって来るし、距離を取れば一方的に撃たれるだけだった。

 このままでは埒が明かない。

 クロトはレイダーを反転させると、追い縋るイージスとデュエルの間に突進した。

 

《邪魔をするな、アスラン!》

《邪魔はお前だろ!!》

 

 イージスを押し退けるように放たれたデュエルのビーム攻撃を、レイダーは右腕のシールドで振り払うように防御した。

 そんなデュエルを振り払って突撃してくるイージスに対し、クロトはそのまま右腕の機関砲を連射した。そして擦れ違う様にイージスの繰り出した斬撃を回避すると、そのまま変形して後方のバスターを強襲する。

 

《おいおい! こっちに来んなよ!》

 

 ディアッカは咄嗟にビームライフルを撃とうとしたが、バスターの射線上にイージスとデュエルが入っている。一瞬発砲を躊躇ったバスターに向かってレイダーは瞬く間に距離を詰めると、顔面の高出力エネルギー砲を放つ挙動を見せた。

 

《危ない! ディアッカ!》

 

 レイダーはスラスターを全力で噴かせると、速度を維持したまま軌道を強引に横滑りさせてブリッツの放ったビームライフルを避けた。そしてレイダーを再変形させると、右腕の攻盾システムを構えたブリッツを正面に捉える。

 

《滅殺ッ!!》

 

 レイダーの速度を乗せた超高速で射出された破砕球で、ブリッツは防御したシールドごと後方に吹き飛ばされた。

 高密度に圧縮した反発材で製造された質量兵器である破砕球は、PS装甲を採用する機体にも内部に損傷を与えることが出来るのだ。

 

《くっ……! 機体のダメージが……!》

 

 クロトが続けざまに放った高出力エネルギー砲は、直前に割り込んだイージスに間一髪で阻まれた。行き掛けの駄賃とばかりに銃撃を撃ち込んだが、盛大に火花を撒き散らしながら放たれたイージスのビームが僅かに装甲を掠めた。

 

 キラはジンの放った特火重粒子砲を左腕のシールドで防御した。

 おっかなびっくり放ったビームはあっさり回避され、持ち替えて放たれた銃突撃機銃でコクピットが大きく揺れる。

 アークエンジェルはストライクに纏わり付こうとするジンに援護射撃を放つが、こちらも簡単に避けられた。攻撃を回避される度に、流れ弾を受けているヘリオポリスの被害は悪化の一途を辿っている。

 

《生意気なんだよ! ナチュラルの分際で!!》

 

 既にPS装甲がなければ撃墜されても不思議ではないほど、キラの操縦するエールストライクはジンの攻撃を一方的に受けていた。

 PS装甲の特性を活かし、接近戦に持ち込めばキラにも十分勝機はあったが、飛び道具があれば頼ってしまうのが戦い慣れていない者の性だったのだ。

 

《凄い……!》

 

 一方で遥か遠くで戦っているレイダーはまるで完璧に見切っているかのように、無数に放たれるG兵器の攻撃を回避している。

 あの人がいなければ自分は1人で彼等と戦わなければならなかったのか、とキラは半分呆れた様な表情で嘆息した。

 

《お前ら4人がかりで何をやっている!》

 

 ブリッツの損傷で統率が乱れたアスラン達を見て、ミゲルは硬いだけで手応えの無いストライクを放置して機体を急上昇させた。

 包囲されるクロトを援護しなければ。キラはそんなミゲルの動きを見て、反射的に作戦を忘れてジンを追った。

 

《ナチュラルめ……! 思い上がるなよ!!》

《なんだよテメエは!!》

 

 ジンの接近に気付いたクロトは、機体を翻して一気に距離を詰めた。

 

《よせっ! そいつを一人で相手にするなっ!!》

《心配するな!! たかがナチュラルごときに!!》

 

 ミゲルの接近に気付いたアスランは叫んだ。

 目の前の恐るべき襲撃者は機体性能にかまけたナチュラルどころか、ブルーコスモスが生み出した怪物的な存在なのだ。

 ミゲルはクロトが()()()()()()()()()()破砕球を回避し、先程の戦闘で唯一ストライクに損傷を与えた特火重粒子砲を放った。

 

《抹殺ッ!!》 

 

 クロトはミゲルの攻撃を紙一重で避けると、強引に破砕球を引き戻した。

 そして背後からの強襲で片脚を吹き飛ばされて体勢を崩した哀れな獲物に、クロトはビームクローを一直線に振り下ろした。

 

《うわああああああっ!!》

《ミゲル!》

 

 ザフトの誇る“黄昏の魔弾”を文字通り一蹴したクロトは、猛烈な勢いでストライクに接近していくイージスを捉えた。そして防衛目標であるアークエンジェルから離れてしまったキラに、クロトは苛立ったような口調で叫んだ。

 

《さっさと戻れ! お前にソイツの相手は無理だ!》

《わ、分かりました! クロトさんも、あまり無理しないで下さい!!》

 

 クロトは回線を遮断すると、大きく溜息を吐いた。

 別に彼女の腕前に期待していた訳ではなかったが、まさかジン1機に苦戦する程度の腕前だとは完全に予想外だったからだ。

 同時に本来は威力偵察程度だったヘリオポリス宙域の戦闘が、自分の介入でG兵器の全機投入を迫られるほどの本格的な戦闘に変化したのかもしれないと思った。

 

《イージス……!》

 

 クロトは何故か自分を放置し、ストライクに向かうイージスを捉えた。

 イージスとは少し交戦しただけだが、奪取された4機のG兵器で最も強敵だった。幸い機動力に関しては上回っているので、早く追い掛けなければ。

 そんな風に考えたクロトを、正面から放たれたビームが襲った。

 

《貴様ああああああ!! 援護しろディアッカ!!》

《よくもミゲルを!!》

 

 優秀なコーディネイターである自分達が、たった一人のナチュラルに翻弄されている事実に怒り狂ったイザークとディアッカがクロトの前に現れたのだ。

 流石にG兵器2機を引き連れた状態で、アークエンジェルやストライクと合流する訳にはいかない。そう考えたクロトは再度破砕球を構えると、迫り来る因縁の敵を相手に激しい接近戦を開始した。

 

 

 

 指揮官機として開発されたイージスは、頭部に大型センサーユニットを搭載する等、他のG兵器と比較して通信・分析機能が強化されている。そんなイージスには敵の通信回線を傍受する機能も存在していた。

 アスランはイージス強奪の際に聞いたものと同じ音声を捉え、自分の推測は最悪の形で当たってしまったことを理解した。逃走するストライクを追い掛けながら、個人回線を通して呼び掛けを行った。

 

《やはり君はキラ! キラなのか!?》

 

 キラは聞き覚えのある声に反応し、思わずストライクの足を止めてしまった。そして個人回線を開き、数年ぶりに再会を果たした幼馴染に応答を行う。

 

《アスラン! アスラン・ザラなの!? な、何故貴方が!?》

《お前こそ……どうして!?》

 

 何故、ヘリオポリスにいるのか。

 何故、連合軍のモビルスーツに乗っているのか。

 何故、昔は自分に黙って男装していたのか。疑問は尽きなかった。

 目の前に無防備なストライクが存在することも、背後でイザーク、ディアッカの2人がクロトの猛攻で追い詰められている事も、アスランの頭から飛んでしまった。

 

《もう許さんぞ! このコロニーごと貴様を吹き飛ばしてやる!!》

 

 レイダーの振るったビームクローが、デュエルの右手に向かって一直線に伸びた。

 右肘から先を破壊され、激昂したイザークは偶然回収に成功したデュエルの専用装備──350mmレールバズーカを構えた。

 

《よせっ、イザーク! それは対要塞用のリニアキャノンだぞ!》

《それがどうしたああああ!!》

 

 イザークは間髪入れずに引き金を引いた。

 予備電力の搭載も兼ねて長大に設計された銃身を使い、砲弾を内部で電磁加速させて撃ち出すリニアキャノンの威力は、対モビルスーツを想定したものではなかった。

 バスターに搭載された超高インパルス長射程狙撃ライフルを遥かに上回る威力の攻撃を崩壊寸前のコロニーで撃てばどうなるのか、イザークには想像も付かなかった。

 見慣れない武器に異様な雰囲気を感じていたクロトは、神懸かり的な反応で回避に成功した。しかしコロニーを構成するメインシャフトを掠めて外壁を破壊し、ヘリオポリスを完全に崩壊させるほどの大規模な爆発が起こった。




アークエンジェルの援護無しで、G兵器4機を相手取る意味不明な存在。これが……スーパーパイロットってコト?

原作レイダーとの相違点
①PS装甲を採用しているため、電力消費が激しい。
②膂力・推力低下。大気圏内の単独飛行能力は保有するが、ストライクを積載したまま飛び回るのは不可能。

クロトくんが乗り換えるなら

  • レイダーのまま(鋼の意思)
  • 核搭載レイダー(あっ……)
  • フリーダム(自由が欲しかった!?)
  • ジャスティス(大穴)
  • ブロヴィデンス(!?!????)
  • その他
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