〈69〉
月面基地プトレマイオスより、アラスカ基地に向かうシャトル内にて。
アズラエルは
北アフリカに降下してしまい、更に
「……」
ステラ・ルーシェはシャトル内で本来の業務──自身が経営している軍需産業会社の通常業務を行っているアズラエルに代わり、ハルバートンに提出された新型艦アークエンジェル型2番艦“ドミニオン”に配属される予定の人員リストを精査していた。
既に人事権を掌握しているとはいえ、あくまで個人の細かい資質まで把握していないアズラエルが一から人員リストを作成するよりも、実際に第8艦隊の司令官として部下の教育にも携わっているハルバートンにある程度は任せて、その内容を精査する方が合理的だからである。
そもそも“アークエンジェル”はヘリオポリスの一件で艦長以下、正規クルーの大部分を喪った状況でザフト屈指のエリート部隊“クルーゼ隊”の追撃を振り切り、北アフリカで快進撃を続けていた“バルトフェルド隊”を撃破していた。
つまり“ドミニオン”に乗り込む
加えてアークエンジェルで副長として経験を積み、代々軍人を排出している名門バジルール家の一員であるナタル・バジルール中尉に加えて、プロパガンダにも有用そうなアルスター家の令嬢フレイ・アルスター二等兵をアークエンジェルから引き抜き、最後に地球連合軍初のMS部隊である地球連合軍第一機動部隊に書類上所属していることになっているステラ、オルガ、シャニ、クロトの四人を加えればドミニオンの大まかな人員は完成である。
(先輩……)
ステラは監視役がいなくとも、アズラエルから与えられた任務を忠実に、そして想定していた以上の戦果を上げることで自分達“生体CPU”の待遇改善を行ったクロトに感謝していた。
ブルーコスモスの抱える研究者達は“生体CPU”にとって命綱である“γーグリフェプタン”を持たせないことでクロト達の反逆を防止していた。
研究者達は自分達の崇高な使命の為にステラ達を“生体CPU”に改造したにも関わらず、そんなステラ達の反逆を恐れているというのだから、ステラにとって彼らの態度は不愉快どころか滑稽だったが、ともかく“エンデュミオンの悪魔”と称される程の活躍を見せたクロトすら例外ではなく、常に監視役である研究員に自分の命を握られた状態での作戦行動を強いられていた。
しかし監視役の
今まで“γーグリフェプタン”を渡す対価だと、自分に肉体的な奉仕を要求してくる下卑た研究員達に日々苦しめられていたステラにとって、そんなクロトに対する感謝は言葉では言い表せないものだったのである。
「そうそう。……1人だけ、気になる人物がいてね」
「気になる人物、ですか?」
アズラエルは書類から目を放し、思い出した様にステラに視線を向けた。
「
「……そうですね。先輩の事ですから、ストライクを格納庫で遊ばせておくのは勿体無いと判断されただけだと思いますが。……それ以上はなんとも」
ハルバートンの話では友人を守りたい、出来るだけの力があるなら、出来ることをしたいという馬鹿げた理由で志願兵になった少女コーディネイター、キラ・ヤマト。
命じられるままに戦う以外の選択肢が存在しないステラにとって、そんなキラの甘い考えは憎悪を掻き立てるものでしかなかった。
おそらくクロトも自分と同感だろうが、同じG兵器に乗り、その上多数の部下を従えているザフトのエリート部隊をたった一人で相手にするのは困難なため、やむなく彼女を利用していたのだろうとステラは推測していた。
「ふむ。このままアークエンジェル共々アラスカで生贄として死んでもらうか、引き抜いて僕の下で働いて貰うか、彼女の処分だけは少々悩んでいてね。……君も、一人位は同性の子が居た方がいいんじゃないのかい?」
「……意外ですね。てっきり処刑にされるか、生贄として使われるのかと」
「ふふっ。僕はサザーランド君と違って、そこまで残虐じゃないよ。
実際、アズラエルはブルーコスモスに自らの忌まわしい出自に悩んだコーディネイターが所属するのを認めていたり、自分が経営している会社にコーディネイターを採用するといった柔軟性も持っていた。
コーディネイターは一人残らずこの世から全て消し去るべきだと主張するブルーコスモス支持者も決して少なくない中で、アズラエルの思想はむしろ穏健派に分類されるものだったのである。
そんな硬軟併せ持つ傑物であるが故に、ムルタ・アズラエルは経済界の大物や地球連合軍の上層部、政治家といった多くの有力者からの大きな支持を受け、弱冠30歳にしてブルーコスモスの盟主と呼ばれるまでの有力者に上り詰めたのである。
「……そうですか。失礼致しました」
とはいえ、ステラは内心キラと共にアズラエルの部下として働くことを良しと思わなかった。
ステラはクロトが“ブーステッドマン計画”の被検体としてロドニアの研究所を連れ出された日に、クロトが
もちろんステラも最初はただの戯言だと思っていたが、連れ出されたクロトは生体CPU“ブーステッドマン計画”の完成品として戦闘用コーディネイターと同等以上の性能を発揮すると共に“グリマルディ戦線”で目覚ましい活躍を示したことで、アズラエル直属の部下に任命されるまでに至ったのである。
ステラはクロトがアズラエルに何の忠誠心も抱いていない事はよく知っていた。クロトは自分から全てを奪ったブルーコスモスを憎んでいて、ロドニアの研究所でも極めて高い能力を示す傍ら、研究員に反抗的な態度を取って制裁を受ける事も少なくなかったからである。
だからクロトがその気になれば、そんなブルーコスモスの盟主であるアズラエルを殺す機会はあっただろうし、それ故にアズラエルはそんな愚行を実行に移すどころか、誰よりも任務を忠実に遂行するクロトを信頼するに至った訳だが、クロトを昔から知るステラの見解は違った。
クロトは本気なのだ。
一日でも長く生きる為、何も考えずに任務を遂行しているオルガ、シャニとは異なり、自分の自尊心や命すら擲ってまでアズラエルの信用を勝ち取り、クロトはこの世界を滅ぼす為の力を得ようとしているのだ。
そんなクロトの力になる為、ステラは今までは苦痛を伴う日課でしかなかったナイフや重火器を扱った実戦訓練、シミュレーションでの戦闘訓練において、集められた被検体の中でも突出した成績を残したことで、未だ完成の目途が立っていない“エクステンデッド計画”から“ブーステッドマン計画”の新たな被検体として引き抜かれたのだった。
だからステラにとって、そんな
今までクロトの背中を支えたことに免じて命までは奪うつもりはないが、キラの言動次第ではクロトの唯一の同志として、粛清する必要があるとステラは考えていた。
「……」
遂にロールアウト日が決まった、ステラに与えられる新型MS──現行のG兵器に搭載されたものを凌駕する大容量の強化バッテリーを搭載し、ナチュラル用の試作機ではなく生体CPU用のエース機体として製造されたもう一つの“ストライク”。
ストライカーパックによる補助なしに、スラスター増設による大気圏内での単独飛行能力と、消費電力と強度の関係でレイダーと同じ
〈70〉
『――総員、第一戦闘配備!総員、第一戦闘配備!』
地球連合軍の勢力圏である北回帰線到達まで残り半日と迫ったマーシャル諸島付近で、アークエンジェルはアスラン率いるMS部隊の待ち伏せに遭っていた。
アークエンジェルに対して度重なる追撃を行った事で、アスラン隊は大気圏内用のサブフライトシステムであるグゥルを残り1機まで減らしていた。
そのため、大気圏内の飛行能力を持ったMSを保有していないアスラン隊は、オーブ領海を超えたばかりの海域で仕掛けることが出来なかったのである。
ここでアスラン隊が撃退されれば、地球連合軍からの増援が望めるアークエンジェルを仕留める事は現実的に困難であり、アスラン隊にとって最後のチャンスだった。
アークエンジェルからはストライク、レイダー、ランチャーストライカーを搭載したスカイグラスパー一号機が迫り来るアスラン隊を迎撃するために出撃する。
『……ちっ』
自分にまるで弾丸の様に向かって来るグゥル付きのイージスと、少し離れた位置に布陣しているストライクに向かって行くバスター、ブリッツ、デュエルを見て、クロトは
それは
ザフトの中でも特にエリートである赤服の自分達が、MSの数で劣っているアークエンジェルに対して何度も撃退されているという事実。そんな事実に業を煮やしたイザーク、ディアッカ、ニコルがアスランの立てていた作戦に反発し、まずはレイダーと比較して明確に技量の劣るストライクを集中攻撃で撃破し、その後にレイダー、あるいは母艦であるアークエンジェルを全員で攻撃するべきだと主張したからである。
クロト本人の高い技量とアスラン達の拙い連携の関係で、2対1どころか3対1でも凌いでしまうレイダーを複数のMSで対処しようとするアスランの作戦は、既に他の三人にとって受け入れられないものだったのだ。
特にクルーゼから“避難民シャトル誤射”の件で、アークエンジェル追討任務に関して失敗は許されないと忠告を受けているイザークは、おそらく無名のナチュラルであるにも関わらず自分を手古摺らせるストライクとの一騎討ちに固執していた自尊心を捨てて、今回の作戦をディアッカやニコルと共に提案したのだった。
仮にこの任務が失敗してしまったとしても、G兵器の基礎であるX100系統のフレームを利用しているため汎用性が高く、今後地球連合軍の量産機に有用な運用データをフィードバックする可能性が高いストライクの実機を撃破する事には一定の戦略的価値がある。
そう論理立てて主張するニコルと、ザフトのエースパイロットだった“砂漠の虎”バルトフェルドが一方的に敗れたクロトを相手に、長時間互角に渡り合っていたアスランなら大丈夫だと軽口を叩くディアッカに対して、アスランは何も言えなかった。
『キラ……』
アークエンジェルとの複数回に渡る実戦経験を基に立てた作戦に対して、あくまで私情交じりの作戦を立てていたアスランは否定することが出来ず、要は自分がクロトを抑え込んでいる間にイザーク達がキラを始末するという作戦を受け入れたのだった。
この作戦をザフトのアスラン・ザラとして遂行しつつ、キラの命を助ける為には周囲の援護を期待出来ない状況で一秒でも早くレイダーを撃破し、自らストライクを戦闘不能に追い込んでキラに投降を呼びかける事しかアスランには考えられなかった。
同様に自分の邪魔をするイージスを撃破し、包囲されつつあるストライクを救援に向かう為に猛烈な勢いで襲い掛かって来るレイダーを前に、イージスは両腕のビームサーベルを展開した。
『俺がお前を――討つ!』
この地特有の激しいスコールが発生し、頭上を旋回するムウのスカイグラスパーからの援護射撃もままならない状況で、アスラン隊にとって最後の戦いが始まったのだった。
ステラちゃんは何に乗る?
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デストロイ試作機(!?)
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ストライクダガー
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105ダガー
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スカイグラスパー
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その他