〈71〉
「……フッ」
複数のエージェントを介し、アズラエルから入手した地球連合軍最高司令部であるアラスカ基地の詳細な見取り図を見て、クルーゼは一人静かに笑っていた。
もちろん、ザフトの白服であるクルーゼがブルーコスモスの盟主アズラエルと密かに情報交換を行っているのは、本来であればプラントに対する明確な背信行為である。
とはいえクルーゼはプラントに忠誠など誓っておらず、クルーゼがザフトの白服として今日まで戦果を上げ続けていたのは現プラントの最高指導者であるパトリック・ザラの信用を得てプラントの上層部しか知り得ない軍事機密を入手し、その軍事機密をアズラエルに流すためである。
だがクルーゼはあくまでクルーゼ自身の目的のために、地球連合軍に大きな影響力を持つアズラエルを利用しているだけに過ぎない。
クルーゼの目的は
(……私が動けないのをいいことに、手間取らせてくれる……)
宇宙から大規模な降下部隊を降下させ、地球連合軍が唯一保有するパナマ基地のマスドライバー“ポルタ・パナマ”を制圧し、地球連合軍を地上に封じ込めると共に月面基地との分断を図ると見せ掛けておいて、実際にはアラスカ基地を強襲して地球連合軍の指揮系統を麻痺させる軍事作戦“オペレーション・スピットブレイク”。
ヘリオポリスで行われていた“G兵器製造計画”と並行して進められ、既にロールアウト間近とされる地球連合軍のMS“ダガーシリーズ”のロールアウトなど、正攻法では地球連合軍の巻き返しが起こると予想したパトリック・ザラら評議会議員の一握りの者が戦局を一気に打開するために考案し、水面下で準備を進めている極秘の作戦である。
プラント議長に就任したパトリックの指令を受けて“オペレーション・スピットブレイク”に関わる綿密な準備を行う必要があったため、クルーゼは地球に降下したキラを追うことは叶わなかった。
そしてクルーゼは自分の部下であるアスランを支援することで目的を果たそうとしたのだが、その企みは全て失敗に終わっていたのである。
本来は極めて高い的中率を誇る“フラガ家の先読み”。
そんなフラガ家の歴史の中でも最高峰の精度を誇っていたアル・ダ・フラガのクローンであるクルーゼの先読みがこれほど当たらなかったのは、クルーゼにとっても初めての経験だった。
(……流石はキラ・ヒビキということか)
クルーゼは自分の先読みが当たらなかった理由は、人類最高の才能を付与されたキラの能力はクルーゼが先読み出来る範疇を超えているからだと考えていた。
実際、クルーゼは友人であるデュランダルに趣味のチェスの腕では後塵を拝していたし、何もかもが読める訳ではなかった。あくまで先読みはミクロな点では空間認識能力、マクロな点では部分的に精度の高い未来予測が行える程度の能力であり、万能の力とは程遠いのである。
とはいえあくまで人間の延長線上に過ぎないキラは、巨額の資金を投じて行われた遺伝子操作によって極めて優秀な才能が付与された第二世代コーディネイターであるアスラン・ザラと比較して、それほど突出した才能を持っている訳ではない。
そんなキラに匹敵する才能を持ち、ザフトのアカデミーで英才教育を受けたアスラン達であれば自分に代わってキラを確保するだろうとクルーゼは期待していたのだが、報告によればアスラン達はキラと例の生体CPUに封殺されているらしい。
そしてアークエンジェルは地球連合軍の勢力圏内まで残り僅かの地点まで進んでおり、アスラン達は残存勢力で最後の攻撃を仕掛けるとのことである。
(……とはいえ、どちらにせよ私の勝ちだ)
もしもアスランが敗退し、アラスカ基地にアークエンジェルが到着することになれば、
そして地球連合軍が“オペレーション・スピットブレイク”の対抗策としてアラスカ基地の地下に設置した
ならば地球連合軍の上層部が脱出し、何も知らないアラスカ基地防衛部隊がザフトを十分に引き付けて“サイクロプス”を発動するまでのタイムラグで、アラスカ基地で拘束されているキラを確保出来る可能性は高い。そのためにクルーゼはアラスカ基地の詳細な見取り図を、“オペレーション・スピットブレイク”を実行させるために必須の情報だと偽ってアズラエルに要求したのである。
だからアスラン最後の攻撃の成否はともかく、
ブルーコスモスに所属するナチュラルを騙る生体CPUがコーディネイター達の追撃からコーディネイターを守り抜くという、クルーゼの見聞きした物事の中でも一二を争う興味深い出来事が遂に終わってしまう事に寂寥感を抱きつつ、クルーゼは“オペレーション・スピットブレイク”の指揮官としての活動に戻るのだった。
〈72〉
クロトとアスランの予想を覆し、キラはムウの援護を受けられない中でイザーク、ディアッカ、ニコルを同時に相手に回すという最悪の事態を単独で切り抜けつつあった。
常にストライクに照準を向けているバスターの射線にデュエルを巻き込む形で立ち回ってバスターの砲撃を牽制し、同士討ちを避けるために距離を取ろうとするデュエルに張り付くような形で絶えず接近戦を仕掛ける。
それを引き剥がそうと背後から放たれたブリッツのピアサーロック“グレイプニール”を最低限の挙動で避け、反撃のビームライフルを放つ。
『ナチュラル如きに!』
ブリッツに反撃するため、一瞬背後を向いたストライクにデュエルはビームサーベルを抜いて振り下ろすが、ストライクは左腕の対ビームシールドで受けると同時に無防備なデュエルの胴体に蹴りを叩き込む。
そして回り込んだバスターの放った“94mm高エネルギー収束火線ライフル”を踊る様に避けてビームライフルを構え、倒れたデュエルに向かって放つ。デュエルはストライクの放ったビームをかろうじて回避するが、掠めた装甲の一部が融解する。
『くそっ……!!』
キラがイザーク達との戦いを優位に進めていたのは理由が有った。
これまでイージス、バスター、ブリッツを同時に相手取っていたレイダーのこれまでの戦闘データを、キラはモルゲンレーテでナチュラル用のOSを作る為の技術協力を行う際に分析すると共に、自分の中に落とし込んでいたからである。
どのように数的不利の状況下で立ち回るかの解答が明確な形で示されている上に、キラはクロトを遥かに超越する空間認識能力と情報処理能力を持っている。
その高い能力によってクロトであれば後退して対処するしかなかった攻撃も、キラは踏み込みながら対処する事が可能だった。既にキラの技量は対多数のMSを想定した場合に限れば、クロトに匹敵する水準まで到達していたのだった。
『下がりましょう、ディアッカ!』
『チッ、仕方ねえな……!』
遂に間合いに踏み込まれたバスターはストライクに両手を切り飛ばされて戦闘不能になり、ブリッツも右腕を根元から両断されて虎の子の攻盾システム“トリケロス”を喪失し、その戦闘能力の大部分を喪失した。
『痛い、痛い……!』
最後まで抵抗していたデュエルも鍔迫り合いの最中、ビームが掠めた事でPS装甲の機能が失われた箇所にアーマーシュナイダーを叩き込まれたことで一部の電気系統に異常が発生し、海中に撤退を余儀なくされていた。
『そんな、馬鹿な!』
グゥルは破壊されたものの、その代わりにスラスターの一部を破壊した事で飛行能力が低下したレイダーと浜辺で対峙していたアスランは、ストライクを撃破するどころか次々に損傷を受けて撤退していくイザーク達を見てコクピットの中で叫んだ。
『もう下がって! 貴方達の負けよ! アスラン!』
『……何を今更! 討てばいいだろう! お前もそう言ったはずだ! お前も俺を討つと! 言ったはずだ!』
イージスの背後に降り立ち、ビームライフルを構えながらキラはアスランに撤退を呼び掛けた。目の前の荒れた海に飛び込めば、海中でPS装甲に通用する強力な実弾兵器を保有していないストライク、レイダーで追撃することは不可能である。
しかしここで撤退するということは、アスランにとってクルーゼから大きな期待を背負って任されたアークエンジェル追討任務が失敗するということだった。
北アフリカでの敗戦に引き続き、まるで手の掛かる愛おしい妹の様だったキラや、そんなキラに付き纏うブルーコスモスのクロトに完敗を認める事は、今まで努力すればするだけ成果を認められるエリート街道を歩んでいたアスランにとって、絶対に受け入れられないことであったのである。
『……お前も、死んだ方がマシなクチか』
クロトはバルトフェルドと異なり、わざわざイージスのコクピットを避けてまでアスランを生かすつもりはなかった。
後々の展開を考えた場合、所詮はエターナルの艦長に過ぎないバルトフェルドよりも、ジャスティスのパイロットとしてクロトの前に立ち塞がるだろうアスランの方が、より厄介な障害となり得る可能性は高いからである。
未だ
キラに手を汚させるまでもなく、自分でアスランを討つ。
そう考えてイージスに突撃したレイダーの真横に、突如“ミラージュコロイド”を解除したブリッツが現れた。
『援護します、アスラン!』
ニコルは一人だけ残ってレイダー、ストライクと戦おうとしていたアスランを助ける為、密かに海中から戻っていたのである。ブリッツは反射的にレイダーが突き出した右腕の対ビームシールドに、手槍としても使用可能な3連装超高速運動体貫徹弾“ランサーダート”を振り下ろした。対ビームシールド自体はPS装甲ではないため、実弾兵器である“ランサーダート”に貫かれて至近距離で激しい衝撃を受け、レイダーの右腕は関節部から吹き飛ばされた。
『貰った!!』
『ちっ……!』
イージスは突如右腕を喪失し、ブリッツに気を取られたレイダーを右足のビームサーベルで蹴り上げた。その一撃でレイダーのPS装甲が大きく抉れ、パイロットであるクロトの姿が外部から確認出来る状態まで露出する。ほんのコンマ数秒でもクロトの反応が遅れていれば、ビームサーベルの直撃を受けてクロトは生きたまま蒸発していたところだったのである。
『クロト!!』
『させませんよ!』
キラは突如起こった思わぬ事態に動揺すると共に、ストライクのスラスターを全力で吹かせてクロトの救援に向かった。再度“ランサーダート”を構えて自分を足止めしようとするブリッツを見て、自分がアスラン、あるいは目の前のアスランの同僚に確実に止めを刺しておけば、こんなことは起こらなかったと後悔しながら。
『……来るな、キラ!』
神懸かり的な反射で“スキュラ”を避けて“ツォーン”を撃ち返し、それを避けたイージスが繰り出すビームサーベルの猛攻を耐え凌ぎながらクロトは叫んだ。
油断して窮地に陥った自分など放っておいて遠方で援護射撃を放っているアークエンジェルと合流し、ムウが操縦するスカイグラスパーの支援を受ければ、既にバッテリーが限界寸前のイージスは撤退を余儀なくされるからである。
『くそっ……!』
『止めだ!!』
しかしバッテリー残量など微塵も考えていないイージスの猛攻の前に、大破して大幅に機能低下していたレイダーの右脚が、左脚が、最後に左腕が斬り飛ばされ、最後に剥き出しになったコクピット目掛けて、イージスのビームサーベルが振り下ろされたのだった。
〈73〉
レイダーとブリッツが撃墜されたのは、ほぼ同時だった。
イージスのビームサーベルをコクピット付近に受け、海中に沈んだ直後に爆発したレイダーに対して、動力部にストライクのビームサーベルを受け、密林に叩き付けられると同時に大爆発したブリッツ。
どちらも操縦者の生存は絶望的な状況であり、またそれぞれの機体に止めを刺したアスランとキラの反応は対称的だった。
『お前がニコルを……ニコルを殺した!!』
『……』
声を震わせ、通信回線で自分の親友を殺したキラに向かって怒りを露わにするアスランに対して、キラはアスランに何の言葉も出なかった。
ヘリオポリスの襲撃に始まり、自分達から一方的に攻撃を仕掛けておいて、自分の判断で撤退することを拒否しておいて、何故アスランは一方的に被害者ぶるのか、キラには全く理解出来なかったからである。
ザフトは義勇軍であり、世に例を見ない志願制の軍隊だという。
つまりアスランは自分の意思で戦う事を選んだ筈なのである。撃つ覚悟と、撃たれる覚悟。その覚悟でアスランは銃を取ったのではないのか。
キラは悟った。アスランは何の覚悟も持たないまま、能力に任せて他者を撃っていただけの存在なのだと。そんなアスランから自分を守る為に、クロトはとうとう死んでしまったのだと。
──許せない。
『アスラン!!!』
ストライクはスラスターを全開で吹かせてイージスに突撃した。そしてイージスが両腕で繰り出した斬撃を紙一重で避けると同時に、根元から左腕を斬り飛ばす。
更にイージスが放った左脚の斬撃を避けながら、一瞬無防備になった胴体を蹴り飛ばして距離を取る。
初めてバルトフェルド隊と戦った時以来の、まるで時間の流れが止まっている様な不思議な感覚が可能にする絶技である。
『くっ……!』
キラが本気の殺意を向けて襲い掛かって来るという事実は、キラに対して未だ甘い幻想を抱いていたアスランの怒りを引き出すには十分だった。
『俺がお前を……討つ!!』
『貴方だけは!!! 貴方だけは!!!』
イージスはストライクの猛攻を掻い潜り、対ビームシールドを構えていたストライクの左腕を斬り付けた。防ぎきれないと判断したストライクは左腕を捨ててイージスの頭部を斬り飛ばし、更にイージスが放った右脚の斬撃をスラスターを吹かせて回避した。
ストライクの回避する方向を読んでいたイージスはMA形態に変形し、全スラスターを活用して腕ごとストライクの胴体を挟み込む様な形で喰らい付いた。
『終わりだ!!』
頭部に“ツォーン”を保有しているレイダーには通用しないが、両腕に武器の使用を依存しているストライクに逃れる方法は存在しない必殺の手段である。
イージスがそのまま“スキュラ”を放ち、ストライクを撃破しようとした瞬間。
『死ね!!!!』
軍事機密の塊である機体を自爆させ、その情報を引き出させない様にするために搭載されている自爆装置を作動させるキーコードだ。
機体の特性上、
そしてコクピットを抜け出した直後、自爆装置と“スキュラ”を受けたストライクが大爆発し、強烈な爆風を受けたキラは意識を喪った。
つい先日、スカイグラスパー二号機のパイロットとして任命されたトール・ケーニヒは悪天候の中、ムウと共にMIAになったクロトとキラの捜索を行うという初任務に赴き、樹木に引っ掛かって気を失っていた緑髪のザフト兵
しかしキラとクロトの姿はどれだけ探しても見つからず、ザフトの追撃を恐れたマリューは大破したブリッツを回収すると、ムウの反対を押し切ってアラスカ基地に向かい始めたのだった。
という訳で、ニコルくんは捕虜になって貰いました。
ニコルくん捕虜ルート、自分の死を大義名分に核を解禁した父の姿に何を思うのかという裏テーマがあるので楽しいですよね。
またトール君生存ルートのミリアリアちゃんの言葉にフレイちゃんを止められるだけの説得力はありませんので、狡猾で残忍な男は大人しく撤退して貰いました。
とはいえトール君生存ルート、色々なキャラの成長フラグをへし折ってる感あるので、オーブ解放作戦前日に全員降りてしまいそうですね……
ステラちゃんの黒ストライク(仮)の名称は?
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ストライクノワール
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ストライクネロ
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ストライクシュバルツ
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ストライクブラック
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ストライクダーク
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ストライクシャドウ
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その他