逆襲のクロト   作:皐月莢

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幻の慟哭

 〈74〉

 

 イージスの猛攻の前に四肢を切断され、最後に残った胴体部分にビームサーベルを突き立てられ、遂にストライクは致命的な損傷を受けた。

 

『──終わりだ!!』

 

 コクピットの中のキラは苦悶の叫びを上げ、止めの“スキュラ”を受けて爆散する。

 

『──彼女のデータは、残念だけど全て処分しなければいけませんね』

『──やれやれ。明日からは俺がストライクのパイロットか?』

『──全く艦長も少佐も、お人が悪い。もっとも嫌われ役を買って出たのは私ですが』

 

 孤軍奮闘するキラを見殺しにしたにも関わらず、アラスカ基地で“サイクロプス”で自分達が見殺しにされそうになったら厚顔無恥にも反旗を翻したアークエンジェル。

 そんなアークエンジェルに鉄槌を下す為にクロトはレイダーを駆って襲い掛かろうとするが、アスランの乗ったザフトの核動力MSである“ジャスティス”と共に“フリーダム”が立ち塞がった。

 

『──お前は何の為に戦っている!!』

『──もう止めるんだ!!』

 

 “ジャスティス”と“フリーダム”が核動力搭載型MS専用アームドモジュール“ミーティア”で一斉に放った圧倒的な弾幕の前に、流石のレイダーも避けきれずに次々と被弾する。

 

『僕は、僕はね……!』

『──撃て!! マリュー・ラミアス!!』

 

 それでもせめて一太刀でも浴びせようと、最後の気力を振り絞ってレイダーを前進させたクロトにアークエンジェルの放った“ローエングリン”が直撃した。

 

「キラ!」

 

 強い絶望感が胸を焦がすと共に、覚醒が訪れた。クロトは目を見開いて上半身を持ち上げる。 

 先程見た光景はただの悪夢だった。冷静に考えればドミニオンとアークエンジェルの共闘など所々矛盾していた内容だったが、夢を見ている最中はそう思わせないだけの妙な説得力と迫真性があったのである。

 

「……」

 

 クロトは生きていた。

 コクピットを貫かれる瞬間に“ミョルニル”を射出して僅かにビームサーベルの軌道を逸らし、更に変形機構を利用して直撃を避けるように位置を調整し、落水と同時にイージスの攻撃で開いていた大穴から脱出したのである。それでも爆発の衝撃に巻き込まれ、荒波に流されたことでクロトは意識を喪失していたのだった。

 照明の淡い白光が目を打つ。クロトの視界が天井から周囲へ移り、白を基調とした薬剤や検査機器が所狭しと並ぶその部屋は、何処かの医務室で自分は眠っていたのだとクロトに理解させたのだった。

 周囲の機器に表示された日付は、クロトがおよそ三日間に渡って意識を失っていたことを認識させた。更に最長でも半日以上薬を服用しなければ耐え難い激痛と倦怠感に襲われる筈のクロトが現状そうした禁断症状に悩まされていないという事実は、自分がどんな組織に回収されたのかクロトに理解させたのだった。

 それでもクロトは腕に刺さっていた点滴の針を抜くと立ち上がり、クロトを除くと誰1人いない医務室を抜け出した。

 視界が狭い。

 クロトの左目には止血用のジェルと共に包帯を巻かれていたが、目を閉じていてもうっすらと感じられる筈の光さえ感じなくなっていた。ヘルメット内部で激しく左眼球を打ち付け、そのまま適切な治療が遅れたクロトは()()()()()()()()()()()()()()のである。

 それでも医務室で黙って寝ていることなど出来ず、クロトを回収した大型の潜水艦らしき船のCICを探すため、視界の欠落と全身打撲、麻酔の影響で思うように動かない身体を引き摺るように足を進める。

 

「……おっと」

 

 ヘッドホンを付けた()()()()()()()()()()──シャニが曲がり角から姿を現した。激しく音漏れしているヘッドホンを外し、鬼気迫るクロトの顔を見て呆れたように顔を顰める。状況から大体の事情は把握しているだろうに、重傷の身体でクロトが船内を歩き回っていることが、シャニにとっては理解出来なかったのである。

 

『──()()()()()()()──』

 

 シャニの外したヘッドホンからは、本来シャニが好んで聞いている筈のデスメタル系の曲ではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。思わず怪訝そうな表情を浮かべたクロトを鼻で笑うと、シャニはヘッドホンを右手で弄び始めた。

 

「ここ最近は、コイツの歌にハマっててな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 本気か冗談か分からないシャニの戯言を無視すると、クロトは現状を正確に把握するため、長い間意識を失っていた影響か上手く言葉の出ない喉から声を絞り出した。

 

「この船は何だ?」

「この船はカーペンタリア基地の通商破壊と、北アフリカに降下したアークエンジェルを援護するために盟主様が手配した特務艦だ。細かい事は知らねーが、オルガによると鹵獲したザフトの潜水母艦だとか。地球連合軍にはMSを運用出来る潜水母艦がねーから、間に合わせで用意したんじゃねーかって」

「……アークエンジェルはどうなった?」

「ザフトの追撃を振り切って、地球連合軍の勢力圏に入ったのを確認した。しかしアークエンジェルってのは馬鹿な船だな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。くくっ」

 

 実際問題、アークエンジェル自体の価値はあくまで最新鋭の戦艦と大差ないものだった。 

 オーブで両機体の詳細なデータ解析を行ったモルゲンレーテとは異なり、両機体のデータを吸い出す為の十分な設備を備えていなかったアークエンジェルが保有しているのは、あくまで不完全で断片的なレイダーとストライクの運用データと、オーブでキラが作成したナチュラル用OSのサンプルだけだったのである。

 更にアズラエルの直属兵であり、バルトフェルド隊の撃破で名実共に地球連合軍最強のパイロットの1人と称される様になったクロトを見捨てて逃げ出した上に、忌まわしきコーディネイターの力を借りて生き延びたアークエンジェルの存在は、最後まで抵抗していたハルバートン派の懐柔によってブルーコスモス思想が完全に蔓延した大西洋連合軍にとって、恥以外の何物でもなかったのである。

 MSの有用性が地球連合軍でも認知された今、当初はヘリオポリスのモルゲンレーテでしか行われていなかったMSの製造は、今や地球各地で同時展開される形で大々的に行われている。

 まだまだ質、量共に不十分とはいえ、近々“フォビドゥン”“カラミティ”の実機と実戦データが手に入る地球連合軍にとって、大幅に到着期間が遅れた上に宇宙、砂漠、海中と様々な環境下で奪取されたG兵器を含むザフトの最新鋭MSと行った豊富な実戦データを保有するレイダー、ストライクを喪ったアークエンジェルなど、武勲艦としてザフトの大軍を引き付けて“サイクロプス”をより有効に発動させる為の囮以上の戦略的価値などなかったのだ。

 クロトと同じく結果が全てであり、その為に多大な犠牲を払って産み出された存在であるシャニにとって、自分達の命を惜しんでレイダーとストライクを見捨てて逃げ出したアークエンジェルの行動は、本末転倒にしか思えなかった。

 例えるならアラスカ基地にとって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()のだから。

 そんなシャニの言葉はシャニの認識していたクロトであれば何気ない会話のつもりだったのだが、今現在のクロトにとっては“ストライクの喪失”という何よりも聞き捨てならない単語が混じっていた。

 

「……ストライクも、やられたのか?」

「おいおい、仕事中毒かよ。……詳細は知らねーが、通信記録じゃイージスと相討ちになったらしいぜ。……ま、テメーをやるような奴と相討ちなら、上等なんじゃねーの?」

 

 シャニからすれば、合計4体存在する生体CPUの中でもMSの腕前においては1、2を争うクロトを撃破したイージスのパイロットの技量は、率直に驚嘆に値する代物だった。

 ストライクのパイロットが偶然ヘリオポリスで巻き込まれて志願した民間人の少女コーディネイターであるという程度しか認識していなかったシャニにとって、そんな()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と考えていたのである。

 ましてや生体CPUでも随一の戦闘狂であり、コーディネイターを滅ぼす為にただでさえ短い寿命を捨ててまで力を欲し、狂気に近い合理的思考で動いている筈のクロトが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

「……まさか、テメー……」

 

 より高い効果を発揮するためだと、ほぼ麻酔無しで改造手術を受けても平然としていたクロトが。

 よりリアリティを追及するためだと、実際の映像で作られたという趣味の悪い殺人教育ビデオを見せられてもヘラヘラしていたクロトが。

 その場で顔を伏せて泣いていた。

 永遠に光を失った左目からは血の混じったものを流し、固く握り締めた掌からは血が滴り落ちている。

 せめて言葉にしないのは、たかが少女コーディネイターの死で心を揺るがしたと周囲のブルーコスモス関係者に知られる訳にはいかないという、クロトの哀しい立場故の代物である。

 そんなクロトの姿に流石に茶化せる雰囲気ではないと悟ったシャニが無言で壁に肩を預けていると、クロトが医務室を抜け出して船内をウロウロしていると耳にしたオルガが姿を現した。

 

「……何をやってんだよクロト。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「全くだぜ。こっちまで気が滅入って来るんだよ」

 

 大人しく命令に従っているものの忠誠心の欠片もないオルガやシャニにとって、()()()()()()()()()C()P()U()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そんなクロトが少女コーディネイターの死に悲嘆していることを理解したオルガとシャニは、医務室から抜け出したクロトに駆け寄ろうとするブルーコスモスに所属する軍医の男に聞こえる様に、敢えて冷淡な声を放ったのだった。

 

 〈75〉

 

「う……ぅ……くっ!」

「気が付いたか」

 

 アスランは見覚えのないベッドの中で目を覚ました。眩しい陽光が差し込む窓と小気味よいエンジン音が、ここは飛行中の航空機の中だという情報をアスランにもたらした。

 

「ここはオーブの飛行艇の中だ。我々は浜に倒れていたお前を発見し、収容した」

 

 アスランは目を真っ赤にしている金髪の少女カガリに声を掛けた。

 

「……オーブ? 中立のオーブが俺に何の用だ?」

 

 マリューはキラ達の捜索を断念して離脱する際、オーブに向かって戦闘区域だった島の位置と救援要請信号を発信していた。元々アスラン隊とアークエンジェルの交戦を予想し、領海付近に部隊を展開させていたオーブ軍はマリューの要請を受け、直ちに部隊を向かわせていたのである。

 現場には海岸付近に落ちていたレイダーの四肢と、そこから少し離れた地点で自爆装置と至近距離から放たれた“スキュラ”で跡形もなく砕け散ったストライクと、ストライクの自爆を受けて大破したイージスが転がっていた。

 そしてイージスから僅かに離れた地点の茂みに、ストライクの自爆装置が作動した瞬間に“スキュラ”を放ったことで衝撃を緩和し、奇跡的に難を逃れていたアスランが倒れていたのである。

 

「聞きたいことがある。ストライクをやったのは、お前だな。……パイロットはどうした! お前の様に脱出したのか? ……それとも……」

「……」

「見つからないんだ! キラが……なんとか言えよ!」

 

 レイダーの一部が海底で発見され、遺体は見つからなかったが荒れた海という状況を考えても生存が絶望的と思われるクロトとは異なり、キラには脱出して生存している望みがあったのである。カガリは祈る様な思いでオーブ軍と共にキラを捜索したのだが、しかしキラの姿は何処にも見当たらなかったのだった。

 

「あいつは……俺が殺した……」

「何っ!?」

「……俺が……イージスで組み付いて……殺そうとしたら……あいつはストライクを自爆させた……俺も同時に攻撃したから……脱出出来たとは思えない……」

「う……ぅ……貴様ぁぁ!!」

「ぐぅ……」

 

 イージスでストライクに組み付いた瞬間、アスランは勝ったと思った。有効な反撃手段を持たないストライクは“スキュラ”を受けて撃破される筈だった。

 しかし実際には“スキュラ”を放つ間際にストライクは自爆した。

 自爆装置には使用者が脱出するまでの猶予時間が存在する関係上、キラが自爆装置を作動させたのはイージスに組み付かれると悟った瞬間である。

 しかし狙いを悟らせない為か、アスランの目に脱出しようとするキラの姿が映ったのは、自爆装置が作動する僅か数秒前だった。アスランを確実に殺す為、キラは危険を冒してギリギリまでストライクに残っていたとしかアスランには思えなかったのである。

 PS装甲を保有するストライクを確実に自壊させる威力を持つ自爆装置と、一撃で戦艦すら沈める威力を保有する“スキュラ”が引き起こした大規模な爆発。

 未だに遺体の一部すら見付からないのは、その爆発に巻き込まれてキラが粉々に砕け散ってしまったからではないかとアスランは考えていたのである。

 

「でも……何で俺……生きてるんだ……? お前が……俺を討つからか……」

 

 カガリに銃口を突き付けられたアスランは自嘲するように笑った。

 

「キラは……! 危なっかしくて……訳分かんなくて……すぐ泣いて……でも優しい……いい女の子だったんだぞ!!」

「やっぱり変わってないんだな……昔からそうだ……あいつは……泣き虫で甘ったれで……優秀なのにいい加減な奴だ……」

「キラを知ってるのか!?」

「……知ってるよ……よく……。小さい頃から……ずっと友達だったんだ……仲良かったよ……」

 

 母であるレノア・ザラと共に月面基地コペルニクスの幼年学校に留学していた当時6歳のアスランは、同じく6歳だったキラとその家族であるヤマト夫妻と家族ぐるみの付き合いをしていた。仕事で留守がちなレノアに代わり、特にキラの養母であるカリダ・ヤマトはアスランをもう一人の子供のように面倒を見ていたのである。

 

「それで……なんで! ……それでなんでお前があいつを殺すんだよ!?」

「そんなの解らない……解らないさ! 俺にも! ……別れて、次に会った時には、あいつは女の子で……敵だったんだ!」

「女の子?」

「あぁ。あいつ、()()()()()()()()()()()()()()()んだ。……知らなかったんだ! 親友だと思っていた相手が女の子で、地球連合軍の一員としてブルーコスモスの奴と一緒になってMSに乗って戦っていると知った俺の気持ちが分かるか!? ……一緒に来いと何度も言った! あいつはコーディネイターだ! 俺達の仲間なんだ! 地球軍に居ることの方がおかしいんだ! なのにあいつは聞かなくて……俺達と戦って……仲間を傷つけて……ニコルを殺した!」

 

 アスランに知る術はなかったが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 後に戦闘用コーディネイターと同等以上の性能を発揮するナチュラルを作るブーステッドマン計画の台頭と、同じくキラを探していたクルーゼの暗躍によってその集団は壊滅したのだが、キラの身を案じたヤマト夫妻はヘリオポリスに移り住むまでキラに男装させていたのである。

 

「だから……キラを殺したのか……お前が……」

「敵なんだ! 今のあいつはもう……なら、倒すしかないじゃないか!」

「くっ……バカやろう! なんでそんなことになる! なんでそんなことしなきゃならないんだよ!」

「あいつはニコルを殺した! ピアノが好きで、まだ15で……それでもプラントを守るために戦ってたあいつを!」

「キラだって、守りたいものの為に戦っただけだ! なのになんで殺されなきゃならない! それも友達のお前に!」

 

 カガリの言葉で、アスランは自らの過ちに気付いたのだった。

 アスランはクロトが自分からキラを奪ったという思い込みに囚われ、思わぬニコルの活躍で重傷を負ったクロトを殺そうとして、それを防ごうとしたキラを足止めするために勝ち目のない戦いを挑もうとしたニコルを制止せずに、クロトに止めを刺すことを選んだのだ。自分の目の前にはニコルが死なずに済む選択が存在していたにも関わらず、アスランは自分の自尊心を守る事を優先してしまった。

 ニコルを殺したのは、他ならぬ自分の決断だったのである。

 

「……くっ……うぅ……」

 

 自分はクロトを殺そうとしていたにも関わらず、キラにはニコルに対する手加減を期待していたのだから、キラに対して自分は身勝手で都合のいい考えを抱いていたのだとアスランは理解した。

 しかしあの時の自分はニコルを殺して自分に本気の殺意を向けるキラにアスランは裏切られたような気持ちと憎悪を抱いてしまい、怒りのままにキラを殺してしまったのである。

 

「殺されたから殺して、殺したから殺されて、それで本当に最後は平和になるのかよ!」

 

 カガリの悲痛な叫びが、飛行艇に木霊したのだった。




次に会ったキラちゃんは女の子で敵だったとか言い出したアスランくんに、意味不明過ぎて困惑したままブチ切れるカガリちゃんでした。

ピアノ好きのニコルくんは志願兵で、設定上は既に大卒並みの学力と被選挙権のある立派な“大人”なんだよな…… 無理矢理戦わされているピアノ好きの子供みたいな表現は止めません?

反対にクロトくんは何も語らない訳ですが、シャニくんやオルガくんはキラちゃんと再会したクロトくんが裏切ったとしても、あいつは俺達の仲間なんだとか、三隻同盟に居ることの方がおかしいとか言わないでしょう。(暴れるステラちゃん)

……ところで欠損タグはいるんですかね? バルトフェルドさんやらの事を思えば原作準拠の世界観とは思うのですが……

ステラちゃんの黒ストライク(仮)の名称は?

  • ストライクノワール
  • ストライクネロ
  • ストライクシュバルツ
  • ストライクブラック
  • ストライクダーク
  • ストライクシャドウ
  • その他
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