逆襲のクロト   作:皐月莢

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“新たなる剣”を託す者

 〈76〉

 

 緑髪に甘い顔立ちのザフト兵──ニコル・アマルフィは手足を拘束され、医務室のベッドで寝かされていた。

 ニコルは大破したレイダーにイージスが止めを刺すための時間を稼ぐ為に“ランサーダート”以外の武器を喪った隻腕のブリッツでストライクの足止めを図った。

 もちろん“ミラージュコロイド”を解除し、PS装甲に通用する武器を持たない状況下で、万全のデュエル、バスター、ブリッツを撃破したストライクに勝ち目はないと分かっていたため、事前に脱出準備を整えた上で決戦に臨み、密林に墜落する直前に機体を捨てて脱出していたのである。

 アークエンジェルの撃破という任務は残念ながら失敗したが、それとも最低限の成功ラインであるレイダーと、ストライクの撃破は果たせたのであろうか。

 

「……」

 

 恐ろしい2人だった。

 ザフトの士官アカデミーの中でも、特に優秀な成績の“赤服”で構成されたアスラン隊に対し、常に数の上で劣勢な状況下でも互角以上に立ち回って来たのだから。

 とりわけレイダーのパイロットの技量は、ザフトの士官アカデミーで歴代最高の成績を上げたアスランと同等以上だった。

 もしも悪天候で視界不良でなければ、最初はストライクに向かって行き、撃退されてしまったことで警戒心を解かれていなければ、万が一にも自分の奇襲は成功しなかっただろうとニコルは確信していた。

 初めて内部から見たアークエンジェルは異様な船だった。

 巨大な船体の割に乗組員は少なく、先程まで自分の手当てをしていた赤髪の少女のように地球連合では子供扱いされる筈の同世代の志願兵が複数乗り込んでいたのである。

 もっとも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ために正規乗組員が不足しており、おそらくその穴埋めの為に同世代の志願兵が宛がわれているのだろうとニコルは推測していた。

 

「目が覚めたらしいな。……気分はどうだ?」

「……貴方は?」

「俺はムウ・ラ・フラガだ。今はこの船でパイロットをやっている。君の素性は少し調べさせてもらったよ。ニコル・アマルフィくん」

 

 現れた金髪士官が名乗ったその聞き覚えのある名前に、ニコルは納得するように頷きながら言った。

 

「……あの“エンデュミオンの鷹”ですか。……クルーゼ隊長からはメビウス・ゼロのパイロットだと聞いていましたが……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「どういう意味だ?」

「ストライクのパイロットは貴方なんでしょう? “エンデュミオンの悪魔”と“エンデュミオンの鷹”……地球連合軍でも有名なエースパイロットじゃないですか」

「……あー、なんだ。勘違いさせて申し訳ないけど、俺はストライクのパイロットじゃない。……俺が聞きたいのは、一つだけだ。レイダーとストライクのパイロットも、君みたいに脱出してるかもしれない。何か知らないか?」

 

 苦虫を噛み潰したような表情で問い掛けるムウに、ニコルは興味をなくしたとばかりに天井に視線を遣りながら答えた。

 

「知ってたとして、僕が貴方に話す義理があると思っているんですか? それに、最後に見たレイダーの姿はイージスにコクピットを貫かれて海に墜落する所でした。万が一脱出したとして、あの荒波の海に落ちたパイロットが生きているとは思えません」

 

 いつもは上空からレイダーとストライクの援護射撃を行っていたムウも、突然の激しいスコールで機体の制御がままならず、殆ど戦闘に参加出来なかった。それでもあの二人なら切り抜けられるだろうと楽観的に考えていたらレイダーが、その後しばらくしてストライクが反応を絶ったのである。

 ムウは天候が悪かったから仕方ないと自分に言い訳をすることなど出来ず、自分が結果的にあの二人を死に追い込んだのだと考えていた。グリマルディ戦線でもそうだったように、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思い詰めていたのである。

 

「だったら、ストライクのパイロットは?」

「だから、貴方に話す義理はないと言ってるんですよ」

「……君と同じ()()()()()()()()でも、かな?」

「何ですって?」

 

 あまりにも想定外の内容に、ニコルは全身に走る激痛など忘れて飛び起きた。

 てっきりストライクのパイロットがムウでないなら、レイダーのパイロットと同じ様に才能豊かなナチュラルのパイロットだと思っていたからである。そのニコルの挙動に驚いたフレイは一歩後退するが、ムウは苦笑しながら更に言葉を続けた。

 

「ストライクに乗っていたパイロットはヘリオポリスの学生で、君達と同じコーディネイターの女の子だ」

「……それだけじゃないわ。キラは貴方達の仲間で、イージスのパイロットだったアスランって子と幼馴染だったのよ」

「あ、アスランの幼馴染!?」

 

 フレイの言葉に、ニコルは思わず大声を上げた。

 キラ・ヤマト。

 親友のアスランから何度も聞いていた、月面都市コペルニクスで別れたが今も自分にとってはニコルと並ぶ一番の親友だと語っていた人物の名前を耳にしてニコルは頭が真っ白になった。

 確かにヘリオポリス襲撃以降のアスランの様子は妙だったが、てっきり婚約者であるラクス・クラインが行方不明になったことと、アークエンジェル追討任務が失敗続きだったことで精神的に不安定になっていたのだとニコルは思っていたのである。まさかそんな重大な秘密を隠していたとは思わなかったのだ。

 

「ちょっと待て。……それは俺も初めて知ったぞ」

「私達は卑怯者だもの。……私達はあの子がどんな相手と戦っているのか知ってたのに、自分の命が可愛いからってあの子にずっと戦わせてたから」

「……艦長や副長は知ってたのか? ブエル中尉は?」

「あの子が言ってなかったら、多分知らないと思う。私達は……この事が皆にバレたらあの子が大変なことになるだろうって、口裏を合わせることにしてたから」

 

 キラがイージスのパイロットと幼馴染だと知られれば、軍人としては極めて人情家であるマリューだけでなく、ナタルもキラを諜報員の可能性があるかもしれないと主張してストライクに乗せることを反対しただろう。

 もちろんヘリオポリスの学生であるキラが諜報員という可能性は限りなくゼロだろうが、ラクスの様に監視を付けて軟禁していた可能性が高い。当然ストライクに乗せることなど有り得なかった筈である。

 もっとも、キラにとってストライクに乗って幼馴染と戦わされる事と、軟禁されている状況のどちらが幸せだっただろうかは考える余地もなかった。キラの高い能力はともかく、その才能は戦いに向いているとは思えなかったからである。

 軍人にとって最も重要なのは、命令とあらば平気な顔で誰でも殺せる才能であって、偶然バナディーヤで出会ったという敵将バルトフェルドの死に悲嘆していたキラは、この船で最もそうした才能に欠けているとムウは感じていたのだ。

 

「その事をいつ知った?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の。だから結構前からよ」

「……」

 

 目の前で繰り広げられている会話に、ニコルは言葉を失った。ヘリオポリスの襲撃で肉親や友人を亡くし、その実行犯である自分達と戦おうとしたのなら理解出来る。

 その動機は“血のバレンタイン事件”に反発して銃を取る道を選んだニコルやアスランと、規模は違っても同じものだからだ。

 しかし相手は友人を守る為に、相手は幼馴染と分かっていながら戦わざるを得ない哀れな少女だった。アスランが自分達に相談しなかったとはいえ、自分達はそんな少女を自分達に歯向かう生意気なナチュラルとして大勢で追い掛け回していたのである。

 

「……どうして彼女は僕達に投降しなかったんですか。友人を連れて投降すれば、こんなことにはならなかった筈です」

「私達はナチュラルだもの。中立国のコロニーにいきなり攻め込んできて、民間人を乗せたシャトルを撃つ様な相手に投降したらどうなるか……貴方も分かるでしょう?」

「……」

 

 アスランの口利きでキラ本人は助かったとしても、ナチュラルであるキラの友人達がどのような非人道的な扱いを受けるのかということを、ニコルはすぐに理解した。

 プラントのコーディネイターはナチュラルを劣等種と考えている者が大多数であり、何をしても問題ないと思うのが当然だった。ニコルがそうした意識を持たないのは、ニコルの尊敬している人物が遥か昔に“ピアノの詩人”として呼ばれ美しい名曲の数々を創り出したピアニスト──つまりナチュラルだったからである。

 そんなニコルのナチュラル寄りとも取れる感性はクライン派であるニコルの父、ユーリ・アマルフィすら理解出来ないものであり、同期であるイザークやディアッカにニコルはしばしば蔑まれていたのだった。

 

「何か知らないか。君が唯一の手掛かりなんだ」

「……本当に僕は何も知らないんです。意識を失う寸前、ストライクとイージスが交戦している方向に向かう人影を見たくらいで」

 

 その人影の姿はロウ・ギュール。

 脱出が遅れて至近距離でストライクの爆発に巻き込まれ、重傷を負いながらも浜辺に向かおうとして気絶していたキラを救助し、近くで孤児院を経営する世界的な知識人マルキオ導師の元へ連れて行ったジャンク屋の青年だったが、ニコルにその事実を知る術はなかったのである。

 

 〈77〉

 

 プラント・アプリリウス市に存在する、クライン邸にて。

 

「──良いニュースと悪いニュースが入った。クライン派の情報網は流石だな」

「それも貴方の指示が的確だったからですわ。アンドリュー様」

 

 表向きは卑怯な地球連合軍に敗北したものの、奇跡的に無傷で生還したとされる“砂漠の虎”アンドリュー・バルトフェルドはプラント本国に呼び戻されていた。

 バルトフェルドの高い戦歴を買ったパトリック・ザラは、バルトフェルドをザフトの新型高速戦艦であるエターナルの艦長に抜擢すると共に、同じくエターナルに搭載される最新鋭MS“フリーダム”のパイロットに抜擢したのである。

 もっとも副官であるマーチン・ダコスタを通じて、今まで貫いていた無頼の立場を捨てて密かにクライン派に加わっていたバルトフェルドはパトリック・ザラに表向きは忠誠を誓いつつも、やがてクライン派が決起を起こす為の準備を行っていた。

 その中の一つとして、バルトフェルドは元々自分が保有していた独自の情報網とクライン派の情報網を融合させ、先日消息を絶ったクロトの安否と詳細を探っていたのだが、友軍に拾われたという安否はともかく、その詳細はあまりにも凄絶極まる内容だった。

 

「……これは……」

「妙だと思ったんだ。彼の情報は意図的に伏せられていた。同じグリマルディ戦線で英雄扱いされるようになった“エンデュミオンの鷹”と比較すれば一目瞭然だ。だから最初は彼も、僕はハーフコーディネイターか何かだと思っていた」

 

 ムウの異名である“エンデュミオンの鷹”はグリマルディ戦線でメビウス・ゼロを駆り、ジン5機を撃破したことに由来している。同じく鹵獲したジンを駆り、グリマルディ戦線でジン15機を撃破したクロトがムウと同じ様に宣伝されない理由などない筈だった。

 クロトがザフト製のMSであるジンで戦ったことや、当時MSがMAの5倍の戦力とされていたことからムウの方が実質的により目覚ましい成果を上げたという見方も出来たが、広告心理学者であるバルトフェルドは、地球連合軍の歪とも取れる偏った宣伝に違和感を抱いたのである。

 その両者の差について合理的に推理すると、クロトはナチュラル、コーディネイターの対立が深まった今の社会でどちらからも差別され、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というのがバルトフェルドの予想だった。

 

「……そうであれば、どれほど良かった事でしょうね。こんなことが、本当に許されていいのでしょうか?」

「先天的な遺伝子操作は悪で、後天的な人体改造は善だと。……地球連合軍の将官クラスなら殆ど存在を知っている筈だが、軍内部からは殆ど批判が出ていないのが実情だ。特定の薬物を手離せず、耐用寿命は約2年……。彼が表舞台に現れた時期から逆算すると、あと約1年。コーディネイターに対抗するためとはいえ、死んだ方がマシなのはどっちなのかね?」

 

 バルトフェルドは吐き捨てる様に言った。

 現実はそんな生温いものではなかった。クロトは脳にマイクロインプラントを埋め込み、投薬によって体質を変化させ、実戦を伴う訓練や洗脳教育等を施してコーディネイター以上の身体能力を獲得した“生体CPU”だったのである。

 地球連合軍が宣伝などする訳がなかった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 バルトフェルドが手渡したクロトの()()()を読んだラクスは、思わず声を震わせた。

 

「……こんな……ことが……」

 

 クロトは純然たるブルーコスモスの被害者であり、口では何を言おうとブルーコスモス思想など持っている訳がなかったのである。単にブルーコスモスを裏切れば生きられない身体のため、忠実に命令に従っているだけだったのだ。

 だからアークエンジェルの様に自分の正体を知る者がいないイレギュラーな状況下では、クロトは周囲に怪しまれない範囲で自由に振る舞っていたのである。たとえ相手がブルーコスモスに忠誠を誓う少年兵でも、面と向かって話せば分かり合えるのだと能天気に思っていたラクスの希望は最悪の形で裏切られたのだった。

 

「此方で眠っているお姫様にも、このことを教えるつもりか?」

「……分かりません。ですがキラもクロト様と同じく“新たなる剣”を託すに相応しい方です。キラが望むなら、私も答えなければならないでしょう」

 

 ラクスは先日、マルキオ導師によって極秘裏に運び込まれたものの、未だ意識の戻らない少女キラの寝顔を横目で見ながら、悲痛な表情でバルトフェルドに言った。




まぁこの世界線ならラクス様が“新たなる剣”を託そうとする第一候補はクロトくんですよね……
案の定、クロトくんに自由は手に入りませんが……

ところで32回曇るニコルくんって何ですか?

ステラちゃんの黒ストライク(仮)の名称は?

  • ストライクノワール
  • ストライクネロ
  • ストライクシュバルツ
  • ストライクブラック
  • ストライクダーク
  • ストライクシャドウ
  • その他
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