逆襲のクロト   作:皐月莢

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前後編です。


スピット・ブレイク 前編

 〈77〉

 

 アークエンジェルがアラスカ基地に到着してからも、ニコルは手枷を填められてアークエンジェルの独房に軟禁されていた。

 ニコルの父親であるユーリ・アマルフィはプラント最高評議会議員の一員であるため、その処分について地球連合軍内部でも意見が分かれているのかもしれない。そんな風に考えながらも、この娯楽一つ存在しない環境は退屈な時間だった。

 とはいえこのあまりに退屈な時間は、ニコルがこの戦争について改めて真剣に向き合う時間を設けるには十分だった。

 とりわけクルーゼ隊の一員として、オーブの保有するスペースコロニー〈ヘリオポリス〉に潜入し、地球連合軍がオーブの国営軍事企業モルゲンレーテと提携して行っていた地球連合軍初のMSである“G兵器”の4機を奪取したこと。

 そして奪取に失敗した〈レイダー〉と〈ストライク〉、その運用母艦である〈アークエンジェル〉を奪取、あるいは撃破する為にヘリオポリス宙域から始まり、マーシャル諸島で行われた最終決戦による〈レイダー〉〈ストライク〉の撃破と、その引き換えに喪失した〈イージス〉と〈ブリッツ〉の拿捕。

 既に〈イージス〉〈ブリッツ〉の詳細なデータはプラント本国に送られており、ザフト製OSを搭載した状態で地球連合軍との交戦データしか存在しない〈ブリッツ〉の存在価値など、地球連合軍にとっては皆無である。

 紆余曲折はあったとはいえ、ザラ隊の作戦は成功と考えて差し支えなかった。イザーク、ディアッカの両名は撤退に成功しており、唯一アスランの安否だけは分からなかったものの、あのアスランがそう簡単に死ぬとは思えなかったからである。

 とはいえニコルは未だに動揺していた。

 あの〈ストライク〉のパイロットが、アスランが月面都市コペルニクスで別れた親友のコーディネイターであり、アスランとは互いの存在を知った上で、友人を守る為に地球連合軍の一員として戦っていた民間人の少女であるという事実に。

 そしてその内実を誰よりも知る少女フレイが自分に食事を持って来たのを確認すると、ニコルはゆっくりと起き上がった。元々初めて会った時から塞ぎ込んでいたフレイだったが、ニコルはフレイに普段と異なる気配を感じた。

 

「……何かありましたか?」

「私に転属命令が下ったわ。明日の朝一番に人事局に出頭するようにって」

 

 地球連合軍内部では既にザフトを引き付けるための囮だと決定していたアークエンジェルだったが、ムウ、ナタル、フレイの三人には転属命令が下っていた。

 地球連合軍でも有数のMA乗りであるムウには、カリフォルニア基地で新人MA乗りの教官として。

 アークエンジェルのクルーとして活躍し、名家の生まれであるナタル、フレイは6月に月面基地に配属されるアークエンジェル級の2番艦〈ドミニオン〉のクルーとして。

 既にサイを含め、アークエンジェルのクルーに対する情はフレイにはなかった。

 彼等はこれから自分達はどうなるのか、自分達は除隊出来るのかという事に興味が移っており、今まで自分達を守っていた少女が戦死したことなど二の次だったのである。

 ナタルは割り切れなければ死ぬのは自分であり、寄す処を見詰めて悲しんでいては次は自分がやられるのが戦場だとフレイに言ったが、そもそもキラやクロトがいなければ幾度となく自分達はやられていたのが現実ではないか、それを冷静に受け止めるのが本当に正しい事なのかとフレイは思っていた。

 マリューがMIAに認定した日、クロトとキラの遺品は整理された。

 クルーの絶対数が不足し、あちこちにスペースがある状況で本当に遺品を整理する必要があるのか、オーブに住むキラの両親に遺品を届ける為にも何か残すべきなのではないかとフレイは主張したが、ナタルはこれが決まりだとサイとミリアリアに遺品を整理させた。

 遺品の中にはキラがバナディーヤでアイシャにプレゼントされた高価な薄緑のドレスも混じっていたが、最終的に不要だと判断されて全て処分されたのだった。唯一彷徨っていたトリィだけは回収に成功したが、他はどうにもならなかったのだった。

 

「そうですか。今までお世話になりました、フレイさん」

 

 かつてクロトに自分が志願兵として受け入れられた理由はアルスター家の娘だからだと突き付けられていたフレイは、異例とも思われる突然の転属の理由について察しが付いていた。

 ザフトのコーディネイターとはいえ、真面目で心優しい少年ニコルと話す機会が最後だと思うと、フレイは何処か寂寥感を抱いていた。

 

「貴方の本業はピアニストなんですっけ。私もお父様には、よく音楽鑑賞に連れて行って貰ったわ」

 

 その思いはニコルも同じで、捕虜とその世話係という歪な間柄ではあるものの、初めてナチュラルと接し、ナチュラルも自分達と同じ感性を持っている一人の人間なのだと改めて認識したのだった。

 

 〈78〉

 

 海に叩き付けられ、直後に爆散するレイダー。自分はそれを見ていることしか出来ず、スピーカーからは嘲笑うアスランの声が響き渡る。

 絶叫と共にそんな悪夢から目を覚ましたキラは、まるで旧約聖書に記されたエデンの園のような美しい緑の光景に困惑した。

 

「こ、ここは……?」

「お解りになりますか?」

「ラクス……さん……」

 

 偶然ユニウスセブン周辺のデブリ帯で回収し、最終的にアスランに引き渡した筈の少女ラクス・クラインを見たキラは絶句した。

 

「ラクスとお呼び下さいな、キラ。でも、覚えていて下さって嬉しいですわ」

「わ、私は……アスランと戦って……死んだはず……なのに……」

 

 クロトの死に激昂したキラは戦いを優位に進めていたものの、本気になったアスランに少しずつ動きを見切られ始めていた。

 このままでは勝てないと悟ったキラは意図的に隙を作り、イージスにストライクを組み付かせて自爆したのである。アスランに自爆を察知されないように、自爆装置を作動させた後もギリギリまで戦うという荒業を敢行することによって。

 いっそ自爆に巻き込まれて死んでも良いとさえ思っていたが、今までクロトに守って貰った命を捨ててしまっていいのかという罪悪感がキラを脱出に導き、奇跡的に破片が肉体に直撃しなかったことと、偶然近くにロウ・ギュールがいたという幸運がキラを生還へと導いたのだった。

 

「貴方はアスランを殺そうとしたのですね。そしてアスランも貴方を……。でも、それは仕方のないことではありませんか? 戦争であれば。……お二人とも敵と戦われたのでしょう? 違いますか?」

「……私がアスランの仲間に止めを刺すのを躊躇ったから、クロトが殺された。殺らきゃ殺られるって、クロトはずっと……言ってたのに……」

 

 バルトフェルドとの戦い以降、相手を殺したくないと思ったキラは無意識に手加減してしまう悪癖を身に付けてしまっていた。グゥルの破壊であったり、手持ち武器の破壊であったりと、その気になればコクピットを狙えたかもしれない隙であっても、キラは相手の無力化を第一に優先して戦っていたのである。

 まさかキラにそんな芸当が出来るとは思っていないクロトは気付かなかったし、キラ本人もクロトが〈ブリッツ〉に不意打ちされるまでは気付いていなかった。

 勿論、無力化された相手の殆どは撤退していたのだが、アスランが撤退を拒んだことでニコルが危険を顧みず戻って来たことと、偶然腕ごと斬り飛ばされた〈ランサーダート〉が無傷で残っていて再利用可能だった事が原因で起こった不幸だったが、キラは自分の甘さがクロトを死なせたのだと感じたのである。

 

「どう思いますか、アンドリュー様?」

「さあね。少なくとも彼の本音は、違うようだが」

 

 そんなキラの考えは自分の甘さが原因で愛する者を失った人間として至極当然だと思う一方で、今のキラのような復讐心に囚われた者に〈フリーダム〉を託す訳にはいかないと感じていたラクスは、少し離れて様子を窺っていたバルトフェルドに声を掛けた。

 

「バルトフェルドさん……どうして?」

「僕とアイシャは彼に見逃されたんだよ。これ見よがしにコクピットを避けて、ね」

 

 ザフト北アフリカ方面軍司令官として、またザフトのエースパイロット“砂漠の虎”としてクロトに一騎討ちを挑み、返り討ちに合ってアイシャ共々死んだ筈のバルトフェルドの姿にキラは茫然とした。

 無事だった〈ラゴゥ〉のコクピットから脱出したバルトフェルドとアイシャは、大破したレセップスに1人残っていた副官のダコスタに救助され、アイシャ共々プラントに帰国したのだった。

 

「そんな……でも……クロトは……」

 

 何度も戦ったザフト軍人とはいえ、多少なりとも交流のあった知人の生還を喜ばしいと思う一方で、人知れずその生還に関与していたクロトの死を再度突き付けられ、この世の理不尽さに再度キラは頬を濡らし始めると、ラクスはキラの手を取った。

 

「あの方は御無事です。どうやら重傷を負っているとの情報ですが」

 

 クロトを救助したオルガ達を乗せた特務艦は、すぐに地球連合軍本部に向けて情報を発信していた。戦闘能力においてコーディネイターを遥かに凌駕する性能を持つクロトら生体CPUは戦術兵器と同等以上の価値であり、その生死は極めて重要な情報だからである。

 勿論、その通信は多重暗号化されており、地球連合軍以外には解読不能な通信だったが、“新たなる剣を託す者”としてクライン派の情報網を通じて綿密な調査を行っていたクロトの現状だけは、その情報網を通じてラクスの下にも届いていた。

 

「本当ですか!? だったら──」

「いけません。貴女はまだ、お休みになっていなくては」

 

 身体の彼方此方に刺さっていた点滴を引き抜き、起き上がろうとしたキラは顔を顰めて咳き込んだ。

 約半月の間、意識を喪っていた身体を無理に動かそうとした反動である。ストライクの自爆に巻き込まれて受けた外傷は完治したとはいえ、精神的、肉体的に深く傷付いていたキラはすぐに動ける様な状態ではなかったのだ。

 咳き込むキラの背中を擦りながら、ラクスはキラに現状を話し始めた。

 

「どちらにしても、今はどうすることも出来ませんわ。貴女をお連れになったマルキオ導師様のシャトルを含め、地球に向かうものは全て発進許可が下りないそうです」

 

 ロウ・ギュールから重傷のキラを託されたマルキオは、キラの所持していた認識票から以前にラクスから話を聞いていた少女だと知り、キラに手厚い治療を受けさせるべくプラントに向かう為に準備していた自分のシャトルにキラを乗せ、クライン邸に連れて行ったのだった。

 マルキオがプラントに渡航した目的である“オルバーニの譲歩案”は却下され、またオペレーション・スピットブレイクを間近に控え、プラントの宇宙港は封鎖されていたためにマルキオはプラント滞在を余儀なくされていた。

 一個人ながら戦時下でも完全中立の立場で自由に活動出来る存在のマルキオが地球に戻れない以上、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだった。

 

「お食事にしましょう。キラの分も用意しますわ」

 

 いっそアスランが〈ジャスティス〉を受領し、自分達の身動きが取れなくなるまでキラが目覚めなければ、どれだけキラ個人にとって良かったことだろうか。

 この心身共に深く傷付いた心優しい少女に〈フリーダム〉を託し、その想いを、力を利用して地球連合とプラントの講和の道を模索しようとする自分は最低の人間だ。

 ラクスは自嘲しながら、台所に用意していた料理を温め直し始めたのだった。

 

 〈79〉

 

 C.E.71年5月5日。

 大規模な降下部隊と地上部隊の大半を注ぎ込み、地球連合軍が保有する唯一のマスドライバー〈ポルタ・パナマ〉を保有しているパナマ基地を攻撃すると見せ掛け、手薄になった地球連合軍最高司令部が存在するアラスカ基地を強襲し、一挙に戦局を打開するオペレーション・スピットブレイクが発動した。

 パトリック・ザラら評議会議員の一部と、その腹心であるラウ・ル・クルーゼら一握りの人間しか知らず、パナマ基地攻撃の為に多数集結していた部隊も発動と同時に攻撃目標の変更が通達されるという前代未聞の作戦であり、一部の部隊には混乱が生じていたが、主力部隊を展開したまま動きを見せないパナマ基地の地球連合軍とは裏腹に、ザフト軍はその進路を一挙にアラスカへと変更した。

 しかしプラント内部の諜報員を騙っていたクルーゼを通じ、スピット・ブレイクの情報を事前に入手していたアズラエルはウィリアム・サザーランドら大西洋連邦の派閥に属する地球連合軍上層部にその情報をリークし、その対抗策としてアラスカ基地に大量破壊兵器“サイクロプス”を設置したのだった。

 これはアラスカ基地の防衛部隊を構成するユーラシア連邦軍と、アークエンジェルの様な大西洋連邦内部の不穏分子を囮に、“サイクロプス”でザフトに大打撃を与えると共に大西洋連邦にとって政敵であるユーラシア連邦の発言力を喪失させ、大西洋連邦の発言力を拡大しようとする狂気の作戦だった。

 

「……〈ゲルプレイダー〉ねえ。火力と推力が2倍って、そんなワケなくない?」

「詳細は不明ですが〈GAT-333〉の試作機に〈GAT-X370〉のデータを反映させ、〈I.W.S.P.〉をベースに造った追加ユニットを搭載した機体らしいです。私のストライクに搭載する専用ストライカーパックも〈I.W.S.P.〉をベースにしたものらしいですし、先輩との繋がりを感じますね」

『──星の降る場所で──』

「うっせーぞ、お前ら。ただでさえ俺とシャニの機体は単なる改修だけだって聞いて、苛々してるのによ」

 

 アズラエルと共に潜水母艦に乗り込み、完成した新型機を受領するためにデトロイトに向かうクロト達。

 

「まさか君と同じ配属先になるとはな。不安だとは思うが、これからも宜しく頼む」

「……はい」

 

 転属の為、ナタルに連れられて潜水艦でパナマ基地に向かうフレイ。

 

「これは!?」

 

 カリフォルニアへの転属命令を拒否し、アークエンジェルに戻ろうと引き返したところでアラスカ基地の異変に気付いたムウ。

 

「つくづく、最期まで人の業に翻弄され続けた娘だ。……とはいえ、いっそ()()()()()()()()()()()()()()()()かもしれんな! キラ・ヒビキ!」

 

 キラの死を知り、極秘裏に準備していたアラスカ基地の潜入計画を放棄して専用ディンを駆り、アラスカ攻略部隊の陣頭指揮を始めたクルーゼ。

 

「──総員第一戦闘配備! アークエンジェルは防衛任務の為、発進します!」

「そんな! キラも中尉も少佐も居ないのに、どうやって……」

 

 全てのMSを喪い、スカイグラスパー2機と実戦経験のない新米パイロット1名という絶望的な状況だったが、ザフトの猛攻からアラスカ基地を防衛する為にマリューはアークエンジェルを発進させるのだった。

 




とりあえずクロトくんが生体CPUという情報は隠蔽しておいて、存命だけ教える計算高いラクス様です。

不殺なんかしそうにないし、エルちゃんを撃ったデュエルを許せるような心理状態じゃないだろうけど、次回はキラちゃんが華麗に舞い降りてくれるでしょう。

何故かラクスの曲を爆音で聴くシャニくん、心身共にズタボロのクロトくん、そんなクロトくんにウザ絡みするステラちゃんをフォローしなければならないオルガくんは大変だなあ……

ステラちゃんの黒ストライク(仮)の名称は?

  • ストライクノワール
  • ストライクネロ
  • ストライクシュバルツ
  • ストライクブラック
  • ストライクダーク
  • ストライクシャドウ
  • その他
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