〈80〉
『シーゲル・クライン! 我々はザラに欺かれた! 発動されたスピット・ブレイクの目標はパナマではない。アラスカだ!』
『なんだと!?』
『彼は一息に地球軍本部を壊滅させるつもりなのだ。評議会はそんなことを承認していない!』
一部の評議会議員やクルーゼら現場指揮官と結託し、パトリック・ザラが独断でスピット・ブレイクの攻撃目標をパナマ基地からアラスカ基地に変更した事を知ったクライン派に所属するプラント最高評議会議員アイリーン・カナーバからの緊急通信は、クライン邸に衝撃を与えていた。
本来は地球連合軍に唯一残されたマスドライバーを保有するパナマ基地を攻略し、地球連合軍を地球に封じ込め、月面に展開する地球連合宇宙軍を孤立させるという目的で承認されたのが、本来のスピット・ブレイクの内容だったからである。
最高評議会議長という立場にありながら、評議会を無視して独断で作戦内容を変更したパトリック・ザラの行動はまさに暴走と表現するのが相応しい行動だった。
この作戦の可否はともかく、今までザフトが優位に進めつつも一進一退の攻防を続けていた戦局は大きく動き、地球連合軍とザフトの戦いは更に激しさを増すだろう。
「……」
ここ数日間のリハビリですっかり回復していたキラは一刻も早く地球に戻る為、今もクライン邸に滞在を続けているマルキオ導師の下に向かおうとした。
そんなキラの様子に気付いたラクスは穏やかに声を掛ける。
「どちらへ行かれますの?」
「地球へ。戻らないと」
「何故? 貴方お一人戻ったところで、戦いは終わりませんわ」
「でも、ここでただ見ていることも、もう出来ない。何も出来ないって言って、何もしなかったら、もっと何も出来ない。何も変わらない。何も終わらないから」
このままクライン邸で世話になっていれば、自分は二度と戦わなくて済むだろう。
しかし数ヶ月前までヘリオポリスで自分達には関係ない事だと仮初の安寧を貪っていた時の様に、地球連合軍とザフトの戦いを傍観したままではいられないとキラは考えていたのである。
「また、ザフトと戦われるのですか?」
ラクスの問い掛けに、キラはゆっくりと首を横に振った。
「では、地球軍と?」
再びキラは首を横に振り、何かを試す様な表情のラクスを見据えた。
「何と戦わなきゃならないのか、少し、解った気がするから」
全ての人間が争いを望んでいる訳ではない。おそらくこの世界には人種差別、復讐の連鎖を煽り、戦争を引き起こす者達が何処かに存在する。
地球連合軍、ザフトという垣根に囚われずにその原因と向き合わなければ、この戦争はどちらかの陣営が消滅するまで終わらないのではないかとキラは思ったのである。
「解りました。……ではキラは、こちらに着替えてください」
キラの解答に満足したラクスは微笑むと、クライン派の伝手で調達していた赤い女性用のザフト制服を手渡した。
そしてキラはラクスに連れられ、プラントの軍事工場の一角に足を運んだ。
そこには既に最終調整を済ませて出撃準備が万全に整えられた、何処かストライクに似た造形のモビルスーツの姿があったのだった。
「これは……ガンダム?」
「ちょっと違いますわね。これは〈ZGMF-X10Aフリーダム〉です。でも、ガンダムの方が強そうでいいですわね。奪取した地球軍のモビルスーツの性能をも取り込み、ザラ新議長の下に開発された、ザフト軍の最新鋭の機体だそうですわ」
「これを、何故私に?」
ヘリオポリスで鹵獲された4機の初期GAT-Xシリーズのデータを基に開発された、ザフトの核動力MS〈フリーダム〉。
C.E.71年4月1日にロールアウトし、同日プラント最高評議会議長に就任したパトリック・ザラに『ナチュラルに“正義”の鉄槌を下し、コーディネイターの真の“自由”を勝ち取る最終決戦の旗印』と位置付けられ“自由”の名を与えられた機体である。
皮肉にも
「今の貴女には必要な力と思いましたの。想いだけでも……力だけでも駄目なのです。だから……キラの願いに、行きたいと望む場所に、これは不要ですか?」
「貴女は誰?」
そんな〈フリーダム〉を肩書上は地球連合軍に所属している筈のキラに手渡す。
キラから見たラクスの行動は、後にザラ派に対するクーデターを計画しているとはいえ、クライン派に所属している人間の行動としてあまりに突拍子のないものだった。
いったい目の前のラクス・クラインは何者なのか。
「私はラクス・クラインですわ。キラ・ヤマト」
自分は
自分は
自分は
それは地球連合軍所属のキラ・ヤマト少尉ではなく、
「ありがとう。……でも、大丈夫?」
ラクスの真意を悟り、しかしザフトの最新鋭MS〈フリーダム〉の強奪という紛れもないプラントに対する反逆行為に手を染めようとするラクスと、そんなラクスの行動とは無関係ではいられないクライン派の今後についてキラは質問した。
「私も歌いますから。平和の歌を。……クロト様の事は、聞かなくていいのですか?」
心配無用。あるいは計算済み。
そんな顔から一転、ラクスは表情を曇らせた。キラは目覚めた直後に知った、クロトに関する安否以外の情報をラクスから一切引き出そうとしなかった。
それはクロトの置かれた悲惨な状況を知っているラクスにとって、最大の不安要素だった。
例えば全てを知ったキラが憎悪に染まり、今やブルーコスモス一色に染まりつつあるとはいえ地球連合軍を虐殺する様なことがあれば、地球連合とプラントを講和に導くための計画が台無しになってしまいかねないのだから。
「クロトが私に言いたくなかった事なら、私は知らなくていいと思うから。……
「ふふふ、分かりました。では、行ってらっしゃいませ!」
でもこの二人なら、きっと何があっても大丈夫。
そう考えたラクスは静かに微笑むと、発進する〈フリーダム〉を見送るのだった。
〈81〉
結果の分かっている戦いというものは、やはり退屈なものだ。
クルーゼは自嘲しながら、銀色の指揮官用〈ディン〉を巧みに操縦してアークエンジェルを追い詰めていた。既にメインゲートを除く複数の防衛網を突破し、ザフトが展開した部隊の大多数がアラスカ基地に突入を始めている。
今もなお基地外部に残っているのはメインゲートを狙う〈デュエル〉〈バスター〉らクルーゼ隊の面々を含む一部の部隊だけである。
アズラエルを含む独自の情報網からアラスカ基地に設置された“サイクロプス”の発動範囲を把握していたクルーゼの取るべき行動は“サイクロプス”の発動を確認してからでも撤退可能な距離で戦闘を続ける事だけだった。
どういう訳か“サイクロプス”発動の情報を掴んだらしく、アークエンジェルに戻って〈スカイグラスパー〉で再度現れたムウの放った〈アグニ〉を回避して〈76mm重突撃機銃〉を放ちながらクルーゼは嗤った。
『ここが貴様の墓場ということだ、ムウ!』
『メインゲートはくれてやったんだ! こっちは見逃してくれてもいいだろうが!!』
『そうはいかん。今の私は少々気が立っているのだよ!!』
更にクルーゼの〈ディン〉は〈120mm対艦バルカン砲〉を先読みしたかのような挙動で避け、反撃の〈90mm対空散弾銃〉で〈アグニ〉を大破させた。
『チッ!!』
『ふはは! いつまでも私の相手をしている時間があるかな!?』
『くそおおおおおお!!』
メインゲートを完全に突破し、隊長であるクルーゼの援護と因縁の敵であるアークエンジェルを撃破する為に再び戻って来た〈デュエル〉〈バスター〉の参戦で、ただでさえ壊滅寸前まで追い詰められていたアークエンジェルを含むメインゲート防衛部隊は最悪の状況に陥った。
唯一気を吐いていたアークエンジェルも被弾の影響で艦稼働率は40%を下回り、損傷したエンジンの推力が低下して落水、そして遂にブリッジの前に辿り着いた〈ジン〉が右腕で構えた〈76mm重突撃機銃〉を放とうとして──。
『!?』
真上から放たれたビームで〈76mm重突撃機銃〉が右腕ごと撃ち抜かれた。
思わぬ衝撃でよろめいた〈ジン〉が咄嗟に抜いた〈500mm無反動砲〉が更にビームサーベルで斬り飛ばされ、生じた爆風で大きく吹き飛ばされる。
『まさか!!』
パトリック・ザラの側近として、そしてアル・ダ・フラガのクローンとして、
白を基調とし、青い羽根を広げた様な美しい姿のMSはザフトの最新鋭MS〈フリーダム〉であり、それを操縦するパイロットはあのキラ・ヒビキである。
背部の複合可変翼を展開し、排熱の為に光り輝く熱気を吐き出しながら〈フリーダム〉は背後のアークエンジェルを守る様に仁王立ちする。
そして襲い掛かる〈ジン〉の銃撃をスラスターを吹かせて回避し、背部に装備した二門の〈バラエーナプラズマ収束ビーム砲〉、腰部に装着した二門の〈クスィフィアスレール砲〉、そして右腕に構えた〈ルプスビームライフル〉を加えた計五門による一斉射撃を開始した。
『これが……彼女の力か……!』
五発全ての命中──あるいはそれ以上。
一部の高威力の砲撃は複数の機体に同時に命中し、更にその全てが武器を持った腕部、あるいは頭部のメインカメラに限定されていた。
対多数を想定した〈フリーダム〉には十機の標的を同時に捕捉可能な〈マルチロックオンシステム〉が搭載されているとはいえ、それをこれ程の精度で使いこなせるのは、キラの卓越した空間認識能力と反射神経が可能にする神業だった。
更に〈ジン〉がアークエンジェル目掛けて放った〈500mm無反動砲〉を〈ラミネートアンチビームシールド〉で悠々と受け止めると、そのメインカメラをビームで撃ち抜く。
『くそっ、なんだよアレは!!』
機動力を生かして必死に逃げ回っていたトールの〈スカイグラスパー〉を追い回し、あと一歩まで追い詰めていたイザークは突如現れた〈フリーダム〉を見て叫んだ。
イザークにとって〈フリーダム〉は先日まで死闘を繰り広げていた〈レイダー〉〈ストライク〉を遥かに上回る、地球連合軍の最新鋭MSとしか思えなかったからである。
そんなイザークの乗った〈デュエル〉のスピーカーから、マリューから得た恐るべき情報を共有するため、公共のフリー回線を通じて放たれたキラの声が響き渡る。
『──ザフト、連合、両軍に伝えます! アラスカ基地は、間もなくサイクロプスを作動させ、自爆します! 両軍とも、直ちに戦闘を停止し、撤退して下さい! 繰り返します! アラスカ基地は間もなくサイクロプスを作動させ自爆します! 両軍とも直ちに戦闘を停止し、撤退して下さい!』
頭部の〈ピクウス76mm近接防御機関砲〉すら用いて、アークエンジェルに目掛けて撃たれたミサイルを全て撃墜しながらキラは更に呼び掛けを続ける。
しかし突如現れた、地球連合軍の最新鋭MSと思われる〈フリーダム〉の呼び掛けに対して大多数のザフト兵は敵の攪乱行為だと判断し、距離を詰めながら襲い掛かった。
『……一度だけ、見逃します。それでも戦うと言うのなら!!』
高速で向かって来る〈ジン〉や〈ディン〉の武器、あるいはメインカメラを正確無比に撃ち抜いていたキラの神業は更なる上の段階を見せ始めた。
『容赦しません!!』
メインカメラ、あるいは片腕を失った上でなお、戦闘を続行しようとしていた機体に対して容赦なく〈フリーダム〉はコクピットを撃ち抜き始めたのだった。
しかも恐るべき事に、警告前にキラが武器やメインカメラを撃ち抜いていた機体は、無傷の機体と同様に扱って一度はコクピットを避けるという異常なものだった。この場に存在する全ての機体の状態を正確に把握していなければ、絶対に不可能な行為だったのでである。
そんなキラの行為は誰にも理解出来ない異常なものだったが、元よりメインカメラや片腕を破壊され、戦力が大幅に低下した状態で戦闘を続けようとする者は極少数だった。
しかしキラの言葉を信じて撤退するか、それともこのまま戦闘続行するかで戦場が大混乱に陥る中、咄嗟に〈フリーダム〉の砲撃を防いでいた〈デュエル〉はビームライフルを放った。
『下手な脅しを!!』
『〈デュエル〉!!』
その一撃をシールドで防いだ〈フリーダム〉は〈デュエル〉の方に振り向いた。
第8艦隊旗艦〈メネラオス〉から脱出した避難シャトルを気紛れに撃ち抜き、エルを含む大勢の避難民を虐殺した因縁の相手である。そんな〈デュエル〉が自分の警告を無視して襲い来ってくる姿を目の当たりにして、キラは思わず舌打ちした。
『ええええええぃ!!』
右腕に構えて斜めに斬り掛かって来たビームサーベルをシールドで防ぎ、更に態勢を崩そうと放たれた左拳を右拳で〈フリーダム〉は防御する。
咄嗟に〈グゥル〉と〈デュエル〉両方のスラスターを全力で吹かせ、強引に押し切ろうとするイザークをキラと〈フリーダム〉は真っ向から受け止めた。
『止めてと言ったでしょう! 死にたいの!?』
『なにぃ!?』
神懸かり的な反射で〈イーゲルシュテルン〉を避けると共に、タックルで〈フリーダム〉を突き飛ばして斬り掛かった一撃を宙返りで避け、バランスを崩した〈デュエル〉の無防備なコクピット目掛けて〈フリーダム〉は斬り掛かった。
『うわああああああ!!』
それが
『……』
とはいえ、やはりこの怒りを抑えることは出来ない。
そう考えたキラはビームサーベルで〈デュエル〉の両脚を斬り飛ばし〈バラエーナ〉で両腕を吹き飛ばすと、押っ取り刀で駆け付けた〈バスター〉目掛けて全力で蹴り飛ばした。
『早く脱出を!! もう止めてください!!』
四肢を失った〈デュエル〉を抱えた〈バスター〉は一足先に部隊を率い、アラスカ基地から撤退を始めていたクルーゼを追い掛け始めた。
『俺達も脱出するぞ、イザーク!!』
『アイツ……なぜ……』
エンジンの不調なのか、墜落して動けなくなっている〈ジン〉に向かって行く〈フリーダム〉の姿をモニターで見詰めながら、イザークは呟いたのだった。
作者が何かの間違いでこの世界に転生するなら、キラちゃんが助けられなかったジンのパイロットになりたいで――(降り注ぐスーパーミョルニル
ディアッカくんを出しても特に因縁がないので、バラバラにされて蹴り飛ばされたイザークくんを回収するディン役を務めてもらいました。
初実戦があまりに地獄過ぎるので、逆に回避に専念することが出来て生き延びたトールくんです。
ザフト赤服とパイスーを着たキラちゃんが見たいわ!!
ステラちゃんの黒ストライク(仮)の名称は?
-
ストライクノワール
-
ストライクネロ
-
ストライクシュバルツ
-
ストライクブラック
-
ストライクダーク
-
ストライクシャドウ
-
その他