〈87〉
アズラエルの要求したモルゲンレーテの査察とマスドライバーの有償貸与という、一見すると破格とも取れる提案をオーブが蹴ったのは理由があった。
もちろん中立を国是に掲げるオーブにとって、たとえ有償とはいえ今や全てのマスドライバーを喪失した地球連合軍にマスドライバーを貸与するのは国の理念に反するものであり、そう簡単に受け入れられるものではないのだが、むしろ
モルゲンレーテではオーブ軍の量産型モビルスーツである〈M1アストレイ〉〈ムラサメ〉が製造されていた。
両機体はG兵器のデータを盗用して製造したモルゲンレーテ初のモビルスーツである、プロトアストレイシリーズを量産性を考慮して再設計したものであった。
勿論これだけでも十分に大問題な内容であり、国内外の世論から大きく反発を受けるのは避けられなかったのだが、二段階の再設計を経て両機体は技術盗用という非難に対して十分弁明可能なものになっていた。
しかし問題はここから先だった。
アークエンジェルがオーブに一度目の入港を行った際、アークエンジェルとレイダー、ストライクを修理する傍ら、
未だ未完成ながら、ウズミを含むオーブの軍事に携わる
そして
モルゲンレーテ本社の内部には友軍のアークエンジェル、キラどころか
まさかオーブという国がそこまで国を根底から揺るがしかねない軍事計画を立てているなど知る術もないアズラエルにとって、ウズミの思いがけない強硬な態度は予想外だったのだ。
『そろそろ出番ですよ、君たち』
大西洋連邦軍の立てた作戦は単純明快だった。
オーブ本島南方に存在し、軍司令部とモルゲンレーテの本社工廠が存在するオノゴロ島に戦力を集中させ、一気に制圧しようというものである。
作戦目標はモルゲンレーテ本社工廠及び、マスドライバーの破壊だったのだが、軍司令部を制圧してしまえばオーブ軍の中枢機能が麻痺し、マスドライバーが無傷で確保出来る可能性も十分に考えられたからである。
モルゲンレーテの技術は捨てがたいが、サハク家から提供された最新のバッテリー技術を除けば十分に替えの利く範疇の技術である一方で、マスドライバーの確保は対ザフト戦略を見据えた上で、やはり莫大なリターンが存在するとアズラエルは考えていたからである。
支援砲撃である激しい艦砲射撃と共に、輸送機からストライクダガーの空挺部隊が次々降下し、軍港付近を中心に展開して〈M1アストレイ〉と戦闘を始めている。
『……はい』
数の上では優位な大西洋連邦軍だったが、レイダーの開発データを基に開発が大幅に進んだM1アストレイの指揮官機であるムラサメ、モルゲンレーテによって修理されたイージス、そしてフリーダムの援護によって、大西洋連邦軍とオーブ軍の戦闘は意外にも一進一退の戦況を保っていた。
『うふふ……行きますよ!!』
そんな拮抗した戦況を傾け、大西洋連邦軍を勝利に導くのがクロト達の役目である。既に十分な量の〈γ―グリフェプタン〉を服用し、高揚状態のステラは叫んだ。
目的は第二陣である揚陸艦に搭載された上陸部隊であるストライクダガーの援護──そして目標は一進一退の戦いを繰り広げているオノゴロ軍港最東部である。
『撃滅!!』
空挺部隊を迎撃していたイージス艦の弾幕を潜り抜け、クロトは急速接近させた新型機〈ゲルプレイダー〉をMS形態に変形させると、艦橋目掛けてスパイクが強化された破砕球〈スーパーミョルニル〉を振り被った。
『!?』
間一髪で真横から現れたフリーダムに蹴飛ばされ、ゲルプレイダーは頭部から海に落水する。
僅かに出遅れていた新型機〈ストライクネロ〉は左腕で抜いた小型のビームライフルを放ってフリーダムを牽制すると、右腕で抜いた対艦刀でイージス艦の艦橋を両断した。
そんなストライクネロを無力化するためキラはビームライフルを連発するが、ステラは両腕の小型シールドで薙ぎ払う様に攻撃を受け流すと、キラは背後から放たれたレールガンを回避するため攻撃の中断を余儀なくされる。
『コイツは僕が!!』
『分かりましたァ!!』
たとえ二機で掛かっても核エンジンによる無尽蔵のエネルギーと圧倒的なパワーを誇るフリーダムの撃破は容易ではない。手間取っている間に上陸部隊が各個撃破されるのを防ぐ為、クロトはステラに指示を飛ばした。
更に破砕球を投げ付けるが、フリーダムは急降下して避けると同時にバラエーナを発射──しかしクロトは推進機の巧みな制御によって紙一重で回避する。
重武装と高機動の両立という相反する命題を解決するために増設された推進機から生じる、普通の人間なら関節が圧壊しかねない程の激しい負荷がクロトの肉体を襲う。
『はははっ……!』
核エンジンによる無尽蔵の電力と高い運動性能を生かしたヒット&アウェイ戦術。圧倒的な性能を誇るゲルプレイダーとはいえ、総合的な性能はフリーダムの方が上だろう。
更に問題なのはこのタイミングでフリーダムを撃墜すれば、後にプラントに対するピースメーカー隊の核攻撃が成功し、ヤキン・ドゥーエ要塞から放たれるジェネシスのタイミングが大幅に早まる恐れがあることだった。
だからクロトの取るべき選択肢は極めて高い潜在能力を持つフリーダムを足止めし、前線を荒らし回っているストライクネロの援護を行うことである。
クロトはフリーダムの放つビームを躱しながら、ゲルプレイダーの両肩に搭載されたレールガンを放った。
〈88〉
拮抗を保っていた戦況は徐々に大西洋連合軍優位に傾きつつあった。
制空権と制海権を完全に失ったオーブ軍は、次々に上陸するストライクダガーの大軍の前に蹂躙されつつあった。
既にムウが乗ったイージス、ニコルの乗ったブリッツが戦闘しているエリアを除いてオーブ軍の防衛線は大きく後退しており、各所から劣勢の報告が上がっている。
『あはははははっ!!』
両手に対艦刀を構え、ストライクネロは防衛線を捨てて撤退しようとするM1アストレイの真横に並ぶと、バターの様に斬り捨てていく。
フリーダムは妨害しようにも執拗に纏わり付くゲルプレイダーを振り切れず、ストライクネロの侵攻を食い止められない。
『私達は……』
キラにはもう何が正しいのかよく分からなかった。
先日モルゲンレーテ本社工廠でM1アストレイらに搭載されたナチュラル用OSを最終調整している際に、キラは偶然〈エクリプス計画〉の断片的なデータを発見していた。
その内容は、オーブはM1アストレイの指揮官機であるムラサメを上回る高性能な可変機体を製造する計画を立てており、その一部にフリーダムのデータを解析し、再現したものを採用する形で設計を進めているらしい。
これはキラの目の届かないところで密かにフリーダムのデータ解析が行われていたという明確な証拠である。ラクスが命懸けでフリーダムを託し、キラが背負おうとした責任は、キラが守りたかったオーブという国の手であっさりと踏み躙られてしまったのだ。
『苦戦してるんですかァ!?』
ストライクネロが放ったビームをキラはフリーダムを急上昇させて回避するが、その攻撃に連動してゲルプレイダーの放った破砕球が胴体を直撃し、真横に大きく吹き飛ばす。
衝撃でキラの全身に激痛が走り、非PS装甲で製造された機体の関節部から軋むような音が発生した。
背中の推進機を吹かせてフリーダムの姿勢を立て直しながら、ゲルプレイダーのパイロットの正体に確信を得たキラは通信回線を開いた。
『私達は……戦うしかないのかな……?』
『なっ!?』
突如動きの鈍ったフリーダムに損傷を与えるため、実弾兵器を中心に構成されたゲルプレイダーの武装の中で唯一PS装甲に有効な高出力エネルギー砲〈ツォーン〉を放とうとしたクロトはその声を聞いて思わず攻撃を中止した。
『まさか……!!』
そんな筈がない。
正体こそ分からなかったが、フリーダムのパイロットは十中八九クライン派に所属しているザフトの少年兵であり、断じてマーシャル諸島で戦死したキラである訳がない。しかしこの声は間違いなくキラの声であり、クロトには何がどこでどう狂ってこうなったのか──まるで見当もつかない。
『戦うしかないのかなって聞いてるのよ!!』
目の前で見せ付けられるゲルプレイダーとストライクの巧みな連携──自分の国すら信用出来ない世界──自暴自棄になったキラはビームサーベルを抜き、戸惑いを隠し切れずに宙を漂うゲルプレイダーに斬り掛かった。
〈89〉
『フリーダム……キラ!』
突如起こったゲルプレイダーの変調と、その変調に便乗する形でゲルプレイダーを追い込んでいくフリーダムをモニターの中心に表示させながら、アスランは戦況を窺っていた。
フリーダムは咄嗟にゲルプレイダーが放った破砕球を真正面に捉えると、右腕のビームサーベルを最大出力で振り抜いた。
高密度に圧縮された特殊な反発材を採用している関係で、持ち手と金属球を繋ぐ高分子ワイヤーの様に対ビームコーティングが施されていない破砕球は呆気なく両断され、内部に搭載されている推進剤に引火して爆発する。
『な、何が……僕は……!』
クロトは思いもよらないキラとの邂逅に愕然とし、破砕球を失ったグリップを捨てて目の前の現実から逃げ出す為に機体を反転させようとした。
『あぁ……。そういうことだったんですね……』
先日──デトロイトの軍事工廠でストライクネロを初めて見た時、クロトが僅かに表情を歪めた姿をステラは見逃してはいなかった。
そして時折、クロトが自分を通して誰か別の人間を見ている様な違和感──その瞬間、ステラの中でクロトに対する疑惑は確信に変わったのだった。
『よくも……よくも……許せませんッ!!』
ゲルプレイダーを無力化するため、脇目も降らずに急加速したフリーダムに対してストライクネロは対艦刀を勢いよく振り被った。
実体剣として十分な切断力を持ちつつ、入念な対ビームコーティングが施された対艦刀は咄嗟にキラが突き出したビームサーベルごとフリーダムを吹き飛ばす。
『私の……邪魔をしないで!』
『こっちの台詞ですよッ! お優しい先輩の良心を弄ぶなんて……地獄に堕ちて下さいッ!』
『そんなこと……!』
そしてストライクネロは冷静さを欠いたフリーダムの放ったビームを──続けてバラエーナを急降下して回避すると、接近して至近距離でビームを放とうとした。
その瞬間。
『!』
ストライクネロは突如上空から現れた赤いモビルスーツ──ジャスティスが放ったビームブーメランを咄嗟に抜いた対艦刀で打ち払った。
ジャスティスは更にMS支援空中機動飛翔体である〈ファトウム‐00〉からビームを連発し、半狂乱になりながらもフリーダムとストライクネロの戦いに割り込もうとしていたゲルプレイダーを牽制する。
『……?』
突如現れた正体不明の赤いモビルスーツに、キラとステラは警戒しながら距離を取った。
『……僕は……僕は何の為にッ!!』
しかし唯一そのパイロットの正体をアスラン・ザラだと知っているクロトは、
『へぇ。まだ居たんですね……変なモビルスーツ!』
ゲルプレイダーを追い掛ける形で突撃したストライクネロが放ったビームをジャスティスは回避すると、アスランはキラに向かって通信を飛ばした。
『ザフト軍特務隊……アスラン・ザラだ! 聞こえるかフリーダム……キラ・ヤマトだな?』
『どういうつもり……? ザフトはこの戦闘に介入するつもりなの!?』
『軍からはこの戦闘に関して、何の命令も受けていない! この介入は……俺個人の意思だ!』
アスランはジャスティスのビームサーベルの柄を連結させ、両端からビーム刃を展開すると迫り来るゲルプレイダーに斬り掛かった。ゲルプレイダーは右腕のシールドでジャスティスの斬撃を防御すると、レールガンを放ってジャスティスを後方に吹き飛ばす。
『なるほど……。
『違う! ザフトは関係ない!』
その攻防でクロトの復調を敏感に感じ取ったステラはフリーダムが連発するビームを回避しながら、公共通信で嘲笑と共に絶叫する。
『ふふっ、面白い方ですね。ザフトの特務隊が──それも現代表の一人息子だと名乗る御方が最新鋭機で武力介入する行為に、オーブとプラントが裏で繋がっていた証拠以外の意味なんてないんですよ!!』
『俺はそんなつもりじゃない!!』
『プラントは! 私達地球連合軍がマスドライバーを手に入れるのを防ぐため! オーブ軍を支援する為に貴方を派遣した! それが事実なんですよ!!』
アスランは必死に反論するが、ステラはそんなアスランの言葉をあっさりと一蹴する。
そもそもアスランがこのオーブ解放作戦に武力介入したのは個人的な理由──キラと話したいというものであり、それ以上の意味などなかったからである。
しかし第三者から見ればザフト軍の特務隊を名乗る人間が、オーブ軍の友軍であるフリーダムを援護しているという状況だったのである。
『だからオーブは──?』
中立国でもなんでもない、と叫ぼうとしたステラは突如目の前でキラが行った暴挙に言葉を失った。
『……私は認めない』
フリーダムはゲルプレイダーとストライクネロを退ける為に共闘しようとしていたジャスティスの頭部を狙い、ビームライフルを放ったのである。ジャスティスは神懸かり的な反応でその攻撃を防いだが、フリーダムはなおもビームライフルの照準をジャスティスに向けている。誤射ではなく、明確な交戦の意思──アスランは絶叫した。
『キラ……いったい何を!?』
『警告します。ザフトも地球連合軍も──引かないというなら、私は討ちます!』
アスランの助けを借りれば、この場は切り抜けられるかもしれない。
しかしそれは、きっと何の解決にもならない。
ザフトの特務隊を名乗って現れたアスランを友軍として受け入れる事は、オーブがプラントに付いた事を意味するからだ。そうなればプラントはオーブを橋頭堡として、地球連合軍と戦おうとするだろう。
反対に地球連合軍に付けば、地球連合軍はオーブの力を利用してプラントを攻めようとするだろう。ただ敵と味方が変わるだけで、結果は何も変わらない。
『……』
ラクス・クラインを中心に結成されることになる武力集団〈三隻同盟〉の主力を構成し、地球連合軍を苦戦させた
ここ数日、体調を崩しています。
それもこれも、血迷って初のR18短編を書いたからですね(絶対違う)
エクリプスガンダムの設定、機体の製造時期的にこのタイミングでフリーダムを無断でデータ解析しているのが濃厚という、純真なキラくんが国に絶望するレベルの設定なんだけど……?
キラちゃんのザフト赤服のボトムスは?
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ズボンだよ(シホさん風)
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スカートだよ(ミリアリアちゃん風)
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その他