逆襲のクロト   作:皐月莢

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遂にメンデル編に突入です。


コロニー・メンデル 前編

 〈98〉

 

 クロトは月面基地プトレマイオスに降り立っていた。

 先日行われた“第三次ビクトリア攻防戦”によってマスドライバーの確保に成功した地球連合軍は、月本部に大量の兵力を集める傍らで、ジブラルタル基地、カーペンタリア基地等、地球上に点在するザフト地上基地に対する大規模な攻勢作戦を推し進めようとしていた。

 その目的はプラント本国を攻撃する最終作戦を発動する際、最大の邪魔者であるザフト地上部隊の勢力を更に縮小させることにあった。

 本来であればクロトもそれらの作戦に参加する筈だったのだが、そんなクロトが地球を離れたのはアズラエルの意向が働いていた。

 それは地球連合軍の脱走艦であり、オーブ軍と共闘して大西洋連邦軍と交戦した元地球連合宇宙軍第八艦隊に所属するアークエンジェルの艦載機であり、モルゲンレーテの最新鋭機と思われる〈フリーダム〉の確保が目的だった。

 恐らく何らかの方法でニュートロンジャマーを無効化し、プラントによって封印された筈の核の力を使っているモビルスーツ──それを確保し、解析することは対プラントの勝利を確実にする上で、また戦後の自分の立場をより強固なものにする上でも、ザフトの地上基地に対する攻勢作戦を支援するより遥かに優先順位は高いとアズラエルは判断したのである。

 

「……」

 

 地球連合軍の快進撃の一端を担っている4機の最新鋭モビルスーツ──特に先代を含め、伝説的な成果を挙げ続けるレイダーを一目見ようと集まる軍人達を避け、クロトはドックの壁に背中を預けて目を閉じていると、不意に正面から女性の声が響いた。

 

「……ブエル中尉。久しぶりだな」

「これはこれは。ドミニオン艦長就任、おめでとうございます。バジルール少佐」

 

 型式番号LCAM-01XB“ドミニオン”とは、大西洋連邦軍が開発したアークエンジェル級の二番艦である。

 大天使の名を冠するアークエンジェルに対し、その上位天使である主天使の名を与えられたドミニオンは黒を基調とした塗装や一部の仕様変更を除き、アークエンジェルと同じ能力を有する最新鋭艦である。

 地球連合軍司令部はハルバートンの推薦により、この艦の艦長にかつてアークエンジェルで副長を務めていたナタル・バジルールを抜擢した。

 それは彼女とフレイ・アルスター二等兵を除く全てのクルーがMIAあるいは脱走兵となった結果として非常に皮肉な人事になっていた。

 しかし今まで有力な軍人を多数輩出してきた名門バジルール家の一員であるという出自と、実際にアークエンジェルの運用に携わっていた経験を持つナタルが艦長として適任であることは地球連合軍司令部も疑う余地はなかった。

 こうして異例の抜擢を受けたナタルは二階級特進と共に“ドミニオン”艦長に就任することになったのである。

 そんなナタルがクロトに会いに来たのは、先日渡されたドミニオンの艦載機となる4機の最新鋭モビルスーツの詳細データ──その中に()()()()()()()()()C()P()U()()()()()()()()()()()()()()()からである。

 理解に苦しむ内容とはいえ、それら最新鋭機のオブザーバーとしてドミニオンに同乗すると先程挨拶に来たアズラエル、そして愛弟子のマリュー達の脱走によって完全にアズラエルの傀儡と化したハルバートンに詳細を尋ねることなどナタルには不可能だったため、クロトの元へ事実確認に現れたのである。

 クロトがモビルスーツのパイロットではなく生体CPUとは、いったいどういう意味なのかと。

 

「言葉通りの意味です。地球連合軍はコーディネイターに対抗するため、ブルーコスモスに所属する研究者と共同で、身寄りのない孤児や犯罪者に人体改造を施し、モビルアーマーやモビルスーツに搭載するための生体CPUを開発しようとした。──その完成品が僕です」

「そ、そんな話を、本気で信じろと?」

 

 思いがけない回答に対して、ナタルは周囲を行き交う軍人達に気取られない様に動揺を隠す。

 前述したようにナタルは名門バジルール家の一員であり、軍の内情については人一倍詳しいという自負があったし、軍に対する忠義や信頼も人一倍厚かった。

 そんな自分が全く知らない地球連合軍の内情が存在し、その内容が著しく倫理に悖るものだとは思わなかったのである。

 ナタルにとってクロトはムウと同じく、ナチュラルの中にも極稀に存在するコーディネイターに比肩する天才的な才能を持つナチュラルであり、その才能故に異例の若さでモビルスーツのパイロットに抜擢されたのだろうくらいに思っていたのだった。

 

「内容上、大っぴらには出来ませんからねえ。地球連合軍でも把握しているのは軍の司令官級と、ブルーコスモスに所属する上級将校。それから実際の運用に携わる艦の艦長位の筈です」

 

 実際、アークエンジェルの艦長はマリュー・ラミアスが務めていたものの、あくまでマリューは代理艦長である。更に本来は艦長職とは無縁の技術士官だったため、クロトの存在を知らないのは当然だった。

 またグリマルディ戦線に始まり、アークエンジェルでのクルーゼ隊、バルトフェルド隊との死闘、そして復帰戦であるオーブ解放作戦に於ける活躍でクロトは“不死身の悪魔”の二つ名を冠するようになった。

 しかしその実態については地球連合軍の広報戦略に疎いナタルから見ても、不自然なほど隠匿されていたのである。

 それこそこの場でナタル以外に、クロトが地球連合軍の誇る“不死身の悪魔”の正体だと気付いておらず、この場違いな雰囲気の少年兵は何者なのかと時折視線を投げ掛けられている位には。

 

「……事情は理解したが、何か副作用があるのか?」

「大したことじゃありません。重度の薬物中毒と、脳の萎縮。臓器の機能低下。……アークエンジェルでは結構無茶をしましたから、僕がまともに動けるのはあと半年が限界らしいですねえ」

 

 人体改造の結果、常時脳細胞の人為的な活性化が行われているクロトの脳は、その二十歳にも満たない年齢に反して徐々に脳髄を中心に萎縮が始まっている。

 また薬物の影響を強く受ける臓器も機能低下が始まっており、健常者とは比較にならない悪い数値だと診断されている。

 強力な覚醒効果のある依存性の高い薬物には付きものの症状だが、問題はそれだけではなかった。

 まともな医療行為が受けられない状態で、禁断症状による意識の混濁や活動時間の制限を嫌い、大量の〈γ-グリフェプタン〉を服用して日々戦闘に明け暮れていたアークエンジェルでの日々は、クロトの寿命を更に磨り減らしていた。

 本来であればクロトの用兵は“オーブ解放作戦”や“第三次ビクトリア攻防戦”の様に極めて戦略的価値の高い戦いに絞って集中的に運用するのが鉄則であり、常にスクランブル待機や数的不利の中での戦いを強いられていたアークエンジェルでの運用は、限りなく最悪に近いものだったのである。

 

「半年……?」

 

 まるで他人事の様にあっけらかんと言うクロトの言葉に、ナタルは唖然となった。

 ナタルはアークエンジェルに所属していた時、クロトとは交流があるどころか犬猿の仲だったが、それでもナタルなりに同じクルーとして情があったからである。

 

「あぁ、ご心配なく。半年もあれば、プラントを火の海に変えるには十分でしょう」

「そこまでして、何故君は戦う?」

「ははっ。少佐は()()()()()()()()()()()()()()()()()()か、どっちがいいと思います? ……それに、僕の存在意義は戦うことであり、拒否する権利はないんですよ」

 

 消耗品というものは使えなくなったら新品に交換するから、消耗品と呼ばれているのである。それはクロトも例外ではない。

 それに加えて生体CPUの完成品にして、その正体を秘匿した状態で単独での長期任務すら成し遂げたクロトの総合的な優秀性は、他の生体CPUの追随を許さない。

 死ねば終わりどころか、死んだ後も貴重なサンプルとして全身を切り刻まれた末にホルマリン漬けというのがクロトの未来である。クロトにはそもそも戦う以外の選択肢が存在しないのだ。

 

「……そうか。つまらない事を聞いて悪かった」

 

 クロトの何一つ救いのない境遇を悟り、ナタルは溜息を吐く。地球連合軍の上層部とブルーコスモスが結託して行っている悪行に、所詮ナタルの様な一士官が口を挟むことなど出来ないのである。平和な時代ならともかく、ナチュラルの存亡を賭けて全員戦っているのだから。

 

「そうそう、ドミニオンにはアルスター二等兵も配属されている。最近は私も忙しくてな、あまり声を掛けてやれないんだ。時間があれば、後で会いに行ってやってくれ」

「……あの子が、ドミニオンでいったい何を?」

「CICだ。彼女は思った以上に要領の良い子でな、新兵揃いのドミニオンでは、今や貴重な戦力だ」

 

 メンデル宙域で起こった、プラントから大西洋連邦に対する“ニュートロンジャマーキャンセラー”のデータ流出──そしてその実行犯だった筈のフレイ・アルスターがザフトに囚われておらず、既にドミニオンのクルーとして配属されている。

 地球連合軍に“血のバレンタイン”以来、固く封印されていた核兵器を解禁させ、前代未聞の威力を誇る大量破壊兵器〈ジェネシス〉の引き金を引かせることに繋がった禁断の果実を巡る戦いにおいて、クロトはその情報面での優位性が大幅に消失したことを感じた。

 しかし彼女が生き残った未来において、大量破壊兵器の撃ち合いという最後の扉を開けた罪の意識に苛まれることが無くなったことだけは幸いだと思いながら、何処か肩を落として去って行くナタルの背をクロトは見送るのだった。

 

 〈99〉

 

 エターナルと合流したアークエンジェルはクサナギを引き連れ、L4宙域に浮かぶ無人コロニー“メンデル”に到着していた。

 アークエンジェルとクサナギはオーブを脱出する際、エターナルはプラントを脱出する際に大量の物資を持ち出しており、当面の物資における不安はなかったが、その量は決して無限ではない。特に水は問題であり、早急な水場の確保が必要だった。

 L4に位置するコロニー群は地球連合軍とザフトの開戦に際して激戦区の1つとなったことで破損し、放棄されたものが多かった。その中には稼働しているコロニーもいくつか存在しており、中には無人ではあるが設備が生きている施設どころか、今も稼働しているコロニーすら存在する。

 このコロニー“メンデル”もかつてコーディネイター作成を産業とし、遺伝子企業“G.A.R.M. R&D”が所有する研究所施設も所在した。その研究所ではより先進的なコーディネイターを生み出す研究も多数行われており、「禁断の聖域」「遺伝子研究のメッカ」と呼ばれていた。

 最終的にC.E.68年に発生した大規模なバイオハザードにより、多数の死者を出したメンデルはX線照射によってコロニー内環境は消毒され無害となったが、所有者である“G.A.R.M. R&D”が倒産したことで放棄されたのだった。

 そんなメンデルの宇宙港内で行われていたのは、水を含む各種物資の確保及び、最終調整の終わっていなかったエターナルの調整だった。

 またパイロット達は慣れない宇宙空間での慣熟訓練を行う必要があったのだが、その講師を務められる者はエターナルの調整に掛かり切りのバルトフェルドを除けばキラとニコル以外にいなかったため、二人で講師役を交代しながら訓練を行っていた。

 その訓練の一環としてエターナルの格納庫内でコンテナの積み下ろし作業を行っているニコルのブリッツと、ムウのイージス、トールやアサギらの乗るM1アストレイの姿をキラとラクスは眼下に望んでいた。

 

「父が、死にました……」

 

 眼を伏せて静かに涙するラクスに、キラは同じく目線を落とした。“スピットブレイク”が失敗した原因である地球連合軍への情報漏洩容疑に加え、ザフトの最新鋭モビルスーツ〈フリーダム〉の強奪容疑。前者は濡れ衣だったが、後者は間違いなくラクスとキラが主体となって起こした行動の結果である。

 地球連合軍とザフトの戦いを止める為に必要な最低限の武力を手に入れる為、あえてクライン派が議会から追放されることで反ザラ派で一致団結させると共に、後に計画しているクライン派によるクーデター後の政治的立場の問題点を解消する為。

 そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだが、自分の父を自らの手で実質的に謀殺したことに対する喪失感と罪悪感は、ラクスなりにあったのである。

 ラクスは身内すら生贄にすることを躊躇わない政治的才能はあったのだが、身内の死すら利用して己を奮い立たせる様ないわゆる政治屋ではなかったのだ。

 

「ラクス……」

「すみません、私も覚悟していたのですが……」

 

 国と身分という壁を超えて出来た親友とはいえ、たかが数週間同じ時間を過ごしただけの友人の前でしか弱音を吐けないラクス・クラインという少女の不幸を知り、キラは無力感で唇を噛み締める。

 本来はラクスの婚約者であるアスランが、ラクスを支えなければならない筈なのだ。それなのにあの少年はザフトのアスラン・ザラを名乗り、再び自分の目の前に現れた。

 エターナル強奪計画を実行する寸前までプラントの内情を探っていたバルトフェルドの情報では、アスランはプラント国防委員会直属の指揮下に置かれる“FAITH”と呼ばれる特務隊の人間として、フリーダムを奪還もしくは破壊と、フリーダムに関わったと思われる全てを破壊するという任務を与えられているらしい。

 訳の分からない事を言いながら大西洋連邦軍とオーブ軍の戦闘に介入したのも、混乱に乗じてその特務を遂行する為だったのだろう。

 そしてアスランにその特務を与えた現プラント最高評議会議長パトリック・ザラは、プラントに戻ったニコルの前で全てのナチュラルを滅ぼすと宣言したという。

 いくら自分の実の父親とはいえ、そんな男の兵士としてラクスと戦う道を選んだアスランを許すわけにはいかない。

 それにクロトも、オーブの敗戦を悟り宇宙に脱出しようとする自分達を逃がす為に一芝居を打ってくれたのは分かるが、そろそろ自分の下に戻って来て欲しい。

 

『接近する大型の熱量感知! 戦艦クラスのものと思われます! 距離700。オレンジ11、マーク18アルファ、ライブラリ照合……有りません!』

『総員、第一戦闘配備!』

 

 キラがそんな風に思っていた矢先、エターナル艦内にマリューがアークエンジェルで発信した第一戦闘配備の警報音が鳴り響いた。エターナルの最終調整は完了しておらず、今戦えるのはアークエンジェルとクサナギだけである。アークエンジェルとクサナギは正体不明の敵艦を迎撃するため、エターナルをこの場に残して出撃するらしい。

 

「──ッ!? この感じ……!」

 

 警報が鳴り響いた直後、誰かに一方的に見られている様な悪寒がキラを襲った。宇宙圏では頻繁に起こり、何故か地球降下以降は収まっていたものの、アラスカでも抱いた奇妙な感覚である。

 そしてその感覚は今までで最も強い視線を感じるものだった。

 その理由は明快で、行方を眩ましたアークエンジェルの居場所をL4宙域だとアズラエルに流したクルーゼはアスランと共にヴェサリウス以下ナスカ級高速戦艦3隻を率い、ドミニオンを追跡していたからである。

 

(メンデルか。やはり私と君は、惹かれ合う運命から逃れられないということらしいな……!)

 

 仮面の奥で高揚しながら嗤うクルーゼのすぐ隣で、アスランは戦死した筈のニコルが生存していたことと、そのニコルがパトリックに反旗を翻してラクスやバルトフェルドと共に逃亡したという衝撃的な事実をイザークらと共に噛み締めるのだった。




メンデル編、CVが大変なことになってそう。

桑島さんが最低4枠必要という衝撃の事実。

これまで不遇だったナタルさんですが、地味に重要なポジションです。不可能を可能にする展開にはならない……?

ところでブルコスプレイって何ですか?

キラちゃんのザフト赤服のボトムスは?

  • ズボンだよ(シホさん風)
  • スカートだよ(ミリアリアちゃん風)
  • その他
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