逆襲のクロト   作:皐月莢

37 / 123
コロニー・メンデル 中編

 〈100〉

 

 ドミニオンから出撃したゲルプレイダーのコクピットで、クロトは先日フレイから電源を落とした状態で預かったトリィを弄びながら溜息を吐いた。

 アズラエルは正面に対峙しているアークエンジェル及びオーブ艦1隻と、後方から現れたクルーゼ隊のナスカ級3隻を同時に相手するつもりらしい。無理を無理と言うことくらい誰にでも出来る、それでもやり遂げるのが優秀な人物だというのがアズラエルの持論だが、付き合わされる方は堪ったものではない。

 ジャスティス、デュエル、バスター、ゲイツの4機で攻撃を仕掛けて来るクルーゼ隊に対し、ナタルはカラミティ、フォビドゥン、ストライクネロで迎撃し、クロトを温存していた。

 戦力の逐次投入は典型的な愚策だというのはナタルも承知していたし、事実オルガ、シャニ、ステラの3人は宇宙空間における初実戦ということもあって、意外な苦戦を強いられていた。

 しかし今回の目的であるフリーダムを鹵獲するためには、PS装甲こそ貫通しないもののパイロットを失神させる効果が期待出来る破砕球(スーパーミョルニル)を保有しているゲルプレイダーを、万全の状態でフリーダムにぶつけるのが最適だと主張するアズラエルの言葉に、ナタルは逆らえなかったのである。

 

『中尉! フリーダムを発見した。……速やかに鹵獲しろ』

『了解』

 

 ナタルの指示を受けたクロトは迫り来るフリーダムに対し、ゲルプレイダーをMA形態に変形して突撃する。

 そしてフリーダムの放つビームをスラスターの細かい制御で避け、猛烈な勢いで両肩の機関砲の猛撃を浴びせた。そしてMS形態に変形すると破砕球(スーパーミョルニル)を射出する。

 キラは急降下して超破砕球(スーパーミョルニル)を避けるが、同じく急降下して距離を詰めたクロトは2連装超高初速防盾砲を構えた。幸運にも単独行動していた所を迎えに来た筈だったのに、自身との対立を示すクロトの態度に、スピーカーからキラの悲痛な声が響き渡る。

 

『どうして……!? 私は貴方と戦いたくなんてないのに!!』

『……君がその機体に乗っている限り、僕は君と戦わなければならない』

 

 ナチュラルでも、コーディネイターでもない只の生体CPUが一時の感情に流されて地球連合軍を敵に回したとしても、禁断症状で発狂した末に呆気なく死ぬのだ。その選択は誰も幸せにならない。

 冷たい声で語り掛けるクロトに、キラは思わず息を呑む。

 

『何度も言った筈だ。──殺らなきゃ殺られる、それだけだろうが!!』

『──ッ!!』

 

 クロトは咆哮と共にレールガンを放ち、キラはフリーダムを横に振って回避した。そのままビームを放って牽制し、距離を取ろうとするキラにクロトは猛烈な勢いで追い縋りながら砲撃を開始する。そして背後に回り込もうと弧を描く様な軌道で加速しながら、激しい砲撃戦に突入した。

 

『くっ……!』

 

 ドミニオンが援護射撃で放ったミサイル攻撃や、その攻撃で飛来するデブリすら盾に、あるいは質量兵器にと利用しながら、フリーダムは絶え間なくビームを放つ。掠めたゲルプレイダーの装甲が融解し、機体の各所が徐々に損傷していく。暫くの間は均衡を保っていた砲撃戦だが、戦況はキラに傾きつつあった。

 その最大の理由は機体性能の違いである。

 機体の稼働時間を確保するために実弾兵器主体のゲルプレイダーに対し、核エンジンの採用により無尽蔵のエネルギーを誇るフリーダムは高威力のビーム兵器を多数採用している。

 それ故に攻撃に対して常に回避か防御の選択を迫られるゲルプレイダーに対し、フリーダムはPS装甲の性能を生かして攻撃を無視するという第三の選択肢が存在する。衝撃こそ無効化し切れない上に、関節部など実弾兵器でも有効な箇所も存在するものの、フリーダム相手に半端な攻撃は無意味なのだ。

 上記の理由で火力、耐久力で大幅にゲルプレイダーを上回るフリーダムに対し、ゲルプレイダーの優位点は重力下でモビルスーツを牽引したまま戦闘機動が可能な程の推力と、それに伴う機動力に限定されている。そしてその機動力に至っても、キラは卓越した技量でその差をカバーしていた。

 

『これは……!』

 

 無力化の為にコクピットを避けて頭部や四肢を狙うクロトの射撃をキラは完全に見切り、最高速度を保ったまま僅かな動作で防ぎ続ける。

 反対にキラの射撃を見切りきれないクロトは時折機体を減速しながら攻撃を防ぐ必要があり、フリーダムを機動力で翻弄出来ずにいた。

 新型とはいえ、従来のレイダーの延長線上に過ぎないゲルプレイダーの手の内をほぼ完璧に把握しているキラに対し、クロトはフリーダムに対して僅かな交戦経験しか持たない。

 機体性能と敵に対する正確な理解度。その両方で劣るクロトが、キラに砲撃戦で勝る理由は存在しなかったのである。

 

『おらぁーっ!』

 

 徐々に優位を拡大していくキラに対し、クロトは左腕で荷電爪(アフラマズダ)を抜いて全速力で突撃した。二度、三度と激しく衝突し、互いにシールドで相手の攻撃を受け止めて押し合いになる。

 フリーダムを蹴り飛ばしながら放ったクロトの砲撃をキラは紙一重で避け、再度突撃して荷電爪(アフラマズダ)を真一文字に振るったクロトの斬撃を宙返りで躱すと両脚を斬り付けた。

 

『そんな!?』

 

 キラの放った不可避の斬撃をクロトは機体をMA形態に変形させることで強引に避け、機体を翻して至近距離から複列位相エネルギー砲(ツォーン)を放つ。

 攻撃を避けられた事で一瞬バランスを崩していたフリーダムの右脚が消失し、更に大きくバランスを崩して吹き飛ばされる。

 その状況を好機と見たクロトは機体をMS形態に再変形し、錐揉み上に宙を彷徨うフリーダムに接近しながら破砕球(スーパーミョルニル)を射出した。

 

『──どうして分かってくれないの!!』

 

 キラは激昂と共に左脚一本でデブリを捉えて一瞬で体勢を立て直すと、猛烈な勢いで迫り来る破砕球(スーパーミョルニル)にシールドを投擲しながら突進した。

 シールドで僅かに軌道を逸らした破砕球(スーパーミョルニル)の真横を潜り抜け、キラはクロトとの距離を一気に詰める。

 攻守兼用の破砕球(スーパーミョルニル)に存在する唯一の弱点は、射出直後の持ち手の挙動が大きく制限される事である。

 キラは左腕でビームサーベルを全力で振り下ろし、ゲルプレイダーの右腕を防御に使わせると、もう片方のビームサーベルを背後から迫り来る破砕球(スーパーミョルニル)に構わず右腕で逆手抜刀した。

 

『やめろ! ――ぐっ!?』

 

 キラはゲルプレイダーの左腕を両断すると、後背部に直撃した破砕球(スーパーミョルニル)の衝撃に逆らわずに機体を流し、ゲルプレイダーの背後へ素早く回り込む。そして二本のビームサーベルを振るい、ゲルプレイダーの右腕と両脚を同時に両断する。

 クロトはゲルプレイダーが大破する中、機体を反転させて複列位相エネルギー砲(ツォーン)を放とうとするが、頭部に一瞬早くビームサーベルを叩き込まれた衝撃で意識を喪失した。

 

 〈101〉

 

「……キラ、か」

 

 仰向けのまま意識を取り戻したクロトは、無邪気に無事を喜ぶ少女の体温を感じた。

 さっきまで命の遣り取りをしていたにも関わらず、この少女には自分に対する警戒心という概念が存在しないらしい。もっとも彼女がそういう人間でなければ、情に絆されず撃破することも不可能ではなかっただろうから、無意味な仮定だとクロトは悟った。

 クロトが周囲を見渡すと、荒廃した奇妙な空間が広がっていた。

 最後の攻防で後背部に破砕球の直撃を受ける代償にゲルプレイダーを大破させたキラは、唯一無事だったゲルプレイダーの胴体部をフリーダムで抱えると、朦朧とする意識の中でメンデルのコロニー内部に意識を喪ったクロトを連れて来たのである。

 つい最近まで施設が稼働していたため、内部の設備が生きていたメンデル内部には空気が通っており、ヘルメットを外して行動することも可能だった。

 キラは強打して出血しているクロトの額に凝固剤を塗って手当てすると、未だアズラエルに忠誠を誓っている事情を説明するように求めた。しかし自分は薬漬けにされ、今も命を握られているなどと到底説明できなかったため、クロトは曖昧に言葉を濁す。

 不毛な遣り取りを続ける中、遠くで立て続けに銃声が鳴り響いた。そして銃声が途切れてしばらく時間が経つと、静かな足音と共に仮面を付けた金髪の男が現れた。

 クロトの敗北に伴い、一時撤退したドミニオンとの戦いを終えたクルーゼはアスランにクルーゼ隊の指揮を任せると、単身ムウのイージスと交戦した末に敗退させ、キラの気配を追ってメンデル内部に突入したのである。先程鳴り響いた銃声は、なおも追って来たムウとの銃撃戦によるものだったのだ。

 

「そう彼を困らせるな。──ジョージ・グレンの告白によるコーディネイター技術の流出に、羽鯨の発見による宗教権威の失墜。知らねばよかったことなど、この世界には無数に存在するのだから」

 

 拳銃を抜き、妙に穏やかな声で語り掛けるクルーゼにクロトは同じく拳銃を向ける。クロトの間合いから一歩離れたこの距離では、命中するかどうかは五分五分である。

 そしてクロトにとってそれ以上に問題なのは、目の前に立つラウ・ル・クルーゼが自分の事情を把握していると暗に匂わせていることだった。まさかこの自分達を散々苦しめた男が、アズラエルと繋がりのあるプラント内部のスパイだというのだろうか。

 

「さぁ遠慮せず来たまえ。始まりの場所へ! キラ君、君にとってもここは生まれ故郷だろう?」

「私の生まれ、故郷……」

 

 警戒を強めるクロトとキラの様子にクルーゼは満足すると、クロトとキラを誘うように手招きすると脇の通路へと足早に消えていく。

 クルーゼを追跡するのが罠か──それとも警戒してここに留まるのが罠なのか。結論の出ない事を考えても無駄だと悟ったクロトは自らの直感に従い、キラと共にクルーゼの後を追った。

 外側はまるで廃墟の様に荒らされている施設だったが、クルーゼを追って中枢部に侵入していくと、手付かずのまま放棄された不気味な設備群が姿を現し始めた。

 そして設備群の様子を監視するモニター室と思われる一室の最奥でノーマルスーツを脱いだクルーゼは、悠然とした雰囲気でクロトとキラを待ち構えていた。

 

「君も知りたいだろう? 人の飽くなき欲望の果て、進歩の名の下に狂気の夢を追った愚か者達の話を。君もまた、その娘であり、母なのだからな」

「……母?」

 

 この施設がコーディネイターを製造していた以上、自分がその娘だという表現は分かる。しかし母とは、どういう意味だろうか。クルーゼの不思議な表現にキラは思わず首を傾げた。

 そんな

 

「ここは禁断の聖域。神を気取った愚か者の夢の跡。……君は知っているのかな? 今の御両親が、君の本当の親ではないということを」

「……!」

 

 オーブ解放作戦の発動とその敗退に伴い、オーブを脱出したカガリが突如キラに突き付けた衝撃の事実である。黒髪と金髪の赤子を抱いた、何処か自分に似た妙齢の女性が本当の母親らしい。

 亡くなったウズミを含む極少数だけが知っていた機密情報らしいが、オーブに残った両親に事実確認出来ない以上、あまり深く考えない様にしていたのだが。

 複雑な表情で沈黙するキラを見たクルーゼは得心が行った様に頷いた。

 

「最近知った、という感じだな。知っていればそんな風に育つ筈もない。何の影も持たぬ、そんな普通の娘に。……アスランから君の名を聞いた時は、心底驚いたものだ。てっきり死んだか、それ以上の生き地獄に遭っているだろうと思っていた。あの双子、特に君はね」

 

 キラの存在を嗅ぎ付けたブルーコスモスは、キラを最重要標的として追っていた。キラの育ての母であるヤマト夫妻がキラを3年前まで男装させていたのは、その魔の手からキラを守る為だったのである。

 

「そして君は生き延び、成長し、戦火に身を投じてからもなお存在し続けている。……もちろん最大の理由は彼の存在があったからだろうが、それだけではないのは君達も理解している筈だ」

 

 ザフトはコーディネイターで構成されており、特にクルーゼ隊はアスランを筆頭に多額の資金を投じて高度なコーディネイトを施されたエリート部隊である。多少能力が優れているだけの素人コーディネイターがザフトの追撃を防ぎ切れる筈がないのである。

 以前バルトフェルドが言っていたように、キラは世界に約5億人存在するコーディネイターの中でも突出して優秀な存在なのだ。全てを捨てて力を手に入れたクロトすら、一対一では敵わない位に。

 

「私が、私が何だって言うんですか!?」

「やめろ! これ以上いい加減な話をするな!」

「君は黙っていろ! 君も彼女に秘密を知られたくはないだろう?」

 

 その言葉に不吉なものを感じて口を挟んだクロトをクルーゼは一喝すると、更に言葉を続ける。

 

「君が何者であるかを話す前に、私の秘密を話そう。私は人の自然そのままに、ナチュラルに生まれたものではない。……私はムウの父であり、己の死すら金で買えると思い上がった愚か者。アル・ダ・フラガの出来損ないのクローンなのだよ!」

「クローンだと!?」

 

 クロトはクルーゼの意外な言葉に絶句した。

 命の複製──クローン技術。それは命の改良であるコーディネイター技術すら事実上許されているこの世界において、未だ天然の一卵性双生児を除けば禁忌とされている違法技術である。

 クルーゼは自らの境遇を呪うかのように嗤うと、天井を見上げた。

 

「奴は天才だった。まるで預言者のような未来予知能力に加えて、あの“万能の天才”ジョージ・グレンに匹敵する多才な男……。そのクローンである私が、ナチュラルでありながらザフトの白服に上り詰めたことからも、その異常さが分かるだろう?」

 

 ナチュラルの身体でありながら、これまで一度もナチュラルであると疑われたことはなかったクルーゼだったが、それはクルーゼ本人の弛まぬ努力に因るものだけでなく、ナチュラルとして極めて優れた才能を持っていたからだということは否定出来なかった。コーディネイターに合わせて最適化されたザフト製のOSを扱うというハンデを抱えながら、ザフトのエースパイロットとして活躍出来たのはその極致である。

 いわば一般的なナチュラルを石塊、コーディネイターを合成宝石とするならば、アル・ダ・フラガは天然の宝石とでも表現すべき超越者だったのだ。

 

「奴は己の後継者であるムウが不仲な妻の影響を色濃く受けていたことと、その遺伝子が自分に遥かに劣るものだということが許せなかった。コーディネイト技術すら、自分の完璧な遺伝子を劣化させるものだと拒絶した。……そこで奴は君の両親であるヒビキ博士に自分そのものを作らせ、後継者にしようとした。それが私だ。──だがその計画は思わぬ形で失敗した! これが私の素顔だ!」

 

 仮面を外したクルーゼの顔には、ムウより年下とは思えない程の深い皺が刻まれていた。まるでそれは年老いた老人の素顔だった。

 

「既に壮年だった奴のクローンである私は、奴と寿命が変わらないという致命的な欠陥を抱えていた。奴は私に失敗作の烙印を押すと共に、更なる狂った計画を実行に移した」

 

 クルーゼは仮面を装着し、すっかり気圧された様子のキラを覗き込みながら可笑しそうに嗤う。

 

「話を変えようか。……コーディネイターを造るためには、高い金が掛かる。高い金を出して買った夢だ、誰だって叶えたい。誰だって壊したくはないだろう」

 

 コーディネイターの製造はそのコーディネイト内容によって金額が異なるが、その最低価格すら先進国の富裕層しか行えない程、極めて高額なものだった。

 しかも流産、コーディネイトの失敗といったリスクは常に存在した。遺伝子調整に失敗して親に捨てられたコーディネイターの子供も無数に存在した。そうした犠牲を少しでも無くす為に考えられたのが、不確定要素の排除だった。

 

「コーディネイターを造る際、最大の不確定要素は妊娠中の母胎だった。その影響を排除するために、コーディネイトの完全再現が可能な人工子宮が求められた。しかしその開発は難航した。私の製造報酬も、その開発資金に充てられた。だが開発資金は、あと一歩のところで尽きてしまった。奴が再びこの研究に興味を抱いたのは、そんな時だった……」

 

 クルーゼは机に置いていた古い写真立てに手を伸ばすと、拳で粉々に打ち砕いた。

 

「奴はその完成品に自分の後継者を産ませる事を思い付いた! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() ……完成する筈がなかった、完成してはいけなかった。しかし不幸にもそれは完成してしまった。それが君──キラ・ヒビキだ!! 見ろ! これが君の姉妹だ!」

 

 クルーゼの指差した先には、液体で満たされた無数の培養漕が存在していた。その全てに人の様な何かが浮かんでおり、その情報と拡大図がモニターに表示されている。

 

「落ち着け、キラ!」

「ち、近寄らないで!!」

 

 キラは激しい嘔吐感に襲われ、口元を覆った指の隙間から胃液を床に撒き散らした。思わずクロトは駆け寄ろうとするが、キラに突き飛ばされてその場で転倒する。

 クルーゼはその様子を可笑しそうに見ると、床にへたり込んで嘔吐するキラに視線を投げ掛けた。

 

「君は不思議に思っているだろう? 何故私の存在を感じられるのかと。……フラガ家には()()()()()()()()()()()()()という、奇妙な能力がある。これは一部のフラガ家が保有する特徴的な遺伝子配列によって発生する、高度な空間認識能力の一種らしい。奴はこれを一種の探知機として、君の遺伝子に組み込ませた。不出来なムウとは違い、曲がりなりにも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という訳だ」

 

 キラが時折戦場で抱いていた奇妙な感覚にも理由があった。

 アル・ダ・フラガがキラに施したフラガ家の因子──それは自らの後継者を産ませる母体であるキラを監視し、逃げられない様にするためのものだったのである。

 

「君が産まれた直後、ブルーコスモスの襲撃によってヒビキ博士は君と共に消息を絶った。そして君を産み出した人工子宮の技術も、君の持つ生きた人工子宮とでも言うべき技術も完全に喪われた。……それを知った奴は血眼になって君を探し出そうとした。……奴には、君の生存が分かっていたんだ。私が君の存在を知ったのはその時だ! ……私は奴を葬り去ると共に、君を探し出さなければならないと決意した」

 

 クルーゼが自分を捨てたアル・ダ・フラガを抹殺する最後の引き金を引く決意に至らせたのは、キラの存在を耳にしたことだった。不出来な息子、不完全な出来損ないだけに留まらず、年端も行かない少女に後継者を産ませるというアル・ダ・フラガの非道な本性をクルーゼは憎悪したのである。

 

「コーディネイトの忠実な再現に加え、優秀な能力を確実に付与出来ることがどういう意味を持つか分かるかね? ……そう。君の意思とは無関係に、()()()()()()()のだよ」

 

 ブルーコスモスやザラ派どころか、クライン派やコーディネイターを忌避するナチュラルすら、キラの力を求めるだろう。この果てしなき欲望の世界であがく思い上がった者達に、例外は存在しない。

 この宇宙でただ一人、ラウ・ル・クルーゼを除いて。

 

「さぁ、私に付いて来たまえ。そうすれば君を、もう誰にも利用させないと約束する」

「……いやっ、いやぁあああああーッ!!」

 

 クルーゼが穏やかな声で差し出した手を跳ね除けると、キラは茫然としているクロトを残して絶叫しながら逃げ出したのだった。




誰もが望むスーパーコーディネイターの意味合いを、追加設定で反転させるという本作の肝となるお話でした。ぶっちゃけエタるのではないかと思って小出しにしてたけど、本来この設定は今回お出しするべきでした。

これも皆様の温かい声援のおかげです。

そして今更ですが、本作のキラちゃんは設定上レイくんとも互いの存在を感じ合うようです。フラガ因子の組み込み、因縁付けに便利だなぁ……。

キラちゃんのザフト赤服のボトムスは?

  • ズボンだよ(シホさん風)
  • スカートだよ(ミリアリアちゃん風)
  • その他

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。