逆襲のクロト   作:皐月莢

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アルテミス司令官の陰謀

 9.

 

 まるで趣味の悪いお遊戯だ。

 クロトはアークエンジェルのCICで顔を顰めていた。

 原因はクルーではなく、キラのゼミ仲間達だった。彼等はキラやクロトの活躍に触発され、人員不足に悩んでいたアークエンジェルの手伝いを志願したのだ。

 それも簡単な雑用どころか、CICに設置されている通信機器といった最高機密に関するものだ。遊び半分でそんなものを嬉々として操作するゼミ生達も、それを受け入れるマリュー達もマトモではない。

 いっそモビルスーツの生体CPUとしての働きしか求めないアズラエルの方が、余程戦争という名の殺し合いに対しては真摯だ。

 もっともドミニオンでは一丁前にオペレーターをやっていたくせに、自分は関係ないからとCICの周りをウロウロしているフレイも目障りだったが。

 

「なーにを真剣にやってんだか」

 

 クロトは座席に背を預けて呟いた。

 あえて誰も口にしないが、オーブ連邦首長国の学生である彼等は本来地球連合軍と無関係な人間だ。ザフトに対する復讐ならまだしも、ボランティア感覚で軍服を着られてもむしろ小馬鹿にされているようだった。

 彼等にとっては大人達に交ざって軍服を纏い、ナチュラルの身でモビルスーツを乗りこなす少年兵が立派に見えるのだろう。

 クロト・ブエル少尉は少年兵どころか、単なる()()()()()()()()()()()()だというのに。

 そんな自分に対抗して大西洋連邦軍の手伝いをすることが本当に『出来ること』なのか。

 クロトは常々“ワン・アース”を主張しているアズラエルなら大喜びしそうだと思った。反対にウズミは愚かな学生達に絶望しそうだとも。

 

「──少尉! 真面目にやってくださいよ!」

 

 ゼミ生のリーダーである眼鏡の少年──サイ・アーガイルはクロトを叱責した。

 サイは婚約者に色目を使っていたらしいクロトを警戒すると共に、対抗心を燃やしていたのだ。

 うぜーな。そのお喋りな口に人工麻薬でもぶち込んでやろうか。

 クロトは物騒なことを考えていたが、優秀な理系の学生である彼らの呑み込みはクロトよりも早かった。

 とりわけキラはプログラミングに精通していることから、アークエンジェルの整備士であるマードック軍曹に気に入られてプログラミングを手伝わされている。反対にクロトは力仕事とモビルスーツの操縦以外はからっきしだと見抜かれたため、早々にそれ以外の業務を任されなくなった。

 やがてレイダーの修理が完了する頃、巨大な要塞が姿を現した。

 それは大西洋連邦と並んで、地球連合軍の主要加盟国であるユーラシア連邦が保有する宇宙要塞アルテミスの姿だった。

 それは要塞周辺に≪アルテミスの傘≫と呼ばれる全方位光波防御帯を発生させる事で、度々ザフトを退けるなど絶大な防御力を誇っていた。しかし戦略的価値の観点から戦争の激化に伴い放置されていたその基地は、クルーゼ隊に追われていたアークエンジェルを呑み込んだ。

 

 アークエンジェルはアルテミスの司令官であるガルシア少将の独断に基づき、国籍不明艦として拿捕された。

 

「ビダルフ少佐! これはどういうことか説明していただきたい! 我々は大西洋連邦の特務で……」

「保安措置として艦のコントロールと火器管制を封鎖させていただくだけですよ。貴艦には船籍登録もなく、無論、我が軍の識別コードもない。状況などから判断して入港は許可しましたが、残念ながら、まだ友軍と認められたわけではありませんのでね」

 

 艦長であるマリューや、ナタルの懸命な交渉も虚しいだけだった。

 アークエンジェルは地球連合内部でも存在を秘匿されており、船自体も地球連合軍の工廠で造られたものではないため、正体不明艦として撃沈されても不思議ではなかったのだ。

 

「では、士官の方々は私と同行願いましょうか。事情をお伺いします」

「やれやれだな……」

 

 そして事情聴取を行うため、クロトを除く三人の士官はガルシアの側近であるビダルフ少佐に連行された。

 思わぬ事態でアークエンジェルに残った唯一の士官となったクロトは、休憩室のソファーに腰掛けながら携帯ゲームに励んでいた。そんなクロトの前に不安そうな表情のキラが姿を現した。

 

「……クロトさんは同行しなくて良かったんですか?」

「そういえば僕も少尉だったか。……ま、いいんじゃねーの。どうせ軟禁されるだけだろうし」

 

 それはいわゆるシューティングゲームだった。目標の敵を撃破し、クリア画面に切り替わったクロトは座ったまま目線を上げた。

 

「ガルシア少将に関する噂を聞いた事がある。……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ブルーコスモスは何も反プラント・反コーディネイター思想を掲げただけで現在の力を手に入れた訳ではなかった。

 軍事、経済と様々な分野で徐々に影響力を拡大させながら、時にはテロなどの違法行為を行うことによって、世界最大の市民団体に成長したのだ。

 生体CPUであるクロトはそんなブルーコスモスの中でも特に暗部に位置する人間だ。大概の上級将校を脅迫出来る程度の情報を、まるで一般教養のように把握していたのだ。

 

「そ、そうなんですか」

 

 キラは明らかに一軍人とは思えない情報を掴んでおり、それを世間話のような雰囲気で暴露するクロトに恐怖心を抱いた。

 三人から事情聴衆を終えたガルシアは、クロトの予想通りマリューら三人の士官を残してアークエンジェルのクルーと避難民を格納庫に集合させた。

 

「この艦に積んであるモビルスーツのパイロットと技術者は、どこだね? パイロットと技術者だ! この中に居るんだろ!?」

「何故我々に聞くんです? 艦長達が言わなかったからですか? それとも聞けなかったからですか?」

 

 目の前に存在するのは、ヘリオポリスでクルーゼ隊を圧倒した地球連合軍初の新型機動兵器だ。それもナチュラルの少年兵がパイロットだったというのだから、まさにとんでもない傑作機なのだろう。

 ガルシアはノイマンの質問に答えず、眼前で鎮座する2機のモビルスーツを見て目を爛々と輝かせた。

 

「……ストライクとレイダーをどうしようってんです?」

「別にどうもしやしないさ。ただ、せっかく公式発表より先に見せていただける機会に恵まれたんでね。パイロットは?」

「少尉ですよ。お聞きになりたいことがあるなら、少尉にどうぞ」

 

 ノイマンが指差すと、クロトは不愉快さを露わにしながら無言で頷いた。

 

「俄かには信じ難いが、そうらしいな。なんでもモビルスーツの適性を見出されて特例でテストパイロットに任命された天才少年だとか。もう1人は?」

()()()()()()()

 

 クロトは動揺を隠せないクルーを横目に平然と言い切った。どうせ証明など出来ないのだ。しかしガルシアは嘲笑うような表情を浮かべた。 

 

「見え透いた嘘を吐くな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「……そ、それは……」

 

 実際に動かしてみろと言われても不可能なムウをパイロットだと主張するのは厳しいと判断した3人は、パイロットはクロトだけだと証言していたのだ。

 くそっ。不可能を可能にする男じゃなかったのか。

 クロトが思わず舌打ちすると、ガルシアは近くに立っていたミリアリアの腕を捻り上げた。

 

「まさか女性がパイロットということもないと思うが……この艦は艦長も女性ということだしな……。君と同い年位の子が、一番怪しいんじゃないかね?」

 

 単純な挑発だ。

 クロトはやれるものならやってみろとばかりに挑発を受け流したが、ミリアリア・ハウはキラにとって数少ない友人だった。

 

「止めて下さい! あれに乗っているのは私です……!」

 

 キラはガルシアの前に立った。あまりにもモビルスーツのパイロットからは程遠い雰囲気に、激昂したガルシアは拳を振り上げた。

 

「お嬢ちゃん、友達を庇おうという心意気は買うがね……。あれは貴様の様な小娘が扱えるようなもんじゃないだろ? ふざけたことを言うな!」

 

 コーディネイターの身体能力は、一般的なナチュラルを遥かに凌駕している。特に後天的な努力が大きなウェイトを占めている筋力ではなく、天性の瞬間的な反応速度であれば尚更だ。

 キラはガルシアのフックを掻い潜る様に回避すると、涙目になりながら叫んだ。

 

「私は貴方に殴られる筋合いはないですよ! なんなんですかっ! あなた達はっ!」

「いい加減にしろ! それ以上手を出すな!」

「止めて下さい! ……うっ!」

 

 クロトはキラとガルシアの間に割り込み、サイもクロトに続こうとした。

 しかし激昂したガルシアの放ったパンチはサイの顔面を捉え、目の前で起こった暴挙に激怒したフレイは禁断の言葉を口にした。

 

「ちょっと止めてよ! キラが言ってることは本当よ! その子がパイロットよ! だってその子、()()()()()()()()だもの!」

「ほーう。……コーディネイターか」

 

 ガルシアは拳銃を抜いた。そして周囲の軍人達が動揺する中、嘗め回すような視線を向けながら部下に項垂れるキラを囲ませた。

 

「……OSのロックを外せばいいんですか?」

「まずはな。だが君にはもっといろいろなことができるのだろう? 例えばこいつの構造を解析し、同じものを造るとか……。逆にこういったモビルスーツに対して、有効な兵器を造るとかね」

 

 ガルシアが真っ先に興味を引いたのはレイダーだった。

 レイダーはナチュラルのクロトでもザフトを圧倒するモビルスーツであり、地球連合軍にとっても馴染み深いモビルアーマーへの変形機能を有しているからだ。

 拳銃を持った部下を引き連れて共に興味深そうに、徐々に全貌が明らかになっていくレイダーの姿を眺めた。

 

「私はただの民間人で学生です……! 軍人でもなければ、軍属でもない……そんなことをしなければならない理由はありません!」

「だが君は、裏切り者のコーディネイターだ。どんな理由でかは知らないが、どうせ同胞を裏切ったんだろう? ならばいろいろと……」

「……違います! ……私は……」

 

 目の前で何が起ころうと、彼らがレイダーの内部データを確認すれば罠が作動する。それまでは何があっても辛抱すればいいだけだ。

 それなのにクロトは、いつのまにか自分が拳を硬く握っていることに気付いた。

 

「地球軍側に付くコーディネイターというのは貴重だよ。なに、心配することはない。君はユーラシアでも優遇されるさ。……なんなら、私の愛人にしてやろうか?」

「や……やめてください……ッ!」

 

 しかしクロトの全細胞は目の前の敵を撃てと囁いていた。このロクでもない人生で最優先なのは“勝手にしろ(スーチユアセルフ)”の精神だ。

 ガルシアはにやにやと下品な笑みを浮かべて涙を流し始めたキラに手を伸ばそうとして、ラグビーボールのように吹き飛んだ。

 

「──滅殺ッ!!」

 

 ノイマンら周囲のクルーは慌てふためいた。ガルシアの部下は一斉に銃を抜いて暴走したクロトに突き付け、キラは茫然とした表情を浮かべる。

 

「こ、このクソガキめ……蜂の巣にしてやる!!」

 

 口から血を流し、真っ赤になって怒り狂ったガルシアは拳銃でクロトを射殺しようとした。

 しかし兵士の一人が悲鳴を上げた。キラが起動したレイダーに、本来存在しない筈の認識コードが設定されていたからだ。それも今や地球連合軍に大きな影響力を持つ、とある大物軍人が設定したものだった。

 

「お、お待ち下さい、閣下!」

「なんだ!? 爆弾でも仕掛けてあるのか!?」

「レ……レイダーに()()()()()が……!」

 

 レイダーはヘリオポリスで製造されたG兵器の中でも、最後に製造が開始されたモビルスーツだ。

 ストライクはもちろん、G兵器の運用母艦として造られたアークエンジェルすら正規軍を示す認識コードを保有していない。

 明らかに異常な事態を示す事実に、ガルシアは思わず黙り込んだ。

 クロトは言い淀んでいる兵士の言葉を遮ると、その先を告げた。

 

「──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、でしょう?」

「何っ!? 貴様……アズラエルの番犬か!!」

 

 大西洋連邦宇宙軍第1機動艦隊兼、地球連合軍最高司令部・統合作戦室所属、ウィリアム・サザーランド大佐。

 地球連合軍でも屈指のエリート軍人であり、ブルーコスモスの盟主ムルタ・アズラエルの腹心としても知られる人物だ。

 またクロトをヘリオポリスに送り込むため、様々な超法規的手続を行った人物でもあった。その超法規的手続の中には、レイダーの認識コードに関する内容も含まれていた。

 クロトも確信はなかったが、おそらくアズラエルは出資して造らせたレイダーが、万が一にも他陣営の手に渡る可能性を許さなかったのだろう。

 つまりレイダーは他のG兵器と比較しても、曰く付きのモビルスーツということだ。

 

「ええ。ザフトでは“エンデュミオンの悪魔”とも、呼ばれてるらしいっすよ?」

「じ、実在したのか……」

 

 それは初実戦を飾ったグリマルディ戦役で、15機のジンを撃破したクロトの異名だ。

 その異名が≪エンデュミオンの鷹≫と比較して、地球連合軍内部でも知られていない理由は明確だった。

 アズラエルは生体CPUの存在を秘匿する為、クロトに関する徹底した情報統制を行ったのだ。

 それはグリマルディ戦役に参加し、ザフトと幾度も交戦したムウやガルシアも例外ではなかった。

 クロトは言葉を喪った周囲の軍人達に目配せしながら、邪悪な笑みを浮かべた。

 

「僕が手を出すな、と言ったのは少将殿に対してですよ。僕達の邪魔をするなら、これはもう()()()()()()()()()()()()()と言っても過言じゃねーよなぁ?」

「わ、私は……。だいたいブルーコスモスの分際で……! 早く誰かこいつを始末──」

 

 モビルスーツの生体CPUとして、クロトは潜在能力の極限まで身体能力を強化されている。

 それはヘリオポリス襲撃でクルーゼ隊の襲撃を受けた際、武装した赤服を素手で一方的に撲殺してしまう程だ。

 ましてたとえ殺せたとしても、自分達はもう終わりだ。クロトは初動が遅れたガルシアの部下を、ナイフすら使わない体術で瞬く間に制圧した。

 

「ば、化物め……」

 

 クロトは唯一無傷で残していたビダルフに、鮮血で真っ赤に染まった両手を振りながら言った。

 

「これは単なる事故です。少将殿は不幸にも足を滑らせて負傷された。……巻き込まれた数名も負傷した。それで手打ちにしましょうよ、少佐。少佐にも地球に大事な家族がいるんでしょう? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「あ、ああ……」

 

 ビダルフはあまりの恐怖に、一歩も動けず凍り付いた。

 それはアークエンジェルの一同も同じだった。

 クロトはブルーコスモスといっても、コーディネイターと個人を分けて考える穏健派か反プラント派なのだと考えていた。しかし先程からのクロトの言動は、過激派のそれどころではなかった。

 助けられた筈のキラも、返り血を浴びて真っ赤に汚れているクロトに掛ける言葉を失っていた。

 

「嫌な思いをさせて悪かった。本当はもう少し泳がせようと思ってたんだけど……。僕は気が短いからね」

「そ、そんなことはありません! ありがとう……ございます」

 

 クロトは自嘲するが、キラは否定するように言った。

 まもなくレイダーに仕掛けられた罠が作動するタイミングで、クロトが暴れ始めた理由は明白だったからだ。

 

「いや、もっと早くやるべきだった。次はもっと上手くやるよ」

 

 クロトが笑うと、突然要塞内部に出現して光波防御帯発生装置を破壊したザフトに対して警報装置が作動した。

 母の腕の中のように安全と言われているこの要塞も、決して無敵ではないらしかった。

 

「全く、次から次へと……!」

 

 クロトは即座にレイダーで迎撃しようとして、まだコクピットがロックされていることに気付いた。そしてバツの悪い表情を浮かべながら振り返ると、呆然と立ち尽くしているキラの顔を見た。

 

「……レイダーのロック、早く解除してくれない?」

「は、はい!」

 

 キラは隙だらけで不器用な少年兵に、満面の笑みを浮かべた。




やめてよね。
ブルーコスモス盟主が送り込んだ最強のブーステッドマンにナチュラルごときが勝てるわけないだろ!!でした。

クロトくんが乗り換えるなら

  • レイダーのまま(鋼の意思)
  • 核搭載レイダー(あっ……)
  • フリーダム(自由が欲しかった!?)
  • ジャスティス(大穴)
  • ブロヴィデンス(!?!????)
  • その他
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