〈107〉
月面基地プトレマイオス基地の会議室に集められた地球連合軍の高官達は、地球連合宇宙軍第八艦隊司令官であるデュエイン・ハルバートン──その操り主であるムルタ・アズラエルの提案したプラントの保有する全コロニーに対する核攻撃を敢行するという作戦書を眺め、困惑の色を隠し切れなかった。
「ニュートロンジャマー・キャンセラーのデータを手に入れたというのは確かにお手柄だよ、アズラエル。しかし核で総攻撃というのは……」
「それよりも深刻となっている地上のエネルギー問題の解決を優先させた方が……」
中性子反応の阻害と電波妨害作用を持つニュートロン・ジャマーの無差別投下に伴う、地球においてエネルギーの大半を産み出していた原子力発電の停止と情報網の分断によって発生したエネルギー危機──エイプリルフール・クライシスによって、地球ではオーブのように地熱発電に力を入れていた一部の国家、及びプラントのエネルギー供給と引き替えに親プラントの姿勢を見せた全ての国で未曾有のエネルギー危機が発生した。
その犠牲者はおよそ10億人に上り、今も世界各国で刻一刻と犠牲者は増え続けている。
既にプラントは戦力の大部分を喪失した手負いの獅子であり、正攻法でも十分勝算の見えている今、ニュートロンジャマー・キャンセラーを核兵器を解禁する為に使用しようとするアズラエルの言動は理解出来ないものだったのである。
「何を仰っているのですか? たとえばの話ですが、エネルギー問題の解決を優先したことで戦争が長引き、ニュートロンジャマー・キャンセラーを無力化する新たなニュートロンジャマーをプラントが開発し、再び地球全土に投下された時の責任を貴方は取れるのですか?」
「そ、それは……」
戦略兵器の技術はプラントが一歩も二歩も先行している。ニュートロンジャマー・キャンセラーの技術が流出したことをプラントが知れば、その対抗策を持ち出してくる可能性は十分に有り得るのだ。
ニュートロンジャマー・キャンセラーがいつまで有効か分からない以上、ザフトが弱体化している内にその根源であるプラントを滅ぼさなければ、この脅威は永遠に解決することはない。
そう論理立てて主張するアズラエルに反論出来る者はいなかった。
第二次エイプリルフール・クライシスが起こった時の責任を取れるか、と言われて首を縦に振れるような者が地球連合軍の上層部にいるなら、プラントを滅ぼす為だけに造られた人間兵器の存在など認める訳がないのだから。
「それに、核は我々がもう前にも撃ったんでしょう? それを何で今更躊躇うんです?」
「あれは君達が……」
プラントの農業用コロニー、ユニウスセブンが核ミサイルの命中で壊滅するという血のバレンタイン事件を引き起こしたのは、ブルーコスモスに所属する将校の独断だという。
同一日に行われていたザフトと地球軍の戦闘では、モビルスーツの投入によりザフトが地球連合軍を殲滅していたにもかかわらず、なぜそのメビウスは手厚い防衛網で守られている筈のユニウスセブンの攻撃に成功したのか、未だに多くの疑問が残っている事件である。
表向き地球連合軍はニュートロンジャマーを投下する口実を得るための自作自演だと主張しているが、地球連合軍内ですらブルーコスモスが、ないしアズラエルが独断で起こしたものだと考えている者は少なくなかったのだ。
「
アズラエルは意外にも、血のバレンタイン事件に関与していなかった。
本気で核攻撃を実行するなら、所詮は農業用コロニーに過ぎないユニウスセブンではなく、プラントそのものを狙う方が効果的だからだ。
もしもプラントの核攻撃が成功すれば戦争が終結し、元々プラント理事国の所有物だったユニウスセブンや、当時は資源衛星に過ぎなかったヤキン・ドゥーエらを無傷で回収することが出来る。
だからプラントの食糧生産拠点とはいえ、わざわざユニウスセブンを選んで核攻撃を行うことなど不合理なのだ。事実プラントの報復でエイプリルフール・クライシスによる未曽有の被害が発生したのだから、実行者はニュートロンジャマーを無差別投下するための口実を得たかったプラントの自作自演か、戦略的観点を持たない末端の暴走だとしかアズラエルは言い様がなかった。
「核は持ってて嬉しいただのコレクションじゃない。強力な兵器なんですよ。兵器は使わなきゃ。高い金を掛けて作ったのは、使うためでしょ?」
オーブ残党軍と共同戦線を張っているクライン派がプラントから奪取し、ストライクのパイロットに授けた“フリーダム”とその兄弟機である“ジャスティス”。
核ミサイルはともかく、ザフトは実際に核エンジンを搭載したモビルスーツ──つまり
唯一対抗し得る生体CPUも、その内3名の耐用期限が間近に差し迫っており、3名に匹敵する補充要員も今のところ2名しか目途が立っていない。
またプラントに属するスパイ、ラウ・ル・クルーゼから定期的に送られてくる情報提供も途絶えてしまった。おそらくニュートロンジャマー・キャンセラーのデータ流出が露見してしまったのだろう。
物量では地球連合軍が圧倒的に勝っており、地上におけるザフト基地はカーペンタリア基地を除いて全て陥落させたが、確実な勝利が期待出来るのは今しかないのである。99%と100%の間には大きな壁があるし、追い詰められた宇宙の化け物たちは後先考えずに核攻撃をしてくるかもしれないのだから。
「さあ、さっさと撃って、さっさと終わらせて下さい。こんな戦争は」
「第六ならびに第七、第八機動艦隊は、月周回軌道を離脱。プラント防衛要塞ボアズ、及びプラント本国への直接攻撃を開始する!」
地球連合宇宙軍総司令官の高らかな宣言と共に、ボアズ要塞、ヤキン・ドゥーエ要塞、そしてその奥に位置するプラント本国攻撃を最終目標とした、エルビス作戦が発動した。
〈108〉
地球連合宇宙軍と、ザフト宇宙防衛軍によるボアズ要塞攻略戦が始まっていた。
月面基地プトレマイオス基地から出撃した地球連合宇宙軍の艦隊からは、数百、数千に及ぶ無数のストライクダガーやメビウスが発艦し、それをザフトのゲイツ、ジンを主力とするザフトのモビルスーツ部隊が迎撃する。
圧倒的な数の力で戦線を押し込もうとする地球軍に対し、ザフトは質の力によって対抗すると共に、技量に劣る地球軍を撃破していく。
一部の部隊は包囲網を突破し、奥の地球軍艦隊まで攻め込もうとするが、雲霞の如く押し寄せて来るダガー隊に撃破され、戦況は完全に膠着状態に陥りつつあった。
地球軍の予定通りに。
『GAT-X370Bスタンバイ──発進どうぞ!』
『
第六、第七、第八艦隊の三軍で横並びに構成され、その中で右翼を担当している第八艦隊旗艦である漆黒の
可変機構を備え、地球連合軍において最速の機動力と共に、実弾兵器、光学兵器の両面で必要十分な武装を有する高機動強襲用モビルスーツである。
その背部ユニットからは以前装備していたレールガン、単装砲が撤去されており、その代わりに特務隊“ピースメーカー”と同じニュートロンジャマー・キャンセラーが搭載されたMk5核弾頭ミサイルを背負っている。
『
続けて、濃紺色の機体が射出される。
多数の光学兵器を備え、地球連合軍において最上位の火力と共に、軽量化と各所のスラスター設置に伴い、重武装らしからぬ機動力を有する火力支援用モビルスーツである。
『
更に、灰緑色の機体が射出される。
エネルギー偏向装甲、及び多数の兵装、スラスターを搭載した背部のバックパックを上半身に被るという擬似的な変形機構を有し、その機動力と防御力を生かして電撃的な侵攻を可能にするという突撃・強襲用モビルスーツである。
『
『
最後に漆黒の機体が立て続けに射出され、空中でその二つは合体する。
フォビドゥンが保有するバックパックを数倍に大きくした様な形状で、その巨大さ故に射出後の合体を必要とするそのストライカーパックは、先日遂に完成したもう一つのストライクネロ専用のストライカーパックである。
この恐るべきストライカーパックはバックパックに搭載された多数のスラスター、各種兵器、エネルギー偏向装備によってレイダーの機動力、カラミティの火力、フォビドゥンの防御力を同時に実現させるものだった。
その操縦に要求される極めて高い空間認識能力、情報処理能力から生体CPUの中でもステラ・ルーシェにしか十全に扱えないものだったが、単騎で要塞攻略すら可能なまでの戦闘能力を誇る拠点制圧用モビルスーツである。
合体が完了したのを見届け、前線に向かい始めたレイダーを追う様にカラミティ、フォビドゥンが後続し、その後方からストライクネロは一気にスラスターを吹かせて追い掛け始めた。重量が倍になったストライクネロの加速は重いが、文字通り桁違いのパワーで先行する3機に追い付くと、直後に新手の4機を捉えて群がって来たザフト軍と接敵した。
多数のゲイツ、ジンで構成された──その数10倍以上の迎撃部隊である。
『数だけは立派だねえ!』
レイダーが投擲した
『目移りするぜ、そらぁ!!』
フォビドゥンの放った
『おらおらおらぁ!!!』
レイダーとフォビドゥンに攪乱され、統制が取れなくなった敵のモビルスーツをカラミティは
『……なんだアレは!?』
瞬く間に部隊の半数を喪い、敗走しようとするザフトとストライクネロとの間を開けるようにレイダーとフォビドゥンが横っ飛びすると、まるで巨大な甲羅の様だったストライクネロのストライカーパックが上下左右に開き、その全貌が明らかになった。
『あっははは! 弱いから……弱いからァ!!』
有線式の4機の
そして両手に持った小型のビームライフルを含む全10門が同時に火を噴き、逃げ惑うゲイツやジンを光の奔流で呑み込むと、無数の火花が奔流を彩るかのように咲き乱れた。
『なっ……?』
『おいおい……!』
『眩しー』
ストライクネロの引き起こした圧倒的な破壊力を前に、クロトとオルガは驚愕し、シャニは呑気そうに嗤った。
バッテリー機体でありながら、瞬間的な火力は戦艦数隻分──それがレイダーに匹敵する速度とフォビドゥンに匹敵する防御力を有しているというのだから、まさに破壊の権化とでも表現すべきストライカーパックである。
唯一の課題は継戦能力だが、アズラエルは独立式の超大型ストライカーパックを採用することによってその課題を克服していた。要はストライカーパック内のバッテリーを使い切れば、切り離して従来のストライクネロとして戦闘を続行することが可能なのだ。
4機の連動で戦線に大穴を開けることに成功した地球連合軍は、レイダーの背部に搭載されたものと同じMk5核弾頭ミサイルを積んだ
その大型の弾頭から、最悪の事態に思い至った一部のザフト兵が迎撃しようとするが、最前線で
原則的に階級が存在しないザフトに、戦術で打開するという概念は存在しない。そして頼みの綱である個の力ですら、4機の前では無力に等しい。
一部例外が存在するとはいえ、何もかも捨てて力だけを得た生体CPUという存在に、これまで相手を下等種だと見下しながら戦っていたザフト兵が敵う訳がないのだ。
『安全装置解除! 信管、起動確認!』
『おおし! くたばれ! 宇宙の化け物!』
『レイダーに続け! 青き清浄なる世界の為に!』
MA形態に変形したレイダーはメビウス隊を先導する様にボアズ要塞へ突撃すると、要塞を射程圏内に捉えると同時にMk5核弾頭ミサイルを発射した。
立て続けに放たれるMk5核弾頭ミサイル──身を呈して阻止しようとしたゲイツがカラミティの砲撃で爆散し、ジンの部隊が
もはやザフトに防ぐ手段はない。
核ミサイルを撃ち終え、一斉に離脱するメビウス隊を見送ったクロトが確信した瞬間、別方向から白い
『!!』
ようやく僅かながら救える可能性が見つかったクロトに、核攻撃を成功させたという業を背負わせる訳にはいかない。
キラはマルチロックオンシステムで無数の核ミサイルを捉え、
ソロで核攻撃を防ぐキラちゃん、バッテリー機でフルバーストするステラちゃんという迫真のヒロイン争いと共に最終決戦がスタートしました。
フォビドゥンというモチーフがあるとはいえ、ストライク本体並みのデカいストライカーパックと別々に射出して空中で合体するという訳の分からないコンセプトですが、フリーダムもミーティア使ってるしまぁいいかと採用しました。